心理臨床における新しい潮流

前 田:心 理 臨 床 にお け る新 しい 潮 流
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心 理 臨床 にお け る新 しい潮 流
心理療法 の 「
統 合 の 動 向 」 につ い て の 一 考 察
前
田
泰
宏*
ANewTrendinPsychotherapy
‐AReviewoftheAttemptTowardsIntegration‐
MaedaYasuhiro
要
旨
近 年 の心 理 臨 床 に お け る新 しい トピ ッ ク ス の 一 つ は、 心 理 療 法 の 統 合 や 折 衷 に 関 す る 議 論 が 盛 ん に
な って きて い る こ とで あ る。 心 理 臨 床 家 は 臨 床 心 理 学 的 なサ ー ビス 援 助 を求 め る人 々 に対 して 、 良 質 の
実 効 性 の あ る援 助 を提 供 す る こ とが で き なけ れ ば な ら ない 。 そ の た め には 、 多 様 な 事 例 の ニ ー ズ に 対 応
で き る柔 軟 な臨 床 的 枠 組 み を持 つ 必 要 が あ る。 心 理 療 法 にお け る統 合 や 折 衷 的 観 点 はそ の た め の 有 用 な
概 念 的 枠 組 み と技 法 的 介 入 方 法 を提 供 す る こ とが で き る もの で あ る。 本 論 で は 代 表 的 な統 合 的 アプ ロー
チ ・折 衷 的 ア プ ロー チ につ い て 紹 介 し、 統 合 と折 衷 の 臨 床 的 意 義 につ い て 論 じた 。
1.日
本 の 「新 しい 」 臨 床 心 理 学 へ の 動 き
急 速 な社 会 シ ス テ ム の変 化 に伴 い様 々 な社 会 的 な 問題 が顕 在 化 ・深 刻 化 して い く現 代 社 会 に お
い て 、今 日、様 々 な心 理 的 な苦 悩 や 問題 を抱 え そ の解 決 や癒 しを 求 め る 人 々 が増 え て きて い る と
言 わ れ て い る 。援 助 を 求 め て い る 人 々 の苦 悩 や 問題 は、 多 種 多 様 で あ る と同 時 に そ れ ぞ れ個 別 的
で あ り、加 え て深 刻 な状 況 に 陥 っ て い る場 合 も決 して少 な くな い。 そ うい っ た現 実 の、 い わ ゆ る
「こ こ ろ の 問題 」 を どの よ うに解 決 して い くの か 、 そ の 際 に 「臨床 心 理 学 」 に寄 せ られ る期 待 は
大 き く、 良 質 な心 理 臨床 サ ー ビス に対 す る社 会 的要 請 が非 常 に 高 ま っ て い る の は事 実 で あ ろ う。
とこ ろ で 、 日本 の 「臨床 心 理 学 」 は元 々 が様 々 な学 派 の 集合 体 と して始 ま っ た 関係 上 、 そ の概
念 の曖 昧 性 や 統 一 性 の欠 如 が 学 問 的 レベ ルで の 問 題 と して指 摘 され て い た(下 山、2000)。 もち ろ
ん 臨床 心 理 学 とい う学 問 は 、現 実 の 「こ こ ろ の 問題 」 の解 決 を要 請 さ れ る形 で発 展 せ ざ る を得 な
い 実践 的側 面 を有 して お り、揺 る ぎの無 い整 合 性 を期 待 す る こ と 自体 に無 理 が あ る と言 え な く も
な い 。 しか し、1988年 に 臨床 心 理 士 資格 認 定 制 度 が確 立 さ れ て 以 降、 臨床 心 理 士 の活 動 が社 会 に
広 く認知 され る よ うに な っ た が 、 そ の学 問 的 バ ック ボ ー ンで あ る 「臨床 心 理 学 」 が い つ まで も統
一 性 を 欠 い た ま ま だ と した ら、 本 当 の 意 味 で社 会 的 な専 門活 動 と して社 会 に受 け入 れ られ根 付 く
平 成18年9月21日
受 理*社
会学部教授
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要
第35号
こ とは 難 しい か も しれ な い 。
そ うい っ た現 状 認識 か ら、 こ れ まで の 、 い わ ば 「古 い」 臨床 心 理 学 の枠 組 み を見 直 し、 研 究 活
動 と実践 活 動 がバ ラ ンス よ く統 合 され た体 系 を持 ち、 加 え て社 会 的 な説 明責 任 も きち ん と果 たせ
る 「
新 しい」 臨床 心 理 学 を再 構 築 して い こ う との機 運 が 高 まっ て きて い る。 こ の こ とを 臨床 心 理
学 領 域 に お け る最 近 の トピ ック ス と して先 ず指 摘 して お きた い。
因 み に、 大 塚(2004)は
臨 床 心 理 学 の基 本 的立 場 と して のパ ラ ダ イ ム(paradigm)が
、他 の 人
間 に 関 す る 実践 科 学 に比 し極 め て多 様 で あ る こ とを指 摘 し、 図1に 示 す よ うな統 合 図 を提 示 して
い る 。 こ れ は 臨床 心 理 学 的 な もの の見 方 や 多様 な 人 間理 解 の方 法 の全 体 像 を把 握 す る 際 に参 考 に
な る こ とに加 え て 、 臨床 心 理 学 が さま ざ ま な側 面 を有 しな が ら も、 そ れ らを統 合 しつ つ 、 よ り有
効 な 実践 科 学 を 目指 して い る こ と も窺 い知 る こ とが で きる だ ろ う。
そ して 、 そ の よ うな動 向 を端 的 に 表 す現 象 の 一 つ に、 最 近 相 次 い で完 結 刊 行 さ れ た 臨床 心 理 学
の 講 座 や 全 書 の 出版 を挙 げ る こ とが で きる 。 そ の 代 表 的 な一 つ は 、 「新 た な 時代 に向 け て船 出 し
た 日本 の 臨床 心 理 学 の航 路 確 認 の た め の 一 条 の光 を放 つ灯 台 の よ うな役 割 を果 た す こ と」 を 目指
して編 纂 され た 、 下 山 晴彦 ・丹 野義 彦 編 著 「講座 臨床 心 理 学 全6巻 」(東 京 大 学 出 版 会)で あ り、
今 一つ は、 「臨 床 心 理士 の専 門教 育 と訓 練 に資 す るた め の テ キ ス ト」 と して編 纂 され た 大 塚 義 孝 ・
岡 堂哲 雄 ・東 山紘 久 ・下 山晴彦 監 修 「臨床 心 理 学全 書 全13巻 」(誠 信 書 房)で あ る。 これ らの 「講
座」 や 「
全 書 」 は 、現 在 、 臨床 心 理 士 に な る た め に研 鐙 に励 ん で い る大 学 院生 や、 現 場 で真 摯 な
実践 活 動 を展 開 して い る多 くの心 理 臨床 家 に とっ て必 読 の書 籍 で あ り、 こ れ か らの 一 時代 、 広 く
学 問 と して の 「
新 しい」 臨床 心 理 学 や 、 そ の 実践 で あ る心 理 臨床 の世 界 に 身 を 置 く者 に有 益 な視
座 や指 針 を与 え続 け る こ とに な る だ ろ う。
日本 の 臨床 心 理 学 の現 状 に つ い て述 べ る の は こ れ ぐ らい に留 め 、以 下 、本 論 の 目的 で あ る科 学
的 で 実践 的 な 「
新 しい」 臨床 心 理 学 と深 く関 わ る重 要 な トピ ック ス 、 す な わ ち心 理 療 法 の 「統 合
脳科学モデル
精神医学モデル
心身医学モデル
心理測定論モデル
心理力動論モデル
行動理論モデル
生態システム論モデル
発達学モデル
社 会構 成 主 義 モ デ ル
社 会 ・職 域(法 的)モ デ ル
図1臨
床 心 理 学 を成 立 させ る多 面 的 パ ラ ダ イム の 特 徴 とそ の 統 合 図(大 塚2004)
前 田:心 理 臨 床 にお け る新 しい 潮 流
の 動 向(Theintegrationmovement)」
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につ い て 論 じる こ と に した い 。
II.心 理 臨床 に お け る新 しい潮 流 一心 理 療 法 の 「
統 合 の動 向」
心 理 療 法 とは 、様 々 な情 緒 的 ・行 動 的 問題 の改 善 を 意 図 して、 訓練 さ れ た専 門家(臨 床 家)が
行 う心 理 学 的 な技 法 の活 用 も し くは介 入 の こ とを 一般 的 に 意 味 して い る。 フ ロ イ トが精 神 分 析 を
創 始 して 以 降 、膨 大 な 数 の心 理 療 法 が援 助 を 求 め る ク ラ イ エ ン トや 問題 に対 す る ア プ ロ ー チ と し
て編 み 出 され 、 実 践 され て きた。 その プ ロセ ス と並 行 して 様 々な心 理 療 法 の 理 論 や学 派 が 誕 生 し、
近 年 の 隆盛 を み る に至 っ て い る 。 実 際 、 ア メ リカ の あ る調 査 に よれ ば 、1980年 代 の心 理 療 法 的 ア
プ ロー チ の数 は400種 類 以 上 もあ る と言 われ て い る(Karasu、1986)。
そ して、 最 近 の 報告 で は500
種 類 の心 理 療 法 が存 在 す る との こ とであ る(佐 々木 、2006)。 しか し、 この よ うな状 況 の ま まで は
百家r乱
・争 鳴 の観 を払 拭 で きな い 。何 を基 準 に どの心 理 療 法 を選 択 す れ ば よい の か とい う指 標
や 適切 な ガ イ ドラ イ ンの よ うな もの が な け れ ば 、実 際 の 臨床 の現 場 は混 乱 す る だ け で あ ろ う。
そ こ で何 らか の基 準 を 設 定 して心 理 療 法(理 論)を 分 類 ・整 理 す る試 み は以 前 よ り多 くな さ れ
て きた 。例 え ば 、 「精 神 分 析 理 論 」、 「行 動 理 論 」、 「人 間 学 的 理 論 」、 「認 知 理 論 」、 「生 物 学 的 理 論 」
な どの代 表 的 な理 論 的 ア プ ロー チ に分 類 ・整 理 す る方 法 は 、比 較 的一 般 的 な もの で あ ろ う(下 山、
2002)。 そ して 、 近 年(1980年
や"氾 濫"と
代 後 半 以 降)、 特 に欧 米 に お いて 上 述 の よう な理 論 や学 派 の"乱 立"
で も呼べ る よ うな状 況 か らの脱 却 を 求 め る動 きが活 発 化 した。 具 体 的 に は、 二 つ 以
上 の理 論 の 「
統 合 」 を模 索 した り、技 法 を 「
折 衷 」 的 に 柔軟 に活 用 す る 方式 の有 効 性 や有 用 性 が
認識 され る よ うに な っ て きた の で あ る 。 い わ ゆ る心 理 療 法 の 「統 合 」 や 「統 合 の動 向」 と呼 ば れ
る現 象 で あ る 。
中釜(2004)は
こ の よ うな現 象 が 産 み 出 さ れ る に至 っ た背 景 に つ い て 、心 理 療 法 の発 展 史 や ポ
ス トモ ダ ニ ズ ム とい う社 会 的思 潮 の 台頭 との 関連 、 な らび に心 理 療 法 の効 果 研 究 の成 果 や社 会 の
現 実 的 ・経 済 的事 情 等 の幅 広 い 観 点 か ら検 討 し、 さ らに加 え て、 い わ ゆ る 「統 合 的心 理 療 法/カ ウ
ンセ リ ング」 が持 つ 実効 性 や 問題 点 に つ い て も言 及 して い る。
こ の 中釜 の 考 察 か ら窺 え る 「統 合 の 動 向」 の重 要 なポ イ ン トを整 理 す る と、 以 下 の3点 に集 約 さ
れ る だ ろ う。 す な わ ち 、心 理 臨床 サ ー ビス を 求 め る 人 々 に対 して、
①
実効 性 の あ る心 理 療 法 を提 供 す る こ と、
②
そ れ に よっ て社 会 的 な説 明責 任 を 果 た す こ と、
が社 会 か ら心 理 臨床 家 に 求 め られ る 時代 に入 っ て きた の で あ り、
③
そ の社 会 的要 請 に対 応 で きる 有益 な 考 え 方 や ア プ ロ ー チ の仕 方 が 「心 理 療 法 の統 合 」 の 中
に含 まれ て い る 、
とい うこ とで あ る 。
こ う した 社 会 的要 請 に対 し て心 理 臨床 家 に期 待 さ れ る 「
専 門 性 」 と は、 「
個 々 の ク ラ イエ ン ト
の ニ ー ズ や 問題 を 的確 に ア セ ス メ ン トで き、個 々 の ク ラ イ エ ン トの ニ ー ズ に添 っ た 問題 解 決 に役
立 つ 、個 々 の心 理 臨床 サ ー ビス が提 供 で きる こ と」 と定義 で きる だ ろ う。 因 み に 、金 沢(2002)
に よれ ば近 年 の心 理 療 法 の効 果研 究 は 、 どの よ うな ク ラ イ エ ン トの 、 どの よ うな 問題 に対 して 、
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どの よ うな 治療 者 の 、 どの よ うな技 法 が 有効 な の か 、 とい う細 か な疑 問 に対 す る答 え を 追 及 す る
よ うに な っ て きて い る とい う。
と もあ れ 、心 理 臨床 の専 門性 とは何 か とい うこ とに 関 して、 近 年 の心 理 療 法 の 「統 合 の動 向」
は多 くの有 益 な示 唆 を与 え て くれ て い る とい うの が筆 者 の 主張 で あ る。
実 際 、様 々 な苦 悩 が 渦巻 く臨床 現 場 に 身 を 置 け ばす ぐに分 か る こ とだ が、 単 一・
の理 論 や技 法 だ
け で対 応 で きる ク ラ イ エ ン ト層 や 問題 群 は 限 られ て い る。 と りわ け近 年 の 臨床 現 場 に お け る事 例
の ニ ー ズ や 問題 の多 様 性 、 さ らに は事 例 を取 り巻 く状 況 の複 雑 性 な どを 考慮 す る と、単 一 の理 論
や技 法 を信 奉 しそ れ に 固執 して い る だ けで は実 効 性 の あ る援 助 を提 供 で きな い可 能性 が大 き くな っ
て きて い る 。心 理 臨床 家 は こ の よ うな現 状 を 十分 に わ きま え た上 で 、 多次 元 的 な視 点 か ら事 例 の
ア セ ス メ ン トや 介 入 が行 え る、"柔 軟 な"臨 床 的 枠 組 み を持 つ こ とが 今 後 ま す ます 要 請 さ れ て く
る だ ろ う。 す な わ ち 、 自分 が好 む 臨床 理 論 や技 法 に依 拠 す る だ け で な く、 常 日頃 か ら様 々 な理 論
や技 法 に い つ も関心 を抱 き、 そ れ ぞ れ の 中 か ら良 い もの を取 り入 れ、 オ ー ダ ー メ イ ドな心 理 療 法
的 ア プ ロ ー チ を ク ラ イ エ ン トに提 供 で きる準 備 を整 え て お く必 要 が あ る。 そ の た め の有 用 な視 点
や 臨床 的 ス タ ンス を提 供 して くれ る枠 組 み が 、心 理 療 法 の 「統 合 」 や 「折 衷 」 の 中 に示 さ れ て い
る と言 え る 。
因 み に 、心 理 療 法 実践 に お い て統 合 的 ・折 衷 的 な視 点 の果 た す役 割 と意義 に つ い て 、筆 者 は 臨
床 実 践 事 例 を基 に して本 紀 要 第33号 に報 告 した 経 緯 が あ る(前 田、2005)。 そ れ に引 き続 く本稿 で
は 、 「統 合 ・折 衷 的心 理療 法 」 と い う概 念 的 枠 組 み か らの 分類 とそ れ ぞ れ の代 表 的 研 究 者 ・臨床
家 に つ い て 簡 単 に紹 介 し、 日本 の現 状 に つ い て も言 及 す る 。 そ して 、 「統 合 」 と並 ん で こ の領 域
の重 要 な概 念 で あ る 「
折 衷 」 に 関 す る新 た な考 察 を提 示 した い。
皿.統 合 ・折 衷 的 心 理 療 法 の 分 類
ノ ー ク ロ ス&ゴ
の7割
ー ル ド フ リ ー ド(Norcross&Goldfried、1992)は
近 くの 人 が
、 ア メ リ カで は心 理 臨床 家
「
折 衷 的 ア プ ロ ー チ 」 を 採 用 し て い る と答 え て い る こ と を 述 べ て い る 。 そ の こ
と か ら 見 て も 、 単 一 の 理 論 と技 法 に 基 づ い て 実 践 し て い る 臨 床 家 は 少 な い と い う の が ア メ リ カ の
実 情 な の か も し れ な い 。 因 み に 、 ヴ ァ ン デ ン ボ ス ら(VandenBosetal.,2001)が
心 理 療 法 の 構 造:ア
トの う ち7名
は
編 集 した
「(邦題)
メ リ カ 心 理 学 会 に よ る12の 理 論 の 解 説 書 」 に 紹 介 さ れ て い る12人 の セ ラ ピ ス
「
折 衷 的 ア プ ロ ー チ 」 も し く は 「統 合 的 ア プ ロ ー チ 」 を 採 用 し て い る と い う。 本
稿 で は 、 こ れ ら2つ
の ア プ ロ ー チ を ま とめ て
「
統 合 ・折 衷 的 心 理 療 法 」 と 呼 ぶ こ と に す る 。
さて 、 心 理 療 法 の 理 論 や 技 法 の 整 理 ・統 合 の 分 類 と して 有 名 な の は 、 ア ー コ ウ ィ ッツ(Arkowitz,
1991)が
提 唱 した
も岩 壁(2003)が
法 」 を3つ
「
技 法 的 折 衷 」、 「理 論 的 統 合 」、 「共 通 要 因 の 抽 出 」 の3分
類 で あ る。 わ が 国 で
同様 の 分類 を試 み て い る。 そ こで上 記 の 分 類 を 踏襲 して、 「
統 合 ・折 衷 的 心 理 療
に 分 類 し 、 各 分 類 の 特 徴 と重 要 な ポ イ ン トを 例 示 す る た め に 代 表 的 な 臨 床 家 を2名
ず
つ 抽 出 し 、 そ の ア プ ロ ー チ に つ い て も簡 単 に 紹 介 す る こ と に し た い 。
(1)技
法 的 折 衷 ア プ ロ ー チ(technicaleclecticismapproach)
あ る 特 定 の ク ラ イ エ ン トや 心 理 的 問 題 ・障 害 に 対 し て 、 実 証 的 デ ー タ に 基 づ い て 有 効 と判 断 さ
前 田:心 理 臨 床 にお け る新 しい 潮 流
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れ る技 法 で あ れ ば 、 そ の技 法 の理 論 的 出 自が どん な もの で あ っ て もそ れ を有 効 活 用 し よ う と考 え
る 立場 で あ る 。 す な わ ち 、 こ の 立場 は
「
役 に 立 つ も の で あ れ ば 何 で も使 う」 こ と を 原 則 に し て お
り 、 臨 床 家 自 身 が 拠 っ て 立 つ 枠 組 み か ら技 法 使 用 に つ い て の 合 理 的 な 説 明 を 行 う と い う も の で あ
る 。 こ の 立 場 の 代 表 的 な 臨 床 家 と し て 、 ア ー ノ ル ド ・A・
ラ ザ ル ス と ジ ョ ン ・C・ ノ ー ク ロ ス の
2人 を 挙 げ る 。
【ア ー ノ ル ド ・A・ ラ ザ ル ス 】
ラザ ルス は
「マ ル チ モ ー ド ・ア プ ロ ー チ(multimodaltherapy)」(Lazarus、1989)と
称 す る技
法 的 折 衷 ア プ ロ ー チ を 提 唱 し て い る 。 ク ラ イ エ ン トの パ ー ソ ナ リ テ ィ を 「行 動(Behavior)」
情(Affect)」
「感 覚(Sensory)」
Relationships)」
「イ メ ー ジ(lmages)」
「薬 物/生 物 学(Drug/Biology)的
文 字 を と る とBASICI.D.と
「認 知(Cognition)」
要 因 」 の7つ
「感
「対 人 関 係(lnterpersonal
の モ ー ド に 分 け(各
モ ー ドの 頭
い う 略 称 に な る)、 各 モ ー ドの す べ て に お い て 査 定 を 行 い 、 す べ て の
モ ー ドに お い て 技 法 的 介 入 を 合 理 的 に 行 う こ と を 目指 す 。 加 え て 、 ク ラ イ エ ン トが 期 待 す る 対 人
的 関係 性 を考 慮 し、 そ れ に 適合 す る こ とで 治療 抵 抗 を和 らげ技 法 の効 果 を 高 め よ う と して い る。
こ の 方 式 は 技 法 折 衷 的 で あ る が 心 理 教 育 的 ア プ ロ ー チ も重 視 し て い る 。 ラ ザ ル ス は 、 次 に 述 べ る
「
理 論 的統 合 ア プ ロ ー チ」 に対 して は 、理 論 の統 合 は認 識 論 的 に両 立 不 可 能 で あ る との理 由 で批
判 的 で あ る 。 しか し一 方 で 、 実証 的 な社 会 的学 習 理 論 や認 知 学 習 理 論 を 中心 と した理 論 的 一貫 性
を 維 持 し て い る 点 が 特 記 さ れ る(岩
壁 、2003)。
【ジ ョ ン ・C・ ノ ー ク ロ ス 】
ノー クロスは
「
処 方 箋 折 衷 療 法(prescriptiveeclecticpsychotherapy)」
と称 す る技 法 的 折 衷
ア プ ロ ー チ を 提 唱 し て い る 。 異 な る 学 派 の 治 療 理 論 の 中 か ら有 効 な 介 入 法 を 抜 き 出 す と い う点 で
「
折 衷 的」 で あ り、 実証 的 な 支持 に基 づ い て作 られ た指 針 を も とに 、 そ れ らの介 入 法 を個 々 の事
例 と組 み 合 わ せ る と い う 点 で
「
処 方 箋 式 」 で あ る 。 気 づ き と行 動 の 相 互 に 促 進 し あ う 関 係 性 に 着
目 し、 そ の相 乗 効 果 を 高 め る こ とを重 視 して い る。 す な わ ち 、気 づ きは具 体 的 な行 動 の裏 づ け を
与 え 、 行 動 は 洞 察 を 促 す こ と に 着 目 し 、 気 づ き を 志 向 す る 介 入 と行 動 を 志 向 す る 介 入 の 両 方 を 提
供 す こ と が 望 ま し い と考 え て い る(ヴ
(2)理
ァ ン デ ン ボ ス ら、2003)。
論 的 統 合 ア プ ロ ー チ(theoreticalintegrationapproach)
理 論 学 派 の 壁 を 取 り払 い 、 二 つ 以 上 の 理 論 を 合 成 し て 、 そ れ ら が 整 合 性 を 持 っ て 機 能 で き る よ
うな新 た な理 論 的枠 組 み を構 成 し よ う とす る 立場 で あ る。 そ の 目的 は 、基 本 的 に は技 法 的折 衷 と
大 き な 違 い は な く 、 よ り広 汎 な 臨 床 的 問 題 に 対 し て 効 果 的 で 効 率 的 な 治 療 シ ス テ ム を 構 築 す る こ
と に あ る(中
釜 、2004)。
グ リ ー ンバ ー グ の2人
こ の 立 場 の 代 表 的 な 臨 床 家 と して 、 ポ ー ル ・ワ ク テ ル と レ ス リ ー ・S・
を挙 げ る 。
【ポ ー ル ・L・ ワ ク テ ル 】
「心 理 療 法 の 統 合 を 探 求 す る 学 会(TheSocietyfortheExplorationofPsychotherapy
Integration)」
の 設 立 の 一 人 で あ っ た ワ ク テ ル の 理 論 的 統 合 ア プ ロ ー チ は 、 精 神 分 析 的 ・精 神 力 動
的 心 理 療 法(理
(シ ス テ ム 論)の
論)と
行 動 療 法(理
視 点 も取 り入 れ た
論)と
の 統 合 を 試 み る と い う壮 大 な も の で 、 後 に は 家 族 療 法
「
循 環 的 心 理 力 動 理 論 」 を提 唱 して い る(Wachtel,1997)。
そ
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の 骨 子 は 、 い わ ゆ る 洞 察(insight)と
良
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行 動 の 学 習(learning)を
相 互 に促 進 し あ う 関 係 とみ な し、
加 え て そ れ ら を 個 人 と環 境 と の シ ス テ ム 論 的 相 互 作 用 の 視 点 か ら 理 解 す る 、 と い う も の で あ る 。
【レ ス リ ー ・S・ グ リ ー ンバ ー グ 】
グ リ ー ン バ ー グ の ア プ ロ ー チ は 、 ク ラ イ エ ン ト中 心 療 法 、 ゲ シ ュ タ ル ト療 法 、 フ ォ ー カ シ ン グ
を 統 合 し た も の で あ る 。 彼 の 理 論 統 合 の 目 的 は 、 ク ラ イ エ ン トの 感 情 体 験 へ の 気 づ き を 高 め る こ
と と 、 発 達 心 理 学 や 認 知 心 理 学 な ど の 分 野 に お け る 感 情 に 関 す る 知 見 を ク ラ イ エ ン ト中 心 療 法 理
論 に 取 り 込 み 、 理 論 的 修 正 を 行 う こ と に あ る(岩
壁 、2003)。
前 掲 書(ヴ
ァ ン デ ン ボ ス ら 、2003)
に は 、 共 感 的 な 治 療 関 係 の 中 で ク ラ イ エ ン トの 認 知 と感 情 の 処 理 過 程 を 一 定 の 方 向 へ と導 き 、 ク
ラ イ エ ン ト体 験 の 探 求 と そ こ に 新 た な 意 味 の 構 築 を 目指 す 「プ ロ セ ス 志 向 体 験L・理 療 法 」 と題 す
る グ リ ー ンバ ー グ の 独 創 的 な ア プ ロ ー チ が 提 示 さ れ て い る(最
近 、Greenberg,L.S.etal(1993)
が 翻 訳 刊 行 さ れ た)。
(3)共
通 要 因 ア プ ロ ー チ(commonfactorsapproach)
理 論 学 派 に よっ て用 い られ る概 念 や技 法 は そ れ ぞ れ異 な る が 、 そ れ らが記 述 し よ う と して い る
現 象 の本 質 は 一体 何 か を 明 らか に し よ う とす る 立場 で あ る。 治療 に有 効 な共 通 因子 を探 求 し、 そ
の 変 化 を 促 進 す る こ と で 心 理 療 法 の 実 効 性 を 高 め る こ と を 狙 い と し て い る(中
場 の 代 表 的 な 臨 床 家 と し て 、 ソ ル ・L・ ガ ー フ ィ ル ド と ス コ ッ ト ・D・
釜 、2004)。
ミ ラ ー の2人
この立
を挙 げ る。
【ソ ル ・L・ ガ ー フ ィ ル ド】
「体 系 的 な 折 衷 的 心 理 療 法(systematiceclecticpsychotherapy)」
を提 唱 して い る ガー フ ィル ド
は 、 自 ら の 豊 富 な 臨 床 ・研 究 経 験 に 基 づ き 、 多 く の 心 理 療 法 的 ア プ ロ ー チ の 基 盤 に 共 通 す る 変 数
や過 程 が あ る こ とを 見 出 して い る 。 そ して 、 治療 的変 化 を確 実 に す る の に本 質 的 に共 通 した要 因
に つ い て 、 広 く学 際 的 な 分 野 の 研 究 も視 野 に 入 れ な が ら網 羅 的 に 詳 細 に 検 討 し て い る(ガ
ーフ ィ
ル ド、1980;1992)。
【ス コ ッ ト ・D・
ミラ ー 】
ス コ ッ ト ・ミ ラ ー は 、 元 々 は ブ リ ー フ セ ラ ピ ー 学 派 の 臨 床 家 で あ っ た が 、 過 去40年
以上 に亘 っ
て 蓄積 され た膨 大 な心 理 療 法 の効 果研 究 の成 果 に基 づ い た、 理 論 志 向 的 で は な い、 最 大 限 に ク ラ
イ エ ン ト志 向 的 な ア プ ロ ー チ を 展 開 して い る 。Lambert(1992)に
る 要 因 は 、 理 論 学 派 に 関 係 な く4つ
ラ ー ら は そ れ ら4つ
の 要 因(共
よ っ て心 理 療 法 の効 果 に 関 わ
集 約 さ れ る こ とが見 出 さ れ た。 ミ
の 共 通 要 因 の 効 果 を 最 大 限 に 引 き 出 す た め の 心 理 療 法 実 践 の 有 用 な ガ イ ドラ
イ ン を 提 案 し て い る(Miller.,etal,1997)。
結 果(outcome)に
通 治 癒 要 因)に
さ ら に 最 近 で は 、 心 理 療 法 の プ ロ セ ス(process)や
関 す る ク ラ イ エ ン トの 評 価 を 積 極 的 に セ ラ ピ ー に 反 映 さ せ る 方 式 を 取 り入 れ
た"client-directed,outcome-informedclinicalpractice(ク
結 果 に 関 す る 情 報 に 基 づ い て 行 う 臨 床 実 践)"と
ラ イ エ ン トが 主 導 で 、 セ ラ ピ ー の
称 す る ア プ ロ ーチ を展 開 し、効 果 を挙 げ て い る
よ うで あ る 。
上 記3つ
の 「
統 合 ・折 衷 的心 理 療 法 」 は そ れ ぞ れ独 自の 立場 や 主張 を展 開 して い る が 、 いず れ
の ア プ ロ ー チ も以 下 の3点 を共 通 す る基 盤 と して有 して い る こ とが指 摘 で きる だ ろ う。
前 田:心 理 臨 床 にお け る新 しい 潮 流
①
141
い ず れ の ア プ ロ ー チ も特 定 の 学 派 や 流 派 の 理 論 や 教 義 を 超 え た 心 理 療 法 の
「
新 た な枠 組 み 」
を再 構 築 して い こ う と して い る 。
②
基 本 的 に 、 エ ビ デ ン ス ベ イ ス ド(evidencebased)・
③
ク ラ イ エ ン トに と っ て 実 際 的 に
「
効 果 が あ る/役
ア プ ロ ー チ を基 盤 に し て い る 。
に立 つ」 サ ー ビス を提 供 す る こ とに 主 眼
が置かれている。
]V.日 本 の 「統 合 ・折 衷 的 心 理 療 法 」 の 現 状
こ の よ うな心 理 療 法 の
「
統合」 や
「
折 衷 」 と い う考 え 方 や 方 法 論 は 、 様 々 な 理 論 や 技 法 に 精 通
し経 験 を 積 ん だ 限 ら れ た ベ テ ラ ン の 臨 床 家 で も な い 限 り マ ス タ ー す る こ と は 到 底 で き な い と考 え
られ る か も しれ な い 。 あ る い は 、 そ れ は心 理 療 法 の理 想 の形 式 な の か も しれ な い が非 現 実 的 な試
み で あ る 、 とい う印象 を抱 かせ る か も しれ な い 。確 か に机 上 の知 的学 習 だ け で は統 合 的 ア プ ロ ー
チ や 折 衷 的 ア プ ロ ー チ を 身 に 付 け る こ と は 不 可 能 で あ ろ う。 し か し近 年 、 欧 米 の 心 理 療 法 の 研 究
者 や 臨 床 家 の 問 で は 、 「統 合 」 や 「折 衷 」 を 学 生 達 に ど の よ う に 教 育 ・訓 練 す る か が す で に 本 格
的 に 検 討 さ れ 始 め て い る よ う で あ る(Andrewetal.,1992)。
一方
、 日 本 の 現 状 は ど う か と言 う と 、 未 だ 限 ら れ た 範 囲 で は あ る が 、 し か し確 実 に 関 心 は 高
ま っ て き て い る 。 実 際 、 こ の 領 域 な ら び に そ の 周 辺 領 域 に お け る 優 れ た 専 門 書(ガ
1985;ラ
ザ ル ス 、1999;ミ
ラ ー ら,2000;ダ
2002;ヴ
ァ ン デ ン ボ ス ら 、2003;グ
ン カ ン ら 、2001;ヘ
リ ー ンバ ー グ ら、2006な
ど)が
ー フ ィ ー ル ド、
イ ヴ ン ズ 、2001;ワ
ク テ ル、
最 近 に な っ て相 次 い で翻 訳 刊
行 さ れ て い る 。 加 え て 、 特 定 の 学 派 や 流 派 に 囚 わ れ な い 、 独 自 の 統 合 ・折 衷 的 心 理 療 法 論 が 日本
に お い て もい くつ か提 唱 され る に至 っ て い る 。 そ こ で 、以 下 に そ の代 表 的 な もの を記 す。
【下 山 晴彦 の 「
心 理 臨床 の発 想 と実践 」 論 】
下 山(2000)は
、心 理 臨床 の発 想 の 原 点 に く物 語 性 〉 が あ る こ とを 明 らか に し、心 理 臨床 活 動
の機 能 と構 造 を く物 語 性 〉 の観 点 か ら捉 え 直 す作 業 を行 っ て い る。 下 山 に よれ ば心 理 臨床 の過 程
とは 、 「〈 語 り と して の 物 語 〉 とく 劇 と して の 物 語 〉 か ら な る事 例 の物 語 と して 読 み 、 そ の く読
み 〉 に基 づ い て事 例 に介 入 し、 そ こ に新 た な物 語 を生 成 して い く物 語 過 程 」 な の で あ る。 下 山 の
秀 逸 な とこ ろ は 、 〈物 語 性 〉 を基 本特 性 とす る 臨床 心 理 学 を 、 〈実 証 性 〉 を 条件 とす る心 理 学 の
学 問体 系 の 中 に どの よ うに位 置づ け る か 、 す な わ ち く物 語 性 〉 とく実 証 性 〉 を統 合 で きる 臨床 心
理 学 の全 体 像 を描 き出 そ う と試 み て い る こ とで あ ろ う。 そ れ を心 理 臨床 の枠 組 み に置 き換 え て見
る と、 モ ダ ンな心 理 療 法 とポ ス トモ ダ ンな心 理 療 法 の 「統 合 」 を 意 図 した野 心 的 で壮 大 な試 み で
あ る と も言 え よ う。
【
古宮昇 の 「
理 論 統 合 に よる基 礎 と実践 」 論 】
小 宮(2001)は
、理 論 的統 合 の立 場 に立 つ心 理 臨床 家 で あ る。 古 宮 は、 心 理 療 法 的 ア プ ロ ー チ
の基 本 は ロ ジ ャー ズ の理 論 と哲 学 に 置 き、心 理 療 法 を単 な る 問題 解 決 で は な く成 長 の過 程 と見 な
して い る。 そ して 、 問 題 の概 念 化 や 治 療 過程 の理 解 に は精 神 力 動 的概 念 を多 く用 い て い る と言 う。
奈
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紀
要
第35号
加 え て 、 ク ラ イ エ ン トの家 族 力動 の影 響 を も重 視 し、家 族 療 法 的見 地 を 問題 の概 念 化 に組 み 込 ん
で い る 。 実 際 の 臨床 で は 、 ゲ シ ュ タル ト療 法 、論 理 情 動 療 法 、 問題 解 決 志 向短 期 療 法 な どか らの
技 法 を折 衷 的 に活 用 して い る 。
【
村瀬嘉代子 の 「
統 合 的心 理 療 法 」 論 】
村 瀬(2003)は
心 理 療 法 に つ い て以 下 の よ うに述 べ て い る。 「本 来 質 の 良 い心 理 療 法 とは特 異 な
離 れ業 な ど とい う もの で は な い は ず で あ る 。 む しろ 、 ク ラ イ エ ン トに とっ て望 ま しい の は技 法 が
浮 き上 が らず 、 自然 に過 程 の 中 に織 り込 ま れ て お り、 で きる だ け 自分 の 自尊 心 や 自律 心 が護 られ
る よ うな性 質 を持 つ心 理 療 法 で あ る」。 そ して 、 臨 床 家 の 基 本 姿 勢 と して 、 「ク ラ イ エ ン トの症 状
や 問題 ば か りで な く潜 在 的可 能性 の発 見 に努 め 、 治療 者 自身 の あ り方 に つ い て、 相 対 的視 点 で 眺
め 、 内省 を怠 らな い よ うに」 と薦 め て い る 。 実践 に お い て村 瀬 は、 自 らの心 理 療 法 を統 合 的心 理
療 法 と称 して い る が 、 そ の骨 子 は ク ラ イ エ ン トのパ ー ソ ナ リテ ィ ・症 状 ・問題 の性 質 に応 じて理
論 や技 法 を相 応 し く組 み合 わせ る とい う 「
個 別 的 、多 面 的 な ア プ ロ ー チ」 を採 用 して い る。 加 え
て 、 ク ラ イ エ ン トの 回復 の段 階 、発 達 、 変容 に応 じて 関 わ り方 も変 容 させ て い く とい う。 限 りな
く柔軟 で温 か い ク ラ イ エ ン ト志 向 の ア プ ロ ー チ で あ る と言 うこ とが で きる だ ろ う。 ま た 、他 専 門
職種 との共 同 的連 携 を大 変 重 視 して い る 点 は 、経 験 豊 か な現 場 の 臨床 家 の実 践 感 覚 を示 して い る
と考 え られ る 。
【
平 木典 子 の 「エ コシ ス テ ミ ック な統 合 の視 点」 論 】
平 木(1996)は
かねてか ら 「
個 人心 理 療 法 と家 族 療 法 の統 合 」 の必 要 性 を痛 感 し、 そ の実 践 を
志 向 して きた心 理 臨床 家 で あ る 。 そ して 、彼 女 の統 合 理 論 は エ コシ ス テ ミ ック な視 点 に 立脚 して
い る 。 エ コシ ス テ ミ ック な視 点 とは 「あ る存 在(特
に 人 間 、家 族 、仲 間 、学 校 、会 社 、地 域 社 会
な どの生 態 シ ス テ ム)は 、 時 間 と空 間 を共 有 して他 の存 在 と相 互 に 関 わ りあ い な が ら成 立 し、相
互依 存 的相 互 交流 を繰 り返 して い る こ と、 そ の相 互 作 用 全 体 が各 部分 と全 体 のバ ラ ンス を維 持 し
た り、 進 化 を促 した り して共 存 して い る こ とを認 め る視 点 」 であ る(平 木 ・野 末 、2000)。 技 法 的
に は、 家 族 療 法 の 「多 世 代 理 論(Bowen)」
や 「文 脈 療 法:contextualtherapy(Nagy)」
の アプ
ロ ー チ を重 視 し、 リフ レー ミ ング な どの家 族 療 法 の技 法 も柔軟 に活 用 して い る。
以上 、代 表 的 な 日本 の 「
統合」 や 「
折 衷 」 的 立場 の心 理 臨床 家 の理 論 を紹 介 した が 、 欧 米 に お
い て 始 ま っ た心 理 療 法 の 「
統 合 の動 向」 は 、確 実 に 日本 の 臨床 心 理 学 の実 践 活 動 、 す な わ ち心 理
臨床 の世 界 に お い て も新 しい潮 流 の 一 つ に成 りつ つ あ る と言 え よ う。
V.「 心 理 臨 床 家 の 成 り立 ち」 の 観 点 か ら捉 え た心 理 療 法 にお け る 「統 合 」 と 「折 衷 」
とこ ろ で筆 者 は 、 皿 で紹 介 した
「
統 合 ・折 衷 的 心 理 療 法 」 の3分
要 因 ア プ ロ ー チ 」 の 立 場 か ら 臨 床 実 践 を 行 っ て い る(前
類 に 従 え ば 、 主 と し て 「共 通
田 ・内 田 、2004;前
田 、2005)。
ブ リー フ
セ ラ ピー が現 在 の筆 者 の馴 染 み の 臨床 的 オ リエ ンテ ー シ ョ ンで あ る が 、 そ れ以 外 の幾 つ か の理 論
前 田:心 理 臨 床 にお け る新 しい 潮 流
143
モ デ ル(精 神 力動 理 論 、 認 知行 動 理 論 、 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン ・シ ス テ ム論 な ど)や 各 種 技 法 の 中
か ら利 用 可 能 な 臨床 的概 念 や技 法 を 実践 に お い て は活 用 して い る。 そ れ は例 え ば、 認 知 行 動 療 法
の い くつ か の 認知 的 も し くは行 動 的 な技 法 で あ り、 ソ リュ ー シ ョ ン ・フ ォー カ ス ト ・ア プ ロ ー チ
の 「
解 決 の た め の面 接 技 法 」 で あ り、 さ らに は 治療 関係 の理 解 に根 差 した 明確 化 や 直面 化 、 加 え
て精 神 力 動 的 な解 釈 、 な どで あ る 。 あ る特 定 の ク ラ イ エ ン トや 問題 に対 す る よ り良 い技 法 が あ れ
ば 、 そ の 理 論 的 出 自が 何 で あ れ 、 そ れ を柔 軟 に 活 用 しよ う と考 え て い る点 で は、 「
技 法的折衷 ア
プ ロ ー チ」 と同 じか も しれ な い 。 い ず れ にせ よ、 臨床 家 に とっ て 「統 合 」 や 「折 衷 」 の視 点 は実
践 的 に は大 変 有用 性 の あ る概 念 な の で あ る 。
こ こで 少 し視 点 を変 え て、 「心 理 臨 床 家 の成 り立 ち」 と い う観 点 か ら 「統 合 」 と 「折 衷 」 の 臨
床 的 意義 に つ い て考 え て み た い 。
一般 的 に 、心 理 臨床 家 は大 学 や大 学 院 に お け る教 育 ・訓練 ・養 成 の過 程 だ け に 限 らず 、 現 場 で
の 実務 経 験 を積 み 上 げ て い く過 程 に お い て 、 自己研 鐙 や ス ーパ ー ビジ ョ ン等 を通 して様 々 な 臨床
学 派 の理 論 や技 法 を学 習 し、 臨床 家 と して の腕 を磨 くこ とが期 待 さ れ て い る。 こ こ で 、 一 人 の心
理 臨床 家 が 何 か あ る特 定 の理 論 や技 法 を学 習 して い る過程 につ い て考 えて み よ う。 お そ ら く彼/彼
女 は 、 そ の理 論 や技 法 に含 ま れ て い る 治療 観 や 人 間観 を 自分 の 中 の そ れ ら と照 合 しな が ら、 自身
の心 理 療 法 的 ア プ ロ ー チ の 中 に取 り入 れ て い く努 力 を す る だ ろ う。 そ して 、今 抱 え て い る現 実 の
ク ラ イ エ ン トの 問題 や ニ ー ズ に沿 っ た サ ー ビス を提 供 す る た め に そ れ らを活 用 し、 そ の有 効1生を
確 認 しなが ら臨 床 実践 を行 う こ と にな る ので あ ろ う。 そ の よ うな経 験 を積 み重 ね る過 程 で 、 彼/彼
女 は程 度 の差 こ そ あ れ 、 実践 に お い て役 に 立 つ 「臨床 の知 」 を 身 に つ け て い くの で あ る。 こ の よ
うな過 程 は 、 お そ ら く現 場 の心 理 臨床 家 の現 実 的/実 際 的 な姿 で あ り、 臨床 家 と して の基 本 的 な
ス タ ンス な の で は な い か と思 わ れ る 。 あ る 意 味 、 こ の よ うな ス タ ンス は試 行 錯 誤 的 な様 相 を呈 さ
ざ る を得 な い が 、結 果 的 に 、彼/彼 女 が 学 習 した 理 論 や 技 法 は 自身 の パ ー ソナ リテ ィや 人 生 経 験 、
臨床 経 験 と溶 け合 い 、 そ の 人 ら しい 臨床 感覚 や 実践 の基 礎 とス タイ ル を構 成 す る こ とに な る の で
あ る 。学 習 した理 論 や技 法 を どの よ うに 自分 の 臨床 実 践 に取 り入 れ る の か 、 あ る い は 、 そ れ らを
どの よ う に 自分 自身 に溶 け合 わせ 馴 染 ませ る の か、 そ の 「
取 り入 れ 方(=折
せ 方(=統
衷)」 や 「溶 け合 わ
合)」 の 理 論 的 で 洗 練 され た 方 法 が 、 前 節 で挙 げ た3つ の 「
統 合 ・折 衷 的 心 理 療 法 」
の 分 類 に示 さ れ て い る と考 え る こ とが で きる だ ろ う。 つ ま り、 「
統 合 」 や 「折 衷 」 とい う枠 組 み
は 、現 場 の 臨 床 家 に とっ て は決 して 目新 しい ア イ デ ア で は な く、 臨 床 的 妥 当性 と有 用 性 を持 つ
"心 理 臨床 家 の あ り方"の モ デ ル の 一 つ と して
、 こ れ ま でず っ と臨床 家 の 間 で潜 在 的 に共 有 さ れ
て い た と言 え よ う。
最 後 に 、 「折 衷 」 とい う概 念 は比 較 的 、 否 定 的 なニ ュ ア ンス を帯 び た文 脈 で使 わ れ や す い概 念
の 一 つ で あ る と思 わ れ る の で 一 言付 言 して お きた い。 日本 語 の 「折 衷 」 とい う言 葉 の辞 書 的 定義
は 、 「取 捨 選 択 して 適 当 な と こ ろ を取 って くる」(広 辞 苑)、 「二 つ 以上 の考 え方 や事 物 か ら、 そ れ
ぞ れ の よい とこ ろ を とっ て 一 つ に合 わせ る こ と」(大 辞 林)で あ る。 つ ま り、 「折 衷」 とい う言 葉
は本 来 、 二 つ 以 上 の物 の 中 か らそ れ ぞ れ の 良 い とこ ろ を取 捨 選 択 して 一・
つ に合 成 す る こ とで、 さ
らに よ り良 い もの を構 築 して い こ う とす る肯 定 的 な 意 図 や試 み が含 意 さ れ た 言葉 な の で あ る 、 と
筆 者 は考 え て い る 。 もち ろ ん 、 た だ 闇 雲 に様 々 な理 論 や技 法 を次 々 と取 り込 め ば 良 い もの が で き
奈
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紀
要
第35号
る とい う訳 で は な い が 、 「折 衷 」 は 「役 に 立 つ 」 心 理 臨 床 サ ー ビス の 提 供 を 目指 す 心 理 臨 床 家 の
重 要 な理 念 の 一 つ で あ る こ とは確 か で あ ろ う。
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合 的 心 理 療 法 の 考 え 方 一心 理 療 法 の 基 礎
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145
塚 義 孝 ・岡 堂 哲 雄 ・東 山 紘 久 ・下 山 晴 彦 監 修
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信 書 房.
生 理 一心 理 一社 会 一実 存 的 存 在 」 の た め の サ イ コセ ラ ピー 一多 次元 サ イ コセ ラ ピ ー の提
国 際 サ イ コ セ ラ ピ ー会 議 イ ン ・ジ ャ パ ン お よ び 第3回
下 山 晴 彦.2000心
理 臨 床 の 基 礎1心
下 山 晴 彦.2002臨
異 常 心 理 学1」
理 臨 床 の 発 想 と実 践.岩
床 心 理 学 に お け る 異 常 心 理 学 の 役 割.(下
所 収).東
ア ジ ア 国 際 サ イ コ セ ラ ピ ー 会 議 抄 録 集,1.
波 書 店.
山 晴 彦 、 丹 野 義 彦(編)「
講 座 臨 床 心 理 学3
京 大 学 出 版 会.
VandenBos,G.,Frank‐Mcneil,J.,Norcross,J.,&Freedheim,D.2001Theanatomyofpsychotherapy.The
AmericanPsychologicalAssociation.(岩
壁
茂 訳.2003「
心 理 療 法 の 構 造.ア
メ リ カ心 理 学 会 に よ る
12の 理 論 の 解 説 書 」.誠 信 書 房.)
Wachtel,P.1997Psychoanalysis,behaviortherapyandtherelationalworld.(杉
の統 合 を求 め て
精 神 分 析 ・行 動 療 法 ・家 族 療 法.金
原 保 史 訳.2002「
剛 出 版.)
Abstract
Oneofthenewtopicsinrecentpsychotherapyconcernsanewlydisplayedtrendwhichvaluethe
integrationofdifferenttheoreticalandpracticalcurrents.Sinceapsychotherapistisexpectedtobeableto
providehis/herclientshighqualityandeffectivepsychologicalsupport,itisnecessarytohaveaflexible
clinicalframeworkwhichcanmeetvarioustherapeuticalneeds.Theso‐calledintegrativeandeclectic
pointofviewinpsychotherapyisanexampleofthisframework;foritprovidesthepsychotherapistwitha
usefulconceptualandtechnicalframeworkwhichallowshim/hertomakedifferentinterventions.Themain
purposeofthepresentarticleistointroduceanddiscusstheclinicalsignificanceofarepresentative
integrative/eclecticapproach.
心理 療法