なぜエラーが 医療事故を減らすのか

麻酔科医に薦めたい本
産業医科大学病院 病院長 なぜエラーが
医療事故を減らすのか
ローラン・ドゴース 著
入江 芙美 訳・解題
林 昌宏 訳
NTT出版
2015年
本体2,500円 + 税
「なぜエラーが医療事故を減らすのか」は2015年 5 月
佐多 竹良
政罰などを課すことになるが、この方法では医療安全
の向上は図れず、システムの修復が必要である。シス
テムを修復してアクシデントを未然に防ぐためには、
システムに「安全文化」を根付かせる必要がある。安
全文化の構成要素は、①知識に基づく文化(Informed
culture)、②報告する文化(Reporting culture)、③正
義の(公平な)文化、④柔軟な文化(Flexible culture)、
⑤学習する文化(Learning culture)としている。
安全文化を根付かせるとともに、患者と医療者との
間での目標の共有が重要である。「医術はつぎの三つ
に出版された書籍の標題である。著者は血液内科医で
から成っている。病気と患者と医師である。医師は医
あるが、医療の質や医療安全の向上を担うための高等
療に奉仕する者である。患者は医師と協力して病気に
保健機関の最高責任者を務めた。また、医師でもある
対処するようにしなければならない。」というヒポク
共訳者が「解題」というもう一つの著書ともいえるほ
ラテスの言葉が紹介されている。『To Err Is Human:
どの解説を行っている。
Building a Safer Health System』
( 米国 Institute of
我々はエラーを無くすことによって医療安全を目指
Medicine, 2000)が発表されてから15年経過したが未だ
してきたと思うのだが、その点から考えるとこの標題
安全な医療環境を構築できていない。我々に残された
は逆説的である。著者によれば、医療などの非常に複
課題は大きい。この本は医療安全に関心のある人には
雑な分野(7,200種類の医療行為、5,000種類の医薬品、
必読の書である。
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5 万種類の利用可能な装置、患者が辿る経過は無数で
あり、それ故医療は不確実であり医療行為の結果を完
全に予測することはできない)は生命と同様「複合系
システム」であり、航空機など工学分野の「複雑系シ
ステム」とは違うと指摘している。生物の進化がDNA
のエラーから進むように、医療などの複合系システム
も医療安全や治療成績の向上など進化していくために
は、エラーを敵視するのではなくエラーが必須である
と説く。「エラー以外のいかなる方法によっても欠陥
が結合することによる危険性を探り出すことはできな
い」のである。
想定外の出来事
(医療過誤など)
に直面したときの対
応として、制裁
(裁判)
に重きを置く方法と、システム
プロフィール
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佐多 竹良 Takeyoshi Sata
産業医科大学病院 病院長
昭和51年 3 月:九州大学医学部卒業
同 年 6 月:九州大学医学部附属病院麻酔科 研修医
57年 2 月:九州大学医学部附属病院集中治療部 助手
59年 4 月:米国オクラホマ大学内科 研究員
61年 6 月:九州大学医学部 講師
平成 2 年 1 月:産業医科大学麻酔科学 助教授
15年 8 月:産業医科大学麻酔科学 教授
23年 4 月:産業医科大学若松病院 病院長(兼任)
26年 4 月:産業医科大学病院 病院長
(兼任)
27年 4 月:産業医科大学病院 病院長
(専任)
現在に至る
の不具合の修復に重きを置く方法がある。制裁に重き
を置くと、責任者や犯人を特定し刑事罰、民事罰、行
趣味:囲碁、ゴルフ、酒(種類を問わない)
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