1 静岡県立大学浜松校 特別研究報告書(平成11・12年度)ー19 静 岡 県 域 を 中 心 と す る 中 世 の 文 化 と 芸 能 の 研 究( 継 続 ) A STUDY OF MEDIEVAL CULTURE AND RELIGIOUS FOLKLORE IN SHIZUOKA-KEN AREA ( CONTINUED RESEARCH, 6TH REPORTS) 文化教養学科日本文化研究室 DEPARTMENT OF JAPANESE CULTURE 須田悦生 SUDA, ETSUO [研究目的と要旨] 標記テーマによる総合的研究は、1年の中断をおいて今年度で6年目となる。 浜松キャンパスの閉鎖によって、一応の終結を目指すべく努力を傾けた。これま で、県西部を中心に、時に中部、東部地域における民俗現象、宗教・芸能の伝承 形態を調査研究し、比較対照のために隣接地域あるいは遠隔地での類似のものを 見 学 取 材 す る こ と も あ っ た 。 歴 史 的 資 料 、 画 像 資 料 ( 静 止 画 、 動 的 映 像 )、 実 際 に使用に供される道具などの収集をとおして、駿・遠・豆というそれぞれに特色 ある地域の、中世に溯る文化の淵源は何であったのか、なぜかくも位相差のある 地域文化が隣接して併存し得たのかを考察しようと試みてきた。 時間的には十分な保証を得ることができなかったので、県域内の中世の無形文 化遺産の特色を総合的に考察し、まとめることはかなわなかったのであるが、今 後この種の研究の基礎固めはなしえたと考える。これからは個人でのこの種の研 究は限度があることがわかったので、共同研究の形態をとっていきたいと思う。 情報の共有化を図り、効率的な研究が遂行できるように、画像資料やマニュスク リプトはできるだけCDーRW等を使ってパソコンに入力するようにした。まだ 収集資料の四分の一程度のものしかデータの蓄積がないが、新たな形での研究に は有力な武器となりうるであろう。 [研究方法と成果] 例年のように文献資料の解読作業とフィールドワーキングとを適宜組み合わせ な が ら 行 な っ た 。文 献 で は 、以 前 天 竜 市 懐 山 地 区 で 収 集 し た 新 春 の 予 祝 儀 礼 、 「お くない」関係の古文書を解読していった。偶々、天竜市内山真竜記念館では20 00年11月、この県指定無形民俗文化財の「おくない」行事の特別展が催され 2 たのでこれを見学し、文書を閲覧させてもらうことを得た。また、使用される装 束、道具類の調査も、祭礼当日では困難であるので、館内でおこなわせていた だけたのは僥倖であった。この芸能は中世、おそらくは室町中期にまで溯りうる 歴史を有していると考えられ、まさに中世的文化が今に伝承されている事例とい うことができるのである。 東部地域では、10年以前に調査を済ませた賀茂郡賀茂村宇久須地区所蔵の人 形劇(人形三番三)に関する文書を再調査した。主に史料の読解である。 フィールド調査では本県内は、2000年10月に佐久間町川合地区で伝承さ れる「花の舞」を対象とした。本研究の第1回目から、三遠信の霜月神楽、花祭 の調査は継続してきたところであるが、本県内でただ3ヶ所にのみ行なわれてい るこの系統の芸能はまだ実見の機会を得てはいなかった。文書は『佐久間町史』 に収載されているので、とりあえずはそれに拠ることとし(来年度以降に平賀家 文 書 の 閲 覧 を 願 い 出 る 予 定 )、 聞 き 取 り 調 査 と デ ィ ジ タ ル ム ー ヴ ィ ー に よ る 録 画 ・ 収 録 に 集 中 し た 。準 備 段 階 か ら の 全 収 録 は 恐 ら く は 貴 重 な 資 料 と な る で あ ろ う 。 この調査に基づいて報告論文を書いた。 2月には新春予祝芸能の代表とも目される水窪町「西浦田楽」の5回目の調査 が予定される。本年度の報告書には間に合わないが、2001年度、学会での研 究発表を考えている。 1月には北陸地方各地に赴き、田の神信仰、聖樹信仰の実態を調査した。これ は、大東町で行われている類似行事との比較のためである。 2000年8月には中国雲南大学における「稲作と祭儀」をテーマとする比較 民俗学のシンポジウムで、今までの研究成果を問うべく、宗教的儀礼から芸能化 す る プ ロ セ ス を 本 県 お よ び 愛 知 県 域 で 伝 承 さ れ て い る 「 田 楽 」「 田 遊 び 」 芸 能 を 材料に、研究発表をおこなった。中国四川省のある村でも非常によく似た芸能が あるなどとの指摘があり、海外との比較検討も視野に入れなければならないこと を教えられて、有意義であった。それについての概略的報告は、本学日本文化研 究 室 刊 「 た ち ば な 」1 4 号 ( 2 0 0 1 年 3 月 ) に 、「 雲 南 再 訪 」 と 題 し て 記 し た 。 上述の他の研究成果は次に公表している。参看されたい。 「『 花 の 舞 』 に つ い て ー 佐 久 間 町 川 合 を 中 心 に ー 」( 日 本 文 化 研 究 13 号 < 終 刊 号 > 2001 年 1 月 、 本 学 日 本 文 化 研 究 室 機 関 誌 )
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