第 47 回勉強会「英語の教え方教室」 簡易報告 「高校3年の受験指導

第 47 回勉強会「英語の教え方教室」
2016(平成 28)年 11 月 19 日(土)
簡易報告
報告:中井
弘一
「高校3年の受験指導における 4 技能を生かした活動の模索」
京都市立堀川高等学校
川久保
和代
教諭
京都市立堀川高等学校は、カリキュラムに探究活動をいち早く取り入れて生徒の学びの力を伸ばし、
全国にその名を知らしめた公立高校である。私も随分昔、大学 4 回生の頃、特別助教諭免許状で、2
年生の英語授業の非常勤講師を務めたことのがある思い出の高校でもある。川久保先生は現在、その
堀川高等学校へ異動・赴任されて 4 年目、そして京都公立高校受験制度改正後入学一期生である 16
期生普通科の担任をされて 3 年目を迎えられる。その堀川高校での実践のお話しをお願いし、本学で
の勉強会が残すばかりの時機での花を咲かせる発表をお引き受けいただいた。
本日は、発表者の川久保先生を含め 26 名という大勢の皆様に集まっていただいた。感謝である。堀
川高校はやはり進学校である。有名国公立大学への合格者を多く輩出するため受験指導優先の英語教
育が求められる学校体制の中、少しでも工夫した活動を取り入れたいというのが川久保先生の発表の
根底にあるようであった。
まず始めに、職歴を話され、自身の教育実践に対し、
I m struggling for better teaching methods every day …
Copy & Paste ならぬ
Copy & Rearrange
→
Customize を考えている。先達、先輩、同僚た
ちの優れた授業実践を Copy しながらも、学校・目標・クラスや進度に応じて Rearrange し、目の前
の生徒たちに適した授業の形へ Customize することを心がけているとのことであった。
この、rearrange, customize の判断基準、再構成基準とする観点についてフロアーに尋ねると、
「モ
チベーション」「教員に対する生徒の関心」「学びのプロセスの支援」という観点が返ってきた。受け
持つ生徒のモチベーションを高める観点で rearrange, customize することは大切であろう。クラスの
雰囲気として担当教員を信頼してくれている、関心を持ってくれている状況でないとアレンジしても
効果はないだろう。あと、受け持つ生徒の学びのプロセスを支援できるようにすることも大切な事で
ある。
次にインプット理論の観点で授業を行っていると話された。Input-Intake-Output という流れの中
で、インプット量から減じるアウトプットの量を高めるにはインプット量自体を高めないといけない。
堀川高校では、多量のインプットや活動を想定されているとのことであった。Intake(内在化)とい
う思考のプロセスをいかに活性化するかが教育の質につながるであろう。
1年次の授業実施内容としては、
コミュニケーション英語 Ⅰ
・ 使用教科書
CROWN
4 時間
2時間
・ ALT との TT を1時間(Show and Tell, Skit, Group Presentation, Debate)
1
・ LL 教室での授業1時間
(冒頭多読10分、Catch a Wave など音声教材を使って dictation
や録音、音読練習)
と、4 単位のコミュニケーション英語Ⅰでは、教科書を週 2 時間でこなし、あとの 2 時間を ALT と
のTTでオーラルコミュニケーションの活動で 1 時間、LL 教室では、LL 教室に常設してある英語
副読本を各自に選ばせ読ませ、読破量やブックレポートをポートフォリオにする活動を皮切りに、ニ
ュース教材である Catch a Wave を学ばせているとのことであった。その上、毎週末課題として長
文問題を宿題として課すとのことであった。
教科書は週 2 時間でこなすことで、非常に盛りだくさんなことを生徒にこなさせている印象を受け
た。Catch a Wave はニュース記事を扱った教材である。
・ Fighters Take Japan Series Title
・ Matsuyama Hideki Wins World Golf Championship Event
・ Kitano Takeshi Awarded France s Legion of Honor
・ Bob Dylan Wins Nobel Prize
・ 150 Years Since First Japanese Passport Issued
と比較的に日本関係の記事を扱っている。
こうしたニュース教材を含め、英字新聞記事を教材にすることには意味がある。また、先行き不透
明な世界に生きるためにも是非活用すべき教材である。教科書は即時性のあるものより、普遍性を持
つトピックを扱うことが多い。海外ニュースを含め新聞記事を教材しすると、地球的視野を育成する
だけでなく、その即時性、現実性から、思考を深める働きがある。帯活動でもいいので、穴埋めの新
聞記事クイズなど実施するだけで、辞書を引かせることを促進したり文章読解解力を高めたりするこ
とにつながる。グループで空所に入る動詞などを考えることで学び合いを促進することにもなる。
平常時は上記の内容を行い、春・夏季休業時には、多読教材レポート(Oxford Bookworm)エッ
セイ課題(全英連 or デイリーよみうり)を課すということであった。
次に、1 年生に行ったパーラメンタリー・ディベート講習会の様子をビデオで紹介された。
Space exploration is a waste of money.
We should abolish homework.
We should abolish casino.
等の論題を 40 50 語程度の語彙プリントを与えて即興的にディベートさせるものであった。一定レ
ベルの英語力がないとできないと思われる。ただ、ディベートを取り入れている学校で通常、練習を
させる授業で用意される Speech Preparation Format を配付されて、そこに自分の考えを記入させ
た上でディベートさせているとのことであった。実際に使われたフォーマットは見せていただけなか
ったが、おそらく次のようなものであろう。今後の参考までに部分的に例示する。
Thank you [Mister/Madam] speaker and good [morning/afternoon/evening] ladies and
gentlemen in this house. Today, we are given the motion that:
【Motion】_________________________________
Let me give you the context of the motion.
【Background info】
2
__________________________________________
So, let me define the motion as follows.
【Case statement】
Then, let me give you the team line from the government side:
【Team line】
Then, let me give you our team splits. Today, we have (
) arguments.
st
1 argument is : _____________________
nd
2 argument is : _____________________
rd
3 argument is : _____________________
As the first speaker, I will talk about (
about (
) arguments. And my honorable patner will talk
). So, let me explain one by one.
Our first argument is ______________
Our claim is that ___________________
Our reasoning is like this. (Under the current situation,) ________ (However, if take our
plan,)______________ I will give you some (evidences/examples). _______________ This
argument is important because ___________ Therefore, we need to take this plan.
次に、担任クラスにブラジルからや、チェコからの留学生が在籍したりしたときに、留学生による自
国文化紹介プレゼンや 担任クラス生徒全員週 1 回日本文化紹介プレゼン(1分スピーチ)を行った
ときのビデオを紹介された。文楽を紹介した生徒は、最後に太棹の演奏も行っていた。他に行われた
紹介内容は、お寿司、おせち、百人一首、新幹線、茶道、聖護院大根、堀川ゴボウ、京都三大祭り、
剣道、漫画、お寺、白峰神社などであった。京都色のある内容が含まれていた。教材提示機を映像資
料の提示に使うのであるが、その資料はネットを使ったスマホの画面を提示機で示すものであった。
今の生徒ならではである。スマホはほぼ全員が持っているのであろう。教材提示機自体は 30 年ほど
前から使われている機材である。その新旧の機器の合体には微妙な時代の流れを感じた。
次に 2 年生を教えていたときの研究授業の話をされた。
Task 2 Summarize and Respond (Notes)
You are going to summarize what your group member says and present it later. Take notes
on what you hear.
Section 1 Presenter
The impressive sentence or part
(例)Setting high goals means facing great difficulties.
The reason
3
(例)高い目標を持つからこそ(高く険しい壁に直面する)ハイリスクであるが、乗り越えるために必
要
Task 2 Summarize and Respond (PROCEDURE)
1. Start with your summary and impressive sentence with reason.
2. Start with whose summary and which section you are going to summarize.
3. Summarize his or her summary of his or her section.
4. Introduce his or her impressive sentence or part.
5. Introduce his or her reason.
6. Add your opinion on what he or she said.
通常の基本形態は、まず予習を前提にしないで、授業の場で完結するというスタイルである。
・ 新出語の英英辞典の定義を載せた Vocabulary sheet
英英辞典で調べた定義が付記された単語リストを配付し、その定義から単語を当てさせるクイ
ズを行われていた。リストは教員からの配布である。
・ Take a moment to think (warm-up)
教科書 Crown の English Communication には Take a moment to think というアテンショ
ンポインターの質問が冒頭に記載されており、それを考えさせるとのことである。
・ Listening Comprehension
CDで本文を流し、それに基づいて英問英答の活動を行う。
・ Grammar and Phrases
教科書に付記してある注意すべき語法、句などの例文を提示し確認
・ Reading Practices
暗写プリント(Shadowing、Overlapping、日英→英日)
教科書本文と日本語和訳付記したプリントの配付、ペアによる英文の意味の確認
一部ブランクにした本文英文の穴埋め練習
でこぼこリーディング (例:一行のみ提示)
The capsule 土壌サンプルを載せた(wiss)着陸した(l)safely in the 砂漠(d) on June 13,
2010. と日英織り交ぜた本文をプリント提示、(
)内のアルファベットでそれ始まる単語
を考えて英文を再現するものである。
・ Question & Answer(生徒同士)
(パートごと?)Summary(ペア練習→クラスで)
レッスン終わりに発表活動
(ex. なりきりインタビュー写真持ち寄りプレゼン)
であった。生徒の力を信じた活動内容であると思われた。和訳の配付と英文穴埋め完成、でこぼこ
リーディングに見られる英文上の日本語を英語に置き換える訓練は受験指導をやや意識された問題
解答型の展開をされていた。なりきりインタビューは、先回の小梶先生のデモンストレーションで紹
介された活動と同じであると思われる。本文の主人公になりきらせて、その生徒にインタビューをさ
せるものである。これにはその前段階に、「なりきり音読」という活動もある。
4
また、「シャベリカ」というコミュニケーションカードを使った 1 分間トークを紹介された。シ
ャベリカとは、ジョーカーを含めた 54 枚のトランプにトーキングテーマが書かれている市販のトラ
ンプ。4 人グループを作りたいときや、席替えの時にも使用したりできるとのことであった。購入は
https://www.djn.co.jp/educational/shaberica.html を参照のこと。
最後に 3 年生の授業の話をされた。
Make Progress in English Reading (chart)という受験対策問題集を扱われている。
週1レッスン
・1 コマ目
2 時間連続授業にて授業を実施
warm-up
→
演習
堀川高校の教室には前後に 2 面の黒板がある。教員が 後ろの黒板に下線部和訳など英文構造やヒ
ントを板書する。はかどり具合を見て生徒をペアで指名し、テキストの解答をペアで相談の上、生徒
は 2 コマ目開始までに板書させる。休み時間の作業が協同作業。2コマ目の時間は解答解説
dictation
→
vocabulary check
→opinion writing
→
などを行うとのことであった。
黒板の前後を使うので、生徒にとっては後ろを見たりするので反転授業(ジョーク)と説明されて
いた。
ライティングスキルズ Ⅱ では、Write to the Point (Chart)
4 月∼11 月で 18 レッスン(Exercises B)
2 年から継続使用されている。
・・・試験範囲は例文や Exercises A も含む
各回冒頭で「瞬間英作文トレーニング」を実施、テスト前の復習で効果的だった特訓方法をジッ知
るとのことであった。文法シラバス的な英作文練習の一行日本文を即時に和訳する訓練を行っている
とのことであった。
「歳をとればとるほど、物忘れがひどくなる」
「入手する情報が多ければ多いほど、より不安を感じなくなる」という基本形から
「ナタリー(Natalie)の手紙を読めば読むほど、彼女の真意がわからなくなった」(青山学院大)
と入試問題の一行英作文練習をペアで実施するとのことであった。解答を裏面に付したプリントで活
動を行われている。正解の英文を頭にたたき込む molding 形態の授業である。受験を意識した生徒
には、これが好評であるとのことであった。フロアーからは、英語表現などの授業で、教室の入ると
きに雨が降っている事に気づき、「時雨か」そうだ、生徒に時雨って生徒にどう英語で表現するのか
を考えさせようと、即興英作を取り入れている等の話もあった。
あと、12 月からは東大講座、京大講座、阪大講座、国公立大講座という特別時間割が開始される
ということであった。京大等の過去の入試問題長文を解答する授業内容である。こうした授業に 4
技能の育成をどう組み込めればいいであろうかという質問をフロアーにされた。
受験指導を直線的に実施することが校内の意識である中で、付け焼き刃的に 4 技能を組み込んだ
受験指導はできないであろうと思われる。長文の入試問題は、長文の読解を求めている。入学後に英
語の論文を読めるかどうかということを目的にしている出題なので、英語力の全体を育成するという
観点はない。1 年、2 年生までは生徒の自由なプレゼン活動などがあり、発信型を取り入れた授業形
態が、一挙に記憶型の授業形態に移行しているという感はぬぐえなかった。これが、進学校が持つ悩
みでもあろう。日本の英語教育は 3 年生になると、受験指導を優先と洗脳されているのであろうか。
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参加者で、「私も授業で良くこれは入試に出てくるから覚えておかなあかんと言うが、私は何を教
えてんのやろ。受験のための英語を教えてんのやろかと思う。でもそれだけでなく、ここの英語の表
現はおもしろいなあということを欠かさないようにしている」と意見を述べられた人がいた。
「何のための英語教育」は根本的な問題である。newsletter28 号では、これからの英語教育を先
日依頼しましたようにご意見を載せたいと思う。日頃、生徒にためにと熱心に頑張っている中で、ふ
と思うこれからのこと、それを考えることは大切である。
今回、お忙しい中、様々な実物資料を用意していただき、川久保先生に様々な活動を紹介していた
だいた。感謝である。やはり進学校での授業はスピードがあり、その分、活動内容が多く、一つ一つ
の活動を丁寧にフロアーで話し合える時間が持てなかった。進行役のまずさもあったこと、お許し願
いたい。フロアーも共に考えて発言し合うことが本勉強会のモットーである。残りわずかになった勉
強会であるが、皆さんの協力を得てやりきりたいと思う。川久保先生、ありがとうございました。
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