古代エジプトの遺跡には、この伝説の生物の姿が数多く描 かれています。古代エジプト第三王朝でピラミッドを設計し た賢人イムホテプに知恵を授けたという生物。天からの啓示 を伝え、人間の知識を受け継ぐという生物。人間の顔を持ち、 やがては言葉を話すといわれている生物。 シーマンをめぐるエピソードは数多くありますが、こと地 元では、いまだにこんな伝説がまことしやかに語り継がれて います。 紀元前2650年ごろ、時は南北の統一を果たした古代エジプ ト第三王朝の時代。灼熱の太陽の下で、若いふたりの男女が 恋に落ちた。ひとりは王朝の王、ジョセル王の王子。そして もうひとりは、そこにつかえる神官であり、のちに初めてピ ラミッドを設計したことで知られる賢人、イムホテプの娘。 身分の違いから、ジョセル王はこの若いふたりが結ばれるこ とを許さなかった。それを見かねた娘の父イムホテプは、つ いに神官という立場を超えて、万能なる神の使いトス神に相 談した。 「遠い未来に愛しあう彼らがふたたび生まれ変わっ て出会える方法はないのか」 。すると、トス神はこう答えた。 「ならば私が彼らをここから連れて行こう。そして彼らがい まの記憶をとどめたまま、何千年後かに出会えるようにしよ う」と。そして、ある朝、若いふたりは一緒に姿を消した。 2 s e a ma n あとになってトス神はイムホテプにこう告げた。 「若者は魚に姿を変えて、ナイルに放たれた。娘は鳥に姿を 変えて、空にはばたいていった。心配する必要はない。彼ら は、どんな環境にも適応し、何千年かたったあとに、やがて はもとの姿となって出会うだろう」と。あとでそれを知った 王は嘆き悲しみ、このふたりが空と陸のどちらからでも出会 えるようにと、イムホテプに何千年もの間そびえたつ大きな 目印をつくるように命じた……。それが永遠信仰のシンボル、 ピラミッドの本当の意味ではないか、と。 謎はつきませんが、このシーマンという生物が、数千年に わたって私たち人類を観察し、そして語りかけてくれた言葉 には、多くの示唆があります。たとえそれがごくごくあたり まえのことであっても、あるいはとうにわかっているつもり のことであっても、いざ人生に迷った時というのは、だれか に言葉にしてもらう必要があったりするものです。本書は、 まるで鏡に映し出された自分の姿を見るように、そんな賢言 を必要としている現代人に向けてまとめられたものです。科 学がどれだけ進歩としても、わたしたち人類は人生という旅 においては、だれもが初心者ですから……。 編者 3 s e a ma n
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