新年ご挨拶 - 学校法人 鶴学園

新 年ご 挨 拶
学 校 法 人
鶴 学 園
理事長・総長 鶴
衛
平素、鶴学園の教育運営に多大なる
く物事を進め、繁茂する枝葉は刈り取り
ころ、第一次世界大戦が始まりました。
ご理 解とご協 力をいただいております
ながらしっかりと根固めをする年、言い
そしてこの大戦が終わってから、若者は
皆 様に、遅くなりましたが、新 年のご挨
換えるなら、困難や障害に耐えて、事業
再び男を訪ねました。最初に植えたカシ
拶を申し上げます。
を大きく育てるための我慢の年、
となる
ワの木は、若者の背丈をとうに越してい
例 年にも増して寒さが厳しく降 雪の
でしょうか。
ました。素晴らしい光景に若者は言葉を
多い年末年始でしたが、皆様におかれ
地道にこつこつと物事に取組むこと
失い、
ただただ林の中を歩き回りました。
ましては、健やかに新年をお迎えになら
が、やがては大きな成果につながること
林は3つの区域に分かれ、長さ11km、
れたこととお喜び申し上げます。
を教えてくれた本があります。
フランスの
幅 3 k mに及んでいました。それはこの
がりました。年明け早々、昨年の出生数
昨年は、消費税率再引き上げ延期を
作 家ジャン・ジオノの作 品「 木を植えた
無口な男がなんの技巧も凝らさず、手と
が過去最低の約100万人というショッキ
きっかけに安倍政権の経済政策「アベ
男」です。絵 本やアニメにもなっていま
頭で作り上げたものです 。涸れていた
ングな数字も飛び込んできました。
教育方針に則り、愚直に鶴学園らしい
ノミクス」継続の是非などを問う衆議院
すので、知っている方は多いと思います
小川にとうとうと水が流れ、小さな牧場
私たちも平静ではおられません。5年
教育づくりを進めるほかありません。
選 挙が急きょ、年 末にありました。世の
が、簡単に内容を紹介します。
や菜園や花畑が次々に生まれていたの
後の平成32( 2020)年には、18歳人口
あらためてそう確 信したのは、昨 年
です。
は横ばいから再び 減 少に転じます 。
日
秋、東京で株式会社ニチレイの相談役
学の精神に到達できるか」
と自らに問い
中、何が起きるか分からない、先行きが
2
ますます見通せなくなったと感じる一年
1913年、一人の若者がフランスのプロ
本私立学校振興・共済事業団によりま
浦野光人さんの講演を聴いたときです。
かけ、改革にまい進するときなのです。
でした。
ヴァンス地方の、普通の人なら足を踏み
この作品「木を植えた男」は、実はフ
すと、入学定員充足率が100%未満だ
浦野さんは中央教育審議会委員でもあ
本学園には鶴虎太郎先生の遺訓であ
悲しい出来事も相次ぎました。8月20
入れないような山道を歩いていました。
ィクションです。本を翻訳した原みち子
った大学は平成26年度、前年度より5.5
り教育に関して造詣が深いお方です。
る建学の精神「教育は愛なり」、そして
日未明に広島市北部の住宅地で大規
海抜1,300mのそのあたりはどこまで行
さんは言います。
「この作 品は、あなた
ポイント上昇し、45.8%に達しました。実
浦野さんは言いました。
「人口減少時
学園創立者の鶴襄先生が掲げた教育
模な土砂災害が発生し、甚大な被害が
っても草木もまばらな全くの荒れ地でし
でもできることをできるときに少しずつし
に半数近い私立大学が定員割れを起
代に入った日本は、国全体での経済成
方針「常に神と共に歩み社会に奉仕す
出ました。9月27日には長野・岐阜県境
た。若者は3日ほど歩き続けたとき、羊飼
ましょう、
と言っているのではありません。
こしているのです。今後さらに厳しい状
長は困難であろう。
しかし、一人当たり
る」があります。
この2つの教 育 理 念に
の御嶽山噴火で多くの登山客が巻き込
いの男に会いました。男はどっしりとした
本当に世を変えるのは、権力や富では
況になるのは間違いありません。
この少
の成長は可能である。
日本には、
イノベ
基づいて鶴学園カラーを鮮明にするこ
とに心を傾ければよいのです。
まれるという戦後最悪の火山災害もあり
石造りの小屋に住んでおり、若者はこの
なく、
また、数と力を頼む行動や声高な
子化は、すでに小学校、中学校に大きな
ーションを日常 的に連 続 的に起こす多
ました。
男の家に泊めてもらうことにしました。
主張でもなく、静かな持続する意志に支
影響を与えています。
様な人材が多数現れることが渇望され
今年は、5月に広島なぎさ高校の創立
さて、今 年はどんな年になるでしょう
やがて食事が済むと男は、小さな袋
えられた、力まず、
目立たず、おのれを頼
今 年は、私たち鶴 学 園にとりまして
ている。
この渇望に応える大学の教育
50周年を祝う節目の年でもあります。教
か 。干 支は「 乙 未(きのと・ひつじ)」で
からドングリを広げ、丹念に選り分けて
まず、速効を求めず、粘り強く、無私な行
は、
「少子化だけでなく、社会からの教
力が、
日本のイノベーションを加速させ
職員一同「 木を植えた男」の生き方に
す。思想家安岡正篤の「干支の活学」
いきます。完全な形をしたドングリを100
為です」
と。
育改革に対する強い要望など、逆風を
る」
と。
思いを馳せ、
自らの役割を果たし、静か
によりますと、
「乙」は、地上に出た草木
粒選び出し、
それから床につきました。
そして私は感じました。
この作品の男
乗り越えながらグローバル化、情報化な
そして私学に次のように期待を寄せ
な持続する意志に支えられた、力まず、
の芽が真っ直ぐに伸びないで、いろいろ
翌朝、男は山道を登りやがて地面に
は、時には絶 望と戦いながら逆 境に打
ど新しい知識基盤社会に対応できる教
られました。
「 建 学 の 精 神と結び つけ
目立たず、おのれを頼まず、速効を求め
外界の寒気・抵抗に遭って紆余曲折す
棒を突き立てて穴を掘り、その穴に一つ
ち勝つ激しい情熱があったはずだと。
育課題の解決に取組むことで、学園の
て、地 方の産 業 構 造や成 長 分 野の発
ず、粘り強く、無私な姿勢で愚直に教育
る、
という意味になります。
「未」は、“木”
ひとつドングリを落としては土を被せて
発展という成果を得ることを目指す年」
展にふさわしい人材育成に注力し、特
づくりに取 組み、児 童・生 徒・学 生 一 人
と上の短い“一”で成り立ち、“一”は木の
いきます。
「このドングリはカシワの木の
私たちへの逆風は、強まることはあっ
となります。
色ある教育を行ってもらいたい。私学の
ひとりの力を向上させ、それが学園の発
上層、つまり枝葉が茂っている様子を象
種だ。3年前からこの荒れ地にカシワの
ても弱まることはないでしょう。そうです、
こうした厳しい状況を乗り切るために
教育は、
どのようにしたら建学の精神に
展につながるよう全力を注いで参る所
っています。
しかし、枝葉が繁茂すると
木を植えている」、
そう男は答えます。
少子化という逆風です。私学への逆境
は、
どうすればよいでしょうか? いくつか
到達できるかということを考え抜くことだ
存です。
暗くなることから、未を“くらい”とも読み、
まず10万個の種を植えた。そのうち、
を表しているデータが、昨年、増田寛也
の具体策はあると思いますが、基本的
と思う」
最後になりましたが、皆様には、今後
未は昧に通じ、暗く曖昧にしてはいけな
2万個が芽を出した。その半分がだめに
元 総 務 大 臣らのグループにより公 表さ
には、正面から児童・生徒・学生の育成
私たちは「これからどうなるのだろう
とも本 学 園の教 育 、運 営に関しまして
いとの意味合いもあるそうです。
なっても、残る1万本のカシワの木がこの
れました。それによりますと、
「人口減で
に真摯に取組むことだと思います。その
か」
と、いたずらに心配したり立ちすくん
益々のご指 導ご鞭 撻を賜りますようお
つまり、
「乙未 」の年は、非 常に苦 労
不毛の地に根付くことになる、
と。
全 国 8 9 6の市 町 村が消 滅する可 能 性
成果が表れるには、長い歳月を要する
だりする必要はありません。浦野さんが
願いを申し上げ、新年のご挨拶といたし
する年ではあるが、それに屈することな
若者が男と別れを告げて山を下りた
がある」ということで、全国に衝撃が広
ことがあります。それでも建学の精神と
言われるように、今こそ「どうすれば建
ます。
季刊誌「鶴学園」 No.157 2015 冬号
季刊誌「鶴学園」 No.157 2015 冬号
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