リフトバレー熱:欧州にとって脅威か?

リフトバレー熱:欧州にとって脅威か?
Rift Valley fever - a threat for Europe?
Eurosurveillance, 11 March 2010
(仮訳)鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六
リフトバレー熱 (RVF) は、Phlebovirus (ブニヤウイルス科) による反芻家
畜とヒトに感染する深刻な蚊媒介疾患である。アフリカに広範囲に分布し、イ
エメンとサウジアラビアにも最近広がっている。RVF の流行は、アフリカと中
東でより頻繁になっており、おそらく、家畜貿易の増加とともに、気候変動(ア
フリカの東部と南部における豪雨の頻発)と関係している。ヨーロッパへの RVF
の侵入と大規模な拡大の可能性は非常に低いが、反芻動物の大集団がアイル湿
潤な地域において局所的 RVF 流行が発生する可能性はある。それが起きた場
合、暴露された個人のヒト症例がおそらく発生する:農民、獣医師および食肉
センター従業員など。発生動向調査と診断方法が利用できるが、制御手段は限
られる:媒介昆虫制御は実施が困難であり、ワクチンは反芻動物でのみ利用可
能でしかも有効性(不活化ワクチン)が限られ残留問題がある。RVF に対して
ヨーロッパと世界を保護するための最善の戦略は、より効率的な発生動向調査
および制御手段を開発し、調整された地域の発生動向調査と制御プログラムを
実施することである。
リフトバレー熱の欧州連合における公衆衛生との関連性
リフトバレー熱 (RVF)は、Phlebovirus 属(ブニヤ科)に属するアルボウイ
ルスによって引き起こされる反芻家畜とヒトの人獣共通感染病である。新生反
芻動物、とくに羊とヤギの死亡率が高く、妊娠中の動物の流産を引き起こす。
RVF ウイルス (RVFV) によるヒト感染は、蚊に刺されるか、家畜の体液、また
は剖検、と殺、食肉処理中に死体や臓器に暴露されることで起きる。
RVF の公衆衛生の影響は深刻なことがあり得る。1976 年にエジプトのナイ
ル川デルタなどで、200,000 人に感染し、600 人が死亡したと公式に報告されて
いる。200 人以上のヒトの死亡が、1987 年にモーリタニアで報告された。2007
~2008 年にスーダンで、230 人の死亡を含め 738 症例が公式に報告された。
RVF は、主に保健施設から遠く離れて住んでいる農村の人々に感染するので、
症例数が過少報告されている。エジプト北部における RVF の発生は、地中海諸
国で起きる可能性を示し、ヨーロッパを直接脅かす証拠である。インド洋にお
いて RVF は、フランス領マヨット島に侵入し、ヒトの臨床例が報告されている。
-1-
伝播、疫学、臨床症状
表 1.リフトバレー・ウイルスに対する動物種の感受性と病状の程度
致命率 >70%
致命率 10-70%
仔羊
羊
仔山羊
仔犬
重度の病状
抗体産生
感受性なし
ヒト
ラクダ
鳥
仔牛
サル
馬
爬虫類
一部のげっ歯類
牛
猫
両生類
仔猫
山羊
犬
マウス
アフリカ水牛
豚
ラット
アジア水牛
ロバ
致命率 <10
ウサギ
図 1.リフトバレー熱の疫学サイクル
RVFV 伝播サイクルには、反芻動物と蚊が含まれる。宿主の感受性は、年齢
と動物種に依存する(表 1)。ヒトは、行止まり宿主である。疫学サイクルは複
雑であり、感染した反芻動物から健康な反芻動物やヒトへの直接伝播、蚊の一
-2-
部の種における介卵伝達、ならびに様々な生態がある多種類の媒介蚊によって
感染する。野生保有動物の存在はこれまでに明確に示されていない(図 1)。
伝播の仕組み
感染した蚊に刺されることが、流行期間中の反芻動物における RVF 伝播の
主な仕組みである。30 種以上の蚊の種が RVFV に感染することが判っており、
媒介昆虫の能力の観点から、ヤブカ属(Aedes)とイエカ属(Culex)が最も重
要で(表 2)、これらを含めて 7 つの属に属する蚊が伝播する(Anopheles 属、
Coquillettidia 属、Eretmapodite 属、Mansonia 属、Ochlerotatus 属)。
表 2.
属
Aedes;
Aedimorphus
Aedes;
リフトバレー熱ウイルスに自然感染する節足動物
種
確認した国(年)
cumminsii
ケニア(1981-84)、ブルキナファソ(1983)
daizieli
セネガル(1974, 1983)
dentatus
ジンバブエ(1969)
durbanensis
ケニア(1937)
ochraceus
セネガル(1933)
tarsalis
ウガンダ(1944)
vezans arabiensis
セネガル(1993)、サウジアラビア(2000)
cieculuteolus
ウガンダ(1955)、南アフリカ(1955, 1981)
mcintoshi
ジンバブエ(1969)、南アフリカ(1974-75)
、ケニ
Neomedianiconion
ア(1981-84)
palpalis
中央アフリカ共和国(1969)
caballus
南アフリカ(1953)、
capius
エジプト(1993)
juppi
南アフリカ(1974-5)
Aedes;
africanus
ウガンダ(1956)
Stegomya
demeilloni
ウガンダ(1944)
Furcifer
ブルキナファソ(1983)
coustani
ジンバブエ(1969)、マダガスカル(1979)
fuscicolor
マダガスカル(1979)
chrityi
ケニア(1981-4)
Anopheles;
cinereus
南アフリカ(1972-5)
Cellia
pouliani
マダガスカル(1979)
pharoensis
ケニア(1981-4)
Ochlerotatus
Aedes;
Diceromya
Anopheles
-3-
Culex
Culex;
Eumelanomya
Eretmapodite
Coquillettidia
Spp.
マダガスカル(1979)
antennatus
ナイジェリア(1967-70)、ケニア(1981-4)
neavi
南アフリカ(1981)
pipiens
エジプト(1977)
poicilipes
セネガル(1998, 2003)
theileri
南アフリカ(1970)、ジンバブエ(1969)
tritoeniorhynchus
サウジアラビア(2000)
vansomereni
ケニア(1981-4)
zombaensis
南アフリカ(1981)、ケニア(1981-4, 1989)
rubinotus
ケニア(1981-4)
chysogaster
ウガンダ(1944)
quinquevittatus
南アフリカ(1971)、ケニア(1981-4)
fuscopennata
ウガンダ(1959)
grandidieri
マダガスカル(1979)
africana
ウガンダ(1959, 1968)、中央アフリカ共和国
Mansonia
その他
(1969)、ケニア(1989)
uniformis
ウガンダ(1959)、マダガスカル(1979)
Culicoides spp.
ナイジェリア(1967)
訳注:リフトバレー・ウイルスが分離されたのは 1931 年のケニアでの流行時だった。この表か
ら、1937 年にはケニアで、1944 年にはウガンダで Aedes 属の蚊がウイルスを保有しているこ
とを突き止め、その後も、各地での発生時に蚊を採取して媒介する種類を特定してきたことが判
る。2000 年以降もサウジアラビアとセネガルで新たな種類の蚊の保有が確認されており、新た
な地域へ侵入すれば保有蚊の種類がさらに増えるのかも知れない。
RVFV の介卵伝達は Aedes mcintoshi で観察されている。広範に分布してい
る Ae. vexans グループを含むその他のいくつかの種でもその可能性がある。こ
れらのヤブカ属の一部の種において、感染した休眠中の卵が流行間期や感染し
た寒期に乾燥した泥の中で生き残り、孵化して感染した成虫となる可能性があ
る。
ヒトは蚊に刺されて感染することもあるが、反芻動物からヒトへの伝播が主
な感染経路である。ウイルス血症の反芻動物の血液(と殺や解体を通して)、胎
膜、羊水などの体液はヒトに高い感染性を持っている。生肉はヒト感染源とな
り得るが、肉の熟成中にウイルスは急速に破壊される。経験的観察は、ウイル
スを含むもの(流産後の胎児や胎膜)との接触によって反芻動物も感染し得る
が、この伝播経路は確認されていない。
-4-
直接的なヒト・ヒト感染は報告されておらず、RVF は院内感染する病気と
は見なされていない。ヒトを含む脊椎動物における RVFV の胎盤感染があり得
る。それは、流産および新生児の高い死亡率をもたらす。
齧歯類は流行期間に感染する可能性があるけれども、ウイルスの伝播や維持
における疫学的役割は不明である。コウモリの感染も疑われてきた。最後に、
野生反芻獣は生息密度が高い地域で RVF の疫学役割を担う可能性がある。
(つづく 2016/4/20)
臨床的特徴
動物
臨床症状は、年齢および動物種によって異なる。羊は、短い潜伏期間の後、
41~42°C の発熱を示す。新生仔羊(および仔羊)は、発症後 36〜40 時間以内
に通常死亡し、致命率はしばしば 95%に達する。幼獣(2 週齢から 3 ヶ月齢)
は、死亡または軽度の感染のみのどちらかである。妊娠中の羊では、流産が頻
繁に発生し、5%から 100%に及ぶ。流産した羊の 20%は死亡する。嘔吐は、3
ヶ月齢以上の羊が示す唯一の臨床徴候である場合もある。ただし、これらの動
物は、沈鬱、出血性下痢、出血性化膿性鼻漏および黄疸を伴う発熱を示すこと
がある。致死率は 20%~30%の間である。山羊の成獣は軽症であるが、流産が
頻繁に起きる(80%)。死亡率は一般的に低い。仔牛は、発熱、悪臭を放つ下痢,
呼吸困難を伴う急性症状をしばしば示す。死亡率は 10%から 70%の範囲である。
流産がしばしば唯一の臨床徴候となり、死亡率は低い(10~15%)。
ヒト
ほとんどの場合、ヒトの感染は明らかでないか、または軽度で、インフルエ
ンザ様症状を示す。ただし、感染者が未分化熱、重度のインフルエンザ様症状、
嘔吐と下痢を伴う肝炎を起こすことがある。また、合併症の可能性もある。深
刻な病態は、3 つの異なる臨床像を呈する。最も頻繁な臨床像は、網膜の出血と
黄斑浮腫によるぼやけた視野と視力の損失を伴う黄斑網膜炎である。錯乱と昏
睡状態を伴う脳炎も起きる。この病型は死亡することは希であるが、永続的な
後遺症が残る。第 3 の臨床像は最も深刻で、肝炎、血小板減少、黄疸、および
多発性出血を伴う出血熱である。この病型はしばしば致命的である。ヒト症例
の致死率は、過去に 1%であったが、1970 年以降増加が報告されている。2000
年のサウジアラビアにおける RVF 流行では、死亡率が 14%に達した。
診断法
RVFV は、畜産農家、獣医師、肉屋、食肉処理場従業員および感染したサン
プルを扱う研究室スタッフに対し高度のバイオハザードとなる。国際的公衆衛
生機関は、このウイルスを取扱うヨーロッパの施設に対してバイオセーフティ
-5-
レベル (BSL) を BSL3 に、米国の施設に対して BSL4 を設定している。
適切な診断のサンプルは、感染した動物または患者の EDTA 処理した末梢
血の血漿または血清、ならびに死亡した動物の肝臓、脳、脾臓およびリンパ節
である。サンプルは診断研究所に迅速に(48 時間以内)運び、+4 °C 以下の温
度で保管する。これができない場合、-20 °C 以下で凍結する必要がある。臓器
の小さな断片は、グリセロール溶液中に保管できる。
ウイルス分離は、乳飲みマウスまたは離乳マウスの脳内または腹腔内接種、
Vero、BHK21 や蚊の細胞を含む様々な培養細胞、によって実施する。RVFV は、
細胞培養での蛍光抗体法、ウイルス中和試験、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反
応 (RT-PCR)、あるいは遺伝子配列決定によって特定できる。ウイルス分離は、
RVF 診断の最高の判断基準である。ただし、その感度はかなり低い;RVFV 分
離は簡単には達成できない。その代替として、RVFV リボ核酸 (RNA) の検出
が、サンプルから直接抽出した RNA に RT-PCR を使用して実行できる。数時
間以内に結果が得られ、RVF が疑われる場合 RT-PCR は優先的検査法である。
RVFV に対する抗体を検出する血清学的検査法には、ウイルス中和試験
(VNT) と酵素免疫吸着測定法(ELISA 法) がる。ウイルス中和試験 (VNT) はき
わめて特異性が高いが、別の Phleboviruses との交差反応のため限定されるが、
血清学的検査法の最高の判断基準である。ただし、費用と時間が掛かり、BSL3
または BSL 4 の検査室が必要である。
間接免疫グロブリン (Ig)検出 ELISA 法は、迅速、特異的かつ高感度であり、
ウイルス中和試験 (VNT) と徐々に置き換わっている。競合 ELISA(cELISA)
は、IgG と IgM を検出するために市販されている。それによって反芻動物とヒ
トの血清学的診断ができる。最短で、反応が非常に早い動物において感染また
は予防接種から 4 日後に、100%の動物において予防接種から 8 日後に抗体を検
出できる。最近では、組換え RVFV 核蛋白に基づく別の間接 ELISA 法が開発
されている。その感度は 98.7%, 特異度 99.4%である。
アフリカで集められたヒトと動物の血清を用いて cELISA が評価され、また、
ヨーロッパの反芻動物の品種についての特異性を確認するためフランスの家畜
(牛、羊、ヤギ)の血清を用いて評価され、負の予測値が 100% (n = 502)と優
れており 95%信頼区間は 99.3~100%であった。
治療
ヒトや動物に対する特別の治療法はない。
予防
ワクチン
-6-
ヒト用ワクチン(ベータ・プロピオラクトンで不活化)が米国で生産され、
研究室のスタッフおよび軍隊を防護するために使用された。しかし、その生産
は停止されている。
反芻家畜が疫学的サイクルに関与しており、ヒトのほとんどはウイルス血症
の動物との接触後に感染することから、反芻動物の予防接種がヒトの病気を防
ぐために選択される方法である。家畜には、生および不活化ワクチンがある。
Smithburn ワクチンは弱毒生ワクチンである。安価で羊、山羊、および牛
に対して免疫を付与する。それらは、野外 RVFV によって引き起こされる流産
からこれらの動物種を保護し、ワクチン接種後の免疫は生涯続く。ただし、病
原性が残っていて、反芻動物の胎児の異常や流産を誘発する可能性がある。ま
た、ヒトに対する病原性(発熱症候群)もある。これらの欠点にもかかわらず、
FAO によって推奨されており、アフリカにおいて最も広く使用されている RVF
ワクチンである。
不活化 RVF ワクチンは、低レベルの防護を提供し、その生産は高価である。
さらに、望ましい保護レベルを誘導するためには少なくとも 2 回接種と頻繁な
追加接種を必要とし、反芻動物の群れの大部分が遊牧の国において不適切とな
っている。ただし、エジプトにおける 1977~1978 年の流行後にイスラエルへ
の RVF 侵入を防ぐためにイスラエル獣医局によって使用され、2007 年にスー
ダンを襲った後にエジプトへの RVF 再侵入を防ぐためにエジプト獣医局によっ
て使用された。
その他の候補ワクチン、中央アフリカ共和国で軽症患者から分離された
RVFV 弱毒株である「クローン 13」などが評価途中である。このワクチンは、
RVFV に対する中和抗体を誘導する。新世代ワクチンも研究中である;ポック
ス・ウイルスを用いた遺伝子組換えワクチン、アルファウイルスのベクターワ
クチン、DNA ワクチン。ただし、これらのワクチンはまだ開発の予備的段階で
ある。
Smithburn ワクチンと不活化ワクチンは、エジプト、南アフリカ共和国、
ケニアにおいて生産・市販されている。EU 域内において企業の RVF ワクチン
生産を禁止する法律はなく、そのような生産を欧州委員会に通知する義務はな
い。さらに、理事会指令 2001/82/EC (EC 2001b) を引用すると、「深刻な流行
病が発生した場合、加盟国は、適切な医薬品がない場合に詳細な使用条件を委
員会に通知後に、市販承認されていない動物用免疫医薬品の使用を暫定的に許
可することができる。」
殺虫剤の使用
幼虫駆除剤は、蚊の繁殖サイト場所が適切に特定され、適用範囲が限定され
る場合、もう一つの制御手段となり得る。幼虫のホルモン性成長阻害剤である
-7-
Methoprene お よ び 細 菌 性 幼 虫 駆 除 剤 で あ る Bacillus thuringiensis
israeliensis (BTI)製品は、市販されており、蚊が増殖している池や水場に一時
的に使用することができる。成虫の駆除剤(ピレスロイド系殺虫剤など)は高
価であり、実施が困難である。さらに、適用範囲が一般的に広いため、環境お
よび生態学的な重大な結果を招くことがある。
その他の手段
予防措置には、動物の移動制限、反芻動物のと殺および解体処理の停止や制
御、流行時の防虫剤や蚊帳の使用、情報活動、および動物・ヒト・媒介昆虫の
的を絞った調査を含むべきである。
現在の地理的分布
RVF は、サハラ以南のアフリカのほとんどの国、エジプト、マダガスカル
で風土病化または報告されている(図 2)。
図 2.RVF の地理的分布
-8-
1977~1978 年にエジプトで報告された最初の大流行中に RVF によって
600 人以上が死亡した。流行は地中海沿岸(ナイル川デルタ地帯)に達したが、
近隣諸国には拡がらなかった。2000 年 9 月に、RVF はアフリカ大陸以外で初め
て、サウジアラビアとイエメンで検出され、ヒトの死亡と家畜の大規模な損失
をもたらした。2006 年末までに、この病気はケニアで再発生し、タンザニア、
ソマリアと続いた。別の大規模な流行が、2007 年に Khartoum 周辺のナイル渓
谷でスーダンを襲った。2007 年 5 月に、コモロ諸島の Anjouan 島から避難し
た少年がフランス領マヨット島で RVF と診断された。RVFV は、おそらく、2006
~2007 年の流行時にケニアやタンザニアから輸入された生きている反芻動物に
よって持ち込まれた。この最初のヒト症例が報告された後の研究は、10%の牛
が RVFV に対する抗体(ELISA による IgG や IgM)を持っていたことを報告
したが、民間獣医師や公的獣医療組織によって臨床的に感染を疑われることは
なかった。その後、2007 年 9 月 1 日から 2008 年 5 月 31 日の間にデング熱ま
たはチクングニア熱と臨床的に疑われたが検査で否定されたヒト症例から採取
した血液を用いて、遡及的研究が 2008 年に実施された。10 名のヒト RVF 症例
が見つかり(IgM または RT- PCR 法で陽性のサンプルを含む)、それらの内 7
例(70%)は暑い雨期の 1 月から 4 月に発生していた。この研究は、少なくと
も 2007 年初頭から RVF がマヨット島で循環していたことを示しており、おそ
らく、別のコモロ諸島から生きている感染した反芻動物の違法輸入によって持
ち込まれたと思われる。
2008 年に、RVF 流行がマダガスカルでヒト症例が 500 例以上発生した。
2007 年と 2008 年に南アフリカで数回の発生が報告されたが、ヒト症例は報告
されなかった。
(つづく
2016/4/23)
-9-
変化の要因
RVF の疫学に変化を引き起こし得る要因を表 3 に要約した。水田を含む灌
漑地域は、多くの種類の蚊の良好な繁殖地となる。Dambos は、東アフリカの
半乾燥地域で、一時的に表層水で覆われる。豪雨と洪水の連続は、膨大な蚊の
増殖をもたらす(多くは Aedes 属と Culex 属)。Wadi は、乾燥地帯(イエメン、
サウジアラビアなど)で発生する一時的な川であり、表層水が池に残り、蚊が
増殖できる。
表 3.リフトバレー熱の主な流行とその要因
年
国
生態系
媒介蚊
宿主
引金要因
1975
南アフリカ
?
?
?
?
1976
スーダン
灌漑地域
?
小型齧歯類
灌漑
灌漑、
エジプト
灌漑地域
C. pipiens
小型齧歯類、ラクダ、
1977
ヒト
牛の取引
セネガル、
1987
灌漑地域
C. pipiens
小型齧歯類、牛、ラク
?
モーリタニア
ダ、ヒト
1993
エジプト
灌漑地域
?
小型齧歯類、ヒト
灌漑
1997
エジプト
灌漑地域
?
小型齧歯類、ヒト
灌漑
ケニア
Dambo
小型齧歯類類
降雨
A. vexans、
小型齧歯類、牛、ラク
降雨、ウイルス
C. tritaeniorhynchus
ダ、ヒト
侵入
Dambo
?
小型齧歯類、牛、ヒト
降雨
1997
~98
イエメン、サウジ
2000
Wadi
アラビア
Aedes spp、
C. zombaensis
2006
ケニア、タンザニ
~07
ア、ソマリア
2007
スーダン
灌漑地域
?
小型齧歯類、牛、ヒト
?
マヨット島
島
?
小型齧歯類、牛、ヒト
ウイルス侵入
マダガスカル
高地の水田
小型齧歯類、牛、ヒト
?
2007
~08
2008
Culex ?
Anopheles ?
Dambo:アフリカの降雨量が多い浅い湿地帯、Wadi:雨期以外は水のない川、
家畜貿易と地中海沿岸地域
家畜のと輸送は、RVF の地理的分布に影響し、大陸に時々広がる病気の大
規模な拡大を引き起こし、家畜の移動を介してそれまで発生しなかった地域へ
のウイルスの侵入をもたらすことがある。RVF 症例は、1970 年代にスーダンの
灌漑地域で報告された。スーダンからエジプトへ国境を超えるラクダにおいて
- 10 -
抗体が検出され、感染したラクダがエジプトに RVFV を持ち込んだことを示唆
している。
2000 年にサウジアラビアで発生した際、Aedes 属の蚊から 6 株の RVFV が
分離された。それらのウイルス株はケニアで 1997~1998 年に分離された株と
遺伝学的に近似しており、これらのウイルスが、おそらくアフリカの角から反
芻動物によってサウジアラビアに持ち込まれたことを示唆している。2000 年以
降、これらのウイルスがサウジアラビアで生存しているかどうかは不明である。
いずれにしても、アフリカの角から再侵入のリスクが高い。メッカにおける宗
教的な祭りの期間中に、1000~1500 万頭の小型反芻動物がそこからサウジアラ
ビアに輸入されている。
羊の貿易で同様のパターンがサハラ以南のアフリカと北アフリカ間で観察
される。Eid-ul-Fitr(断食明けの祭)とラマダーン明け(Eid al-Adha)のムス
リムの祝日が 9 月から 11 月にかけて行われ、その頃媒介蚊の活動が盛んである
(アフリカサヘル地方における雨季の終わり)。
したがって、地中海の東部と南部の海岸に RVF に感染した動物の搬入の可
能性が高いイベントである。一旦そこに侵入すれば、RVFV は媒介に適した蚊
とともに宿主の反芻動物を見つけることができる。ただし、北アフリカと中東
からヨーロッパへの家畜貿易は禁止されているので、RVF 感染動物のヨーロッ
パへの搬入はなさそうである。
気候
気候温暖化は、RVF の地理的分布に影響する可能性がある。高い気温は、
蚊の採餌頻度と産卵を増やし、発生サイクル期間のみならず、蚊における RVFV
の外因性潜伏期間を短縮する。したがって、降雨量の増加と関連する高い気温
は、媒介昆虫の高い密度と能力をもたらし、それによって RVFV 伝播速度がよ
り速くなる。それに加えて、介卵伝達も変化する。
ウイルスが北アフリカや南ヨーロッパに侵入した場合、Ae. vexans などの
蚊は多くの地中海沿岸国において媒介昆虫としての役割を果たすことができる。
湿地帯で繁殖する Ochlerotatus 属の数種もこのウイルスを伝播することができ
る。広範に存在する Culex pipiens は、湿地、水田、灌漑作物用地、下水道など
に多数生息しており、生物学的サイクルの増幅器として機能するかもしれない。
気温の上昇は、媒介昆虫の能力およびヨーロッパに常在している蚊の種類に影
響を与える可能性があるけれども、それを定量化することは困難である(この
ことは、別のアルボウイルスの制御条件で既に証明されている)。実際に仮に侵
入した場合、これまで調査されていなかったいくつかの媒介昆虫種が RVFV 伝
播に関与してくる可能性がある。
アフリカ東部において、5~15 年の不規則な間隔で RVFV が大きな流行を
- 11 -
引き起こしている。この地域の気候モデルは、極端な降雨の頻度と強度の増加
とともに、平均年間降雨量の増加を予測している。これらの変化はアフリカ東
部での流行をより深刻で頻繁にし、それによってインド洋諸島など家畜貿易の
関係がある近隣のリスクが高い地域での発生を引き起こす可能性がある。
媒介昆虫
Aedes 属と Culex 属の蚊の飛行能力は、やや限られており、数百メートル
から 10 km 以上の範囲である。ただし、これらの距離は RVF の地域的広がり
引き起こすのに十分な距離である。
感染した蚊が風で運ばれることが、別のアルボウイルスについて報告されて
いる。現在のところ、RVFV を媒介する昆虫の情報はない。船や飛行機によっ
て感染した蚊がアフリカから受動的に運ばれたことが、マラリア原虫に感染し
た Anopheles 属のハマダラカについて報告されている。ただし、この方法を侵
入する RVFV について、感染した蚊はそこでのサイクルを開始するためには感
受性宿主を見つける必要がある。このことはありそうにない。
予測モデル
リスク地図の作製
アフリカ東部(ケニア)
ケニアでは、豪雨と RVF 感染発生との相関関係が実証されている。植生指
数の地図とともに遠隔測定された降雨の地図が、監視すべき基礎データと一緒
に利用され、媒介昆虫集団の動態と RVFV の活動を予測し、これらの 2 つの指
標間の相関関係を確立している。アフリカ東部における RVF 発生予測の遠隔測
定の主な利点は、費用が比較的安いことである。国や地域で容易に利用でき、
感受性動物の予防接種や蚊の幼虫の制御などの予防措置を講じることができる。
予測モデルは、太平洋とインド洋の海面温度の異常および豪雨と正規化した
植生指数 (NDVI) データの追加によって、過去 10 年間に改善されてきた。ケ
ニアの RVF 流行予測が、2~5 ヶ月のリードタイム(曝露から発生までの期間)
で、95~100%の精度で推定されてきた。FAO は、RVF リスクの増加に直面し
ている各国に警告する技術を使用している。ただし、アフリカのその他の地域
における生態学的および疫学的状況が異なるために、これらのモデルの地理的
適用範囲は限られている。これらのモデルの利用の概要は、地中海沿岸とヨー
ロッパでも悪く、それは、気候要因がアフリカ東部と著しく異なり、これらの
地域でこの病気が報告されていないように生態学的、疫学的状況が不明なため
である。
西アフリカ(セネガル)
RVF は Ferlo 地域(セネガル北部)で風土病となっている。この地域は、
- 12 -
一時的に池ができる生態系によって特徴付けられる。それらの池は、降雨の規
模と強度に応じて、雨季の初め(7 月)に満たされ 10 月から 1 月に乾燥し、ネ
ッタイシマカ蚊集団の発生に有利な環境となる。
ただし、アフリカ東部のモデルが西アフリカに適用できない;豊富な降雨量
はしばしば RVF 流行と関連していない。RVF 流行に、つながる疫学的状況はよ
り複雑であり、宿主の移動(移牧)、宿主の免疫および雨期に一過性に活動する
媒介昆虫の動態が結びついている。
この地域において、伝播のリスクは、多様であり、池の種類との関連性が示
されている。高解像度の遠隔操作画像が、一時的な池とその環境を特徴づける
ために利用され、蚊の生態と関連する指標を生み出した。しかしながら、この
作業は発生動向調査プログラムで使用するには未だ十分なレベルになっていな
い。
ヨーロッパについてのリスク解析
詳細な質的リスク解析が、2005 年に欧州食品安全機関 (EFSA)によって行
われた。本研究の主な結論は以下に要約される。
反芻動物の輸入
感染した反芻動物の輸入は、欧州連合 (EU)に RVF が侵入する最大の危害
要因である。フランスの Camargue 地方やルーマニアのドナウ・デルタなどの
奥深い湿気の多い地域に飼われている家畜では、臨床症状が速やかに見つけら
れないことがあり得る。このようなシナリオは、適切な生態学的条件が整えば、
RVFV が増幅され、流行の核となる可能性がある。
家畜や家畜の肉を EU へ輸出する国には、公式の RVF 清浄資格が求められ
る。その資格は、効率的な疾病発生動向調査システムの実行および RVF 発生の
可能性を報告する意思を観察可能な証拠に基づいて示す国の能力に依存する。
これらの制約は、口蹄疫やその他の流行病と同じである。それらは、1972 年に
規定された(directive 72/462/CEE、後年さらに厳しく変更)。具体的な結果は、
欧州連合にアフリカや中東から生きた反芻動物とその製品のあらゆる輸入が禁
止されている。ただし、違法および不明な反芻動物の輸入は、中東と中央ヨー
ロッパの間、北アフリカと南ヨーロッパ間でおそらく発生している。このこと
は、小反芻獣疫、口蹄疫、ブルータング、クリミア・コンゴ出血熱などのその
他の多くの重要な動物疾病および人獣共通感染症の侵入リスクの主要な要素で
ある。たとえば、アラブ・マグレブ連合からフランスへの小反芻獣疫ウイルス
の侵入リスクを査定するためリスク解析が最近実施された。結論は、そのリス
クが非常に低く、0 から 2 のスケールで、0(あり得ない出来事)から 9(特別
な出来事)の範囲にある。
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媒介昆虫
いくつかの潜在的な RVFV 媒介昆虫が EU に存在する(表 4)。気候の違い、
媒介昆虫の季節変動と宿主の密度、ならびに遺伝的偏りは、アフリカの状況と
比較して、媒介昆虫の適格性(病原体を伝播する媒介昆虫の生物学的適格性)
および媒介昆虫の能力(媒介昆虫の数や寿命、吸血対象宿主の好みなどの外部
要因)の違いをもたらしている。それにもかかわらず、EU における蚊の一部の
種、たとえば Cx. pipiens は RVF の適格な媒介昆虫になることは疑いない。さ
らに、新たな媒介昆虫新種の侵入と拡大はさらなるリスクをもたらす。たとえ
ば、Ae. albopictus は RVFV を伝播することができ、ヨーロッパにおけるこの
種の現在の分布から多くの疫学的懸念が生じる;アルバニア、ボスニア・ヘル
ツェゴビナ、クロアチア、イタリア(シチリアとサルデーニャを含む)、フラン
ス南東部、コルシカ島、ドイツの一部(北アルプス)、ギリシャ、モナコ、モン
テネグロ、オランダ(green house)、サンマリノ、スロベニア、スペイン東部、
スイス南部、バチカン。
表 4.欧州連合および候補国で分布が判っているリフトバレー熱ウイルスの適
格な媒介昆虫(省略)
ウイルスの生存
血液、臓器、生肉、胎児の体液と組織、ならびに皮革は、リスクの高い職
業グループ(農民、獣医師、と畜場従業員、肉屋など)に対して深刻な危害を
もたらす。このウイルスは、肝臓、脾臓および腎臓に存続するが、肉の熟成に
よって pH が低下すると肉から急速に消える。血液、骨、内臓製品の RVFV 汚
染の重要性は、未だ評価されていない。乳はリスクがあるとは見なされない。
ただし、データがないので、乳の摂取による伝播は完全には否定できない。
感染した動物の血液と組織を取扱っている研究室のスタッフが RVF 感染し
た事故が記録されている。
結論
EU 内への RVF 侵入とその拡大のリスクをさていするために、いくつかの
国と委員会で解析が行われている。その結論は、全体的なリスクが低いとして
いる。しかしながら、アフリカ東部、スーダン、ナイル渓谷およびインド洋を
含む最近の RVF 再発生は、RVFV は非常に活発で、社会経済変化とともに気候
やその他の環境に敏感であることを示している。これらの変化は、人口および
それに伴う食肉需要の増加をもたらし、家畜の管理された移動や管理されてい
ない移動を促進している。その結果、地中海沿岸、中央ヨーロッパ、および中
東は、おそらく、RVF 侵入のリスクに益々曝されるだろう。風土病化した地域
と RVF 清浄地域との間の家畜の動き移動の正確な推定に基づくリスク解析を推
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進することが重要である。さらに、環境の変化を考慮するために、リスクの高
い生態系を区分分けし、データを定期的に更新しなければならない。この後者
の活動は、EU が資金提供した「変化する欧州環境における新興感染症プロジェ
クト(EDEN)」の下で開始されており、2010 年にプロジェクトが終了した後
も続ける必要がある。ヨーロッパにおける RVFV 媒介昆虫の生態をより的確に
解明し、病気の発生動向調査を改善し、より効率的な意思決定支援手法を提供
する RVFV の侵入、定着および拡大のモデルを開発する必要がある。
さらに、効率的な危機管理計画の実施を可能にするため、より効率的な媒介
昆虫と疾病制御の方法が必要である。
● 媒介昆虫制御のため、既存の方法と手段の体系的な査定(研究および野
外実験)を実施する必要があり、蚊の集団規模を小さくするか、既存の
集団を病気を伝播できない媒介昆虫に置き換えるために設計された遺
伝子組み換え蚊の開発のための選択肢を含め、新たな技術を開発する研
究プログラムを支援しなければならない。
● 欧州の反芻動物における疾病制御のため、既存のワクチンの試験を、製
薬会社と共同で実施する。最も安価で最も効果的な既存のワクチン
(Smithburn RVFV 株)は反芻動物とヒトに対する病原性が残っている
ので、ヒトと動物の両方に対する新世代ワクチン(たとえば遺伝子組換
えや逆転写ワクチン)に関する研究も支援すべきである。
● ヨーロッパで大規模な RVF 流行はあり得ないので(反芻動物やその体
液に直接接触する人々の割合が少ない)、人体用ワクチンが開発されて
も、ヒトの予防接種は暴露のリスクが高いグループ(農民、獣医師、と
畜場従業員、肉屋など)を対象とする必要がある。
● 最後に、最も関連性の高い長期的な戦略は、風土病化した地域における
RVF 制御である。RVFV 媒介昆虫とウイルスの生態およびアフリカにお
ける疫学的状況をより適切に理解し、予測および定量のためのリスクモ
デルと地図を開発し、リスクに基づく発生動向調査と制御手段を実施す
るために、相当の努力が必要である。
謝辞(省略)
引用文献(省略)
(完 2016/4/25)
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