NEXT150長崎大学病院vol.24

Next 150
2011 December
長崎大学病院
year anniversary
vol.24
佐世保市への救命救急センター開設
地域が連携して救命率アップへ
来春、佐世保市立総合病院に県内3番目の救命救
あるいは心筋梗塞、肺炎、腎不全などの疾患の死亡
急センターが開設されます。県北地域の救急医療に
率が高いといえます。いろんな原因がありますが、
重要な役割を担います。また玄海原発なども隣接す
一つに急性期医療が十分に対応できていないことが
る県北では、緊急被ばく医療への体制強化も注目さ
挙げられます。センターでは、このような急性期疾
れています。現在の救急医療の現状や取り組み、緊
患の死亡率を改善できると期待しています。
急被ばく医療への備えについて、佐世保市の朝長則
河野氏 県北は急速に人口対の医師の比率が低下し
男市長と同院の江口勝美病院長に話を聞きました。
ていて、特に高齢のご開業の先生の跡を継ぐ若い医
師が少ない状況が続いていると聞きますが。
急性期の救命率向上に期待
河野氏 長崎大学病院も約1年半前に、救命救急セ
佐世保市立総合病院長
江口 勝美氏
ンターをオープンしました。佐世保市立総合病院も
えぐち・かつみ
来春には地域医療再生基金によって、救命救急セン
1944 年生まれ。
ターを開設される予定だと聞いております。
長崎大学医学部卒。
江口氏 佐世保および県北医療圏には平戸市、松浦
市、佐々町などを含めて、約 34 万人います。県北
専門は免疫学、
内分泌学。
2010 年より現職
には救命救急センターがなく、救急医療に対応でき
る施設が充実していませんでした。そうした中、県
の地域医療再生計画で、県北地区に救命救急センタ
ーを設置しようとする動きがあり、医療圏の中核病
院として充実している佐世保市立総合病院に開設す
る運びとなりました。
朝長氏 佐世保市立総合病院への救命救急センター
の設置につきましては、昨年6月に長崎県と佐世保
市が共同で設置しました「佐世保・県北地域医療の
Eguchi Katsumi
あり方検討会」で、関係自治体、地域の医療関係者、
朝長氏 佐世保、県北地域の医療体制については、
有識者の方々より、ご検討いただき、今年8月に中
10 月に近隣の自治体の市長、町長にお集りいただ
間報告書の中で提言を頂いたところです。
き、意見交換会を開催したところです。
地域の救急医療の核としての存在であり、先進的
その中で、各地域の現状についてもお話を伺いま
な高度医療を提供することにより、救急患者、特に
したが、初期救急においては在宅当番医制で対応で
心疾患、脳血管疾患などに対する救命率の向上を期
きている自治体もある反面、その自治体でもすべて
待するものです。
の診療科目に対応できていないということでした。
江口氏 佐世保および県北の医療環境は、あまりい
また、2次救急医療やさらに高次の医療の提供に
い状況ではありません。特に人口 10 万人に対する
ついて、自治体によっては医療機関が存在していな
死亡率をみてみますと、
悪性腫瘍以外の脳血管障害、
いことや医師不足により、機能が低下しており、佐
座談会
世保市の医療機関への搬送を余儀なくされていると
部をローテートしています。さらに研修医の先生方
いう声も聞かれました。
の要望により、1年目と2年目の組み合わせで、2人
江口氏 特に、県北地域には医師や看護師などの医
の研修医が救命救急の医師の指導を受けながら、一
療資源も不足しています。救急医療の充実を図ると
緒に救命救急部で当直し、初療を受け持っています。
ともに、その解決に向けても、センターの開設は非
このように救命救急に興味を持ち、積極的に診療
常に意義があると思っています。
に参加する若手医師が増えております。
このことが、
病院長
河野 茂氏
救命救急の専門医を増やすことにつながるものと確
信しています。
こうの・しげる
河野氏 最初から救急の専門医がいればいいのです
1950 年生まれ。
が、現実には難しい。大学病院では救命救急センタ
長崎大学医学部卒。
ーを開設するときには各診療科の協力が必要でした。
専門は呼吸器内科学。
2009 年4月より現職
江口氏 そうですね。特に救命救急と関連のある診
療科の脳血管外科や神経内科、循環器科、産婦人科、
小児科の先生方の数をまず増やして、救急に対応で
きるようにしていきたいと思っています。
河野氏 現実的にはそこからですね。
江口氏 最初の時点では救命救急医がずっと患者さ
んを持つのは現実的に難しいので、トリアージのよう
なところから始めなければならないと思っています。
河野氏 入口は救命救急センターで命を救う措置を
Kohno Shigeru
医師不足解消が課題
河野氏 佐世保市立総合病院は長崎大学病院との関
係も深く、医師の派遣は十分です。しかし、それ以
した後、専門科にお願いするという形ですね。
江口氏 生命の維持と初期の診断をおこない、その
後、専門の先生にお願いするという形になると思い
ます。最終的に救命救急センターの先生を増やして
いければいいと思います。
外の病院では医師の確保に苦労されていると思いま
地域の病院との連携不可欠
す。救命救急センターを開設しますと、救急医療に
河野氏 佐世保市立総合病院にだけ患者さんが集中
専従する医師がいないと、
なかなか対応が大変です。
しますと、医師の疲弊を招いてしまうリスクもある
特に佐世保市立総合病院では地理的にも周辺から患
と思います。いわゆる2次救急の輪番病院やご開業
者さんが集まる場所にありますので、救命救急を専
の先生方との連携が不可欠だと思います。佐世保市
門にされる先生の確保などはいかがですか?
立総合病院は重症の3次救急という機能を担うと考
江口氏 それが一番頭を抱えています。全国的にみ
えてよろしいでしょうか?
ても救命救急を専門にされる先生が少ないのが現状
江口氏 佐世保市立総合病院で対応する県北地域お
です。現在、ホームページ上などで公募しています。
よび佐世保市の患者さんは多いと思われます。「救
今、佐世保市立総合病院には救命救急医師が1人
命救急センター」と標榜すると、さらに多くの患者
います。当院では、
救命医を育成するということで、
さんが来られて、病院自体も疲弊しかねないという
長野県立こども病院に医師を1人派遣し、小児集中
ことを危惧しています。
医療を学んでもらっています。
朝長氏 患者さんの受診行動につきましても、軽症
また、1〜2名の研修医の先生方が常時救命救急
の患者さんが2次輪番病院を受診し、いわゆるウォ
座談会
ークインするなどの事例で、重症の患者さんへの対
ている医師が少なく、また若い先生が少ないことも
応に支障がみられたり、勤務医の疲弊につながった
あり、救命救急に対応するのが難しい状況になって
りという要因もあるようです。
いると思います。
江口氏 そのようなことから、佐世保市や佐世保市
朝長氏 (これまでの話にあったように)今後、課
医師会は協力して、急病診療所を開き、軽症の患者
題の解決に向けて、地域医療再生基金を活用した3
さんについては内科や小児科患者さんを対応しても
次救急医療提供体制や2次救急受入体制整備のモデ
らうようにしています。
ル事業に取り組む予定です。医師会をはじめとした
また搬送困難事例が増えている状況があります。
関係機関との連携のもと、地域住民が安全に安心し
これにはいろいろな原因があります。そこで佐世保
て暮らせるまちづくりに取り組んでまいりたいと思
市では救急車に乗った患者さんの病状を消防士が管
っています。
制塔となる救急担当の医師に連絡し相談して、どこ
に搬送したらいいのかを示唆するようなシステムを
若手医師を教育する場に
つくろうとしています。搬送困難事例を一つ一つ検
河野氏 大学病院に対して何か要望がありました
証して対応していきたいと思っています。
ら、聞かせてください。
河野氏 搬送中に何度も断られるケースは多いです
江口氏 来春には救命救急センターの看板を掲げた
か?
いと思っています。実際に建物が建つのは平成 26
江口氏 症例などによって、対応できないなどの理
年の春を予定しています。それまでにセンターを充
由で、すぐには搬送先が決まらないケースがあるよ
実させるよう、大学には医師の教育の分野でお願い
うです。
できればと思っています。全力を尽くして若手の医
河野氏 そうでしたら、ますます救急の1次、2次、
師を育てたいと思っておりますし、大学病院の先生
3次の体制をしっかり構築しないといけませんね。
方には是非とも指導に来ていただきたいですね。
現在の2次輪番病院はどうなっていますか?
河野氏 若手医師の育成、特に研修医の県内での確
江口氏 基幹病院として4つあります。佐世保市立
保は最も大切な役割だと思います。今年も研修医マ
総合病院のほか、長崎労災病院、佐世保共済病院、
ッチングの中間発表がありまして、県全体でも少し
佐世保中央病院があります。ほかにも7つの救急告
増えていました。佐世保市立総合病院も 4 人決ま
示病院があります。
輪番日が決まっているのですが、
ったそうですね。研修医の教育システムでは救急が
なかなかベッドの関係などでほかに回さざるをえな
義務化されていますので、佐世保市立総合病院が救
い状況があるようです。これは今後の課題ですね。
急医療の体制を整えることは、
とても良いことです。
朝長氏 佐世保市でも医師不足による診療科の偏在
江口氏 今年のマッチングの結果に少し安堵してい
が顕著化しており、基幹病院でもその対応に苦慮し
ます。学生や研修医が一番見学をしたいという診療
ています。
科は、やはり救急なんですね。若い学生たちには関
河野氏 連携病院では軽症から中等度を診て、佐世
心が高いようです。そういうことから、できるだけ
保市総合病院ではその中等から重度を診るというよ
研修医に来てもらって、いい研修ができるように取
うに、役割を分けて連携の体制を構築することが急
り組んでいきたいと思っています。研修医の指導に
務ですね。
ついては、僕自身も力を入れて朝からレクチャーを
江口氏 互いに協力関係を築いて取り組まないと、
したり、病院長の前で学会発表の予行をしたりする
みんなが疲弊してしまいます。
など、病院を挙げて研修医の指導に取り組んでいま
河野氏 医師会の先生方とざっくばらんに相談され
す。
ながら体制を整えていくことが大事ですね。
朝長氏 救命救急センターは魅力あるマグネットホ
江口氏 ほかの輪番病院でも救命救急を専門にされ
スピタルとなり、研修医をはじめとした医師の確保
NEXT 150 長崎大学病院
佐世保市長
朝長 則男氏
ともなが・のりお
1949 年生まれ。
青山学院大学経済学部卒。
療活動の実施を中心にした対策をおこなうこととし
ています。この緊急被ばく医療活動につきまして
は「長崎県緊急被ばく医療マニュアル」により、佐
世保市立総合病院が初期の被ばく医療を担う施設と
佐世保市議会議員、
して指定されています。しかしながら、有事の際に
県議会議員を経て、
は、診療や除染処置について、内部被ばくの可能性
2009 年 4 月より現職
がある患者の診療や高線量を被ばくした患者の診療
など、高度な医療については、国や県と連携が必要
です。長崎大学病院をはじめとした2次被ばく医療
機関との速やかな連携により、適切かつ最良の医療
を提供できる体制のさらなる整備に努めたいと考え
ております。
河野氏 救命救急センターがそういった機能も、い
ずれ担うようになってくるんでしょうね。初期の対
Tomonaga Norio
応として非常に重要だと思います。
江口氏 原発事故への対応については、原子力安全
や臨床研修センターの設置によって優秀な医師、医
委員会が中心になって、緊急被ばく医療基礎講座を
療技術者を輩出できると思います。これは地域にお
平成 19 年度と昨年度に、佐世保市立総合病院で開
ける医療レベルの向上や医療提供体制の安定的供給
催しました。
につながることと期待しています。
朝長氏 この講座は放射性物質による汚染で外傷を
緊急被ばく医療への体制強化
合併して搬送された患者を想定した医療処置の研修
河野氏 今年は東日本大震災があり、福島第一原発
ばく患者の受け入れから放射線測定、除染、搬送ま
の問題もありました。それに絡んで、玄海原発を取
での実習をおこないました。
り巻く状況もクローズアップされました。また佐世
また毎年、佐世保市が主催して原子力防災訓練を
保には原子力艦船が入港することもあり、放射能漏
実施しております。その中で市の関係部署と医師会
れ事故も想定されます。現在、佐世保市総合病院、
が参加し、避難医療救護活動訓練をおこなって、原
松浦市民病院が初期被ばく医療機関に指定されてい
子力災害に対する理解と認識を深めています。
ます。大学病院も2次被ばく医療機関で、有事の際
河野氏 将来を見据えながら、医師会と協力して佐
には緊急被ばく医療に取り組むようになっていま
世保市立総合病院を中心とした県北の救急医療体制
す。この観点から、佐世保市立総合病院の役割につ
を構築していただきたいと願っています。大学病院と
いて、どのようにとらえられていますか?
しても、協力は惜しみません。ご開業の先生や2次
朝長氏 原子力艦船からの放射能漏れについては、
輪番の病院と連携を強固にして、県北地域の病院が
佐世保市地域防災計画に、その対策を定めており、
共に魅力ある病院になっていただきたいと思っていま
災害対策本部に医療対策部として保健福祉部を、病
す。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
院対策部として佐世保市立総合病院をそれぞれ組織
江口氏 佐世保市や県北の住民の方々のお役に少し
しております。この中で、保健福祉部においては、
でも立ちたく願っております。何よりも、住民は安
医療機関との連携、調整をはじめ、医療相談や安定
全安心に高度医療を受けられることを一番求めてい
ヨウ素剤の準備、服用の指導などに取り組みます。
るはずです。救命救急センターで地域医療の向上を
また、佐世保市立総合病院においては緊急被ばく医
図っていきたいと思っています。
で、佐世保市立総合病院の医療スタッフが汚染、被