2014/Feb 長崎大学病院 vol.50 座談会 脳卒中センター 増える患者数 初期対応の重要性 救急搬送される脳血管障害の患者さんに対して、本院の脳卒中センターは 24 時間 365 日対応しています。高齢化などに伴い年々増加する患者数。医療技術も内科的にも 外科的にも進歩しています。脳血管障害への緊急の対応などが今回のテーマです。 患者数が 1.5 倍増 ことができる病院は長崎市内でも限られており、本 院では紹介によって患者さんを受け入れる体制は整 河野氏 2 年前、本院の救命救急センター内に開設 っていました。出血に加えて、脳梗塞の症例が増え した脳卒中センターには多くの重症患者さんが搬送 ていますので、tPA だけでなく、脳外科としてはカ されています。患者さんが増加している背景などを テーテル治療での対応も増えています。救急搬送の 開業の先生方に知っていただいて、脳卒中センター 増加に伴い、出血性の疾患への対応も増えているの を有効に活用していただきたいと思っています。セ が現状です。 ンター運営の中心となっている神経内科の先生と脳 河野氏 専門医じゃないと、 なかなか出血性なのか、 外科の先生の協力関係が非常によく、特に脳外科の 血管が詰まる梗塞なのか、見極めは難しいと思いま 永田教授のご理解と多大なる協力には感謝していま す。それが 2 次救急の後半から 3 次救急にかけて す。まず、現在のセンターの患者さんの受け入れの の重篤な患者さんかどうか、内科的な判断はいかが 状況はいかがですか? ですか? 辻野氏 2011 年には 267 名の急性期脳血管障害 辻野氏 今までにないような症状が突然起きたとす の患者さんの入院がありました。この 2 年間で 49 るなら、キーワードだけで急いで本院にきていただ %増え、患者数は約 1.5 倍になりました。 きたいと思います。脳卒中の治療の基本はボヤで消 河野氏 この理由はどんなところにあると考えます すのが基本です。全焼になって燃えてしまってから か? では、 なかなか元の状態に戻らないこともあります。 辻野氏 やはり大学病院に脳卒中センターをつくっ 1 次、2 次、3 次もなく、1 次救急の感覚で紹介い たということを周知したため、患者さんが集まって ただくのが実は一番の治療になります。 きたのではないかと思います。 河野氏 そうなんですね。初期にはどれくらいひど 河野氏 林先生も脳外科医として神経内科医との受 くなるのか、判別が難しいんですね。では最初にど け持ちについて伺いたいのですが、内科系は脳梗塞 んな症状が出たら危険ですか? に対して rt-PA 静注療法 ( 血栓溶解療法、 以下 「tPA」 ) 林氏 運動麻痺、特に半身麻痺ですね。それは多く という治療法で発症後 4.5 時間以内という制限の中 は脳卒中によるといえます。突然の半身麻痺や言語 で対応しています。脳外科医はどのような形で治療 障害、ろれつが回りにくくなったとか、顔面のゆが にかかわっていますか? みも参考になるといわれてます。それに加えて、出 林氏 もともと脳卒中の中でも出血性の疾患を診る 血性の場合であるくも膜下出血は突然の激しい頭痛 脳神経外科 林 健太郎氏 神経内科 辻野 彰氏 病 院 長 河野 茂氏 はやし・けんたろう/ 1969 年生まれ。長 つじの・あきら/ 1965 年生まれ。宮 こうの・しげる/ 1950 年生まれ。 崎大学医学部卒。専門は脳神経外科、脳神 崎医科大学卒。専門は脳卒中学、神経 長崎大学医学部卒。専門は呼吸器 経血管内治療。米国ケンタッキー大学留学 内 科 学。Mayo Clinic 留 学 を 経 て、 本 内科学。2009 年4月より現職 などを経て 2005 年より本院勤務 院勤務 がキーワードになります。 発症から 4.5 時間内がリミット 河野氏 患者さんの年齢構成はどうでしょうか? 辻野氏 高齢者が多いのですが、60、70、80 代そ れぞれ 20%ずつになり、だいたい均等になってい ます。 河野氏 この2年間で、40%以上増えているとい 河野氏 tPA が最近の適応となり、発症から 4.5 時 われていますが、疾患の内訳を教えてください。 間以内となると、搬送エリアはどのあたりまでにな 朝長氏 本院に送られてくる脳血管障害のうち脳梗 りますか? 塞が 6 割強を占めます。脳卒中が 26%、くも膜下 辻野氏 南部は野母崎から、北は大瀬戸から搬送さ 出血が 8.8%になっています。重症な方から一過性 れています。 の症状が出た方まで、さまざまです。 河野氏 時間的にみても長崎医療圏が中心になるわ 河野氏 脳梗塞が特に増えているのは高齢化が原因 けですね。搬送される患者さんが最も多い季節はい でしょうか?それとも治療法の進歩によるものでし つですか? ょうか? 朝長氏 昨年度は冬場が多かったのですが、本年度 林氏 脳卒中の割合としては、脳梗塞が 6 割、脳 は夏場もずっと変わらない状況でした。 内出血が 3 割、くも膜下出血が 1 割というのが通 河野氏 意外ですね。脳卒中は寒くなる冬に多いの 常です。そこで脳梗塞が増えてきているのは先生が ではと思われがちですが、これはどうしてですか? 言われたように、高齢化が1つの原因だと考えられ 辻野氏 最近では気圧の変動が脳血管障害に影響し ています。 ているのではないかといわれています。 河野氏 脳出血の場合、基礎疾患として高血圧があり 河野氏 なるほど。特に高齢者は夏に脱水症状にな ますけれども、どのような基礎疾患が多いですか? りやすいですし、それで血が固まりやすいというの 林氏 動脈硬化の誘因として糖尿病があります。ま はありますね。tPA の件数が年々増えているという た大学病院は透析ができる施設ですので、透析の患 ことですが、適用は年間どのくらいありますか? 者さんで何かあれば対応することができます。 辻野氏 昨年は 45 例でした。 長崎大学病院 座談会 SCU 看護師長 朝長 静江氏 間置きの観察などに注意を払っています。 河野氏 急性期後のリハビリが大事になってきます が、どういうタイミングでリハビリに入るのでしょうか? 辻野氏 できるだけ早い段階でリハビリするようにし ています。ストロークケアユニットには専門の理学療 法士がおり、最近では土、日の対応もできるようにな りました。 河野氏 患者さんがこれだけ増えれば大学の脳卒中 センターのキャパを越えるので、できるだけ早く急 性期パートナーシップ病院にお願いして、大学でで きる高度医療をお引き受けすることが重要になって きます。そのあたりの連携はいかがでしょうか? 朝長氏 脳卒中後のリハビリテーションは特殊です ので、脳卒中を専門とした回復期リハビリテーショ ともなが・しずえ/ 1958 年生ま ン病院がいいということがあります。数日だけ急性 れ。国立福岡中央病院附属看護学 期パートナーシップ病院に移しても、そのブランク 校卒。2006 年より現職 が後々の患者さんの状態に響くこともあります。 辻野氏 回復期リハビリ病院の転院については病院 専門知識生かしたリハビリ必要 が増えてきましたが、大学病院で進めている急性期 病院パートナーシップで肺炎などの合併症を起こし た患者さんのやり取りがもう少しスムーズにいけ 河野氏 本院のほかに、どんな病院でこの治療がで ば、大学病院としてもいい医療がおこなえるのでは きますか? ないかと思います。 辻野氏 県内の地域脳卒中センターとして核になる 河野氏 内科的には血栓を溶かし、脳外科ではそこ のが、佐世保総合病院、労災病院、川棚、大村、諫 をインターベーションするという、そこの適用を教 早健保、島原、宮崎脳外科などで、長崎市内では長 えてください。 崎北病院、安永病院など民間も地域脳卒中センター 林氏 脳主幹動脈の閉塞に対してインターベンション として登録されているので、 多くの病院があります。 が行われます。主に内頚動脈や中大脳動脈の近位部 ただ、24 時間 365 日の対応ですぐにできる病院と の閉塞が対象となります。カテーテルの方法としてはい なると、大学病院や大きな病院に限られてきます。 ろいろとデバイスが進歩してきており、吸引カテーテル 河野氏 内科的に tPA をするとき、末梢に注射を で血栓を吸引したり、コルクの栓抜きのような道具で血 打つだけですか?それともカテーテルで血栓の間際 栓を除去することもあります。 まで到達してからの投与になるのですか? 河野氏 造影や MRI などで血栓がうまく全部取れ 林氏 tPA の場合は末梢からの静脈注射が基本にな ていなかったときに先生たちの出番になるわけです ります。カテーテルを進めて局所に投与する方法も ね。専門医や認定などがありますか? ありますが、日本ではまだ認められていません。 林氏 カテーテル治療の場合には脳外科の専門医に 河野氏 tPA を受けた患者さんの看護について、気 加えて、脳神経血管内治療の専門医が必要になりま をつけている点はどんなところでしょうか? す。大学病院には専門医が4名、指導医2名がいま 朝長氏 tPA した後は出血に非常に気を遣います。 す。専門医になるには指導医のいる訓練施設で1年 本院には脳卒中リハビリテーション看護の認定看護 間トレーニングする必要があります。当院は県下唯 師がおりますので、特に専門的な知識を持って、時 一の訓練施設に認定されており、マンパワーも豊富 であり、県内随一の症例数です。 いていないというところを懸念しています。どうし 河野氏 県南、県央など全地域をカバーするように ても専門の先生方へ負担が集中しているのが悩みで 配置されているわけですね。 す。病院としては脳神経内科の病院教授のポストを 林氏 8時間以内という制限のある治療ですので、 つくって、後に続く医師の育成を図りたいと考えて その地域で早く治療できる体制が必要です。 います。システマティックに対応しながら、現場の 先生方の負担を軽減できるよう配慮していく方針で 専門医の育成が課題 す。今後、どういった方向で脳卒中センターの運営 を進めていこうと考えていますか? 河野氏 早期に対応できる勤務体制を取っておかな 林氏 脳卒中センターは脳外科と内科の協力が上手 いと難しいというわけですね。こういった急性期の くいっていますので、これをさらに発展させていき 治療をする神経内科の先生方が極めて少ないという たいと思っています。われわれはカテーテル治療な わけですが、人材の教育はいかがでしょうか? どの外科的治療には特にやり甲斐を感じています 辻野氏 県内の神経内科で脳卒中を専門にやってき ので、負担になっているということはありません。脳梗 た医師は皆無で、私が第一号の脳卒中専門医なんで 塞などで手術にならない方は内科で担当していただき、 す。今後、私に続いて専門医になるように、脳卒中 綿密な治療を行っていただいていますので、一つのグ を教える教育者として、また地域で脳卒中を指導で ループとして発展していけたらと思います。 きる若者を育てながら、組織をつくっていく必要が 河野氏 脳卒中センターにはホットラインがありま あると思っています。 したよね? 林氏 脳外科の入局者は減少してきていますが、血 辻野氏 先ほど話しましたように、脳卒中はぼやで 管内治療の訓練を希望する者は多く、専門医も毎年 消すのが一番です。tPA45 例のうち8割は救急隊や 誕生しています。脳卒中センターの先生方が脳梗塞 開業の先生方からの紹介です。開業医の先生方の役 を中心にみてくださるので、われわれの負担は減っ 割は重要になっていますので、気兼ねなくホットラ てきています。育成に関しては脳外科の希望者は少な インに連絡いただければと思います。 い一方で、脳卒中センターの研修医は常時ローテーシ 朝長氏 緊急で来られる患者さんに対応できる専門 ョンしてきます。学生や研修医のニーズが増えています 的知識や技術をもっと高めていきたいと思っていま ので、そういったところと協力できればと思います。 す。再発を防ぐという点で、市中の脳卒中に関する 朝長氏 看護師はなかなか層が厚くならないという 公開講座などで、一般の市民の方に予防をアピール のが課題です。大学病院には若い看護師が多く、産 していけたらと思っています。この前入院された患 休や育休などに入る上、看護部の方針でローテーシ 者さんで高血圧をあなどってはいけないと開業医の ョンがあるということもあり、 層が厚くなりません。 先生から注意されていたのにドロップアウトして出 脳卒中リハビリの看護師が講師となって勉強会を開 血したという例もありました。開業医の先生方とと いていますが。 もに再発防止の指導に努めたいと思います。 河野氏 大学病院は 860 床あって看護師が 870 人近 河野氏 先生方のモチベーションは非常に高いと思 くいる中で、層が薄いといわれると困りましたね。 いますので、ますます病院をさらに SCU や脳卒中 林氏 脳外科や脳卒中の患者さんが入院される9階 センターを充実させて県民の安心や安全につながる 東病棟の看護師は対応がよくて、われわれが頼んだ 高度な医療を提供していきたいと思います。本日は ことも快く引き受けてくれます。特に脳卒中に関し ありがとうございました。 ては脳卒中ケアユニットができて、そこで訓練を積 んでいますので質の高い看護を提供できていると思 います。 河野氏 患者さんの増加に対して、医師数が追いつ 脳卒中センターホットライン 090-3078-5992
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