海外招聘講演 1.Renal Structure, Function and Disease Progression in Diabetic Nephropathy University of Minnesota Medical School ○Michael Mauer, M.D. Diabetic nephropathy(DN),primarily consequent to accumulation of basement membrane (BM)components in the glomerular basement membrane(GBM)and mesangium(Mes), largely develops before functional abnormalities are manifest. GBM width is a better predictor of clinical DN while Mes expansion is a better correlate of later albuminuria and GFR decline. Interstitial changes develop later in type 1 diabetes(T1D)than glomerular lesions. With the advent of proteinuria, new renal lesions(glomerular!tubular junction abnormalities)develop in T1D which lead to glomerular non!function. Structural functional relationships in DN are best described by non!linear equations which consider that lesions precede functional changes and that once functional changes develop, structural functional relationships become much more precise. GFR loss may precede albuminuria in a substantial minority of cases. Renal pathology DN in T2D is more heterogeneous than in T1D and albuminuria with little or no classical DN lesions is not uncommon in Caucasian and Japanese T2 D patients. The nature of the underlying lesions in T2D may greatly influence the course of DN. Kidney biopsies should more often be part of patient care in T2D. 22 シンポジウム 1.心腎連関のメカニズム 東北大学高等教育開発推進センター1)、東北大学病院 ○小川 腎・高血圧・内分泌科2) 晋1,2) 近年、心腎連関の概念から腎保護は心血管保護になるとされている。現在、透析原因疾患 第一位の糖尿病性腎症について考えてみる。病態は大きく三つに分類される。1)心血管と 腎を同時に障害する病態。高血糖や高血圧などがこれに該当する。すなわち腎臓が障害さ れるくらいであれば心血管も同程度に障害されているという考え方である。2)腎臓が障害 されたことにより心臓が影響を受ける病態。腎性貧血、体液貯留、電解質異常、腎臓内レ ニンアンジオテンシン系(RAS)亢進などがこれに該当する。3)心血管が障害されたこと により腎臓が影響を受ける病態。腎血流減少や腎動脈狭窄などがこれに該当する。1)では、 glucose spike と methylglyoxal、strain vessel などについて、2)では腎臓内 RAS 亢進と酸 化ストレスについて、3)では心不全による腎血流低下と腎髄質外層壊死などについて概説 する。 2.心腎連関における炎症の役割とその制御 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 ○小川大輔 糖尿病では、高血糖や随伴する代謝異常の持続により糖尿病性腎症や動脈硬化が引き起こ されるが、これらの成因に炎症が深く関与することが明らかにされつつある。病変の主座 となる血管の大きさや構造は大きく異なるものの、局所における接着分子およびケモカイ ンの発現やマクロファージの浸潤など共通した特徴も多く認められ、炎症は糖尿病におけ る大血管障害と細小血管障害に共通したメカニズムであると考えられる。また近年、アル ブミン尿の存在が冠動脈疾患の危険因子であることが明らかになり、 「心腎連関」の概念が 注目されている。これも腎障害と動脈硬化の間に内皮細胞障害という共通の病態が存在す ることを示唆しており、炎症を標的とした糖尿病性腎症の治療は大血管障害にも有用であ ると考えられる。本シンポジウムでは、糖尿病性腎症と動脈硬化の共通の病態基盤として の炎症の意義と、その制御による治療について考えてみたい。 23 3.心腎連関からみた血圧管理 滋賀医科大学 ○宇津 糖尿病・腎臓・神経内科 貴 疫学調査の結果、正常高値であっても血圧の上昇は大血管および細小血管障害の発症リス クを高めることが明確にされ、糖尿病合併症予防には厳格な血圧管理が必要性であること が広く知られてきた。さらに、レニン―アルドステロン系の抑止とともに厳格な血圧管理 を行うことによって、腎症の進展予防あるいは腎症の寛解が得られれば、腎のみではなく 心血管合併症を予防できることが明らかにされてきた。このような事実から、ガイドライ ンで示されている目標を 130!80mmHg 未満に設定した厳格な血圧管理が、糖尿病患者の予 後を改善することが期待されている。しかし、これまで行われた血圧介入試験の結果、厳 格管理群において標準管理群に比し明らかなイベント抑制効果を示せておらず、J カーブ 現象の存在も示唆されている。糖尿病合併高血圧患者の管理目標設定に際し、eGFR、アル ブミン尿とともに血管合併症を評価することが必要であると考えられる。 4.脂質異常症の治療的意義 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科 ○宇都宮一典 糖尿病性腎症(腎症)は、腎不全の最大の原因となるばかりでなく、その病期の進行に伴って、心血管疾患のリスク が増加することが臨床上の大きな問題となっている。慢性腎臓病(CKD)で注目されている心腎連関のメカニズムは、 糖尿病では微量アルブミン尿の段階から作動するのである。従って、腎症の治療は、腎障害の進展を抑制することの みならず、全身の血管保護を目標とする包括的な視野を必要とする。そのためには、心腎連関を担う分子メカニズム の解明が急がれる。 脂質異常は心血管疾患のリスクとなるばかりではなく、腎症の進展増悪因子となる。そのメカニズムは、動脈硬化成 立機転と酷似しており、脂質異常の治療は、心腎連関を断つ上で重要な役割を演じている。スタチンの心血管疾患治 療における有用性は多くの介入試験によって既に証明されているが、近年、スタチンの腎保護効果が臨床的にも証明 されるに至った。スタチンには血中脂質改善によらない多面的効果が知られているが、その臨床的意義は不明であっ た。我々は、スタチンの多面的効果の標的蛋白として Rho!Rho"kinase シグナルに着目し、腎症の成立機転に本シグ ナルが関与すること、スタチンがこれを抑制することによって腎保護をもたらすことを明らかにした。また、Rho"kinase の特異的阻害薬が腎症、網膜症、動脈硬化病変そして神経障害を抑制することを明らかにした。その後、Rho"kinase が、糖尿病性血管障害の成因に重要な役割を演じる転写因子 HIF"1 の発現調節に関わることを見出している。本シグ ナルは糖尿病における血管障害の成因論的共通項を担い、包括的血管治療を可能にする新たな標的蛋白と期待できる。 24 5.糖尿病と冠動脈疾患の現状と展望 岡山大学大学院 ○伊藤 医歯薬学総合研究科 循環器内科学 浩 糖尿病は別格の冠危険因子である。糖尿病は冠動脈疾患既往例と同等のリスクであるが、 これは糖尿病と診断された段階で冠動脈硬化病変を有している可能性が高いことを示唆す る。また、急性心筋梗塞で入院した患者の中で糖尿病は 30!35% であるが、残りの症例の 半数以上に耐糖能異常が認められる。すなわち、血糖値が余り高くない段階から冠動脈病 変は進行し、必ずしも高血糖だけが動脈硬化のリスクではない。冠動脈疾患の発症と進行 に関与するのはインスリン抵抗性であり、そこへの治療介入が冠動脈疾患の予防には重要 である。冠動脈疾患患者には血行再建術を施行するが、糖尿病患者の再発リスクは高いこ とが知られている。冠動脈病変が複雑でハイリスクな場合には、PCI よりも CABG の選択 が勧められているが、それでも糖尿病症例の予後改善に関する効果は不十分である。本シ ンポジウムでは冠動脈疾患の早期診断と新たな治療戦略に関して述べる。 25 教育講演 1.糖尿病性腎症の病態と病期分類 金沢大学医薬保健研究域医学系血液情報統御学1)、金沢大学附属病院 腎臓内科2) ○和田隆志1,2) 新規透析導入例の原疾患の第 1 位は糖尿病性腎症である。したがって、糖尿病性腎症の病 態解明、予後の改善は医学的、社会的に重要な課題である。そのため、本邦における腎予 後、心血管イベントおよび生命予後の評価とリスク因子の解析が求められる。糖尿病性腎 症において、典型例に加えて、アルブミン尿、蛋白尿を認めない腎機能低下例、腎機能低 下を認めず顕性蛋白尿を示す症例、急速に腎機能が低下する症例の存在が知られている。 特に、アルブミン尿・蛋白尿と腎機能が解離している前二者の評価は、糖尿病性腎症の病 期分類と CKD ステージ分類との間の整合性の観点からも課題である。これらの病態の解 明と予後評価はいまだ不十分であり、病理学的な評価も重要な鍵となる。今後、基礎研究 に加えて、糖尿病性腎症の臨床病理学所見を改めて見直し、病態解明を一層進め、予後改 善をはかることが求められている。 2.糖尿病腎症に対する最新の治療 金沢医科大学 糖尿病・内分泌内科 ○古家大祐、金崎啓造 糖尿病腎症を基礎疾患として新規に透析導入される患者は増加の一途を辿り、わが国が直 面している医学的および社会的課題である。この現況は、高血糖、高血圧、脂質異常に対 する新たな治療薬の登場にも拘らず変わらない。糖尿病腎症の発症は微量アルブミン尿を 呈する早期腎期、ついで病期が進展して尿試験紙法にて持続性蛋白尿が出現する顕性腎症 期、さらに腎機能が低下してくる腎不全期となり、最終的に末期腎不全から透析導入に至 る進行性の経過を辿る。また、糖尿病腎症の存在は慢性透析療法への導入が懸念されるだ けでなく、その病期の進展にともなって心血管疾患に罹患あるいは死亡に至るリスクが高 まる。したがって、わが国の糖尿病診療の実態を見極め、最善の対策を講じることが望ま れる。そこで、日常診療で望まれる「心腎連鎖を断ち切る糖尿病腎症に対する治療戦略」を 述べたい。 26 3.糖尿病性腎症の食事療法の考え方 新潟大学保健管理センター ○鈴木芳樹 糖尿病性腎症(腎症)の食事療法は,摂取エネルギー制限を主体とした糖尿病食に,たん ぱく質,食塩やカリウムなどを,個々の病態に応じて調整することが基本である。従来, 腎症と腎疾患の食事療法基準は別途に作成され,日常臨床で使用されている。慢性腎臓病 (CKD)概念の導入により,両者の融合が様々な点で求められている。しかし,腎症病期 分類と CKD ステージ分類は統一されていない現状にあり,食事療法基準もその例外では ない。メタ解析を含めた食事療法に関する報告で,一定の成績が得られた点がある一方, 両者への効果に相違点があること,研究結果の評価に問題点があること,エビデンスが必 ずしも十分でないことなどが指摘されている。両者に幅広く対応できる食事療法の共通項 が抽出できて,基準が統一できれば理想的である。実行可能であること,栄養障害などへ の配慮も重要である。最近の文献を整理しながら,これらの点について考えてみたい。 4.糖尿病透析患者の管理ー透析患者の特殊性ー 大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学 ○稲葉雅章 DM 透析患者では透析導入時で既に動脈硬化が進展し、治療効果についての検証が必要と なる。透析患者の 90% 程度で ESA が投与されることで HbA1c が見かけ上で低下し、グ リコアルブミン(GA)が、より正確な血糖コントロール指標となる。横断研究で、GA は 血管石灰化・脈派伝播速度・骨密度と有意に独立して関連したが、HbA1c ではなかった。 動脈硬化進展がその後の死亡率を規定するため、DM 透析患者を心血管病(CVD)既往の 有無で 2 群に分け GA 値と死亡との関連を検討すると(!)群でのみ両者が有意な関連した。 さらに貧血改善による死亡率低下が non! DM 透析患者で見られたが、CVD(+)の多い DM 透析患者で消失した。血圧や血清脂質なども DM 透析患者では無介入での低値は却って死 亡リスクとなること、さらに、DM・non! DM 間での特異性は明らかではない。以上より、 DM 透析患者での管理目標は固有で考える必要がある。 27 5.1 型糖尿病腎不全に対する膵・腎同時移植の現状と展望 国立病院機構千葉東病院臨床研究センター ○剣持 敬 近年透析導入原疾患として糖尿病性腎症が急増し,その予後,QOL はともに不良である. 膵・腎同時移植は特に 1 型糖尿病腎不全の根治療法として臨床応用されている.わが国で は 1997 年の臓器移植法施行後,本格的に脳死膵臓移植が開始され,2011 年 7 月までに 106 例が実施され,うち 90 例(85%)が膵・腎同時移植である.また脳死ドナー不足を背景に 生体膵臓移植も当施設を中心に 25 例に実施され 21 例(84%)が膵・腎同時移植である. 脳死,生体ともに生存率,生着率は欧米を凌駕する好成績である.また 2010 年 7 月の改正 臓器移植法施行後は脳死膵・腎同時移植が急増している. 当施設では現在までに,25 例の膵・腎同時移植(生体 16 例,脳死 9 例)を実施した.脳 死では全例が移植後インスリン離脱,透析離脱を達成し,生体でも 16 例中 14 例(87.5%) がインスリン離脱した. 本講演では,わが国の膵・腎同時移植の適応,手技,成績などの現状につき報告するとと もに,膵島移植も含めた将来展望について当施設の臨床例の経験を含め提示したい. 28 ランチョンセミナー LS1.糖尿病性腎症の病態と治療∼新たな展開∼ 旭川医科大学 内科学講座 病態代謝内科学分野 ○羽田勝計 本年の Japan Kidney Week で、日本透析医学会から、2010 年の糖尿病性腎症からの透析療 法導入数および全体に占める割合が、2009 年に比し減少したことが報告された。ここ数年 の推移をみても、stabilize した印象を受ける。この事実は、1993 年に始まる多くのランダ ム化比較試験の成果が、臨床に反映されてきた結果とも考えられる。また、インクレチン 関連薬の登場が、糖尿病自体の治療戦略を変化させている。さらに、アルブミン尿を指標 にすると、その remission が高率に生ずることが種々の成績で確認され、remission を起こ した症例では心血管・腎イベントも減少することが示されている。また最近では、eGFR を上昇させる薬剤が存在することも、いくつかの phase 2 study で報告されている。今回の ランチョンセミナーでは、これらの成績を踏まえ、腎症の病態と治療に関して議論したい。 29 LS2.「DPPIV 阻害薬の抗動脈硬化作用」 昭和大学医学部 ○平野 糖尿病・代謝・内分泌内科 勉 2 型糖尿病ではインスリンの分泌不全と血糖を上昇させるグルカゴンの過剰分泌がともに 血糖上昇に与する。インスリン分泌不全は膵ベータ細胞の減少によるが、このことは膵ベー タ細胞の近傍にある膵アルファ細胞からのグルカゴンの分泌を促進させることになる。イ ンクレチンは GLP!1,GIP という腸から分泌させるホルモンで、血糖上昇時にインスリン分 泌を刺激し、グルカゴン分泌を抑制する。インクレチンは全身の血管に存在する DPP―4 という酵素で素早く分解される。そこで DPP―4 の活性を阻害してインクレチンを膵島に 多く届くようにしてインスリン分泌刺激、グルカゴン分泌抑制に作用する新規薬剤が DPP―4 阻害薬である。エクア(ビルダグリプチン)は DPP―4 阻害作用が強力で GLP!1 の上昇率、グルカゴン分泌の抑制が他の DPP―4 阻害薬より強い。このため血糖低下作用 も既存の DPP―4 阻害薬中最強である。インクレチン製剤には膵島以外の作用が多数知ら れているが、2 型糖尿病の生命予後を規定する心血管系疾患を予防する直接、間接的な好 影響が期待されている。われわれはインクレチンに抗動脈硬化症作用があることを動物モ デルで観察した。今後臨床的評価に期待がかかる。 30 LS3-1.糖尿病腎症の治療戦略 RA 系抑制薬は糖尿病腎症の発症・進展を防ぐことができるか? 埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科 ○片山茂裕 「糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究(JDCS)」における糖尿病 腎症(以下、腎症と略)の発症率は 6.67! 1000 人・年と低値であった。折しも、日本透析 学会の 2010 年度の報告では、わが国の腎症による透析導入患者数がはじめてわずかに減少 に転じた。これまでに、ACE 阻害薬や ARB を用いて厳格に血圧をコントロールすること により、微量アルブミン尿から蛋白尿への進展や、蛋白尿から末期腎不全!透析への進展を 抑制し、蛋白尿を微量アルブミン尿へ、微量アルブミン尿を正常アルブミン尿へ戻せるこ とが明らかにされてきた(寛解・退縮) 。心血管疾患のリスクを 1 つ以上有する正常アルブ ミン尿の 2 型糖尿病患者に ARB であるオルメサルタンを投与した ROADMAP(Randomised Olmesartan And Diabetes MicroAlbuminuria Prevention)の結果が報告された。3.2 年 の観察でオルメサルタン群ではプラセボ群に比べて、微量アルブミン尿発症までの日数が 23% 遅延した。尿アルブミンを早期に定量し、正常あるいは遅くとも軽度"微量アルブミ ン尿の病期までにオルメサルタンを用いた厳格な降圧治療を開始することが、今後の重要 な治療戦略である。 31 LS3-2.Some Controversial Thoughts on Diabetic Nephropathy University of Minnesota Medical School ○Michael Mauer, M.D. This presentation will consider whether : a. Hyperfiltration is a major driving force in the genesis of DN b. Tubulointerstitial rather than glomerular lesions are largely responsible for GFR decline in DN c. Normoalbuminuria means very low DN risk d. Microalbuminuria means high DN risk e. DN regularly begins with albuminuria f. Renin! angiotensin system blockade is of specific benefit in the primary prevention of DN The goal of this presentation is to challenge some of our strongly held beliefs. 32 LS4.「ARB のポドサイト保護作用」 ∼なぜ、イルベサルタンは蛋白尿を改善するのか?∼ 新潟大学大学院医歯学総合研究科附属腎研究施設分子病態学分野 ○河内 裕 近年の研究で、糖尿病性腎症を含む多くの糸球体疾患における蛋白尿は、糸球体上皮細 胞(ポドサイト)足突起間に存在するスリット膜の機能異常により発症すると考えられて きている。スリット膜保護は蛋白尿治療の重要な戦略であると考えられる。ポドサイトの 足突起は異なる胞体から出た突起が隣り合うように絡み合って糸球体基底膜の外側を覆っ ている。隣接する足突起をつなぐ構造物であるスリット膜は高度に分化したユニークな形 態をもつ細胞間接着装置である。演者らはこれまで、スリット膜の分子構造、スリット膜 の発生・形成機序、各種糸球体障害におけるスリット膜関連分子群の発現動態、分子間結 合様式の変化などについての研究を行ってきた。これまでの研究で、スリット膜関連分子 の細胞内輸送にシナプス小胞輸送機構が重要な役割を果たしていること、スリット膜の最 も重要な機能分子の 1 つであるネフリンを直接傷害することにより誘導される病態におい て、ARB が蛋白尿抑制効果を有していること、この抑制作用はネフリン mRNA 発現の低 下を抑制することによりもたらされることなどを報告してきた。また、ネフリンなどのス リット膜機能分子の発現は、アンジオテンシン 1 型受容体(AT1R)刺激により低下し、2 型受容体(AT2R)刺激ではその発現が増強することを、成熟ラットを用いた in vivo の系, 培養ポドサイトを用いた in vitro の系で確認し報告してきた。演者らは最近の研究で、微 小変化型ネフローゼ症候群モデルである puromycin aminonucleoside(PAN)腎症発症時 における腎糸球体局所におけるレニン―アンジオテンシン(RA)系関連分子の発現、同腎 症における ARB(イルベサルタン)の効果、作用機序についての検討を行った。本講演で は、これらの最近の検討結果を報告する。また、腎糸球体局所における RA 系の制御機構 についての最近の検討結果を紹介し、糖尿病性腎症における蛋白尿発症と局所 RA 系との 関係について考察したい。 33 イブニングセミナー ES1-1.肥満時代に求められる降圧剤の条件 宮崎大学 地域医療学講座1)、自治医科大学 内科学講座循環器内科学部門2) ○矢野裕一朗1,2) 肥満! メタボリックシンドロームや糖尿病などの代謝異常は高血圧を高率に合併し、また高 血圧を合併した代謝異常の予後は不良である。そのため降圧療法が必須であるが、その際 ① 24 時間にわたる強力な降圧 ② 代謝面に好影響を与える、以上の 2 点を念頭に置い て治療にあたる必要があると思われる。 近年、24 時間血圧の分野では夜間・早朝高血圧の抑制は勿論のこと、血圧測定値 1 回ごと の血圧の変動性を抑制する力、つまりはどの時間帯においてもぶれなく降圧できる強力な 降力が降圧剤に求められている。 また、代謝面においては RAS 阻害薬(ARB!ACE 阻害薬)の優れた効果が以前より注目 されているが、薬剤の構造の違いにより、その効果に差がある可能性が指摘されている。 上記①②を臨床レベルで明確に報告されている薬剤として、本発表ではテルミサルタンを とりあげ、肥満!メタボリックシンドロームや糖尿病などの代謝異常に対する本薬剤の有用 性について言及する。 34 ES1-2.PPARγ 転写活性を有する第二世代 ARB の臨床的有用性の検討 埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科 ○犬飼浩一 アンギオテンシン受容体拮抗薬のひとつであるテルミサルタンは、pleiotrophic 効果とし て、PPARγ 活性化作用を併せ持ち、第二世代 ARB と呼ばれる。PPARγ は、主に脂肪細胞 に発現している核内転写因子であるが、その薬理作用機序は複雑で、一般的に理解しにく いが、主に、次の 2 点に集約される。1)脂肪細胞の分化・増殖を促すことによって、脂肪 細胞の機能を向上させ、インスリン抵抗性を改善する。2)抗炎症作用によって、動脈硬化 進展を抑制する。テルミサルタンは、PPARγ の選択的活性化を促す臨床的なデータが多く 既に報告されているが、本研究においては、第一世代 ARB と比較して、上記の 2 点の作 用が臨床的に発揮されているかどうか検討した研究結果を報告する。 35 モーニングセミナー MS.糖尿病透析患者の血糖管理 ∼GA の有用性と日本透析医学会ガイドラインステートメント案について∼ 日本大学 医学部 腎臓高血圧内分泌内科 ○阿部雅紀 糖尿病透析患者における具体的な血糖コントロールの指標とその目標値についてはコンセ ンサスが得られていない状況である。透析患者では腎不全における糖代謝の特殊性が存在 するため、非透析患者と同様の管理や血糖コントロールの評価を行うことは困難である。 透析患者において HbA1c 値は貧血や赤血球造血刺激因子製剤の影響により低下するため、 血糖コントロール状態を正しく反映しない。一方、グリコアルブミン(GA)は透析患者に みられる赤血球寿命短縮の影響を受けないため、HbA1c よりも透析患者の血糖コントロー ル指標として優れている。糖尿病透析患者の血糖コントロール状態と生命予後または心血 管イベント発症とに関連性についてこれまでのエビデンスを報告するとともに、糖尿病透 析患者の血糖コントロール指標と、その目標値を達成するための手段について概説する。 36 一般演題 1.腎糸球体ポドサイト分泌蛋白 Sema3g の機能解析 千葉大学大学院医学研究院 千葉大学医学部附属病院 細胞治療内科学1)、 糖尿病・代謝・内分泌内科2)、杏林大学医学部解剖学教室3)、 4) カロリンスカ研究所 ○石橋亮一1)、竹本 稔2)、秋元義弘3)、藤本昌紀2)、小林一貴2)、大西俊一郎1)、 石川崇広1)、横手幸太郎1)、岡部恵見子1)、Christer Betsholtz4)、横手幸太郎1,2) 【背景】近年、糖尿病性腎症でポドサイトの役割が着目されている。我々はマイクロアレー を用いてゲノムワイドにポドサイト特異的遺伝子の同定を行い、Semaphorin 3g(Sema3g) を同定した。 【目的】Sema3g の腎糸球体における機能解析を本研究の目的とした。 【方法】 Sema3g ノックアウトマウス(KO)をホモロガスリコンビネーション法にて作成、腎組織 を光学顕微鏡、電子顕微鏡にて観察し、野生型と比較した。 【結果】KO は成長、発達、妊 孕性に異常を認めず、糸球体血管網、神経線維の発達、スリット膜関連タンパクの発現に 差を認めなかった。電子顕微鏡下では内皮の有窓化の減少、基底膜の肥厚、メサンギウム 細胞の増加、ポドサイトの足突起癒合が観察された。 【考察】Semaphorin は神経の発達や 心臓、血管系の発達に重要な役割を果たすことが報告されているが、Sema3g は糸球体の 構築に関与すると考えられる。 2.Metallothionein は 1 型糖尿病モデルラットの近位尿細管上皮細胞にお いて発現が増強する 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 ○橘 洋美、小川大輔、松下裕一、佐藤千景、和田 淳、喜多村真治、前島洋平、 四方賢一、槇野博史 Metallothionein(MT)は、システイン由来のチオール基に富む蛋白質であり、チオール基 がフリーラジカルを消去するため抗酸化作用を有する。また、MT は肝臓・腎臓・心臓等 さまざまな組織に発現することが知られているが、糖尿病性腎症における役割はまだ明ら かにされていない。そこで、ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットを用いて MT の発現検 討を行った。コントロールラットでは腎組織に MT の発現をほとんど認めないが、糖尿病 ラットでは近位尿細管上皮細胞に MT 発現が増強することを確認した。さらに、マウス培 養近位尿細管上皮細胞(mProx24)を用いた検討では、高糖濃度条件下において約 1.5 倍 の MT 発現を認めた。また、ビタミン E は高糖濃度条件下において用量依存的に MT 発現 を抑制した。これらの結果から、MT は糖尿病における酸化ストレスから腎臓を保護する 可能性が示唆された。 38 3.糖尿病性腎症尿細管細胞における Metallothionein の発現増強 旭川医科大学 内科学講座 病態代謝内科学分野 ○滝山由美、小林愛実、藤田征弘、本庄 潤、柳町剛司、橘内博哉、坂上英充、 安孫子亜津子、牧野雄一、羽田勝計 【目的】 2 型糖尿病性腎症における新規糖尿病性腎症関連分子発見を目的とした。 【方法】 ZDF ラット腎臓から、Laser Captured Microdissection にて採取した尿細管検体を用い、Af- fymetrix GeneChip により遺伝子発現を検討した。候補分子発現について、ヒト近位上皮 尿細管培養細胞(HRPTEC) 、ラット腎組織を用い検討した。【結果】1. 27,342 の遺伝子中、 47 遺伝子に 2 倍以上の発現差が認められた。Metallothionein(MT)は、糖尿病ラットに おいて 2.83 倍発現増強していた。2. HRPTEC における MT mRNA 発現に対し、TGF"β1 は抑制的に、低酸素暴露、インスリンは刺激的に作用した。3. MT は、ZDF ラット腎組織 において発現増強し、8OHdG、pimonidazole と共局在していた。 【結語】 MT の 2 型糖尿 病性腎症における抗酸化機構への関与が示唆された。 4.糖尿病発症遺伝子改変ブタによる結節性病変を有した腎病変の作出 明治大学 農学部 生命科学科 発生工学研究室1)、 明治大学バイオリソース研究国際クラスター2)、 筑波大学大学院 人間総合科学研究科(基礎医学系)3)、 東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科4) ○梅山一大1,2)、渡邊將人1)、松成ひとみ1)、中野和明1)、竹内靖浩1)、本田香澄1)、 長田道夫3)、横尾 隆2,4)、長嶋比呂志1,2) 【目的】ブタは生理・解剖学的特徴や病態の進行状況がヒトと類似していることから病態モデル作 出に適した大型動物として注目されている。糖尿病の高血糖状態がブタ腎臓にどの様な影響を及ぼ すのか検証した。 【方法】若年発症成人型糖尿病の原因遺伝子である変異型ヒト HNF"1a 遺伝子(P291fsinsC)を導 入したトランスジェニック(Tg)ブタを作出し、腎臓組織の形態変化を調べた。 【結果】Tg ブタは 200mg!dl 以上の随時血糖値を持続し、血中 1,5"AG 濃度が健常個体に比べて低 いことから恒常的な高血糖状態であり、糖尿病を発症していると判断された。腎臓病理組織像では、 ほかの動物モデルでは見られない結節性病変が 4.5 か月齢には、ほぼすべての糸球体で確認された。 【結論】これまでモデル動物において糖尿病性腎症に伴う結節性病変作出成功の報告はなく、結節 の形成メカニズムを知るのに適したモデルの作出に成功した。 39 5.マウスにおける果糖誘発性腎障害モデルの作製とその腎組織の特徴に ついて 滋賀医科大学内科学講座糖尿病腎臓神経内科1)、金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学2)、 旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野3) ○青山雅博1)、一色啓二1)、久米真司1)、荒木久澄1)、荒木信一1)、古家大祐2)、 羽田勝計3)、柏木厚典1)、宇津 貴1)、前川 聡1) 【背景】近年果糖過剰摂取が糖尿病を経ずに腎障害を引き起こすことがラットを用いた動物 実験で報告されている。マウスにおいては糖果糖誘発性腎障害の報告や系統間での違いを 検討した報告はない。 【目的】マウスにおける果糖誘発性腎障害の可能性と系統間の差異を検討する。 【方法】遺伝的背景が異なる 3 系統のマウス(B6、CBA、DBA!2)を各々通常食群と果糖 食群に分け 16 週間飼育した。腎の組織所見および炎症・線維化マーカーや果糖トランス ポーター GLUT5 の mRNA 発現を比較検討した。 【結果】DBA! 2 マウスのみ腎尿細管間質に炎症細胞集積と線維化を認め、Ngal、フィブロ ネクチン、コラーゲン I および GLUT5 の mRNA 発現が増加していた。 【結語】 果糖は糸球体病変ではなく尿細管間質障害を惹起した。また果糖負荷による腎 GLUT 5 発現の増強が果糖誘発性腎障害の病態生理に関与している可能性があると考えられた。 6.糖尿病性腎症における Mg 排泄亢進機序及び腎症進展との関連に関す る基礎的検討 埼玉医科大学総合医療センター 腎高血圧内科 ○高柳佳織、清水泰輔、岩下山連、田山陽資、朝倉受康、原 羽田野実、叶澤孝一、長谷川元、御手洗哲也 宏明、岡崎晋平、 DM に見られる低 Mg 血症は腎排泄亢進を主因としインスリン抵抗性成立にも関与する。 今回 16, 24, 34 週齡の OLETF(F) 、LETO(L)ラットの Mg 輸送分子発現変化と糸球体・ 間質病変の進展を経時的に検討した。F での血清 Mg 低値(F : 2.20±0.12, L : 2.60±0.18 mg ! dl) 、Mg 排泄分画高値(F : 1.34±0.11, L : 1.07±0.13%)、Mg channel である TRPM6 発現 低下(F : 70.1±4.8, L : 100.0±1.2%)は 16 週から見られ免疫染色でも同様であった。一方 ACR は経時的に増加し、16 週での糸球体肥大及び間質障害分子マーカー(MCP"1、type" 3 collagen)発現変化は明かではなかった。以上より TRPM6 発現低下を主因とする DM で の Mg 排泄亢進は腎症進展に伴うものではなく、高血糖その他による固有の変化と思われ た。 40 7.糖尿病腎症(DN)のアルブミン尿(AU)におけるアディポネクチン (APN)!APN 受容体(APR)1 埼玉医科大学総合医療センター ○叶澤孝一、朝倉受康、高柳佳織、田山陽資、岩下山連、岡崎晋平、羽田野実、 長谷川元、御手洗哲也 【背景】我々は、ヒト DN で APN、高分子量 APN の増加と AU の減少が関連することを 報告してきた。一方、APN のリガンドは APR1、2、T カドヘリン(TC)である。 【目的】APN!APR!TC 系の AU への関与を検討する。 【方法】2 型 DM モデル雄 OLETF(O)、O に 6 週間ピオグリタゾン 2.5 mg!kg を投与した P" O、対照 LETO(L)ラットの、34 週の APN, 尿中アルブミン排泄率(UAE)を測定し、 各腎組織における APN と APR1、T"C の局在を検討した。 【結果】34 週の APN は、O 群 1.3±0.2 と、L 群 1.8±0.1 より低く、P"O 群 2.6±0.3µg!ml と上昇。UAE は、O 群で上昇、P"O 群で抑えられた。腎組織では、APN は APR1 の局在 に一致し、APN! APR1 の染色性は P" O 群で O 群に比して亢進していた。 【結語】DN における AU に糸球体 APN!APR1 系が関与する可能性がある。 8.早期糖尿病性腎症・病態形成における内皮 NAD(P)H oxidase 活性 の役割 川崎医科大学 腎臓・高血圧内科学 ○長洲 一、佐藤 稔、城所研吾、佐々木環、柏原直樹 【目的】内皮特異的に NAD(P)H oxidase component である NOX2 を過剰発現させたマ ウス(NOXTg)を用い、糖尿病性腎症病態形成における内皮障害の意義を検討した。 【方 法・結果】NOXTg を自然発症糖尿病モデルである Akita と交配し(NOXTg! Akita) 、Akita マウス、野生型マウスの 3 群で比較した。6 週齢で NOXTg!Akita でのみアルブミン尿を 認めた。NOXTg!Akita では糸球体内複合糖質層 Glycocalyx 減少が顕著であった。電子顕 微鏡で NOXTg! Akita の内皮細胞活性化を認めた。糸球体濾過状態の解析では、NOXTg! Akita で分子量 4 万 Dextran の過剰濾過を認めた。【結論】内皮 NAD(P)H oxidase 活性 の上昇は糸球体内皮細胞において形態的及び機能的変化を惹起し糖尿病性腎症発症を促進 する。 41 9.若年肥満例における高血圧発症と腎臓内 Angiotensinogen、methylglyoxal の役割 東北大学高等教育開発推進センター1)、 東北大学大学院医学系研究科 内科病態学講座 腎・高血圧・内分泌学分野2)、 東北大学大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター 分子病態治療学分野3) ○小川 晋1)、森 建文2)、奈古一宏2)、岡村将史3)、千田美穂2)、坂本拓矢2)、伊藤貞嘉2) 目的:若年肥満例の血圧上昇と angiotensinogen(AGT),methylglyoxal(MG)の関連は不 明であり、これを明らかにする。方法:新入生 2335 名の body mass index(BMI) 、血圧、 尿中アルブミン (ACR)、Na、AGT, MG, チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)、C"peptide(CPR)排泄量を測定、各因子の関連を検討した。結果:BMI 増大につれて血圧、AGT, MG, TBARS, CPR は上昇、男子高度肥満例において ACR は増大。TBARS は血圧と相関、 MG は TBARS と相関した。CPR は血圧、TBARS と相関、AGT は血圧、TBARS、MG、 CPR と相関した。肥満男子例において血圧と Na 排泄量は相関した。考察:肥満例では MG 蓄積による酸化ストレス増大、AGT 増大が血圧上昇とインスリン抵抗性をきたす可能性が 考えられた。 10.尿プロテオーム解析による糖尿病性腎症のバイオマーカー探索 国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター ○佐藤恵美、加納圭子、久保田浩之、鏑木康志 臓器障害研究部 糖尿病性腎症を早期に診断可能な尿タンパク質バイオマーカーの探索を目的として、腎症 ステージの異なる患者由来の尿タンパク質を試料としてプロテオーム解析を行った。健常 者、正常アルブミン尿、微量アルブミン尿、マクロアルブミン尿の糖尿病患者のプール尿 4 群について、尿中に多量に含まれプロテオーム解析の妨げになるアルブミン!IgG を除去 した後に、安定同位体標識による定量法である iTRAQ 法にてラベルした尿タンパク質を LC" MS! MS 解析し、尿タンパク質を同定及び定量した。解析の結果、約千種類のタンパク 質が同定され、その中には既に報告されている腎症マーカータンパク質も含まれていた。 新たなバイオマーカー候補タンパク質も含め、変動のあったタンパク質についてはさらに MRM(Multiple Reaction Monitoring)解析による多検体での比較定量を行う予定である。 42 11.糖尿病腎症における運動療法の適応 ―自然発症 2 型糖尿病モデルマウ ス(KK−Ay)を用いて― 順天堂大学 腎臓内科学講座 ○石川祐史、合田朋仁、谷本光生、苑田祐二、表 敬介、古川雅子、山口早織、 村越真紀、萩原晋二、船曳和彦、富野康日己 背景 糖尿病腎症における運動療法の効果に関しては、十分に検討されていない。適度な 運動は、慢性炎症や酸化ストレスの改善を介し腎症を改善するとの仮説のもと、KK!A y マ ウスを用い検討を行った。 方法 KK!A y マウスを運動群(中度・軽度)と非運動群に分け検討した。尿中アルブミン・ NAG の他に糸球体上皮細胞数を計測した。また、免疫組織染色にて腎組織内 HIF!1・MCP ! 1 発現を検討し、ELISA で尿中 8! OHdG と血清 SOD を測定した。 結果 運動群は非運動群と比較して尿中アルブミン・NAG を減少させるとともに、糸球体 上皮細胞数減少の抑制を認めた。さらに、運動群では腎組織内 MCP!1 発現の減少や尿中 8 ! OHdG の低下と血清 SOD の上昇がみられた。しかし、中度運動群では、非運動群・軽度 運動群と比較すると腎組織内 HIF!1 発現の増強を認めた。 結語 適度な運動は、腎血流量低下をきたさず糖尿病腎症の進行を抑制した。 12.低蛋白食が 2 型糖尿病の糖代謝・腎機能に及ぼす影響について 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科環境医学1)、 鹿児島県立短期大学生活科学科食物栄養専攻2)、鹿児島大学農学部獣医学科病理学3) ○有村恵美1,2)、堀内正久1)、川口博明3)、竹内 亨1) 【背景と目的】 本邦の糖尿病食事療法は、高蛋白食(食品交換表全配分例:蛋白質エネルギー比率 18%)傾向である。 低蛋白食は、過食を抑制し、糖代謝・腎機能悪化を抑制する事を報告した(本研究会、2010)。今回、 低蛋白食が糖代謝・腎機能に及ぼす影響についてペアーフェッド実験で検討した。 【方法】 db マウス、対照マウスを用いて、蛋白質エネルギー比率 12%(L 群)、24%(H 群)の食餌(エネル ギー・脂質量一定)を与え、ペアーフェッド条件で 10 週間飼育した。 【結果】 db!L 群では、摂水量、FBS、尿糖、HbA1c、腎臓重量は、db!H 群より有意に低値、膵島 β 細胞比率 は有意に(p < 0.01)高値を示した。摂水量と HbA1c には高い正相関(r=0.92、p < 0.01)を認めた。 【考察】 糖尿病初期から、過食が起こりにくく糖代謝・腎機能悪化を抑制する低蛋白食は、膵臓・腎臓を保護 し、腎症発症予防に有用と考えられた。 43 13.AGEs−DNA アプタマーは糖尿病性糸球体障害を改善する 久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門1)、久留米大学医学部自然科学教室化学2)、 久留米大学医学部糖尿病性血管合併症病態・治療学講座3)、 金沢医科大学統合医学研究所・先端医療研究領域・糖化制御研究分野4)、 慶應義塾大学医学部化学教室5) ○甲斐田裕介1)、深水 圭1)、小原奈々1)、中山陽介1)、安藤亮太郎1)、竹内正義4)、 上田誠二1)、井上浩義5)、東元祐一郎2)、山岸昌一3)、奥田誠也1) AGEs を標的とした糖尿病性腎症治療薬は、その不十分な効果や副作用の面から臨床応用 に至っていない。近年、タンパク質に特異的に結合する核酸アプタマーが次世代分子標的 薬として注目されている。今回 AGEs と特異的に結合する DNA アプタマーを SELEX 法 にて作製し、糖尿病性腎症への効果を検討した。8 週令 2 型糖尿病マウス(KKAy!Ta)に 浸透圧ポンプを用いてコントロールアプタマー(Ctrl"A)・AGE アプタマー(AGE"A)を それぞれ 8 週間腹腔内に投与し、腎保護効果について検討した。AGE"A 投与は糖尿病由 来の腎機能低下、UAE を有意に改善した。さらに糖尿病群における糸球体内 AGE 過剰発 現は AGE" A により完全に抑制され、それらは糸球体肥大やメサンギウム基質増加、CTGF 発現、尿中 8"OHdG の改善を伴っていた。今後腎症を含む新規糖尿病性血管合併症治療薬 として臨床応用を試みる予定である。 14.Rho−kinase は糸球体への炎症細胞浸潤を制御することで糖尿病性腎 症の進展に関与する 東京慈恵会医科大学内科学講座 ○的場圭一郎、川浪大治、石澤 糖尿病・代謝・内分泌内科 将、金澤 康、横田太持、宇都宮一典 糖尿病性腎症の炎症病態における Rho" kinase の意義を明らかにするため、Rho"kinase 阻 害薬ファスジルによる糖尿病モデル動物への介入実験を行った。雄性 8 週齢の db!db マウ スに対してファスジルを 24 週間経口投与したところ、糸球体への炎症細胞浸潤、腎皮質に おけるケモカイン(MCP" 1、CSF" 1)の発現が有意に阻害された。マウスメサンギウム細 胞(MES" 13)を用いた検討では、TNF" α によって誘導される MCP"1、CSF"1 の発現、 培養上清に対する単球遊走が Rho"kinase 阻害薬 Y"27632 によって有意に抑制された。こ の際、p38 MAPK を介して NF"κB RelA!p65 の核内移行が阻害されることが示唆された。 Rho" kinase は糸球体への炎症細胞浸潤に関わる重要なメディエーターであり、糖尿病性腎 症の有効な治療標的の一つと考えられる。 44 15.Cholecystokinin は抗炎症作用を介して糖尿病による腎障害を抑制する 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 岡山大学病院 新医療研究開発センター2)、東京家政大学 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 ○宮本 1) 腎・免疫・内分泌代謝内科学1)、 1,2) 栄養学科3)、 慢性腎臓病対策・腎不全治療学講座4)、 地域医療人育成講座5)、 血液・腫瘍内科学6) 3) 聡 、四方賢一 、宮坂京子 、小寺 亮1,2)、廣田大昌1)、梶谷展生1)、 佐藤千景1,4)、片岡仁美1,5)、小川大輔1,4)、内田治仁1)、西森久和6)、槇野博史1) 【背景】糖尿病性腎症(DN)の腎では Cholecystokinin(CCK)の発現が増加し, CCK"1 receptor(1R),CCK "2 receptor(2R)double KO マウスでは wild type マウス(W)に比し糖尿病誘発後の腎障害が進展する. 【目的】DN における CCK の作用を検討する. 【方法】1)1R"KO の骨髄を W に移植したモデル(1R→W)と逆に移植したモデル(W→1R)に streptozotocin(STZ)で糖尿病を誘発し代謝データを比較した. 2)SD ラットに STZ で糖尿病を誘発後, sulfated CCK octapeptide(CCK"8S)を持続投与し, 2 か月間観察した. 3)単球遊走における CCK"8S の作用を検討した. 【結果】1)1R→W では W→1R に比しアルブミン尿が有意に増加した. 2)CCK"8S 投与群では, 腎における 炎症関連分子の発現が抑制された. 3)CCK"8S は CCL2 刺激による THP"1 細胞の遊走を抑制した. 【総括】CCK は抗炎症作用を介し, DN の進展を抑制することが示唆される. 16.糖尿病性腎症の予後に関する臨床病理学的検討 金沢大学附属病院 腎臓内科1)、金沢医療センター 腎・高血圧・膠原病内科2)、 金沢医科大学医学部 腎臓内科学3) ○清水美保1)、遠山直志1)、原 章規1)、北川清樹1)、古市賢吾1)、吉村光弘2)、 木田 寛2)、横山 仁3)、和田隆志1) 【目的】2 型糖尿病に伴う糖尿病性腎症の病態を,組織学的に診断された長期観察例から明らかにする. 【方法】腎生検により糖尿病性腎症と診断された 260 例を対象として,臨床・病理学的特徴と予後との 関連を検討した. 【結果】 1)正常アルブミン尿の腎機能低下(eGFR 60mL!分!1.73m2 未満)例は,腎機能保持例と比較して高齢 で,びまん性病変・間質病変・血管病変が高度であった. 2)顕性蛋白尿例は,腎機能が保持されていても糸球体病変,間質線維化,動脈硬化が高度であり,腎 機能低下例は間質病変がより高度であった. 3)顕性蛋白尿は,腎予後,心血管系疾患発症,生命予後に最も影響を及ぼす因子であった.一方,eGFR 低下の影響は,微量アルブミン尿例と顕性蛋白尿例の腎予後,ならびに顕性蛋白尿例の心血管系疾患 発症と生命予後において認められた. 【結語】顕性蛋白尿は糖尿病性腎症の予後に最も影響を及ぼす因子であった. 45 17.顕性腎症前期の糖尿病性腎症における腎生検所見と臨床指標、腎予後 との関連 東京医科大学 腎臓内科 ○岡田知也、松本 博、長岡由女、権藤麻子、中尾俊之 【目的】顕性糖尿病性腎症(DN)の腎生検所見と臨床指標、腎予後との関連について検討 した。 【方法】対象は顕性蛋白尿を有する CKDstage1、2 の DN 患者 32 名。組織スコア化(日腎 誌 1999 ; 41 : 475)をおこない、組織所見に関連する因子を重回帰分析で検討した。生検後 経過を追えた 24 名(観察期間 70±47 ヵ月)において、Cr 倍化または透析導入を end"point として腎予後に関連する因子を生存分析で検討した。 【結果】びまん性病変は生検時 UP、間質障害度、細動脈硝子化、間質障害度はびまん性病 変と関連。腎予後と関連を認めるのは経過中 UP(ハザード比 1.31, p=0.01)、間質障害度 (ハザード比 8.50, p=0.03) 。 【結論】びまん性病変は間質障害度と相関性を認めるが、腎予後に対する影響は間質障害度 の方が強いと考えられた。結節性病変の臨床的意義は不明であると考えられた。 18.腎病理所見から 2 型糖尿病性腎症の予後推定を行う 国立病院機構 千葉東病院 第1診療部内科・臨床研究センター腎病理研究部 ○今澤俊之、西村元伸、関 直人、小林克樹、祖山暁子、花岡美貴、首村守俊、 川口武彦、石橋亮一、北村博司 目的:2 型 DM 腎症の腎病理所見による予後推定。方法:過去 6 年当院腎生検にて DM 腎 症と診断かつ 1 年以上観察している 2 型 DM45 例の後ろ向き観察研究。5 つの病理評価項 目(結節型 or 瀰漫型、糸球体基底膜 2 重化、糸球体門部血管増生、糸球体内泡沫細胞、球 状硬化糸球体割合) は生検診断時評価。結果:ステップワイズ法で糸球体基底膜 2 重化(DC) が eGFR 低下速度(⊿ eGFR)予測因子として選択。DC 有無の 2 群間で、生検時の eGFR、 年齢、HbA1c、BMI に差はないが、DC 有群では⊿ eGFR(ml!min!y)が 10.9 と無群 3.2 に比し有意に速く、腎死・個体死をエンドポイントとした Log"rank 検定でも有意差あり (p<0.01) 。また eGFR と尿蛋白量による⊿ eGFR 予測モデル(R=0.454)に DC を加える と相関係数は高くなる(R=0.525)。結語:DC は予後推定に有用であり、その評価が望ま れる。 46 19.腎生検にて診断された糖尿病性腎症の 10 年腎予後の検討 虎の門病院腎センター1)、同病理部2) ○三瀬広記1)、乳原善文1)、遠藤彰子1)、住田圭一1)、平松里佳子1)、長谷川詠子1)、 山内真之1)、早見典子1)、諏訪部達也1)、澤 直樹1)、高市憲明1)、大橋健一2) (背景)糖尿病歴を有する症例は組織所見が確認されなくても糖尿病性腎症に分類されその 予後が報告されてきた。 (目的)腎生検にて糖尿病性腎症ありと診断された症例の 10 年後の長期的腎予後を,腎生 検所見と腎生検時での腎機能や尿蛋白量で検討した。 (方法)症例は 1985 年 3 月∼1997 年 5 月に腎生検を施行し糖尿病性腎症と診断された 101 例。腎生検時の平均年齢 50.3 歳(22" 75 歳)、男 70 女 31。 (結果)Cr 値は 1.64mg! dl(0.4" 10.5mg! dl)、CCr 58.7ml!min、eGFR 47.98ml!min!1.73m2、 Alb 3.50g! dl、HbA1c 9.28%(4.2"15.8%) 、尿蛋白量 2.81g!day、血圧 145.3!84.6mmHg、 糸球体腎 炎 の 合 併 は IgA 腎 症 が 最 多 で 18 例(16.7%) 、次 い で 膜 性 腎 炎(MN)が 8 例 (7.9%) 。腎予後を検討した。 20.ヒト糖尿病性腎症(以下 DN)における Nephroblastoma overexpressed 発現の検討 東海大学医学部腎内分泌代謝内科 ○佐藤弘樹、梅園朋也、萩原若菜、近藤真澄、宮武 宮内雅晃、豊田雅夫、鈴木大輔、深川雅史 範、栗山有祐、田中栄太郎、 【背景】Nephroblastoma overexpressed(NOV、CCN3:以下 NOV)は細胞外基質の産生 を抑制し抗線維化作用を担うことが知られている。今回ヒト DN 腎組織を用いて NOV の 発現について検討をおこなった。 【目的】腎生検及び腎摘出された DN 組織を用いて NOV の発現について検討した。 【対象と方法】当院で腎生検及び腎摘出にて得られた DN 組織を対象とし、in situ hybridization(ISH)法にて NOV mRNA の発現を観察し、組織障害度との関連について検討した。 【結果】NOV mRNA の発現は、DN の進行している群では低下している傾向がみられた。 また、NOV 発現と PAS 陽性面積や間質尿細管障害との検討では、有意な負の相関が認め られた。 【結論】ヒト DN において NOV の発現が糸球体硬化や間質尿細管障害等の組織障害に関連 している可能性が示唆された。 47 21.CNDP1 遺伝子多型と糖尿病腎症との関連 理化学研究所 ゲノム医科学研究センター 東京慈恵会医科大学 内分泌代謝疾患研究チーム1)、 腎臓高血圧内科2)、滋賀医科大学 内科学講座3)、 腎内分泌代謝内科 、東京女子医科大学 糖尿病センター5)、 川井クリニック6)、大阪市立総合医療センター 腎高血圧内科7) 東海大学医学部 4) ○倉重眞大1,2)、今村美奈子1)、荒木信一3)、鈴木大輔4)、馬場園哲也5)、川井紘一6)、 今西政仁7)、花岡一成2)、宇津 貴3)、内潟安子5)、前田士郎1) Carnosinase は 18 番染色体長椀の CNDP1 、CNDP2 によりコードされており、この領域と 糖尿病腎症との関連が複数の民族で報告されている。今回我々は CNDP 領域と糖尿病腎症 との関連を日本人 2 型糖尿病集団で検証した。2 型糖尿病 2,740 例(腎症群[顕性蛋白尿+ 末期腎不全]1,205 例、対照 1,535 例)において CNDP1 "CNDP2 領域内の 30SNPs と糖尿 病腎症との関連をロジスティック回帰解析で検討した。いずれの SNPs、ハプロタイプも糖 尿病腎症との関連は認められなかったが、性別によるサブ解析では女性において CNDP1 内の SNP と腎症との関連が認められ(rs12604675 ; P=0.005, OR=1.76) 、顕性蛋白尿群で その関連はより顕著であった(P=0.002, OR=2.18)。以上の結果から CNDP1 内の遺伝子 多型は女性において糖尿病腎症の疾患感受性に関与する事が示唆された。 22.末期腎不全に陥った糖尿病(DM)患者の血液透析導入時における NO 代謝異常の検討 大阪市立総合医療センター 腎臓・高血圧内科1)、久留米大学医学部 腎臓内科2)、 東京工業大学 生命理工学研究科3)、香川大学医学部 薬理学4) ○岸田真嗣1)、今西政仁1)、上田誠二2)、一瀬 宏3)、安岡達矢3)、西山 成4)、 柴田幹子1)、濱田真宏1)、北林千津子1)、森川 貴1)、小西啓夫1) 【目的】末期腎不全患者で、血液透析導入時の NO 代謝を検討した。【方法】DM 20 例と非 DM 20 例の 40 例、ARB 服用は各群 10 例で、血液透析を安定導入した症例を対象とした。 初回透析前後で、血中の NOS 阻害物質:ADMA、NOS の補酵素で還元型のテトラヒドロ ビオプテリン:BH4 と酸化型のジヒドロビオプテリン:BH2 を測定した。 【結果】透析前、 DM 例で有意に ADMA は高く、BH4 と BH4!BH2 は低いが、ARB による差はなかった。透 析により有意に ADMA は両群減少、BH4 は非 DM 例で減少、BH4!BH2 は両群増加し、ARB 服用 DM 例で BH4! BH2 が著明回復した。 【考察】DM 例は NO 代謝異常がより著明で、透 析導入による酸化ストレス軽減も NO 代謝の改善に繋がることが示唆された。ARB の効果 は今回の例数では透析導入前には見られなかったが、導入後 DM 例で NO 代謝異常をより 改善させる可能性が示唆された。 48 23.血清総ビリルビン値と糖尿病性腎症の関連:カットオフ値の検討 九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学1)、 九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点2) ○江頭絵里奈1)、井口登與志1,2)、園田紀之1,2)、前田泰孝1)、髙栁涼一1) ビリルビンは抗酸化作用、抗炎症作用をもつ。我々は体質性黄疸 Gilbert 症候群を併発する 糖尿病患者では、酸化ストレス指標低値とともに血管合併症が有意に低率であることを報 告した。今回は、糖尿病性腎症発症進展と血清ビリルビン値の相関および血清ビリルビン のカットオフ値を検討した。当科外来受診糖尿病患者 429 名を対象とし、ROC 曲線を用い て顕性蛋白尿、腎不全をアウトカムとするカットオフ値を算出、その値により群分けし、 オッズ比を算出した。顕性蛋白尿でのビリルビン値カットオフ値は 0.4 mg!dl、オッズ比は 高値群を 1 をとすると低値群で 8.6(95% 信頼区間 3.2"23.8)と著明に高値で、腎不全での カットオフ値 0.5 mg! dl、同様にオッズ比 8.3(3.8"18.6)であった。血清ビリルビン値低値 は糖尿病性腎症発症進展と密接に関連することが示唆された。 24.2 型糖尿病患者の腎症進展に対する血中ビリルビン値の影響 東京女子医科大学病院 糖尿病・代謝内科 ○東谷紀和子、馬場園哲也、青木絵麻、高木通乃、吉田直史、入村 花井 豪、田中伸枝、内潟安子 泉、坊内良太郎、 目的:抗酸化作用をもつことが知られているビリルビンの血中濃度と糖尿病性腎症進展と の関連を,前向きコホート研究によって明らかにする。 方法:対象は正常または微量アルブミン尿期の 2 型糖尿病患者 2,600 人(男性 59%、平均 年齢 59±13 歳)のうち,アルブミン尿コホート 1,915 人および eGFR コホート 1,898 人で あり,血中総ビリルビンとアルブミン尿の進展および年間 eGFR 低下率との関連を検討し た。 結果:微量アルブミン尿患者において,血中総ビリルビン低値が他の因子と独立してアル ブミン尿進展に関与したが(ハザード比 0.75 [!0.1 mg!dL]、p=0.002) ,正常アルブミン 尿患者では両者の関連はなかった。年間 eGFR 低下率とビリルビン値の間には,有意な関 連を認めなかった。 結論:微量アルブミン尿期の 2 型糖尿病患者において,血中ビリルビンの低値はアルブミ ン尿進展の危険因子である可能性が示唆された。 49 25.糖尿病性腎症における尿中メガリン排泄量の測定意義 新潟大学 第二内科1)、デンカ生研株式会社2)、新潟大学 腎臓内科4)、筑波大学 順天堂大学 1) 1,2) 保健管理センター3)、 腎臓内科5)、新潟大学 2) 機能分子医学講座6) 3) ○細島康宏 、小笠原真也 、黒澤寛之 、鈴木芳樹 、富野康日己4)、山縣邦弘5)、 成田一衛1)、平山吉朗2)、関根 盛2)、斎藤亮彦6) 【背景】メガリンは近位尿細管において糸球体濾過蛋白質の再吸収・代謝に関わる膜受容体 であるが、糖尿病性腎症の早期から機能異常を呈し、Alb 尿の出現に関係する。 【目的】尿 中メガリン排泄量の測定が糖尿病性腎症の早期診断や病態解析に有用であるか検討する。 【方法】2 型糖尿病患者 68 例の尿中メガリン(全長型および細胞外領域型)排泄量を ELISA 法で測定し、臨床パラメータとの関連性を解析した。 【結果】全長型メガリンは正常 Alb 尿 期から上昇し、病期の進行に伴って増加した。さらに eGFR の低下(<60) 、血中リン値の 上昇、Hb 値の減少と相関して増加した。細胞外領域型メガリンは正常・微量 Alb 尿期に 増加し、顕性 Alb 尿期で減少した。 【結論】2 型糖尿病患者において尿中全長型メガリン排 泄量は腎症の進行およびリン代謝異常・貧血などの病態と関連した。一方、細胞外領域型 メガリンは別個の機序による尿排泄機序が示唆された。 26.糖尿病性腎症における尿中 L 型脂肪酸結合蛋白(L−FABP)の臨床的 意義 聖マリアンナ医科大学 解剖学1)、聖マリアンナ医科大学 腎臓高血圧内科2)、 聖マリアンナ医科大学 代謝内分泌内科3) ○池森敦子1,2)、菅谷 健2)、安田 隆2)、太田明雄3)、川田剛裕3)、田中 逸3)、 木村健二郎2) 尿中 L! FABP は、尿細管障害マーカーとして保険収載された新しいバイオマーカーであ る。そこで、2 型糖尿病患者を対象に、糖尿病性腎症の進行における尿中 L!FABP の臨床 的意義を縦断的研究で検討した。対象は、2004 年に尿中 L!FABP 測定がされ、その後 4 年間腎機能の推移が観察しえた 2 型糖尿病患者(n=104)。尿中 L!FABP は、ELISA 法 (CMIC 株式会社) にて測定。糖尿病性腎症の進行は、糖尿病性腎症の病期進行と定義した。 糖尿病性腎症の進行した患者(n=47)は、非進行の患者(n=57)に比べ、観察開始時の 尿中 L! FABP が有意に高値であった。Cox 回帰分析では、尿中 L!FABP が高値である事 は、糖尿病性腎症の進行危険因子であった。さらに観察開始時、eGFR>60 以上の患者の サブ解析でも同様の結果であった。 【結論】尿中 L!FABP は、糖尿病性腎症の進行予測因 子である事が示された。 50 27.2 型糖尿病における腎機能の推移をより鋭敏に反映する指標 北里大学病院内分泌代謝内科 ○小川惇郎、守屋達美、林 哲範、大庭和人、若倉苑美、山岸貴洋、沖崎進一郎、 土屋晶子、七里眞義 【背景・目的】糖尿病患者の GFR の簡便かつ正確な測定と,経過観察に適するか否かの検 証は重要である.2 型糖尿病の eGFR と 100!S"CystatinC(CysC)の経時的変化を iohexol 静注法による糸球体濾過量(iGFR)と比較検討した. 【対象】iGFR を測定した 2 型糖尿病 121 例中 41 例(男性 25 例,52±11 才,病悩期間 14±9 年)に,平均 13 カ月後に 2 回目の iGFR の測定を行い,iGFR,eGFR, 100! S" CysC それぞれの月時当たりの変化量を比較検討 した. 【結果】 iGFR は,100!S"CysC に比し有意に低く,eGFR に比し有意に高かった.iGFR の変化量と eGFR の変化量には相関はなかったが,iGFR の変化量と 100!S"CysC の変化量 には有意の相関を認めた(r=0.48, p<0.01). 28.糖尿病患者における血管内皮機能と腎機能の関係についての検討 九州大学大学院医学研究院病態制御内科学1)、 九州大学先端融合医療レドックスナビ研究拠点2) ○前田泰孝1)、井口登與志1,2)、牧村啓晃1)、唐崎聡子1)、園田紀之1,2)、髙栁涼一1) 血管内皮機能の非侵襲的な評価法である反応性充血反応を利用した血流依存性血管拡張反 応検査(FMD)によって、糖尿病患者における慢性腎臓病(CKD)と血管内皮機能の関与 が示唆されるようになった。最近、FMD の欠点である再現性と交感神経系の影響を改善し たエンドパットが保険適応となった。今回我々は、糖尿病患者における血管内皮機能と腎 機能障害の関係についてエンドパットを用いて検討した。当科入院中の 52 名の糖尿病患者 の RHI(反応性充血指数)を測定し、各種血糖・合併症関連検査および動脈硬化指標との 相関を単回帰・重回帰分析で解析した。HbA1c、高感度 CPR、大血管障害および推算糸球 体濾過量(eGFR)と RHI の有意な相関を認めた。さらに重回帰分析で HbA1c や古典的動 脈硬化症危険因子で補正してもなお eGFR と RHI は有意な相関を認めた。糖尿病患者の血 管内皮機能異常が腎機能に及ぼす影響が示唆された。 51 29.糖尿病性腎症患者における糖尿病型と腎予後との関連 東京女子医科大学糖尿病センター ○田中伸枝、馬場園哲也、坊内良太郎、花井 豪、内潟安子 [目的] 糖尿病性腎症患者における腎予後に,糖尿病型間で相違があるかを明らかにする. [方法] 顕性アルブミン尿を有する糖尿病患者 383 名(1 型 30 名,2 型 353 名)を対象とした.1 次 エンドポイントは透析導入,2 次エンドポイントは透析導入あるいは死亡とし,糖尿病型間 の差を検討した. [結果] 平均 4.9±0.8 年の観察期間に 112 名(1 型 8 名,2 型 104 名)が透析導入に至り,13 名(1 型 1 名,2 型 12 名)が死亡した.1 次および 2 次エンドポイントの発症率は,いずれも両病 型間で差を認めなかった.Cox 比例ハザードモデルでは,年齢,男性,eGFR,HbA1c およ び尿中アルブミンが 1 次エンドポイントに対する独立した関連因子であったが,糖尿病型は 有意な因子ではなかった.2 次エンドポイントに対しても,糖尿病型間での差はなかった. [結語] 顕性アルブミン尿期以降の腎予後に対する糖尿病型間での差異はないと考えられた. 30.相対的アルドステロン高値は糖尿病性腎症のリスクファクターとなる のか? 済生会横浜市東部病院 糖尿病・内分泌内科1)、 慶應義塾大学医学部 腎臓・内分泌・代謝内科2) ○吉藤 歩1,2)、吉田瑛子1)、山下 馨1)、一城貴政1)、大内博美1)、比嘉眞理子1) 目的:血漿アルドステロンの高値は、動脈硬化や糖尿病性腎症の進展を促進するといわれ ている。我々は血漿アルドステロン、レニン!アルドステロン比(ARR)が 20 未満と正常 の 2 型糖尿病患者を対象に、相対的アルドステロン高値が糖尿病性腎症や動脈硬化の危険 因子となるかを検討した。 方法:ACE 阻害薬又は ARB を内服していない 2 型糖尿病患者 60 名を対象とし、ARR と UAE(尿中アルブミン量) 、頸動脈の IMT 、ABI 、baPWV との関係を検討した。又、イ ンスリン抵抗性の指標として TyG index を用いた。結果:ARR と 血圧、血糖、IMT、ABI、 baPWV、 TyG index には有意な相関はなかったが、ARR と UAE との間には有意な正相 関を認めた(r=0.29, p<0.05) 。結論:糖尿病性腎症 2 期までの患者では ARR 高値が尿中 アルブミン増加と相関した。 ARR は糖尿病性腎症の危険因子になる可能性がある。 52 31.糖尿病性腎症患者における腎症進行・心血管死・総死亡へのアルブミ ン尿・腎機能低下の影響のメタ解析 金沢大学附属病院腎臓内科 ○遠山直志、清水美保、原 章規、北川清樹、古市賢吾、和田隆志 【目的】糖尿病性腎症患者における腎症進行・心血管死・総死亡へのアルブミン尿・腎機能 低下の影響をメタ解析にて検討する. 【方法】MEDLINE,EMBASE,CINHAL を用いて,コホート研究論文を対象とした.主 なキーワードは糖尿病性腎症・腎機能・心血管障害・総死亡とした.スクリーニングは 2 名の査読者が独立して行った.相対危険(RR)の統合にはランダム効果モデルを用いた. 【結果】32 のコホート研究が選択された.それぞれのアウトカムに対して危険因子による 多変量調整後の RR を得た.いずれのアウトカムにおいても,微量アルブミン尿・顕性蛋 白尿は正常アルブミン尿群と比較してリスクの上昇を認めた.アルブミン尿に合併した腎 機能低下は,腎症進行においてリスクとなる傾向を認めた. 【結語】微量アルブミン尿,顕性蛋白尿,および腎機能低下は,糖尿病性腎症例において, 腎症進行・心血管死・総死亡に対するリスク因子となる. 32.地域医療における糖尿病性腎症進展予防の試み 弘前大学大学院医学研究科 地域医療学講座1)、弘前大学医学部附属病院 腎臓内科2)、 弘前大学大学院医学研究科 内分泌代謝内科学講座3) ○中村典雄1)、藤田 雄2)、島田美智子2)、森山貴子1,3)、松井 淳3)、奥村 謙2)、 福田眞作1) 【はじめに】糖尿病性腎症は透析導入の原疾患として最も多く、これを減らすことは透析患 者数の減少に繋がる可能性が高い。一方糖尿病性腎症は早期の多面的な介入により進展抑 制、寛解が得られることが明らかとなっていが、実際地域においてこれが十分実践されて いるとは考えにくい。そこで現状の把握と対策として以下の観察研究を立ち上げた。 【方法】本学周辺の地域(津軽地域)における糖尿病性腎症 II 期の観察研究を企画した。20 歳以上の 2 型糖尿病患者でアルブミン尿が 30∼300mg!gCr の患者を登録して 6 カ月毎に 3 年間経過観察するものである。なお登録時に事務局より現在の標準治療に関するコメント を付記することとした。なお本研究開始に先立ち糖尿病性腎症 II 期に関するアンケートも 施行した。 【結果とまとめ】本年 4 月より開始であり、今回は登録状況とアンケートの結果について紹 介したい。 53 33.2 型糖尿病患者における仮面高血圧は食塩摂取量と脈圧に関係する 滋賀医科大学 糖尿病・腎臓・神経内科 ○中尾恵子、荒木信一、一色啓二、荒木久澄、金 宇津 雅美、久米真司、前川 聡、 貴 【目的】2 型 DM 患者を対象とし仮面高血圧(MH)に関与する因子を解析した。 【対象と方法】当院外来に通院中の 2 型 DM 患者を対象とした。診察室血圧が 140!90mmHg 未満であった症例を抽出し、24 時間平均血圧値が 130!80mmHg 以上を MH 群、130!80 mmHg 未満をと非 MH 群と定義した。 【結果】解析対象は 193 例。薬物治療は 187 例に行われていた。MH 群は非 MH 群に比し、 高齢、eGFR 低値、24 時間平均脈圧(24hr"PP)高値、アルブミン尿が亢進していた。ま た 24 時間尿中 Na 排泄(UNaV)は MH 群に比し非 MH 群において高値であった。UNaV 高値および 24hr" PP 亢進が MH の独立した規定因子として同定された。【結論】Arterial stiffness の亢進した DM 患者において MH の存在を考慮する必要がある。また、DM 患者 に対し食塩制限が重要であることが明確にされた。 34.糖尿病性腎症患者アルブミン尿に対するピタバスタチンおよびプラバ スタチンの治療効果の比較検討 九州大学大学院医学研究院病態制御内科学1)、 九州大学先端融合医療レドックナビ研究拠点2)、北九州市立医療センター3)、 福岡和白病院4)、田仲医院5)、行橋中央病院6) ○横溝 久1)、井口登與志1,2)、木村佐和1)、松本雅裕3)、渡辺 淳4)、田仲秀明5)、 山内照章6)、前田泰孝1)、園田紀之1,2)、髙栁涼一1) 糖尿病性早期腎症または顕性腎症 IIIa 期(尿中アルブミン・クレアチニン比が 30"600mg! g)を合併した高コレステロール血症患者 83 例を対象に、ピタバスタチンを 12 ヶ月間投与 した際の尿中アルブミン・クレアチニン(alb!cr)比に対する効果を、無作為化非盲検並 行群間比較試験によりプラバスタチンナトリウム製剤と比較検討した。ピタバスタチン投 与は試験期間中尿中 alb! cr を有意に低下させる傾向を示し(Trend 検定 P=0.0094)、プラ バスタチン投与との比較でもこの低下効果は有意であった(Student t 検定 P=0.047)。ま た、LDL コレステロール低下作用も両者間に有意差を認めた(P<0.0001)。2 型糖尿病患 者早期または顕性 IIIa 期腎症患者に対するピタバスタチン投与は、強力な LDL コレステ ロール低下作用とともに尿中アルブミン低下作用が期待されることが示された。 54 35.ARB 増量と ARB 通常量に CCB 併用による降圧効果および糖尿病腎 症進展抑制効果の検討 埼玉医科大学 内分泌・糖尿病内科1)、さつき内科クリニック2)、山本クリニック3) ○片山茂裕1)、野口雄一1)、波多野雅子1)、大堀哲也1)、稲葉宗通1)、井上郁夫1)、 柳澤守文2)、山本仁至3)、粟田卓也1) 20∼80 歳の 2 型糖尿病患者で、オルメサルタン 20mg!日単独投与で血&ge ; 130mmHg!80 mmHg、UACR&ge ; : 30mg! g・Cr または血清クレアチニン&ge ; 1.0mg!dl(男)、&ge ; 0.8 mg! dl(女性)を対象とした。同意取得後、同薬を 40mg!日に増量投与群と同薬 20mg!日 に CCB アゼルニジピン 16mg! 日またはアムロジピン 5mg!日の追加投与群に封筒法で割り 付けた(SORT 試験:Saitama Olmesartan Randomized Trial to Prevent Progression of Diabetic Nephropathy)。2 ヶ月ごとに血圧・血糖を、前と 6 ヵ月後に UACR と酸化ストレス・ 炎症マーカーを測定した。150 例を目標に 2010 年 4 月から開始し、現在 38 例が登録され た。今回は SORT 試験のデザインと 6 ヶ月終了例のプレリミナリーな結果を報告する。 36.DPP−4 阻害薬(DPP−4I)による Na 排泄効果と血圧への影響 埼玉医科大学総合医療センター ○叶澤孝一、長谷川元、加藤 仁、松田昭彦、小川智也、三谷知之、岩永みずき、 原 宏明、小暮裕太、御手洗哲也 【背景】糖尿病(DM)では食塩感受性高血圧をきたし易い。一方、GLP"1 受容体は腎近位 尿細管に存在し、Na 利尿に働く。 【目的】DPP" 4I による Na 利尿や降圧効果を検討する。 【方法】 利尿薬投与のない DM 患者に、DPP" 4I を投与し、早朝第 1 尿、第 2 尿いずれかの、 投与前後各 2 回の FENa の平均値、家庭血圧(HBP) 、および診察室血圧(OBP)の平均 値を比較した。 【結果】降圧薬の変更がなかった 37 例において、FENa は、DPP"4I 投与前後で 0.39±0.93% 上昇した (p<0.05) 。一方、OBP および HBP の収縮期! 拡張期血圧の変化はそれぞれ、"2.6± 6.1! " 1.4±4.5、" 6.5±11.3! " 2.1±8.3mmHg であり、いずれの収縮期血圧で低下した(p<0.05, p<0.01) 。 【結論】DM 患者に対する DPP" 4I の投与により、尿中 Na 排泄が増加し収縮期血圧が下が る可能性がある。 55 37.糖尿病を合併した CKD(CKDD)の治療成績 椎貝クリニック1)、国分寺南口クリニック2) ○椎貝達夫1)、平沢 博1)、坂東梨恵1)、熊本初美1)、椎貝冨士子1)、篠原芳江1)、 1) 池田直子 、丸田利奈1)、栗山廉二郎2) 【目的】CKDD は尿蛋白排泄量(UPE)の多い例が多く、進行抑制が困難である。CKDD の治療成績を述べる。 【方法】57 人の CKDD を対象に、1.血圧調節、2.食事療法、3.抗蛋白尿療法、4.集学療法に より治療した。対象の年齢は 65.5±7.6 歳、男 43 人、女 14 人、CKD4 期・5 期は 39 人 (68.4%) だった。 【成績】UPE が前値の 1! 2 以下になった例(寛解例)は 24 人(42.1%) 、0.3g! 日未満に達 した例は 12 人(21.0%)だった。ACEI、ARB、CCB 投与に加え、抗レニン薬(DRI)は 18 人(31.6%)に投与され、投与による明らかな UPE 減少が 9 人(50%)でみられた。 【結論】CKDD の治療成績は以前に比べて改善している。これには DRI 等の役割が大きい。 56
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