中小企業情報局「先輩教えて」インタビューシリーズ エレクトロニクス産業を支える 世界トップクラスの はんだ生産技術 北京千住電子材料有限公司/千住金属工業株式会社 電気製品内部のプリント基板と電子部品類との接合に使われているはんだを生産する北京千住。世 界トップレベルの技術力で、ユーザーニーズに即応したマテリアルを生産。さまざまな条件・用途に きめ細かく対応してラインを充実させ、世界のエレクトロニクス産業、ハイテク分野を支える。 電子部品の実装に欠かせない金属材料、はん だ。電器製品ではんだを使用していないものを 探すのは不可能といわれるほど。ポータブル MD や携帯電話用など小さな基板に定められた 部品数を納めるため、高品質はんだ材料のニー ズが世界的に高まっている。 千住金属工業(東京都足立区)は、中国で展 開する、はんだ工場 3 カ所の生産能力を現在の 月間およそ 300 トンから、2005 年度中に 2 倍の 同 600 トンへ引き上げ、中国でのはんだ需要に 対応する計画を打ち出している。これを受けて 北京工場でも生産を 150 トンに拡大する必要性 があるが、北京千住電子材料有限公司の安藤博 総経理は「現在の設備と人数、工場面積では月 間 110 トンが精一杯」と指摘する。 北京千住では 4 年前から工場移転計画が持ち 上がっている。予定地も決まり、工場図面も完 成しているが、敷地内での道路建設問題や土地 所有問題などさまざまな課題が解決せず、実現 には至っていない。その理由として、利益確保 に固執する中方パートナー同士の確執や、ビジ ネスに対する日中間の考え方の違いが挙げられ る。 明確なビジョンと柔軟な経営で 中国リスクを適切に回避 工場移転の話が通知されたのは、計画立案か らかなり経ってからだった。日方が工場拡張を 提案した際、中方から「実は……」という感じ で、市政府から移転を迫られていることを打ち 明けられた。現住所は都市計画の一環として、 宅地地域に指定されていた。新型肺炎(SARS) や航空機事故、炭鉱事故の例に見られるように、 「言いにくいことは隠す」という中国的悪習が 表面化した形だ。移転が延びのびになっている ため、違法建築になりかねないと分かっていな がら、敷地内に工場や倉庫を増築せざるを得な い事態に陥っている。こういう状態が長引くと、 合弁相手との信頼関係は崩れていく。 自身の経験を踏まえて、安藤総経理は安易な 動機での中国進出の危険性を強調。 「特に合弁相 手の事業内容、経営状況をしっかりと把握する ことが重要」と語る。 「中国リスク」はこれだけではない。電力不 足が深刻化した 2004 年 7 月から 8 月にかけて、 北京市政府は市内に工場を持つ 6389 社を対象 に操業を 1 週間ずつ停止する「輪番休暇」を実 施した。24 時間 2 交代制でフル稼働でも需要に 追いつかない状態にある北京千住では、半年以 上経った今でも強制休暇の影響を引きずってい るという。 材料費の高騰も頭が痛い問題だ。同社が中国 国内で調達する原材料の中には国家統制品に指 定されているものもある。また中国経済の急成 長に伴い、原料の値上げが続いている。例えば 数年前には 1 トン当たり 3 万 8000∼3 万 9000 元だった錫(すず)価格は、国際相場にリンク する形で、この 2 年間で 9 万 8512 元まで上昇。 材料費の値上げ分全てを製品価格に転嫁するの は難しい。結局、2004 年は利益目標を下回る結 果に終わった。 安藤総経理は中国ビジネスで培った経験に基 づいた情報の分析を心がけ、先が読みにくい環 境下でも、はっきりとした経営方針を打ち出す ことで、大小さまざまな問題に適切に対処して いる。 工場移転実現で 更なる飛躍を目指す 安藤総経理が着任した 1999 年 9 月当時、北 京千住は生産量も少なく、累積赤字を抱えた状 態にあった。安藤総経理はまず、資金繰りの改 善に着手。回収期日に合わせて支払い日を設定 するなど、キャッシュフローの悪循環を全面的 に見直して、 2 カ月後には黒字転換を実現した。 事業拡大期はとかく運転資金が不足しがち。潤 沢な回転資金がなければ、取引量の増加は不可 能だ。 同時に、錫の購入量が月 3∼4 トン、日本の本 社から受注する来料加工分(*用語説明を参照) の生産が月 1 回程度と小規模だった生産体制を 建て直した。1 カ月かけて仕上げていた来料加 工分を 1 週間で完成させ日本に輸出。月 3∼4 回の発注ペースに変更するよう本社に要請した。 方向性とビジョンを鮮明にした工場運営を進 め、踊り場と拡大を交互に経験しつつ、今では 月間およそ 800 万元(約 1 億円)を売り上げる までに成長した。 順調な経営を支えるのは確かな技術力。母線 3 ミリのはんだを伸ばして生産する、同社の整列 巻きは 0.3 ミリという細さ。日本でも難しい技 術で、世界的にも北京と恵州にある同社系列の 工場でしか生産されていない。他の製品につい ても日本と同様またはそれ以上の品質が維持で きるよう厳しい作業基準を導入し、現在の不良 率は来料加工分が 6∼7%、自社製品が 2∼3%と 高い品質レベルを誇る。ラインに課長、課長助 理、係長など中国人スタッフを配置し、段階ご とに品質をチェックしている。 ストレス解消法は土曜のゴルフと日曜の晩酌。 「ウマ年の会」や「還暦の会」を設立し、北京 進出の日系各社トップとの情報交換に役立てて いる。揺れの大きいビジネス環境の中で「可能 性」を「現実」に変えるため、安藤総経理はビ ジョンをはっきりと主張する。机の上に広げら れた新工場の完成予想図は、将来に向けたロー ドマップでもある。 *用語説明 来料加工:外国企業が中国企業の加工業者に原 材料を無償で提供し、中国企業はこれを加工して 全ての数量を外資企業に輸出し、外資企業から加 工賃を受け取る。原材料の輸入、加工製品の輸出 はともに保税状態で行われる。実際の設備機器の 導入や労務管理、生産管理など、工場の運営実務 のほとんどを外資企業に任せることが多い。 新工場の完成予想図 ■資料■ 北京千住電子材料有限公司 住所: 北京市朝陽区酒仙橋駝房營甲 1 号(〒100016) 電話:(010)64389132∼34 FAX:(010)64389135 営業許可:1995 年 6 月 15 日 資本金:420 万米ドル 出資企業:日本側 51%:千住金属工業株式会社 中国側 49%:将台郷農工商総公司、 北京電子信息産業集団公司 出資形態:合弁企業 月間売上:およそ 800 万元(約 1 億円) 従業員数:130 人(うち日本人 3 人) ウェブサイト:http://www.senju-bsem.com 聞き手:日中グローバル経済通信・北京支局 手塚抄子 (中国日本商会委託)
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