第9章 プラスチックの高強度化(その2) 目一目.エンジニアリングプラスチックの 高強度化 (1)分子構造の変性による高強度化 (i)ポリアミド(PA) 表2に示すようなポリマーが開発されている2L3)。芳 香族ユニットとしては,モノマーの一つである酸成 分としてテレフタル酸やイソフタル酸を用いる。嵩 高い芳香族ユニットを分子骨格に導入することによ って,分子の熱運動が制約されるため,融点は高く なる。 半芳香族PAはPA6よりも60∼100。C,PA66よ PAはモノマーの組み合せによって,ポリマーの 多様な変性が可能となる点に特長があり,PAファ PAとしては,脂肪族鎖からなるPA6やPA66が りも20∼60。C高くなっている。また,脂肪族PAに 比較すると,半芳香族PAのアミド基濃度は低いた め吸水しにくいので,吸水による寸法や強さの変化 は少ないという利点もある。また,芳香族ユニット 一般的であるが,耐熱性や耐熱強さ向上のため,他 を導入すると,結晶化速度は遅く結晶化度も低い。 の脂肪族系PAや半芳香族PAが開発されている。 脂肪族PAで耐熱性を向上させたものとしては PA46がある。PA46は,ジアミノブタンとアジピ このため,非強化材料としては機械的強さは低い。 結晶核剤を加えかつガラス繊維などで強化すると, 荷重たわみ温度は著しく向上する。たとえば,「レニ ン酸の重縮合によるポリマーである。分子構造は, ー」(三菱エンジニアリングプラスチックス㈱)や「ア 表1に示すようにアミド結合の間に4個のメチレン 基が規則正しく配列した構造になっている。このた め,PA6やPA66に比較して結晶化速度が速く,結 ーレン」(三井化学㈱)の例では,ガラス繊維30%強 化では,非強化品に比較して130。C∼140。Cも上昇す ミリーとしては多くのポリマーが開発されている。 晶化度も高い。表2はPA46とPA6,PA66などと る。また,芳香族ユニットの比率が高くなるほど, 耐熱性は向上するが,溶融粘度が高くなるため成形 の融点や結晶化度の比較であるエ)。PA46の結晶化 しにくくなる。このため,ジアミン成分の炭素鎖を 度は43%であり,PA6やPA66よりも高い。また, 長くする方法がとられる。表2に示した半芳香族 PAのアミド基当たりの炭素数をアミド基濃度とい PAは,耐熱性と成形加工性のバランスから脂肪族 うが,アミド基濃度が高いと融点は高くなる傾向が 鎖と芳香族鎖の比率が適切に設計されている。 ある。PA46の融点は約290。Cであり,PA66より約 一方,脂肪族PAに対し,古くから全芳香族PAも 30。C,PA6より70℃高くなっている。ただ,アミド 開発されていた。全芳香PAは,脂肪族PAと区別 基濃度が高いと吸水率は高くなるので,吸水による するためアラミドと呼ばれていた。アラミドとして 寸法や強さの変化が大きいという難点 はある。 表1 PA46の基本物性1) 半芳香族PAとは,脂肪族PAの分 物性 融点 〔DSC〕 ガラス転移温度 〔Tortion Pendnlm〕 結晶化度 密 度 子骨格中に一部芳香族ユニットを導入 したPAである。半芳香PAとしては, 種類 *Seiichi HONMA,本問技術士事務所所長 〒254−0811神奈川県平塚市八重咲町19− ナイロン46 ナイロン66 290 78 43 1.18 262 66 33 ナイロン6 222 59 27 1.14 1.i4 23−202 VoL56,No.2 CC) CC) 〔DSC〕 (℃) 〔Gradient Column〕 (9/ml) 97 表2PAの分子構造と耐熱性2)3) 樹脂略称 商品名 分 類 DTUL 乃 分子構造 (。C) (メーカー名) 鑑 (℃) (L82Mpa) 非 GF強化 強化 30% PA6 一(NH(CH2)5COレ 50 220 63 190 PA66 {NE(CH2)6N正10C(CH2)4COレ 50 260 70 240 {NH(CH2)、NHOC(CH2)4COlr 78 290 220 285 佃C恥《}C恥㎜OC(C鳳COレ 75 243 96 228 90 290 125 320 135 312 脂 族ポリ アミド 肪 PA46 STANYL (DSMJSRエンジニアリングプラスチックス) PAMXD6 (三菱ガス化学) レノニー (三菱エンプラー強化品) PA6T/66 HT nylon (東レ) {NH(CH2)6NHOC(CH2)4COレ /軸(C聰H・CひC・か 一 280 PA6T/61 Arlen 舳(C恥畑・CゆC・レ 130 295 半 (三井化学) 芳 香 ポリア 族 PA6T/61/66 AmodeI (アモコエンジニアリングポリマーズ) 、ミ ド PA6T/M−5T ZytelHTN (DuPont) PA6T/6 UltramidT (BASF) {NH(CH2)6NHOC(CH2)4COレ /細(C恥畑・CゆC・が 一 佃(c葛畑チ冊/めく購 CH3 /イC・ひC・が 一 300 285 260 『 (GF35) {NH(CH2)5COレ /細(C嚥・CひC・ガ 一 298 110 255 308 135 273 PA9T Genestar 佃(C聯C・《}C・レ 125 (クラレ) 98 プラスチックス 大体136∼160℃の範囲で変化する。嵩高い基を有す るBPAと共重合すると,その成分比によって耐熱 性は変化する。表3に示すビスフェノールのような 分子骨格の場合,150∼215。Cの範囲で変化する。 はポリメタフェニレンアミド(MPIA)やポリパラフ ェニレンテレフタルアミド(PPTA)などがあるカ§, 溶融して成形することは困難であるので,主として 溶液紡糸により繊維として使用されている。 (ii)ポリカーボネート(pc) ビスフェノールA(BPA)から合成 表3 されたPCは透明性,耐衝撃性,耐熱性 PCの分子構造と耐熱2) などは優れているが,用途によっては, 商品名 さらに高い耐熱性が要求されることも 名 称 DTUL 分子構造 (℃, (一部推定) (メーカー名) 1.82MPa) ある。 PCの耐熱性を向上させる方法とし ては,分子骨格にイソフタル酸および CH3 モ・〈}中《》・C・》 ポリカーボネート 130 CH3 (または)テレフタル酸と共重合するこ とによって,ポリエステルカーボネー トに変性する方法とイソプロピリデン 結合のメチル基の代わりに,シクロヘ キサン環のような嵩高い基を導入した (Bayer Material BPAと共重合する方法がある。表3に Science) CH3 千0《}中一《}OCC《}COレ APEC それぞれの開発例を示す2)。両樹脂と CH3 CH3 /千・〈}ぐく}・C・》 136∼163 CH3 もPCと同様に透明な樹脂である。 ポリエステルカーボネートは,BPA とテレフタル酸およびイソフタル酸の 共重合比によって耐熱性は変化する。 テレフタル酸およびイソフタル酸成分 比率の高いほうが耐熱性は向上する。 APEC (Bayer Material モo《}礁o唇汁 152∼215 CH3CH3 Science) 表4 ポリエステルの分子構造と耐熱性2) 分子構造 無︵ 名 称 丁祖 ℃) (℃) GF30% DTUL (℃,1.82MPa) ポリブチレンテレフタレート 任・(CH・)・・C・《》C・㌃ 22 224 210 硬・(CH・)・・C・〈}C・レ 80 256 240 {・CH・運>CH・・C・《》一C・レ 95 290 260 85 239 224 124 266 (PBT) ポリェチレンテレフタレート (PET) ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレ ート (PCT) ポリブチレンナフタレート (PBN) ポリエチレンナフタレート (PEN) Vo1.56,No.2 咲・(C賊・cq⑤CO} イ。(C貼。C。◎〔》co器 一 99 (iii)飽和ポリエステル コールと重縮合すると,ポリエチレンナフタレート 飽和ポリエステル(以下ポリエステルと略す)は, (PEN)が得られる。ただ,PENは結晶化速度が遅 ジオール成分とジカルボン酸成分の重縮合によって 作られる。代表的なポリエステルとしてはポリエチ いのでエンプラとしての応用は困難である。 (iv)スーパーエンジニアリングプラスチック(ス レンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフ タレート(PBT)がある。PET,PBTとも,非強化 品では強度・剛性が低いが,ガラス繊維などを充填 することによって耐熱性は向上する。さらに,ジオ ール成分とジカルボン酸を選択することによって耐 熱性を向上することができる。表4にいくつかの例 を示す2)。 ジオール成分として1,杢シクロヘキサンジメタ ノールを用い,テレフタル酸と重縮合すると,ポリ ーパーエンプラ) 一連のスーパーエンプラは,いずれも耐熱強さの 向上をねらった材料である。ただ,PA,PC,POM, PBT,PETなどの汎用エンプラとは異なり,スーパ ーエンプラの場合には,ポリマーの分子骨格は必ず しも同一ではない。そのため,同じ分類のポリマー でもモノマーの組み合せによって特性にかなり差が ある。代表的なスーパーエンプラの分子構造,荷重 たわみ温度,引張強さを表5に示す。分子構造から みると,共通な特徴として分子骨格に芳香族ユニッ シクロヘキサンジメチルテレフタレート(PCT)が 得られる。ジオール成分として,シクロヘキサン環 を導入することによって,分子の熱運動が制約され るので耐熱性が向上する。ガラス繊維30%強化品の (一CONH一),イミド結合(一NH一),ケトン結合 (一CO一),エーテル結合(一〇一),エステル結合 荷重たわみ温度は,PBTよりも50。C,PETより (一〇CO一),スルホン結合(一SO、一),チオ結合(一S一) 20℃向上する。 などで結合している。 ジカルボン酸成分として2,6一ナフタレンジカル ボンを用い,ブチレングリコールと重縮合するとポ リブチレンナフタレート(PBN)が得られる。ガラ ス繊維30%強化品では,PBTよりも14。C高い値に なっている。その他,成形性,耐加水分解性,ガス 一連のスーパーエンプラを比較すると,つぎのこ バリア性,耐薬品性でもPBTよりも優れ,PBTの 上位グレードとして位置付けられる。ただ,PCTや トを有すること,結合としてはアミド結合 とが言える。 ①荷重たわみ温度と長期連続使用温度の両特性で 優れている樹脂はLCP(1型),PI,PAI,PEEK− GFなどである(図1)4)。 ②曲げ弾性率の温度特性については,PAI(GF), PES(GF)などは200。C以上まで安定した特性を示 半芳香族PAよりも耐熱性は低いので,SMT対応 している(図2)4) 電子部品には限界がある。ジカルボン酸成分として 2,6ナフタレンジカルボン酸を用い,エチレングリ ③引張強さでは,PAIはガラス繊維強化しなくて も,ポストキュアすると200MPaと驚異的に高い値 300 LCP(1型) PPS \ (GF40%)\、 PAI ㊥ PI の P晶K )200 遡 蝿 旺 埋 鰹 蝦 、、 、、 鵬. 甲 9 15 、、PEEK(CF30%) PEEKπGF PES ρ PEI 翻 PPS−GF じ 、、 、、 ヘロ ヤ リヤリ ヤ £10 ヘト鮒(GF) 9 L∈PI型 \ \\ 婁 「’一』 ・ 嶋く. 馨 罧100 略 粗 5 、 ・、尽・・、甲蜘 、 (GF) PEEぐ\ \・塾層鷺㍗ PES \ 、 0 0 100 200 300 荷重たわみ温度(L82MPa)(℃) 図1エンプラの荷重たわみ温度と長期連続使用温度4) 100 PAR 00 50 100 150 200 250 300 温度(℃) 図2エンプラの曲げ弾性率一温度特性4) プラスチックス 表5 スーパエンプラの分子構造と性能 種 類 分子構造 荷重たわみ温度 引張強さ (℃,L8MPa) (MPa) 非強化 ポリフェニレンスルフィド モ◎一・% (PPS) 135 強 化 〉260 (GF40) 非強化 67 強 化 137 (GF40) CH3 0 ポリサルホン 艇}÷一《}・《〉1一《}・髭 (PSU) 174 181 72 110 CH3 0 非晶ポリアリレート CH3 0 0 {・《}1《}かと◎凸圭 (PAR) 175 70 CH3 0 礁》・《}1掴 ポリエーテルイミド (PEI) O CH3 0 200 210 107 163 203 216 127 143 152 300 99 176 鱗・嚇 0 ポリエーテルスルホン (PES) 0 寂}1{〉・圭 0 ポリエーテルエーテルケトン (PEEK) 0 艇}ど《》・《}・㌃ 0 と ポリアミドイミド (PAI) R一暑一C窺C)N 280 一 200 一 II Ii O O π 熱可塑性ポリイミド 分子構造不詳 (PI) 238 一 94 } タイプ1 0 液晶ポリエステル {・〈}蝋・《}◎一味 エコノール 250∼350 (LCP) O O 275 } 150 (GF40) モとく}帳 Vo1.56,No.2 101 表5スーパエンプラの分子構造と性能(つづき) 荷重たわみ温度 (。C,L8MPa) 分子構造 種 類 非強化 強 化 非強化 強化 210 215 170 133 132 196 タイプ1 0 寂}軸{≧}鞠 180∼240 ベクトラ 230 液晶ポリエステル タイプ皿 (LCP) 0 {・《}と凝・C隅・㌃ ノバキュ 60∼120 0 0 レート 180 モど《}凸圭 CN ポリアリルエーテルニトリル 丘》・◎一・圭 (PEN) 165 330 H H ポリベンゾイミダソール 435 (PBI) 一 160 一 を示しており,軟鋼の値に近い値になる。 5項(ポリマーアロイ材料)で詳しく解説したので, ④疲労強さは,PEEKが抜群に高い値を示してい ⑤スーパーエンプラは,耐熱性が優れている反面, この項では,それぞれの単独ポリマーに対し,アロ イ化による改良についての考え方を中心に述べる。 (i)PA/ポリオレフィン系アロイ 成形性がよくないという難点がある。しかし,PPS やLCPは流動性が優れており,薄肉成形品の成形 PA6,PA66などは,吸湿状態では衝撃強さは高 いが,成形直後のような絶乾状態や0。C以下の低温 にも適している。 では衝撃強さは低い。このため,ポリオレフィン, (2)ポロマーアロイによる高強度化 EPDMなどとのポリマーアロイ材料が開発されて ポリマーアロイについては,本連載の第2章の2一 いる。PAとポリオレフィンの単純なブレンドでは, 両樹脂は相容しない。このため,ポリオレフィンと α,掛不飽和カルボン酸あるいはそのエステルを共 重合したものやカルボン酸あるいは酸無水物などを ポリオレフィンにグラフトしたものを用いる。これ らの変性ポリオレフィンのカルボキシル基または酸 無水物とポリアミドを混ぜると末端アミド基または 主鎖アミド基と反応する。このような変性ポリオレ る(図3)4) 100 90 80 盆70 皇6。 PEEK 、PES PBT、 R50 壇40 30 20 10 1010210310410510610フ108 繰り返し回数(N) 図3エンプラの疲労特性 102 フィンとPAの反応物は相容化剤として作用するこ とで,PAとポリオレフィンの相容性が得られる。ま た,EPDM(エチレンとプロピレンの共重合体にジ エン成分を共重合したゴム)に無水マレイン酸をグ ラフトさせたものとPAとをアロイ化する方法もあ る。 このように変性ポリオレフィンや変性EPDMと プラスチックス 高衝撃PAについては,最初にDuPont ム ザイテルST801 、9 ヤき ト埋 掌辮500 灘 輕( 蜜 ノ」\ ヒ 外)100 、 ザイテル408 社が「ザイテルST」の商品名で発表し, ヤ ト ザイテル101 そのモルホロジーについても詳細に報告 0 0.001 0.01 0.1 している。それによれば,分散粒子の径 ノッチ半径(mm) も影響するが,粒子の壁間距離には臨界 図4 「ザイテルST801」のノッチ 値があり,臨海値以下では延性破壊を示 先端アールとアイゾット衝撃値5) し,それ以上では脆性破壊を示すといわ れている。延性破壊させるための粒子壁 間距離の臨界値は0.3μmであり, この値以下では 100 延性破壊を示し,高い衝撃強さを示す(詳細は,本 ぷ 一←PET 連載の第2章2−5−1。衝撃強さの項を参照)。 図4は,高衝撃PAであるザイテルST801と PC,PAについて,ノッチ先端アールとアイゾット 衝撃強さの関係を示している5)。同図のように,ザイ 辮 鞄 −o−PBT 瞳50 掬 デ デ ル ル リ リ ン ン 響 500 50σT 一般コポリマ1 が島となって存在するモルホロジーを示 す。PA/ポリオレフィン系アロイによる 1000 謹 (試験片厚み:0.32cm) デルリン100ST 性ポリオレフィンあるいは変性EPDM 物 躯︵10GO PAをアロイ化すると,PAの海の中に変 500P 、 0 図5「デルリン100ST」の ノッチ付きアイゾット 衝撃値6〕(標準品との比 較) 100 承 )75 掛 一●一PET −o−PBT 鞄 嘩50 駒 慧 触 心 25 担 謹 公 租 テル801は,ノッチ先端アールの大きさに対する依 存性が小さく,かつ衝撃強さも大きいことが分かる。 ノッチアールの依存性が小さいことは,製晶設計に おいてもコーナアールなどの設計の自由度が大きい ことを意味する。 (ii)POM/ポリウレタンアロイ 0 20 40 0 20 40 ポリエステル含量(wt%) ポリエステル含量(wt%) (a)四塩化炭素中の (b) フユーエルD中の 曲げ強さ保持率 曲げ強さ保持率 図6PC/ポリエステルアロイの成分比と ソルベントクラック性7) POMの結晶化度は60∼70%と高いので,強度・剛 性,クリープ破壊強さなどが高いという特長がある。 (Hi)pc/ポリエステルアロイ 反面,衝撃強さは低く,ノッチのアール依存性も大 きい。ポリマーアロイによる衝撃強さの改良につい ては,POMは結晶特性からも分かるように分子間 の凝集性がきわめて強く,他のポリマーと相容しに くい性質がある。また,相手ポリマーとの界面の接 着性もよくないため,成形時の層剥離や物性の低下 PCは,透明性,耐衝撃性,寸法安定性などの優れ た特性があるが,耐薬品性,とりわけソルベントク ラック性がよくないという難点がある。このため, 有機溶剤,ガソリン,油などに触れる用途への使用 を起こしやすいという難しさがあ.る。 POMと比較的相容しやすく,・ポリマーアロイと して利用されている樹脂としては熱可塑ポリウレタ ン(TPU)がある。POM/TPUアロイについては, ドメインであるTPUの粒子径の制御が重要であ り,TPUの変性,マトリックスとドメインの粘度比 などについて工夫がされている。また,マトリック は制限される。 PCのソルベントクラック性を改良する方法とし ては,ポリエステル(PBT,PET)とのアロイ化が ある。PCとPBTまたはPETの2成分アロイで は,衝撃強さが得られないので,PC/(PBTまたは PET)/エラストマーの3成分系のアロイにする。 PC成分比率が高い系では,PCがマトリックスとな り,ポリエステルがドメインの相分離構造を示す。. ッチ付きアイゾットの比較である6)。同図からデル しかし,射出成形で,金型のキャビティを充填する ときにせん断力を受けると表皮層部分ではドメイン は繊維状に引き伸ばされた構造になる。成形品の段 階でこのような構造をとることによって,実用段階 でクラックの進展が防止されるためソルベントクラ ック性が改良されると推定される。 リン100STの衝撃強さの改良効果がわかる。 PC/ポリエステル(PET,PBT)アロイのソルベ スであるPOMの分子量も重要であり,高分子量 POMを使用し,TPUとの粘度比を大きくすると, ウエルド部の衝撃強さも高くなるという報告もあ る。図5は「デルリン100ST」と非アロイ品とのノ ントクラック性の評価結果を図6に示す7)。これら VoL56,No.2 103 孟︵ 表6 レマロイ(PPE/PAアロイ)の物性8} PPEIPA6 荷重たわみ温度 (℃) 曲げ弾性率(MPa) シャルピー衝撃強さ (kJ/m2) レマロイ レマロイ BX505 C61HL 絶乾(50%) 絶乾(50%) 160 185 0.45MPa 1.82MPa 曲げ強さ(MPa) ノッチなし ノッチ付き PPE/PA66 73 105 40 鉢、 ≧誉3・ 編20 ‡謹 応籔 外趣10 、 長繊維 強化 短繊維 強化 10 20 30 40 50 60 80(49) 104(71) 2,200(1,200) 2,500(1,700) NB(NB) NB(NB) 35(38) 13(45) ガラス繊維含有率(%) 図7長繊維強化PAと短繊維強化PAの ガラス含有率とアイゾット衝撃値9) は,PA6とPA66の両樹脂をアロイ ! 成分としたデータを示しているが, の図では,PCとポリエステルの成分比率を変えた ときの4塩化炭素およびヒューエルD中での曲げ 場合より約20∼30。C向上している。荷重たわみ温度 強さの保持率(液中強さ/空気中強さ)でソルベント では,160∼185。C(0・45MPa)であり,自動車外板 クラック性を評価している。同図からわかるように, のオンライン塗装の温度に耐える耐熱性を有してい る。また,同表には示されていないが,耐薬品性に おいても,マトリックスがPAであるので,PPE/ HIPS系アロイに比較すれば,ソルベントクラック PET,PBT成分の場合とも,比率が20%を超えると ソルベントクラック性が向上することがわかる。 (iv)PPE/PAアロイ ポリフェニレンエーテル(PPE)はガラス転移温 度が210℃と耐熱性は高いポリマーであるが,単独 ポリマーは成形時の流動性が悪いため,成形材料と しては応用範囲は狭い。幸い,PPEはPSとは相容 し,PSの比率とともに直線的にガラス転移点は変 化する特性がある。このため,要求される使用温度 に応じてPS(HIPS)の配合比率を調整したグレー ドが使用されている。当然,PPEの比率が高くなれ ば荷重たわみ温度は高くなるが,成形性との兼ね合 いから荷重たわみ温度としては150。C(L82MPa) 『あたりが上限である。これ以上に耐熱性を向上させ るためにPPE/PAアロイ材料が開発された。 PPEとPAは本来相容性はないので,相容化技術 が開発されている。たとえば,相容化剤としてスチ レンー無水マレイン酸コポリマーを加える方法,無 水マレイン酸のようにPPEと反応する基とPAと 反応する基を同時に兼ね備えた低分子化合物を用い る方法・PPEの分子末端をPAと反応する基であら かじめ変性する方法などがある。この相容化技術を べ一スに,相分離構造やエラストマーの分散粒子径 の最適化が行われる。このようにして得られた PA66の方がその66の耐熱性を反映して,PA6の 性は改良されている。 (3)複合強化による高強度化 (i)長繊維強化PA 長繊維強化の方法については,前号の長繊維強化 PPの項で述べた。PAも同様な方法で作られている ので,その方法はここでは割愛する。PAはガラス繊 維との接着性がよいため,補強効果が大きい。また, アミノシランカップリング剤などで表面処理したガ ラス繊維に対してPAの親和性はよいため,ガラス 繊維を高コンテントで充填できるという特長もあ る。 ガラス長繊維強化PAの衝撃強さ特性を図7に示 す9)。同図のように,長繊維強化PAは,ガラス含有 率の増加とともに衝撃強さは向上している。また, 図8は曲げ弾性率の温度特性である9)。短繊維強化 PAに比較すると,長繊維強化PAでは高温側にお いても比較的高い弾性率を保持することが分かる。 (ii)ナノコンポジットPA ナノコンポジットについては,第2章の2略項。 (ナノコンポジット材料)で基本的なことについては 撃改良効果を発現させると考えられる。 述べたので,ここでは特に触れない。ナノコンポジ ットの利点は,充填率として数%か高々5%程度で強 さが大幅に改良されることにある。ナノコンポジッ ト材料でもっとも実用化が進んでいるのはPAであ る。宇部興産㈱が市販しているUBE NYLON NCH 表6にPPE/PAアロイの物性を示す8)。同表で (1015C2)は,モンモリロナイトの添加率を2%とし PPE/PA/エラストマーアロイは海(PA)一島 (PPE)一湖(エラストマー)の独特の相分離構造を 示す。つまり,PPEが補強効果,エラストマーが衝 104 プラスチックス 表7「UBE NYLON NCH」の物性10) £18 項 目 915 規格 1015C2 一般ナイロン6 絶乾時 実使用時 絶乾時 実使用時 辮 越12 慧9 50%ガラス長繊維強化 比 重 伸 び(%) ・匿 6 50%ガラス 短繊維強化 10 40 80 120 160 温 度(℃) 曲げ強さ(MPa) 曲げ弾性率(GPa) アイゾット衝撃強さ(J/m) 荷重たわみ温度ec) 図8 長繊維強化PAと短繊維強化 PAの曲げ弾性率一温度特性9) D792 D638 一 D638 一 D790 一 D790 』 ノッチ付き D256 0.46MPa D648 1.82MPa D648 『 引張強さ(MPa) 公 3 条 件 1.15 89 75 136 3.52 49 一 49 1.14 79 一 41 〉200 100 >200 54 108 39 1.30 294 2.79 64 0.76 490 197 140 『 一 180 75 一 一 〈参考文献〉 ていると言われるが,この程度の添加率でも強度特 性は向上する。表7は,1015C2と通常のPA6との 1)福本修編,ポリアミド樹脂ハンドブック,435,日刊工業新 物性比較である10)。同表から分かるように,PA6に 聞社(1988) 比較して,引張りや曲げ強さ,曲げ弾性率,荷重た わみ温度などは全般に向上している。ただ,引張伸 びは小さく,また衝撃強さも低下しており,硬く脆 くなる傾向がうかがえる。最近では,ナノコンポジ ット材料に,さらにガラス繊維や衝撃改良剤を加え た材料も開発されている。 2)井上俊英,プラスチックスエージ,Apr,p.132/137 (1995) 3)柏村次史,プラスチックスエージ,No玩,p.123/128 (2000) 4)エンプラの本,13,15,19,工業用熱可塑性樹脂技術連合会 5)松島哲也,プラスチックス,35(3),68(1984) 6)デュポン社,デルリン技術資料 7)島岡悟郎,プラスチックス,41(10),93(1990) これまで17回にわたって,プラスチックの実用強 さと耐久性について解説してきたが,本号をもって 解説は終わりとする。次号からは,Q&Aの形式で プラスチックの強さについてわかりやすく整理して 全体のまとめとする予定である。 8)三菱エンジニアリングプラスチックス㈱「レマロイ」カ タログ 9)福本修編,ポリアミド樹脂ハンドブック,200,日刊工業新 聞社(1988) 10)加藤誠,プラスチック機能性高分子材料事典「第5章 複合系高分子材料」,588(2004) (以下,次号に続く) Vo1.56,No.2 105
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