3次元気温・風分布観測用フラッシュライダーの提案

3次元気温・風分布観測用フラッシュライダーの提案
長澤 親生, 阿保 真, 柴田 泰邦
首都大学東京 システムデザイン研究科 〒191-0065 東京都日野市旭が丘 6-6
Proposal of a Flash Lidar for 3D Temperature and Wind Distribution Observations
Chikao NAGASAWA, Makoto ABO, and Yasukuni SHIBATA
Tokyo Metropolitan Univ., 6-6 Asahigaoka, Hino, Tokyo 191-0065
Abstract: A new flash lidar system for observations of three-dimensional temperature and wind distribution in the
atmosphere is proposed. This system uses a flash lidar technique with an eye-safe pulsed laser and an array sensor.
Temperature broadened and Doppler shifted spectrum of receiving lidar signal is obtained by the coherent detection
technique.
Key Words: flash lidar, atmospheric temperature, wind, eye-safe, coherent detection
1. は じ め に
大気科学や気候学および気象予測のための基
本 的 な 観 測 要 素 と し て 、気 温 と 風 の 鉛 直 分 布 は 極
め て 重 要 な デ ー タ で あ る 。現 在 行 わ れ て い る ラ ジ
オ ゾ ン デ に よ る 気 温 と 風 の 観 測 は 、観 測 の 無 人 化
が 不 可 能 な た め 、無 人 化 が 可 能 で 頻 度 の 高 い 観 測
も可能な小型気温分布観測ライダーの実用化が
期待されている。
一 方 、温 度 分 布 を 測 る 装 置 と し て 熱 赤 外 線 イ メ
ージングセンサを利用したサーモグラフィが実
用 化 さ れ て い る が 、こ れ は 物 体 表 面 の 温 度 し か 測
定 で き ず 空 気 の 温 度( 気 温 )は 測 定 で き な い 。例
えば地面の温度は分かっても実際に歩いている
人間が感じる気温は測定できない。
我々はこれまで気象観測の観点から気温の鉛
直分布計測に重点をおいて研究を進めていたが、
日射の当たる地表付近の気温の空間分布は垂直
方向だけでなく水平方向にも大きな違いがあり、
また気温の分布は風の影響を受けることから風
の場の情報も必要である。
大気分子による散乱光のスペクトルはレイリ
ーブリルアン散乱と呼ばれる主に分子の熱運動
の ド ッ プ ラ ー 広 が り を 持 っ て い る 。こ の ス ペ ク ト
ル の 広 が り が 主 に 温 度 に よ っ て 変 化 す る た め 、こ
の拡がりと風によるドップラーシフトを同時に
測 定 す る こ と に よ り 、気 温 と 風 の 同 時 測 定 が 可 能
と な る 。散 乱 ス ペ ク ト ル の 広 が り と ド ッ プ ラ ー シ
フ ト は 、コ ヒ ー レ ン ト 検 波 に よ り 同 時 計 測 定 が 可
能 で あ る 。こ の 原 理 と フ ラ ッ シ ュ ラ イ ダ ー 技 術 を
組 み 合 わ せ た 、新 し い 3 次 元 気 温・風 分 布 の 同 時
観測が可能なライダーシステムを提案する。
2. フ ラ ッ シ ュ ラ イ ダ ー
近 年 レ ー ザ を 使 っ た 3 次 元 計 測 装 置 と し て 、地
形 や 建 造 物 の 形 状 測 定 装 置 、自 動 車 の 自 動 運 転 用
障 害 物 セ ン サ 、月 や 惑 星 へ の 着 陸 機 用 セ ン サ と し
て フ ラ ッ シ ュ ラ イ ダ ー が 開 発 、製 品 化 さ れ て い る 。
フ ラ ッ シ ュ ラ イ ダ ー は Fig.1 の 原 理 図 に 示 す よ う
に 、カ メ ラ で フ ラ ッ シ ュ 撮 影 を す る 要 領 で 、広 げ
た パ ル ス レ ー ザ 光 を 物 体 に 照 射 し 、CMOS カ メ ラ
な ど ア レ イ 状 素 子 で 反 射 光 の 到 達 時 間( TOF:Time
Of Flight) を 測 定 す る こ と に よ り 物 体 の 各 点 ま で
の距離すなわち物体の形状を測定するものであ
る 1) 。 こ れ は 、 従 来 の ス キ ャ ン 方 式 の ラ イ ダ ー に
比 べ て「 瞬 時 」に 情 報 が 得 ら れ る と い う 特 徴 が あ
る。
Fig.1 Principle of the flash lidar.
今回提案する気温と風の3次元分布計測用フ
ラ ッ シ ュ ラ イ ダ ー は 、フ ラ ッ シ ュ ラ イ ダ ー の 原 理
を 拡 張 し 、単 な る タ ー ゲ ッ ト の 距 離 測 定 で は な く
レーザ光が照射された空間の気温と風の分布を
コヒーレント検波と赤外パルスレーザ技術によ
り 同 時 に リ ア ル タ イ ム 測 定 し 、あ た か も サ ー モ グ
ラ フ ィ の よ う に「 瞬 時 」に 3 次 元 的 に 気 温 と 風 の
空間分布測定を目指す。
本 装 置 は 従 来 の ス キ ャ ン 方 式 と 異 な り 、カ メ ラ
でフラッシュ撮影をする要領で広げたパルスレ
ーザ光を空中に照射しアレイ状検出器で散乱光
ス ペ ク ト ル を 測 定 す る こ と に よ り 、短 時 間 で 気 温
と風の3次元構造の測定が可能となるとともに、
従 来 の ラ イ ダ ー に 比 べ て 小 型 化 、調 整 の 容 易 化 が
期待できる。
ー と し て 空 間 分 解 測 定 を す る た め に は 、CMOS や
CCD 素 子 で は 数 十 MHz の 周 波 数 成 分 ま で の 光 ビ
ー ト 信 号 検 出 が 困 難 で あ る 。 そ こ で 、 Fig.3 の よ
う に 、フ ァ イ バ ア レ イ を ア レ イ 受 光 素 子 の 代 わ り
に 受 信 望 遠 鏡 の 焦 点 面 に 配 置 し 、そ の 各 フ ァ イ バ
出力に対して上記の光コヒーレント検波を行う
こ と に よ り 実 現 す る 。 1km 先 の 空 間 分 解 能 100m
と す る と 、10×10 の フ ァ イ バ ア レ イ を 用 い れ ば 実
現可能である。
3.仕様とニーズ
測定対象は屋内屋外を問わず空間の気温及び
風 の 分 布 で あ る 。 目 標 仕 様 は 気 温 測 定 精 度 1K 以
下 、 風 の 測 定 精 度 1m/s 以 下 、 測 定 可 能 最 大 距 離
1km、奥 行 き 方 向 の 距 離 分 解 能 50〜 100m、視 野 角
50 度 、1km 先 の 空 間 分 解 能 100m、500m 先 の 空 間
分 解 能 50m 、測 定 時 間 1 分 で あ る 。距 離 分 解 能 ・
空間分解能と時間分解能はトレードオフの関係
がある。また、測定可能最大距離を限定すれば、
距 離 分 解 能・空 間 分 解 能 と 時 間 分 解 能 を 向 上 さ せ
る事が可能である。
ニ ー ズ と し て は 、屋 上 緑 化 な ど の ヒ ー ト ア イ ラ
ン ド 対 策 効 果 の 評 価 、竜 巻 や 局 地 的 大 雨 な ど 局 地
的 気 象 現 象 の 発 生 予 測 の 基 礎 デ ー タ 取 得 、火 口 付
近の噴気温度と周辺風モニターによる火山噴火
監 視・予 測 研 究 、体 育 館 や ホ ー ル な ど の 室 内 温 度
分 布 測 定 に よ る 空 調 設 計・管 理 、農 地 や 森 林 に お
ける農産物生産管理などが想定される。
4.測定装置の技術
4.1 コ ヒ ー レ ン ト 検 波
Fig.2 に 示 す よ う に 大 気 散 乱 光 に 対 し 高 速 光 デ
ィ テ ク タ ー を 用 い 、時 間 領 域 で 広 帯 域 の ビ ー ト 信
号 を 検 出 し 、マ イ ク ロ 波 周 波 数 変 換 を 行 う こ と に
よ り 、 数 十 MHz の 周 波 数 分 解 能 の 光 散 乱 ス ペ ク
ト ル の 検 出 を 行 う 2) 。 信 号 処 理 の フ ィ ッ テ ィ ン グ
技 術 を 組 み 合 わ せ て 、精 度 の 良 い 気 温 と 風 の 同 時
計測を可能にする。
Fig.3 Schematics of the array detection system using
a 2D fiber array.
4.3 送 信 レ ー ザ
送 信 レ ー ザ の 波 長 は 、光 コ ヒ ー レ ン ト 検 波 の 効
率 と 、 目 へ の 安 全 性 を 考 慮 し 1.5μ m と す る 。 レ
ーザは広げて照射するためある程度の出力が必
要 と な る 。ま た コ ヒ ー レ ン ト 検 波 を 行 う た め に は
送信レーザのスペクトルが狭帯域である必要が
あ る 。一 方 、レ ー ザ の 絶 対 波 長 の 制 御 は 必 要 と し
な い 。レ ー ザ 光 源 の 候 補 と し て 、す で に CO 2 濃 度
測 定 ラ イ ダ ー 用 と し て 開 発 し て い る YAG レ ー ザ
励 起 OPG レ ー ザ を よ り コ ン パ ク ト に す る ア プ ロ
ー チ と 、出 力 は 高 く な い が 繰 り 返 し 周 波 数 が 高 い
ファイバレーザを複数用いるアプローチの両方
を検討している。
5.おわりに
フラッシュライダーはコンパクトで面倒な調
整 が 不 要 な シ ス テ ム と な り 得 る の で 、コ ス ト を 下
げ る こ と が 出 来 れ ば 、多 数 の ラ イ ダ ー を ネ ッ ト ワ
ー ク 状 に 配 置 す る こ と に よ り 、さ ら に 広 い 空 間 の
大 気 の 3 次 元 構 造 を 捉 え る こ と が 可 能 と な る 。現
在プロトタイプの試作に向けた準備を進めてい
る。
参考文献
Fig.2 Block diagram of coherent detection system.
4.2 ア レ イ 受 信 光 学 系
フラッシュライダー方式を実現するためには
ア レ イ 状 の 受 光 素 子 が 必 要 で あ る 。し か し ラ イ ダ
1)O. Elkhalili, et al.: IEEE J. Solid-State Circuits 39,.
(2004) 1208.
2) C. F. Abari et al.: EPJ Web of Conferences 119,
25005 (2016).