講演要旨 「恐竜の世界へようこそ」 福井県立恐竜博物館副館長 東 洋一 現在の中国とモンゴルの国境地帯には、ゴビ砂漠が広がっています。ここは現在、荒涼 とした自然環境で、生物が生活するには過酷な条件といえます。しかし、一億年ほど前に は南から温暖で湿潤な空気が流れこみ、川が流れ、湖沼が散在し、緑豊かな森林も存在し ていました。そして、そのような環境の中で恐竜を初めとした動物たちの営みが続けられ ていました。 東先生の講演は、このような太古における動物たちの活動記録を、化石の発掘を通して 私たちにわかりやすく説明していただきました。 アジアの本格的な恐竜化石研究は、1920年代初頭におけるアメリカ自然史博物館の 調査から始まりました。ロイ・チャップマン・アンドリュースを隊長とするこの調査隊は、 ゴビ砂漠一帯で活動し、恐竜の卵や骨格を発見しました。それ以降、ソビエトやポーラン ドなどの調査隊もゴビ砂漠で多数の恐竜化石を発掘しました。これらの発掘調査で、アジ アの恐竜化石は世界の恐竜研究者にその重要性が認識されるようになりました。近年も、 カナダ、ベルギー、日本などと中国・モンゴルとの共同調査が相次いで実施され多数の恐 竜骨格化石の発見と共に恐竜についての新知見がもたらされました。 このような恐竜発掘の成果として、中国やモンゴルからの恐竜化石は、ジュラ紀初めの 時代から白亜紀後期の恐竜絶滅期まで、長期間で多様な恐竜の存在が明らかになり、世界 でも有数な恐竜化石産地として認知されるようになりました。 最近でも、恐竜研究の上でとても重要な発見が中国からもたらされました。中国東北地 方の遼寧省の白亜紀層から、「羽毛」を持った肉食恐竜や多量の鳥類化石の発見が続いて います。一連の発見は、羽毛を獲得した小型肉食恐竜が次第に鳥類へと進化する過程を示 しており、鳥類の祖先は、肉食恐竜であると考えられるようになりました。 今回は、恐竜化石研究でも特に恐竜足跡化石に焦点を絞って、足跡化石から恐竜のどの ような行動が理解できるかについてお話しがありました。中国の甘粛省では、2000年 前から大がかりな恐竜足跡化石発掘調査が行われており、ここでは、多くの肉食恐竜や草 食恐竜が移動した痕跡が残されています。今回の講演は、この恐竜の足跡化石から当時の 環境や恐竜たちのを行動を考察するとても興味深いものでした。 こうした調査で発見され化石の中に、巨大な足跡化石 がありました。この化石を基に恐竜の体長を推定すると 今まで考えられていた恐竜のサイズを大きく上回るもの となります。この巨大足跡化石を、中程度の恐竜が湿地 で足を滑らせ、踏み換えながら方向転換しているときに できたものであると解明していく先生の姿に感銘を受け ました。
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