債権流動化と債権譲渡の第三者対抗要件

債権流動化と債権譲渡の第三者対抗要件
東京大学大学院修士課程民刑事法専攻
経済法務専修コース
目 次
Ⅰはじめに
Ⅱ米国のUCC登録(filing)制度
1概説
2適用範囲
3第三者対抗要件の具備方法
4登録制度
(1)ファイナンシングステートメントの記載事項
(2)登録の仕組み
(3)登録の失効、継続、解除、変更および訂正
(4)競合する担保権の間の優劣決定基準
(5)担保権者と債務者の破産管財人との間の優劣
Ⅲ日本の債権譲渡登記制度
1概説
2適用範囲
3民法との関係
4特定債権法との関係
5債権譲渡登記制度
(1)概説
(2)登記申請書等の記載事項
(3)債権譲渡登記の申請および処理等
(4)証明書の交付及び申請書類の閲覧
(5)債権譲渡登記以外の登記
(6)競合する譲受人の間の優劣判断基準
(7)譲受人と譲渡人の破産管財人との間の優劣
Ⅳ債権流動化と中国法の対応
1債権譲渡に関する現行法
2現行法の問題点
3第三者対抗要件制度の創設
(1)第三者対抗要件の本質
(2)日米の法制度の中国法への示唆
スー・ウェン
(3)検討点
(4)その他
Ⅴおわりに
Ⅰ はじめに
近年、中国では、債権流動化と呼ばれる新たな金融取引手法への関心が高まっている。債
権流動化とは、一般には、資金調達をしようとする企業が、安定したキャッシュ・フローを
定期的に生み出す良質の債権を多数プールして資本市場で投資家に販売などして資金調達
をする方法のことを言う。住宅ローン債権、自動車ローン債権等の消費者向け貸付債権が流
動化の対象となる場合が多い(注1)。債権流動化の典型的な方法としては、資金調達を望む企
業(「オリジネーター」と呼ばれる)が、自己の保有する債権(通常は複数、それも多数の
債権である場合が多い)を特別目的機関(Special Purpose Vehicle、以下「SPV」という。
特別目的会社(SPC)、信託、組合等の形態をとる)に移転し、かかる債権の信用力のみを
裏付けとしてSPVが証券(資産担保証券(ABS)―Asset Backed Securities。社債、CP、信託受
益証券等の形態)を発行し、投資家に販売するという仕組みがとられる。そこで、この仕組
みが「アセット・バック」の名に値するためには、たとえ、譲渡人たるオリジネーターが倒
産ないし支払不能状態に陥っても、裏付けとなる債権がオリジネーターの破産財団に取り込
まれることがないように、次の二つの条件を満たすことが必要である。すなわち、一つは、
オリジネーターからSPVへの債権の譲渡が「担保」ではなく「真正な売買」(true sale)(注2)
であること、次に、この「譲渡」が第三者に対する対抗要件を備えていること(perfection
of transfer of assets)である(注3)。ところが、債権譲渡においては、中国は日本と違って、
対抗要件主義を採らずに、第三者に対する関係まで有効にしてしまって、個別に知らなかっ
た債務者を保護するという方式を採っている。つまり、中国法は、債権譲渡の第三者対抗要
件としては、何も要求していない。したがって、債権が二重譲渡された場合には、譲受人間
の優劣を証明することはかなり困難ではないかと思われる。そうだとすると、債権を譲り受
けたSPVが他の譲受人に対して優先権を主張できず、SPVひいては投資家の権利の安全が確
保できないおそれがある。
本論文では、債権流動化との関連で中国法の下に新しい第三者対抗要件をどのように構築
すべきかという問題に焦点をあて、米国法および日本法を参考としながら、議論を進めるこ
ととしたい。以下、まずⅡにおいて、債権流動化の母国であり最先進国である米国の統一商
事法典(Uniform Commerical Code、以下「UCC」という)第9編の登録(filing)制度を概
観する。次に、Ⅲにおいて、中国民商法に影響を及ぼした日本の「債権譲渡の対抗要件に関
する民法の特例等に関する法律」(以下「債権譲渡特例法」という)の債権譲渡登記制度を
概観する。そして、Ⅳにおいて、中国現行法の問題点を指摘して、近い将来に実現しうる債
権流動化に備え、どのような第三者対抗要件が望ましいかを検討し、米国のUCC登録制度
および日本の債権譲渡登記制度の中国法への示唆についても併せて言及することとしたい。
Ⅱ 米国のUCC登録(filing)制度
1 概説
米国においては、債権譲渡の対抗要件(注4)は州法で定められている。現在、この債権譲渡
の対抗要件を規律する州法には一般法たるコモン・ロー(Common Law)(注5)と特別法たるU
CC第9編が存在する。第9編は、本来不動産以外の担保付取引に関する統一的な規定であ
るが、流動化における債権譲渡の対抗要件の規定としても利用されている。ただし、UCC
第9編の規定をいかなる形で採択するかは、各州の選択に委ねられている。したがって、実
際に債権流動化を行う場合、問題となる対象資産に関連する各州の規定を参照する必要があ
る。
1998年7月、アメリカ法律協会(The American Law Institute)と統一州法委員会全国会議
(National Conference of Commissioners on Uniform State Laws)において、UCC第9編改
正案が正式に承認され、新しい第9編が誕生した。今回の改正は、準拠法規定の変更、担保
物件の範囲の拡大およびそれに対応した対抗要件具備方法・対抗優劣に関する規定の変更、
担保権実行方法の改正、コンビューターネットワークの活用を射程に入れた登録制度の改正
等、広範かつ多岐にわたるものである。しかし、「改正法成立」といっても、UCCはもと
もと民間団体が作成したモデル法であり、採用の可否、時期などについては原則として各州
議会の自主的判断に委ねられている(注6)。
2 適用範囲
第9編は、契約によって発生する支払いその他の義務の履行を保証する個人の財産(動産
(personal property)または不動産の定着物(fixture))に対する権利(形式には無関係)に
適用されるものである(§9-102(1)(a);改§9-109(a)(1))。そのような権利を「担保権(sec
urity interests)」と呼び(§1-201(37))、担保権の付された個人の財産を「担保物件(colla
teral)」と呼ぶ(§9-105(1)(c);改§9-102(a)(!2))。担保物件になる動産が複数の種類に分
類されているが、流動化の対象資産になり得るのは、主として、「売掛債権(accounts)」
(§9-106;改§9-102(a)(2))、「動産抵当証券(chattel paper)」(§9-105(1)(b);改§9-102
(a)(11))、「証券(instruments)」(§9-105(1)(i);改§9-102(a)(47)および(65))、「一般
無体財産(general intangibles)」(§9-106;改§9-102(a)(42)))の4種類である。これら
に対して担保権を設定する場合には第9編の適用があるが、担保目的を有していない場合で
あっても、第9編が適用されることがある。
まず、第9編は、「売掛債権」や「動産抵当証券」と呼ばれるものの売買(sale)に通常
適用される(§9-102(1)(b);改§9-109(a)(3))。その理由は、売掛債権や動産抵当証券にあ
っては、これらを目的とした商業金融がしばしば担保の形式でなく売買の形式をとって行わ
れるため、「担保としての移転(security transfer)」と「売買」とを区別することが困難な
ためである。さらに、今回の改正によって、売掛債権の定義が拡大され、新たにクレジット・
カート債権を売掛債権に加えることが明確に定められた(改§9-102(a)(2))。また、改正第
9編は、動産抵当証券の中に、「電子的動産抵当証券(electronic chattel paper)」(改§9-1
02(31))という担保物件のカテゴリーを新設した。しかし、第9編は、売掛債権および動産抵
当証券の売買であっても、商業金融とは関係のない場面での売買については、その適用範囲
から除外している(§9-104(f);改§9-109(d)(4)~(7))(注7)。
次に、「証券」および「一般無体財産」の売買には、本来、第9編が適用されず、各州
のコモン・ロー等によって規律されていた。しかし、その取扱いが不明確かつ不統一である
という問題があり、権利関係の法的安定性を欠いていた。そこで、改正第9編では、一般無
体財産の中に、新たに「支払無体財産(payment intangibles)」(改§9-102(a)(61))という担
保物件のカテゴリーを設けて、証券のうちの「約束手形(promissory note)」(§9-105(1)(i);
改§9-102(a)(65))とともに、それらの売買を適用範囲に入れて、流動化スキームを貸付債権
のSPV等への売買として構成するための法的手当てを行った。
したがって、売掛債権、動産抵当証券、約束手形または支払無体財産に該当する債権の流
動化において、かかる債権をSPVに譲渡する場合、それが真正な売買であったか、あるいは
実質的に担保権付貸付契約にすぎなかったかを問わず、第9編の規定が適用されることにな
る(注8)。これに対して、証券(約束手形を除く)または一般無体財産(支払無体財産を除く)
については、担保権設定の場合のみ、第9編の適用があるが(§9-102(1)(a);改§9-109(a)(1))、
これらの資産の売買には、第9編の規定が適用されず、各州の判例法によって規律されてい
る。
3 第三者対抗要件の具備方法
担保権が対抗要件を具備するとは、当該担保権が第三者との関係で可能な限り保護される
ことを意味する。対抗要件を具備した担保権であっても、他の権利に劣後することはあり得
る。しかし、一般的に言って、対抗要件を備えた担保権者の権利は、その後生じた債務者の
他の債権者や、債務者から譲渡を受けた者との関係では保護される。特に、債務者に関して
倒産手続(破産等)が開始された場合には、当該手続における一般債権者の代理人(破産管
財人等)との関係で保護を受けるのである(注9)。第9編は、動産につき担保権を有する者が
第三者に対しても自己の権利を対抗できるようにするための手段として、かかる動産の種類
に応じ、以下の4つの方法を定めている。
①登録(filing)による対抗要件の具備
一般的に、担保権の多くはUCC登録事務所にファイナンシングステートメント(financin
g statement)を登録することで対抗要件を具備することが必要となるか、提出することによ
って対抗要件の具備が可能となった(§9-302(1);改§9-310(a))。登録が必要となる種類の
物件としては、売掛債権や一般無体財産があるが、今回の改正により新設した支払無体財産
も含まれる。また、売却された売掛債権に対抗要件を具備させるためには、登録制度も利用
される。ただし、支払無体財産の売買については、登録による対抗要件の具備を行わなくて
もよいとする。
②占有による対抗要件の具備
第9編は、一定種類の担保物件について、ファイナンシングステートメントの登録に代わ
って、あるいは、これと平行して、かかる物件の占有を対抗要件の具備方法として規定して
いる。例えば、有体動産抵当証券については、登録の代替方法として、担保権者がそれを占
有することで対抗要件が備わる(§9-305;改§9-313(a))。証券については、本来、それに
対する担保権に対抗要件を具備させるためには、担保権者が証券を占有しなくてはならない
(§9-304(1))が、改正第9編では占有と登録のいずれの方法でも対抗要件を具備させるこ
とができる(改§9-312(a)および9-313(a))。ただし、証券のうちの約束手形が売却された場
合には、登録または占有という対抗要件の具備方法が必要ではない。
③支配(control)による対抗要件の具備
改正第9編の下では、電子的動産抵当証券に対する担保権は登録もしくは支配によって対
抗要件を具備させることができる(改§9-312(a)および9-314(a))。無体動産抵当証券の担保
権を有体動産抵当証券と同様に対抗要件を具備させる方法として、動産抵当証券の正式な電
子記録または記録と認められるものが唯一存在し、その記録の写しが担保権者とその担保権
の内容を記しており、また担保権者あるいはその指名した保管者に発行され、かつそれらの
者によって管理されており、正式な写しであることが明白であり、さらにその写しの変更が
適切に行われるならば、当該担保権者は電子動産抵当証券を支配下においていることになる
(改§9-105)。
④自動的な対抗要件の具備(automatic perfection)
場合によって、担保権が成立(attachment)すれば、その後なんらの手続も経てずにその
対抗要件を具備することがある。これが、自動的な対抗要件の具備もしくは成立による対抗
要件の具備と呼ばれるものであり、公的通知のためのなんらの手続(登録、占有あるいは支
配)を必要とせずに対抗要件を具備させるのである。改正第9編は、さらに、約束手形およ
び支払無体財産の売買についても、自動的な対抗要件の具備方法を認めた(改§9-309(3)お
よび(4))。
以上4つの対抗要件具備方法のうち、もっとも一般的なのは、ファイナンシングステート
メントの登録である。すなわち、自動的な対抗要件の具備と定められているのは、約束手形
および支払無体財産が売買される場合に限られ、それ以外の場合には、登録によって対抗要
件を具備することができる。
4 登録制度
(1) ファイナンシングステートメントの記載事項
「ファイナンシングステートメント」とは、担保権者の権利を公示し、担保権設定契約の
対象となる動産の種類について記述した書面をいう。
改正前の第9編は、ファイナンシングステートメントに最低限記載しなげればならない事
項として、①債務者および担保権者の名、②担保権に関する情報を入手できる担保権者の住
所、③債務者の郵便宛所(mailing adress)、および④担保物件の種類(item)または品目(i
tem)を挙げて、債務者による署名があることを必要とする(§9-402(1))。なお、ファイナ
ンシングステートメントが実質的に上記の形式的要件を満たしていれば、重大な誤解(seri
ously misleading)を招かないような軽度の瑕疵(minor errors)があっても有効である(§9
-402(8))。ただし、債務者の署名が欠けているファイナンシングステートメントが有効とさ
れた判例は存在しない。また、担保物件については、大方の判例は、UCC第9編が定める
担保物件の種類による記載があればこれを十分な表示として認めるが(注10)、それよりも一般
的な記載では、担保物件の表示としては認めない(注11)。
これに対し、改正第9編の下でのファイナンシングステートメントには、通常の場合、債
務者の名(法律上の名:改§9-503参照)と担保権者もしくはその代理人の名、そのファイ
ナンシングステートメントによってカバーされている担保物件の記述のみを記せばよいこ
とになっている(改§9-502(a))。電子登録に対応するため、改正第9編では債務者がファイ
ナンシングステートメントに署名することは定めていない。また、「全資産」という担保物
件の記述が担保契約においては不十分であるが、改正第9編に基づいて登録されるファイナ
ンシングステートメントには十分である(改§9-504(2))。
(2) 登録の仕組み
まず、登録の時期については、ファイナンシングステートメントは、担保契約が締結され
たり担保権が成立する前であっても登録することができる(§9-402(1);改§9-502(d))。こ
の時期を問わず登録を許容する規定は、「通知のための登録(notice filing)」の考え方を
反映するものである(注12)。ただ、担保権成立前にファイナンシングステートメントの登録が
できるからといって、その登録のみにより担保権の対抗力が備わるわけではなく、担保権が
成立して初めて対抗力を具備するのである(§9-303(1);改§308(a))。
次に、登録がされるべき場所は、担保物件が付随物、木材、鉱物等の場合には、それらが
関係する不動産の譲渡抵当(mortgage)が登記あるいは登録されるべき場所とされるが(§
9-401(1)(b);改§9-501(a)(1))、それ以外の物件の場合には、州によって異なる(§9-401(1)
および(6);改§9-501(a)(2))。改正前の第9編の下では、基本的に、州務長官事務所(offic
e of the Secretary of State)を登録場所とする全州一元的登録体系とそれに加えて債務者居
住地の郡(county)の事務所にも登録を義務づける地方的登録併用体系に分かれるが、改正
第9編では州内の唯一の事務所で登録を行うことになる。
そして、誰が登録権を有するかは、ファイナンシングステートメントの内容によって、法
で定められている(改§9-509)。
以上の規定にしたがって提出されたファイナンシングステートメントの登録申請に対し
て、登録事務所は一定の場合においてその受領を拒否することができる(改§9-520)。例
えば、その登録事務所が認めていない方法でファイナンシングステートメントがやりとりさ
れたり、最低登録手数料以上の支払いを怠ったり、債務者の種類や組織、郵便物宛先の住所
の司法管轄地など、改正§9-516(b)(5)に具体的に記されている他の情報をファイナンシング
ステートメントに記載していないなどである(改§9-516(b))。なお、登録を拒否できる上
記のような理由があるにもかかわらず登録事務所が登録を受理した場合、当該ファイナンシ
ングステートメントが改正§9-502(a)で述べられている簡素化された要件を満たしているな
らば、その登録は有効である。
最後に、後日調査が必要となった場合に探し出すことができるよう、第9編では登録は債
務者の名で索引に載せることとしている(§9-403(4);改§9-519(c)(1)および(f)(1))。
(3) 登録の失効、継続、解除、変更および訂正
登録されたファイナンシングステートメントは、通常、登録日から5年間有効であるが、
公的金融取引または建築された家屋取引について登録されたことを表示しているファイナ
ンシングステートメントは、登録日から30年間は有効である(§9-403(2);改§9-515(a)およ
び(b))。これに関しては、債務者が公益事業社である場合や、不動産定着物に関する登録
として効力を認められる不動産抵当権(mortgage)の登記の場合等の例外がある(§9-403(2)
および(6);改§9-515(f)および(g))。登録されたファイナンシングステートメントは、「継
続ステートメント(continuation statement)」と呼ばれる文書を失効前に提出しない限り、
その有効期限の経過により失効する。したがって、登録が失効した時に担保権の対抗力が失
われ、担保物件の有償取得者に対しては初めから対抗要件が備わっていなかったものとして
扱われる(§9-403(2);改§9-515(c))(注13)。
このように、登録されたファイナンシングステートメントは5年間または30年間が経過し
た時に失効するが、失効前に「継続ステートメント」を登録しておけば、効力を維持し続け
ることができる。継続する場合には、その5年または30年の期間の最終日から6カ月前以内に
「継続ステートメント」を提出しなければならない。通常は、「継続ステートメント」には、
担保権者が署名し、元のファイナンシングステートメントを登録番号により特定し、元のス
テートメントがいまだ有効である旨の記載がなければならない。適時に継続ステートメント
を登録すれば、ファイナンシングステートメントは、本来失効することになっていた日から
5年間引続き有効性を維持する。この継続ステートメントによる効力の更新は何度でも行う
ことができる(§9-403(2)および(3);改§9-515(d)および(e))。
一方、担保を付した債務が履行され、担保権者がそれ以上信用を延長すべき債務を有しな
い場合は、公の登録から除去するために、担保権者は債務者に「解除ステートメント(ter
mination statement)」を送付しなければならない。解除ステートメントは、ファイナンシン
グステートメントが登録された登録係官ごとに、登録番号によりファイナンシングステート
メントを特定し、担保権者はもはや当該ファイナンシングステートメントに基づき担保権を
主張しない旨記載して作成しなければならない(§9-404(1);改§9-513)。さらに、消費者
向け物品の場合に、担保権者は、ファイナンシングステートメントを登録した登録係官の全
てに対して、解除ステートメントを登録しなければならない(注14)。担保権者が、解除ステー
トメントを提出すべき時にそれを怠った場合には、債務者が提出することを認めている(改
§9-509(c)(2))。
また、登録権のある者は、ファイナンシングステートメントの「変更(amendment)」登
録をすることにより、担保物件の追加、抹消または効力の継続、終了その他の変更を行うこ
とができる(§9-402(4);改§9-512(a))。しかし、変更により、ファイナンシングステート
メントの有効期間は延長されない(§9-402(4);改§9-512(b))。新たな担保物件または債務
者が追加された場合には、ファイナンシングステートメントは、その追加担保物件について
またはその追加債務者に対しては変更の登録の日から将来に向かってのみ効力を有する(§
9-402(4);改§9-512(c)および(d))。
さらに、名前が記録された者は、記録が不正確であるまたは誤って登録されたと思われる
場合には、その根拠を記述した「訂正ステートメント(corrective statement)」を登録所に
登録することができる(改§9-518(a)および(b))。ただし、訂正ステートメントが登録され
ても、当初のファイナンシングステートメントの有効性には影響を及ぼされない(改§9-5
18(c))。
(4) 競合する担保権の間の優劣決定基準
同一の担保物件に対する競合する担保権の間の優劣は、ファイナンシングステートメント
の登録の時間的順序に従う。つまり、競合する担保権が全て登録によって対抗要件を具備し
ている場合には、一番最初に登録された担保権が優先することになる(ファースト・ファイ
ル・ルール(first file rule))(注15)。これは「最先登録・対抗要件(first to file or perfect)」
優先規定と呼ばれ、優先順位に関して該当する規定がない場合に適用される第9編の基本的
優先順位決定にための規定である(§9-312(5)(a);改§9-322(a)(1))。
なお、ファイナンシングステートメントの登録は担保権設定契約の締結前または担保権の
成立前にも行うことが許容されているため、後に対抗要件を具備した担保権であっても(注16)、
ファイナンシングステートメントの登録が先であれば、先に対抗要件を具備した他の担保権
に優先することになる。すなわち、第9編においては、競合する担保権に優先するためには
対抗要件の具備は不可欠であるが、必ずしも、先に対抗要件を具備した担保権が優先するわ
けではない(注17)。
(5) 担保権者と債務者の破産管財人との間の優劣
第9編における担保権者は、破産手続開始の日にその担保権の対抗力を具備しなければ、
リーエン債権者(lien creditor)の権利に劣後する(§9-301(1)(b);改§9-317(a)(2))。リー
エン債権者とは、仮差押、執行その他これに類似する方法によって当該財産につきリーエン
を取得した債権者と定義されており、破産管財人は破産の申請がなされたときからリーエン
債権者になると定められている(§9-301(3);改§9-201(a)(52))。
さらに、連邦破産法は、破産管財人に対して、破産手続開始時点において対抗力を具備し
ていないUCC第9編の担保権を否認する(avoid)権能を与えている(連邦破産法、11 U.S.
C.A.、§544(a)および(b) )。
したがって、第9編の適用を受ける売掛債権、動産抵当証券、約束手形および支払無体財
産の売買にあっては、譲渡人に関する破産手続の申立時点で登録が行われていなかった場合
には、かかる売買は、破産管財人によって否認されることになる。その場合、譲受人は自由
に譲り受けた資産を処分できず(注18)、その資産は譲渡人の破産財団の中に実質的に取り込ま
れたような形になり、ひいてはSPVの証券等を購入した投資家への支払に致命的な影響を及
ぼすことになる。
Ⅲ 日本の債権譲渡登記制度
1 概説
日本においては、現在、債権譲渡の対抗要件を規律する法律には、一般法たる民法と特別
法たる特定債権法および債権譲渡特例法が存在する。特に、債権譲渡の第三者対抗要件の簡
素化を実現した債権譲渡特例法は、債権の流動化に資するための法律として、脚光を浴びて
いる。
債権譲渡特例法、すなわち「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」(平
成10年法律第104号)は、平成10年6月5日に成立し、同年10月1日に施行された。債権譲渡特
例法は、その名が示すとおり、債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例として、民法の定め
る債務者に対する通知または債務者の承諾という対抗要件制度に加えて(注19)、法務局に備え
る債権譲渡登記ファイルに債権譲渡登記(注20)をすることにより対抗要件を具備するという
制度を創設する法律である。
債権譲渡特例法が制定された背景については、「債権の流動化」の推進を求める実務界の
強い意向が働いている。すなわち、債権流動化においては、投資家保護のために、流動化し
ようとする多数の指名債権が有効に譲渡され、かつ、破産管財人等の第三者に確実に対抗で
きることが必要である。しかし、民法467条によれば、第三者対抗要件を具備するために、
確定日付ある個々の債務者に対する通知または個々の債務者の承諾という手続を経てなけ
ればならないことになるため、民法に基づき第三者対抗要件を具備することは実務的に困難
であり、債権流動化の推進のためには一括して迅速かつ簡易に対抗要件を備えられる制度が
実務界から強く要請されていた。このような背景から、債権譲渡特例法は、資産流動化のた
めの債権売買のような、いわゆる真正売買のための対抗要件具備制度の創設を主目的に作ら
れた法律であるということができる(注21)。
2 適用範囲
債権譲渡特例法は、その適用範囲を「法人がする債権譲渡」に限定している(法1条)。
その理由は同法の立法趣旨にある。すなわち、同法は、債権の流動化をはじめとする企業の
資金調達を円滑にさせるために、主に多数の債権を譲渡するさいに、一括して迅速かつ簡易
に対抗要件を具備できるような法的整備を目的として制定されたものである。このような対
抗要件を利用して資金を調達しようとする者は、一般的に、個人ではなく法人であると想定
される(注22)。したがって、会社や民法上の法人など、法人格を認められているものは該当す
るが、法人格を有しない民法上の組合や権利能力なき社団等は該当しない(注23)。
対象とする債権は、指名債権のうちの
「金銭債権」を目的とするものである(法2条1項)。
なぜならば、金銭債権は、それ以外の債権に比べ、一般に非個性的であり、債務者が認識し
ない間に債権譲渡の第三者対抗要件が具備されるという債権譲渡特例法のスキームになじ
むからである。また、債権譲渡により資金調達を行う場合の債権は、実際上金銭債権に限定
され、他の内容の債権は想定し難いからである(注24)。したがって、物の引渡を求める請求権
については、対象にならない。
当然に、債権譲渡特例法が適用の対象とする「債権譲渡」のなかには、債権譲渡担保(注25)
も含まれる。Ⅲの冒頭に述べたとおり、債権譲渡特例法は債権の真正売買のための対抗要件
制度の創設を主目的とするものではあるが、同法1条は、適用の対象となる債権譲渡が真正
売買か担保目的の譲渡かは問っていない。また、法務省も、債権譲渡担保の有効性が民法上
承認されている上、金融の手段として現実の役割も大きいと考えられること、譲渡の態様に
おいても対抗要件の具備方法の点においても、債権譲渡と債権譲渡担保とを区別し難いこと
等から、債権譲渡特例法における債権譲渡に担保目的の債権譲渡が含まれることを認めてい
る(注26)。
3 民法との関係
債権譲渡特例法は民法の特別法として位置付けられるものであるが、債権譲渡の対抗要件
に関する民法の規定に優先し、またその適用を排除するものではない。したがって、債権者
は、債権の譲渡に当り、民法上の通知・承諾によることも、債権譲渡特例法による債権譲渡
登記によることも、いずれの方法も選択することができる。このように民法上の対抗要件制
度と債権譲渡特例法による対抗要件制度を併存することとしたのは、債権の内容に応じて、
債権者がいずれかの方法を選択できることとするのが実際的であると考えられたからであ
る(注27)。このことは、債権譲渡登記がされた債権の再譲渡により債権譲渡特例法による登記
と民法による対抗要件が競合した場合の登記の存続期間の取扱いを定めている債権譲渡特
例法5条4項からも明らかであろう。
一方、債権が多重譲渡された場合には、債権譲渡特例法による登記と民法上の対抗要件と
の競合も検討する必要がある。この点に関しては、法務省は既に各場合を想定した優劣関係
の処理を検討し公表しており(注28)、しかも登記事項証明書には登記の時間までが記載される
というので、それで概ね明瞭に解決可能であると考えられる。
4 特定債権法との関係
特定債権法、すなわち、「特定債権等に係る事業の規制に関する法律」(平成4年法律第7
7号)は、債権譲渡特例法と同様、民法の債権譲渡の対抗要件制度の特例を定めたものであ
る。特定債権法は、同法の適用対象となる一定のリース債権およびクレジット債権について、
民法467条の例外を定め、日刊新聞紙に公告をすることによって当該債権の譲渡を債務者お
よび第三者に対抗できることを認めている(特債法7条2項)。
債権譲渡特例法の適用対象は、2(1)のとおり法人の行う金銭債権の譲渡としていることか
ら、例えばリース会社が有するリース債権は特定債権法だけではなく債権譲渡特例法の適用
対象にもなると思われる。債権譲渡特例法は、特定債権法との関係について何も触れていな
いが、特定債権法による公告の適用を排除しているわけでもない。したがって、債権譲渡特
例法と特定債権法の両者の要件を満たす場合は、どちらかを選んで使うことになる。
では、特定債権法による公告と債権譲渡特例法による登記との競合が起こりうるのか。理
論的には、特定債権法による公告制度のもとでは、新聞公告の「時」が1日という幅をもっ
てしか限定できないため、同時到達の際に先後不明の紛争が発生する可能性はある。しかし、
実際には、特定債権法では詳細な仕組み規制と管轄官庁の監督・指導が規定されているので、
特定債権法のスキームに乗った同じ債権が債権譲渡特例法の登記対象になるというケース
は考えにくいと思われる(注29)。
5 債権譲渡登記制度
(1) 概説
債権譲渡特例法は、債権譲渡の第三者対抗要件を登記により備えることとしている(法2
条1項)。具体的には、法務局に備えられた債権譲渡登記ファイルに登記をすることにより
債務者以外の第三者に対する対抗要件を具備する。債権譲渡登記がされた場合の効果につい
ては、民法467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなすとして
おり、確定日付のある証書による通知があった(注30)のと同様の法律効果を与えることとして
いる。なお、債権譲渡登記がされたことによって、第三者対抗要件が具備された効果は生ず
るものの、それ以上の効果を有するものではない。すなわち、債権譲渡登記自体は、当該債
権が真実存在するものであるか、または債権譲渡が真実なされたものであるか等を公証する
ものではないことに留意する必要がある(注31)。
(2) 登記申請書等の記載事項
債権譲渡登記の事務処理がコンピュータを使って行われることから、登記申請には、申請
書類(登記申請書およびその添付書面)に加え、登記事項を記録した磁気ディスクの提出が
必要である。
まず、登記申請書には、「債権譲渡登記令」(平成10年政令296号、以下「登記令」とい
う)7条2項に定められている事項を記載し、申請人またはその代表者もしくは代理人が記
名押印しなければならない。記載事項の主な項目として、①登記の目的、②申請人の氏名お
よび住所、③代理人の氏名および住所、④手数料の額、⑤申請年月日、⑥申請先登録所を挙
げられる。さらに、延長登記等の登記申請書には、以上の事項のほか、①登記原因およびそ
の日付、②最初の債権譲渡登記の登記番号、③延長後の存続期間、④一部抹消登記の申請に
あっては、債権譲渡特例法7条3項2号および3号に掲げる事項を記載しなければならない
(登記令7条5項)。
次に、登記申請書の添付書面は、登記令6条および8条、「債権譲渡登記規則」(平成1
0年法務省令39号、以下「登記規則」という)10条に定められている。添付書面は事案によ
り異なるが、よく必要となるのは、①譲受人の住所、本店または主たる事務所を証する書面、
②譲受人の代表者の印鑑証明書、③法人の代表者の資格証明書、④代理人の権限証明書、⑤
存続期間が50年を超える債権譲渡登記の申請をするときは、そのような申請をすべき特別の
事由(法5条2項但し書)があることを証する書面(登記令8条3号)である(注32)。
そして、申請磁気ディスクには、登記令7条3項に定められている事項を記録したうえ、
申請人の氏名(商号、名称)および年月日を記載した書面(ラベル)を貼り付けなければな
らない(登記令7条3項、登記規則9条3項)。主な記録項目を挙げれば、①登記の目的、
原因およびその日付、②代理人の氏名および住所、③譲渡人および譲受人の氏名および住所、
④譲渡に係る債権(総額、個数、譲渡人および譲受人の数、債務者等)、⑤登記の存続期間
である。また、申請人の希望によっては、④の当該債権を特定するために必要な事項(登記
規則6条1項)に加え、当該債権を特定するために有益な事項(債権の弁済期、登記番号等)
を記録することもできる(登記規則9条2項)(注33)。
(3) 債権譲渡登記の申請および処理等
債権譲渡登記は、債権譲渡登記所の登記官が、債権譲渡の譲渡人および譲受人の共同申請
により、磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録することがで
(注34)
きる物を含む)をもって調製する債権譲渡登記ファイルに所定事項を記録することによって
行う(法5条1項。なお、登記令6条参照)。
この債権譲渡登記所は、法務大臣が法務局もしくは地方法務局またはその支局もしくは出
張所の中から指定する(法3条1項)。現在のところ、東京法務局がこの指定を受け、同局
民事行政部債権登録課において全国の債権譲渡登記事務を処理している(注35)が、将来的には、
制度の利用状況により、取扱法務局の数は増やされるであろう(注36)。
登記申請にあたっては、債権譲渡特例法に定める債権譲渡登記の登記事項についてあらか
じめ申請人が申請磁気ディスク(フロッピー等)に記録して、これを登録申請書とともに提
出しなければならず、さらに、登記申請書には、一定の書面を添付し、登記印紙を貼り付け
なければならない(登記令7条1項および3項、8条、登記規則10条、24条1項)。また、
債権譲渡登記の申請については、出頭主義の原則がとられていないので、登記申請を書留郵
便で行うことも認められる(登記規則7条)。郵送によって登記所が登記申請書を受け取っ
たときは、受け取った日の後最初に登記所が執務を行う日に、他の登記申請書に先立ち、同
順位で受付手続を行ったうえ、同時に登記をするものとされている(登記令9条但し書およ
び10条但し書)。
登記申請は、原則として、即日処理することとしている(注37)。登記官による審査は、形式
的なものであり、書面に基づいて審査の適否が判断される(注38)。申請が適法であると判断
されたときは、申請に係る登記がされ、申請磁気ディスクの内容がそのまま債権譲渡登記フ
ァイルに記録される(登記規則13条2項)(注39)。他方、申請に登記令11条に掲げる事由(注40)
があるときは、当該申請は却下される。なお、債権譲渡登記の申請については、補正の制度
がない。もっとも、申請人は、申請をした後であっても、登記がされるまでの間は、登記申
請を取り下げることができる(注41)。
債権譲渡登記がされたときは、登記官は登記番号等が記載された完了通知(注42)を申請人に
郵送し(登記規則14条1号)、譲渡人の本店等の所在地を管轄する登記所に通知を行わなけ
ればならない(法9条1項および10条1項)。そして、この通知を受けた登記所の登記官は、
遅滞なく、譲渡人の商業登記簿等に通知された登記事項の概要を記載または記録しなければ
ならない(法9条2項および10条1項)(注43)。
登記官の処分(登記をしたもしくは登記の申請を却下した)を不当とする者は、登記官に審
査請求書を提出し、審査請求をすることができる(法13条1項および2項)(注44)。登記官は、
審査請求の理由を認める場合は、相当の処分をする(同条3項)が、認めない場合は、3カ
月以内に意見を付して事件を監督法務局または地方法務局の長に送付する(同条4項)。そ
して、法務局または地方法務局の長は、審査請求の理由を認めるときは、登記官に相当の処
分を命じ、その旨を審査請求人および利用関係人に通知する(同条5項)。
(4) 証明書の交付および申請書類の閲覧
債権譲渡登記に関する証明書としては、登記事項をすべて証明した「登記事項証明書」と、
登記事項の概要(注45)のみを証明した「登記事項概要証明書」の2種類がある(法8条)。こ
れらの交付を申請する際には、申請書に「証明書の交付を請求する債権譲渡登記ファイルの
記録を特定するために必要な事項(登記令16条2項1号および3項1号)」を明らかにする
必要があり、登記印紙を貼る方法によって手数料を納付しなければならない(法15条1項2
号および2項、登記規則24条1項)。また、債務者のプライバシー等を配慮して、何人も登
記事項概要証明書の交付を請求することができるが、登記事項証明書の交付は、債権の譲渡
人、譲受人、債権の債務者その他の利害関係人(注46)のみが請求することができることとされ
ている。さらに、登記事項概要証明書の交付申請書には、申請人またはその代表者もしくは
代理人が記名することを要することに対し、登記事項証明書の交付申請書には、その記名の
みならず押印もし、利害関係を証する書面や代表者の資格証明書や印鑑証明書等の書面を添
付しなければならない(登記令16条4項、登記規則19条)。
そして、登記申請書またはその添付書面の閲覧も、利害関係のある者に限って認められる
(登記令18条1項)。提出された申請は、書面で、一定の要件を満たさなければならず(同
条2項以下)、登記印紙を貼る方法で手数料の納付をしなければならない(同条1項および
4項、登記規則24条1項)。
(5) 債権譲渡登記以外の登記
債権譲渡特例法には、債権譲渡登記のほか、いったん登記された債権譲渡登記の存続期間
(注47)
を延長するために行われる延長登記(法6条および10条1項)(注48)、債権の消滅等同法
所定の事由がある場合に債権譲渡登記の全部または一部を抹消するために行われる抹消登
記(法7条および10条1項)について規定が設けられている。
延長登記も抹消登記も、原則として譲渡人および譲受人の双方申請によって行われる。債
権譲渡登記所の登記官は、これらの申請が適法であると判断したとき、当該債権譲渡登記に
係る債権譲渡登記ファイルの記録に一定の事項を記録する。また、抹消事由があるのに、譲
受人が協力しないときは、譲渡人は登記手続を求める訴訟を提出し、勝訴の確定判決に基づ
いて、単独で抹消登記の申請をすることができる(注49)。判決による登記につき、登記令6条
に規定がおかれている。
さらに、登記官は、登記に自らの過誤による錯誤または遺漏があることまたは登記した事
項が登記すべきものでないことを発見したとき、職権により登記の更生または登記の抹消を
行わなければならない(登記令12条および13条)。
以上の登記がされたときは、債権譲渡登記の場合と同様に、登記をした登記官は、申請者
および譲渡人の本店等所在地の登記所に対し通知しなければならず、こういう通知を受けた
登記所の登記官は、遅滞なく、譲渡人の商業登記簿等に通知された事項を記録または更正し
なければならない。
(6) 競合する譲受人の間の優劣判断基準
譲渡債権と同一の債権が二重、三重に譲渡された場合、同一の債権について複数の登記事
項証明書を伴う通知や民法上の確定日付ある通知が競合することがあるし、差押等との競合
も考えられる(注50)。判例上、同一債権に係る民法上の確定日付ある通知が競合したときには、
二重譲受人相互間における優劣は、各通知の債務者への到達日時の先後により決すべきであ
ると解されている(注51)。以下においては、同一債権について、債権譲渡登記同士が競合する
場合や、債権譲渡登記と民法上の確定日付ある通知とが競合する場合の優劣関係の判断基準
について検討する。
①債権譲渡登記同士が競合する場合
債権譲渡特例法においては、前述のとおり、債権譲渡登記がされた時点をもって、確定日
付ある証書による通知が債務者に到達したとみなされるため、債権譲渡登記同士が競合した
場合には、その登記の日時の先後によって優劣が決定される。登記事項証明書には、登記年
月日のほか、分単位の登記時刻も記載されている(登記規則20条1項)ので、登記された時
は、登記事項証明書により明確である。また、債権譲渡登記は、登記申請の受付の順序に従
って付される登記番号が登記される(法5条1項8号、登記規則12条1項)ので、この登記
番号の先後によっても優劣を判断することができる。
②債権譲渡登記と民法上の確定日付ある通知とが競合する場合
この場合には、債権譲渡登記がされた時と確定日付ある通知が債務者に到達した時との先
後によって優劣が決定される。確定日付ある通知の到達時は、通常、配達証明によって判断
されるが、この配達証明は一定の幅のある時間帯しか証明できないため、その時間帯の中に
債権譲渡の登記時が含まれていれば、両者の先後関係は不明である。この場合において、両
譲受人は、互いに自己が優先的な地位にあると主張することができず、第三者対抗要件は同
時に具備されたものとして取り扱われることになる(注52)。
(7) 譲受人と譲渡人の破産管財人との間の優劣
債務者が破産宣告を受けた場合、その宣告の時点において有する一切の財産は、破産財団
を構成することになり(破産法6条)、その管理処分権限は破産管財人に専属することにな
る(破産法7条)。判例上、指名債権の譲受人は、譲渡人が破産宣告を受けた場合には、破
産宣告前に債権譲渡について民法467条2項所定の第三者対抗要件を具備しない限り、かか
る債権の譲受をもって破産管財人に対抗できないと解されている(注53)。したがって、債権譲
渡登記を経由した債権譲受人と譲渡人の破産管財人との優劣は、債権譲渡登記の日時と破産
宣告の日時との先後により判断されることになる。破産決定書には破産宣告の日時が記載さ
れる(破産法141条)ので、登記事項証明書に記載された登記の日時と比較すれば、その先
後関係は一目瞭然である。
また、債権譲渡特例法では、破産法および会社更生法の適用除外規定(法11条1項)が設
けられているが、各法の否認の登記に関する規定を適用除外としていない。そのため、債権
譲渡特例法に基づく債権譲渡や債権譲渡登記についても、破産法上および会社更生法上の否
認権行使の対象となり得る(破産法74条1項、会社更生法80条1項)(注54)。
Ⅳ 債権流動化と中国法の対応
1 債権譲渡に関する現行法
中国では、債権譲渡について、主に「中華人民共和国契約法(合同法)」(注55)(1999年3
月15日に第九期全国人民代表大会〈国会相当〉第二回会議で採択され、同年10月1日に施行
された。以下「新契約法」という)によって定められている。新契約法総則第5章「契約の
変更および譲渡」のところ、債権譲渡に関する規定がおかれている。
新契約法79条によると、一定の場合を除いて、債権者は契約上の権利の全部または一部を
第三者に譲渡することができる。この「一定の場合」とは、①契約の性質により譲渡できな
い場合、②当事者の契約の定めにより譲渡できない場合、および③法律の規定により譲渡で
きない場合をいう。また、一方当事者は相手方の同意を得て、自己の契約上の権利および義
務を一括して第三者に譲渡することも認められている(同法88条)。
債務者の保護については、債務者への通知を債務者に対する効力要件としている(同法8
0条)(注56)。債務者は、債権譲渡の通知を受領するまでに譲渡人に対して有する抗弁を、譲
受人に対し主張することができる(同法82条)。また、債務者は、債権譲渡の通知を受領し
た時において、譲渡人に対して期限の到来した債権を有する場合、譲受人に対し相殺を主張
することもできる(同法83条)。
2 現行法の問題点
本論文の冒頭に述べたとおり、債権譲渡については、中国は効力要件にしている。つまり、
新契約法の下では、債権譲渡は譲渡人(債権者)と譲受人との合意だけで効力を生じ、債務
者以外の第三者に対抗することができる。したがって、二重譲渡がなされた場合や、債権の
譲受人と差押人と競合した場合においては、先に債権譲渡の合意がなされていれば、その譲
受人は他の譲受人や差押人に優先する。
ところが、なされた合意の先後を証明することは容易ではないと思われる。たとえ、後に
債権譲渡の合意がなされたとしても、その譲受人は譲渡人(債権者)と共謀すれば、合意の
日付を遡らせることにより、一番最初の譲受人に優先することができる。債権流動化の例で
いうと、債権を譲り受けたSPVが他の譲受人に優先できなくなれば、SPVの証券等を購入し
た投資家への支払いに致命的な影響を及ぼし、結局、債権流動化が阻害されてしまうことに
なる。
そこで、債権流動化を実現しうる近い将来に備え、中国はその法的対応を考えなければな
らない。
3 第三者対抗要件制度の創設
(1) 第三者対抗要件の本質
周知のように、第三者対抗要件は、二重譲渡や差押との競合等で譲受人が第三者と同一の
権利につき両立しえない法的地位に立った場合には、その優劣を決定する機能を有するもの
である。優劣順序により、一方が勝ち、他方の取得した権利は対抗不能となり、結局その帰
属までも否定されることになる(注57)。そのため、第三者対抗要件には、公示性と明確性とが
求められる。
まず、第三者対抗要件たりうるには、当該債権に利害関係を持つ者が少なくとも譲渡を知
りうるものでなければならない。公示性を要求するのは、第三者対抗要件に紛争予防機能を
与えるためである。すなわち、当該債権がすでに譲渡されたという情報をディスクロージャ
ーすれば、二重譲渡や差押との競合になる可能性が低くなり、債権流動化取引の安全を確保
することができる。
次に、第三者対抗要件たりうるには、当該債権が二重譲渡された場合、先後(優劣)を決
める基準は明確でなければならず、また、その判断も容易でなければならない(注58)。明確性
を要求するのは、当事者が先後を証明できないリスクを最低限まで減少させるためである。
(2) 日米の法制度の中国法への示唆
前述のとおり、米国または日本では、第三者対抗要件具備に関するかぎり、登録または登
記という簡易な方法により、多数債務者の存在を前提にした債権流動化取引における対抗要
件具備に伴う事務手続上の手間、コストの問題はほぼ解決される。また、登録・登記におい
ては、個々の債権を列挙する必要がなく、かかる記述が概括的なもので足りるとされている
点も、譲受人にとり有利に作用する。
登録・登記型の第三者対抗要件では、債権が二重譲渡された場合に、譲受人相互間の優劣
基準が明確であり、その判断も容易かつ客観的である。すなわち、登録・登記した譲受人は
未登録・未登記の譲受人に優先し、先に登録・登記した譲受人は後に登録・登記した譲受人
に優先する。また、登録・登記の日時が登録・登記簿に記載されるため、優劣(先後)の判
断も容易にできる。
しかし、登録・登記制度は、あくまでも、かかる債権に関する情報を収集するための出発
点にすぎないため、その公示機能としての成否は、第三者が信用情報をどれだけ円滑に収集
することができるか否かにかかっている。米国で登録制度が採用された背景には、私的な信
用情報機関が発展していることは見逃せてはいけない(注59)。
したがって、登録・登記型の第三者対抗要件制度の中国への導入可能性を検討する際、制
度自体についてだけではなく、その支えとなる信用情報収集制度についても、十分な検討が
必要であると考える。
(3) 検討点
まず、第三者対抗要件制度を創設するとき、新契約法改正によるべきか、特別立法で行う
かという問題がある。筆者は、中国は日本の対抗要件立法と呼ばれる債権譲渡特例法の基本
的な発想を受け入れて、新契約法の規定を維持したまま、資金調達市場でのルールとして、
特別立法の途を選択すべきであると考える。なぜなら、新契約法は、「平等の主体である自
然人、法人、その他の組織間における民事権利、義務関係を設立、変更、終了させる合意」
を規律する一般私法であるため、経済社会の需要の消長によってその都度変容することは好
ましいあり方ではないと思われるからである。
次に、特別立法の途を選択した場合には、どの範囲のものを特別法に取り込むか、その基
準は何かということが問題となる。具体的に、①債権譲渡の目的による限定、②譲渡の主体
による限定、③債権の性質による限定、あるいは、④債権譲渡の法的性質による限定といっ
た選択肢(注60)が考えられ、また、複数の基準を併用するかも検討する必要がある。UCC第9
編は③と④によって、債権譲渡特例法は②と③によって、その適用範囲を定めている。筆者
は、特別法の対象となる債権の範囲を限定することに賛成するが、債権流動化の将来の方向
を縛ることにならないため、あまり狭く限定しないほうがよいではないかと考える。
そして、どのような内容の第三者対抗要件制度を創設するかが問題になる。債務者の関与
を不要とする第三者対抗要件制度を採用する場合には、3(1)で述べたように、公示の原則を
満たすことは勿論のこと、別途、債務者保護の方策を定めなければならない。この二つの条
件を満たす制度としては、例えば、UCC登録制度や債権譲渡登記制度が考えられる。とこ
ろが、登録・登記制度は、債権の当事者と一定の内容しか教示せず、当事者に照会するため
の手掛かりを与えるにすぎないため、譲渡人からのインフォメーションを補完しなければな
らない。その点、UCC登録制度の場合は、米国における信用情報調査機関の発達が補完措
置として働いていることに注意を払う必要がある。
最後に、登録・登記制度を採用した場合には、どこに登録・登記するかという問題があり、
また、譲渡人あるいは債務者のプライバシー保護のため、登録・登記事項や閲覧資格・方法
をどのように定めるかも問題になる。登録・登記場所については、中国既存の登記制度との
整合性を考えると、対象となる財産の所在地の工商行政管理機関(注61)を利用すべきであろう。
そして、登録・登記事項を概括的なものにすることや、利害関係のある者の閲覧に供する仕
組みをとること等によって、譲渡人あるいは債務者のプライバシーへの侵害を防ぐことがで
きると考える。
(4) その他
以上に検討した点のほかにも、将来債権の譲渡の問題や、譲渡禁止特約の問題等、検討を
要すべき点は多々ある。そのため、新しい第三者対抗要件制度を創設する際、これらの問題
を含んだ総合的な議論を行う必要があると考える。ここでは、これらのうち、将来債権の譲
渡に関して若干敷衍しておきたい。
将来債権については、中国法のもとでは、その担保設定や譲渡等を認めない傾向がある。
ところが、債権流動化の進展のためには、ある程度長期間の将来債権の譲渡を認めることは
必要不可欠であることは確かである。米国のUCC第9編は、譲渡できる将来債権の範囲を
広く認め(改§9-204)、さらに、事前登録を行うことにより、将来債権の譲渡についての
対抗要件を具備することも認める(改§9-308(a))。これに対して、日本の債権譲渡特例法
は、将来債権の譲渡の有効性を認めるが、どの程度の範囲の将来債権の譲渡が有効であるか
については明確な基準がない。このような混沌とした状態を一掃したのは、平成11年1月29
日に下された最高裁判決(注62)である。この判決は、「債権発生の可能性が低かったことは、
将来債権を目的とする債権譲渡契約の効力を当然に左右するものではない」とし、契約締結
後6年8カ月目から1年の間に発生した将来債権の譲渡契約の有効性を認めた。
そこで、債権流動化の導入を図る中国は、将来債権の譲渡に関する考えを直し、国内各界
の議論の状況を踏まえつつ、流動化に関与する当事者の利害関係について、積極的に議論、
検討を進めていくことが必要であると考える。
Ⅴ おわりに
債権譲渡による資金調達は、現在すでに企業等の資金調達手法の一つとして、世界的に定
着してきている。これに応じて、法の世界では、二つの大きな流れがある。一つは対抗要件
の國際基準統一化(注63)であり、もう一つは登録登記システムの電子化である。したがって、
中国では、第三者対抗要件立法の際、国際的視野からの法的検討も必要となる。
(注1)神田秀樹「欧米の資産流動化の状況とわが国の将来」資産流動化研究(平成7年4月)1
頁。
(注2)これは、オリジネーターにつき破産申立がなされた場合に、オリジネーターとSPVの間
の資産譲渡の法的性質が、破産裁判所により、売買ではなく担保権設定契約付きの金銭貸借
にすぎないと認定される可能性に関する問題である。詳細について、Jason H.P. Kravitt ed.,
Securitization of Financial Assets(2nd, 1999), §5.03 and §5.05参照。
(注3)神田秀樹=能見善久「債権流動化と債権譲渡の対抗要件」金融研究15巻2号80頁。
(注4)米国法においては、日本法でいうところの対抗要件の概念は存在せず、同じく、第三
者であっても、譲受人が、その権利を主張するための要件は、二重譲受人、差押債権者等そ
の種類によって異なる。しかし、他に適当な用語もないため、便宜上対抗要件という用語を
用いることとする。詳細については、角紀代恵「債権譲渡における権利の競合とその優劣―
―アメリカ法の場合」加藤一郎先生古稀記念(下)556頁以下参照。
(注5)コモン・ローの詳細については、角紀代恵「債権流動化と債権譲渡の対抗要件(1)――U
CC登録制度を参考として」NBL595号7頁以下参照。
(注6)1999年初に改正法が各州議会に送付され、2001年7月1日より各州において施行される
ことが目標としていたが、2001年12月末現在、アラバマ州、フロリダ州およびミシシッピ州
(2002年1月1日に発効)を除いて、改正法は47カ州とコロンビア特別区においてすでに発効
した。
(注7)具体的に言えば、それらは、営業譲渡の一部としてなされる売掛債権または動産抵当
証券の売却(これらがその営業から生じた場合に限る)、取立だけの目的による売掛債権ま
たは動産抵当証券の譲渡、契約による履行をなすべき譲受人に対する当該契約上の支払を受
ける権利の移転および一個の売掛債権の代物弁済としての移転である。
(注8)ここで注意しなければならないのは、これらの売買にUCC第9編の規定が適用される
こと自体がかかる資産の譲渡の法的性質を決定するわけではないということである。詳細に
ついては、佐藤正謙「金融資産の証券化に伴う実務上の問題点(1)」NBL568号32頁参照。
(注9)§9-303 Comment 1参照。
(注10)「売掛債権(accounts)」の記載を十分とした判例として、Continental Oil Co. v. Cit
izens Trust & Sav. Bank, 225 NW. 2d 209, 16 UCC Rep. 540 (Mich. Ct. App. 1974)等。
「一般無体財産(general intangible)」の記載に関する肯定例として、In re Magnum Opus
Electronics, Ltd., 19 UCC Rep. 242 (Bankr. SDNY 1976)。
(注11)「全動産(all personal property)」なる記載を不十分とした判例として、In re Fuqua,
461 F. 2d 1186, 10 UCC Rep. 936(10th Cir. 1972)。「有体動産(tangible personal propert
y)」との記載に関する否定例として、In re Lockwood, 16 UCC Rep. 195 (Bankr. D. Conn.
1973)。
(注12)「通知のための登録」のシステムは、単純な通知(ファイナンシングステートメント)
を登録すればよいのであり、また、その時期は担保権の成立の前でも後でも構わない。通知
そのものからは、単に、登録を行った担保権者が、表示されている担保物件に対して担保権
を有している可能性が窺えるのみであり、実情を完全に知るためには、関係当事者からさら
に事情を聴取することが必要である。§9-402 Comment 2 参照。
(注13)例えば、ある債務者の財産に関して、まずAが、ついでBがファイナンシングステー
トメントを登録すれば、Aの方が優先権を持つ。しかし、5年経過してAの登録が失効し、
Bの登録がまだ有効である時には、Bの担保権の方が対抗力を失ったAの担保権よりも優先
する。§9-403 Comment 3参照。
(注14)消費者向け物品の場合には、債務者の要求がなくても解除ステートメントを登録しな
ければならないという要件は、1972年版UCCになって追加された。これは、多くの消費者
は、記録を清算するために解除ステートメントを要求することの重要性を認識していないか
らである。§9-404 Comment 1 参照。
(注15)UCC第9編は、対抗要件具備のために登録以外の方法も認めたため、ファースト・フ
ァイル・ルールを貫徹することはできず、そのため、登録もしくは対抗要件のいずれかを先
に具備した担保権が優先すると定めている(§9-312(5)(a);改§9-322(a)(1))。
(注16)担保権が対抗要件を具備するためには、担保権が成立していることが必要である。従
って、ファイナンシングステートメントを先に登録していても、担保権の成立が後であれば、
対抗要件の具備は後になるわけである。
(注17)角紀代恵「債権流動化と債権譲渡の対抗要件(3)――UCC登録制度を参考として」NB
L598号56頁。
(注18)否認権が行使されると、譲受人の所有者としての権利は破産財産のために信託的に保
持されることになる。連邦破産法、11 U.S.C.A.、§551参照。
(注19)したがって、債権譲渡特例法の適用のある債権譲渡の対抗要件の具備については、民
法によるか債権譲渡特例法によるかは、当事者の選択に委ねられている。
(注20)債権譲渡特例法は、債権譲渡登記(法5条)、質権設定登記(法5条および10条)、
延長登記(法6条および10条)および抹消登記(法7条および10条)の4種類の登記を定め
ている。
(注21)経営法友会・債権譲渡担保マニュアル作成研究会編『債権譲渡担保マニュアル』(商
事法務研究会、平成12年)28頁。
(注22)法務省民事局参事官室・第四課編『Q&A債権譲渡特例法(改訂版)』(商事法務研
究会、平成10年)24頁。
(注23)譲渡人は法人でなければならないが、譲受人は法人でなくてもよい。
(注24)前掲注(22)Q&A債権譲渡特例法36頁。
(注25)債権譲渡担保は、債務者から債権者に対して担保のために債権譲渡が行われるもので
あり、その有効性については既に判例・学説において承認されており、対抗要件については、
第三債務者に対する通知または第三債務者による承諾が必要であるとされている。
(注26)前掲注(22)Q&A債権譲渡特例法28頁。
(注27)前掲注(22)Q&A債権譲渡特例法27頁。
(注28)前掲注(22)Q&A債権譲渡特例法56頁以下参照。
(注29)池田真朗「債権譲渡特例法の評価と今後の課題」ジュリスト1141号123頁。
(注30)「通知があった」と認めるためには、その通知が債務者に到達したことが必要である
ので、具体的には、債権譲渡登記がなされた時(完了した時点)に、第三者対抗要件として
の確定日付のある証書による通知が債務者に到達したものとみなされることとなる。
(注31)揖斐潔「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の概要(2)」NBL645
号50頁。
(注32)なお、債権譲渡登記の申請書には、譲渡に係る債権が存在することや、これが譲渡さ
れたことを証する書面を添付する必要はない。
(注33)申請磁気ディスクの構造は、登記規則8条に、申請磁気ディスクに所定事項を記録す
る方式は、平成10年法務省告示295号(登記令7条3項および4項参照)に、それぞれ定め
られている。
(注34)登記によって直接利益を受ける譲受人(登記権利者)と不利益を受ける譲渡人(登記
義務者)とが共同して申請すべきこととすることにより、登記の申請を担保し、虚偽の債権
譲渡登記がされることを防ぐ必要があるからである。
(注35)債権譲渡登記事務は、電子情報処理組織により取り扱うことを予定している(法5条
1項)ため、この事務を所管する登記所には電子情報処理組織を備えなければならないこと、
現時点では地方における利用予測ができないこと等から、制度発足当初において債権譲渡登
記を所管する登記所としては東京法務局のみを指定し、同局において全国の債権譲渡登記に
関する事務を所管させることとするものである。
(注36)なお、債権譲渡特例法等には登記管轄に関する定めはおかれていないので、将来複数
の法務局等が指定されたとしても、登記管轄によって取扱登記所が限定されることはない。
渋佐慎吾「債権譲渡登記制度の創設および制度の概要(1)」NBL649号7頁。
(注37)なぜならば、債権譲渡登記制度は、他の対抗要件制度と競合する制度であるからであ
る。また、債権譲渡登記事務は電子情報処理組織により取扱い(法5条1項)、登記申請に
もフロッピー等の電子媒体を使用することとしており(登記令7条1項、登記規則8条)、
これにより、多数の債権を譲渡した債権譲渡登記の申請であっても、即日処理が可能となる
ものであると考えているからである。
(注38)なお、債権譲渡登記の申請については、譲渡に係る債権が存在することや、これが譲
渡されたことは審査されない。また、同一の債権について、過去に債権譲渡の登記がされて
いるかどうかも審査の対象とされていない。
(注39)登記事項は、債権譲渡特例法5条1項、登記規則6条1項に定められており、主な項
目を挙げれば、①譲渡人および譲受人、②登記原因およびその日付、③譲渡に係る債権(総
額のほか、各債権について、当該債権を特定するために必要な事項)、④登記の存続期間、
⑤登記番号、⑥登記年月日であるが、債権譲渡登記ファイルには、以上の登記事項のほかに
も、⑦代理人、⑧譲渡に係る債権を特定するために有益な事項として申請人の希望により申
請磁気ディスクに記録された事項、⑨登記の時刻も記録される(登記規則13条1項)。
(注40)例えば、申請をした事項が登記すべきものでなかったり、申請者が申請の権限を有し
なかったり、登記申請書等が方式に適合しなかったり、お互いに抵触したり、手数料の納付
を怠ったりするときである。
(注41)金子直史「債権譲渡登記制度の概要」商事法務1507号13頁。
(注42)この通知は、申請人に対し、申請に係る登記が無事にされたことを確認する機会を与
えるとともに、申請人が後日に至って登記事項概要証明書等の交付申請、抹消登記等の申請
等をする際の便宜を図るため、登記番号を通知するものである。
(注43)これによって、譲渡人が債権譲渡登記後に商号や本店等の表示に変更が生じたときに
も、譲渡人の商業登記簿を調べれば、債権譲渡登記に関する概括的な情報を入手することが
でき、債権譲渡登記制度の簡便性を維持しながら、その公示機能を補完する役割を果たして
いる。
(注44)なお、登記をした処分に対し審査請求ができるのは、登記官が職権で登記を更生また
は抹消することができる場合(登記令12条および13条)に限られる。
(注45)登記事項のうち、譲渡に係る債権を特定する事項を除いた事項を記載したものである。
(注46)登記事項証明書の交付を請求することができる利害関係人は、政令で定めることとさ
れているが、具体的には、譲渡に係る債権の差押債権者、仮差押債権者、譲渡人または譲受
人等の財産の管理処分権者等(例えば、破産管財人、会社更生法による管財人および保全管
理人等)とされた(登記令15条)。なお、この利害関係人には、債権を譲り受けようとする
者は含まれない。
(注47)債権譲渡登記の存続期間は、各登記の申請権者である譲渡人と譲受人が定める。その
期間は、特別の事由がなければ50年を超えることができない(法5条2項)。存続期間の経
過した債権譲渡登記については、債権譲渡登記ファイル上で閉鎖の措置がとられ、同ファイ
ル上に区分された閉鎖登記ファイルに記録されることとなる。
(注48)債権譲渡登記が延長された場合も、最初に登記された存続期間と通算して50年を超え
ることができない(法6条1項但し書)。
(注49)渋佐・前掲注(36)NBL649号11頁。
(注50)特定債権法上の公告は、事前に通産大臣に譲渡に係る計画の確認等を受ける必要があ
るので、このような場合に対抗要件の具備方法として選択されないのではないかと考えられ
る。
(注51)最高裁昭和49年3月7日判決、民集28巻2号174頁。
(注52)最高裁平成5年3月30日判決、民集47巻4号333頁。
(注53)最高裁昭和58年3月22日判決、判時1134号75頁。
(注54)前掲注(21)債権譲渡担保マニュアル38頁。
(注55)新契約法は全23章428条からなる中国初の統一契約法典であり、「中華人民共和国経
済契約法(経済合同法)」、「中華人民共和国渉外経済契約法(渉外経済合同法)」および
「中華人民共和国技術契約法(技術合同法)」の三つの法律(以下「旧契約法」という)を
統合するとともにこれら代替するものである。新契約法の施行により中国の民法制度は飛躍
的に充実することになった。
(注56)旧契約法の下では、債権の譲渡について、債務者の承諾がなければ、単なる債務者へ
の通知により、当該譲渡は債務者に対し効力を生じないとしていた。新契約法は、この債務
者に対する効力要件を簡素化した(通知だけでよい)。
(注57)池田真朗『債権譲渡の研究(増補版)』(弘文堂、平成9年)110頁。
(注58)神田・能見・前掲注(3)金融研究15巻2号89頁。
(注59)角・前掲注(17)NBL598号57頁。
(注60)角紀代恵「債権流動化と債権譲渡の対抗要件(4・完)――UCC登録制度を参考として」
NBL599号35頁。
(注61)いまのところ、中国の地方工商行政管理機関は、商業登記や動産(航空機、船舶、車
両を除く)抵当登記の法定機関である。
(注62)金融法務事情1541号6頁以下参照。
(注63)UNCITRAL(国連國際商取引法委員会)は、資金調達目的のための國際債権譲渡に関す
る世界統一モデル法を作成し、2001年7月に採択した。