私に出来る事、 残された課題

平成23年
11月
可児市教育委員会
生涯学習課
発行
No,40
中学生人権作文コンテスト 最優秀賞 【 岐阜県人権擁護委員連合会長賞 】
「 私に出来る事、 残された課題 」
揖斐川町立谷汲中学校
一年
不破 礼華 さん
これは、 ある年の瀬の出来事だ。
「 あと8時間もすれば今年も終わるね 。 」 などと他愛もない話をしながら、 ある交差点にさしかかった。 そこは、
大手スーパーがある交差点で、 時期も加えて人通りもかなり多い。 そして、 大みそか にはいかにも似つかわしく
ない雪が、 チラチラと降り始めている。 すでに道路は、 溶けた雪でぐちゃぐちゃになっている。 寒さと忙しさに加え、
行き交う人も足早である。
「 あっ 。 」 私の声と同時に母が急ブレーキを踏んだ。 自転車道で、 老人が 「 ガッシャーン 。 」 と騒がしい音をたてて
転んだ。 骨のゆがんだ黒いかさが、 ふわりととんだ。 うしろに積まれてあった扇風機や炊飯器がものすごい音をた
てて散らばった。 くるんであった毛布が転がるように水たまりの上に落ちた。 老人は、 いちもくさんに前のかごの中
に入っていたであろう、 その何かを懸命に両手で拾い集めている様であった。 半径2メートル程に散らばった荷物に
は目もくれず。
行き交う人の足が一瞬止まる。 しかし、 よく見ると何かが違う。 手をさしのべたかと思うとスッと早々引っこめ、
プィッと背を向けて立ち去ってしまったのである。 優しい表情で近づいた婦人も、 スー ツをビシッと着た男性も。
三人組の若いお姉さん達も。 子ども連れのおばさんは、 手を引いていた子どもに 「 ダメ 」 といわんばかりに制止
した。 何かがおかしいのである。
母は路肩に車を止めた。 「 ちょっと、 待っとってね 。 」 そう言い残すと、 バシャバシャとぬれた道をかけ出して行っ
た 。 倒れた老人を起こし、 腕をまくり始めた。 私と弟は遠まきに、 車の中からその様子を見ていた。 不自然さを感じ
ながら。 あんなにも大胆に散らばっているのに、 まるで何も見えていないかのように人が通り過ぎて行く。 確かにだ
れの目にも映っているはずなのだが。
私は心配になり、 車から降りて近くにかけ寄った。 プーンと異臭がした。 鼻をつく嫌なにおい。 起こされた老人は、
この雪の中、 汚れた T シャツに、 ビリビリに破れた半ズボン。 そして素足にゴムぞうりを履いていた。 「 ホームレス
のおじさんだ 。 」 うわさで聞いたことはあるが、 こんなにも間近で見たことは未だ、 無い。
「 これは食べられる 。 まだ大丈夫 。 」 と、 泥にまみれたごはん粒を拾い集めている。 大事そうに集めていた 「 何か 」
は、 どこかから拾ってきたであろう、 だれかの食べ残したお弁当だったのだ。 母は、 捨てることをかたくなに拒む老人
を諭すようにして集めたお弁当を袋につめた。 うす汚れて割れたビンのかけらを拾い集め、 その老人はこぼれたジュ
ースを惜しむように見つめていた。 私はとっさに車に戻ると、 さっき買ったおにぎりやパンを袋にいっぱいに詰め込
んだ。 弟のジュースやお菓子を無造作に奪い取り、 「 現場 」 へ戻った。 「 おじさん 、 これ 。 」 差し出した袋を受け取る
とうれしそうに私を見た。 どれくらいの時間が過ぎたのだろう。 「 じゃあ、 いいお年を 。 」 母はそう言って背を向けた。
ハンドルを握る母の手は真っ赤になり、 赤黒く汚れている。 泣いている 。 何も言わずに黙って車を走らせる母のほ
ほに涙が筋になって流れていた。 しばらくして母はポツリと言った。
「 一瞬でも 、 手を引っ込めようとした自分が悔しくて情けない 。 」
私は、 かけてあげられる言葉が見つからない 。 何か言わなければ、 と思えば思うほど 、 言葉が出てこない。 「 人間が
人間として、 人間らしく生きる 」 って何だろう 。 そして、 「 平等に生きる 」 とは一体何を基準にして成り立っているの
だろう。 人によって幸福の基準はもちろん違うが、 生きていくために最低限保障されるというのなら、 最低限とは、
一体どこまでいけば、 「 最低 」 の域なのだろう。 今回の出来事に遭遇した事で、 残された課題は多い。 ぼんやりでは
あるが、 母の涙の意味も少しだけ解る気がした。 まず平等に生きていく環境を整える前に、 私自身がしなければなら
ないこと、 それは 、 「 差別のない思想 」 を考える事である。
不破さんの作文を読みながら、 涙がこぼれてきました。 ここに自分がいたら、 どうしただろうと考えたからです。
ぜひ、 お子さんと一緒に不破さんの作文を読んでみてください。 子どもから学ぶことが、 きっとあるはずです。
講師 : 藤田 敬一氏
幸せ子育て講演会
藤田敬一氏 プロフィール
京都大学大学院文学研究科博士課程終了
岐阜 大学 生涯 教育講 座教 授︵ 歴史 学・ 人権教 育
担当︶
現在、岐阜県人権懇話会会長・人間と差別を
考える月刊誌﹁こぺる﹂編集責任者
平成 23 年 12 月 1 日 (木)
10:00∼12:00
可児市文化創造センター 映像シアター 先着 100 人
「 今日はこんなこと、 ただ 」
スへ
「 このお母こん話し」 など、 会話がとってへいせいも盛り上がります。
* 11 月 14 日(月) から電話または電子メールでお申し込みください。
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* 可児市教育委員会 生涯学習課 生涯学習係 係長 杉下 担当 渡辺 ・ 大杉 ・ 吉田
* 電話 62-1111 (内線 2424、2425、2426) FAX 62-4248
* E-mail [email protected]