ポンポコ先生の究極の文章テクニック http://takahashifumiaki.com/

たった 15 分で文章がみちがえるように上達する
ポンポコ先生の究極の文章テクニック
高橋フミアキ事務所
http://takahashifumiaki.com/
パート1
1行も書けなかった小学 6 年生が……
僕が塾の講師をしていた頃のお話です。小学、中学の算数、数学を担当していました。
僕はその頃から小説を書いていて、塾長から「文学青年君」と呼ばれていました。
僕の受け持ちクラスに中学受験をひかえた小学 6 年生の女の子がいました。
「何がなんで
も有名私立中学に入りたい」と本人も母親も言うのです。しかしその女の子の算数の成績
はまるでお話になりません。目指す私立中学に合格できるレベルではありませんでした。
母親は僕に何かあると「うちの娘をよろしくお願いします」と言ってきます。プレゼン
トを贈ってきたりもしました。
塾長に相談すると「あれじゃあ、子どもが可愛そうだ。無理して受験させる必要はない。
今度、母親に言ってやる」と言います。しかし、塾長が言っても母親はききません。なん
とか補習をやってほしいというのです。
僕は釈然としないまま、日曜日にその女の子のため補習を行うことにしました。女の子
は遊びたいはずなのに、素直に塾に来ます。おとなしい子で、どことなくオドオドとして
います。僕はこの女の子の望みを叶えてあげたいと心から思いました。
その女の子の弱点は文章問題です。「速さと時間と距離の問題」「2つの食塩水を混ぜる
と何%の食塩水になるかという問題」など、4年生レベルの問題がまったくできません。
女の子にいくら説明しても理解しないのです。
そこで僕は指導方法を変えてみました。算数ではなく国語を教えてみたのです。しかも
作文を教えてみました。
「いちばん好きな人に手紙を書いてみようか」
「5年後の自分にメッセージを書いてみよう
よ」「たった5行でいいから詩を書いてみないか」と作文を促すのですが、女の子はまった
く書きません。言葉がひとことも出てこないのです。
いつも下を向いていて、無口で、何か質問しても何も答えられず顔を赤くするような女
の子でした。自分の意見を口にすることもなければ、態度や仕草で表現することもありま
せん。人間ですから怒ったり喜んだり、嫌だと思うこともあるはずです。
「好きな食べ物は何?」と尋ねても、
「……」何も答えません。
僕はキュウンと胸が締め付けられるような思いがしました。この女の子が可哀そうでな
らないのです。親の期待にこたえるために必死で頑張ってる女の子、友だちと遊ぶ時間を
けずって勉強する女の子、親に誉めてもらおう、母親に喜んでもらおう、もっといい子に
なろう、そう思って懸命に自分を殺している、僕にはその女の子がそう映りました。
「何を恐れてるの?」と僕は聞いてみました。
「中学受験で失敗してお母さんを悲しませるのが怖いの?」僕がそう言うと、
女の子は黙ってコクリとうなずきます。
「君は君の人生を歩めばいい、君らしく生きていけばいいんだよ」
「……」
「人間はね。大樹と同じで、ほおっておけば大きく育つんだ。何も我慢することもないし、
何も頑張る必要もないんだ。やっと芽がでた双葉を踏んづけたり、ロープでしばったりす
るからうまく育たないだけだ。君は君のままでいい。変わろうなんて思わなくていい。気
張る必要もないし、頑張る必要もないんだよ」
女の子はキョトンとしています。僕は小学生にはちょっと難しすぎたかなと思いました。
「そうだ、今日は、先生と失敗ゴッコをしよう!」
「……」
2
「失敗だよ。う~んと失敗しようよ。人生、失敗したっていいんだよ」
そう言い、僕は算数のテスト用紙を女の子の前で破りました。女の子は目を見開いて驚
きます。僕たちは小さい頃から「失敗してはいけない」と教わります。テストでもミスを
すると減点されます。もちろん取り返しのつかない失敗はありますが、たいがいの失敗は
許されるものです。許される世の中をつくりたいと思いませんか。
「いいから、君もやってごらん」
なかなか破ろうとしない女の子に「さあ」と僕は後ろから手を添えてテスト用紙をやぶ
ってみました。
「いいから、さあ。どんどん破っちゃおうよ」
僕は言い、職員室からいらなくなったテスト用紙をいっぱいもってきました。女の子も
やっと自分でテストを破りはじめます。僕と女の子はふたりで夢中になってテスト用紙を
破りました。僕は時折、「算数なんて大嫌いだ!」とか「理科なんかこの世からなくなって
しまえ!」とか「英語の先生、ごめんなさい!」などと、心に浮かんだ言葉を叫びながら
破りました。
女の子の頬に笑顔の光がさしてきます。
「ほら、君も何か言ってごらん」
何も言おうとしない女の子に「ほら」と促しました。
女の子はテスト用紙を破る手を一瞬止めて、ぼそりとつぶやきます。
「お母さん、ごめんなさい」
その後、僕は女の子にとっておきの文章テクニックを教えました。わずか 15 分ほどのレ
クチャーで女の子はスラスラと書けるようになったのです。これには僕も驚きました。
僕は毎週日曜日の補習をしばらくの間、作文指導することにしたのです。すると、女の
子の算数の成績もグングン伸びていきました。
文章は誰でも書けます。学歴がなくても、言葉をあまり知らなくても書けるのです。努
力もいりません。生活時間を変える必要もありません。いまのままのあなたで十分です。
誰かになろうとか、流行の生き方をしようとか、そんな努力もいりません。あなたには、
あなたにしか書けない文章があるのです。そして、その文章を書くのはあなたしかいませ
ん。
文章が書けないのは、あなたの心をがんじがらめにしている見えない鎖があるからです。
その鎖を断ち切るのは簡単です。誰でもその鎖を切る力をもっているのに切れないと思い
込んでいるだけなのです。
僕やこの女の子の場合、何か小さな失敗をすることですっきりと断ち切ることができま
した。いまでも時々、わざと失敗をします。たとえば、古くなったお皿に嫌な奴の名前を
書いて割ってみるとかね。
さあ、心の準備ができたら、文章スクールのはじまりです。
1行も書けなかった小学生が、文章をスラスラと書けるようになった究極の「文章テク
ニック」をお話しします。
3
パート2
スラスラ書ける究極の文章テクニック
1)思ったこと、感じたことを自由に書けっていうけれど
小学校のとき、作文の授業がありました。先生は「運動会の思い出」というテーマを児
童に与え、「思ったこと、感じたことを自由に書けばいいのよ」と言います。ところが、そ
ういわれると僕らは1行も書けなくなったものです。だって思ったことといえば、「楽しか
った」くらいしかありません。それをどう書けばいいというのでしょうか?
学校の先生は「起承転結を考えて書けばいい」「ほとんどの文章には起承転結がある」と
いいます。ところが、起承転結をどうつくっていけばいいのかがわからないのです。その
ことについては、先生たちは教えてくれません。だから、いつまでたっても文章は上達し
ないのです。
あるとき、僕は兄からこんなことを教わりました。「運動会の思い出を書くとき、楽しか
ったことを『楽しかった』という言葉を使わないで表現してみな」と兄は言います。つま
り、感じたことは「楽しかった」でいいのです。それ以外の感じたことを搾り出そうとし
ても出てきません。それよりも、「楽しかった」ということを掘り下げて書けばいいと兄は
言います。楽しかったら、楽しかったなりの行動をしたはず、その行動を書けばいい。自
分の走る番が待ち遠しくて友だちと校庭の端を走り回ったとか、鉢巻を何度も締めなおし
たとか、そういう行動が楽しい気持ちを表現していくのだと兄は言います。
楽しかったときは、いつもの母親の小言も違ったふうに聞こえたはず、いつもの味噌汁
の匂いがいい匂いに感じたはず、そうしたことを書けばいいと兄は言うのです。
兄が教えてくれた文章の書き方をここでお教えします。
2)まず何を書くのかを明確にする。
まず、そのテーマに関して、自分は何を書きたいのかを明確にします。自分の感じたこ
とでもいいし、伝えたいメッセージでもいいのです。それはひとつでかまいません。運動
会がテーマだったら、
「楽しかった」か、あるいは「つまらなかった」か、それをまず決め
るのです。そして、それにまつわる出来事をかき集めます。
3)キーワードを書き出す。
出来事をかき集め、キーワードとなる言葉を書いてみます。ポイントは次の8つです。
・ 動き
・ 心のつぶやき
・ 見たもの
・ 聞いたもの
・ 匂い
・ 肌の感触
・ 舌で感じた味
・ 会話文
4)オチを先に考える
キーワードを書き出したら、そのノートを眺めながら、文章の最後にくるオチを先に考
えます。オチには、次のようなテクニックがあります。
・ 教訓か、教訓めいた言葉で締めくくる
・ 疑問形や呼びかけで終わる
4
・ 名言を引用する
・ 共鳴のテクニック。最初に書いた言葉やエピソード、問いかけなどを、最後の部分で
もう一度書くというテクニックです。最初と最後が共鳴することでオチをつけること
ができます。
・ ユニークなオチの付け方。
「あ、時間がない、続きはまたあとで」とか「その件に関
してはまた来週」「今日は、このへんで終わりたいと思います」といったふうに、テ
レビ番組のエンディングのような終わり方もあります。
・ その他、いろんな文章を読んで、面白いオチを見つけたときは、すぐにメモをして、
模倣してみるといいですよ。
5)ストーリー仕立てで書くテクニック
▼1日目の 15 分トレーニング/昼食をストーリー仕立てで書いてみる
このテクニックを使えば、文章が面白いように書けるようになります。10 枚でも 100 枚
でも、好きなだけ書けるのです。他にもいっぱい文章テクニックはありますが、まずはこ
の「ストーリー仕立てで書くテクニック」を身につけてください。
このテクニックはひとことで言うと「出来事を起きた順に書く」ということです。時間
をおってひとつひとつ思い出しながら起きたことを書いていけばいいのです。
試しに今日の昼食での出来事をストーリー仕立てで書いてみてください。僕はひとりで
ひやむぎを食べましたので、そのことをストーリー仕立てで書いてみましょう。
ひとりの部屋で僕は空腹を感じた。何を食べようか。涼しさを感じる麺類がいい。とに
かく、鍋に水をいっぱいに張る。それをガスコンロにかけて火をつけた。都市ガスの匂い
がする。水が沸騰するまでの間、僕はパソコンの前に座った。インターネットでスポーツ
ニュースをチェックする。夏の高校野球の試合が気になったからだ。
広島の代表校は2回戦を 12 対1の大差で勝っていた。少し気持ちがすっきりする。僕は
いまは東京の世田谷に住んでいるが、広島出身である。だからいまでも高校野球では広島
の代表校を応援してしまう。
あ、お湯っと思った。
ガスコンロにかかった鍋は、まるで別府の地獄めぐりのように煮立っている。ブクブク
という音が聞こえた。今日のお昼はひやむぎである。僕は鍋に塩を放り込み、そのあとに
ひやむぎを2束入れた。夏はやはりひやむぎである。そうめん派かひやむぎ派かと聞かれ
たら、迷わずひやむぎと答える。そうめんには何度も嫌な思いをさせられたからである。
僕は何度やってもそうめんを上手にゆがくことができないのだ。どろどろとした団子のよ
うなそうめんができるのである。
おっと危ない。そろそろひやむぎを火から下ろさなければならない。コンロのそばに寄
ると熱かった。僕はひやむぎをざるに移し、水道水をぶっかける。水の中でサッと洗い、
氷を入れる。つゆにわさびと花かつおを入れて食べた。わさびのツンとした辛さとかつお
の甘さが口に広がった。
いかがでしょうか?
『今日のお昼、ひやむぎを食べた。おいしかった』とたった1行
でおわってしまうことを、ストーリー仕立てで書くと、臨場感のある面白い文章になるこ
とがおわかりいただけたでしょうか。
5
これにならって、今日のお昼ご飯をストーリー仕立てで書いてみてください。これが1
日目の 15 分トレーニングです。
▼2日目の 15 分トレーニング/語尾に変化をつけてみる
昼食をストーリー仕立てで書くことができるようになったら、その文章を推敲してみま
しょう。推敲の第 1 歩は語尾に変化をつけることです。
先述の文章を見てください。1文たりとも同じ語尾が続いた部分はないはずです。
ひとりの部屋で僕は空腹を感じた。何を食べようか。涼しさを感じる麺類がいい。とに
かく、鍋に水をいっぱいに張る。それをガスコンロにかけて火をつけた。都市ガスの匂い
がする。水が沸騰するまでの間、僕はパソコンの前に座った。インターネットでスポーツ
ニュースをチェックする。昨日の高校野球の試合が気になったからだ。
『感じた』『食べようか』『麺類がいい』『張る』『つけた』『する』『座った』『する』『か
らだ』というふうに、同じ語尾が続かないように工夫してあります。同じ語尾が連続する
のも2回なら許せますが、3回以上続くと文章のリズムを損ないます。プロの書き手がい
ちばん気にするのは、実はこの語尾の使い方なのです。
語尾に変化をつけることを学ぶのが2日目のトレーニングです。
▼3日目の 15 分トレーニング/5W1H を入れて書いてみる
出来事を起きた順に書いていくのが、ストーリー仕立てで書くというテクニックですが、
何を書けばいいのか説明しないまま書いてもらいました。ですから、見本の文章をみなが
ら見よう見真似で書いた人が大半ではないでしょうか。
そこで、3日目は文章のなかに必ず5W1H を入れるように心がけてみてください。5
W1H とは、次のようなものです。
・ いつ(When)
・ どこで(Where)
・ 誰が(Who)
・ 何を(What)
・ なぜ(When)
・ どのようにして(How)
先述の文章にもちゃんと5W1H が入っています。
・ いつ(When)
『夏の高校野球』、『今日のお昼』といったキーワードでいつなのかがわかります。
・ どこで(Where)
『ひとりの部屋で』とちゃんと明記してあります。
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・ 誰が(Who)
『僕は』といってありますので、すべて僕のことを言っているのだということがわかり
ます。さらに、僕はどんな人間なのかというと、東京の世田谷に住む広島出身の人間で
あることやそうめんよりもひやむぎが好きであることが記述してあるのです。また、僕
という表現から、この登場人物は男であることが推測されます。年齢や職業はわかりま
せん。もっとスペースがあればぜひそのへんの人物像を描写するようにしてください。
ストーリー仕立てで文章を書く場合、登場してくる人物に関する情報を盛り込むこと
はもっとも重要なことです。読者はどんなことよりも人間に大きな関心を寄せます。で
すから、文章のなかに出てくる人物が男なのか女なのか、どんな職業をしていて、どん
なことで悩んでいるのか、そういうことを知りたいと思うのです。それをちゃんと書い
てあげることが重要となります。
・ 何を(What)
『ひやむぎをつくって食べた』『インターネットで高校野球の結果を調べた』という部
分が何をにあたります。
・ なぜ(When)
なぜひやむぎを食べたのか、その理由は、空腹を感じていたからです。さらに、そうめ
んよりもひやむぎが好きだからです。そうめんよりもひやむぎが好きな理由も明確にして
います。
さらに、インターネットで高校野球の結果を調べたのは、登場人物である僕が広島出身
で広島代表校の試合結果が気になったからです。
文章にはこのなぜを書く必要があります。
・ どのようにして(How)
鍋に水を入れて、ガスコンロにかけ、沸騰する間はインターネットをしながらひやむぎ
をつくりました。ひやむぎをゆがいたら、ざるに移し、水道水で洗って氷をいれます。そ
して食べたのです。
そうしたことが、文章のなかに書いてあります。
あなたの書いた文章のなかに、5W1H が抜けていたら、その抜けている部分を加筆し
てみてください。それが3日目のトレーニングです。
▼4日目の 15 分トレーニング/5感で書いてみる
出来事というのは、登場人物の動作や起きた現象です。とくに人物の動きは克明に記述
していきます。先述の文章でも動作が中心になっています。
『鍋に水をいっぱいに張る』
『ガスコンロにかけて火をつけた』
『水が沸騰するまでの間、
僕はパソコンの前に座った』
『インターネットでスポーツニュースをチェックする』といっ
た文章はすべて動作です。動作をひとつひとつ書いていくのが、ストーリー仕立てで書く
テクニックの基本です。
しかし、動作や現象ばかりを記述しても、読み手はあきてしまいます。
そこで、5感を使って書くということを勉強してください。5感とは次のようなもので
7
す。
・ 目に見えるもの
・ 耳で聞こえるもの
・ 鼻でかぐ匂い
・ 肌で感じる感触
・ 舌で味わうもの
先述の文章にも5感で書いた文が挿入してあります。
『ガスコンロにかかった鍋は、まるで別府の地獄めぐりのように煮立っている』
(目に見え
るもの)
『ブクブクという音が聞こえた』(耳で聞こえるもの)
『都市ガスの匂いがする』(鼻でかぐ匂い)
『コンロのそばに寄ると熱かった』(肌で感じる感触)
『わさびのツンとした辛さとかつおの甘さが口に広がった』(舌で味わうもの)
5感を刺激する文章が入っていると読者の心の深い部分を振るわせる効果があります。
それは人間の感情が5感と直結しているからです。痛いという肌で感じる感触が怒りとい
う感情につながっています。人に殴られ、痛いと感じるからその殴った人を憎んだり、怒
りの感情が生まれたりするのです。鼻でかぐ匂いや舌で感じる味などは快感を想起させて
くれます。
文章を書くときには常に5感を刺激することを忘れないでください。4日目のトレーニ
ングは5感で書くということです。今回は外食したときの様子を5感をフルに使って描い
てみてください。
▼5日目の 15 分トレーニング/心のつぶやきを挿入して書いてみる
ストーリー仕立てで書いた文章に、5W1H を盛り込み、5感で書くことができるよう
になったら、次は心のつぶやきを挿入してみましょう。人前では決して言えないようなこ
とや、誰もが思っているようなことなどを書いてみるのです。
先述の文章のなかにも心のつぶやきが挿入してあります。
『何を食べようか』
『涼しさを感じる麺類がいい』
『あ、お湯っと思った』
『おっと危ない』
こうした言葉が心のつぶやきです。
文章のなかに心のつぶやきがあると、読者はその文章にのめりこんでいきます。共感を
うながし、親近感が生まれるからです。
空腹なとき、誰もが「何を食べようか」と悩むはずです。悩んだ経験のない人はいない
と思います。誰もが経験していることを表現することで読者の共感を得るわけです。
さらに『あ、お湯っと思った』とか、
『おっと危ない』など口語体で書いた言葉は、親近
感がわいてきます。
では、ここで宿題です。
今日、出会った人物をストーリー仕立てで書いてみてください。いつ、どこで出会った
のか、その人物はどんな人なのか、男性か女性か、性格は?
は?
仕事は?
年齢は?
外見
そのときあなたはどんな言葉を心のなかでつぶやいたのか、それをストーリー仕立
8
てで書いてみてください。それが、5日目のトレーニングです。
▼6日目の 15 分トレーニング/会話を挿入して書いてみる
ストーリー仕立てで書く場合、欠かせないのが会話文です。6日目のトレーニングはス
トーリー仕立てで書く文章のなかに会話文を挿入することです。
会話文を書くときにはいくつかのテクニックがあります。
ひとつは、誰がそのセリフを言ったのかを明確にすることです。
「」のうしろに誰々が言った。とか、誰々が語った。と明記します。
また、誰々がこう語った。とか、誰々がこのように述べた。と前置きして「」をつける
などして、誰のセリフかを明らかにします。
セリフを言った人物の動作を「」のあとに描写することで誰が言ったのかを明確にする
方法もあります。
誰のセリフかを明確にする方法は無数にありますので、小説を読んでいろんなパターン
を仕入れてみてください。
また、セリフにはいろんな型があります。
・セリフで状況を説明するパターン
セリフのなかに5W1H を盛り込むことで状況を説明するのです。地の文で状況を長々
と説明していると読者は飽きてしまいますが、セリフでやると案外読んでくれます。
「今日は何の日だっけ」
姉がとぼけて言う。
「え、忘れたの? 私の誕生日でしょ。覚えててよ」
妹はちょっと怒って言った。
「嘘よ、忘れてなんかいないわ。5月3日、あなたの 12回目の誕生日」
「覚えていてくれたのね」
「あたりまえじゃないの。おめでとう。あ、そこの醤油とってくれる」
「はあい」
妹は素直に醤油を姉に渡す。妹は何かを期待している。だが、姉からはその期待してい
たものは出てこない。
「サッサと朝ごはんを食べてちょうだい。片付かないでしょ。お母さんとお父さんは出か
けるんですからね」
母親は綺麗に髪をセットしていた。母親も何も手にしていない。
「私が後片付けしておくから大丈夫よ。今日は夫婦でお芝居見物でしょ。行ってらっしゃ
いな」
と姉が言った。
「ねえ、みんな何か忘れていませんか?」
妹が眉をひそめて言う。
「え?
何を?」
姉がとぼけて言う。
「何かしら?」
母親はすでにイヤリングを耳につけているところである。
9
キッチンに父親が入ってくる。
「おい、これ何だ? 」
父親は小箱を手にしていた。
「もう、お父さんたら、いま持ってきちゃ駄目じゃないの」
姉が笑いながら言う。
母親が父親から小箱を取り、妹に渡す。
「はい、お誕生日おめでとう」
セリフだけでできた小話ですが、状況がちゃんと把握できるように書かれてあります。
5月3日の朝の出来事です。妹は 12 回目の誕生日を迎えます。しかし、家族の誰もプレゼ
ントを渡す気配がありません。ちょっと心配になる妹ですが、お父さんが小箱を持ってき
ます。実は、それがプレゼントだったのです。きっと、妹を驚かす演出を母親と姉が考え
ていたのでしょう。
セリフで状況を説明すると臨場感がわきてきますし、読者を引き込むことができます。
ぜひ試してみてください。
・心理とは逆のことを言ってしまうパターン
「ねえ、あなた彼のこと好きなんでしょ」
「好きなわけ、ないでしょ」
「嘘よ、嘘。好きだって、顔に書いてあるわ」
「何言ってるのよ。あんな奴、大嫌いよ」
「じゃあ、これ彼の写真。破れる?」
「え?
や、や、破れるわよ」
「じゃ、破ってみてよ。破れないくせに」
「何よ、あんな奴、破ってやるわよ」
「さあ、早く破ってみてよ」
「あっ」
「どうしたのよ、手が震えて落としちゃった?」
「そんなことないよ」
「強がり言うのはやめなさい。もっと素直になりなよ」
「強がりじゃないもん。あんな奴なんか踏んづけてやる!」
「写真を踏んでどうするのよ」
「嫌いなんだもん、あんな奴、大嫌いだもん!」
「何度も踏まないでよ。わかったわよ。あなたの気持ちはよくわかったわ」
いかがでしょうか?
シナリオのようにセリフだけ書いてみました。人物の描写も説明もありませんが、年頃
の女の子がふたりで男子のことを話題にしている状況が見えてきませんか。一方の女の子
は彼のことを大嫌いだといいますが、嫌いだと言えば言うほど、好きだと言っているよう
に聞こえます。
このように心理とは逆のことをセリフで言わすことで、印象深いものになるのです。
10
・かみ合わない会話のタイプ
「ねえ、恵子さん、ちゃんと話してくださいな」
奈々子は友人として気がかりだった。もしも恵子が永野のことを好きなのであれば、ど
んなことをしてもその恋を成就してあげたいと奈々子は思うのである。
「おいしいハーブティがあるのよ」
恵子は席を立ち、キッチンへ向かう。
「話をはぐらかさないで、本当の気持ちを教えてちょうだい」
「すぐにお茶を入れるわね」
「永野先生のこと好きなんでしょ」
「カモミールは精神安定の効果があって、気持ちが落ち着くのよ」
「ねえ、永野先生もあなたのことを気になる女性ですって言ってたわよ」
「あ、お湯が沸いたわ」
「あなたさえ OK すれば、2 人は結ばれるのよ」
「ね、いい香りがしてきたでしょ」
こんなふうにどこまでいってもかみ合わない会話があります。会話をわざとかみ合わな
くさせることで、登場人物の心理状態を見事に描くわけです。
「永野先生のこと好きなんでしょ」と聞かれて「はい、好きです」と答えてしまったら、
それで会話は終了してしまいます。単純な受け答えほどつまらない会話はありません。多
少、かみ合わないくらいがちょうどいいのです。
▼7日目の 15 分トレーニング/説明文を挿入して書いてみる
ストーリー仕立てで書かれた文章には、描写部分と説明部分があります。5W1H や心
のつぶやき、動作、5感など、それを1秒ごとに細かく書いている部分は描写です。映像
が目に浮かんでくるように書いてあります。
一方、説明文は映像が浮かんできません。現在どういう状況になっているのかを説明し
たり、その人物がどういう人間なのか、年齢や性別、出身地、性格などを書いた部分も説
明文です。人間関係や過去の確執を説明する場合もありますし、そこにある家具に関する
説明をする場合もあります。
ストーリー仕立てで書く文章のなかに説明文も挿入してみましょう。では、『修学旅行の
思い出』をストーリー仕立てで書いてみました。
11 月の朝、僕たちは東京駅に集合し新幹線に乗った。小旗を持った旅行代理店のお姉さ
んが注意事項を説明しているが僕らの耳には何も入っていない。なぜならば、これから向
かう修学旅行への期待で胸がいっぱいだったからだ。
僕たちは中学 2 年生である。修学旅行のコースは京都、奈良、大阪だった。京都も奈良
もあるのはお寺ばかりである。中学2年生がお寺にいって何を学ぶというのだろう。僕ら
には退屈でしかない。だが、この修学旅行にはメインの楽しみがあった。それは大阪、ユ
ニバーサルスタジオ・ジャパンである。すでに行った経験のある人も何人かいるみたいだ
が、僕はまだ行ったことがない。
11
「とうとうその日が来てしまいましたなあ」
友人の義弘君が言う。
義弘君は僕と同じクラスで、成績も優秀である。歴史が得意で、ときどき歴史的人物に
なりきって天下国家を語ることがあった。「このままでは、日本はつぶれてしまうぜよ」と
坂本竜馬になったつもりで言ってみたり、「パンがなければケーキを食べればいいじゃない
の」とマリー・アントワネットになりきることもある。色白で手足の細長い男の子だった。
「来てしまいましたなあ」
と僕は答える。
引率の先生が大声を張り上げている。そろそろ出発らしい。制服を着た修学旅行の一団
が東京駅の新幹線改札口を入っていく。
「いざ鎌倉ですな」
歴史好きな義弘君がおどけて言った。
「鎌倉ではなくて、行き先は京都ですぞ」
エスカレーターに乗り、新幹線のホームへたどり着く。僕らが乗ったのは『のぞみ12
号博多行き』だった。僕と義弘君は隣の席だった。他の席の人たちはシートを回転させて 4
人の対面シートにしていたが、僕たちは2人席のままにした。うしろの席の女子もそのほ
うがよさそうだった。
新幹線がいよいよ動き始める。まるで線路の上をすべるように走る。僕の胸がドキドキ
してくる。新幹線ははじめてではないが、義弘君やクラスの人たちと一緒に乗るのははじ
めてである。このドキドキはいたるところで僕の胸を襲った。
最初にやってきたのは、小田原を過ぎて右手に富士山が見えたときだ。富士山の雄姿を
眺めたとき、僕はしばらく口をぽかんと開けていた。
小説『宮本武蔵』に富士山の景色を眺めるシーンがある。武蔵は弟子を連れていて、そ
の弟子にこう言うのだ。
「あれになろう、これになろうと、ふらふらせずに、まずは富士山のようなどっしりとし
た人間になれ!」
富士山は僕に笑いかけているようにも見えるし、厳しく諭しているようにも見える。謎
めいた表情を見せる富士山であった。まるでこれから始まる大ハプニングを予言している
ようでもあった。
この文章には説明文の部分が3箇所あります。以下がその説明文の部分です。
僕たちは中学 2 年生である。修学旅行のコースは京都、奈良、大阪だった。京都も奈良
もあるのはお寺ばかりである。中学2年生がお寺にいって何を学ぶというのだろう。僕ら
には退屈でしかない。だが、この修学旅行にはメインの楽しみがあった。それは大阪、ユ
ニバーサルスタジオ・ジャパンである。すでに行った経験のある人も何人かいるみたいだ
が、僕はまだ行ったことがない。
義弘君は僕と同じクラスで、成績も優秀である。歴史が得意で、ときどき歴史的人物に
なりきって天下国家を語ることがあった。「このままでは、日本はつぶれてしまうぜよ」と
坂本竜馬になったつもりでいたり、「パンがなければケーキを食べればいいじゃないの」と
マリー・アントワネットになりきることもある。色白で手足の細長い男の子だった。
小説『宮本武蔵』に富士山の景色を眺めるシーンがある。武蔵は弟子を連れていて、そ
12
の弟子にこう言うのだ。
「あれになろう、これになろうと、ふらふらせずに、まずは富士山のようなどっしりとし
た人間になれ!」
富士山は僕に笑いかけているようにも見えるし、厳しく諭しているようにも見える。謎
めいた表情を見せる富士山であった。まるでこれから始まる大ハプニングを予言している
ようでもあった。
では、あなたも『修学旅行の思い出』をストーリー仕立てで書いてみてください。その
際、描写と説明を織り交ぜて書くことを心がけてみましょう。
▼8日目の 15 分トレーニング/喜怒哀楽を表現してみる
ストーリー仕立てで書くというテクニックを習得するには、1秒ごとに細かく書く部分
とさらっと流す部分の使い分けができなければなりません。与えられた文字量の範囲内で
書き終えなければいけないのです。たった3分の出来事を描くのに 10 枚も 20 枚も費やし
ているといつまでたってもそのストーリーが終わりません。ストーリーはいつか終わらな
ければならないのです。
朝7時に男は起きた。7時半に家を出れば間に合う。男は歯を磨く。歯磨き粉は知覚過
敏症に効くものを使っている。歯ブラシにその白い粉をつけ、磨いた。口のなかに薄荷の
匂いが広がる。白い歯磨き粉の泡を吐き出す。うがいをし、顔を洗った。
鏡を見る。ここ1週間でずいぶんと年老いた気がする。じっと自分の顔を見る。鏡のな
かの自分は何も語ってはくれない。
キッチンのテーブルには今日の新聞がある。
「あなた、早くしないと遅れますわよ」
「うん、わかってる」
こんな調子で朝の出来事を延々と書いているといつまでたってもストーリーは終わりま
せん。歯を磨くことや、歯磨き粉が知覚過敏症に効くものであるかどうかといったことは、
はしょってもいいのではないでしょうか。あなたはどう思いますか?
もし朝の風景をさらっと流すのであれば、
『男は、朝7時に目を覚まし、30 分後には家を
出た』と1行の文章で終わります。さて、上記の文章は、そのようにさらっと流していい
ものでしょうか?
その場面を細かく描くか、さらっと流すかの基準はどこにあるのでしょうか。実はポイ
ントは喜怒哀楽にあります。喜怒哀楽とは「喜び」
「怒り」
「哀しみ」
「楽しみ」のことです。
つまり、感情や心が大きく揺れ動いたときのことをいいます。
苦しくて悲しくて涙を流したとき、あるいは、嬉しくて歌いだしたくなったときなど、
感情があふれたりしぼんだりしたときのことです。そういうときを細かく描写します。そ
れ以外の部分はさらっと流すのです。
もしも上記の文章が、こういう場面だったら1秒1秒を細かく描写するべきです。男は
若き経営者で会社がとんでもない不正をやってしまいました。検察から訴えられています。
男はその日の朝、マスコミの前で記者会見をしなければいけないのです。
そういう緊迫した日の朝であれば、1秒1秒を細かく描写すればより効果的になります。
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朝、何を食べたのか、妻とどんな会話をしたのか、何気ない会話でも、その日の会話は記
述するに値するのです。
それでは課題です。あなたが最近、ムカついた瞬間を細かく描写してみてください。そ
れが8日目のトレーニングです。
▼9日目の 15 分トレーニング/自分のメッセージを挿入して書いてみる
文章はなぜ書くのか?
それは誰かに伝えたいメッセージがあるから書くのです。その
伝えたいメッセージが抜けていては、文章の目的を達成していません。ですから、必ずど
こかにあなたのメッセージを挿入しなければいけないのです。
いままで例文としてあげた文章には一見すると何のメッセージも盛り込んでないように
思えますが、実はちゃんと入っています。どこに入っているのかというと、それは行間に
入っています。先の『修学旅行の思い出』という文章ならば、僕がワクワクドキドキしな
がら旅行に行ったことを伝えたかったのです。感動したことや嬉しかったことは、誰かに
聞いて欲しいじゃありませんか。
子どもがその日あった出来事を母親に夢中で話すようなものです。僕の場合、そんなこ
とがメッセージになっています。
だいたいメッセージとはいったい何でしょうか?
「日本は都道府県制を廃止して道州制にするべきだ」という提案がメッセージになるこ
ともあるでしょう。
「当社の製品はどこよりも素晴らしいので、ぜひ買って欲しい」という
メッセージもあるでしょう。ときにはお説教であったり、ときには懇願であったりします。
提案やお説教や懇願はかなりストレートなメッセージです。わかりやすい反面、読者の
拒否反応もストレートに現れます。
ストレートなメッセージではなく、書き手のメッセージを文章の底に秘沈させる場合も
あるのです。たとえば「僕はあのとき、とても悲しくて泣きたい心境だった。そのことを
ぜひわかって欲しい」というメッセージを誰かに伝えたいとします。しかしそのことをス
トレートに言ってしまうと「何だこいつ、しみったれた男だな」と思われるかもしれませ
んし、変な誤解を招くかもしれません。
では、どうすればいいのでしょうか?
ひとつの方法として、ストーリーのなかで読者に疑似体験してもらうという方法があり
ます。書き手が経験したことと同じ体験をしてもらい、「どうですか、この人はこんな辛い
思いをしたのですよ」と語りかけるわけです。
井伏鱒二の『黒い雨』は、強力なメッセージを秘めた小説です。戦争の悲惨さや残酷さ
を声高に叫んだりしません。主人公も脇役も、戦争については反対もしませんし賛成もし
ません。主人公の女性は何も言わずに耐えています。
当時の広島では、被爆した女性は結婚できません。長生きできませんし、子どもを産ん
でも奇形児の可能性が高いからです。ですから、適齢期を迎えた女性は、被爆していない
証拠を示さなければなりません。小説のなかでは主人公の女性の叔父が日記を記して被爆
していないことを証明しようとします。主人公の女性は広島に原爆が落ちたとき広島市内
にはいませんでした。そのことを何とか証明しなければいけません。しかし、女性は原爆
投下後の黒い雨に打たれています。そして、物語の後半で、女性は発病しました。
「戦争や絶対にやってはならない」とか「核は廃止するべきだ」といったストレートな
言葉はひとことも言っていません。しかし、沈黙を守りひたすら耐えている女性の姿は、
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戦争の酷さを雄弁に語っています。
誰に何を伝えたいのか、自分のメッセージを見つめ直してみてください。あなたが社会
に向かって発信したいと思っているメッセージは何でしょうか?
生きているかぎり、メ
ッセージは必ずあるはずです。原始時代の人間は、
「恐竜が襲ってくるぞ。危ないから逃げ
ろ」というメッセージを身振り手振りで仲間に伝えたことでしょう。無人島に漂着した人
は、瓶のなかに「助けてくれ」というメッセージを入れて海に流すはずです。
孤独に漂流している現代人は、
「自分はここで生きている」ということを誰かに知っても
らいたいと欲しているのではないでしょうか。これこそ究極のメッセージだと思います。
文章を使って、そんなメッセージを発信してみませんか。
9日目のトレーニングは自分のメッセージを見つけることです。
▼10 日目の 15 分トレーニング/テーマを盛り込んで書いてみる
テーマが盛り込んであると、その文章が引き締まります。文章に深みが出てきますし、
まとまりも生まれるのです。
テーマとは何でしょうか。
「今日の会議のテーマはこれです」とか「私の研究テーマはこ
れです」といったふうに使われます。主題と訳すこともあります。主題とは主要な題目で
す。その文章の題名ということになります。テレビドラマなどで主題歌というのがありま
す。そのドラマの世界観を表現した歌のことです。
文章のテーマとはどのようなものでしょうか。メッセージと似通ったものですが、その
意味合いは少し違います。メッセージは読者に伝えたいことです。それは1本の格言かも
しれませんし、書き手の感情かもしれません。
一方、テーマはその文章が何のために書かれたものなのかということです。文章は何ら
かのメッセージを伝えるために書きますので、文章全体を貫くメッセージのことがテーマ
だといえます。『黒い雨』は戦争の悲惨さを伝えることがメッセージであり、テーマでもあ
るのです。
たとえば司馬遼太郎の『竜馬がゆく』は「事を成す人間の条件は何か」ということがテ
ーマで書かれてあります。竜馬の人間性を描くと同時に周辺の登場人物と比較することで
「事を成す人間の条件」を明らかにしているのです。テーマはそのように考えていきます。
いままで書いたあなたの文章を読み直してみてください。そこにどんなテーマを盛り込
むことができるでしょうか。
『修学旅行の思い出』ならば、ワクワクと興奮した人間はどん
な行動をとるのかというテーマが考えられます。テーマを見つけたら、それにそって文章
を書き直してみます。
いままであなたの書いた文章のなかからテーマを見つけ出し、そのテーマを盛り込んで
書き直してみましょう。それが 10 日目のトレーニングです。
6)日記をつける
ストーリー仕立てで書くというテクニックを本当に身に付けるには、何度も書いてみる
必要があります。年に1回作文するくらいではいつまでたっても文章力は身につきません。
毎日少しずつでも書いていくのが理想です。
そういうと「え?
毎日書くの?」と暗い気持ちになる方もいるかもしれません。もち
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ろん毎日書かなくても大丈夫です。書きたくなったときに書けばいいのです。義務感で嫌々
書いても文章力はなかなか向上しませんからね。それよりも楽しみながら書くほうがいい
ですよね。
そこでおすすめなのが日記を書くことです。できればインターネットなどで公開すると
コメントをもらえる可能性もありますから書いていて楽しいものです。僕がいつもやって
いるのはメーリングリストです。ブログだとなかなかコメントはもらえませんが、メーリ
ングリストならば参加者の誰かがコメントをくれます。これが案外楽しいのです。毎日の
日記をわくわくしながら書けますよ。
日記の書き方を簡単に説明しておきます。
▼感じたことや思ったことを書こうと思わないことです。
「運動会の思い出」という作文と同じです。感じたことなどひとことかふたことで終わ
りなのです。それを何とか書こうとすると1行も前に進むことができません。ですから、
感じたことを書こうなどと思わないことです。
何を書くのかというと、ストーリー仕立てで書くテクニックを思い出してください。そ
の日に起きたことを順に記述していけばいいのです。
朝起きて、歯を磨いた。朝食は食べずに会社へ行く。朝の会議に遅刻。課長に叱られた。
午後は商談で株式会社○○へ行く。▽▽主任と約1時間話しをする。世間話の域をでない。
そういうふうに行動の記録を淡々と綴っていけばいいのです。文章もうまく書こうと思
わないほうが楽しく書けます。そのうち欲がでてきて、その▽▽主任の容姿や性格、年齢
などを細かく書いてみたり、思い出のエピソードを書いてみたり、書きたくなるものが自
然とあふれてきます。書きたいと思ったときに書けばいいのです。書きたくなかったら、
書かなくてもいいのです。その日起きたことを順に書く。このことを淡々と続けていけば、
知らないうちに文章力が身についてきます。
▼文章の長短にこだわらないこと
日記をつけるとき、長い文章を書こうと思う必要はありません。たった2行で終わる日
があってもいいのです。興奮して 10 ページも 20 ページも書いてしまうことがあるかもし
れません。書きたいと思えば書けばいい、書きたくなかったら書かなければいいのです。
長くてもいいし短くてもいいし、自分なりに自分のペースで日記を書いてみてください。
▼ネガティブなことをポジティブに書いてみる
反省するために日記をつける人がいます。「今日遅刻した。やっぱり私って駄目な女」と
か「ああ、俺ってなんでこうなんだ」とか「僕は何をやってもドジばかり」と自虐的な日
記を好んで書く人がいます。
これは書いていても暗い気持ちになるばかりですから、辞めたほうがいいと思います。
遅刻したら、「明日からは早く行こう」。俺ってなんでこうなるのかと思ったら、
「これか
らはこうしよう」。自分はドジばかりふむ人間だと思ったら、「今度は上手にやってやる」
と書けばいいのです。
日記に書くということは、それを肯定することになりますから、ネガティブなことを書
いてしまうと「駄目な女」「ドジな男」のまま日々を送ることになってしまいます。
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▼日記に書いたことは現実となる
「思考は現実化する」ということをご存知ですか。日記も同じように、書いたものが現
実となるのです。「デスノート」という漫画がありますが、あのノートに名前を書いたら、
その人は死んでしまいます。しかし日記はそうなりません。
日記に書いたことは現実となります。
「明日は遅刻しないようにしよう」と書いたら、翌日にはならないにしても、その次か、
そのまた次の日くらいには遅刻せずに行けるようになります。
「僕は漫画家になる。そのために明日これをする」というふうに日記に書いていたら、
その人は本当に漫画家になるでしょう。そう思いませんか?
日記って、そんな凄い力を持っているのです。そう思って書くと、日記をつけるのがわ
くわくするでしょ!
▼日記をつけるメリット
日記は夢を実現してくれます。それ以外にも日記には次のようなメリットがあります。
・ 自分を客観視できる
・ 記憶力が良くなる
・ 観察力がつく
これはいちいち説明するよりも、実際に日記を書いてみて実感してください。自分を客
観視できるようになると行動や言動が変わってきます。自分のことを客観視できるように
なると感情の高ぶりで行動したり自分のわがままで人生の進路を決めたりしません。冷静
に考えて選択するようになります。
記憶力も観察力も日記を書いているうちに「ああ、身についてるな」と気づくものです。
無理にとは言いませんが、よかったら今日から日記をつけてみてください。
パート3
文章を書く動機を知る
あなたはなぜ文章を書くのでしょうか?
文章を書く動機についていまいちど考えてみてください。文章の神様がいるとして、そ
の神様がこんなことを言ってきました。
「どうして君に文章力を授けなければいけないのかね?」
この質問にあなたは何と答えるでしょうか?
ある人は「世界平和を実現するために僕に文章力を与えてください」と高貴な理想を示
すかもしれません。またある人は「恋人の心を射止めたいので、ぜひ文章力を授けてくだ
さい」と懇願するかもしれません。
どんな動機でもかまいません。神様は必ず文章力を授けてくれます。
会社の上司の命令でセールスレターを書かなければならない場合、文章を書く最終目的
は会社の商品を売り込むことです。
あなたがもし友人に手紙を書く場合、文章を書く目的は自分の思いを伝えるためという
ことになります。
そこで新たな疑問が生まれます。
読む人はどんな文章を読みたがっているのだろうかということです。
そうなんです。商品を売り込まれたいと思っている人は誰もいません。そんな文章は誰
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も読まないでしょう。友人への手紙も同様です。その手紙がお説教だとしたら、それを読
まされることほど苦痛なことはありません。
あなた自身、どんな文章を読みたいか考えてみてください。何が言いたいのかわからな
いような意味不明の文章を読みたいですか?
たいですか?
つまらなくてあくびがでそうな文章を読み
セールスの文章を読みたいですか?
どうせ読むのなら、ためになる文章、勉強になる文章、感動する文章を読みたいですよ
ね。あなたの文章を書く動機と、読み手のニーズが合致したときあなたの文章は多くの読
者を引き付けることでしょう。
人にものを教えるのが大好きな人は「勉強になる文章」を書けばいい。人を感動させる
のが大好きな人は「感動的な文章」を書けばいい。人を喜ばせるのが大好きな人は「喜ば
れる文章」を書けばいい。
僕の場合、人を驚かせるのが大好きなので、びっくりするようなことを文章にしていま
す。この無料テキストは、僕の貯金が続く限り配布します。そのこと自体がびっくりしま
すよね。このテキストを受け取った人がびっくりするだろうなと思いながら書いていると
わくわくしてきます。
「何のために書くのか?」
と問われたら、僕はこう答えます。
「人を驚かせ、人を感動させ、人を喜ばせるために書きます」
パート4
準備の大切さ(チームの大切さ)
文章を書くには次の3つの段階があります。
第 1 段階:準備段階
第 2 段階:書く段階
第 3 段階:書き直す段階
いちばん時間がかかるのが第 1 段階です。ここをおろそかにすると、つまらない文章を
書いてしまいます。
準備段階でやるべきことは、何を書くのかを明確にすることです。さきほどの「運動会
の思い出」であれば、運動会が面白かったのか、それともつまらなかったのか、まず自分
の感じたことを思い出し、何を核にして書くのかを決めなければいけません。
何を書くのかが明確になったら、そのことを掘り下げて考える必要があります。つまり
「なぜ」という質問を投げかけてみるのです。自分はなぜつまらないと思ったのか、他の
人はどうなんだろう。運動会について、みんなはどう思っているのだろう。運動会なんて、
そもそも何のためにあるんだろう。次々と疑問が浮かんできます。その疑問の答えを探し
ていけばいいのです。しかし 1 人でいくら考えても答えは見つかりません。
そこで僕が提案したいのは、チームで考えるということです。学校の試験はほとんどが 1
人でやる問題ばかりです。文章を書くことも、1 人で書くものだと刷り込まれています。作
文の授業で隣の友人と相談していたら先生に叱られます。
しかし 1 人の考えで書くよりも、3人4人と知恵を出し合って書いたほうがいい文章が
書けるに決まっています。社会へ出たらほとんどの仕事はチームで動きます。広告のキャ
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ッチコピーを考えるときなどは、数人で意見を出し合って作ります。物を作るときも、サ
ービスを提供するときも、1 人でできることなどひとつもないのです。
なのに、学校ではなぜ 1 人で書きなさいと言うのでしょう?
チームで意見を出し合い、チームでひとつのものを作り上げていくことを学ぶほうがよ
ほど価値があると思うのです。
準備段階ではチームで意見を出し合って、周囲の人々に助けてもらいましょう。上手に
助けてもらうことを習うことも生きていくうえで重要なことだと思います。
第 2 段階の書く段階はどうしても 1 人でやらなければいけません。しかし、第 1 段階と
第 3 段階はみんなの力を借りてもいいのです。
第 1 段階の準備についてもう少し言わせてください。なぜならば「準備なんかいらない」
と思っている人があまりにも多いからです。準備は面倒臭いことですし、時間もかかりま
す。答えのない問題を解くというしんどい作業もしなければいけません。誰もが書きたい
ことが決まったらすぐにでも書きたくなるものです。しかし、書き出す前に、しっかりと
準備することを習慣づけてください。
彫り物名人の左甚五郎にこんな話があります。
甚五郎が上方を旅行していたときのことです。お金がなくなり、泊まることも食事をす
ることもできません。
ボロ服を着て街をうろついているとある大工の棟梁と出会います。
「お前さん何ができるんだね」
この棟梁のところには仕事がたくさあって人足を探していました。棟梁は甚五郎の身な
りをみて建設現場で荷物運びくらいなら出来るだろうと考えます。
「へえ、あっしは大工の経験がございます」
と甚五郎は言います。甚五郎といえばもとは大工です。彫り物では国宝級の作品を残し
ていますが、若い頃は大工をしていました。
「そうか、それはよかった。ぜひうちに来てくれ。腕のほうはたしかかね」
「大工の腕は、日本じゃ、あっしの右にでる人物はいないでしょうなあ」
「おお、そうか、それくらいの気概がなきゃいかんな」
と棟梁は大喜びです。まさか目の前の人物が左甚五郎とは知りませんから、威勢のいい
人足が見つかったくらいに思っていました。
「給金はいくらにするかなあ」
「そうですなあ。思い切りまけて5つにしておきますよ」
「え、5つ?
それじゃあ、若頭と同じじゃないか。若いもんから苦情がでるぞ」
「そうですか、じゃあ、その若頭とあっしとどちらが上か試してみればようござんす」
ということで、若頭と甚五郎が板のカンナがけでどちらが早いかを競うことになりまし
た。1日で何枚の板が仕上がるかという競争です。
「いいか、ただ早いだけじゃ、子どもだってできるんだ。綺麗に削らなきゃいけない。わ
かるな」
大工の棟梁は若頭と甚五郎に訓示します。
「へぇ」
「ようござんす」
若頭も甚五郎も了解しました。若頭は毛むくじゃらの大男です。腕は熊のように太くて、
力がありそうです。10 枚や 20 枚はあっというまに削ってしまいそうな感じがしました。
一方、甚五郎は小男で、腕も細いうえに、ここ2・3日ろくなものは食べていません。
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腕に力が入りそうもないのです。
「両者、はじめ」
棟梁の掛け声で、若頭は「よっしゃ!」と気合を入れてカンナをかけはじめます。
ところが甚五郎は、
「申し訳ないが、食事をさせてもらえないだろうか」
といって、試合中なのに食事にいってしまいます。食事が終わっても甚五郎はカンナが
けをしようとしません。
「おまえさん、早くしないと負けてしまうぞ。何をやってるんだ」
「へえ、準備をしております」
甚五郎にとって食事も準備のうちなのです。食事のあとはカンナをとぎ始めました。甚
五郎は午前中いっぱい砥石でカンナの刃をとぎ続けます。
若頭はすでに板を 10 枚削りあげていました。誰もが甚五郎の負けだなと思います。
日が沈みかけた頃です。甚五郎がやっと立ち上がりました。といだ刃をカンナにはめ込
み、カンナの尻をトントンと叩きます。刃がまっすぐに入ったことを確かめ、荒板に向か
います。そして、2枚の板を一気に削りあげました。
若頭は 30 枚、甚五郎は2枚です。勝敗は決まりです。
「ちょっと待っておくんなさい。そちらの板は全部不良品ですぜ」
甚五郎は言います。荒く削った板は表面がでこぼこで塗りものもうまくできませんし、
見た目も触り心地もよくありません。
「そんな板は便所の壁にはなっても、屋敷には使えませんぜ」
甚五郎の削った2枚の板は、重ね合わせると、離すことができません。表面が滑らかで
1点のくぼみもないからです。大の男が5人がかりでも離せませんでした。それがどんな
に凄いことか、大工の人々にはわかっています。そこにいた大工たちは甚五郎の仕事の見
事さに目を見張ります。誰もが甚五郎の勝ちを認めました。
名人といわれる人は準備に時間をかけるのです。
文章を書くときの準備が面倒臭いと思ったら、この話を思い出してください。
パート5
文法ルールを知ろう
1、長い文節を前にもってくる
同等の文節が並列にいくつか並ぶことがあります。たとえば、
カバンの中には、彼からもらった香水と、生理用品、安物の化粧道具、音が時々飛んで
しまうコンパクトディスク、角がほころびてきたヴィトンの財布などが入っていた。
こんな文章です。
1)彼からもらった香水と、
2)生理用品、
3)安物の化粧道具、
4)音が時々飛んでしまうコンパクトディスク、
5)角がほころびてきたヴィトンの財布
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先の文章には、この5つの文節が無造作に並んでいます。もちろん、このままの文章で
もかまわないのですが、文章のルールからいうと、長い文節を前にもってくるべきです。
修正すると、こんな文章になります。順番は4、5、1、3、2となります。
カバンの中には音が時々飛んでしまうコンパクトディスクや角がほころびてきたヴィト
ンの財布、彼からもらった香水、安物の化粧道具、生理用品などが入っていた。
2、読点(、)は多用しない
句点は(。
)、読点は(、)です。句点の打ち方で間違える人は少ないのですが、読点の打
ち方のぎこちない人が多いのには驚かされます。そこで読点の打つ場所を間違えないテク
ニックがあります。それは多用しないということです。
読点には、次のルールがあります。
1、逆順の場合に打つ。(短い文節が前に来た場合)
2、長い文の切れ目に打つ。
3、体言止めや倒置法をつかったあと。
4、強調したいとき。
5、リズムをとるとき。
6、条件や理由や時などをあらわす文節のあと。
7、主語部が長くて、それを受ける述語が離れている場合。
8、うしろの語句を飛び越して遠くの語句を修飾する場合。
9、曖昧さを避けるために打つ。
10、漢字や平仮名ばかりが続いて読みづらい場合。
11、助詞が省略されたり、感嘆詞が使われたとき。
(
「わたし、好きよ。」
「まあ、素敵!」
)
12、「しかし」「そして」など接続詞のあと。
これだけ、読点のルールを並べてみましたが、ルールとはいっても、それは打ってもい
いし打たなくてもいいという曖昧なルールなのです。文章を書くときは、読点など必要の
ない文章を心がけるべきだと僕は思っています。
3、段落の先頭にトピックセンテンスをおく
改行は多いほどいいと僕は思います。改行が少ないと読みづらいものです。しかし意味
もなく改行すると混乱を招くことになるので注意が必要です。
改行はどういうときにするのか、それは段落の切れ目にするのです。段落とは内容的な
文の集まりです。つまり、話題が変わったとき、あるいは同じ話題でも視点が変わったと
きに新しい段落がはじまります。
この段落を有効に活用するテクニックがあります。それは「段落の先頭にトピックセン
テンスをおく」ということです。トピックセンテンスとは、その段落の核となる文のこと
をいいます。つまり「段落の内容を要約する」
「段落の内容の前置きをする(予告する)」
「問
題点を指摘する」といった文のことです。
それ以後の文は、トピックセンテンスをふくらませる形で展開します。くわしく説明し
たり、具体例を提示したり、理由や原因を指摘したりします。
4、接続詞は遠慮なく使う
接続詞の使い方に関しては好みの差があります。名文家といわれる志賀直哉や川端康成
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の小説は接続詞が極端に少ないものです。理由は接続詞は日本語の美しい響きや品位や格
調をそこねるからだそうです。
しかし接続詞は論理の展開を補足し読者の理解を増してくれる貴重な武器なのです。こ
の武器を使わないとわかりづらい文章になります。志賀直哉のような名文家が書く文章な
らばいいのですが、素人が書くのであれば、品位や格調よりもわかりやすくなることに重
点をおいたほうがいいと思います。伝達力をとるか品位をとるか、情報の伝達が目的であ
れば迷わず接続詞を使うべきです。
主な接続詞を列挙しておきます。
▼理由・帰結
それゆえに、そういうわけだから、だとすれば、してみれば、
▼程度・結果
果たせるかな、いきおい、さように、ややもすれば、
▼対立・対比
一方、その一方で、他方、それにひきかえ、反対に、逆に、にもかかわらず、あるいは、
ひるがえって、また、さらに、
▼仮定・譲歩
たとえば、仮に、たとえそうであるにしても、百歩譲って、でこそあれ、
5、適切な言葉を選ぶ
あたりまえのことですが、文章を書くときには適切な言葉を選んでください。たとえば、
こんな文章があります。
・彼は逡巡しながら歩いていた。
「逡巡」とは「決断をためらうこと/ぐずぐずすること」という意味です。作者は目的
地がわからず、迷いながら歩いていた彼の様子を描写したかったのでしょう。それならば
そう書けばいいのです。
・彼は道に迷った。
このほうがずっとわかりやすいと思いませんか。
ともあれ、むずかしい言葉を無理に使おうとするとこういうことになるのです。ですか
ら、文章を書くときには大原則があります。それは「自分自身が理解していない言葉は使
ってはいけない」ということです。書き手が理解していない言葉で読み手が理解できるわ
けがないのです。自分が理解していない言葉を使うのは、使い慣れていない包丁を振り回
すようなもので、読者にあらぬ誤解を招き傷つけることにもなるので要注意です。
6、受動態を能動態に変える
これも好みの問題なのですが、受動態の文章はなるべく能動態に変えたほうがいいので
す。受動態の文章が続くと鼻につくし、軟弱な文体にみえます。さらには意味不明の部分
がでてきたり敬語と勘違いする場合もあります。もちろん、これは好みの問題です。
受動態を能動態に変えるテクニックは、主語を変えればいいだけのことです。
・彼女は殴られた。
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・彼は彼女を殴った。
前文の受動態だと誰が殴ったのかが抜けています。そうした不明の部分をおぎなうため
に「彼女は彼に殴られた」とすると、まどろっこしく聞こえます。「彼は彼女を殴った」と
したほうが座りがいいと感じるのは僕だけでしょうか。ま、好みの問題です。
7、代名詞には気をつけろ
代名詞を多用すると文章の曖昧度が増します。
・恵子ちゃんは妹さんを連れて遊びにきました。彼女は得意の絵を描きました。
この文章の「彼女」という代名詞が指す相手が、恵子ちゃんなのか、彼女の妹なのかわ
かりません。どちらが絵を描いたのか謎です。こういう文章が一文でもあると、読者はそ
の文章から離れていきます。
・恵子ちゃんは妹さんを連れて遊びにきました。妹さんは得意の絵を描きました。
このように代名詞を使わずに書けば意味が通るようになります。
8、予告、まとめ、箇条書き
これから書こうとしている内容を先に予告したり、強調したい部分を最後にまとめたり、
箇条書きにしたりすると、話の流れがはっきりとして読みやすくなります。そうした工夫
も考慮して書いてください。
9、同じ文末が続かないようにする
たとえば文章の最後の部分、つまり文末に「だった」が3回以上連続すると文章のリズ
ムが台無しになります。
・彼は東北の出身だった。冬には雪が積もる地方の人間だった。彼は三人兄弟の末っ子
だった。小さい頃から喧嘩好きで毎日のようにどこかで喧嘩をしてくるわんぱく坊主だっ
た。
いかがですか?
「だった」がこれほど続くと鼻につきませんか?
この文章は次のよ
うに改善できます。
・彼は東北の出身である。冬には雪が積もる地域だった。彼は三人兄弟の末っ子である。
小さい頃は喧嘩が好きで、毎日のようにどこかで喧嘩をしてくるようなわんぱく坊主だっ
た。
「です」「ます」も同様です。同じ文末が続かないように言い回しを変える必要がありま
す。
23
10、ひらがなを多くする
パソコンで書く人が増えたおかで、文章に漢字が多くなりました。「其の時(そのとき)」
とか「所謂(いわゆる)」といった言葉まで漢字にしてしまっている人がいます。読者は漢
字が多いと読みづらく感じるものです。
以下の漢字はなるべくひらがなにしたほうがいいでしょう。
「時」「事」
「物」「諦める」「一番」「後ろ」「格好いい」「様」「様々」「既に」「全て」「確
かに」「例えば」「出来る」「所」「中」「非常に」「間違い」「難しい」「最も」など、その他
にも自分なりの基準をつくっておくといいでしょう。
11、主語を必ず入れる
日常会話では主語を抜かして話しても意思疎通が取れる場合が多いものです。しかし、
文章に主語が入っていないと意味が正しく伝わらないことがあります。極力、主語を入れ
るようにしてください。
×
掃除機が壊れたという連絡を受けた。
○
夫から掃除機が壊れたという連絡を私は受けた。
×
これから会ってくれるように頼んだ。
○
これから会ってくれるように、私は彼女に頼んだ。
私という主語だけでなく、
「誰が」の部分が抜けていると、読者を混乱させるばかりで意
味不明の文章になってしまうことがありますので、気をつけてください。
12、「!」や「?」の後には、一マス空ける
×
「早く駅前に来てくれ!間に合わなくなる」
○
「早く駅前に来てくれ! 間に合わなくなる」
台詞の「」の最後にきた場合は空ける必要はありません。
×
「救急車を呼んできて、早く! 」
○
「救急車を呼んできて、早く!」
13、二重表現は厳禁
「上に上がる」「下に下がる」
「普段の平熱」「馬から落馬」などといった文章が二重表現
に当たります。
「上がる」というのは、上に行くことに決まっているので「上に上がる」という言い方
はしません。
落馬とは馬から落ちることを言うので「馬から落馬」という言い方もしません。
プロのライターでもついうっかり使ってしまうので、厳重注意が必要です。
×
たとえば、冬山の登山などが一例です。
24
○
たとえば冬の登山などです。
×
一緒に協力する。
○
協力する。
×
まず、第1に。
○
第1に。
×
補足説明を追加する。
○
補足説明する。
×
はっきりと、明記する。
○
明記する。
×
最終結論。
○
結論。
14、段落の字下げ
段落(改行から改行までの一文)の文頭は、一文字空白を入れて書きます。当たり前の
ことですが、できていない人がいるので、明記しました。
×
少年は難なく見切り、紙一重の間を置いて避ける。
吹き過ぎていく烈風に顔を歪めながらも、薄い笑みは張り付いたままだった。
○
少年は難なく見切り、紙一重の間を置いて避ける。
吹き過ぎていく烈風に顔を歪めながらも、薄い笑みは張り付いたままだった。
15、三点リーダーとダッシュ
三点リーダー(…)とダッシュ(―)は二文字分を使って書きます。
×
「まったく、やってられないぜ…」
炎上する残骸―オレの愛車を見ながら呟いた。
○
「まったく、やってられないぜ……」
炎上する残骸――オレの愛車を見ながら呟いた。
16、閉じカッコ直前に句読点を置かない
カッコが閉じられる前に句読点を置いてはいけません。
×
「それなら、しかたないか。」
(後で、また来よう。
)
25
○
「それなら、しかたないか」
(後で、また来よう)
17、「てにをは」の使い方
「てにをは」とは、助詞の古い呼び名です。
「は」「を」「が」「も」「へ」など、語句と他の語句との関係を示したり、陳述に一定の
意味を加えたりする文字も「てにをは」と呼ばれます。
「てにをは」の使い方を誤ると、文章のつじつまが合わなくなるので注意してください。
×
彼は帰ってきたら、教えてください。
○
彼が帰ってきたら、教えてください。
18、同じ音は重ねない
「文学をする、音楽をする、芝居をする、写真をする、絵画をする、そういう人が増えれ
ば世の中はもっとよくなる」
どうでしょう。「する」がこれほど続くと鼻についてきます。同じ言葉や音が連続すると
読者は引っかかりを覚えるものです。
〈改善例〉
「文学をする、音楽を奏でる、芝居を演ずる、写真を撮る、絵を描く、そういう人が増え
れば世の中はもっとよくなる」
×
高山さんの私用の車を使用したい。
○
高山さんの車を使用したい。
×
まだ試用期間中の新薬を使用する。
○
まだ試用期間中の新薬を服用する。
×
文章の中で、近くで同音を繰り返すのはやめましょう。
○
文章を書くときは、近くで同音を繰り返すのはやめましょう。
19、「の」の連続をさける
・私の姉の好きな歌の曲名はクィーンの『ロック・ユー』です。
上の文章では『の』が4回連続しています。2つまでなら許せますが3回以上は厳禁で
す。
〈改善例〉
姉の好きな曲はクィーンの『ロック・ユー』です。
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20、カッコの使い方
会話文には「
」を使います。ただし、それが書籍や曲のタイトルの場合は『』を使い
ます。さらに『』は、この他にも会話のなかの引用会話に使います。
〈例〉
「生前父が口癖のように言っていたことは『みんな仲良うせないけんでぇ』です」
自分の本心を語るときや、語句に注釈を加えたいときは( )や〈〉を使います。
〈例〉
僕は上司に頭をさげた。
「どうもすみませんでした」
〈この野郎!
いつか殺してやる〉
〈例〉
今日は奮発して松阪牛(グラム 1200 円もする肉)を買った。
21、推敲の方法
推敲の基本は、時間をおいて文章を読み直すことです。最低3回は繰り返して音読する
ことをおすすめします。
推敲時に注意すべき点を列挙しました。
・誤字・脱字をなおす。
・物語の流れ的に違和感が無いかを調べる。
・何度も同じ比喩、おなじ語彙を使い回していないか注意する。
・体言止は効果的に使えているかチェックする。
・1つのセンテンスが無駄に長くなっていないか調べる。
長くなっていたら、2つに分けられないか考える。
・代名詞が効果的に機能しているか調べる。
・句読点の打つ場所は適切かチェックする。
・
『の』が連続して続いていないか注意する
・専門用語を使用している場合、うまく読者に説明できているか考える。
【練習問題】
テーマは「スモールハピネス」です。あなたが最近経験したちょっといい話を 800 字程
度のコラムにして書いてください。あなたが幸せを感じるときや、なんかいい感じだなと
思う瞬間など、ストーリー仕立てで書くというテクニックを使って書いてみてください。
パート6
周囲に文章テクニックを教えてあげよう
お金持ちの人々は「与えたものは必ず返ってくる」という価値観で生きているそうです。
僕はそんなにお金持ちではないのでよくわかりませんが「喜びを与えると喜びが」「笑顔を
発信すると笑顔が」返ってくるということは実感として理解できます。
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お金持ちになりたかったら、周囲の人々にお金をどんどん与えればいいのだそうです。
たしかにお金持ちの人々は人にプレゼントをするのが大好きです。僕も何度かもらったこ
とがあります。しかもお金持ちの人は、その見返りをまったく期待しないのです。凄いこ
とですね。見習いたいと思います。
そこで僕は自分のいちばん得意なもの、何年も突き詰めて勉強したこと、つまり文章に
ついて僕が学んだことを人にプレゼントしようと思いました。それで、このテキストの無
料版を思いついたのです。
この無料テキストを多くの人にプレゼントすると、プレゼントした人のもとにどんな素
晴らしいことが返ってくるのか楽しみです。さらに、これを書いた僕のもとにはどんな幸
運がやってくるでしょうか。楽しみでわくわくします。
この無料テキストを作ったとき「素晴らしい内容なので無料だともったいない」という
声がありました。「無料だと受け取る人もいいかげんに扱ってしまい、文章を勉強するどこ
ろか、どこかへ捨ててしまうのではないか」という意見も出ました。
しかし僕は「与えるものが返ってくる」という価値観を信じてみようと思います。そし
て、このテキストを受け取った人が文章を書くようになることを信じます。文章を書く人
が増えてくれることが、僕の何よりの喜びですから……。
文章を上達させるには次の3つが必要です。
1)読むこと。
2)書くこと。
3)教えること。
とくに3番目の「教えること」が重要です。人に教えると、それ以上のことが返ってき
ます。僕自身、人に文章を教えるようになって、僕の文章力は数段アップしました。それ
だけなく、感謝と喜びに包まれるようになったのです。教えることって、本当に楽しいこ
とだと感じています。
次はあなたの番です。この無料テキストを使って、周囲の人々にこの文章テクニックを
教えてあげてください。
友人同士で勉強会を開いてもいいですし、職場や家族や地域ボランティアなどで文章教
室を開いてみるのもいいと思います。文章テクニックを独り占めしないで、みんなとわか
ちあいましょう。小学校や中学校の先生方、会社の研修担当の方々もぜひご活用ください。
この無料テキストは何冊でも無料でお送りいたします。必要な部数と送り先を教えてい
ただければ、送料もすべて無料でお送りいたします。僕の経済的な余裕が続く限り、この
サービスは続けていきます。なぜならば、文章を書く人がもっと増えてくれたら、世の中
の雰囲気はもっと良くなると信じているからです。
無料テキストの注文は(株)東京クリエイターズネットのホームページのフォーマット
でお申込みください。
http://takahashifumiaki.com/
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パート7
素敵な言葉でこの地球を飾りましょう!
言葉は道具です。あくまでも道具なのです。戦争を起こす権力者や革命家にとって言葉
は、人々をコントロールするための武器になります。企業家にとって言葉は、お金を儲け
るための営業マンや機械のようなものです。
権力者や偉人やお金持ちは言葉を巧みに操ります。言葉を上手に操る人が世界を制する
といっても過言ではありません。
言葉は忠実です。言葉はそれを使う人のために全力で働きます。それが悪意に満ちたも
のであったとしても、人を傷つけるものであったとしても、言葉は書き手の言うとおりに
働き、その効力を発揮します。
そこが僕には耐えられないのです。言葉たちが可愛そうです。人を騙すような言葉が社
会にあふれるとどうなるでしょうか。悪意に満ちた言葉が世の中に充満すると子どもたち
の将来はどうなるのでしょうか。そんな時代にそろそろストップをかけませんか?
愛と喜びと感謝に満ちた言葉を僕は発していきたいのです。これまで僕は、こんなこと
を言うと、あやしい奴だと思われるのではないかと恐れてしまい、何も行動を起こさずに
いました。しかし、こんな僕にも何かできることがあるはずだと決意し、この無料テキス
トの作成を思いついたのです。
人の心を癒すために言葉を使っていきたい、人を楽しませ、喜んでもらうために文章を
書いていきたい、感謝の気持ちに包まれた文章を発信したい、僕はそう思っています。
そんな気持ちになって、文章を書く人がひとり誕生し、ふたり誕生し、3人4人と増え
ていったら、社会の雰囲気はがらりと変わるような気がするのです。
いわばハートフルな言葉によるルネサンス運動です。そう思ったとき、僕の心が震えま
した。感動しました。わくわくして、いてもたってもいられず。さっそくテキストづくり
に取りかかったのです。
ハートフルな文章を書くことで、あなたの人生が豊かで充実したものになりますように、
祈りをこめて、この本をプレゼントします。
ポンポコ先生こと、
高橋フミアキ
書名:たった 15 分で文章がみちがえるように上達する
「ポンポコ先生の究極の文章テクニック」
発行:高橋フミアキ事務所
著者:高橋フミアキ
定価:無料
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