カリフォルニア州の郡名 ―由来と史的背景― California's County Names : Their Origins and Historical Backgrounds ⽊村 正史・三浦 常司・下村 雄紀 Masashi Kimura, Tsuneshi Miura, and Yuki Shimomura 神⼾国際⼤学紀要 第74号 2008年6⽉ 神⼾国際⼤学学術研究会 カリフォルニア州の郡名 ―由来と史的背景― ⽊村 正史・三浦 常司・下村 雄紀 はじめに 太平洋岸に⾯し、⾯積163,696平⽅マイル(全⽶第3位)を有するカリフォルニア州は、わが国 の総⾯積(145,883平⽅マイル)より⼤きな州である。その上、⼈⼝も1963年以降はニューヨーク 州の⼈⼝を抜いて、2005年度の推定⼈⼝は36,132,147⼈を数え、全⽶第1位を維持している。 The World Almanac and Book of Facts 2007 (World Almanac Books, New York, 2007) によれば、 2007年現在、この州には58の郡(counties)が存在する。ただし、郡の設⽴には州(state)の成⽴ が前提条件となる。したがって、⼈⼝60,000を超えて当州が第31番⽬の州として合衆国に加⼊を 認められた1850年は、郡設⽴にとっても極めて重要な年であった。本稿の⽬的はカリフォルニア 州の58の郡名を由来⾔語別に分類し、歴史的背景を考慮しつつ、郡名の⼀般的特徴を検討しよう とするものである。 まず郡設⽴の歴史的経緯を概観しておきたい。Kane によると、1850年1⽉4⽇、カリフォ ルニア州⽴法委員会(the California constitutional committee)は18郡の設⽴を勧告した。しかし、 その後の議論の過程で変更や追加が⾏われた。その結果、同年の2⽉18⽇、州議会において27郡 の創設が法規第15条によって可決承認された。すなわち Butte, Calaveras, Colusa, Contra Costa, El Dorado, Los Angeles, Marin, Mariposa, Mendocino, Monterey, Napa, Sacramento, San Diego, San Francisco, San Joaquin, San Luis Obispo, Santa Barbara, Santa Clara, Santa Cruz, Shasta, Solano, Sonoma, Sutter, Trinity, Tuolumne,Yolo,Yuba で あっ た(Joseph Nathan Kane, The American Counties, Origins of county names, dates of creation and organization, area, population including 1980 census figures, historical data, and published sources. Fourth Edition. The Scarecrow Press, Inc. Metuchen, N. J. and London, 1983. pp. 449-50) 。以上1850年に設⽴された27 郡が、いわゆる original counties と呼ばれる郡である。その後、27郡がさらに分割されたり、また 他の郡の⼀部地域と合併されたりして、郡の数が増加した。結局、1850年から57年間に58郡の設 ⽴を⾒たのである。最後に設⽴された郡は Imperial County で、1907年であった。 表1は58の郡名をアルファベット順に並べて郡庁所在地、郡設⽴年⽉⽇、郡設⽴を定めた法規 の番号を記したものである。表2は、郡名を⾔語別、内容別に分類した⼀覧表である。ただし、 由来⾔語については複数起源のものもあれば、⾒⽅によっては原住⺠語ともスペイン語とも取れ る郡名もあって、必ずしも判然としているわけではない。例えば Yuba[jú:bə]である。K. B. Harder は‘from a Maidu Indian village and tribal name'(マイドゥ・インディアンの村とその部族 名より)と解しているが、Du Gard & Western および Kane は、corruption of a Spanish “Uvas" (grapes:スペイン語の Uvas が Yuba と訛ったもので、原義は「ぶどう」 )と解している。いず れの説が正しいのか決め⼿はないが、Du Gard & Western および Kane の著作は American ― 15 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 表1 カリフォルニア州の郡名、郡庁所在地、設⽴年および関連法規⼀覧表 County Alameda Alpine Amador Butte Calaveras Colusa Contra Costa Del Norte El Dorado Fresno Glenn Humboldt Imperial Inyo Kern Kings Lake Lassen Los Angeles Madera Marin Mariposa Mendocino Merced Modoc Mono Monterey Napa Nevada Orange Placer Plumas Riverside Sacramento San Benito San Bernardino San Diego San Francisco San Joaquin San Luis Obispo San Mateo Santa Barbara Santa Clara Santa Cruz* Shasta Sierra Siskiyou Solano Sonoma Stanislaus Sutter Tehama Trinity Tulare Tuolumne Ventura Yolo Yuba Admitted as state Sept.9, 1850. County Seat Created Oakland Mar. 25, 1853 Markleeville Mar. 16, 1864 Jackson May.11, 1854 Oroville Feb. 18, 1850 San Andreas Feb. 18, 1850 Colusa Feb. 18, 1850 Martinez Feb. 18, 1850 Crescent City Mar. 2, 1857 Placerville Feb. 18, 1850 Fresno Apr. 19, 1856 Willows Mar. 11, 1891 Eureka May.12, 1853 El Centro Aug. 6, 1907 Independence Mar. 22, 1866 Bakersfield Apr. 2, 1866 Hanford Mar. 22, 1893 Lakeport May.20, 1861 Susanville Apr. 1, 1864 Los Angeles Feb. 18, 1850 Madera Mar. 11, 1893 San Rafael Feb. 18, 1893 Mariposa Feb. 18, 1850 Ukiah Feb. 18, 1850 Merced Apr. 19, 1855 Alturas Feb. 17, 1874 Bridgeport Apr. 24, 1861 Salinas Feb. 18, 1850 Napa Feb. 18, 1850 Nevada City Apr. 25, 1851 Santa Ana Mar. 11, 1889 Auburn Apr. 25, 1851 Quincy Mar. 18, 1854 Riverside Mar. 11, 1893 Sacramento Feb. 18, 1850 Hollister Feb. 12, 1874 San Bernardino Apr. 26, 1853 San Diego Feb. 18, 1850 San Francisco Feb. 18, 1850 Stockton Feb. 18, 1850 San Luis Obispo Feb. 18, 1850 Redwood City Apr. 19, 1856 Santa Barbara Feb. 18, 1850 San Jose Feb. 18, 1850 Santa Cruz Feb. 18, 1850 Redding Feb. 18, 1850 Downieville Apr. 16, 1852 Yreka Mar. 22, 1852 Fairfield Feb. 18, 1850 Santa Rosa Feb. 18, 1850 Modesto Apr. 1, 1854 Yuba City Feb. 18, 1850 Red Bluff Apr. 9, 1856 Weaverville Feb. 18, 1850 Visalia Apr. 20, 1852 Sonora Feb. 18, 1850 Ventura Mar. 22, 1872 Woodland Feb. 18, 1850 Marysville Feb. 18, 1850 Statute Chap.41 Chap.180 Chap.42 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.52 Chap.15 Chap.127 Chap.94 Chap.114 Unnumb. Chap.316 Chap.569 Chap.150 Chap.498 Chap.261 Chap.15 Chap.143 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.104 Chap.107 Chap.233 Chap.15 Chap.15 Chap.14 Chap.110 Chap.14 Chap.1 Chap.142 Chap.15 Chap.87 Chap.78 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.125 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.15 Chap.145 Chap.146 Chap.15 Chap.15 Chap.81 Chap.15 Chap.100 Chap.15 Chap.153 Chap.15 Chap.151 Chap.15 Chap.15 * Formerly Branciforte County, changed to Santa Cruz County, April 5, 1850, chap. 61. (Joseph Nathan Kane による) ― 16 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) 表2 ⾔ 語 スペイン語(33) カリフォルニア州の郡名の⾔語別、内容別分類表 内 容 郡 名 キリスト教関係(15) Los Angeles, Merced, Sacramento, San Benito, San Bernardino, San Diego, San Francisco, San Joaquin, San Mateo, San Luis Obispo, Santa Barbara, Santa Clara, Santa Cruz, Solano, Ventura 描写名(8) Alameda, Contra Costa, Del Norte, Fresno, Nevada, Sierra, Tulare, Yuba 事件関係(5) ⼈物名(4) Calaveras, El Dorado, Mariposa, Placer, Plumas Amador, Marin, Mendocino, Monterey 主要産業関係(1) Madera 原住⺠の部族または 部落(9) 描写名(1) Colusa, Modoc, Mono, Napa, Shasta, Sonoma, Tehama, Tuolumne, Yolo Inyo 事件関係(1) 描写名(4) ⼈物名(2) Siskiyou Alpine, Lake, Orange, Riverside Glenn, Stanislaus ドイツ語(3) キリスト教関係(2) 会社名(1) ⼈物名(3) Kings, Trinity Imperial Humbolt, Kern, Sutter フランス語(1) デンマーク語(1) 描写名(1) ⼈物名(1) Butte Lassen 原住⺠語(11) 英語(9) Counties を専⾨的に扱った研究書であることを重視して、本稿ではスペイン語に分類した。 なお、郡名の由来と原義については前述の Kane の研究書に加えて、K. B. Harder, Illustrated Dictionary of Place-Names, United States and Canada (Van Nostrand Reinhold Company, New York, 1976), R. C. du Gard & D. C. Western, Handbook of American Counties, Parishes and Independent Cities (Editions des Deux Mondes, 1981), G. R. Stewart, American Place-Names (Oxford University Press, New York, 1978), Barbara & Rudy Marinacci, California's Spanish Place-Names, What They Mean and How They Got There (Presidio Press, San Rafael, California, 1980) に依拠している。記述の順序として、本稿では数の多いスペイン語由来の郡名からはじめ、 原住⺠語、英語、ドイツ語、フランス語、デンマーク語に由来する郡名の順に取り上げることに した。なお、各郡の設⽴年、⾯積、2005年度の推定⼈⼝については前述の The World Almanac and Book of Facts 2007 に拠っている。 Ⅰ スペイン語の郡名 カリフォルニア州における郡名のもっとも⼤きな特徴の1つは、スペイン語由来のものが半数 以上を占めていることである。58郡のうち、33郡がスペイン語から来ていると考えられている。 33郡以外にも Kings, Stanislaus, Trinity の3郡は、元来スペイン語で呼ばれていた川名の英語へ の翻訳(Barbara and Ruby Marinacci, California's Spanish Place- Names, p. 13)であるので、⾒⽅ によればスペイン語に分類することも可能であろう。すなわち Kings は Rio de Los Santos Reyes が River of the Holy Kings と翻訳され、さらに短縮されて Kings となったものであり、Stanislaus は Rio Estanislaus が英訳されて Stanisilaus River となり、ついで Stanislaus と短縮された。 Trinity も Trinidad Bay から Trinidad River となり、さらに短縮され、英訳されて Trinity となっ ― 17 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 た。したがって、歴史的事実を重視すればスペイン語、形態を重視すれば英語に分類できるであ ろう。本稿では後者の⽴場をとり、上記3郡を英語の範疇に⼊れているが、便宜上の措置である ことを断っておかねばならない。 スペイン語の33の郡名を内容⾯から分類すれば、キリスト教関係の郡名が15とほぼ半数を占め ており、次いで描写名が8、事件由来が5、特定の⼈物名やその称号(title)由来が4、主要産業 由来が1である。カリフォルニア州におけるスペイン語郡名の圧倒的とも⾔える数の多さ(33郡 で55%)は、当州が1821年までスペイン領であったこと、および1822年から1847年までメキシコ 領であったという歴史的背景と深く関係している。両地域ともスペイン語が公⽤語として使⽤さ れていたからである。なかでもキリスト教関係の地名の多さは1769年、フランシスコ会神⽗フニ ぺーロ・セルラ(Junipero Serra)がスペインのキリスト教伝道所を San Diego に建設し、以後カ リフォルニア地域に21の伝道所を建設して布教に努めたためと考えられる。参考のために21の伝 道所(Missions)の位置、要塞(Presidios)、原住⺠村(Pueblos)、幹線道路(El Camino Real) を表⺬した表3を付しておく。 表3 スペイン領時代の居留地 ―伝動所、要塞、原住⺠村、幹線道路― (伝動所) (要塞) (原住⺠村) (幹線道路) (Barbara & Rudy Marinacci による) ― 18 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) A キリスト教関係 15 を 数 え る キ リ ス ト 教 関 係 の 郡 名 は Los Angeles, Merced, Sacramento, San Benito, San Bernadino, San Diego, San Francisco, San Joaquin, San Luis Obispo, San Mateo, Santa Barbara, Santa Clara, Santa Cruz, Solano, Ventura である。⼀⾔付⾔すれば、聖⼈を表すスペイン語の san は男性形で、santa は⼥性形である。英語では両形とも saint で、通例は省略して St. と表記され る。上掲の順に記述することにする。 (1)Los Angeles[lɔ(:)sǽndʒələs, lɑ(:)s-, -li:z, -liz, -lis] 当郡は1850年に設⽴された original counties の1つであるが、郡の⼀部は1853年 San Bernardino county に、1866年 Kern county に、また1889年 Orange county に移されたので、現在の⾯積 は4,061平⽅マイルとなった。2005年度の郡の推定⼈⼝は9,935,475⼈。当郡は東を San Bernardino 郡、⻄を Ventura 郡に隣接している。Los Angeles を英語に直せば“The Angels” (天使)で あるけれども、元来は聖⺟(Virgin Mary)に捧げられた⻑い称号の⼀部をとったものである。 1769年8⽉2⽇、スペインの探検家 Gasper de Portola が南カリフォルニアの⼩さな川岸に上陸 し、そ の 川 を“El Rio de Nuestra Señora, La Reina de Los Angeles de Porciuncula” (Isaac Asimov, Words on the Map, Houghton Mifflin Company, Boston, 1962. p.120)と名付けた。英訳す れば“The River of Our Lady, the Queen of the Angels of the Little Portion(⼩さな⼟地の天使た ちの⼥王である聖⺟の川)である。Porciuncula とはイタリアのアッシジ(Assisi)近くにあるフ ランシスコ修道会の霊地(Franciscan Shrine)で、1209年に創始されている。この修道会は後に スペインにも⼤きな影響を与えることとなった。Portola の⺟国スペインでは、このポルシウン クラの祭⽇がちょうど彼が上陸した前⽇にあたっていたので、上記のように聖⺟マリアを賛美し た名称を付けた。しかし、この名は余りにも⻑すぎたため、1781年スペイン⼈が⼊植した当初か ら省略して Los Angeles と呼ばれた。ついで川辺の⼟地の名前にも転⽤されて Los Angeles City となり、現在は全⽶第2位の⼤都市となっていることはよく知られている。したがって、郡名も 都市名も、元来は「天使」を賛美したものでなく、 「聖⺟マリア」を賛美した称号の⼀部がたまた ま「天使」であったことに起因している。 (2)Merced[mə(r)séd] 当郡は1855年、Mariposa 郡の⼀部をとって設⽴されたが、翌1856年には Merced 郡の⼀部が Fresno county に移された結果、⾯積は1,983平⽅マイルになった。2007年の推定⼈⼝は241,706 ⼈。こ の 郡 は、東 を Mariposa 郡、南 を Fresno 郡 と Madera 郡 に 境 を 接 し て い る。郡 名 の Merced は英語で“mercy” (慈悲)を意味するスペイン語に由来する。通例この語は宗教的地名 として使⽤されることが多く、郡名の Merced もキリスト教のカトリック的雰囲気を⾊濃く漂わ せている。なぜなら、1774-75年にかけて現在の Merced River は“El Rio de Nuestra Señora de la Merced” (River of Our Lady of Mercy;慈愛あふれる聖⺟の川)と命名されていたからである(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Merced")。Los Angeles County と同様に、郡名は聖⺟マリアを賛美した 称号の⼀部から取られた川名に直接的には由来している。 (3)Sacramento[s7krəméntou / əu] 1850年に設⽴された27郡の1つで、⾯積は985平⽅マイル。2007年の推定⼈⼝は1,363,482⼈。 当郡は州の中央部に位置し、州都の Sacramento がある。スペイン語の‘sacramento’は英語の ‘sacrament’にあたり、原義は‘holy sacrament’ (聖礼典、秘蹟)である。キリスト教では神の 恩寵のしるしとして、特に神聖と考えられる宗教的儀式を指す。ローマ・カトリック教会の⽤語 としては「秘蹟」といい、baptism(洗礼)、confirmation(堅信) 、the Eucharist(聖体) 、penance ― 19 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 (告解)、extreme unction(終油)、holy orders(叙階)、matrimony(婚姻)の七秘蹟をさすが、 プロテスタント教会の⽤語としては「聖礼典」または「聖尊」といい、baptism と the Eucharist だ けを指す(⽵林 滋『新英和⼤辞典』第6版、研究社、2000年)。それゆえ Sacramento は極めて カトリック⾊の強い宗教的な名称であるが、この語が最初に⽤いられたのは川名としてである。 すなわち1808年、Rio Sacramento として使⽤され、郡名は1850年、この川名にちなんで命名され ている。以上の3郡はすべて直接的には川名に由来している点が共通していると⾔えよう。 (4)San Benito[s7nbəní:tou] 聖⼈名由来の San の付く郡名は7箇を数える。San Benito, San Bernardino, San Diego, San Francisco, San Joaquin, San Luis Obispo, San Mateo である。当郡は東を Merced 郡と Fresno 郡 に、⻄を Monterey 郡に境を接している。San Benito は英語に直すと Saint Benedict で、この聖 ⼈を記念して命名された郡名である。1874年 Monterey County の1部を取って創設され、⾯積 は1,397平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は55,936⼈。聖べネディクト(St. Benedict)は480年頃 ローマに⽣まれ、547年頃 Monte Cassino で没したイタリアの修道⼠で、ベネディクト修道会 (Order of St. Benedict)の創始者として知られている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "San Benito")。 なお、Benedict, Bennet, Benito はラテン語の benedictus に由来し、 ‘blessed’ (神に祝福された) の 原 義 を も つ(E. G. Withycombe, Oxford Dictionary of English Christian Names, Oxford University Press, Oxford, 1977, s. v. "Benedict")。 (5)San Bernardino[s7n bə:nədí:nou] 1853年、Los Angeles County の⼀部をとって設⽴されたが、1893年に当郡の⼀部が Riverside 郡に移された。⾯積は20,131平⽅マイルで、California 州最⼤であるばかりでなく、全⽶でも最 ⼤である。2005年の推定⼈⼝は1,963,535⼈。当郡は州の南東部に位置し、東を Nevada 州に、⻄ を Kern 郡と Los Angeles 郡に隣接している。San Bernadino は1819年 San Gabriel 伝道団の下部 ⼊植地(subordinate settlement)として命名された所で、中部イタリアのシエナ(Siena)の St. Bernardine(1380-1444)を記念している。ただし、郡名は、直接的には San Bernadino City にち なんでいる(K. B. Harder, op. cit., s. v. "San Bernadino") 。 (6)San Diego[s7n di:éigou] カリフォルニア州の最南端に位置し、メキシコと境を接する当郡は、1850年に設⽴された27 郡の1つである。ただし、1893年に1部地域が Riverside County、1907年には Imperial County に移された。⾯積は4,258平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は2,933,462⼈である。 歴史的には、スペインの探検家 Sebastian Vizcaino(1550-1628)が1602年11⽉2⽇に到着した 湾を San Diego Bay と命名したことに始まる。San Diego は San Diego de Alcala de Henares にち なんでいるが、それは Vizcaino の到着した⽇が San Diego(= St. Didacus)の祝⽇であったこと、 および彼の乗っていた旗艦(flagship)がサンディエゴ号(the San Diego)と呼ばれていたからと 思われる(K. B. Harder, op. cit., s. v. "San Diego.")。San Diego はスペインのセビリア(Seville)近 くで1400年頃⽣まれ、1463年 Alcala de Henares で没し、1588年に聖者の列に加えられたフラン シスコ修道会の修道⼠である(D. Attwater, Penguin Dictionary of Saints, Penguin Books, Ltd., New York, 1981, s. v. "Diego")。 (7)San Francisco[s7n frənsískou] 1850年に設⽴された27郡の1つであるが、1856年、郡の⼀部地域が San Mateo County に移さ れた結果、⾯積は45平⽅マイルとなった。2005年の推定⼈⼝は739,426⼈。当郡は太平洋とサン フランシスコ湾に囲まれている。San Francisco はイタリアのアッシジ(Assisi)の修道⼠であっ ― 20 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) た San Francisco(英語名では Saint Francis)にちなんでいる(K. B. Harder, op. cit., s. v. “San Francisco”)。聖フランシス(1182-1226)はフランシスコ修道会(Order of St. Francis)の創始者 として特に有名である。ただしアメリカで彼の名が最初に記念されたのは湾名で、1595年スペイ ンの探検家セルメーニョ(Cermeño)が La Bahia de San Francisco と命名している。次いで1848 年、都市名に転⽤され、さらに1850年には郡名にも採⽤されて今⽇に⾄っている。Francis の原 義はフランク⼈で、のちにフランス⼈を指すようになった。フランク族といえば、元来ライン川 流域に住んでいたゲルマン系の種族で、その⼀派が500年頃、⻄部ヨーロッパに広⼤なフランク帝 国(Frankish Empire)を建設し、後世のフランス、ドイツ、イタリアの起源となったことはよく 知られているところである。 (8)San Joaquin[s7n wɑ:kí:n|-wɔ:-] 1850年に設⽴された27郡の1つで、2005年の推定⼈⼝は664,116⼈。⾯積は1,399平⽅マイルで ある。当郡は北を Sacramento 郡、南を Stanislaus 郡と境を接している。郡名は Saint Joachim [dʒóuəkim]のスペイン語形の名称であって、最初この名は Gabriel Moraga が1800年代のはじ めに St. Joachim にちなんで川名として San Joaquin River と命名したことに端を発している。 Moraga の到着した⽇が、3⽉20⽇で、St. Joachim の祝⽇だったからである。郡名は上記の川名 からの転⽤である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "San Joaquin")。なお中世のキリスト教徒の伝説に よると、Joachim は Virgin Mary の⽗ということになっているが、彼の⽣涯については何も知ら れていない。Joachim の名はヘブライ語の Johoiachin または Jehoiahim に由来し、原義は「神に より確⽴された」 (Established by God)で、旧約聖書(外典)には「ユダヤの王の名」として記載 さ れ て い る(P. Hanks and F. Hodges, The Oxford Minidictionary of First Names, Oxford University Press, Oxford, 1991, s. v. "Joachim")。 (9)San Luis Obispo[s7n lú:is oubíspou] 1850年に設⽴された27郡の1つ。2005年の推定⼈⼝は255,478⼈、⾯積は3,304平⽅マイルであ る。当郡は⻄を太平洋に⾯し、東を Kern 郡と境を接している。郡名は直接的には Mission San Luis Obispo de Tolosa にちなんでいる。邦訳すれば、 「ツールーズの司教の聖ルイ伝道所」(Mission Saint Louis Bishop of Toulouse)ということになろう。したがって、原語の Mission と de Tolosa が省略された地名である。San Luis は1274年イタリアのナポリの King Charles Ⅱの息⼦ として⽣まれたが、幼い頃に⼈質としてスペインにやられ、そこでフランシスコ会修道⼠となり、 1297年フランスのツールーズの司教となったが、数ヵ⽉後に死去した聖⼈である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "San Luis Obispo")。それにしても3語よりなる郡名は珍しく、カリフォルニア州の 郡名では1つしかない。なぜ Obispo(Bishop「司教」)のような役職を表す名称を付け加えねば な ら な かっ た の か、と い う 疑 問 が ⽣ じ る。Marinacci に よ れ ば、同 じ ク リ ス チャ ン ネー ム (Christian name)の2⼈の聖⼈がいて両⼈を区別しなければならなかった時には、通例‘role, place of origin, or work’を付け加える慣習があったからである(Barbara & Rudy Marinacci, California's Spanish Place-Names, p. 23.)。San Luis Obispo の場合も San Luis Rey de Francia (St. Louis King of France)と区別する必要があったわけである。 ⼀⾔付⾔するなら、San Francisco についても San Francisco de Asis(St. Francis of Assisi)と San Francisco Solano (St. Francis of Solano)を区別する必要があった。ただし前者があまりにも 有名になったため、de Asis は省略されて今⽇では使⽤されている。 (10)San Mateo[s7n mətéiou|-əu] San Mateo County は1856年、San Francisco County の⼀部をとって設⽴された。2005年の推定 ― 21 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 ⼈⼝は699,610⼈で、⾯積は449平⽅マイル。当郡は北を San Francisco 郡、南を Santa Cruz 郡と 境を接し、太平洋に⾯している。San Mateo はキリストの12使徒の1⼈として聖⼈となった St. Matthew のスペイン語形にちなんで命名された郡名である(J. N. Kane, op. cit., s. v. "San Mateo") 。 Matthew は⽇本語では通例マタイと呼び、the Gospel according to St. Matthew も「マタイによる 福⾳書」と訳されている。彼はもと取税⼈であったが、後にキリストに召されて弟⼦となった。 しかし彼の活動や死については何ら確かなことは分かっていない。Withycombe によれば、 Matthew はヘブライ語の‘mattathiah’に由来し、原義は‘gift of Jehovah’ (エホバ神の贈り物) である(E. G. Withycombe, op. cit., s. v. "Matthew")。 (11)Santa Barbara[s7ntə bɑəbərə, -brə|-təb;:-] San の⼥性形である Santa の付く郡名は3つ⾒られる。Santa Barbara, Santa Clara と Santa Cruz である。最初の2つには⼈名が、最後の1つには普通名詞の cruz(英語では cross「⼗字架」) が付いているので、当然 santa の意味も違っている。前者は‘saint’ (聖⼈)であり、後者は‘holy’ (神聖な)を表す形容詞である。したがって、上記の3つは St. Barbara, St.Clare, Holy Cross と英 訳されるであろう。ただし、3者ともキリスト教と密接に関係していることは論を待たない。 Santa Barbara は1850年に設⽴された27郡の1つであるが、1872年、その⼀部が Ventura 郡に 移された。⾯積は2,737平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は400,762⼈。当郡は州南部にあって太平 洋に⾯し、北を San Luis Obispo 郡と境を接している。Santa Barbara を California ではじめて⽤ いたのは、スペインの船⻑だった Sebastian Vizcaino で、彼は本⼟と現在 Santa Barbara Islands と名付けられている島の間の海峡に対して Santa Barbara Channel と命名した。1602年12⽉4⽇ のことで、当⽇が St. Barbara の祝⽇に当っていたからである(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Santa Barbara")。その後248年を経た1850年に、郡名として再び聖バーバラが記念された。California には Santa Barbara Channel をはじめとして、Santa Barbara Islands, Santa Barbara City, Santa Barbara County が Harder の辞典に記載されている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Santa Barbara")。 ところで、Santa Barbara は美しい⼄⼥であったが、キリスト教徒になったことを告⽩したた め、⽗により処刑されたといわれる。後に virgin martyr(⼄⼥の殉教者)として聖⼈に列せられ た。しかし、この話に確たる証拠はなく、9世紀以降ヨーロッパでは pious romance(宗教上の物 語)として広く伝わっている。彼⼥は雷光、雷、⽕などの protectress(⼥性の守護者)であるば かりでなく、船乗り、建築家、⽯⼯、砲⼿、鉱夫などの patron saint(守護聖⼈)としても崇めら れている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Santa Barbara") 。なお、Barbara はギリシャ語に由来し、原 義は‘foreign woman’ (外国の⼥)である(P. Hanks & F. Hodges, Oxford Minidictionary of First Names, Oxford University Press, New York, 1987. s. v. "Barbara")。 (12)Santa Clara[s7ntəklǽrə, -kl<rɑ|-tə; Am. Sp. sɑntɑ kl;rɑ] 1850年に設⽴された27郡のうちの1つであるが、その⼀部は1853年、Alameda に移された。⾯ 積は1,291平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は1,699,052⼈である。当郡は州中部地域にあって、北 を Alameda 郡、南を San Benito 郡と境を接している。群名については、Santa Clara River にち なんで1850年2⽉18⽇に命名された。川名はスペインの Portola 探検隊の⼀員であった Juan Crespi(1721-1782)によるもので、1769年8⽉9⽇のことであった。ただし、川名(Rio de Santa Clara)そのものは Saint Clare of Assisi(1194-1253)を記念している(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Santa Clara")。探検隊がその川辺でキャンプをした⽇が聖クララの祝⽇だったからである。 Santa Clara は「清貧のクラ−ラ尼僧修道会(Order of the Poor Clares)を創始した尼僧院⻑ (abbess)として殊に中世時代からイタリアで⼈気の⾼い聖者である。元来はラテン語の clarus ― 22 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) の⼥性形に由来しており、 「著名な、有名な」 (famous)の原義をもっている。ただし、Clara の通 常の英語のスペリングは Clare で、中世以降は Clare のスペリングで使⽤されている(P. Hanks and F. Hodges, op. cit., s. v. "Clara," "Clare")。 (13)Santa Cruz[sǽntəkrù:z, / s7ntəkrú:z] 1850年に設⽴された27郡の1つ。⾯積は445平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は249,666⼈。当 郡は太平洋岸に⾯し、東は Santa Clara 郡と境を接している。郡名は「神聖な⼗字架」を意味する スペイン語に由来していることは前述の通り。ところで、キリスト教には Holy Cross Day とい う「聖⼗字架賞賛の祝⽇」 「聖⼗字架頌栄⽇」がある。9⽉14⽇で、4世紀以降、聖⼗字架の発⾒ などを記念する祝⽇であったが、ペルシャ⼈から聖⼗字架を奪回した692年以後は、主として、そ れを記念する祝⽇となっている。したがって Santa Cruz という地名の多くは恐らく9⽉14⽇に 発⾒されたことを記念したものであろうと Stewart は述べている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Santa Cruz") 。Santa Cruz County の命名の経緯は詳らかでないが、郡庁所在地(county seat)の Santa Cruz City は Santa Cruz Island にちなんで名付けられていることは確かである。興味深い ことだが、この島名は、ある神⽗がこの島で⼗字架の形をした杖(staff)を失ったことに由来する 事件地名である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Santa Cruz") 。郡名も、この島名から取られている可 能性が⾼いと考えられる。 なお「神聖な」の意味で使⽤されている San や Santa の付く有名な地名を他に探せば、San Saba(‘Holy Saturday';Saba は Sabado の短縮形)が Texas 州に、Santa Fe( ‘Holy Faith’ )が New Mexico 州に⾒られる。 (14)Solano[soul;:nou] 1850年に設⽴された27郡の1つ。⾯積は829平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は411,593⼈。当 郡は⻄をサンフランシスコ湾に⾯し、東をサクラメント郡と境を接する所に位置する。郡名は Stewart によると、St. Francis Solano(1549-1610)を記念して設⽴された伝道所(mission)由来 説と、キリスト教に改宗して、Francisco Solano の聖⼈名を受け⼊れた原住⺠部族の酋⻑(Suisun Indian chief)に由来の2説がある(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Solano") 。St. Francis Solano は1549 年スペインに⽣まれ、聖フランシスコ修道会に⼊会し、Grenada で疫病が発⽣したときに献⾝的 に⼈々の救済にあたった修道⼠である。1589年に南⽶のペルー(Peru)に渡り、リマ(Lima)に おいて残りの⼈⽣を原住⺠と植⺠者のために捧げたため、“apostle of Peru and Wonder Worker of the New World” 「ペルーの使徒で、新世界(アメリカ⼤陸)において偉業を成し遂げた⼈」と して知られている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Solano")。 ⼀⽅ Suisun Indian 酋⻑は原住⺠語では Sem Yeto または Sum Yet -Ho の名を持っていたが、 キリスト教に改宗してスペイン語で Francis Solano の名を与えられた。彼はアメリカの軍⼈・政 治家の Mariano Guadalupe Vallejo(1808-90)を戦闘ばかりでなく政治に関しても、他の部族とと もに助けたと⾔われている(Nellie Van de Grift Sanchez, Spanish and Indian Place Names of California, their meaning and their romance, San Francisco, 1922)。そのため、彼の助⼒に対する 感謝の念をこめて、恐らく記念したものであろうと考えられている。Solano はラテン語の solanus に由来し、原義は「東⾵」である。 (15)Ventura[ventúrə / bentú:rɑ:](Am. Sp) 1872年、Santa Barbara County の⼀部を取って設⽴されたという歴史的背景がある。⾯積は1, 845平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は796,106⼈。東を Los Angeles 郡、⻄を Santa Barbara 郡 と境を接し、南は太平洋に⾯している。Ventura はスペイン語で「幸運、幸福」 (luck, happiness, ― 23 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 fortune)を意味するが、この州の郡名と郡庁所在地の Ventura は、San Buenaventura から取ら れている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Ventura")。すなわち、San と Buena が省略された地名であ る。聖ブエナベントゥーラに捧げられた伝道団が1782年に結成され、これにちなんで名付けられ ている。スペイン語の buena は‘good’の意であるから Buenaventura の原義は‘good luck, good fortune’である。San Buenaventura(1221-1274)は1257年、聖フランシスコ会派の司祭統 括者(minister general of the Franciscans)となった神学者で、イタリア名は Bonaventura であっ た。彼は1265年、アルバーノ枢機卿(cardinal bishop of Albano)に任命され、この会派の第⼆の 創始者といわれている(Donald Attwater, The Penguin Dictionary of Saints, Penguin Books Ltd, Harmondsworth, Middlesex, England, 1981)。 B 描写名(記述名) キリスト教関係に次いで多いスペイン語の郡名は、地形、位置、⼭、⾃⽣する植物などを記述、 または描写したグループである。⼀般に、英語で descriptive names(描写名)と呼ばれるもので、 全部で8つを数える。アルファベット順にあげると Alameda, Contra Costa, Del Norte, Fresno, Nevada, Sierra, Tulare, Yuba である。 (16)Alameda[7ləmí:də, -méidə] 1853年、Contra Costa 郡と Santa Clara 郡の⼀部を取って設⽴された歴史を持っている。⾯積 は738平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は1,448,905⼈。当郡は⻄をサンフランシスコ湾に⾯し、 東を San Joaquin 郡と境を接している。Alameda はスペイン語で「ポプラ林」 (grove of poplar trees)を意味する。しかし、漠然と「⽊の種類に関係なく⽊陰となっている林」 (a grove of any kind of shade-giving trees)の意味もあり、Alameda City も Alameda County も後者の意味で使 ⽤されている。事実、郡にも市にも「樫の⽊のすばらしい⽊⽴」 (fine growth of oaks)があって、 それを描写したものである(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Alameda")。 Rene Coulet du Gard によると、Alameda という名が初めて記載されたのは Serg. Pedro Amador の探検隊の報告書で、おそらく Arroyo de la Alameda(アラメーダの⼩川)を指していたもの であろうという。しかも Alameda はスペイン語の alamos(poplars)から借⽤した語と解してい る。Alameda City も1853年、住⺠投票により選定されたと記されている(R. C. du Gard, Dictionary of Spanish Place Names of the Northwest Coast of America, Volume 1, California, Edition des Deux Mondes, 1983. s. v. "Alameda")。 (17)Contra Costa[k=ntrə k=stə] 1850年に設⽴された27郡の1つであるが、1853年その1部が Alameda County に移された。⾯ 積は720平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は1,017,787⼈。スペイン語の contra は「反対(側)の」 を、costa は「海岸」を意味する。したがって、Contra Costa は「対岸」 「反対側の海岸」 (opposite coast)となる。この地域が New Spain と呼ばれていた頃、スペイン⼈は最初 San Francisco Bay の北の、後に東側の湾全体の地⽅をも指すようになったが、Marinacci によれば、公式にはサンフ ランシスコ湾の北東の海岸地域(the land of the northeastern shore of San Francisco Bay)に対し て付けられたものである(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., p. 224) 。つまり、位置、⽅⾓を⺬ した地名ということになろう。 (18)Del Norte[deln=:t / n=rt] 1857年、現在 Oregon 州の1郡となっている Klamath County から1部地域を取って創設され た。したがって、北は Oregon 州と境を接している。⾯積は1,008平⽅マイルで、2005年の推定⼈ ― 24 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) ⼝は28,705⼈。スペイン語の Del Norte は「北の」を意味する。 ‘del’は前置詞‘de’と、男性の 定冠詞‘el’がつづまったもので、英語の‘of the’にあたる。⽅⾓を表す東⻄南北を地名に使⽤ する例はどの国にも多く⾒られるが、Del Norte の場合は Rio Grande Del Norte(北のグランデ川) の Rio Grande(=grand river)が省略された川名に由来している(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Del Norte")。すなわち、直接的には川名の1部に⽅⾓を⺬す語句を⼊れた描写地名から取られてい ると考えられる。ただし、間接的にはカリフォルニア州の北⻄の隅にあることを表した位置地名 とも⾔えるであろう。なお、コロラド州にも Del Norte という町があり、Rio Grande 郡の郡庁所 在地(county seat)となっている。 (19)Fresno[fréznou / -nəu] 1856年 Mariposa, Merced, Tulare の3郡からそれぞれ⼀部地域を取って設⽴された歴史的背景 をもつ。しかし、1861年に郡の1部が Mono County に、1893年には、さらに Madera County に 移された。北を Madera と Merced の両郡に、南を Tulare と Kings の両郡に囲まれた所に位置 している。⾯積は5,903平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は877,584⼈。Fresno は「トネリコの⽊」 (ash-tree)を意味するスペイン語である。San Joaquin Valley ⼀帯に⾃⽣のトネリコの⽊が繁茂 していたことを記念した描写地名で、最初は川名として使⽤された(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Fresno")。次いで1856年、郡名に採⽤された。また1868年には Fresno(郡庁所在地)がドイツ系 移⺠により創設された(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., p. 232)。 (20)Nevada[nəv7də, -v;: / niv;:də, nɛ-] 歴史的には1851年、Yuba County の1部を取って設⽴された。⾯積は958平⽅マイルで、2005 年の推定⼈⼝は98,394⼈。当郡は東を Nevada 州、北を Sierra 郡と境を接している。スペイン語 の‘nevada’は「雪におおわれた」 (snow-covered)の意味をもつ形容詞である。Marinacci によ ると、元来 Sierra Nevada はスペイン南部の雪におおわれた⾼い⼭脈(The original Sierra Nevada in southern Spain is a high, snowy mountain range)を指している。スペインの探検隊にとって ⺟国の Sierra Nevada に似たアメリカ⼤陸の⼭並みに対して、Sierra Nevada の名称を付けるこ とはごく⾃然のことであった。したがって、カリフォルニアにおいても Sierra Nevada をどの連 ⼭に命名するかをめぐって激しい競争があった。結局、1845年のフレモンド地図製作隊(the Frémont map-making party of 1845)により、カリフォルニアをほぼ2分する⻑⼤で印象深い⼭ 脈 に 対 し て ⽤ い ら れ る こ と と なっ た(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., p. 244) 。Nevada County は、直接的には当郡を通る⼭脈名から取られている。Stewart の辞典には Nevada は通 例、遠くから眺めたときに⾒られる雪におおわれた⼭々に⽤いられる普通の描写語としてアメリ カでは使⽤されていると記されている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Nevada") 。なお、郡庁所在地 は Nevada City である。 (21)Sierra[síərə, siérə] 1852年、Yuba County の1部地域を取って創設された。⾯積は953平⽅マイル。2005年の推定 ⼈⼝は3,434⼈。当郡は東を Nevada 州、南を Nevada 郡と境を接している。元来 sierra はラテ ン語の serram に由来するスペイン語で、原義は「のこぎり」 (saw)である(⽵林 滋『英和⼤辞 典』第六版、研究社、2000年) 。峰がのこぎり⻭状の⼭脈、連⼭を指す場合が多く、しばしば形容 詞とともに Sierra Nevada(= snow mountains), Sierra Blanca (= white mountains), Sierra Grande (=great mountains), Sierra Madre(=mother mountains) のように⽤いられる。したがって、Sierra County は「のこぎりの⻭のような峰をもつ⼭脈の郡」ということで、事実近くを Sierra Nevada が⾛っている。Nevada と Sierra の両者が居住地を表す‘habitation names’の郡名として転⽤さ ― 25 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 れているのが興味深い(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "sierra")。 (22)Tulare[tù:l<əri / t(j)ù:l<ə] 1852年、Mariposa の1部を取って創設された。しかし1856年、Tulare の1部が Fresno 郡、 1866年に1部が Kern 郡と Inyo 郡、1893年には更に1部が Kings 郡に移された。⾯積は4,824平 ⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は410,874⼈である。北を Fresno 郡、南を Kern 郡と境を接して いる。Kane によれば、郡名は1773年スペイン⼈のファーヘス指揮官(Comandante Fages)がア ズテク語で当地に⾃⽣していた「ガマ、ヨシ、アシ、またはイグサ属の植物」 (cat-tail)を表す“tullin” からスペイン語で“Los Tules”と命名した(J. N. Kane, op. cit., p. 299) 。したがって、起源や歴史 的背景を重視すれば原住⺠語由来ということになるが、形態を重視すればスペイン語と解釈でき るであろう。Stewart は‘Tule’ (reed, bulrush)を‘American-Spanish’ (アメリカ製のスペイン 語)由来とし、Tulare は複数形の Tulares の‘s’が脱落したものと解している(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Tule")。California には Tulare County の他にも Tulare Lake があると記している。本 稿では形態重視を分類の基準にしているのでスペイン語説を採⽤した。便宜上の措置であること を断っておきたい。 (23)Yuba[jú:bə] 1850年に創設された27郡の1つであるが、1851年、その1部が Placer 郡と Nevada 郡、また 1852年には Sierra 郡に移された。⾯積は631平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は67,153⼈。北を Butte 郡、南を Nevada 郡と Placer 郡、⻄を Sutter 郡と境を接する州中部の北東に位置している。 由来と原義については本稿の冒頭において⾔及しているように、スペイン語説と原住⺠語説があ り、定説はない。便宜上の措置として Kane 説に従い、スペイン語に分類した。つまり、スペイ ン語の Uvas(grapes「ぶどう」)が Yuba と訛ったとする説である。⼀⾔付⾔しておきたいこと がある。⻄隣りの Sutter 郡の郡庁所在地が Yuba City で、当郡の郡都名が Marysville (Mary's + ville「メアリの村」が原義)であることだ(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Yuba")。 C 事件地名 いわゆる incident names(事件地名)とは、その地で起こった事件を記念して付けられた地名 である。たとえば京都の地名の「⻄陣」は、応仁の乱に⻄軍の⼭名宗全がこの地に陣を敷いたこ とに由来するようなものである。しかし、このグループには Mariposa(蝶)のように、しばしば 動物や、その頭蓋⾻(calaveras)、⽻⽑(plumas)など,また⾦鉱(gold)や⾦鉱床(placer)など を発⾒したことにちなむ奇抜で⾯⽩いものが含まれており、合計5つを数える。すなわち、 Calaveras, El Dolado, Mariposa, Placer, Plumas である。 (24)Calaveras[k7ləvéirəs] 1850年に設⽴された27郡の1つであるが、1854年にその1部地域が Amador County に、また 1864年に Alpine County に移された。したがって、当郡は北を Amador 郡、東を Alpine 郡と境 を接している。⾯積は1,020平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は46,871⼈。郡名は、直接的にはス ペイン語の川名‘Rio de las Calaveras’ (River of the skulls「頭蓋⾻の川」 )の1部から採られてい る(René Coulet du Gard, op. cit., Volume 1. California. s. v. "Calaveras County") 。Du Gard による と1837年、John Marsh が⼤量の骸⾻(skeletons)をこの川の岸辺で発⾒したことにちなんで命名 したものである。「頭蓋⾻」という原義をもつ郡名は、奇怪さと幻想的雰囲気をただよわせている 点において、事件地名由来の郡名の中でも特に際⽴っている。アメリカ⽂学に興味のある向きな らば、Mark Twain の出世作となった Jumping Frog of Calaveras County( 「カラベラス郡の跳ね ― 26 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) 蛙」)を思い出されることであろう。 (25)El Dorado[éldɔréidou, eldər;:dou / -r;:dəu, -dɔr-] 1850年に設⽴された27郡の1つで、前述の Calaveras County と同様に1854年に郡の1部が Amador County に、また1864年には Alpine County に移された。したがって、当郡は南を Amador 郡と Alpine の両郡と境を接している。⾯積は1,711平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は176, 841⼈。El はスペイン語の男性形の単数を表す定冠詞であり、dorado は形容詞で‘gilt’ ‘golden’ (⾦⾊に塗った、⾦⾊の)の意であるから、⽂字通りの英語では‘the gilded’ 、または‘the golden’(⾦⾊に⾝体を塗った⼈)ということになろう。しかしながら、Stewart によると、⾦箔を 塗っ た 男 の 伝 説 を ⻩ ⾦ に あ ふ れ た ⼟ 地(the legend of the 'gilded man' applied to a place supposedly of great riches, especially in gold)に 転 ⽤ し た も の で あ る。し た がっ て、通 例 は country を補って‘the golden country’すなわち「⻩⾦郷」 「宝の⼭」の意味で使⽤されており、 California 州の俗称ともなっている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Dorado")。スペリングについて も、El Dorado と Eldorado の両⽅が⾒られる。なお、Du Gard によると、郡名は直接的には「採 鉱のための野営地」 (mining camp)から採られている(René du Gard, op. cit., s. v. "Dorado")。す なわち、1849年 California で⾦鉱が発⾒されて gold rush を迎えたときに⾦採掘のキャンプ地が、 たまたま El Dorado であったことにちなんで名付けられたものである。⼀⾔付⾔すれば、⼀攫千 ⾦を夢⾒て東部からやってきた連中の常套句は‘Are you looking for your El Dorado ?’ (宝の⼭ を探しているのかい?)であったという(K. B. Harder, op. cit., s. v. "El Dorado") 。 (26)Mariposa[m7ripóusə / -zə] 1850年に設⽴された27郡の1つ。ただし、1852年に1部が Tulare County、1855年に Merced County、1856年に Fresno County、1861年に Mono County へと移された。Mariposa County は 1850年創設の27郡の中では最⼤の郡で、かつて12の郡すなわち、Fresno, Inyo, Kern, Kings, Los Angeles, Madera, Merced, Mono, San Benito, San Bernadino, San Luis Obispo, Tulare を含んでい た。現在の⾯積は1,451平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は18,069⼈。当郡は東を Mono 郡、⻄を Merced 郡と境を接する州の中央部に位置している。郡名の Mariposa はスペイン語で「蝶」 (butterfly)の意味である。1806年、Alfred Gabriel Moraga に率いられた探検隊が⼩川の近くで キャンプを張っていた場所に蝶の⼤群が⾶んできた。この些細な事件を記念して Moraga は Arroyo de las Mariposas(brook or creek of the butterflies「蝶の⼩川」 )と命名したのである。郡 名は、この川名から採られている(René Coulet du Gard, op. cit., s. v. "Mariposa") 。 (27)Placer[pl7sə / -sər] 1851年、Sutter County と Yuba County の1部をとって設⽴された歴史をもつ。⾯積は1,404 平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は317,028⼈。当郡は北を Nevada 郡、南を El Dorado 郡、東を Nevada 州と境を接する所に位置する。Du Gard の辞典で Placer County の項を引くと“French and Spanish word for"placer (surface) mining for gold"”と記載されている(René Coulet du Gard, op. cit., s. v. "Placer County")。「砂⾦採取所」 「砂鉱床」 「含鉱砂利」を意味するスペイン語という ことで、この地域に多くの砂鉱床が発⾒されたことにちなんで命名された。元来 placer はスペイ ン語からフランス語に⼊った単語。フランス語の placer は「置く(place)」という動詞で、名詞 の placer はスペイン語から来た語である。歴史的にも、前述の El Dorado の場合と同様に、gold rush(新⾦鉱地へ多くの⼈々が殺到した)ころに California で広くスペイン語として⽤いられた。 ただし、Stewart によると、Placer County は Placerville から採られたと記している。もしそうで あるならば、placer はスペイン語(placer)+フランス語(ville;村、町)よりなる合成語からの ― 27 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 短縮形ということになるであろう(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Placer") 。 (28)Plumas[plú:məs] 1854年、Butte County のいくつかの地域を取って設⽴された。しかし、1864年、その1部の地 域が Lassen 郡に移された。⾯積は2,554平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は21,477⼈。⻄を Butte 郡と Tehama 郡、南を Sierra 郡と境を接する州の北部に位置している。Plumas はスペイ ン語で「⽻、⽻⽑」 (feathers)を意味する。スペインの探検隊の Luis Arguello により命名された 川名(Rio de las Plumas;⽻⽑の川)より採られた郡名である。この川の付近に⼤量の⽻が発⾒さ れたことにちなんで名付けられたが、後からやってきたアメリカ⼈達は、このスペイン語の川名 を英語に訳して Feather River と改称し、現在に⾄っている(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., s. v. "Rio de las Plumas")。したがって、川名は英語名に変ったが、郡名だけはスペイン語の Plumas が保持されていることに留意する必要があろう。なお、Marinacci は、上記の他にもアメ リカ⼈がスペイン語の地名を英語、たとえば los Americanos を Americans, los Santos Reyes を Holy Kings, Trinidad を Trinity に翻訳した地名があると述べている(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., p.147)。 D ⼈物名 このグループに属する郡名は Amador, Mendocino, Monterey の3郡と、原住⺠を記念したスペ イン語名の Marin County の計4郡である。ここでいう⼈物名とは実在した、ある特定の⼈物の 姓(surname)や称号(title)やニックネーム(nickname)にちなんで命名されたスペイン語の郡 名を指している。多くの場合、New Spain(California, New Mexico, Texas, Arizona 州などのア メリカ南⻄部の州ばかりでなく、Mexico, Panama 以北の中⽶も含まれていた)地域の総督や開拓 者を記念している。その中にあって、Marin は原住⺠の酋⻑でキリスト教徒となった証として、 スペイン語のクリスチャン・ネームを記念したもので、例外的に珍しい郡名といえる。 (29)Amador[7məd=: / d=r] 1854年、Calaveras と El Dorado の両郡の⼀部を取って創設された。ただし、1864年、郡の⼀部 が Alpine County に移された。⾯積は593平⽅マイル、2005年の推定⼈⼝は38,471⼈。当郡は北 を El Dolado 郡、南を Calaveras 郡と境を接する州の中東部に位置する。René Coulet du Gard に よると、Amador 郡は Jose Maria Amador(1794-1883)を記念して命名された。彼は1769年、 Portola Serra の探検隊と共に California にやってきた Pedro Amador 軍曹の息⼦で、⼤牧場主と して California では有⼒な⼀家であった。1848年、彼は数⼈の原住⺠と⾦鉱採掘のキャンプを現 在の Amador City 近くに作り、⼤成功を収めた(René Coulet du Gard, op. cit., s. v. "Amador")。 なお、Amador はスペイン語で「恋⼈」(lover, sweetheart)の原義をもっている(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., s. v. "Amador")。 (30)Marin[mərín, m;:rin] 1850年に創設された27郡の1つで、⾯積は521平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は246,960⼈。⻄ を太平洋、東と南をサンフランシスコ湾に⾯する郡である。由来については2説があって定説が ない。1775年、スペインの探検隊によりサンフランシスコ付近の⼩さな湾に付けられた湾名の Bahia de Nuestra Señora del Rosario de Marinera (Bay of Our Lady of the Rosary of Mariners; ⽔夫のロザリオの聖⺟の湾)にちなむとする説(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Marin")もあれば、原 住⺠の Licatiut Indian の酋⻑で、キリスト教信者となって‘El Marinero’と名付けられた⼈物に 由来するという説もある(J. N. Kane, op. cit., s. v. "Marin") 。Marinera にしても、Marinero にし ― 28 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) ても原義は「⽔夫、船乗り」 (the mariner)である。本稿では後者の説に従い⼈名由来の項に分類 した。⼈名、川名、湾名にしろ、カトリックを信奉するスペイン⼈の聖⺟マリアへの信仰の深さ が如実に⺬されている。 (31)Mendocino[mèndəsí:nou] 1850年に設⽴された27郡の1つで、⾯積は3,509平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は88,161⼈。 州の北⻄部に位置し、⻄は太平洋に⾯している。Mendocino については2説がある。1つは Viceroy of New Spain (1535-1549) and of Peru (1551-52) であった Antonio de Mendoza (c. 14851552) を記念して付けられた岬の名前の Cabo Mendocino(=the Cape of Mendoza)からの転⽤と する説。もう1つは Viceroy of New Spain(1580-1583)であった Lorenzo Suarez de Mendoza にちなんで命名されたとする説である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Mendocino")。前者は1540-42 年にかけて Colorado Expedition(現在の Colorado および New Mexico 地域への探検隊)を派遣 したことでも知られている。本稿では後者の説を採⽤した。元来 Mendoza はスペインの地名 で、Antonio も Lorenzo も Mendoza の出⾝であったことを⺬している。Mendoza を Smith の姓 の辞典で引くと、スペイン、またはポルトガルの地名姓として‘One who came from Mendoza(cold or high mountains:寒 い ⼭、ま た は ⾼ い ⼭ が 原 義) ’と 記 載 さ れ て い る。 (E. C. Smith, New Dictionary of American Family Names, Harper & Row, Publisher, New York, 1973. s. v. "Mendoza")。なお、Mendocino は Mendoza の形容詞形(adjectival form)であるが、スペイン語 の地名の付け⽅としては極めて異常(the adjectival form is highly unusual in Spanish place-naming)と解する学者もある(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Mendocino") 。 (32)Monterey[m@(:)ntəréi / mAntə-] 1850年に創設された27郡の1つであるが、1874年、その1部が San Benito 郡に移された。⾯積 は3,322平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は412,104⼈。州の中南部に位置し、⻄は太平洋に⾯し ている。Monterey はメキシコの総督(Viceroy of Mexico, 1595-1603)であったモントレ−伯爵 (Conde de Monterrey)を記念して Vizcaino により命名されたもので、伯爵領に由来する(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., p. 243)。ところで、モントレー伯爵の正式の名前は Gaspar de Zuniga y Azevedo, Conde de Monterrey(1540?-1606)である。元来、地名の Monterrey は‘r’ をダブって綴られていたが、当時アメリカで流⾏していた‘r’ひとつのスペリングに従って Monterey と命名され、これが定着した(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Monterey") 。原義は「王の⼭」 である。⼀⾔付⾔すれば、カナダの Montreal の原義も「王の⼭」である。伯爵はメキシコの総督 (viceroy of Mexico)であったとき、カリフォルニア沿岸地⽅へ有名な探検隊を派遣した。その 探検隊の隊⻑であった Sebastian Vizcaino は1603年、上陸した湾を総督にちなみ、スペイン語で Bahia de Monterrey(=Monterey Bay;モントレー湾)と命名した。なお、アメリカには California 州以外に Virginia 州や Massachusetts 州に Monterey がある。これらは1847年、メキシコ の Monterrey における戦いで、アメリカ軍が勝利したことを記念して付けられたものである(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Monterey")。 E 主要産業 重要な産業の発展を願って命名した郡がスペイン語のグループに1つ⾒られる。Madera County である。 (33)Madera[məd<ərə] 歴史的には Fresno County のいくつかの地域を取って1893年に創設された郡である。⾯積は ― 29 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 2,136平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は142,788⼈。南を Fresno 郡、北を Mariposa と Merced の両郡と境を接する州の中央部に位置している。Madera はスペイン語で「材⽊」(timber, lumber, wood)を意味している。Stewart によれば、ある材⽊会社が1876年、町名を Madera と命名 したのが始まりで、その名称が後に郡名に転⽤されたものである(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Madera")。したがって、当郡の主要産業にちなんで郡名は名付けられたことになる。郡庁所在 地(county seat)となっている Madera が製材業(lumbering)の中⼼地であったことから、 Marinacci は ま こ と に 適 切 な 名 称 と 述 べ て い る(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., s. v. "Madera")。 Ⅱ 原住⺠語の郡名 スペイン語の33の郡名に次いで多いのが原住⺠語の郡名で11を数える。ただし原住⺠語由来の 郡名を内容の⾯から⾒ると、部族または部落名由来か、描写名由来か、事件由来かの範疇に含ま れる。この特徴はどの州の場合も変わらないように思われる。とはいえ形態⾯から⾒ると、地域 により⼤きな差があって興味深い。参考までに、New England と California 原住⺠語由来の郡名 の形態的特徴を少し⾒てみたい。 New England には Nantucket, Coos, Merrimack, Androscoggin, Aroostock, Kennebec, Penobscot, Piscataquis, Sogadahoc という原住⺠語の郡名がある。⼀⽅、California には Colusa, Inyo, Modoc, Mono, Napa, Shasta, Siskiyou, Sonoma, Tehama, Tuolumne, Yulo がある。両者を⽐較すれ ば、その形態的特徴は⼀⽬瞭然であろう。すなわち、前者はすべて⼦⾳(consonant)で終わって いるのに対し、後者は Modoc を除き⺟⾳(vowel)で終わっていることである。前者は閉⾳節構 造(closed syllable structure)、後者は開⾳節構造(open syllable structure)という特徴が⾒られ る。⾳節構造が前者は英語的特徴を持ち、後者はスペイン語的特徴を持っている。これは、New England に英語を⺟国語とする England の出⾝者が多かったことを物語るものであり、California にはスペイン語を⺟語とするスペイン⼈(Spaniards)、メキシコ⼈(Mexicans)が多数を占め ていたからである。やはり、⺠族的、歴史的、⾔語的背景の差が、同じ原住⺠語由来の郡名のス ペリングや発⾳にも顕著に表れているといえよう。 A 原住⺠の部族または部落 こ の グ ルー プ に 属 す る の は 前 述 の Colusa, Modoc, Mono, Napa, Shasta, Sonoma, Tehama, Tuolumne, Yulo の9郡である。このうち、Tuolumne だけはスペリングも発⾳も難しい。特に発 ⾳は[tu:=ləmni]で、最後の‘e’も弱⺟⾳[i]として発⾳されるので注意を要する。 (34)Colusa[kəlú:sə] 1850年に創設された27郡の1つであるが、郡の1部は1856年に Tehama County に、さらに、 1864年には Glenn County に移されたという歴史的背景をもつ。⾯積は1,151平⽅マイルで、2005 年の推定⼈⼝は21,095⼈。州の中北部に位置し、Lake County と境を接している。郡名も郡都名 の Colusa も原住⺠語由来という点では学者間で意⾒の⼀致をみているが、部族名とみるか、部落 名とみるかで意⾒が分かれている。Gard & Western は Colusa Indian 部族を記念したもの(R. C. Gard, op. cit., s. v. "Colusa")と解しているけれども、Harder は原義未詳の Patwin Indian の部落名 に由来すると記している(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Colusa")。スペリングについては多種多様 (例えば Colsi, Colusa)であったが、1850年の郡設⽴の際に Colusa に統⼀された。 ― 30 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) (35)Modoc[móudɔk] 1874年、Siskiyou County のいくつかの地域を取って創設された歴史をもつ。⾯積は3,944平⽅ マイル、2005年の推定⼈⼝は9,524⼈。Modoc 郡は Oregon 州南部と California 州北部に住んで いた原住⺠の部族名に由来する。したがって、当郡はオレゴン州とネバダ州に境を接するカリ フォルニア州北東部に位置している。元来、部族名の Modoc は moatokni が短縮されて、さらに 変形されたもので、原義は「南の⼈々(southerners)」である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Modoc") 。 1970年代に起こった Modoc War(1872-73)により Modoc の名は⼀躍有名になり、いくつかの州 でも Modoc の地名が付けられている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Modoc")。 (36)Mono[móunou] 1861年、Calaveras, Fresno, Mariposa の郡の1部を取って創設された。ただし、1866年、Mono County の1部が Inyo County に移された。⾯積は3,044平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は12, 509⼈。この郡は州のほぼ中央部の東端にあり、Nevada 州と境を接している。Mono の由来につ いて Harder は、恐らくショショニ−族の部族名(Shoshonean tribal name)をスペイン語式のつ づり(Spanish transliteration)にしたものであろうが、イギリス⼈が後に部族名の‘monache’ または‘monachi’を短縮して‘mono’にしたと記している(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Mono")。 ただし原義を Harder は「抜け⽬のない、機敏な⼈々」 (fly people)と解しているが、Marinacci は スペイン語の名詞として「猿」 (monkey)、形容詞として「⾯⽩い、可愛い」 (funny, cute)の意味 があると記載している(Barbara & Rudy Marinacci, op. cit., s. v. "Mono")。なお、部族名の Mono から Mono Lake がこの郡に⾒られる。 (37)Napa[nǽpə] 1850年に創設された27郡の1つであるが、1861年、その1部が Lake County に移された。⾯積 は754平⽅マイル、2005年の推定⼈⼝は132,764⼈。当郡は東を Yolo 郡、⻄を Sonoma 郡に境を接 している。Napa が原住⺠の部族名、または原住⺠語から来ていることについては学者間で⼀致 しているが、どの部族を記念したものなのか、またその原義については諸説があって定説はない。 すなわち、Patwin 族(house「家」が原義)にちなむとする説、由来未詳の原住⺠語で「ハイイロ グマ」 (grizzly bear)を指すとする説、Suisan Indian 語由来で「⺟国」 (motherland) 、 「故郷の近 く」 (near home)が原義であるとする説もある(K. B. Harder, op. cit., s. v."Napa") 。さらに、napa は「豊富な」 (abundant)、 「⿂をとる銛」 (fish harpoon)が原義とする説もある(J. N. Kane, op. cit., p. 225)。本稿では便宜上、部族名由来に分類した。 (38)Shasta[ʃǽstə] 1850年に設⽴された27郡の⼀つ。ただし、その1部は1852年 Siskiyou 郡に、1856年 Tehama 郡 に、さらに1864年 Lassen 郡に移された。⾯積は754平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は132,764 ⼈である。当郡は州の北部に位置し、北を Siskiyou 郡、南を Tehama 郡に境を接している。 Shasta 族は California 州北部と Oregon 州南部、殊に Klamath River とその⽀流に住んでいた原 住⺠で、郡名は部族名に由来する。Kane によれば、彼らの原語名の Sasti Shastika Tsasdi から1 部を取って Shasta としたものである。原義は「3」 (three)で、3つの頂を持つ⼭(a triple-peak mountain)を指している(J. N. Kane, op. cit., s. v. "Shasta") 。この郡には Shasta 族を記念して Shasta Lake, Shasta National Forest, Mount Shasta がある。 (39)Sonoma[sənóumə / sou-] 1850年に設⽴された27郡の1つで、⾯積は1,576平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は466,477⼈。 州の中⻄部に位置し、⻄は太平洋に⾯する。Sonoma はサクラメント川流域に住んでいた原住⺠ ― 31 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 の⼩部族(a Wintun Indian "tribelet" that lived in the Sacramento Valley)から来ている。元来は Soninmak であったが、現在のスペリングは典型的なスペイン語⾵の語尾となっている。原義は 「⿐」 (nose)であるけれども、その理由は未詳(K. B. Harder, op. cit., s. v. “Sonoma")。また、由 来は原住⺠の酋⻑ Tsonoma で、原義は「⽉の⾕」 (valley of the moon)と解する説もある(J. N. Kane, op. cit., s. v. "Sonoma")。Harder によると、Sonoma City が最初にでき、次いで Sonoma County が設⽴された。したがって、部族名から都市名に、都市名から郡名に発展した地名である。 隣の Nevada 州に Sonoma Range, Sonoma Peak の⾃然地名が⾒えるが、おそらく California 州か らの移転地名(transferred name)であろうと考えられる(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Sonoma") 。 (40)Tehama[tihéimə] 1856年、Butte, Colusa, Shasta の3郡の1部地域から取られて創設された。⾯積は2,951平⽅マ イルで、2005年の推定⼈⼝は61,197⼈。当郡は北を Shasta 郡、南を Glenn 郡と境を接する州北部 に位置する。由来について Kane は‘Tehama Indian tribe’と記している(J. N. Kane, op. cit., s. v. "Tehama") 。しかし Stewart によると、おそらく原住⺠語か、村の地名か、部族名由来であろう が、原義も由来も⼤いに問題ありと記載している(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Tehama") 。Harder の辞典ではアラビア語起源の‘tihama’ (灼熱の低地)ではないかと学者間で熱⼼に議論されたこ ともあるが、由来、原義とも未詳とある。また偶然の⼀致かもしれないが、原住⺠語にも「低地」 (lowlands)を意味する Tihama があり、それは原住⺠が住んでいた地域を描写したものである かも知れないとも記されている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Tehama") 。本稿では便宜上の措置と して Kane 説に従い、原住⺠の部族名由来の項に⼊れた。 (41)Tuolumne[tu:=ləmni] 1851年に設⽴された27郡の1つであるが、その1部が1854年 Stanislaus 郡に、1864年 Alpine 郡 に移された。⾯積は2,235平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は59,380⼈。郡名のスペリングと発⾳ は上記のように難しいのが⽋点といえよう。初期の移⺠や宣教師達が原住⺠語をラテン⽂字化す るのに、どれほど苦労したかが想起される郡名である。Harder の辞典によると、Miwok Indian の1⽀族(subtribe)に由来しているけれども、初期の記録には taulamne, tahualamne, towalumnes など様々に綴られていた。Tuolumne 族は恐らく、現在 Tuolumne River と呼ばれている 川沿いに住んでいたと考えられている。メキシコ⼈は、この川を昔 Rio de los Towalumnes と呼 んでいたが、Tuolumne は直接的には tuleyomi に由来している。しかし原義に関して、現在分 かっているのは語尾の‘yomi’(=umne)が‘people’ (⼈々)を意味していることだけである(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Tuolumne")。なお、郡名とは対照的に、郡庁所在地の Sonora[soun=:rə, sounóura:]はスペリングも発⾳も容易である。その上「響き渡る」 「朗々とした」 (sonorous)の 原義を持ち、⽂字通り、響きの良い地名である。 (42)Yolo[jóulou] 1850年に創設された27郡の1つ。⾯積は1,013平⽅マイルで、2005年の推定⼈⼝は 184,932⼈。 この郡は、東を Sacramento 郡、⻄を Napa 郡と境を接する州中北部の郡で、Patwin Indian の1 ⽀族を記念して命名されている。Yolo の原形は Yodoi であるが、原義は未詳。おそらく「イグサ の⽣えている所」(place where rushes grow)が原義であろうと Harder の辞典に⾒える(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Yolo")。郡庁所在地の Woodland は英語で、「森林地」を意味する。 B 描写名 この範疇に⼊ると思われる郡名は Inyo 郡ただ1つである。しかし原住⺠語の部族名や部落名 ― 32 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) に由来する郡名には、前述の Yolo County の「イグサの⽣えている所」とか、Tehama County の 「低地」 (?)とか元来は⾃然地名または描写地名で、そこに住んでいた部族名または村名に転⽤ されたと考えられるものもあって、明確に分類することは困難である。したがって、Inyo 郡につ いても便宜上の措置であることを断っておきたい。 (43)Inyo[īnjou] 1866年 Mono と Tulare の両郡から⼀部をとって創設された。⾯積は10,203平⽅マイルで、 2005年の推定⼈⼝は18,156⼈。当郡は東を Nevada 州に境を接する州の中南部に位置する。Harder によれば、Inyo はこの地⽅の⻄部を⾛っている⼭々を指す原住⺠語由来で、⼭脈名から郡名 は採られている。原義は「偉⼤な霊の住む所」 (where the great spirit dwells)である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Inyo")。カリフォルニア州には Inyo County 以外にも Inyo Mountains, Inyo National Forest がある。原住⺠の中には⾼い⼭や⼭頂に「霊」が宿ると信じていた部族が多く、 Bally, Bolly, Bully, Bailey(Wintun 語の‘bola’ 「霊」に影響を受けた‘bili’ 「⼭頂」に由来)の付 く Shasta Bally, Bully Hill, Bailey Hill が Stewart の辞典に記載されている(G. R. Stewart, op. cit., "Inyo") 。 C 事件由来 由来も原義も疑念があって上記の範疇に⼊らないが、事件由来と思われる郡名が1つある。 Siskiyou 郡である。原住⺠語をフランス語化したものとも考えられるが、便宜上、原住⺠語の中 に分類した。初期の開拓者や探検者が⽂字ももたず、その上、発⾳も難しい原住⺠語のアルファ ベット⽂字化や意味の詮索に苦労した跡が偲ばれる郡名である。原義についても定説のない地名 が多く、これが原住⺠語の地名の⼤きな問題点といえよう。 (44)Siskiyou[sískiju:] 1852年、Shasta County と Klamath County(現在はオレゴン州の郡)の1部を取って創設され た郡。ただし、1855年に当郡の1部が Modoc County に移された。カリフォルニアの郡の地図を みると、この郡は Oregon 州と境を接し、東を Modoc 郡、⻄を Del Norte 郡に隣接している。⾯ 積は6,287平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は45,259⼈。由来と原義については2説があり、定説 はない。1つは Cree Indian 由来で原義は「切り尾の⾺」 (bob-tailed horse)とする説、もう1つ はフランス語の six cailloux(「6つの丸⽯」)に由来するとする説である。前者の説の bob-tailed horse について、Stewart は恐らく pack horse(荷物運び⽤の⾺)を指していたものであろうと解 している。なぜなら、1828年、Hudson Bay 社の⼀⾏が⼭で吹雪にあい、多くの pack horse を失っ た事件があったからである(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Siskiyou") 。後者もフランス語由来とはい え、元来は原住⺠語の訛った語(a corruption of the Indian word)と解する学者もある(Gard & Western, op. cit., s. v. "Siskiyou")。したがって、原住⺠語の事件地名とみるか、またはフランス語 由来なのか、現在のところ判然としない。本稿では便宜上、原住⺠語の事件由来の項に分類した。 Ⅲ 英語の郡名 スペイン語、原住⺠語に次いで多いのは英語由来で、全部で9つを数える。その内訳は描写名 が4、⼈名由来が2、キリスト教関係が2、会社名由来が1である。しかしながら、このグルー プに⼊る9郡が果たしてすべて英語由来と決めつけるには無理なものが少なくとも3つ含まれて いる。Kings, Trinity, Stanislaus である。Kings と Trinity はれっきとした英語であるから問題な ― 33 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 いように思える。しかし実はスペイン語の‘Rio de los Santos Reyes’および‘Bahia de Trinidad’ に由来していることは、スペイン語由来の郡名の説明でふれた通りである。上記のスペイン語の 名称は、それぞれ翻訳されて‘River of the Holy Kings’および‘Trinity Bay’となり、さらに短 縮されて Kings, Trinity となっている。Stanislaus についても元来は、原住⺠族の酋⻑に付けら れたスペイン語の洗礼名(christian name)の Estanislao に由来している(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Stanislaus")。しかし英語化されて Stanislaus となった。上記の3郡は歴史的観点からはスペ イン語由来に分類してしかるべきものであるが、形態的観点からは英語由来とすることも可能で ある。本稿では、後者の⽴場からの分類であることを再度断っておきたい。 A 描写名 (45)Alpine[ǽlpàin, -pin, -pə] 1864年、Amador, El Dorado, Calaveras, Tuolumne の4郡から1部を取って設⽴された郡で、 州の中東部に位置し、東側は Nevada 州に接している。⾯積は739平⽅マイル。2005年の推定⼈ ⼝は1,159⼈。Gard & Western によれば、当郡は Sierra Nevada Mountains の⾼地(high altitude) にちなんだ描写名で、原義は「アルプス⼭脈の」(of the Alps)、または「⾼⼭(性)の」である (Gard & Western, op. cit., p. 32.)。Alpine の基になった Alps も時折、ごつごつした⾼い⼭脈にた いして賞賛の意をこめて⽤いられる準⼀般語(quasi-generic for high and rugged mountains)で あると Stewart の辞典に載っている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Alpine") 。ただし、中央ヨーロッ パのアルプス⼭脈にちなんで命名されたと解する説もある(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Alpine")。 (46)Lake[léik] 1861年、Napa County からいくつかの地域を取って設⽴された。⾯積は1,258平⽅マイルで、 2005年の推定⼈⼝は65,147⼈。当郡は州の中⻄部にあり、東を Glenn と Colusa、⻄を Mendocino と Sonoma の4郡に囲まれている。郡名はは⽂字通り「湖のある郡」を意味する描写地名であ る。郡の中央部に⼤きな湖がある。⾯⽩いのは普通名詞の lake と固有名詞の地名の Lake を区 別していないことである。わが国でも⼤きな川の近くに住んでいる⼈々が、それを単に「川」と 呼ぶように、アメリカでも湖を単に‘Lake’と呼んでいる。同じものが2つ以上あるときには意 識的に区別して「⼤、⼩」 「⾚、⿊」などの種差を表す語をつけることになるが、近くに1つしか ないときには地名を普通名詞と区別する必要はなかったと思われる。Lake County は郡名として は12の州に、Lake City も6州に多⽤されているのは、lake のもつ⾼い瑞祥的価値(high commendatory value)と転移(transfer)によるものであろうと、Stewart は述べている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Lake")。 (47)Orange[=rindʒ, = (:)r-, ; (:)r-] 1889年、Los Angeles County からいくつかの地域を取って設⽴された。⾯積は789平⽅マイル で、2005年の推定⼈⼝は2,988,072⼈。当郡は北を Los Angeles 郡、南を San Diego 郡と境界を接 し、太平洋に⾯する⼩さな郡である。由来については、かつてこの地⽅に多くのオレンジ林 (orange groves)があったことにちなんだ描写地名である。(Gard & Western, op. cit., p. 35)。と ころで、Stewart の辞典を引くと、Orange には描写名以外にもオレンジ公の称号(the title Prince Orange:オレンジ公は1689年 King William Ⅲとしてイギリス王となった)由来の郡名が Indiana, New York, North Carolina, Vermont, Virginia 州の郡名に⾒える。描写名のグループに⼊ るものに California 州をはじめ、Florida 州 , Texas 州の郡名に⾒られるが、オレンジという果物 の商業的栽培(commercial cultivation)を宣伝に利⽤した名称であるとも考えられる(G. R. Stew― 34 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) art, op. cit., s. v. "Orange") 。 (48)Riverside[rívəsàid] 1893年、San Bernardino 郡と San Diego 郡のいくつかの地域を取って創設された。⾯積は7, 207平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は1,946,419⼈。当郡は⻄を Orange County に、東を Arizona 州に隣接する所に位置している。郡名は⽂字通り「川辺の場所」 (a site beside a river)を意味 する描写地名である(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Riverside")。しかし郡名は、直接的には1883年に 設⽴された Riverside という市名(city name)から採られている(Nelli Van de Grift Sanchez, Spanish and Indian Place Names of California, San Francisco, 1922. s. v. "Riverside County")。歴 史的⽴場からの分類であれば、市名の郡名への転⽤、または転移(transfer)とも考えられるであ ろう。興味深いことだが、郡名も、郡庁所在地の Riverside も、いずれも元を正せば、Colorado River(2,320キロの⻑さがあり、原義は「⾚⾊の川」 )河畔にちなんで名付けられている。 B ⼈物名 英語系の⼈名由来のグループには Glenn と Stanislaus の2郡がある。ただし、前述の通り Sta- nislaus の由来についてはスペイン語の英語翻訳説とポーランドの聖⼈のラテン語説があり、定 説はない。本稿では便宜上、スペイン語の英語翻訳説を採⽤して分類した。 (49)Glenn[glén] 1891年、Colusa County のいくつかの地域を取って創設された。⾯積は1,315平⽅マイル。2005 年の推定⼈⼝は27,759⼈。当郡は北を Tehama County、南を Colusa County と接する州北部に 位置している。Harder の辞典には‘for Hugh J. Glenn, an influential citizen and wheat farmer’と ある(K. B. Harder, op. cit., s. v., "Glenn")。通例‘glen’は‘valley’ (⾕、⾕間)を意味する普通名 詞であるが地名、特に居住地名(habitation-name)として⽤いられることも多い。ただし、⼈名 に⽤いられる場合は Glenn(ウエールズ系の姓)のスペリングが Glen より多⽤されている(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Glen")。なお、郡庁所在地の Willows(複数形に注意)は川辺の「柳」の⽊ にちなむ描写名である。 (50)Stanislaus[stǽnislA:s, -l@us, -l@:s] 1854年、Tuolumne County の1部を取って創設された。⾯積は1,494平⽅マイルで、2005年の 推定⼈⼝は505,505⼈。当郡は北を San Joaquin County、南を Merced County といういずれもス ペイン語由来の郡と接している。由来については2説がある。1つは原住⺠の酋⻑で、洗礼を受 けて与えられたスペイン語の‘Estanislao’の Christian name を記念したとする説である。彼の 率いる部族は Rio de los Laquisimes で起きた戦いでメキシコの正規軍に敗れはしたが、上記の川 は彼にちなんで‘Rio Estanislaus(エスタニスラウスの川) ’とスペイン⼈により改称された。た だし、1845年ごろ John Frémont により英語化されて Stanislaus River となった(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Stanislaus")。スペイン語名を英語に直す場合、往々にして頭部の⼦⾳が脱落して Español が Spain, Estanislaus が Stanislaus に変形することは注⽬すべきであろう。もう1つの説は Saint Stanislaus(聖スタニスラウス)に由来するものである(G. R. Stewart, op. cit., "Stanislaus")。 川名に先ず付けられ、後に郡名に転⽤されたとする説である。Stanislas(1030-1079)はポーラン ドのクラクフ(Cracow)で殉教し、聖⼈となった司教として辞典に載っている(Donald Attwater, Penguin Dictionary of Saints, s. v. "Stanislas of Cracow")。本稿では前者の説にしたがい分類 したが、便宜上の措置である。なお、郡庁所在地はスペイン語の Modesto で、 「慎み深い」の原義 をもつ。 ― 35 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 C キリスト教関係 California 州ではキリスト教関係由来の郡名の⼤部分がスペイン語系で、15郡あることはすで に述べた。また、この項で取り上げる Kings と Trinity についても元来スペイン語からの英語訳 であって、しかも、それを短縮したものであることも、すでに触れたところである。したがって、 両郡については補⾜的に述べておきたい。 (51)Kings[kíŋz] 1893年、Tulare County のいくつかの地域を取って創設された。⾯積は1,391平⽅マイルで、 2005年の推定⼈⼝は143,420⼈。この郡は南を Kern County、北を Fresno County と境を接する 州の中南部に位置する。郡名はスペイン語の川名‘Rio de los Santos Reyes’の英語翻訳名‘River of the Holy Kings’に由来する。ここで⾔う‘Holy Kings’とは新約聖書のマタイ伝中の‘the Magi or Three Wise Men’(三⼈の賢⼈)のことである。彼らは星に導かれてベツレヘム(Bethlehem)に⾄り、⽣まれたばかりのキリストを拝したと⾔われる東⽅の三⼈の博⼠(Three Wise Men of the East)としてよく知られている。ところで、この3⼈の Kings を記念したのは、スペ インの探検隊の⼀⾏が1806年、この川を発⾒した⽇が1⽉6⽇で、たまたま彼らの祝⽇に当って いたからである(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Kings")。なお、New York 州の Kings County は英国 王 King Charles 2世を、またカナダの Prince Edward Island の Kings County は George 3世を 記念した郡名である。 (52)Trinity[tríniti, trínəti] 1850年に創設された27郡の1つである。しかし1853年には郡の1部が Humboldt County に移 された。⾯積は3,179平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は13,622⼈である。当郡は州の⻄北部に位 置し、北を Siskiyou County、南を Mendocino County と境を接している。郡名は Trinity Sunday にちなむ。Stewart によれば、スペインの探検隊 Bruno de Hezeta が1775年の Trinity Sunday(三 位⼀体の祝⽇)にちなみ、⾃ら発⾒した湾を‘Bahia de Trinidad’とスペイン語で命名した。その 後1845年、この湾に注いでいたと思われる川が湾名にちなみ Trinity River と名付けられた(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Trinity")。さらに、1850年、郡の創設にあたり、Trinity Sunday にちなんで 郡名の Trinity County が命名されたという歴史がある。Trinity とはキリスト教でいう「⽗なる 神」 「⼦なるキリスト」「神的⼒としての聖霊」を⼀体として⾒る「三位⼀体」を意味し、英語で は‘the Holy Trinity’または‘the Blessed Trinity’ともいう。また‘Trinity Sunday’を指すこ ともある。当郡は Trinity Sunday に由来する。ただし、Trinity Sunday は年によって異なるが、 通例は、復活祭(Easter)後の第8⽇曜⽇である(⽵林 滋『新英和⼤辞典』第6版、研究社、2000 年)。 D 会社名 わが国にも「帝国ホテル」 「帝国産業」などの会社に「帝国」という⼤層な語を冠したものがあ るように、アメリカにも‘imperial’を付した‘Imperial Bakery’ ‘Imperial Hotel’などがある。 Stewart の辞典を引くと、普通‘imperial’という語は瑞祥名(commendatory name)で、時に居 住地や開発地に⽤いられることもあるが、元来は会社名(company name)として使⽤されてきた ものが⼤部分である(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Imperial") 。ただし、この範疇に⼊る郡名は Imperial County 1つだけである。 (53)Imperial[impí(ə)riəl] 1907年、San Diego 郡のいくつかの地域を取って設⽴された。この州の中では最も遅く創設さ ― 36 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) れた58番⽬の郡で、州の最南端部に位置し、メキシコと境を接している。⾯積は4,175平⽅マイル で、2005年の推定⼈⼝は155,823⼈。郡名は Imperial Land Company に由来する。この会社は California Development Company の subsidiary(⼦会社)で、1900年代の初期に⼟地を取得する ⽬的で作られた会社であった。つまり「帝国⼟地会社」という不動産会社の名前にちなんで Imperial County は名付けられたわけである(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Imperial") 。周知のとおり、 この郡にはアメリカ有数の野菜の⽣産地である Imperial Valley(原義は「帝国⾕」)がある。当地 域は昔、砂漠だった所で Colorado Desert(コロラド砂漠)と呼ばれて⼈の住まない⼟地であった から、上記の不動産会社は砂漠のイメージを避けて Imperial Valley に変えた(G. R, Srewart, op. cit., s. v. "Imperial") 。灌漑(irrigation)により Imperial County の野菜栽培の中⼼地となった郡庁 所在地の El Centro(=the Center)は当郡の中⼼部に位置している。 Ⅳ ドイツ語の郡名 珍しく California 州の郡名にドイツ語由来と考えられる county が3郡ある。Humbolt, Kern, Sutter で、いずれも⼈物名に由来している。彼らは命名された地⽅の探検、開拓、または偶然の 事件や発⾒による機縁によって記念されたものである。 (54)Humboldt[hEmboult, húm-] 1853年、Trinity County のいくつかの地域を取って創設された。⾯積は3,572平⽅マイルで、 2005年の推定⼈⼝は128,376⼈。Humboldt County は州の北⻄部にあって太平洋に⾯し、北は Del Norte 郡、南は Mendocino 郡と境を接している。郡名はドイツの著名な探検家、博物学者、 政治家の Friedrich Heinrich Alexander von Humboldt (1769-1859)にちなむ(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Humboldt")。彼は19世紀の中頃アメリカ各地を探検した。その⾜跡が記念されて California, Iowa, Nevada の3州に Humboldt County がある。また Humboldt Bay として California 州の湾名にも記念されている。Humboldt を姓の辞典で引くと 'descendant of Humbeald(bear cub + bold)’とあり、 「勇敢な熊の⼦の原義をもつ Humbeald」の⼦孫という⽗称に由来するド イ ツ 姓 で あ る(E. C. Smith, New Dictionary of American Family Names, Harper & Row, Publishers, New York, 1973. s. v. "Humboldt")。 (55)Kern[k;:n, kF:n] 1866年、Los Angeles County と Tulare County の⼀部地域を取って創設された。⾯積は8,141 平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は756,825⼈。当郡は州の南⻄部に位置し、東を San Bernardino County、⻄を San Luis Obispo County と境を接している。郡名は直接的には川名の Kern River から採られている(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Kern") 。地形学者(topographer)でもあり画家で もあった Edward M. Kern は1845年、J. C. Frémont(1813-1890)の有名な探検隊に同⾏したが、 すんでのことに川で溺死しそうになった。それが機縁で、その川は Kern River と命名された(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Kern")。何でもない、ちょっとした事件が切っ掛けで川名となり、さら に郡名にまで発展しているのを⾒ると、命名にもある種の偶然的要素がつきまとう場合があるこ とを⺬している。なお、Kern をドイツ語由来としたのは Smith の辞典にドイツ系の姓として ‘descendant of Kern, a pet form of Gerwin (desire, friend); one who came from Kern (kernel) in Germany’と記載されているからである(E. C. Smith, op. cit., s. v. "Kern(s)") 。つまり、⽗称由来 で「願望、友⼈の原義をもつ Gerwin」の⼦孫、または「仁、すなわち果実の核の中の部分の原義 をもつドイツの Kern」の出⾝者、という地名由来の姓のいずれかと考えられる。 ― 37 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 (56)Sutter[sEtə, sú:- / -tər] 1850年に創設された27郡の1つであるが、1851年、その1部地域が Placer County に移された。 ⾯積は603平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は88,876⼈。当郡は東を Placer, Yuba の2郡に、⻄を Yolo, Colusa の2郡に境を接する州の中央部のやや北に位置する。郡名は1849年の有名な California の⾦鉱発⾒でゴールドラッシュ(gold rush)と関係の深い⼈物、Sutter 製粉所の所有者の John Augustus Sutter(1803-1880)にちなむ。三省堂の『固有名詞英語発⾳辞典』では‘owner of Sutter's Mill’の Sutter の発⾳は[sEtə]とわざわざ注を付している(⼤塚・寿岳・菊野編『固有 名詞英語発⾳辞典』三省堂.1979.s. v.“Sutter” )。 越智道雄⽒によると、Johan Sutter(ズッテル :「靴屋」が原義)は元来ドイツ系スイス⼈の⼦ として1803年、スイスのバーゼル(Basel)近くの村で⽣まれ、成⼈してフランス系の娘と結婚。 ただちに名前をスーテルとフランス式に変更した。1834年に破産して⼀⼈で渡⽶。New York に 着くと、すぐに Johan Sutter はイギリス式にスペリングも John Sutter と変え、同時に発⾳も [sEtə(r)]と変えた(越智道雄『カリフォルニアの⻩⾦―ゴールドラッシュ物語』朝⽇新聞社、 1990,pp.139-140)。その後 California に移り、1841年メキシコ⼈の知事にとりいり、5万エー カーの⼟地を下賜された。1848年1⽉24⽇、彼の⼟地となったサッター製粉所(Sutter's Mill)付 近で⾦が発⾒され、1849年のゴールドラッシュ(gold rush)を現出したことは有名である。この 発⾒で彼⾃⾝はあまり儲けることはなかったが、彼の名は当地域の開発者(developer)の1⼈と して郡名に記念されることになった(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Sutter")。 Ⅴ フランス語の郡名 描写名としてフランス語由来の郡名が1つ州の中北部にある。Butte County である。東を Plumas 郡、⻄を Glenn 郡、南を Sutter と Yuba の両郡に境を接している。 (57)Butte[bjú:t] 1850年に創設された27郡の1つ。ただし1854年、その1部地域が Plumas County に、また1864 年には Alpine County に移された。⾯積は1,639平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は214,185⼈。 Butte はアメリカ⻄部乾燥地帯の平原に孤⽴する周囲の切り⽴った丘のことで、頂上に浸⾷され にくい硬い岩⽯がある。Mesa[méisə] (スペイン語で table が原義)がさらに浸⾷されて⼩さく なり孤⽴した丘が butte と呼ばれる。Middle French(中仏語)の‘bute’に由来し、原義は「⽬ 印の⼩塚⼭」 (mound for target)である(稲村松雄『ランダムハウス英和辞典』⼩学館、1979.s. v.“Butte”)。Du Gard & Western によると、「北サクラメント⾕のサッターの⼩塚⼭」(named after Sutter Buttes in the North Sacramento Valley)にちなんでいる(Coulet du Gard & Western, op. cit., s. v. "Butte")。注意すべきは、California 州以外にも Butte County が Idaho、Nevada、 South Dakota の諸州に⾒られることである。なお、郡庁所在地は Oroville。スペイン語の「⾦」 (oro)とフランス語の「村」(ville)の合成語で、 「⻩⾦の村」の原義をもっている。 Ⅵ デンマーク語の郡名 California 州にはただ1つであるが、デンマーク系の開拓者が郡名として記念されている。 Lassen County である。州の北東部にあり、Nevada 州と境を接する当郡は、ラセン⽕⼭国⽴公園 (Lassen Volcanic National Park)の所在地として知られている。 ― 38 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) (58)Lassen[lǽsn, lǽsən] 1864年、Plumas 郡 , Shasta 郡および Nevada 州にかつてあったが現存しない Lake County の 1部地域を取って創設された。⾯積は4,557平⽅マイル。2005年の推定⼈⼝は34,751⼈。州の北 東部に位置し、東側は Nevada 州と境を接している。郡名はデンマーク⼈の開拓者 Peter Lassen (1793-1859)にちなむ。彼は1848年に移⺠団を Sacramento Valley に先導した⼈物だが、1859年、 原住⺠に捕らえられ殺害された。 当郡にはカスケード⼭脈(Cascade Mountains)が⾛り、⼭頂は Lassen Peak と名付けられてい る。郡名は恐らく、直接的にはこの⼭頂名から採られたものであろうと Harder は記している(K. B. Harder, op. cit., s. v. "Lassen")。いずれにしろ、当地域の初期の偉⼤な開拓者を記念しているこ とは間違いない。なお、Andersen, Jespersen, Jens(s)en, Lassen などの‘sen’はデンマークの⽗ 称由来の姓に多く⾒られるもので、英語の‘son’にあたる。Lassen には「ニコラウス(Nikolaus : people's victory;⼈⺠の勝利が原義)の愛称形の Las の⼦孫」または「ローレンシウス(Laurentius : laurel, symbol of victory;⽉桂樹、勝利のシンボル)の愛称形の Lars の⼦孫」の原義がある(E. C. Smith, op. cit., s. v. "Lassen")。 結語 州名の California と州都名の Sacramento のいずれもがスペイン語由来であることは、California 州の郡名の⾔語的特徴を象徴しているように思われる。なぜなら、58郡のうち、33郡がスペ イン語由来で、全体の55%を占めているからである。⼀⽅、California が美⼥と⻩⾦の島として 描かれた伝説上の California 島に由来し、Sacramento がキリスト教で特に神聖と考えられてい る宗教的儀式を指す名称であることに注⽬すると、スペイン⼈の新⼤陸における命名法の3⼤特 徴、すなわち宗教、描写、事件由来という特⾊が浮かび上ってくる。キリスト教関係の郡名が15、 描写に属する郡名が8、事件由来の郡名が5である。殊に⾔語的に興味深いのは宗教地名で、元 来 Virgin Mary や聖⼈に捧げられた⻑⼤な名称が economy の法則により時が経過するにつれて 短縮されて呼ばれるようになり、それが定着していることである。Los Angeles や Merced はそ の良い例である。また San Diego, San Francisco の San(男性形で、英語では Saint)や、Santa Barbara, Santa Clara に⾒られる Santa(⼥性形)の付く、いわゆる聖⼈由来の多いこともスペイ ン語の宗教地名の特⾊と⾔えるであろう。命名の内容や性格的に⾒て⾯⽩いのは事件にまつわる 郡名で、El Dorado(⻩⾦郷)、Calaveras (頭蓋⾻)、Mariposa(蝶)、Plumas(⽻⽑)などは幻 想的でロマンチックな雰囲気をただよわせている。スペイン⼈の持つ宗教的側⾯と合わせて興味 深いものがあろう。 California 州におけるスペイン語地名の圧倒的ともいえる数の多さは、この州の歴史と密接に 絡み合っている。周知の通り、California は1848年までスペイン、後にメキシコの⽀配下にあっ た地域である。1845年の California 地域におけるアメリカ⼈の居住者はわずか数百⼈にすぎな かったが、アメリカは翌年メキシコ戦争(1846-47)をおこし、1848年、Guadalupe Hidalgo 協定 により California をアメリカ合衆国領としている。さらにアメリカにとって幸運だったのは1848 年1⽉24⽇、Sutter's Mill 近くで⾦鉱が発⾒され、1849年には約8万⼈もの採鉱者が全⽶から California に殺到したことである。1850年には⼈⼝10万⼈を突破し、遂にその年の9⽉9⽇、⾃ 由州として連邦への参加が認められ、State of California となった(Paulin Arnold & Percival White, How We Named Our States, Criterion Books, New York, Abelard-Schuman Limited, 1965)。 ― 39 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 以上の歴史的経緯により1850年、27郡が最初に創設された郡(original counties)となった。その 後、その27郡がさらに再分割され、また他州の郡の1部地域との合併などを経て、1907年には58 郡の設⽴を⾒て現在に⾄っている。 地名に対するスペイン語の影響はアメリカ領になった後も続いている。特に原住⺠語の郡名の スペリングに顕著である。Colusa, Mono, Napa, Shasta, Sonoma, Tehama, Yulo, Yuba のように、 原住⺠語由来の郡名であるとはいえ、まるでスペイン語の外観を呈しているものが多い。響きの 良さ(euphony)という観点からは、上記の郡名はすべて快⾳調(euphonic)である。スペイン語 由来の郡名についてもいえることだが、これは⺟⾳の多いことに加えて、必ず⺟⾳で終わる開⾳ 節構造(open syllable structure)になっているからと考えられる。 英語系の郡名に対するスペイン語の影響は、Trinity, Kings, Stanislaus などの、いわゆるスペイ ン語地名の翻訳という形でも⾒ることができる。後から来た英語を⺟国語とする移⺠たちです ら、以前からあったスペイン語の地名に対し、相当の敬意を払っているように思われる。 ドイツ系の移⺠もスペイン語の地名に敬意を払った跡が⾒える。例えば、1856年設⽴の郡名に ドイツ語ではなく、わざわざスペイン語で Fresno(トネリコの⽊:ash trees)と命名している。 以前にスペイン⼈が付けていた川名の Fresnal(トネリコの林:ash grove)を尊重したからであ る(G. R. Stewart, op. cit., s. v. "Fresno")。 以上、California の郡名に対するスペイン語の影響を概観して分かることだが、当州の郡名は ⾔語的観点からも多彩で変化に富んでいる。⽐喩的な表現をすれば、スペイン語の郡名が⼤円の 中⼼部を形成し、その周辺部をスペイン語の影響をうけた原住⺠語系と英語形の郡名が囲み、そ の他ヨーロッパ系の⾔語の郡名が散在して、彩りとアクセントを付けているといえるであろう。 重複するが California 州の郡名を New England のそれと⽐較してみると、スペイン的命名法と イギリス的命名法の特徴が浮かび上ってくるように思える。New England の郡名の⼤部分を占 める英語系のそれは、⼈物名やイギリスの地名にもっぱら拠っており、直截的な命名法である。 これに対し、スペイン系のそれは宗教的、絵画的⾊彩や幻想的雰囲気をもつものが多い。しかも、 その多くが⾳声的にも快⾳調で、われわれの想像⼒を刺激する。スペイン⼈の命名法は、⽂学的 かつ宗教的命名法と名付けてよいかも知れない。やはり、⺠族により⽂化の内容や質が異なり、 それが郡名にも反映されていると⾒るべきであろう。アメリカには、このように地域により相異 なる⽂化がモザイク状に存在し、⽂化的多様性を保存しながら、全体として複雑で多彩な⽂化的 タペストリーを織りなしていると⾔えるのではなかろうか。 参考⽂献 Arnold, Pauuline & Percival White : How We Named Our States (Criterion Books, New York, AbelardSchuman Limited, 1965) Attwater, D. : Penguin Dictionary of Saints (Penguin Books, Ltd., New York, 1981) Asimov, Isaac :Words on the Map (Houghton Mifflin Company, New York, 1962) Ekwall, Eilert : Concise Oxford Dictionary of English Place-names (Oxford University Press, Oxford, 1977) Du Gard, René Coulet : Dictionary of Spanish Place Names of the Northwest Coast of America , Volume 1, California (Edition des Deux Mondes, 1983) Du Gard, René Coulet, & Dominique Coulet Western : Handbook of American Counties, Parishes and Independent Cities (Editions des Deux Mondes, Newark, Delaware, 1981) Hanks P. & Hodges F. : Oxford Minidictionary of First Names (Oxford University Press, New York, 1987) ― 40 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) Harder, Kelsie B. : Illustrated Dictionary of Place Names, United States and Canada (Van Nostrand Reinhold Company, New York, 1976) Kane, Joseph Nathan : The American Counties, origins of county names, dates of creation and organization, area, population including 1980 census figures, historical data, and published sources, Fourth Edition (The Scarecrow Press, Inc., Metuchen, New Jergy and London, 1983) Mills, A. D. : A Dictionary of English Place-Names (Oxford University Press, Oxford, 1991) Reaney, P. H. : A Dictionary of British Surnames (Routledge & Kegan Paul, London, 1976) Sanchez, Nellie Van De Grift: Spanish and Indian Place Names of California ; Their Meanings and Their Romance (A. M. Robertson, San Francisco, 1922) Smith, Elsdon C: New Dictionary of American Family Names (Harper & Row, Publishers, New York, 1973) Stewart, George R. : American Place-Names; A Concise and Selective Dictionary for the Continental United States of America (Oxford University Press, New York, 1970) Webster, Merriam : Webster's New Geographical Dictionary (G & C. Merriam Company, Springfield, Massachusetts, 1988) World Almanac Education Group, Inc. : The World Almanac and Book of Facts (A WRC Media Company, New York, 2007) 稲村松雄『ランダムハウス英和辞典』(⼩学館、東京、1979年) 井上謙治・藤井基精篇『アメリカ地名辞典』(研究社出版、東京、2001年) ⼤塚⾼信・寿岳⽂章・菊野六夫篇『固有名詞英語発⾳辞典』(三省堂、東京、1954年) 越智道雄『カリフォルニアの⻩⾦―ゴールドラッシュ物語』(朝⽇新聞社、東京、1990年) ⽊村正史『アメリカ地名語源辞典』(東京堂出版、東京、1994年) 京都⼤学⽂学部⻄洋史研究室篇『改訂増補⻄洋史辞典』(東京創元社、東京、1958年) 清⽔克祐『アメリカ州別⽂化事典』(名著普及会、東京、1986年) ⽵林滋『研究社新英和⼤辞典』(第6版、研究社、東京、2002年) ― 41 ― 『神⼾国際⼤学紀要』第 74 号 付録1 カリフォルニア州の郡名と所在地の地図 (Ⓒ 2007 California State Association of Counties による) ― 42 ― カリフォルニア州の郡名(⽊村・三浦・下村) 付録2 カリフォルニア年代記(1535∼1963) 1535 スペインの征服者 Hernando Cortez がこの地域を California と命名。 1542 ポルトガル⼈探検家 Juan Rodriguez Cabrillo が現在の San Diego 付近を探検、California の発⾒者と認 定された。 1579 英国の探検家 Francis Drake がこの地域を海岸沿いに探検、New Albion と名付ける。 1769 フランシスコ会神⽗ Junipero Serra がスペインの伝道所を San Diego に建設、以後 Serra はこの地⽅ に21の伝道所を建設した。 1806 ロシアの探検隊が California 北部に植⺠地を建設しようとしたが失敗。 1810 メキシコで⾰命が起こり、California はスペイン側につく。 1822 Mexico 領となる。 1826 アメリカ⼈探検家 Jedediah Strong Smith が陸路を通って初めて California に到着。 1835 1846 Jackson ⼤統領がロシアに California 北部の購⼊を申し⼊れた。 John C. Fremont の率いるアメリカ⼈開拓者は California を Mexcico から独⽴させようと Sonoma に Bear Flag を⽴てて反抗、Bear Flag War(熊の旗戦争)を起こした。1845−48年の Mexican War(メキ シコ戦争)の間、⽶国軍は California を占領した。 1848 Mexico が California を⽶国に割譲。Coloma 近くの Sutter's Mill で⾦が発⾒される。 1849 gold rush が始まり、49ers と呼ばれる⾦採掘者が California に押し寄せた。 1850 第31番⽬の州として合衆国に加盟。27の郡が創設された。 1869 Central Pacific Railroad セントラル・パシフィック鉄道が Sacramento から Utah 州 Promontory Point 1906 1907 まで California を縦貫。 San Francisco に⼤地震が起こり、市の⼤半が破壊された。 第58番⽬の Imperial County が設⽴された。 1911 Hollywood に最初の映画スタジオができ、以後続々と映画産業が集まって1920年頃には世界的な映画 産業の中⼼地となった。 1936 航⾏可能な海上に架けられた世界最⻑の橋である San Francisco Bay Bridge が開通。 1937 San Francisco の Golden Gate Bridge が開通。 1945 United Nation's Charter(国連憲章)が San Francisco で採択された。 1950 1963 Eari Warren が最初の3選知事となる。 California は⽶国の中で⼈⼝最多の州となる。 (清⽔克祐『アメリカ州別⽂化事典』による。ただし郡設⽴については筆者らが加筆。) 州名の由来:16世紀にスペインの Garcia Ordonez de Montalvo が書いた⼩説 Les Sergas de Esplandian の中にある、“island near paradise” 「楽園に近い島」という意味の California という 伝説の島にちなむ。 俗称:the Golden State「⻩⾦の州」;1948年に Sacramento 近郊の Coloma で⾦が発⾒されて、 gold rush が起こったことから。同様に Eldorado State(⻩⾦郷の州)とも呼ばれる。 ― 43 ―
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