1998.5. No.361 目 次 『年金白書』∼21世紀の年金 を「選択」する∼ 『年金白書』∼21世紀の年金を「選択」する∼ 平成10年2月、厚生省より『年金白書』が刊 「第2部 第2章 企業年金の改革」 行されました。公的年金制度・企業年金制度な 1.企業年金の意義、役割(白書 250ページ) どについて現状と課題が説明されている他、次 老後の所得保障の基本となるのは、いうまで 期年金改正に向けて国民から幅広く意見を集め もなく公的年金です。公的年金については、急 るために、年金改革をめぐる議論を多数紹介し 速な少子・高齢化の進行、経済基調の変化に伴 ています。副題として「21世紀の年金を選択 い、給付と負担の在り方等抜本的な見直しが迫 する」とありますが、次期年金改正において、 られています。 しかしながら、公的年金の改革が迫られる中、 21世紀の年金制度がどうあるべきかを選択す るのは、まさに国民1人1人です。その議論の 公的年金だけで老後の多様な生活需要の全てに 材料として、『年金白書』の刊行は非常に意義 こたえることは困難であり、ここに企業年金の 深いものと言えるでしょう。 意義があると言えます。 今月号では、『年金白書』の内容の中でも特 つまり、公的年金と企業年金の役割分担を明 に皆様の関心の高い、「第2部 第2章 企業年金 確にした上で、それぞれの制度の充実強化が必 の改革」について見ていくことにします。 要です。 なお、昨年12月、厚生省が提示した「5つの 企業年金の積立金は、平成9年3月末現在、 選択肢」については、平成10年2月号に詳しく 厚生年金基金45兆円、適格退職年金18.5兆円、 まとめてありますので、そちらもご参照下さい。 合計63.5兆円にのぼっています。この積立金 は、市場で運用されるため、経済・金融にも大 〈 『年金白書』の目次〉 きな影響を持っています。そのため、積立金の 序論 今、なぜ「年金改革」か 第1部 年金の現状を考える 安全かつ効率的運用を追求することにより、我 第1章 公的年金制度 が国の金融市場の効率性や透明性の向上にも資 第2章 企業年金等 することが期待されています。 第3章 年金積立金の運用 第2部 また、いわゆるバブル崩壊後、企業年金は運 年金改革を考える 第1章 公的年金制度の改革 用難に陥り、積立不足解消のために母体企業と 第2章 企業年金の改革 しての支援を余儀なくされたところもありま 第3章 年金積立金の自主運用の確立 す。これを受けて、企業年金の運営は母体企業 第4章 諸外国の年金制度改革 資料編 の経営と直結していることが、我が国でも認識 年金制度の基礎統計・諸外国の年金制度 されるようになりました。すなわち、企業年金 −1− 『年金白書』∼21世紀の年金を「選択」する∼ は企業の繁栄を前提として成り立っており、企 ①基金財政の安定化と受給権の保護 業年金を企業経営の中で明確に位置づけるとと ②社会経済環境の変化などに対応した柔軟な もに、「受託者責任」*1の考えを踏まえ、企業 仕組みと基金の自己責任原則の確立 と企業年金の本来の関係を確立することが求め ③情報開示の推進 られています。 この報告書における提言事項の多くは、平成 さらに、今後は、本格的な機関投資家として、 9年度から実施されました(厚生年金本体と関 企業年金が企業統治(コーポレートガバナンス) 係があり、法律改正を要する事項を除く)。具 に果たす役割が求められています。 体的内容は、以下のとおりです。 ①予定利率の設定の弾力化 以上のとおり、公的年金の改革や企業年金の 積立金の増大に伴って、企業年金の多面的な役 ②非継続基準による財政検証 割はますます大きくなるものと思われます。こ ③給付基準の変更の弾力化 の役割が健全に発揮できるよう、企業年金の普 ④指定年金数理人制度の導入 及と制度の充実を図っていく必要があります。 ⑤資産評価の時価基準への移行 *1 ⑥運用規制の緩和 「受託者責任」については、平成9年7月特集号『厚生年 金基金の資産運用関係者の役割及び責任に関するガイド ラインについて』に詳しくまとめてありますので、併せ てご覧ください ⑦受託者責任の明確化 [2]次期年金改正に向けての課題 前述の見直しを踏まえて、まだ実施されてい 2.厚生年金基金制度の課題(白書 251ページ及び83∼89ページ) ない残された課題としては、以下の項目があり、 [1]厚生年金基金制度の見直し いずれも次期年金制度改正に向けて検討を進め 厚生年金基金制度は、昭和41年の発足以来、 ていくこととしています。 順調に発展してきました。しかし、近年の産業 (1)代行制度(白書 252ページ) 構造の変化や急速な経済金融環境の変化を受 け、財政状況が悪化する傾向も見られます。こ 厚生年金基金は、国が行う老齢厚生年金の給 うした外部環境の変化に加えて、基金自体の規 付のうち、物価スライド、賃金再評価分を除く 模・成熟度が多様化する中、これまで維持して 部分の給付を代行(代行給付)しています。こ きた制度そのもの、または運営上の問題が指摘 れが代行制度です。厚生年金基金に加入してい されるようになってきました。 る人については、厚生年金の保険料のうち、基 金が行う代行給付に必要な分は基金に納めま そこで、「厚生年金基金制度研究会」(以下、 研究会といいます。)が制度全般についての見 す。これを「免除保険料」と呼んでいます。基 直しを検討し、平成8年6月に報告書にまとめ 金はこれを原資として代行給付を行う仕組みと ました。この報告書では、外部環境の変化に加 なっています。 え、制度自体に内在した問題を指摘し、産業構 現在の免除保険料の決め方が柔軟性に乏しい 造や経済金融情勢の変化に柔軟に対応できるよ ため、基金間・基金加入者と非加入者間に不公 う、制度を再構築する必要を提言しています。 平が生じるとの指摘があり、免除保険料の設定 その際の基本的な考え方は、次の3点です。 の在り方について検討する必要があります。 −2− ①免除保険料率の個別化の徹底について(白書 253ページ) 拠出総額を約4倍に引き上げて、財源強化を図 従来一律であった免除保険料率については、 りました。研究会からは、保証範囲の在り方・ 加入者の平均年齢などにより、基金毎に代行保 現行制度の位置づけ(任意の共済事業の是非) 険料率(代行給付に関する費用)が異なります。 についても見直すべき、との提言もありました。 そのため、平成8年度より、基金毎に一定の上 受給権を保護するには、制度充実が必要だと 下限の範囲内(3.2%∼3.8%)で個別に設定で する意見がある一方、支払保証制度の在り方に きるようになりました。しかし、代行保険料率 よっては「モラルハザード」(保証を受けられ が上下限の範囲に収まらない基金が26.8% ることが、かえって企業年金の運営における自 (平成9年4月現在)もあり、研究会も免除保険 助努力を阻害する)を招くこともあり得るとの 意見もあります。 料率を完全個別化するよう提言しています。 (免除保険料率の分布) (代行保険料率の分布) 支払保証制度については、運営の実態を見な 300 合計 基金数 (比 率) 1,888 (100.0%) 3.2% 345 (18.3%) 3.3% 188 (10.0%) 3.4% 228 (12.1%) 3.5% 252 (13.3%) 3.6% 251 (13.3%) 3.7% 207 (11.0%) 0 ∼ 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0 4.1 4.2 4.3 4.4 ∼ 3.8% 417 (22.1%) 代行保険料率(%) 基 金 数 250 がら引き続き制度の在り方を検討する必要があ 200 150 ると思われます。 100 50 [3]確定拠出型年金(白書 256ページ) 我が国の企業年金は、確定給付型年金とよば (注)1.代行保険料率の分布は、四捨五入した階級で作成しています。 2.3.1%以下の基金数は216、3.9%以上の基金数は290です。 れる形態をとっていますが、近年の運用環境の 資料:厚生省年金局調べ 低迷などによる多額の後発負担の発生が問題視 ②厚生年金基金と厚生年金本体との財政的中立性について(白書 254ページ) されています。 現状の仕組みでは、将来発生する代行給付に 要する費用の予想額と実績が乖離した場合、そ そのような状況下、注目されているのが「確 の過不足は全て基金の負担となります。このよ 定拠出型年金」です。特にアメリカでは、 うな個別基金の事情と関わりなく生じる過不足 「401(K)プラン」と呼ばれる課税繰り延べ制度 については、事後的な調整などにより厚生年金 を含め、広く普及しています。この制度では、 基金と厚生年金本体の財政的中立性を確保すべ 資産を加入者ごとに管理し、加入員が運用方法 き、との指摘があります。 を選択できる形が一般的です。 (2)支払保証制度(白書 254ページ) 〈確定給付型年金との比較〉 ・確定拠出型年金……拠出した掛金額とその運用収益との合 計額を基に給付額を決定する。 ・確定給付型年金……加入した期間や給付水準に基づいてあ らかじめ給付額が定められる。 厚生年金基金制度には、企業倒産などにより 基金が解散し、給付が不足する場合、不足分の 一部を補填し、解散基金の加入員に一定の年金 〈確定拠出型年金の長所・短所〉 額を確保する「支払保証制度」があります。こ の制度は、現在、厚生年金基金連合会が行う任 観 点 企業負担 意の共済事業として、全基金の参加により運営 されています。 長 所 加入員が一定範囲内で運用方 給 付 (給付金の運用) 法を選択できる 研究会の制度充実の提言を受け、平成9年度 加入員毎に残高が管理される ポータビリティ ため、転職に伴う年金残高の 移動が容易 から、各基金からの拠出金の算定方法を見直し、 −3− 短 所 積立不足による追加負担なし 運用のリターン・リスクは加 入者が負うため、給付額が事 前に確定しない。(老後の生活 設計に不安があるとの意見有) 『年金白書』∼21世紀の年金を「選択」する∼ 1 基本事項 〈確定拠出型年金導入についての意見〉 (1)受給権保護 ・厚生年金基金制度研究会報告 ①加入者への受給権付与、受給資格期間 「基金制度に部分的に導入すべき」(上乗せ部 ②継続・非継続基準による財政検証を行うととも 分の給付設計の弾力化の一環) ・閣議決定(平成9年3月 規制緩和推進計画) に、必要な資産積立を義務づけることについて 「公的年金制度全体の下での位置づけを検討 ③支払保証制度の導入 し、平成11年度末までに結論を得る」 (2)受託者責任 ・その他の意見 (3)情報開示 「企業年金の一層の促進や雇用の流動化等に (4)専門家によるチェック体制 対応して、全面的に導入すべき」 2 その他の検討事項 「退職一時金の実質的引き下げにつながるお (1)ポータビリティ それがある」 (2)確定拠出型年金 →導入については、税制等の具体的取扱いの (3)給付設計の在り方(長期勤続優遇) 検討をしていくことが必要です。 (4)一時金と年金の選択の在り方 [4]企業年金基本法(白書 257ページ) (5)企業年金税制の在り方 企業年金の意義、役割の項でも説明しました 3.おわりに が、今後も企業年金制度の充実が必要なことは 以上で述べてきたように、企業年金制度は、 言うまでもありません。しかし、我が国の年金 制度発足以来30年以上を経過し、老後の豊か 制度は、厚生年金基金と適格退職年金などに分 な生活を支える制度として、大きく発展してき 立しており、企業年金としての共通基準の設定 ました。今後も、本格的な高齢社会を迎え、ま が必要と考えられます。 すますその重要性を増すと考えられます。 平成9年3月、「企業年金に関する包括的な基 企業年金制度を更に充実させるために、企業 本法の制定についての検討に着手する」旨の閣 年金の担当者はもとより、加入員・年金受給者 議決定がありました。現在、大蔵・厚生・労働 の方々更には、受託機関が、それぞれの立場で 3省が連絡会議を設置し、検討を進めています。 意見を出し合い、あるべき方向性を探っていく 今後検討すべき項目は、次の通りです。 ことが必要ではないでしょうか。 ☆企業年金に関する包括的な基本法についての 以上 検討事項(要約) 企業年金ノート No.361 平成 10年 5月 大和銀行発行 年金信託部 〒541-0051 大 阪 市 中 央 区 備 後 町 2 ー 2 ー 1 TEL. 06 ( 2 6 8) 1810 年金信託部(東京) 〒100-0004 東京都千代田区大手町 2 ー1 ー1 TEL. 03 (5202) 5401 大和銀行はインターネットにホームページを開設しております。 【http://www.daiwabank.co.jp/】 −4−
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