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「卒論要旨」
平成 21 年度卒業論文
日本の「吸血鬼イメージ」の変遷
~戦後から現在までのメディア作品からみる吸血鬼イメージ~
北海道教育大学
函館校
人間地域科学課程
情報科学専攻
社会情報分野
6216
大島理緒
要約
吸血鬼のイメージといえばどのようなイメージを持っているだろうか。中年男性で、
顔は青白く、中世の西洋の貴族のような格好をして、不死身で、ニンニクや銀色の弾
丸、十字架が弱点で、狼やコウモリに変身し、棺の中で眠り、人里離れた洋館に一人
で住んでいる、というイメージを持つ人がほとんどであると思う。このほかにも、鏡
や写真に写らない、木の杭を心臓に打たれると死ぬ、吸血鬼に血を吸われると吸われ
た人間も吸血鬼になるというのも挙げられるだろう。
今現在の吸血鬼は、そうとは限らなくなってきているように思う。まず吸血鬼は男
性だけではない。様々な年齢の吸血鬼が登場している。少年少女が吸血鬼になってい
る作品も多く、人間世界に混じって生活している吸血鬼もいる。
また血を吸わない吸血鬼も登場してくる。血を吸わない代わりに、人間と同じような
食事を取ったり、トマトジュースやレバーといったような“血のような”代用品で生
きている吸血鬼出てくる作品もある。
では、なぜこのように吸血鬼のイメージは変わってきたのかということに興味を持
ち、世界の吸血鬼のイメージと日本の吸血鬼イメージを比較しながら、吸血鬼のイメ
ージの変遷を見ていきたいと考えている。
対象にする年代は、日本の吸血鬼作品に関しては、主に戦後の 1950 年代から現在
の 2000 年代までを対象にした。その理由は、小説などでは戦前から吸血鬼作品はあ
ったものの、なかなかイメージが捉えにくいのではないかと考え、1950 年代に『女吸
血鬼』という作品が公開され、ここから日本でも吸血鬼が映画などの題材になってい
くので、視覚的にイメージとして捉えやすいのではないかと考えたためである。
全ての章で、ベラ・ルゴシの吸血鬼イメージを比較対象にしてきた。
第1章では、『魔人ドラキュラ』でベラ・ルゴシの演じた吸血鬼が、私たちの今持
っている吸血鬼のイメージの根源であるということを述べていった。
『魔人ドラキュラ』の前に『吸血鬼ノスフェラトゥ』という作品が公開されたが、
その中でシュレックの演じた吸血鬼は私たちの持っている吸血鬼イメージとはかけ離
れたものであり、かぎ爪を持ち、地獄から這い上がってきたかのような怪物のような
顔で、私たちが想像する吸血鬼イメージとは全く違うものであった。また、この作品
で吸血鬼が太陽の光を浴びると死んでしまうという弱点を作った。それは、吸血鬼と
いうのは悪の存在であり、善の象徴である太陽の光を浴びてしまうと死んでしまうと
いうのは理にかなっていると述べられていた。
そして『魔人ドラキュラ』で吸血鬼を演じたベラ・ルゴシが強烈な吸血鬼イメージ
を作った。ルゴシの吸血鬼はとても優雅であり、私たちが吸血鬼と聞いてイメージす
る吸血鬼そのままであった。この吸血鬼イメージがしばらく反映しており、そのため
日本でもルゴシの吸血鬼のような吸血鬼が多く作品に登場した。
その流れから、吸血鬼は高貴で優雅な中年男性という吸血鬼が日本でも多く描かれ
るようになる。この章では主に映画作品を取り上げた。1970 年代に入り、東宝で「血
を吸うシリーズ」という 3 本の映画が公開され、1970 年公開の『血を吸う人形』、2
作目の『血を吸う眼』、3 作目の『血を吸う薔薇』である。1 作目を除いて残りの 2 作
では男の吸血鬼が描かれ、その容姿はルゴシの吸血鬼イメージであった。西洋の貴族
のような格好をしており、マントを翻しており、人里離れた洋館にひっそりと住んで
おり、女性ばかり狙っているような吸血鬼であった。
1950 年代からは世界中で宇宙への関心が高まったため、吸血鬼は宇宙からの侵略者
というイメージが作られ、日本でもそのイメージで描かれた吸血鬼作品があり、それ
を述べていく。映画作品の『吸血鬼ゴケミドロ』と、マンガ作品の『少年の町 ZF』
を例に挙げていった。どちらも宇宙からの侵略者によって吸血鬼にされてしまったり、
吸血鬼にされた人たちから逃げるために戦ったりしている。
また 1970 年代ではタイプの違う吸血鬼マンガが発表されたので比較していった。
一つは『少年の町 ZF』である。この作品は、宇宙からの侵略者として吸血鬼が描か
れている。そして、手塚治虫の『ドン・ドラキュラ』である。この作品は、とてもコ
メディ色が強い作品であり、吸血鬼の容姿も、ルゴシの吸血鬼イメージのままであっ
た。日光に当たると灰になってしまい、ニンニクや十字架が苦手である。そして最後
は萩尾望都作の『ポーの一族』を述べる。この作品では、吸血鬼は中年男性だけでな
く、少年少女、老人の吸血鬼など年齢が様々な吸血鬼が登場した。
また『ポーの一族』や『ドン・ドラキュラ』というのは吸血鬼目線からの話の展開
がされており、それまで吸血鬼というのは人間から語られるという存在であったが、
これらの作品は吸血鬼が自ら語っているという点で、日本独自の吸血鬼というように
なっている。このような吸血鬼の目線のものは、後にアメリカで公開された映画によ
って、様々な吸血鬼が出てくるが、日本では 20 年近くも前にこのイメージができて
いたということになるのではないだろうか。
まとめると、ベラルゴシの演じた吸血鬼イメージというものが日本の作品にも影響
を与えている。1960 年代には、吸血鬼は宇宙からきた侵略者であるという見方から、
特に物体を持たない吸血鬼ウイルスによって、吸血鬼になってしまうということ。そ
して、1970 年代には、日本独自の吸血鬼として、『ドン・ドラキュラ』や『ポーの一
族』など自らのことを語るような吸血鬼というものが出てくる。
それでもやはりルゴシの吸血鬼イメージというものから強く影響を受けているとい
うことが分かった。
第 2 章では、1980 年代の日本の吸血鬼作品について述べた。1980 年代自体の作品
も少なめであり、1980 年代は吸血鬼が出てくる映像作品自体が少ない。また映画作品
に関しては一つも見つけられなかった。ドラマにも吸血鬼は出てきたが、吸血鬼に見
立てた殺人事件などで、実際には吸血鬼は出てこない。バラエティ番組などでも扱わ
れたりしていたが、数は多くない。
小説などで、吸血鬼が犯人であるという作品や、吸血鬼が犯人を追うというような
作品も生まれた。この章では主に赤川次郎の「吸血鬼シリーズ」と『吸血鬼美夕』を
例に挙げていった。
赤川次郎の「吸血鬼シリーズ」の主人公の神代エリカは女の子であったが、ルゴシ
の吸血鬼イメージを受けた吸血鬼であった。殺人事件が起きたが、その犯人が吸血鬼
の仕業のようになっていたため、その犯人を追うというのが『吸血鬼はお年ごろ』の
ストーリーである。夜のほうが活動しやすく、耳は尖っており、ニンニクが苦手で、
コウモリを従えているなどの特徴があった。そしてエリカの父親は、まさしくルゴシ
の吸血鬼イメージの吸血鬼であった。父親は、夜に行動し、棺の中で寝ていた。また
エリカの母親は人間のようなので、エリカは吸血鬼と人間のハーフということになる。
『吸血鬼美夕』は、生まれたときは吸血鬼ではないが、ある程度年を重ねると吸血
鬼に覚醒するというもので、人を襲うなどではなく、神魔に魅了されてしまった人間
を救うために、吸血行為を行い、都合のいい夢を永遠に見させるという、OVA から発
展していった作品である。主人公の吸血鬼は女の子である。あまりこれらの作品はル
ゴシの吸血鬼イメージが無い。
まとめると、1980 年代には映画作品がなく、映像作品自体も少なかった。小説など
で吸血鬼が多く描かれ始める。またこのころから女の子の吸血鬼というのが登場して
きて、少しずつ吸血鬼のイメージが変わってきたが、それでもルゴシの吸血鬼イメー
ジというものが強かった。そして吸血鬼として登場する年齢も低くなってきている。
第 3 章では、1990 年代以降の作品を上げ、それぞれの作品を紹介した。また作品
によっても吸血鬼の描かれ方が違うので、それも比較していった。
それまでは吸血鬼は常に語られる存在であった。人間が吸血鬼を語るというものが
多かった。しかし 1994 年に『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』が公開された
ことによって、吸血鬼自らの吸血鬼半生を述べるという、自ら語る吸血鬼というのが
出てきた。この作品によって吸血鬼が自ら語るというのが多くなっていった。
『咬みつきたい』では、少し違う吸血鬼が描かれた。容姿はルゴシの吸血鬼イメー
ジのままで、ニンニクや太陽の光に拒否反応を示したりしていた。またこの作品はた
だのホラーなどではなく、サスペンス調の作品であった。
この章で紹介した作品はいずれも高校生がモデルである。またその吸血鬼たちは、
人を襲って血を吸うのではなく、血のようなもので代用していたり、パートナーとし
て、血を吸う人間を側に置いていたりと様々である。高校が舞台になっている作品な
どもあり、また吸血鬼が恋をするというような描写もあり、またむやみに人間を襲わ
ず、人間と同じような食事を取ったりしている吸血鬼が多い。非常に人間世界になじ
んでいる吸血鬼である。
ライトノベルという新しい小説のジャンルが出たことによって、様々な吸血鬼が登
場した。ホラーのような作品や、BL 系の作品など様々である。ライトノベルでは小
説だけでなく、イラストも描かれているので、イメージもしやすくなっていった。そ
してライトノベルなどの作品などでも、吸血鬼が自ら語るという作品が多くなってい
った。
まとめると、吸血鬼の描かれ方自体が大きく変わっていった。それまで、語られる
だけの吸血鬼が自らの半生を語るというものである。自ら吸血鬼が語ることで、吸血
鬼の様々な面が見えてきたので、様々な吸血鬼作品が発表された。その中でも高校生
など 10 代の吸血鬼というのが多く、ドラマやマンガなどでも主人公として描かれる
ことが多くなっていった。そして人間世界に順応し、人間との共存ができるようにな
っていき、若くてハンサムな吸血鬼、女の子の吸血鬼などが多く見られ、ルゴシの吸
血鬼イメージである吸血鬼がほとんどみられなくなっているとみることはができる。
本論文をまとめると、日本の吸血鬼作品については、とても海外からの吸血鬼の影
響をとても受けているように思う。日本でもこのイメージは受け継がれており、ごく
最近まで吸血鬼といえば高貴な吸血鬼というのが多かった。
そして 1994 年に『インタビューウィズヴァンパイア』が公開されると、吸血鬼の
イメージもかわってくる。それまではどうしても中年男性が吸血鬼というイメージが
あったが、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』では、若い青年が吸血鬼になり、
また常に語られる側にあった吸血鬼が自らのことを話すというものであり、この作品
があって、吸血鬼の描かれ方が変わってきた。
ルゴシの築いた吸血鬼イメージ(1930 年~)、宇宙の旅が現実味を帯びてきている
ころの吸血鬼のイメージ(1950 年代)、日本で独自に吸血鬼イメージが構築され始め
る(1970 年代~)、
『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の映画の影響により若く
て人間味のある内省するという吸血鬼のイメージ(1990 年代)、若くハンサムで高校
生が多い身近になった吸血鬼のイメージ(主に 2000 年代~)と変遷していったとま
とめることができると思う。
近年の吸血鬼ブームというのは、おそらく吸血鬼のイメージが、中年男性から、ハン
サムな青年など身近な存在に変わっていったからであると思われる。