スコアシートを活用した現代的なリズムのダンス 1 テーマ設定の理由 中学校体育でのダンス必修化に伴い、今後ますます現代的なリズムのダンス(以下、 ダンス)への要望が高まり、ダンスの上達を目指す生徒も増えてくると思われる。そこ で、指導者が設定した課題のスキル(基本的な動きやステップ)を生徒相互で評価し合 うスコアシートを活用して、生徒が主体的に練習に取り組み、ダンスの技能向上につな げることはできないかと考えた。また、課題のスキルを繰り返して学習することにより、 リズム取りやアップやダウンといった基本的な動きが身に付き、単元の最後に発表会で 踊る課題曲のダンスの上達にもつながるのではないかと考えた。 2 事前準備 単元導入前の準備として、指導者が生徒に取り組ませたい動きやステップ等を課題の スキルとして準備しておく必要がある。近頃は教師向けのダンス指導書や DVD も数多く あるのでそれらを参考にしたり、人気歌手グループのダンスの一部分をまねたりするの もよいかと思われる。今回の実践では 24 種類の課題のスキルを指導者が踊り、それを撮 影したものをDVDに保存してその動画を生徒に見せながら取り組ませた。 3 実践内容・方法 (1)対象学年・生徒 2年生選択授業(ダンス・柔道・剣道から 1 種目を選択)男子 15 名 女子 28 名 (2)単元構成 全12時間 1~4 5~9 ・リズム取り(1) ・1 回目の技能チェック(5) ・アップ、ダウンの動き(1) ・スコアシートNo.1~24 授 ・ヒップホップの特徴(1) 業 ・スコアシート 内 ・No.1~24の練習(1~4) の練習(5~9) 10~11 12 ・No.1~24 ・3回目の技 の練習 (10~11) ・2回目の技能チェック(9) 容 ・課題曲のダン ・課題曲のダンスの練習 (3~4) 能チェック ・課題曲のダンスの練習 (5~9) ・課題曲のダ スの練習 ンスの発表 (10~11) 会 (3)第1時の授業内容 アップとダウンで行うリズム取りはダンスの基本であるので、様々なテンポの曲 に合わせて学習した。また、「逆の動き」を学習して、ヒップホップの特徴の1つを 理解することを目指した。 リズム(カウント)を取って、アップとダウンをやってみよう!! 目的 ①エンカウント(裏)をしっかりと取る!! 目的 ②ヒップホップの「重・軽」をイメージできる!! 表 裏 1 声 ワン 表 裏 2 エン 表 裏 3 ツー 表 裏 4 表 裏 5 表 裏 6 表 裏 表 7 裏 8 エン スリー エン フォー エン ファイブ エン シックス エン セブン エン エイト エン 声と手拍子 ワン 手拍子 ツー 手拍子 スリー 手拍子 フォー 手拍子 ファイブ 手拍子 シックス 手拍子 セブン 手拍子 エイト 手拍子 手拍子と声 手拍子 エン 手拍子 エン 手拍子 エン 手拍子 エン 手拍子 エン 手拍子 エン 手拍子 エン 手拍子 アップ (足首・膝・首) ダウン (足首・膝・首) エン 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 重 軽 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 曲 伸 ヒップホップの特徴をつかもう!! 目的 ヒップホップの「逆の動き」が分かる!! 例 ダウンでのリズム取り 足首・膝 腕 1 •曲 •上 エン •伸 •下 2 •曲 •上 エン •伸 •下 足首・膝を曲げてダウンを取ったときに、肘と手を水平にして肩の位置まで上げるとよりダウンの動きが強調される!! (4) 個人スコアシート 1st 黒 色を変えて1枚で3回チェックできます。 技能向上の変化が見て取れます。 2nd 青 3rd 赤 class name チェック日 DANCE SKILL SCORE SHEET 難易度です。 Rhythm Pattern No. Skill Version アップ 前 膝 胸 アフタービート グッドダンサーを目指そう!! Diff. Your Level Check ✓をつける Advice 1 シンプルV. 1 good great excellent 膝・足首、首の動きを大きく!恥ずかしがっていてはダメだ! 2 肩・腕振りV. 2 good great excellent 滑らかな動きでリズムに合わせて自然に振る! 3 横歩きV. 2 good great excellent アップのリズムを絶やさない! 4 回るV. 2 good great excellent アップのリズムを絶やさない! 5 ステップ前ためるV. 3 good great excellent ためた後の動きは素早く!ターン・タン 6 ステップ後ためるV. 3 good great excellent ためた後の動きは素早く!タン・ターン 7 かかとずらしV. 3 good great excellent ずらすときはアップ! 8 かかと入れるV. 3 good great excellent エンカウントでかかとを入れる! 9 シンプルV. 2 good great excellent 大きな動きで!前の時は背中を丸める感じ! 10 ステップ前ためるV. 3 good great excellent ためた後の動きは素早く!ターン・タン 11 ステップ斜めV. 4 good great excellent 素早い動きで胸でリズムを取る! 12 シャムロック 4 good great excellent 踏み出した足に乗った後は肩から動き始める! No. Skill Version Diff. Your Level Check ✓をつける Advice 13 横キックV. 2 good great excellent 小川を軽快に跳び越える感じで! 14 駆け足跳びV. 2 good great excellent 縄跳びの駆け足跳びと同じ。腕の動きを滑らかに! 15 足クロスV. 3 good great excellent その場所から移動しない!足の入れ替えは少し跳ねる感じで! 16 足クロス+移動V. 3 good great excellent アップとダウンの動きが大切!腕の動きもアップに合わせる! 17 後ろキックV. 3 good great excellent エンカウントで足を素早く戻す!決めポーズを腕でしっかり取る! 3 good great excellent 横ステップを入れたら決めポーズ! 19 横キック移動V. 3 good great excellent リズムに合わせて軽快に!腕も振る! 20 開いて閉じてV. 3 good great excellent かかとは浮かせたまま!エンカウントは膝・足首を曲げる! 21 横キック移動リズム変化V. 4 good great excellent リズムに合わせて軽快に!腕も振る! 22 かかとアップV. 4 good great excellent エンカウントは膝・足首を曲げる! 23 かかとアップ+方向転換 5 good great excellent エンカウントは膝・足首を曲げる!方向転換は体の向きを変える! 24 開いて閉じて+16ビートV. 5 good great excellent Step Pattern 18 駆け足跳び+横ステップV. 友人に評価してもらいます。複数の友 人に評価してもらってもいいです。評 価のポイントは簡潔にしています。 ダウンをしっかりとる!16ビートは腰の位置を変えずに! good : リズムに合わせて、動作を間違えずに動いている。 great : リズムに合わせて滑らかに動いている。 excellent : リズムに合わせて大きく滑らかに動き、動きにメリハリがある。 単元構成で示したようにスキルチェックは 3 回実施した。1回目はペア、2 回目 は 3 名グループ、3 回目は 4 名グループとして各回のメンバーが重ならないように グループを組んだ。スコアシートには合計 6 個のチェックマークが付くことにな る。チェックするペンの色を変えることによって技能向上の変化が見えたり、メ ンバーによって評価が違ったりすることもある。 (5)スコアシートの課題のスキルについて 基本的なアップや胸でのリズム取りとステップを指導者が示範した。 (6)課題曲ダンスについて ジャクソンファイブの曲「I want you back」に合わせて 3 分ほどのダンスを指 導者が示範した。このダンスにはスコアシートに含まれている動きやステップは ほとんど取り入れていない。単元の第3時から取り組み始め、第9時に全ての振 り付けの指導を完了した。 4 成果と課題 今回の実践では、ダンスの基本的な動きやステップを課題のスキルとし、スコアシー トを活用して取り組んだ。 楽しさという観点から考察すると、スコアシートを活用した練習や相互評価よりも課 題曲のダンスを 1 曲通して踊るほうが、生徒は圧倒的に楽しいと感じていた。スコアシー トによる練習はドリル練習的な要素が多くあり、同じ技を反復練習したことが生徒に「楽 しくない」と思わせてしまった要因であったと思われる。スコアシートに更なる工夫を 加え、例えば点数制や更に上級の技を取り入れたり、選曲を流行歌にしたりするなどし て、生徒に飽きさせないような工夫をすることが、より主体的な取組につながると思わ れる。ただ、スコアシートによる相互評価をする際には、友人のダンスをよく見たり、 どのように動いたらうまくなるのか相談したり、お互いに教え合ったりする姿を多く見 ることができた。こうした生徒の主体的な活動場面が増えたことは大きな成果であった。 ダンスの技能向上という観点で、88%の生徒がスコアシートでの練習がダンスの上達 に役立ったと答えた。また、65%の生徒が課題曲のダンスにも生かすことができたとも 答えた。3(6)にも書いたが、スコアシートの課題のスキルと課題曲のダンス内容は ほとんど共通点がない。にもかかわらず、生徒が「生かすことができた」と感じた部分 はどこにあったのかと考えると、 「リズムを取り続けること」の重要性を生徒が体感した からではないかと考えられる。No.1 から 24 の課題の動きやステップの練習においてリ ズム、特にエンカウントを意識して学習したことが、課題曲のダンスのリズム取りやメ リハリのある動きにもうまくつながったと感じた。したがって、スコアシートを活用し て基本的な動きやステップを数多く練習したことが基礎基本の定着に役立ち、その成果 が課題曲のダンスの上達に表れたのだと考えられる。
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