高齢化と出生率:出生率低下に対するフランスの対策の実績と課題

高齢化と出生率:出生率低下に対するフランスの対策の実績と課題
François Héran (Institut national d’études démographiques, Paris)
国際福祉機器展 H.C.R.2008 国際シンポジウム
東京、2008 年 9 月 25 日
フランスの人口動態は、他のヨーロッパ諸国とは異なり、女性 1 人当たりの出生児数が 2 人近く
であるというやや高い出生率が特徴となっている。しかし出生率に関しては「例外であるフランス」
が見られる一方で、死亡率に関する状況は他のヨーロッパ諸国と同様である。すなわち、フランス
でも平均寿命の延びが続いていることにより人口ピラミッドに第 4 の階層(長寿化による階層)が加
わり、高齢化は着実に進んでいる。高齢化の 4 つの要因(長寿化、出生率の低下、ベビーブームの
反動、若者の選択的移民)のうち、今後数十年間で最も重要な要因となるのは長寿化である。高齢
化の要因をこのように類型化することにより、「回避可能」な高齢化の要因と「回避不可能」な要因
とを明確に区別することができ、政策立案者にも直接的な影響がある。
次に、フランスの家族政策の主な特徴と構成要素を示す。さらにそれらを補完すべく、3 歳児の
幼稚園就園率が 100%であることなど、正式には家族政策に分類されていない要素にも触れる。所
得の再分配および不平等の削減の領域でフランスの家族政策による明白な影響が立証された場
合は、国内の出生率への影響は立証がはるかに困難であるが、あまり大きくはなさそうである。
最後に、今回のプレゼンテーションでは、よくある思い違いを解消したい。将来の高齢化のプロセ
スは本質的に長寿化を原因とするものであるため、家族政策によっても移民政策によっても完全に
食い止めることはできない。国連人口部による有名な報告書「補充移民」(2000 年)も、この意味に
おいて解釈しなければならない。確かに、そうした政策にはそれぞれ正当な根拠がある(たとえば、
フランスにおいて移民は労働力人口の絶対数を維持するために必要不可欠であり、在宅ケアや施
設ケアがうまく機能していくために寄与している)。しかし、そうした政策が今後 50 年間の高齢化プ
ロセスにもたらす是正効果は、存在はするものの部分的でしかない。高齢化プロセスを終わらせる
手だてはない。フランスでも日本でもこれを受け入れてやっていかなければならないのである。高
齢化は人口学的な問題であるとしても、人口学的な解決策は必要としない。
François HÉRAN 氏略歴
1953 年 5 月 18 日、ラン(フランス、エーヌ県)に生まれる
1975
哲学専攻 Agrégation(教員資格)
1979
博 士 « Terre et parenté en Andalousie occidentale. Recherches d'anthropologie sociale et
historique sur la bourgeoisie agraire de Séville »(西アンダルシアの土地と血縁関係。セビリャの土
地所有者に関する社会・歴史人類学的研究 )、École des hautes études en sciences sociales
(EHESS、パリ)にて発表。
1996
科学博士« Figures et légendes de la parenté »(血縁構造:形式的・歴史的分析)、Université de
Paris V で論文発表。
1990
Institut national d'études démographiques (INED)シニア研究員(directeur de recherche)。
1992-1993
INED 管理チームメンバー。
1999 以後
INED(フランス国立人口研究所)所長。
1985 以後
Revue française de sociologie 編集委員。
1987 以後
Institut d'Études Politiques de Paris 社会学講師。
1988 以後
ENSAE (École nationale de la statistique et de l'administration économique)応用統計学講師。
2003 以後
欧州人口学会(EAPS)評議会委員。
2004 以後
フランス移民統合統計所(OSII)科学評議会委員。
2004 以後
国勢調査評価委員会副委員長。
2004-2005
第 25 回国際人口会議(トゥール、2005 年 7 月)国家・国際組織委員会名誉座長。
2007
パリ・スクール・オブ・エコノミクス管理委員会委員。