フランス郊外における学習支援活動に関する一考察 ——<家族・地区・学校>の分断化とその補填—— 一橋大学大学院・パリ第 4 大学 村上 一基 1. 目的 本報告の目的は、フランス郊外における学習支援活動(Accompagnement à la scolarité)を、<家 族・地区・学校>という 3 つの領域の関係性に着目し、考察することである。特に、3 つの領域が 分断化された状況にあるという仮説に基づき、学習支援活動がその中でどのように機能し、子ども や親に対してどのような場を提供するのかを分析する。 フランス郊外は、社会的排除や移民、セグリゲーション、都市暴力など社会問題が蔓延る場とし て捉えられ、社会学の分野でもさかんに議論されてきた。一方で、郊外の大衆地区は学校や警察を はじめとする国家や制度の存在、また自治体やアソシエーションの「活発な」活動によっても特徴 付けられる (Kokoreff 2003; Lapeyronnie 2008)。その活動において、子どもの教育は主な関心事の一 つであり、家族は重要な介入の場として捉えられている。多くの先行研究が若者の経験する制度と の不公平な関係を強調する中、制度と住民を媒介する社会活動はどのような役割を果たしうるので あろうか。 2.方法 本報告では、2009 年 11 月から 2010 年 5 月に、パリ郊外・エヴリー市ピラミッド地区で実施した 調査の結果を用いる。具体的には、地区センターにおける学習支援活動での参与観察とスタッフへ の聞き取り調査、中学校や地区のアソシエーション、そして中学生の子どもを持つ親に対する聞き 取り調査が主となるデータである。 3.結果 考察の結果、<家族・地区・学校>間にはそれぞれに「文化的」距離がみられ、加えて、地区、 特に街頭にたまる若者に対するスティグマが学校と家族の関係に影響を及ぼし、相互に否定的評価 を与えあうことが明らかとなる。3 領域は分断化された社会化の場を構成しているといえるだろう。 家族と学校間の関係構築を支援するアソシエーションによる仲介活動(Médiation scolaire)とは 異なり、学習支援活動は直接的に子ども・家族と学校の関係に介入することはない。しかしながら、 それは子どもや家族に、学校や地区(ストリート)、また家族とは異なった場を提供し、学校で成 功するために適した環境にない子どもに対して、必要な支援や資源を与え、文化や知識に対するア クセスの不平等を埋め合わせようとするものである。また、家族にとってそれは、さまざまな理由 から生じる子どもの学習への手助けに関する欠損の補填や、子どもを地区の「悪影響」から遠ざけ るための戦略として動員される。 4.結論 以上から、フランス郊外における学習支援活動は、<家族・地区・学校>間を媒介する場として 機能し、その 3 領域間の分断化された状況の部分的な補填を目指すものであることがわかる。その 発展は、フランス社会における、学校での成功の重要性の高まりと密接な関係にあり、そのための 資源の不平等、そして社会化における学校のヘゲモニーをあらわすものでもあるといえる。 <参考文献> Glasman, Dominique, 2001, L'accompagnement scolaire: sociologie d'une marge de l'école, Paris: PUF. Kokoreff, Michel, 2003, La force des quartiers: de la délinquance à l'engagement politique, Paris: Payot. Lapeyronnie, Didier, 2008, Ghetto urbain: ségrégation, violence, pauvreté en France aujourd'hui, Paris: Robert Laffont.
© Copyright 2024 Paperzz