技術解説資料 EMC とノイズ規制 1.電子化とノイズトラブル マルコーニの無線通信の発明から 100 余年。この間、多 携帯電話をはじめ AV 機器、パソコン、コピー機、ファッ 種多様な電子機器が開発されてきましたが、それにつれ クスなど、我々の生活は電子機器で囲まれています。こ て機器の放出するノイズが他の機器に影響を与え、誤動 れらの機器は、必ずといってよいほど、電気的なノイズ 作を起こすなどの問題が生じてきました。 を発生します。対策が十分でない機器は、さまざまな問 このため、 ノイズの発生(EMI)を防ぎ、 また侵入(EMS) 題を引き起こし、大きな社会的問題となることがありま を防ぐ、両方合わせた電子機器設計の重要性が高まり、 す。 これらに必要な部品群を総称して EMC(Electromagnetic Compatibility: 電磁適合性)対策部品といいます。 フィルタ E M C ノイズによるトラブル事例 TDK は 1960 年代にはこの先駆けとなる製品を開発。以 山梨県のパルプ加工工場で、数値制御盤の制御部が誤動 来、 この分野のパイオニアとして、 時代が求める EMC 作し、主軸の回転に巻き込まれた作業員が死亡した。 対策部品、 対策技術を開発、 提供してきています。 大阪府堺市の私鉄駅で、列車無線の交信ができなくなる ほどの雑音が生じた。20m ほど、離れたところにあるゲー ムセンタのゲーム機から漏れた電磁波が原因であった。 3.世界の EMC 規格 これらのノイズに影響されない、あるいは他の機器に影 響を与えないための製品づくりをおこなうために、世界 心臓ペースメーカを植えこんだ患者が電気温熱医療器を 使ったところ、ペースメーカの機能が停止した。 各国で EMC に関する規格が決められています。 ほとんどの国では国際規格の国際無線障害特別委員会 (CISPR)規格に準拠した EMC の規格が制定されており、 携帯電話を病院内で使用していたところ、患者に使われ 携帯電話やパソコン、家電製品などが正常に動作する、 ているシリンジポンプが誤動作した。 快適な生活を実現しています。 電波を使用した機器および、デジタル機器の急増により、 図 2 世界の EMC 規格 ノイズ規制の必要が急速に高まっており、世界中で電子 機器に多くの規制を課しています。 電子機器から出てくるノイズが抑えられ、そして、他の 機器のノイズに耐えることのできる機器の状態が必要で あり、このような状態を 「EMCの状態が保たれている」 といいます。 2.EMC = EMI + EMS 図 1 EMC の考え方 ノイズを出さない EMI ノイズの進入から守る + EMS 電気製品や電子機器の裏側などに、 このようなマークがついているのをご 存知でしょうか? ヨーロッパのCEマーク、 アメリカのFCCマーク、 そして日本のVCCIマーク。 これらのマークが、 安心して使える製品であることを示しています。 4.ノイズとは 電気・通信・情報の分野で問題とするノイズは次のよう に定義できます。 EMC = EMI + EMS ノイズとは目的とする信号(情報)が正確に伝わる のを妨げる要因である。 ここではこのように簡単にいいあらわしましたが、実際 EMC のノイズとなると様態は多種多様で、その正体をつかむ のは容易ではありません。 信号(情報)の伝達においては、 必ず「発信源」と「受信元」 、 そしてそれをつなぐ「伝達経路」があります。 10 技術解説資料 EMC とノイズ規制 ノイズの影響度はこれらのいろいろな条件によって変 図 3 ノイズの種類 わってきます。 人工ノイズ たとえば、発信源から出る信号が強ければ多少のノイズ ●電磁エネルギーの漏洩によるもの が入り込んでも支障はないでしょうが、それが弱い場合 チできなくなります。 また、受信元の感度が良すぎると目的としない信号まで 一緒に受信し、これがノイズとなります。 自然ノイズ このように、ノイズは絶対的なものではなく、あくまで も相対的なものであることを理解しておく必要がありま す。ところで、ノイズによる障害は次に示す 3 つの要素 がそろってはじめて成り立ちます。このどれ 1 つが欠け てもそれは生じません。 発生源 伝達経路 落雷 空間放電(静電気) 宇宙線 磁気嵐 地電流 など フィルタ 送電線からのコロナ放電 蛍光灯、ネオンサイン(グロー放電) スイッチング電源(スイッチングノイズ) 電気コタツ(電子スイッチ) デジタル機器(パルス発生器) 内燃機関の火花放電 電車(パンタグラフでの放電) 各種モータ類(ブラシ放電) 高周波溶接機 レーザ加工機 電子レンジ はノイズに妨害されて受信元でその信号を正確にキャッ ●意図的に電磁波を 放射しているもの 無線通信の送信信号 放送の送信電波 携帯電話 無線 LAN トランシーバ アマチュア無線 レーダ 障害元 6.伝導ノイズと放射ノイズ ノイズの伝わる経路は主に 2 つです。1 つは電子機器の また、障害のレベルは発生源での「発生エネルギーの強 ケーブルやプリントパターンです。 さ」、伝達経路での「伝達のしやすさ」 、障害元での「障 もう1つの経路は空中です。前者を伝導ノイズ、後者を 害の受けやすさ」によって変わってきます。 放射ノイズと呼んでいます。 従って、ノイズ対策はこの 3 要素に対して行うことにな り、基本は以下の通りです。 ケーブルやプリントパターンを伝わるノイズが途中で空 発生源・・・・ 発生エネルギーを弱くする 中に放射されて放射ノイズに変身することもあれば、放 伝達経路・・・ 伝達しにくくする 射されたノイズがケーブルや信号ラインに結合して伝導 障害元・・・・ 障害を受けにくくする ノイズに変わることもあります。 ノイズの伝播経路は、セットの構造、部品やプリントパ 5.私たちの身の回りのノイズ ターンの設計などによってさまざまで、互いに複雑に絡 み合っています。 ノイズの発生源は、大きく自然現象のものと、人工的な システムによるものとに分けられます。 ノイズの伝わる経路は無数にありますので、ノイズ対策 自然ノイズは文字通り、雷や静電気などの自然現象が原 は、まずその発生源近くで対策することが非常に重要に 因となって発生するものです。 なります。 人工的に発生するノイズにも、さまざまな発生源があり ます。 図 4 ノイズの伝播経路 蛍光灯やネオンサインの「グロー放電」 、無線通信におけ る固定局や移動局などからの送信信号や放送電波、携帯 電源トランス 電話など。また、スイッチング電源やインバータなどの 半導体による「電子的スイッチ」や、デジタル機器など のパルス発生源、さらに、送電線から生じる「コロナ放電」 、 自動車、放電加工機、電車や内燃機関などから生じる「火 電源 3.3V モ 電源 ル ジュー IC 送信 A 基板 ンド グラウ タ コネク B 基板 花放電」などが主な発生源です。 源 IC 受信 V電 3.3 ド ウン グラ :基板Aのグラウンド→基板Bの グラウンド→シャーシ→基板 Aのグラウンドに流れる大き な電流ループ。これは無数に 存在するノイズの伝播経路の 一つにすぎない。 11 E M C 技術解説資料 EMC とノイズ規制 7.伝導ノイズの 2 つの伝播ルートと対策の基本 図 5 ディファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズ 前述のようにノイズは大きく伝導ノイズと放射ノイズに ディファレンシャルモード 分けられますが、伝導ノイズはその伝わり方によってディ ファレンシャルモードノイズとコモンモードノイズに分 基板 信号源 類できます。 信号電流 電 子 回 路 ノイズ電流 ディファレンシャル モードノイズ ディファレンシャルモードノイズは、電源線路間で発生 し、電源の電流や信号と同じ方向に流れるノイズ成分で、 フィルタ E M C 行きと帰りの向きが異なるためディファレンシャルモー SG ド(Differential mode)と呼ばれます。 コモンモード ディファレンシャルモードノイズは、信号周波数よりも 基板 高い周波数領域に存在するので、ノイズ対策部品は高い 信号ラインと 金属フレーム 信号源 との浮遊容量 注意が必要なのは、通過すべき信号の帯域がノイズの周 コモンモードノイズ電流 波数を含む場合、ノイズとともに信号成分も除去されて しまうことです。 電子回路 周波数成分を減衰させる LPF タイプです。 金属フレーム (シャーシ) 信号電流 特に矩形波の伝送経路に対策部品を挿入してオーバ SG シュートやリンギングを除去すると、矩形波の立ち上が FG り時間が長くなって、IC の動作マージンが少なくなるこ とがあります。対策部品の周波数特性と通過すべき信号 8.伝導ノイズ対策の基本 の帯域はしっかり把握しておくことが重要です。 伝導ノイズはプリントパターンやケーブルなどの信号線 最近は、回路の動作速度が上がり、信号の周波数帯とノ を信号と一緒に伝わっていきます。そこで、信号ライン イズの周波数帯が接近しています。信号の品質を劣化さ の途中、ノイズ源にできるだけ近い箇所にノイズ対策部 せずにノイズ対策をするのは容易ではありません。 品を追加してノイズ成分だけを除去します。 コモンモードノイズは信号パターンと SG へ同じ方向に 図 6 に示すとおり、ノイズ除去の方法には、次の 4 つの 流れ、金属フレームや金属ケースを通り、浮遊容量など 方法があり、ノイズ対策の 4 要素といわれています。 を通り信号源に戻ってきます。流れる向きが共通なこと ①機器をシールドする からコモンモード(Common mode)と呼ばれます。 ②ノイズ源側にノイズ成分だけを戻す反射 ③対策部品でノイズ成分を熱に変換する吸収 ディファレンシャルモードノイズは比較的狭い回路内を ④グラウンドに流すバイパス 流れる成分であり、行きと帰りの電流の向きが逆で、ノ イズ成分が相殺され小さくなるため、放射ノイズも小さ いずれの方法も、負荷側に必要な信号だけを伝えるのが くなります。 基本です。伝導ノイズは、信号パターンを伝わるだけで なく途中で空中に放射することがあるため、思いがけな コモンモードノイズは金属フレームや金属ケースなど、 い箇所で受信されて障害が発生することがあります。 信号ラインと離れた箇所を通って戻ってくるので、大き な電流ループを形成し、小さなノイズ電流でも大きなノ 伝導ノイズは、ケーブルなどアンテナとして機能する部 イズを放射します。放射ノイズ対策を考えた場合、コモ 品が存在するところで、しばしば放射ノイズに変身しま ンモードノイズ対策がより重要になります。 す。伝導ノイズの対策は放射ノイズの対策にもなります。 図 6 ノイズの伝わり方と対策の基本 シールド (対策①) 吸収と熱エネルギへの変換 (対策③) シールド (対策①) 送信側の 回路ブロック 反射 (対策②) 伝導ノイズ SG FG 12 ディファレンシャル モード用対策部品 コモン モード用 対策部品 バイパス (対策④) 安定電位面 (フレームグラウンド) 低減されたノイズ 受信側の 回路ブロック SG FG 技術解説資料 EMC とノイズ規制 9.ノイズ対策部品の分類 10.ノイズ対策の進め方とEMCコスト 電子部品によるノイズ対策の方法は、大きく 2 つに分け 装置開発において、ともすると EMC 対策は後回しにな られます。 りがちであり、最終段階の EMC 試験で問題が浮き彫り になるまで放置されることがよくあります。 1 つは部品自身のノイズの発生量を少なくすることであ しかし、装置の開発が設計、試作、量産と進んでいくに従っ り、もう 1 つは対策部品を使ってすでに出てしまってい て、利用できる対策技術の種類は確実に減っていきます。 るノイズを抑制する方法です。 おおむね確実に EMC 問題が発生することになります。 フィルタ そして、完全に EMC 問題を無視して設計したりすると、 対策部品を使う場合重要なのは、図 7 のように対象のノ イズがコモンモードかディファレンシャルモードノイズ かにより、対策部品が異なることです。 対策に多くの時間を要するだけでなく、余分な部品の追 ノイズの伝導モードを見極め、適切な対策部品を選ばな 加やコストを罰則として支払わされることになるととも いと「対策部品を追加したのにかえってノイズが増えた」 に装置の大きさ、重さ、電力損失なども増えることにな というようなことが発生します。 ります。 図 7 ノイズ対策部品の種類と用途 図 8 製品開発ステージと EMC コストの関係 ビーズ EMC 対策の自由度 EMC 対策のコスト 3端子フィルタ ディファレンシャル モード インダクタ コンデンサ 低ESLコンデンサ オンボード用 コモンモード コモンモードフィルタ AC電源用 電源用EMCフィルタ 静電気対策用 バリスタ フェライトビーズ ディファレンシャル モード チョークコイル コンデンサ フェライトコア AC電源用 ノイズ対策 部品 コンデンサ コモンモード 開発設計 試作試験 量産 ラインフィルタ フェライトコア ケーブル用 コネクタ、 IC用 シールド用 電波吸収用 フェライトコア 装置の開発が進むにつれて利用出来る EMC 対策の自由 クランプフィルタ 度は低下し、コストは上昇します。EMC 問題は早期に解 フェライトコア 決すればするほど、通常はいい結果となり、出費も最小 電波吸収シート (ガスケット) で済ませられます。 電波吸収体 13 E M C 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 1.電源ラインノイズについて 2.ノイズの種類 AC 電源で動作する電気機器は、共通の電源ラインを通 AC 電源ラインにはいろいろな種類のノイズが重畳して して接続されており、ほかの装置で発生したノイズによ います。電圧レベルおよび立ち上がり時間で分類すると る誤動作や、逆に自分の発生するノイズにより、ほかの 図 10 に示すような 3 つに分類できます。 装置を誤動作させることがあります。 図 10 電源ラインノイズの種類 装置の AC 電源部は、ノイズエネルギーが侵入する入り フィルタ E M C 口であるとともに、各装置で発生するノイズの出口でも 電圧レベル あります。この出入り口に電源用 EMC フィルタを取り 立ち上がり時間 付けると、外来ノイズの進入と電源ラインへのノイズ流 高周波ノイズ パルスノイズ ∼数V ∼数kV ∼数10kV − 1ns以下 0.5μs以下 数mJ 数100mJ 数J∼数kJ エネルギー サージノイズ 波形 出を低減できます。 世界の各国において、装置が満足しなければならない外 来ノイズに対する耐性や流出するノイズレベルの限度値 が規定されており、この規格を満足するためにも、電源 用 EMC フィルタが使われます。 (1)高周波ノイズ 主に、コンピュータやスイッチング電源などのスイッチ 図 9 ノイズ対策部品の種類と用途 ング周波数の高調波成分です。 ロボットB 一般に EMI ノイズといえばこのノイズのことをいい、一 般のフィルタは高周波ノイズ用として設計されています。 電圧レベルは比較的小さく、数 m ∼数十 mV です。 単相 (2)パルス性ノイズ ロボットA リレーや誘導モータなどのスイッチング時に発生するノ イズです。電圧が高く、ピーク電圧は数千 V に達するこ 単相 ともあります。 高周波ノイズに比べてエネルギー量が大きく、フィルタ のコアを飽和させることがあり、アモルファスコアなど の飽和磁束密度の高いコア材料が用いられます(「高電圧 パルス減衰特性」参照) 。 三相 インバータ制御機器 (3)サージ性ノイズ 誘導雷などにより電源ラインに発生するノイズです。と ても高電圧・大電流でエネルギーが大きく、ピーク電圧 各装置から発生するノイズは AC 電源ラインを通じて伝播する は数十 kV に達することもあります。 エネルギーレベルが非常に大きいため、バリスタやアレ スタなどのサージ対策素子が用いられます。 14 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 3.電源ライン用EMCフィルタで要求される安全規格 図 11 伝導ノイズの測定方法 電源用 EMC フィルタは、電子機器の 1 次側に接続しま 基準となる導体面から 40cm以上離す すから、感電、発煙、発火の事故が起きないよう高い安 被測定機と LISNの間隔 80cm 全性が要求されます。各国では、表 1 に示すような安全 規格を設けています。機器に組み込んで輸出先の安全規 40cm以下になるように 電源ケーブルを束ねる 格の認可を受けているフィルタを選ぶ必要があります。 卓上装置の場合 80cmの高さに 被測定機を置く 表 1 各国の安全規格 試験機関名 UL カナダ CSA ドイツ ノルウェー スウェーデン フィンランド デンマーク スイス 日 本 VDE/TÜV NEMKO SEMKO FIMKO DEMKO SEV 電気用品試験所 規 格 UL1283 CSA C22.2 No.8 妨害測定器波 レシーバ LISN AC電源 フィルタ 国 名 アメリカ 被測定機 基準となる導体面 写真 1 LISN の外観 後方に電源供給 コンセント有り (単相入力) EN60939 電気用品安全法 4.伝導ノイズの評価方法 前述で説明したように、機器から流出するノイズは AC 電源ラインを通って伝播し、そこにつながる他の機器に 流入して誤動作をさせたり性能を悪化させたりします。 ライン切替えツマミ (Va・Vb) スペクトラム アナライザへ 被測定機器 (EUTへ)単相用 AC ラインから流出するノイズを低減することはとても 重要です。以下では、IEC のノイズ規制規格 CISPR(シ (2)LISN の原理 スプルと読む)に準じた AC 電源ラインに流出するノイ LISN(Line Impedance Stabilizing Network)は、電子機 ズの評価法と、ノイズの低減方法について解説します。 器の電源コードから流出するノイズレベルを定量的に評 価することを可能にする治具のようなものです。 (1)欧州の規格が規定する測定法 欧州のノイズ規制には EN がありますが、CISPR をベー 図 12 に LISN の内部回路を示します。抵抗とインダクタ スにして決められています。 そしてコンデンサで構成されたフィルタ回路で、電源供 給側のインピーダンスが違っても、同じ条件で妨害波電 IEC の ノ イ ズ 規 制 規 格 CISPR(Comite International 圧を測定できるように測定周波数帯域(0.15 ∼ 30MHz) Special des Perturbations Radioelectriques)では、電子 において、被測定器側から見たインピーダンスを 50Ω一 機器の電源コードから流出する伝導ノイズの測定法と限 定にしています。LISN の主な目的は次の 2 つです。 度値を規定しています。図 11 に示すのは、同規格で指 図 12 LISN の内部回路例 LISN 木製の机の上に被測定機器を置きます。被測定機器から 80cm 離れたところに置いた LISN (写真 1)と呼ばれる 大きな導体面つまりアース上におきます。妨害波測定器 50Ω 1kΩ 1kΩ 0.1μ 0.1μ 1μ 1μ 受信機 します。 疑似負荷 50μH ノイズ測定用の機器に電源コードを接続します。LISN は、 は、LISN が出力するノイズを検波してそのレベルを表示 電圧線 L1 被測定機 中性線 L2 50μH 50Ω 定している測定方法です。 接地線 E 15 E M C 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ ①電圧線の導体と接地線との間、および中性線の導体と 接地線の間のインピーダンスを 50Ω一定にする。 5.伝送モードによる対策例 (1)伝送モードを分離して電源端子を測定した例 図 14 と図 15 に、V 型と⊿型の LISN でスイッチング電 ②電源からの外来伝導ノイズを阻止する。 源モジュールの電源端子電圧を測定した例を示します。 図 13(a)に示すように、伝導ノイズレベルは LISN の 図 15 に示すように、⊿型 LISN を使うとコモンモードノ この電圧降下分は、電源ラインとアース間のノイズ電圧 イズとディファレンシャルモードノイズを分離して測定 (一線大地間電圧という)であり、コモンモードとディ できます。図 15 から伝導ノイズの主な成分はコモンモー ファレンシャルモードのノイズが合成された値になりま ドであると特定でき、まずはコモンモード対策が必要な す。一般にこの伝導ノイズレベルを雑音端子電圧と呼び、 ことがわかります。 単位は dBμV です。 図 14 V 型 LISN を使って測定したスイッチング電源モ ジュールの伝導ノイズスペクトル 図 13 標準タイプ(V 型)と伝送モード分離タイプ(⊿型) LISN を使った伝導ノイズ測定法とノイズの流れ 電源用EMCフィルタ L1 RN1 CX2 CX1 CY2 CY1 スイッチング 電源モジュール L2 RN2 装置-アース間の浮遊容量 FG 放射ノイズレベル (dBμV) 100 (a)標準ノイズ測定回路(V型) LISN 120 80 60 40 L1-アース間のノイズ 電圧スペクトル 20 E 規格線:BCISPR 22-B 0 0.15 (b)伝送モード分離測定回路(⊿型) ディファレンシャルモード電流測定用の抵抗 LISN 5 10 30 周波数 (MHz) L1 切り替え 1 電源用EMCフィルタ RN1 CX2 CX1 CY2 CY1 スイッチング 電源モジュール 図 15 ⊿型 LISN を使って測定したスイッチング電源モ ジュールの伝導ノイズスペクトル L2 RN1 (a)ディファレンシャルモードの測定 装置-アース間の浮遊容量 コモンモードノイズ電流測定用 E FG 120 :ディファレンシャルモードノイズ電流の主な経路 (3)コモンモードとディファレンシャルモードに分離し て測定する AC 電源に流出するノイズはディファレンシャルモード とコモンモードに分けることができ、モードによって対 策の方法が違ってきます。 100 雑音端子電圧 (dBμV) :コモンモードノイズ電流の主な経路 80 60 40 0 0.15 標準的な LISN は、2 つのモードを分離することができま せんが、図 13(b)に示すタイプのものを使えば可能です。 図 13(a) の タ イ プ の LISN を V 型 と い い、CISPR や L1L2-間のノイズ電圧 スペクトル 20 1 5 10 30 5 10 30 周波数 (MHz) (b)コモンモードの測定 120 FCC(Federal Communications Commission)が指定す る標準の LISN です。一般に LISN といえば、このタイプ です。 図 13 (b)のタイプの LISN は⊿型といいます。これまで、 テレビなどの伝導ノイズ測定に使われていたのですが、 CISPR や FCC などが標準の LISN に V 型を指定してか らは、ほとんど使われなくなりました。しかし、コモンモー ドとディファレンシャルモードを分離して測定できる唯 一の LISN であり、 ノイズ検討用としても便利な道具です。 16 100 雑音端子電圧 (dBμV) フィルタ E M C ノイズ測定用抵抗の両端の電圧降下を測定して得ます。 80 60 40 L1L2-アース間のノイズ 電圧スペクトル 20 0 0.15 1 周波数 (MHz) 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ (2)対策方法とノイズの低減効果 (b)ディファレンシャルモードノイズ対策 (a)コモンモードノイズ対策 図 17(b)に示すように、 150kHz ∼ 2MHz の帯域のディ 図 16 に示すように、対策前はコモンモードノイズが高 ファレンシャルモードノイズが規格の規制値をオーバー く約 100dBμV に達しており、規格の限度値に対して しています。 40dBμV 以上オーバーしています。 そこで、図 18(a)に示すように、AC ライン間に 0.47 μF のコンデンサを挿入しました。このコンデンサを X そこで図 17(a)に示すように、AC ラインにコモンモー コンデンサと呼びます。 ドフィルタを挿入し、各ラインからフレームグラウンド (FG)に 4700pF のコンデンサを挿入しました。このコ その結果、図 18(b)に示すように、ノイズレベルは規 フィルタ ンデンサを Y コンデンサと呼びます。 格の規制値以下に下がります。 その結果、図 17(b)に示すようにコモンモードノイズ 図 18 ディファレンシャルモードノイズ対策とその効果 は規制値内に低減されます。 (a)ライン間にXコンデンサを2個追加する 5mH 図 16 ノ イ ズ 対 策 を し て い な い ス イ ッ チ ン グ 電 源 モ Xコンデンサ ジュールの伝導ノイズスペクトル CX1 0.47μF CY CX2 0.47μF CY 4700pF FG 4700pF 120 コモンモードノイズ (b)雑音端子電圧のスペクトル 120 80 100 雑音端子電圧 (dBμV) 雑音端子電圧 (dBμV) 100 60 40 20 ディファレンシャルモードノイズ 0 0.15 1 5 10 30 80 60 40 20 周波数 (MHz) 0 0.15 図 17 コモンモードノイズ対策とその効果 ディファレンシャルモードノイズ コモンモードノイズ 1 5 10 30 周波数 (MHz) (a)コモンモードフィルタとYコンデンサを2個追加する 5mH CY 4700pF CY FG 4700pF コモンモードフィルタ Yコンデンサ (b)雑音端子電圧のベクトル 120 ディファレンシャルモードノイズ 雑音端子電圧 (dBμV) 100 80 60 40 20 コモンモードノイズ 0 0.15 1 5 10 30 周波数 (MHz) 17 E M C 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ (2)X コンデンサ 6.対策部品の選び方 AC 電源ライン間に接続する X コンデンサは、ディファ 図 19 に標準的なフィルタの構成を示します。コモンモー レンシャルモードノイズに対してだけ効果があります。 ドチョークコイルは、数∼数十μ H の漏れインダクタン ディファレンシャルモードコンデンサとも呼ばれ、1μF スを持っています。この成分が大きいとコアが飽和しや 程度の比較的大容量のものが使われます。 すくなりますが、ディファレンシャルモードノイズを低 減する働きがあります。飽和対策とディファレンシャル X コンデンサはライン間接続であり、ライン−アース間 モードノイズ対策はトレード ・ オフの関係にあります。 に接続されていないため、壊れても感電などの恐れはあ りません。X コンデンサは、Y コンデンサより低周波帯 フィルタ E M C 図 19 電源用 EMC フィルタの標準的な構成 の 150kHz ∼ 1MHz で特に効果があります。 L2 図 20 ノイズフィルタの等価回路 Cy L1 Cx (a)ディファレンシャルモード 信号に対する等価回路 Cx R L2 Cy CX1 Cx:Xコンデンサ L1 :コモンモードチョークコイル L2 :ディファレンシャルモードインダクタンス (通常はL1の漏れインダクタンス成分を利用) Cy:Yコンデンサ (1)Y コンデンサ AC ラインと FG 間に接続する Y コンデンサは、コモン モードノイズ電流を FG に逃がす働きがあります。 Y コンデンサには、AC 電源の周波数と電圧に応じた漏 れ電流が流れます。 Y コンデンサの容量が大きいと漏れ電流が大きくなり感 電の恐れがあるため、UL などの安全規格では、漏れ電流 の大きさが一定値を超えないよう容量を制限しています。 図 17 や図 18 に示すように、Y コンデンサは通常 2 個使 います。AC ライン間が容量で結合されるため、ディファ レンシャルモードノイズにも効果があります。特に 8 ∼ 10MHz 付近の周波数の高い部分で効果があります。 18 (b)コモンモード信号に 対する等価回路 Lleak Lleak CX2 + CY 2 L 2CY 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 7.フィルタの仕様・特性項目 (6)漏洩電流 漏洩電流はノイズフィルタを電源ラインに接続し定格電 (1)定格電圧 使用温度範囲内において使用できる最大の AC ライン電 圧を印加したとき、 それぞれのラインからケース(アース) 圧(実効値)をいいます。最近は AC.250V 定格が一般 に漏洩する電流です。この値は主にラインバイパスコン 的ですが一部、AC.400V 系もあります。また、送配電線 デンサの静電容量(C)および電源電圧(E)とその周波 系統からは単相と三相に大別できます。 数(f)によって決まり、次式で表されます。 漏洩電流= 2πfCE (2)定格電流 値)をいいますが、これは内部素子の耐熱性によって決 これが大きいとノイズフィルタのケースあるいはアース まります。 端子が接地されていない場合、感電事故につながる可能 また、周囲温度が高い場合はそれに応じて図 21 に示す 性があります。 フィルタ 使用温度範囲内において流し得る最大の負荷電流(実効 ように負荷電流をディレーティングして使用します。こ の例では周囲温度 70℃のとき負荷電流は定格の約 70% 図 22 漏洩電流の流れる経路 で使用しなければなりません。 フレーム 図 21 ノイズフィルタの周囲温度によるディレーティング例 120 出力電力(%) 100 80 60 ノイズフィルタ (非接地) 40 20 0 –25 –10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 周囲温度Ta(˚C) 大地 (3)電源周波数 一般に、電源電圧の周波数は 50Hz/60Hz ですが、特殊 (7)直流抵抗 用途でそれ以上のことがあります。例えば、航空関係で 直流抵抗はノイズフィルタ内の抵抗分の総和です。これ は 400Hz です。電源用 EMC フィルタは 50Hz/60Hz の はほとんどがコイルの巻線抵抗ですが、端子部との接続 商用電源の用途に設計されています。 抵抗なども含まれます。また、この直流抵抗に負荷電流 を乗じた値はそのノイズフィルタで生じる電圧降下分と (4)試験電圧 (耐電圧) なります。 地絡事故などの異常時を想定してライン相互間またはラ イン・ケース(アース)間に定格電圧の何倍かの高電圧 (8)温度上昇 を短時間印加し、異常の有無を確認する試験を耐電圧試 ノイズフィルタに定格電流を流したときのケース表面の 験といいます。試験電圧はこのときの印加電圧ですが、 温度上昇分をいいます。なお、一般的には空気中に放置 市販品は AC.1500V、2000V、あるいは 2500V が一般 した状態での値であり、金属板に取り付けた場合やファ 的です。 ンなどにより強制冷却される場合は、もっと小さい値に なります。 (5)絶縁抵抗 ライン相互間またはライン・ケース(アース)間に直流 電圧を印加し、コンデンサの誘電体や絶縁材料(特に プラスチックケース)に流れる微少電流を測定し、絶 縁の強度を抵抗値で表したものです。印加電圧は通常 DC.500V です。 19 E M C 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 図 25 アモルファスコアの特性と高電圧パルス特性 (9)減衰特性 (静特性) ノイズフィルタの減衰効果を表す基準として周波数を横 (a)コア材料特性とパルス電圧 軸に、減衰量を縦軸にしてデータプロットしたものです。 E・τ N・Ae ΔB=− ×104 図 23 にその測定方法および図 24 に特性例を示します。 ΔB:コアの磁束密度変化=Bm−Br 図 23 減衰特性(静特性)の測定方法 E:パルス電圧 Ae:コアの断面積 N:コイルの巻数 τ:パルス幅(sec) T.G. バラン ノイズ フィルタ Bm:飽和磁束密度 S.A. バラン Br:残留磁束密度 (b)B-H特性(ヒステリシスループ) B e1:ノイズフィルタを接続した場合のレベル e2:ノイズフィルタを接続しない場合のレベル Bm e2 減衰量=20Log10− e(dB) 1 フェライトコア ・ バランは特定の周波数領域にてインピーダンス を安定化させるものです。 ・ e1e2はS.A.で測定される値です。 ΔB Br H 図 24 減衰特性例 アモルファスコア 100 減衰量 (dB) 80 60 40 (c)測定回路 ノーマルモード 20 1μs コモンモード 0 0.05 0.1 0.3 0.5 1 3 5 10 30 周波数 (MHz) 入力パルス波形 ここで、減衰量が20dBということはノイズのレベルが1/10に減衰する 出力パルス波形 Vin 50Ω 50Ω 50Ω 電源ラインには数 kV に達するサージ電圧が発生するこ ノイズ シミュレータ 50Ω (10)高電圧パルス減衰特性 電源用 EMCフィルタ ことであり、40dBは1/100、60dBは1/1000になることを示します。 Vout とがあり、それがコモンモードノイズとして侵入し機器 の誤動作を引き起す場合があるため、ロボットなどの機 器においては、パルス印加試験などにより、パルス耐性 について評価が行われます。 (d)パルス減衰特性の比較 対策部品としては、ノイズフィルタが使用されますが、 300 パルス性のノイズ対策を進める時には、磁性材料の飽和 250 によって効果が低下することに配慮が必要となります。 一般に、コアが磁気飽和を起こすことなく、パルス電圧 を扱える領域では図 25(a)の式が成り立ちます。E・ τ 積の大きいサージ電圧を効果的に減衰させるためには、 出力電圧 Vout (V) フィルタ E M C コアの形状 内径:22mm 外径:38mm 高さ:13mm 巻き数:24mm 200 150 フェライトコア アモルファスコア 100 50 コアの形状・コイル巻数が同じならば、コアの飽和磁束 密度をより高くする必要がある。このような用途に、飽 和磁束密度が高く、かつ透磁率と周波数特性が優れたア モルファスコアが使用されます。 20 0 0 0.5 1 入力電圧 Vin (kV) 1.5 2 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 8.ノイズ対策実施例 (2)ケーブルの引き回し改善 フィルタの入出力ケーブルが近いため、出力側のノイズ (1)NC 工作機械のノイズ対策 サーボモータにより駆動する NC 工作機械は非常に大き が、フィルタの入力側に回り込んでいましたが、ブレー なノイズを発生します。フィルタなしでは 100dBμV を カの位置をずらし、フィルタの入出力を離すことにより 超えるノイズを発生していましたが、フィルタを使用す 規格の限度値以内とすることができます。 ることにより規格の限度値以内とすることができます。 図 27 ケーブル引き回しの改善 図 26 三相ノイズフィルタによる対策 入力側 入出力の電源ケーブルが 近いため、 結合しノイズが フィルタ EUT フィルタ ブレーカ フィルタボックス フィルタをスルーする LISN グランド ブレーカ フィルタ 外来ノイズ防止用 入力側 ブレーカ取り付け位置を 3ȍ400V 左に移動し、 ケーブル間の フィルタ 距離を確保する フィルタ回路 放射ノイズレベル(dBμV) 80 70 60 50 40 100 放射ノイズレベル(dBμV) 90 30 0.1 80 1 周波数(MHz) 10 30 70 60 50 40 30 20 10 0 0.1 1 周波数(MHz) 10 30 21 E M C 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ (3)グランドの改善による対策 (4)アモルファスコアタイプのフィルタによる飽和対策 フィルタが EUT 本体と離れて設置されているため、グラ 装置に瞬間的に大きな電流が流れたため、フィルタのコ ンドの状態が悪く、高周波のノイズレベルが高くなって アが飽和し、フィルタの減衰特性が低下したので、ノイ いました。 ズレベルが規格をオーバーしていました。 コアの材料としてアモルファスコアを使用することで、 フィルタを設置しているトランス BOX と EUT 本体のグ 直流重畳特性を改善し、ノイズを規格の限度値以内とす ランドを強化してノイズレベルを規格内にすることがで ることができます(図 29)。 きました(図 28、専用のシールド金属配管により、ト ランス BOX と EUT 本体間のインピーダンスを下げて対 策)。 1.20 図 28 グランドの改善 対策フィルタ (アモルファスコアタイプ) インピーダンス(mH) 1.00 トランスBOX (フィルタ設置) EUT 0.80 0.60 0.40 AC.50A標準フィルタ (フェライトコアタイプ) 0.20 0.00 0 100 200 300 電流(A) 100 放射ノイズレベル(dBμV) 100 90 放射ノイズレベル(dBμV) フィルタ E M C 図 29 コアの飽和対策 80 70 60 50 40 80 70 60 50 30 40 20 30 10 0 0.1 22 90 1 周波数(MHz) 10 30 0.1 1 周波数(MHz) 10 30 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 9.フィルタの効果的な実装方法 対策 4:電流ループを小さくする。 ノイズフィルタは電源ラインを通って入ってくるノイズ、 機器から出ていくノイズの低減対策用として、広く用い られています。しかし、その使い方を誤るとせっかくの ノイズフィルタもその本来の特性が得られず無駄な対策 ループ となります。 A.C. これから述べますことは、ノイズフィルタを使用する上 フィルタ でぜひとも考慮しなければならない基本事項です。そし て、これは各社ノイズフィルタメーカのカタログなどに 必ず書かれている内容ですが、実際の機器をみてみます となかなかその通りになっていないのが現状のようです。 ツイスト A.C. これはノイズによるトラブルの経験が少ないためと思わ れますが、製品が市場にでてからのノイズトラブルはそ の再現性も難しく、原因追及・対策に苦慮します。 「転ばぬ先の杖」ではありませんが、簡単な事柄ばかりで すからぜひ実行することをおすすめします。 対策 5:ノイズフィルタの入力ラインと出力ラインは確 実に分離する。 ノイズ 対策 1:ノイズフィルタを用いる。 機器およびノイズ源をシールドする。 出力ライン 入力ライン ノイズフィルタ ノイズ源 シールド ノイズフィルタ 入力−出力ラインの分離が不完全 機器 A.C. 入力−出力ラインを分離する ノイズフィルタ 入力ライン 対策 2:ノイズ源を近づけない。 出力ライン ノイズ源 対策 6:電源はすべてノイズフィルタの出力部から取る。 ノイズ源から離す ファン ノイズ A.C. ノイズフィルタ 出力側 対策 3: 筐体にノイズ電流を流さない。 A.C. ファン A.C. ノイズフィルタの 出力側から分岐させる ノイズ電流 ノイズフィルタ 出力側 短く A.C. A.C. 23 E M C 技術解説資料 電源ラインへのノイズ侵入と流出を防ぐ AC 電源用 EMC フィルタ 対策 7:ノイズフィルタのアース線は、できるだけ太く、 L=0cm 金属ケース 入力ライン 図 30 アース線の長さによる減衰効果の違い (スイッチング電源の雑音端子電圧) 短く接続する。 ノイズフィルタ 出力ライン 機器の筺体に直接付ける フィルタ E M C 入力ライン ノイズフィルタ 出力ライン 太く短く配線 L=10cm アース線はできるだけ短くする ノイズフィルタのアース線が長いと機器筺体との間にイ ンダクタンスが入ることになり、ノイズフィルタの高周 波特性を劣化させます。ノイズフィルタが金属ケースで アースされている場合は、機器筺体に直接取付け、また 取付け面は金属接触を良くするため塗装などは取り除い てください。 金属ケース製でもケースにアースされていない場合、あ るいはプラスチックケースの場合など、機器筺体にリー ド線でアースする場合はできるだけ短くしてください。 24 L=20cm 技術解説資料 AC ライン用 EMC フィルタへの Q & A 1.定格入力について Q:一般の高周波ノイズ用フィルタとパルスノイズ対応 の違いについて教えてください Q:250V 定格の製品を 100V で使用できますか? A:高周波ノイズ用フィルタはスイッチング電源やイン A:定格電圧以下の使用であれば問題ありません。 バータなどのスイッチングノイズの高調波として現れ Q:AC.250V 定格電圧以上での使用はどこまで可能です るノイズ成分の対策を目的としており、ノイズのエネ ルギー量はあまり高くないのですが、機器によっては、 か? A:定格電圧は守ってください。電圧変動を含む絶対最 高いエネルギーのノイズを発生することがあります。 ノイズのエネルギーが高すぎると、ノイズフィルタ 大電圧は 275V です。 ります。パルスノイズ対応フィルタは、対策として飽 A:定常電流としては定格電流以下です(突入電流は別 和磁束密度の高い材料(形状を同じとした時、一般品 フィルタ のコアが飽和し、減衰特性が著しく低下することがあ Q:定格入力電流はどこまで、可能ですか? の約 3 倍)を使用しています(詳細は、前述の「電源 項目参照) 。 用 EMC フィルタの選定」をご参照ください) 。 Q:定格電流を選ぶ時の目安はどのくらい? A:定常電流で定格の 80%が標準です(ディレーティン グ率 80%)。 Q:EN/IEC61000-4-5 の雷サージ試験に対応できるで しょうか? A:要求されるレベルにもよりますが、雷サージ試験に Q:入力電流はできるだけ大きな製品を選ぶべきか? ついては考慮されておりませんので、定格内でのご使 A:極端にディレーティング(余裕)を取りすぎると、 用をお願いいたします。 特性でマイナスの場合があります。 定格以上の電圧が印加される可能性がある場合は、 バリスタやアレスタなどのサージ吸収装置の使用を検 Q:AC.400Hz 電源で使用は可能でしょうか? 討ください。 A:一般用フィルタは商用電源(50/60Hz)での使用を 前提にしており、AC.400Hz の電源での使用は保証し Q:バリスタ、アレスタの推奨部品はないでしょうか? ておりません。 A:電源環境や要求される耐サージレベルにより異なり ますので、弊社として推奨部品は決めておりません。 安全規格取得品から動作電圧と必要なサージ耐量を 2.フィルタの特性について 持つ部品を選定されるのが適切と思います。 Q:コモンモードとディファレンシャルモード減衰特性 Q:特性が1台では満足得られません。 の違いについて A:伝導ノイズは伝送モードからコモンモードとディファ レンシャルモードに分類されます。コモンモード減 衰特性はコモンモードのノイズに対する減衰特性であ 直列使用できますか? A:できますが、各々、定格を守る必要があります。また、 漏洩電流は加算されます。 り、ディファレンシャル減衰特性はディファレンシャ ルモードのノイズに対する減衰特性を表します(詳細 Q:フィルタの負荷側での並列使用は可能でしょうか? については前述の「伝導ノイズの 2 つの伝播ルートと A:定格電流以内であれば使用可能です。ただし、負荷 側相互間の影響を考慮する必要があります。 対策の基本」をご参照ください) 。 Q: 減衰量周波数特性グラフの見方を教えてください。 A: 縦軸は減衰量(dB) 、横軸は周波数帯(MHz)を示 3.直流電源での使用について しており、実線及び点線が下方向へ下がるほど『ノ Q:AC 電源用フィルタを DC 入力で使用できますか? イズを取り除く効果が高い』ことを意味します。 A:DC 入力でも使用できます。突入電流(別項目参照) に注意してください。 0 –10 【ディファレンシャルモード】 ノイズ周波数が1MHzのとき:約–70dB Attenuation(dB) –20 –30 Common mode –40 Q:DC 入力で使う時、アース端子はどうする? A:AC の場合と同じです。アースに落としてください(行 きと帰りの電流が同じであること:信号 GND は絶縁 –50 Differential mode –60 が必要) 。 –70 –80 【コモンモード】 ノイズ周波数が2MHzのとき:約–80dB –90 –100 0.1 1 10 100 Frequency(MHz) 25 E M C 技術解説資料 AC ライン用 EMC フィルタへの Q & A Q:DC 入力用にお勧めの製品はありますか? A:AC 電源用フィルタは、DC 電源用としても使用でき 7.配線の方法について ます。 電流、電圧定格や特性を考慮して選定をお願 Q:アース端子を浮かして使用してもよいですか? いします。 A:感電の危険がありますので、アースは安全上必ず接 地してください。 4.入出力の方向について Q: 製品ラベルに記載されている『LINE/LOAD』の意 Q:アースの取り方はどうしたらよいですか? A:金属ケースまたはG端子をアースに接続してください。 味を教えてください。 フィルタ E M C A: 『入力 / 出力どちらでも使用可』という意味です。 Q:アース端子が 2 箇所ある製品の接続方法は? A:1 箇所確実にアースすれば OK です(2 箇所あるのは、 使い勝手を良くするためです) 。 Q: アース端子がない製品のアースの取り方はどうした らよいですか? A: 製品自体が筐体アースですので、製品の取付け(取 付け先機器がアースに接地されていることが前提) によりアース接地されます。 Q:入出力の配線はどのようにしたらよいですか? Q:入出力を入れ替えて使用できますか? A:使用できます。ただし特性上の差が出る場合があり ますので、実機での確認が必要です。 Q:入出力を入れ替えて使用した場合どのような影響が でますか? A:回路が入出力側対称型であれば、特性上も差はあり ませんが、非対称型は実機での減衰特性に差が出るこ A:出力側から入力側へのノイズの回り込みを防止する ため、入力線と出力線はできるだけ離して配線してく ださい。 Q:配線は他の線と平行にしては良くないといわれます が? A:他の線との干渉を避けるため平行配線はしないのが 一般的です。 とがあります。 Q:入力線同士/出力線同士はどのようにしたらよいで 5.突入電流について Q:入力突入電流(サージ電流)はどこまで可能ですか? すか? A:できるだけペアでツイストするか、接近させて最短 で配線するのがベターです。 A:50/60Hz の商用電源の 1/4 サイクル(5ms)程度の 時間であれば定格電流の 50 倍以内です。 Q: 配線時に交差配線をしてしまった場合、どのような Q:DC 入力の突入電流はどこまで可能ですか? A: 減衰特性等には影響ないですが、L 相と N 相が逆転 な現象がおきますか? A:5ms 以内の時間であれば定格電流の 50 倍以内です。 する現象が起きます。 L 相と N 相が逆転すると・・・ 6.温度範囲について Q:使用温度範囲を超えて使えますか? AC:お客様が L/N どちらかを基準にして使用して いる場合、基準が変わってしまいます。 DC:±が逆になり、後ろの装置が壊れてしまいます。 A:使用温度範囲以内で使用する必要があります。 Q:端子部ネジの推奨締付トルクを教えてください。 Q:電流を低くおさえれば、 使用温度範囲以上で使えますか? A:使用温度範囲以内で使用する必要があります。 Q:使用温度範囲を超えて使うとどんな影響がでますか? A:製品寿命、信頼性などに悪影響がでます。 26 A:製品ごとに異なりますので、個別の仕様書をご確認 ください。 技術解説資料 AC ライン用 EMC フィルタへの Q & A 8.フィルタの選定方法について Q:どのようにして適切なフィルタを選定すればいいで Q:RoHS 対応の品名を教えてください。 A:カタログ品については全製品 RoHS 対応済みです。 その他の品名については、お問い合せ願います。 しょうか? A:使用される機器に要求される、定格電圧、電流や漏 洩電流、安全規格などを確認して決める必要がありま す。カタログのセレクションチャートが目安になると Q:フィルタにアスベストは使用してないでしょうか? A:アスベスト類は全廃済みであり、現在アスベスト類 を使用したフィルタはありません。 思いますので、ご検討ください。 Q:有害物質の調査をお願いしたいのですが、依頼方法 ださい。 A:使用される機器に要求される安全規格やノイズレベ を教えてください。 A:弊社特約店か営業担当にご依頼いただければ、弊社 フィルタ Q:インバータ用のフィルタ選定方法について教えてく 安全環境部門よりご回答します。 ル、使用する電源により異なります。セレクション チャートのインバータ用と記載しているモデルを中心 にご検討ください。 一般的には、150 ∼ 500kHz 付近での減衰特性が高 いフィルタを選定するのが適切であると思います。 Q:電源用 EMC フィルタは静電気対策として効果があ りますか? A:静電気のイミュニティ規格である EN/IEC61000 ‐ 4 ‐ 2 規格で規定している、試験波形の立上り時間は 1ns 以下であり、数 十 MHz ∼数 GHz までの周波数 9.認定品について 帯で効果のあるフィルタが必要ですが、一般の電源用 EMC フィルタは 150kHz から 30MHz の周波数対策 Q:CE マーキング品はありますか? 用として設計されており、静電気に対する効果は、あ A:CE マーキング付きのフィルタはありません(CE マー まりありません。 クは本来最終セット品に要求されます) 。 静電気対策用としては、クランプフィルタなどラ ジエーションノイズ対策用として設計された部品 Q:CE マーキング製品用にフィルタを選定したいのです (30MHz ∼ 1GHz)が非常に効果的です。 が? A:ヨーロッパ安全規格認定品 (ENEC) をご使用ください。 Q:電源用 EMC フィルタは電源高調波対策として効果 Q:北米向け輸出品用にはどの製品を選べばよいですか? A:電源高調波は基本波の 40 次(2.4kHz)までの周波 ありますか? A:UL/CSA 認定品をご使用ください。 数が規制対象で、 電源ライン(ディファレンシャルモー ド)に数 mH のインダクタンスが必要ですが、電源用 Q:輸出品で安全規格の証明書が必要ですが? EMC フィルタは 150kHz から 30MHz の周波数対策 A:UL/CSA/ENEC などの必要な認証ドキュメントを用 用として設計されており、ディファレンシャルモード 意しております。 でのインダクタンス成分は数十μH 程度であるため、 電源高調波対策としての効果はあまりありません。 Q:安全規格用に使用しているリストが必要ですが? A:使用部材リストや材料証明書を提出します。 Q:電源用 EMC フィルタはインバータやサーボモータ の出力側用フィルタとして使用できますか? Q:中国 CCC 認証のフィルタはありますか? A:現在のところ、電源用 EMC フィルタは中国 CCC の 対象になっておりません。 A:内部にコンデンサを内蔵しているノイズフィルタは 汎用インバータとモータ間には使用できません。 高周波電流によるコンデンサの焼損の可能性があり ますので、インバータの出力側には、出力側専用フィ 10.その他 ルタをご使用ください。 Q: 寿命の設定はありますか? A: ノイズフィルタは電解コンデンサのような寿命部品 を使用していない為、寿命の設定はございません。 汎用インバータ ノイズフィルタ モータ 参考として信頼性試験データに MTBF を掲載してお ります。 27 E M C 技術解説資料 AC ライン用 EMC フィルタへの Q & A Q:三相装置の入力電流算出方法を教えてください。 Q: 損失(発熱量)を教えてください。 A:ノイズフィルタ選定においては、三相装置の入力電 A: 損失(W)= 実電流(A)×実電流(A)×直流抵抗 流算出が目安となります。三相装置の入力電流算出方 (例)RSEN-2006 の場合 定格電流:6A 法の事例を示します。 直流抵抗:110mΩ 装置の入力容量 (VA) 入力電流 (A) =−−−−−−−−−−−−−− 入力電圧 (V) ×√ ̄ 3 W=6×6×0.11=3.96 計算例 Q: 製品に端子番号は記載されてますか? 入力電圧:200VACの時 フィルタ A: 製品自体に記載はないですが、製品貼付のラベルに E M C は回路図及び端子番号が記載されています。 U −V 装置 W 入力容量が10kVAの時 入力電流 入力電流= 10000(VA) =29(A) 200(V)×√3 Q: 三相の製品は単相で使用可能ですか? A: 使用可能です。 何番の端子をフリーにするかはお客様の任意になり ますが交差配線しないようご注意ください。 例)良い例 L N L 1 6 2 5 3 4 N 1 6 N 2 5 3 4 例)悪い例 L N L Q:漏電ブレーカ選定時の注意を教えてください。 A:ノイズフィルタは内部にラインバイパスコンデンサ を内蔵してい るため、漏洩電流が流れます。漏電ブ レーカ選定の際にはノイズフィルタの漏洩電流を考慮 して選定願います。 Q:dBμV の意味ついて教えてください。 A:ノイズレベルは LISN の測定抵抗で発生した電圧を 1 [μV]を 0[dB]として次の式で表します。 E(dBμV)=20Log(V1/V2) E:ノイズレベル V1:ノイズ電圧 V2:基準電圧 例えば 1mV の電圧は 60dBμVであり、1Vは120dBμV 28 になります。 技術解説資料 AC ライン用 EMC フィルタへの Q & A Q:世界で使用されている電源電圧はどうなっていますか? A:世界各国ではさまざまな電圧の電源が使われており、 安全性などの要求もさまざまです。製品設計にあたっ ては、セットの仕向け地の電源仕様を十分確認して フィルタの選定を行う必要があります。 世界の商用電源電圧 世界各国の単相商用電圧 ハンガリー フィンランド イタリア ブルガリア ポーランド ルーマニア オーストリア オランダ スイス デンマーク ドイツ フランス 220V フィルタ イギリス 240V ノルウェー スウェーデン 230V 日本 100V/200V タイ 220V 中国 韓国 台湾 香港 110V/220V シンガポール 110V/230V マレーシア 240V オーストラリア 220V∼250V ニュージーランド 230V/240V カナダ 120V/240V アメリカ 120V ブラジル アルゼンチン チリ 120V 世界各国の三相商用電圧 ブルガリア ハンガリー イタリア ポーランド ルーマニア ノルウェー 380V 韓国 220V/380V 中国 タイ 220V/380V オーストリア ベルギー デンマーク フィンランド フランス ドイツ オランダ スイス イギリス スウェーデン 400V 日本 200V 台湾 200V/220V/380V カナダ 208V/240V アメリカ 230V 香港 346V/330V シンガポール マレーシア オーストラリア 415V ニュージーランド 230V/415V 29 E M C 技術解説資料 AC ライン用 EMC フィルタへの Q & A フィルタ E M C 30
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