3rd TAM カンファレンス 「韓国音楽エンターテインメントコンテンツの未来」 【講師】パク・クンテ氏(韓国・作曲家、OrangeShock 代表理事) こんにちは。韓国から来ました作曲家、パク・クンテと申します。 現在〈オレンジショック〉という事務所を経営しております。 今日はこのようなすばらしい席にお招きいただき、感謝しております。 それでは、 「韓国エンターテイメントコンテンツの未来」と題しまして、講演を始めます。 韓国の音盤市場は2000年を頂点として下落しつつあります。1999年まで上昇の 勢いに乗っていましたが、2000年を頂点に、グラフのように下落の一途をたどって います。韓国の貨幣の単位についてよくご存知ないと思い、ドルに換算して説明いたし ます。1999年度に約38億ドル市場を形成し、2000年には45億ドルまで上り つめたその後2003年には18億ドルまで下落し、現在では約10億ドル未満にまで 下落していきました。 ところが、同じ時期に〈MP3プレイヤー〉市場は急成長を遂げています。1999年 度に4億ドルでしかなかった〈MP3プレイヤー〉市場は、2003年度までに50億 ドルに成長し、現在では100億ドル規模にまで成長しています。付け加えて言うなら ば、韓国の〈MP3プレイヤー〉市場は、全体のデジタルコンテンツ市場の一部だとい えます。なぜならば、〈MP3プレイヤー〉というのは、デジタルコンテンツの中でも遅 くに形成された市場だからです。と言うのも、一年間ほど不法なダウンロード市場が形 成されていて、全体の総額として見なすことが非常に困難だったので、このような断面 を通して説明することになりました。 昨年度(2005年)の韓国デジタル音楽市場の売上総額は、約5兆ウォンと推算され ています。このような韓国の展開は全世界的に見ても特に変った流れではありません。 パッケージ販売量はどんどん下がり、デジタル音源の販売量が徐々に上がっているとい うことです。このような急激な数字の変化は、新しいパラダイムと新しい方式を生みま した。このような変化の中で、韓国にはおもしろい2つの現象が現れました。 その一つは、まったく新しい音楽とは言えませんが、大衆の基本的な人気を得ることの できる安全な音楽を作ることです。どの国にも、ヒットする公式というものがあります。 その国の人たちの基本的な情緒にうったえる音楽を、今までの典型的な方法枠の中で制 作して行くやり方です。このような方式は、無難に音楽を制作することができると言え るでしょう。 もう一つの制作方法は今までとは違う新しいところから始める方法であり、またトレン ドを生み出していこうとする制作方法です。これは非常に新しく、その時代のトレンド を引き出し、社会現象をも引き起こすことの出来る制作方式だといえます。 私のような制作者がおもしろみを感じる時というのは、新しいものを世に送り出し、そ れによって人々の興味が変わっていき、時代の流行をリード出来たときです。このよう な新しいものは未来を引っ張って行く力にもなります。 2005年の韓国大衆文化で話題になった、〈エニモーション〉、〈エニクラブ〉プロジェ クトは、エンターテイメントコンテンツの未来を提示してくれました。 それは、韓国エンターテイメント市場のシンボル、イ・ヒョリの存在です。イ・ヒョリは アメリカで言えばジェニファー・ロペス、日本で言えば全盛期の安室奈美恵のような存 在だといえます。現在の日本で言えば、倖田來未のような存在です。 次は韓国最高のボーイバンド《神話》のリーダーであるエリックの存在です。アジアで もよく知られるボーイバンド《神話》のリーダー、エリックは、韓国で役者としても人 気のあるビッグスターです。 一度も直接会った事のない非常にシンボル的な、この2大スターの組み合わせは、人々 にとってその組み合わせ自体が、非常に関心を引くものとなりました。 このイ・ヒョリとエリックを組み合わせることに、韓国最高のミュージックビデオ監督の チャ・ウンテク監督、そして音楽総プロデューサーとしてわたしパク・クンテが参与し ました。参考として申しますとチャ・ウンテク監督は、韓国最高の映像広告監督であり、 韓国最高のミュージック監督です。韓国の〈ストリートミュージックビデオ〉のスタイ ルを作り上げた第一人者といえる方ですし、私にとっても夢のような存在です。 このように見ていきますと、このプロジェクトは各分野で人を集め、オールスターによ って出来上がった生産物であって、真新しかったり既存のルールを破るような科学的な 生産物ではないということを理解いただけると思います。 しかし私たちは最高のスタッフを集めて、今までに見たことの無いまったく新しいもの を作りたいと思いました。 そこで私たちは今まで試みたことの無い断面を研究し始めました。その断面を覗き込ん で行きますと、とても面白い発想が出来るようになりました。 どの国でも言えることですが、特に最近の若者たちは、音楽だけではなく音楽以外にも 面白いものをたくさん知っています。この音楽以外のものと音楽が競争するためには、 「聴く」ための音楽という私たちの常識を捨てなくてはなりませんでした。音楽という 形態を「聴く」という一つの方法に規定しないで、人々の目で見てわかるように様々な メディアを通して開放するということです。 ある歌手がシングルを出してプロモーションミュージックビデオやCMをつくるといっ た新聞、ケーブルTVなどの一般の広告方法を選択するのではなく、それ以外にオンラ イン上のプロモーションや劇場プロモーションを制作したり、またはテレビの高周波用 CFを制作するなど、より献身的で積極的、かつ多様な方法でメディアを開放して見せ るということでした。 大変小さな発想から始まったこのプロジェクトの開演は、 〈エニコール〉という韓国最高 の携帯電話ブランドと結びついて広告、ドラマ、CF、オンライン新聞、劇場など全て の媒体を通して展開していきました。そして、このプロジェクトに〈エニモーション〉 というタイトルがつけられ、曲のタイトルも〈エニモーション〉とつけることになりま した。 人々が見て聞いて話し合うことのできる全てのメディアルートへ発進していった〈エニ モーション〉は形態と境界を一つにつかみとりにくい曖昧なコンテンツとなって、人々 の様々な視覚の中に浸透していきました。つまり一般の人々が聞いてイ・ヒョリの曲な のか、エリックの曲なのか、またはドラマの主題歌なのかCMの曲なのかということが 分からない、境界のない曖昧な線でした。 この音楽のヒットによって、〈エニモーション〉はひとつの流行になり、社会現象にもな りました。結果的に〈エニモーションプロジェクト〉は多大な成功を収め、2005年 大衆文化に新しいコンテンツの原形を提示しました。この成功により、 〈エニモーション〉 は同年の10月に〈エニクラブシリーズ〉へと拡大していきましたし、2006年11 月、来月に〈エニスター〉という3番目のプロジェクトがランチングしていく予定です。 それではここでみなさんに〈エニモーション〉という曲のミュージックビデオを見てい ただきたいと思います。 ―〈エニモーション〉鑑賞― このようなミュージックビデオは5つのバージョンで、テレビの高周波に載せるCM用 に制作されたものです。その2つをご覧いただきます。まずはイ・ヒョリ版です。 ― イ・ヒョリ版〈エニモーション〉― 次は高周波TV用広告として制作されたエリック版のミュージックビデオです。 ― エリック版〈エニモーション〉― 次は〈エニモーション〉が実際にヒットして、その後に作られた人々の反応を納めたミ ュージックビデオです。 ― 反応編 ― 次は〈ウォールストリートジャーナル〉アジア新聞5月号に掲載された内容についてお 知らせします。エンターテインメントと広告の境界が曖昧になっており、特にアジアで はその枠が統合される動きを見せている。〈エニモーション〉は韓国では2005年3月 と4月に、歌謡総チャートのトップの座についている、ダウンロードの回数も160万 回を記録しているという、内容が納められていました。 こういった事例を通して私なりに、ある4つのことに気づきました。 まず第一に思いつくのが、未来志向のコンテンツは、自分の「習慣」を捨てなければな らないという言葉です。習慣的な考え、習慣的な行動、習慣的な物作り、この習慣とい うのは非常に恐ろしいものだと、私は思うのです。未来志向コンテンツは、このような 「習慣」を捨てて、常に新しいものにぶつかり、砕け、磨かれることによって、さらに 新しい姿へと変わっていかなくてはいけないと思うのです。 事実今皆さんにお見せしてきたコンテンツも、もはや新しいものだとは言えません。 現在試みている〈エニスター〉という3番目のプロジェクトも、既存の習慣をどれだけ 打ち破るかが大きな鍵です。 参考に〈エニスター〉は、CMのためとしては史上初の、オーディションを通して実現 していきます。CFを通して可能性を秘めた市民を発掘しようというプロジェクトです。 先にも述べましたように、自分の習慣を捨てなければ、新しいものは決して生み出すこ とは出来ないと思うのです。ですから、この習慣を捨てるということをまず始めに提案 したいのです。 第二に、未来志向コンテンツは、ドメスティックな組み合わせではなくインターナショ ナルな組み合わせであってこそ、人々に意味を与えることが出来るということです。韓 国と日本、中国が力を合わせれば、今までよりも更に新しく価値ある何かを作り出すこ とが出来ると確信しています。これからアジアの韓国、日本、中国が力を合わせれば、 ヨーロッパやアメリカを超える新しいコンテンツを制作することも可能だと思うのです。 第三に、私たちは大衆を導いて行くべきであって、彼らを絶対に無視してはいけないと いうことです。彼らは直接的な生産はしないけれど、常に自分の力で物事を調べ、また 噂を聞いたりしながら新しいものをすぐ習得していきます。そして、私たちが作り出し たものの、面白さの度合いによってその反応はまったく違った形で現れるのです。 第四に、これからの私たちはアジアの人々の一人ひとりの声に耳を傾けて行かなくては ならないということです。事実10年前と今では、ネットワークの環境が明らかに変化 しています。例えば今、日本で起きている出来事をオンライン上でならば実時間で韓国 でも見ることが出来るのです。 この10年間のうちにネットワーク環境は、恐ろしい早さで進化しています。これから も5年10年先には、さらにネットワーク環境が進化して、アジアや世界中の音楽や文 化を同時に共有することができるようになるでしょう。 日本は日本国民の声だけでなく、韓国の声を聞き入れれば、また一味変わった物を生み 出すことが出来ると思います。韓国はもっと中国の声を取り入れるといいでしょう。 コンテンツの未来とは、皆が一つに集い、互いの意見を交換し合って、更に新しいもの を発見し作り出していくことだと思います。この場にいらっしゃる皆さんも、そのよう にして新しいコンテンツを作り出して行ってほしいと心から願っています。ありがとう ございました。 ▲Q&A Q)コマーシャルを通して行うオーディションの詳しい内容を教えてください。 A)CMを制作する前に、全国で新人を探し集めました。その中から有望な新人アーティ ストも含め100人に候補を絞りました。その後有名な企画者たちから、100人中更に 2人を選んでもらいました。CM自体はイ・ヒョリとチョン・ジヒョン、二人のアーティ ストをそれぞれ使って2つのものを制作する予定です。曲の〈エニスター〉は、オーディ ションで選ばれた新人とイ・ヒョリが別々に歌うことになっています。 Q)〈エニスター〉の最終的なパッケージ(CDセールス)までの経過を教えてください。 A)〈エニモーション〉という企画は元々、〈エニコール〉とはまったく関係ないところで 始まったプロジェクトでした。それ自体は、人々の中に何か面白い現象を引き起こすこと が出来ないだろうかという発想から始まりました。そしてその主力的な役割を果たせるブ ランドは、韓国の有名携帯電話ブランドの〈エニコール〉しかないと思いました。 韓国でよく知られた〈エニコール〉は全世界的にもたくさん販売されている有名な携帯 電話ブランドで、その当時〈TOP PHONE〉という動画を映し出せる携帯電話の販 売を予定していました。我々の発想と、全コンテンツのミュージクビデオなどを携帯電話 の動画機能の中に集約したいと考えていた〈エニコール〉側のニーズが重なって、お互い タイアップすることを決めました。ところがパッケージとしては未だに発売されておらず、 音源だけがオンライン上に流れて、携帯電話でこのダウンロードしてこの音源を聴くとい う仕組みになっています。 以上
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