抗がん剤の副作用とその管理法 :動物看護師編 〜動物とご家族と自分自身のために〜 埼玉動物医療センター 腫瘍科 林宝謙治 腫瘍崩壊症候群 • 定義 腫瘍死及び細胞内含有物の放出により 生じる代謝系の異常 腫瘍崩壊症候群がよく起きる腫瘍 • リンパ腫,白血病,大きな固形がん • リンパ腫の抗がん治療導入時に要注意! 本講演の内容 – 腫瘍崩壊症候群について – 抗がん剤の毒性による副作用について • 発熱性好中球減少症 • 消化器毒性(下痢,嘔吐,食欲不振) • 肝毒性,腎毒性 • 出血性膀胱炎 • アレルギー • 脱毛 • 抗がん剤の漏えい 腫瘍崩壊症候群 Ø 抗がん剤の投与 Ø がん細胞が急速に死滅,崩壊 Ø がん細胞内のK,P,尿酸が血液中に放出 急性腎不全,不整脈,血圧低下 腫瘍崩壊症候群の予防 • 輸液 • 利尿 • 尿酸の生成を抑制 – アロプリノール 1 腫瘍崩壊症候群の治療 • 輸液 • 高リン血症 • 高カリウム血症 – グルコン酸カルシウム – 吸着剤 – グルコン酸カルシウム – インシュリン+グルコース • 高尿酸血症 – アロプリノール 抗がん剤の毒性による副作用 予防が最良の治療! 抗がん剤の副作用 1. 2. 3. 4. 5. 6. 骨髄抑制 消化器症状:下痢,嘔吐,便秘 血尿(出血性膀胱炎) 皮膚症状:脱毛,ヒゲの脱落,感染症 聴覚障害 神経症状 骨髄抑制が強い抗がん剤 1. 2. 3. 4. ロムスチン カルボプラチン ビンクリスチンとL−アスパラギナーゼの同時投与 ドキソルビシン 上記薬剤を投与する際のCBCの目安 1. 好中球数:3 000/μl 以上 2. 血小板数:75 000/μl 以上 ※ロムスチンは,100 000〜150 000/μl 以上 骨髄抑制 1. 好中球減少症 2. 血小板減少症 3. 貧血(問題になることは稀) 骨髄抑制が中等度の抗がん剤 1. サイクロフォスファマイド 2. ビンブラスチン 3. ビンクリスチン(単独使用) 上記薬剤を投与する際のCBCの目安 1. 好中球数:2 500/μl 以上 2. 血小板数:75 000/μl 以上 2 骨髄抑制が殆どない抗がん剤 ² L-‐アスパラギナーゼ 骨髄抑制の判定基準 好中球数0でも投与可能 骨髄抑制判定表(犬,猫) 好中球(/µl) Grade1 Grade2 下限-‐1 500 1 499-‐1 000 999-‐500 <500 99-‐50 <25 血小板(103/µl) 200 -‐100 Grade3 49-‐25 Grade4 骨髄抑制で見られる症状 • 発熱:好中球減少症 • 出血傾向:血小板減少症(稀) VCOG-CTCAE ver1.1. Vet Comp Oncol. 2011 発熱性好中球減少症の定義 発熱性好中球減少症 Febrile neutropenia (FN) • 化学療法後に下記2項目を満たした症例 – 好中球数:2 500/μl 以下 – 安静時体温:39.2℃以上または、36.0℃以下 Sorenmo KU, JAVMA, 2010 Britton BM, Vet Comp Oncol, 2012 VCOG-CTCAE ver1.1. Vet Comp Oncol. 2011 3 FNの予防 • 化学療法前に感染箇所は治療 – 歯石除去 – 抜歯 • 予防的抗生剤の投与 – エンロフロキサシン • 食事管理,整腸剤 FNの治療 • G-‐CSF製剤(犬用の製剤承認待ち) • 適切な抗生剤の投与 – 血液培養,感受性試験 • 徹底した衛生管理 – 注射部位の毛刈り,消毒,グローブ着用 – 好中球低下時に下痢しているとハイリスク 高度衛生管理 高度衛生管理 高度衛生管理 高度衛生管理 4 FNの発生率 薬剤名 ドキソルビシン ビンクリスチン シクロホスファミド ロムスチン カルボプラチン 海外の報告(70例) 37.1% (26/70) 32.9% (23/70) 22.8% (16/70) 12.8% (9/70) 5.7% (4/70) 消化器障害 ※ FNでの死亡率 8.5% Britton BM, Vet Comp Oncol, 2012 消化器毒性判定表(犬・猫共通)� 下痢と嘔吐を引き起こす抗がん剤 • ドキソルビシン • ビンクリスチン – 末梢神経障害 → 便秘 → 嘔吐 • シクロホスファミド • L-‐アスパラギナーゼ(急性膵炎) Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 嘔吐 1日3回以下 1日3-‐10回 2日で5回以内 48時間以内の輸液 2日以上続く嘔吐 致死性 48時間以上 の輸液 /PPN・TPN 下痢 排便回数 +2回 排便回数 +3-‐6回 48時間以内の輸液 排便回数 +6回以上 48時間以上 の輸液・入院 致死性 VCOG-CTCAE ver1.1. Vet Comp Oncol. 2011 抗がん剤と併用される 制吐剤 1. マロピタント(セレニア) n ドキソルビシンとの併用で嘔吐,下痢を有意に減少 抗がん治療中の 消化器症状に対する対処法 Rau SE,JVIM.2010� 2. オンダンセトロン(ゾフラン) 3. メトクロプラミド(プリンペラン) 5 抗がん剤と併用される 下痢止め 1. メトロニダゾール(フラジール) 2. タイロシン 3. グルタミン酸 食欲不振の対処方法 食欲がない子に食べてもらうには? 4. 様々な整腸剤 がん患者の栄養補給 栄養補給3つのステップ 原則:腸が働いているなら利用せよ! ステップ 1 :食欲増進 l とにかく早く始めること ステップ 2 :チューブによる補給 l 早期に介護する能力のあるご家族に権限を与えること はご家族,動物両方の生活の質の向上につながる ステップ 3 :非経口栄養 食欲増進のコツ� � 1.フードを体温よりやや低めになる程度に温める 2.おいしく,香りのいい食事を選ぶ 3.快適なストレスのない環境を提供 4.食欲増進剤の使用 抗がん剤と併用される 食欲増進剤 1. シプロヘプタジン (ペリアクチン) 2. ミルタザピン (リフレックス) 3. メトクロプラミド (プリンペラン) 6 チューブによる給仕 食べないと癌に勝てない! 1.経鼻カテーテル 2.胃瘻チューブ 3.食道瘻チューブ 口からの強制給餌は限界あり! 胃瘻チューブ 経鼻カテーテル ※短期間の使用に有効(数日)! <利点> – 設置が容易 – 通常は鎮静や麻酔が不要 <欠点> – 粘稠度の高いものは給仕が困難 – 抜けやすい(嘔吐など) – 鼻に問題がある動物は不可 胃チューブ ※ 腹壁を介して直接胃内へチューブを挿入 長期の使用が可能(数ヶ月〜) <利点> – – – 太いチューブを挿入できるため殆どの処方食が注入可能 嘔吐してもチューブの吐き出されることがない 内視鏡で挿入可能(開腹必要なし) <欠点> – – – – 麻酔が必要 胃に病変が存在する患者は使用不可 チューブの逸脱,胃内容物の腹腔内流出に注意 設置後2週間は抜去できない 給仕直前の確認(2日目) 7 食道瘻チューブ 食道瘻チューブ ※ 経鼻カテーテルと胃瘻チューブの中間的な役割 <利点> n 経鼻チューブより太いチューブ使用可能 n 設置翌日から使用可能 n 特別な器具を必要とせず,設置が簡単 n 胃瘻チューブのような合併症なし <欠点> n 鎮静,麻酔が必要 n 嘔吐すると抜けてしまうことあり(抜けても事故はなし) n 通常は2週間以内の使用に留める(長期間は不可) n 巨大食道,食道手術後などには使用不可 チューブ設置後の確認 抗がん剤の肝毒性,腎毒性 肝臓,腎臓�毒性判定表(犬)� 肝臓,腎臓�毒性判定(猫)� 肝 腎 Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 ALT :上限×1.5 AST :上限×1.5 TBil :上限×1.5 BUN :上限×1.5 CRE :上限×1.5 ALT :上限×1.5-‐4 (2週間未満) AST :上限×1.5-‐2 T Bil :上限×1.5-‐3 ALT :上限×4-‐10 AST :上限×2-‐10 T Bil :上限×3-‐10 BUN :上限×2-‐3 CRE :上限×2-‐3 ALT :上限×10≦ AST :上限×10≦ T Bil :上限×10≦ 肝 BUN:上限.3以上 CRE:上限.3以上 腎 BUN:上限×1.5-‐2 CRE:上限×1.5-‐2 VCOG-CTCAE ver1.1. Vet Comp Oncol. 2011 Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 ALT :上限×1.25 AST :上限×1.5 T Bil :上限×1.5 BUN :上限×1.5 CRE :上限×1.5 ALT :上限×1.25-‐1.5 (2週間未満) AST :上限×1.5-‐2 TBil :上限×1.5-‐3 ALT :上限×1.5-‐2 AST :上限×2-‐10 T Bil :上限×3-‐10 BUN :上限×2-‐3 CRE :上限×2-‐3 ALT :上限×2≦ AST :上限×10≦ T Bil :上限×10≦ BUN:上限×1.5-‐2 CRE:上限×1.5-‐2 BUN:上限.3以上 CRE:上限.3以上 VCOG-CTCAE ver1.1. Vet Comp Oncol. 2011 8 肝酵素(ALT,ALP,ASTなど)の チェックが必須な抗がん剤 1. ロムスチン n ALTが正常上限の3倍以下になるまで投薬は延期? n 多くの症例でロムスチンの再投与は可能 n 但し減量は必要 2. イマチニブ 投与前にビリルビンのチェックが 必要な薬剤 T Bilが1.5mg/dl以上の時に減量が必要な抗がん剤 1. ドキソルビシン 2. ビンクリスチン 3. ビンブラスチン ※代替薬を使用あるいは薬用量を50%減量 腎機能(BUN,Cre,尿検査)の チェックが必須な抗がん剤 腎機能障害が存在する際に禁忌な抗がん剤 1. シスプラチン 2. ストレプトゾトシン 腎機能障害が存在する際に注意が必要な抗がん剤 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 出血性膀胱炎 カルボプラチン サイクロフォスファマイド メトトレキセート ブレオマイシン エトポシド ドキソルビシン(猫) ピロキシカム 出血性膀胱炎 • シクロホスファミド投与後に発症 • 発症メカニズム – 膀胱内にアクロレインが蓄積 出血性膀胱炎の対策(予防) シクロホスファミド投与時 1. 利尿剤(フロセミド)の同時投与 2. 塩 3. 投薬は午前中に行う 4. 頻繁な散歩,トイレを促す ※投与前に尿検査を実施し,膀胱炎や尿石症が無 いことを確認してから投与 9 治療後に皮膚の変化が起きうる 抗がん剤 皮膚の変化 • 脱毛,ヒゲの脱落(猫) – ドキソルビシン • 色素脱失 – トセラニブ 抗がん治療後の脱毛 アレルギー アレルギーに注意が必要な 抗がん剤 1. L-‐アスパラギナーゼ 2. ドキソルビシン 対策:投与前に抗ヒスタミン剤やステロイド剤の投与 抗がん剤の漏えい 10 漏出時の障害が重度の 抗がん剤 1. 2. 3. 4. 5. ドキソルビシン ² 血管外に漏らさないようにするには! ドキソルビシン ビンクリスチン ビンブラスチン ミトキサントロン アクチノマイシンD – 留置針は確実に入れること – 投与中は確実に監視する – 保定しながらの投与 – 暴れる動物は鎮静下で投与(点滴) 少量の血管外漏出でも紅斑,発赤,腫脹,水疱性壊死を生じ、 難治性の潰瘍を形成する可能性のある薬剤� � 漏れてしまった時の対処 A ドキソルビシン投与風景 ドキソルビシン 1. 投薬を中止 2. 留置針は引き抜かず,その留置針周囲から周囲に 漏れた薬液を可能な限り吸引 3. 患部を冷やす:冷湿布 – 1回10分,1時間毎,24時間 4. 漏れた場所を外科的に切除? 5. 拮抗薬:デクスラゾキサンの投与(3時間以内) ※漏れた薬剤を局所に留めることが重要! 漏れてしまった時の対処 B 拮抗薬:デクスラゾキサン ※漏出疑い3時間以内に600mg/㎡を生理食塩水に 希釈し,15分かけて静脈内投与 ビンクリスチン・ビンブラスチン 1. 2. 3. 4. 5. 投薬を中止 留置針は直ぐに引き抜かない! 留置針から周囲に 漏出し薬剤を可能な限り吸引 生理食塩水を局所注射 温湿布を数時間適用 局所吸収を促進することが重要!� サビーン 500mg 45 593円 (2014年4月17日) Zinecard(日本未発売) 500mg 70 000円 250mg 39 900円 11 漏出時の障害が中等度の 抗がん剤 漏れてしまった時の対処 C ミトキサントロン・アクチノマイシンD 1. 投薬を中止 2. 留置針は引き抜かず,その留置針周囲から周囲に 漏れた薬液を可能な限り吸引 3. 患部を冷やす:冷湿布 – 1回10分,1時間毎,24時間 1. 2. 3. 4. サイクロフォスファマイド カルボプラチン シスプラチン ダカルバジン ※局所で発赤,腫脹などの炎症性変化を起こ すが,一般的に潰瘍形成までは至らない薬剤 対処:全てC まとめ 漏出時の障害が低い抗がん剤 1. ブレオマイシン 2. メトトレキセート 3. シタラビン ※多少の血管外漏出では炎症や壊死を起こしにくい 対処:経過観察のみ • 抗がん治療後の動物には,色々な異変が起こる • 時には命に関わる事も! • 動物をよく観察して徴候を早期に発見することが 重要 12
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