SPA 企業の CS 戦略 - NIKKEIBP Blog

流通科学大学卒業論文
崔
ゼミ
『SPA 企業の CS 戦略』
35011416
平井
達也
平成 16 年 12 月10日
1
● 目次
Ⅰ、はじめに
・・・・
P1
Ⅱ、現状
・・・・
P1∼P3
Ⅲ、アパレルマーケティング
・・・
P4∼P5
Ⅳ、SPA・SCMの意味と利点と課題
1、
SPA
・・・
P6∼P8
2、
SCM
・・・
P8∼P9
Ⅴ、セレクト・ショップ
1、コンセプトの明確な個性派品揃え方専門店
2、セレクト型ショップの強さ
・・・
・・・
P9∼P11
P11∼P12
Ⅵ、SPA・SCMの機能を持つアパレル企業の異業種参入
1、パルグループのケース
・・・P12∼P13
2、パルグループのCS戦略
・・・P13∼P14
3、パルグループの将来展望、及び沿革と業績
Ⅶ、まとめ
・・・
参考文献一覧
・・・P15∼P16
P17
・・・
P18
2
Ⅰ、はじめに
昨今の日本のアパレル業界は衣料品消費の低迷、低価格化の進行に伴い、市場は縮小傾
向にある。その為、メーカーは製造だけでなく小売の利益を取り込もうとし、小売は自社
企画による低価格化でメーカー利益を取り込もうとしている。これが衣料業界でよく言わ
れる「SPA」、つまり「企画製造小売」である。この結果、アパレルメーカーの小売進出
とユニクロ・GAP を代表とする低価格量販店の拡大、一方で感性と品質、価格と品質を適
合させたアパレル専門店の台頭があり、それにより極端な市場の縮小は見られないものの、
業界上位企業と下位企業の格差が一段とついてきており、また高級化・低価格化の 2 極分
化が顕著になりつつある。この現状を踏まえ、今後のアパレル業界の将来展望とともにS
PA、SCMの強みを検証していくことが狙いである。
Ⅱ、現状
Ⅰの「はじめに」でも触れた通り、業界上位企業と下位企業の格差が一段とついてきて
おり、94年度に売上げベスト30社に入っていた企業で02年度に増収になっている企
業は、ワールド、ファイブフォックス、オンワード樫山、三陽商会、ワコール、クロスプ
ラスのわずか 6 社である。他の 24 社は、たとえ順位が上がっている場合でもすべて減収と
なっている。全体の傾向を見てみると、8 年間で最も売上げをのばしているのはいわゆるS
PA型アパレルであることが歴然としている。94年に第 6 位だったワールドは1000
億円以上売上げを伸ばして01年度から首位に立っている。また、ファイブフォックスも
8年間で 2 倍以上の売上げとなり、9位から 2 位に躍進した。一般の総合大手やレディス
アパレルの増収企業も、多くが一部展開に踏み切ったSPA型ブランドの貢献によるもの
といってもいい。
一方で最も凋落の目立つのは、レナウンとそのグループ企業である。特にレナウンは9
4年にはまだアパレル売上高トップであったものの、02年には第9位にまで落ち込んで
おり、しかも再建の道筋はまだ明確には見えていない。また、94年度は14位だった福
助は、03年に民事再生法適用を申請するというまでになった。
94年度の時点で売上高ベスト30に入らず、02年度に入って来ている企業は、サン
エー・インターナショナル、フランドル、トリンプ・インターナショナル、美濃屋、シル
バーオックス、ライカグループ、サンラリーグループの7社である。肌着のトリンプを除
けば、ここでもサンエー、フランドルのSPA型の増収が目立っている。他は、売上げは
3
上がらなくても他のライバル企業がそれ以上に不振だったために順位がアップしたケース
が多い。
以上が激動の時代を迎えているアパレル業界の現状である。そして以下がアパレル売上
高上位30社の変遷である。
アパレル売上高上位30社の変遷
(単位;百万円、カッコ内は前期比伸び率、▼減)
●2002年度
●1994年度
順位 社名
決算期
売上高
1
03/3
224,166(
ワールド
ファイブフォック 02/10
8,9)
順位 社名
決算期 売上高
1
95/1
レナウン
179,920( 7,4)
198,617
95/2
167,548
2
オンワード樫山
2,3)
3
イトキン
95/1
135,395
02/12
139,350( 5,3)
4
三陽商会
94/12
130,336
イトキン
03/1
134,168(
0,4)
5
グンゼ
95/3
126,782
ワコール
03/3
122,448(▼0,2)
6
ワールド
95/3
123,555
7
ワコール
95/3
119,046
8
ナイガイ
95/1
90,693
95/10
84,599
2
ス
3
オンワード樫山
03/2
175,030(
4
三陽商会
5
6
サンエー・インタ 02/8
70,186(
2,3)
7
ーナショナル
8
ジャヴァグループ 03/2
67,132(▼5,4)
レナウン
63,612(
03/1
−)
9
ファイブフォック
9
ス
10
クロスプラス
03/1
63,555(▼2,3)
10
ジャヴァグループ 95/2.8
80,620
11
フランドル
03/2
57,232(▼4,7)
11
デサント
95/3
80,142
12
タキヒヨー
03/2
56,248(
3,8)
12
赤ちゃん本舗
94/12
77,274
13
大西衣料
03/2
55,154(▼3,4)
13
大西衣料
95/2
73,683
14
ナイガイ
03/1
52,734(▼7,6)
14
福助
95/3
70,015
15
東京スタイル
03/2
47,103(▼3,7)
15
小杉産業
95/1
65,753
16
デサント
03/3
44,524(▼3,2)
16
ゴールドウィン
95/3
64,142
4
トリンプ・インタ 02/12
44,200(
6,0)
ーナショナル・ジ
17
ャパン
18
ルック
02/12
カイタックグルー 02/2
41,786(
1,8)
17
東京スタイル
95/2
63,401
18
ミズノ
95/3
63,214
19
レナウンルック
95/12
60,434
41,373(▼7,8)
19
プ
20
ミズノ
03/3
40,000
20
モリリン
95/2
60,000
21
モリリン
03/2
39,387(▼0,8)
21
瀧定
95/1
59,540
ゴールドウィン
03/3
38,462(▼8,8)
22
鐘紡ファッション
22
事業本部
95/3
58,784
23
ジュン
02/9
36,692(
6,0)
23
タキヒヨー
95/2
58,277
24
美濃屋
03/2
36,310(▼9,5)
24
ジュングループ
95/9
55,348
25
小杉産業
03/1
35,835(▼16,8)
25
櫻屋商事
95/1
54,322
シルバーオックス 03/3
33,218(▼11,4)
26
カイタックグルー
26
プ
95/2
50,689
27
ライカグループ
02/7
30,051(▼9,9)
27
ダーバン
95/12
45,798
28
カネボウ
03/3
30,000(
28
豊島
95/6
45,615
29
ダーバン
02/12
28,283(▼15,4)
29
アシックス
95/1
45,000
30
エドウィン商事
95/5
44,416
サンラリーグルー 02/12
30
25,476(
プ
0,0)
11,7)
(注)レナウンは分社化により前年比はなし。カイタックグループは服地の売上高含む。ミ
ズノは集計方法を変更
(出所)『繊研新聞』2003 年 7 月 29 日
5
Ⅲ、アパレル・マーケティング
高まるマーケット・イン発想の必要性
今アパレル・ファッション業界全体は、1985年プラザ合意以降の円高によるインポ
ート商品の増加、91年バブル崩壊後の生活者の価値観変化に対応して、「マーケット・イ
ン」発想の必要性を痛感している。それはさらに、インターネットやe-ビジネスの時代に
突入して拍車がかかり、川上・川中・川下がエンドユーザーの情報を共有し、生活者の求
める商品を、求めるときに、求める量だけ、求める売り場で提供する。そのためにはスタ
ンスを全員がエンドユーザーに向けるというマーケット・インが提唱されているわけであ
る。
そのマーケット・インをビジネスとして実践するためには、賢い消費行動をとる主役の
生活者(情報発信する人)をよく知る必要があり、そこにアパレル・マーケティング活動の
第一歩がある。
元来マーケティングの発展は、大量生産された商品を、大量消費に向けて行う販売の仕
組みと仕掛けという「マス・マーケティング」に始まり、次に細分化された特定の消費者
をターゲットとし、照準を合わせた差別化商品を、確実に消費させようとする「ターゲッ
ト・マーケティング」に進化した。そしてより消費者を明確にした、個人の顧客を対象に
して、個人の欲求に応える商品を個人の要望に適合した方法で提供する販売の仕掛けと仕
組みという、
「リレーションシップ・マーケティング」がいわれるようになってきた。
経済環境、個人の価値観、情報伝達の三つの変動に加え、海外資本と競争時代を迎えたア
パレル業界に求められるマーケティングは、「3C・4P」活動を「ワン・トゥ・ワン・マ
ーケティング」「パートナーシップ・マーケティング」「インターネット・マーケティング」
などの手法で駆使する必要がある。
いずれにしても、マス・マーケティングの「商品中心」の発想ではなく、「顧客中心」の
発想で一人一人のお客様の満足=顧客満足(CS、カスタマー・サティスファクション)を
大きくさせるのが究極の目的である。したがって「市場の創造と維持」はアパレル・マー
ケティングの永遠のテーマである。
コトラーはマーケティングをすすめるためには次のページの 4 つのステップを踏まなけ
ればならないと指摘した。一部をアパレル・マーケティングに置き換えると次のページの
図のようになる。
6
Ⅲ‐1マーケティング管理のプロセス
Ⅲ‐2マーケティング環境
市場諸機会の分析
テキスタイル
● マーケティング・リサーチと情報システム
● マーケティング環境
コンバーター
原糸・紡績メーカー
● 消費財市場と消費者の購買行動
● 組織市場と消費者の購買行動
↓
標的市場の選択
↓
↓
競合メーカー
自
↓
社
↓
物流・プロモーション他
●
需要測定
●
市場細分化・標的設定・市場設定
↓
小
↓
売
↓
マーケティング・ミックスの開発
顧
客
●企業(Company)
3C
●消費者(Consumer)
中枢マーケティング・システム
●競合企業(Competitor)
ミクロ環境
●商品企画(Product)
4P
パブリック(政府・金融・報道)機関
マクロ環境
●価格設定(Price)
●場所(Place)
政治経済・文化・資源・技術・人口
●販売促進(Promotion)
↓
市場努力の管理
●戦略、計画設計、コントロール
Ⅲ‐3市場細分化の基準要因
顧客属性要因
顧客行動要因
1. 地理的要因
1. 購買状況要因
2. 人口統計要因
2. ベネフィット要
3. サイコグラフィ
(出所)『マーケティング・エッセンシャルズ』
東海大学出版部
ック要因
因
3. 使用要因
4. 態度要因
7
Ⅳ、SPA・SCMの意味と利点と課題
1、SPA (speciality retailer of private label apparel)
「製造販売アパレル小売業」「製造販売小売業」「製造小売業」などといわれている。企画・
生産・販売(小売り)を一体化して行う新しい業態で、従来の流通構造でいえば、アパレル
メーカー(問屋)の機能とアパレル小売業の機能を合体して流通経路を短縮することにより、
高マージンが取れ、しかも価格を安くして販売できる仕組みを構築している。
また店頭での演出・商品構成において、一貫したコンセプトでイメージ訴求ができるた
め、ファッション・ビジネスの一つの理想像として注目されている。
要はPB(プライベート・ブランド)100%のファッション専門店ということである。
アメリカでは「ギャップ」「リミテッド」などの婦人服専門店がSPAという業態でオリジナ
ルのファッションをリーズナブルな価格で提供し、消費者の支持を得て急成長した。それ
に刺激されて、アメリカのデザイナー・ブランドやキャラクター・ブランドも直営店で自
ら販売するという方式を採用するようになり、アパレルメーカーが小売業に参入するとい
う形でのSPAも増加している。
日本でも1980年代の前半に、日本のDC (designer
s and character
s デザイナ
ーズ&キャラクターズ)ブランドのブーム時に、自社ブランドのイメージを店頭で展開する
ことを重視して、直営やFC(franchise chain フランチャイズ・チェーン)方式の販売を
行った(当時はワンブランドショップとか、オンリーショップと呼ばれた。)
また「レリアン」のように最初からSPA型の展開をしている小売業もあった。しかし、
いずれも価格のバリュー(品質に対して割安な価値)を実現するという視点が欠けていた。
最近では消費動向が消費者主導型となり、デザイナーやメーカーの打ち出すトレンドに
消費者が迫従しなくなった。消費者は自分の生活価値観に基づいた購買をし、価格に対し
ても厳しい目でチェックするようになった。消費者との接点に位置する小売業の店頭情報
を商品企画に反映させることが重要な課題になっている。
また同質化からの脱皮を目指す専門店にとっても、PB商品の開発によって他店と差別
化を行い存在価値を主張できることがサバイバルの切り札の一つであり、批判の的となっ
てきた内外価格差を解消し、消費者の支持を得る方法でもある。
現に郊外型紳士服店の多くが急成長したのはSPAであったからであり、海外から日本
に進出してきている専門店の多くもSPAである。日本のグローバル化の中で海外SPA
とも対抗していかなければならない時代が到来している。大手専門店はSPA化すること
8
を迫られているといえよう。
一方、アパレルメーカーの側も、次々とSPA型のブランドを開発し、直営店や百貨店
のイン・ショップでの展開を進めており、それが急成長している。欧米のDCブランドも、
ジャパン社を設立して直営店でダイレクト販売しているところが主流となり、バリューを
実現し、売上げを伸ばしている。
SPAの一般的戦略は、大都市のファッションゾーンにフルラインの商品構成をした大
型店舗を構え、旗艦店としてイメージアップをねらう。それを土台としてチェーン展開し
ている。
●日本市場の主なSPA
海外から進出のSPA
アメリカから進出のSPA
欧州から進出のSPA
ギャップ
ザラ(スペイン)
タルボット
マンゴ(スペイン)
エディー・バウアー
ローラ・アシュレイ(イギリス)
L・Lビーン
オアシス(イギリス)
ティンバーランド
エルメス(フランス)
ゲス
ルイ・ヴィトン(フランス)
BCBG
ラ・シティ(フランス)
ブルックス・ブラザーズ
ジェニー(イタリア)
アルマーニ(イタリア)
フェラガモ(イタリア)
グッチ(イタリア)
マックスマーラ(イタリア)
クラブ
モナコ(カナダ)
ベネトン(イタリア)
9
日本のSPA
小売業のSPA
アパレルのSPA
ビームス
コムサ・デ・モードほか
シップス
(ファイブフォックス)
ユナイテッドアローズ
ビービーケーケー(ビギ)
レリアン
ジュン・メンほか(ジュン)
銀座マギー
プライベートレーベルほか
詩仙堂
(サンエーインターナショナル)
クレヨン
ナイスクラップ
ユニクロ
オゾックほか(ワールド)
(ファーストリテイリング)
ジネス(ジオン商事)
アオキインターナショナル
エスイズビーほか(イズム)
もくもく
トランス・コンチネンツ
アイドル
(ミレ二アム・ジャパン)
発信グループ
ウェザー・ステーションほか
ハニーズ
(ゴールドウィン)
キタムラ
アンビション
無印良品(良品計画)
イニ(ファッション須賀)
サザビー
シュセット(ダン)
2、SCM(サプライチェーン・マネジメント)
サプライチェーンとは素材開発から店頭販売までが一貫してディマンド(需要)に対応す
ることである。これは、需要をきめ細かく予想し、在庫を可能な限り少なくする経営手法
でもあり、米国ではサプライチェーン・マネジメント(SCM)と呼ぶ。在庫を抱えずに必
要なときに必要な分だけ調達して在庫を抑えるという意味では、トヨタの「かんばん方式」
と同じである。
アパレル業界のサプライチェーンとは、小売業−アパレル企業−縫製(編立)工場−テキ
スタイル企業(コンバーターまたは商社、紡績、整理加工など)−ロジスティクスのグルー
10
プ化のことで、どの企業が抜けても成立しない。
SPA(製造小売業)型のみならず、製造卸アパレル企業でも、最前線の店頭販売に機会
ロスを最低限に止めるためには、サプライチェーン・マネジメントは欠かせない要素とい
われ、21世紀型アパレル産業の課題である。
サプライチェーン・マネジメントを成功させるには、4つのルールがある。
①経営戦略の一つとして採用すること。アパレル企業の事業部門や生産管理部門、企画
部門という部門単位ではなく、各企業とのつながりを全社一丸となっての取り組みが必要
である。そのためには従来の取引先との関係を見直し、社内の既成概念を打破しなければ
ならない。つまり、経営のトップ陣によるエンドユーザー情報のシステム化導入に合わせ
て、業務の変革を行うという戦略が前提条件になる。
②サプライチェーン会社が「顧客満足」に対応するという意思統一をすること。小売店の
店頭情報を共有し、対象とするエンドユーザーに対して、どんなメリット=価値を明確に
打ち出せるかがポイントになる。そのためには、関係各社同士の相反する利害関係を調整
し、一つの目標=顧客満足に向かって行動するという意思統一をさせる必要がある。
③ネットワークの見直しは大胆に行うこと。新しいシステムの導入となるため、競争力・
技術力・人材力・資金力などに加えて、迅速な開発能力を持ち、コスト効率がよく高い付
加価値を創出できる企業と組む必要がある。したがって、従来の取引先だけで充足できる
のか、海外に求めるようになるのかを検討する必要がある。
④発想の原点をディマンド(需要者)側に置くこと。店頭商品の選択に対するエンドユー
ザーの評価は、デザイン・色柄・風合い以外に、品質・価格・投資価値にまでおよび、国
際比較をもって行われている。したがって、その評価は数値やデータではなく、利用者側
の「知恵」が含まれている。それは情報発信の出発点であり、供給側の発想の原点になるも
のである。
Ⅴ、セレクト・ショップ(select shop)
1、コンセプトの明確な個性派品揃え型専門店
セレクト・ショップ(select shop)とは、直訳すれば品揃え型専門店という意味だが、従
来の専門店が規模を拡大するにつれて自社のコンセプトを無視し、売上げ確保のために売
11
れ筋追及に走ったために同質化し、結果的に売上げ不振に陥ってしまったのに対し、自店
のコンセプトをしっかり守った個性的な品揃え型専門店のことを区別して、セレクト・シ
ョップと呼ぶようになった。
この背景には、従来の有力専門店のパワーが強まるにつれてリスク回避の委託取引を仕
入れ先のアパレルメーカーに強要したり、またアパレルメーカーも自社の売上げ拡大のた
めに専門店に委託取引を持ちかけたり、本来の買取り仕入れによってリスクを持ち、売り
切る努力をするといった専門店の姿が崩れてしまった点も大きく作用している。
これに対して輸入物で商売をしてきた専門店は、海外の展示会で買付けた商品は原則(不
良品や納期遅れ品でないかぎり)返品できないから、自店のコンセプトを守り、顧客を大切
にして真剣に買取り仕入れでビジネスを展開してきた。こうした本当の(品揃えで個性を出
した)姿の専門店を「インポート・セレクト・ショップ」と呼んで区別したのが最初である。
インポート・セレクト・ショップは、その後は国産の商品でも、自店のコンセプトに合
致した物なら仕入れて商品構成するように発展した店も多くなった。そこで、国産品だけ
でも品揃えで個性を出しているコンセプトの明確な店も含めて、(インポートという名称を
外して)セレクト・ショップと呼ぶようになった。
セレクト・ショップは、コンセプトを堅持しているから、インポート物でも国産品でも、
自店で求めている(仕入れ計画した)ような商品が、市場に存在しない(生産されていない)、
または見つからない場合も出てくる。そこで、仕入れでまかなえない商品を、自らの手で
企画開発する企業も登場し、増えてきた。
今日では、(原則は仕入れによる品揃えだが)自店のPB (オリジナル商品ブランド)のウ
ェイトが40%前後まで達しているセレクト・ショップも少なくない。SPAに近づいて
いるわけだが、こうした店の場合でも、経営者はあくまでセレクト・ショップとしての立
場を崩していない。
その一方では、SPAが自社ブランド商品オンリーではカバーしきれない分野を、仕入
れ商品で補充しようとする動きも出てきている。SPAのセレクト・ショップへの接近だ
が、あくまで自社ブランド品を柱にすえながら、商品構成の片寄りをカバーしようとする
新しい動向である。
また、外部のデザイナーや個性派ブランドと提携して、自店のオンリー商品としながら、
仕入れによる品揃え型専門店(セレクト・ショップ)を展開するという新業態も登場してい
る。例えばワールドでは、これを「バイイングSPA」という名称で位置づけ、いろいろな
12
タイプの専門店をターゲット別に展開している。
セレクト・ショップの雄といわれているユナイテッドアローズでは、仕入れと自社企画
を組み合わせた自社の業態の目指すところを「マルチ調達チャネル型スーパーSPA」と名
付け、顧客に高い満足を与えながら高い収益を得られる新しいセレクト・ショップの方向
として位置づけている。
●セレクト・ショップの御三家の業績
社名
本社
決算月
売上高
伸び率
経常利益
(百万円)
(%)
(百万円)
店舗数
ユナイテッドアローズ(UA)
東京
03/3
35,271
30,9
4,786
45
ビームス
東京
03/2
30,027
▼5,4
1,830
75
シップス
東京
03/2
18,488
8,4
1,692
44
(注)2002年度
2、セレクト型ショップの強さ・・・目の肥えた消費者に合わせた品揃えがポイント
百貨店やチェーンストアで前年割れがつづくアパレル小売市場のなかにあって、全体に
まずまずの業績を残し、現代の主役に踊り出ているのはセレクトショップ(SS)と言われ
る一群である。セレクトショップとは、上記のとおり品揃え専門店の一種だが、ブランド、
商品アイテム、消費者層などをさらに絞り込んでセレクトすることで、店の個性を色濃く
打ち出しているショップ一般を指している。百貨店や従来型の大型専門店が長期にわたる
返品制度などのためか、仕入れ能力を低下させ低迷している中、目の肥えた選択眼の高い
昨今の消費者をターゲットにできるSS型のショップは健闘している。大手を含むアパレ
ルメーカーのブランドや百貨店の自主編集売場にも、SSタイプのそれが次々と現れるよ
うになり、今やSSやSS業態はちょっとしたブームになっている。
しかしながら、それほど簡単に独自の感性や能力を持つオーナーやバイヤーが多く育つ
はずもない。SSでも同質化は目立ち始め、勝ち組みと負け組みの差もはっきりしてきた。
勝ち組み見られる代表は、例えばユナイテッドアローズ(UA)、ビームス、シップスとい
う、この世界での御三家である。いずれも200億円∼300億円以上を売上げ、SSの
トップクラスにランクされる企業である。また、(ビームスの出身者が89年に立ち上げた
のがUAであるという意味を含め)御三家は76∼77年に初のショップをオープンする
ことからスタートしており、すでに30年近い実績を持っている。ビームス、シップスは
13
当時日本に紹介されていた画一的なアメリカンファッションに飽き足らず、ファッション
を通じて、真の豊かなアメリカ文化を紹介しながら、徐々に独自のスタイルを日本市場に
根付かせたSSの先駆者である。つまりリスクを持ってこれはと思う海外ブランド仕入れ
ることからスタートし、徐々に日本の市場性に合わせ、オリジナルブランド比率を高める
ことで、ショップロイヤルティーや売上げを高めてきた。彼らが御三家と言われるのは、
単に売上げ上のトップ企業に成長したからではない。企業当時の感性や思想を貫きながら
の先進性やこれを基軸にした企業の安定性を保ち、いぜんとして今後も高い発展性を予測
されるからであろう。
今後は淘汰されていくであろう一般的なSSと比べ、レベル上の違いは大きい。
現にUAでは、「SSブームはもう終わった。人・物・金が揃わねば成長しつづけられな
い」(栗野宏文常務)と判断している。ファッション以外にレコードなど異業種とのコラボ
レーションまで行っているビームスの設楽洋社長は「当時はライフスタイルショップでは
あっても、断じてSSではない」とSSと呼ばれることを否定した。
「SS型の強さ」といっても、結局は「最初から最後までCS(顧客満足)の追求の問題」
(UA栗野氏)に尽きるようである。
Ⅵ、SPA・SCMの機能を持つアパレル企業の異業種参入
1、パルグループのケース
これまで論じた通り、現在のアパレル業界は激動の年を迎えており、セレクトショップ
の雄である、ビームスでも飲食部門やレコード部門に進出している。これは、これからの
アパレル業界で生き残る為の最良の手段の一つと考えられる。
これまでは関東を拠点に置くアパレル企業を見てきたが、このセクションでは関西に拠
点を置く企業である、パルグループに焦点を当てて論じていくことにする。パルグループ
は1973年に大阪の堺市にジーンズショップ1号店である「パル青山」の出店を機に急成
長している関西の代表的なSPA・SCMの機能を持つアパレル企業である。73年に出
店を開始したということは、セレクトショップの御三家と呼ばれるユナイテッドアローズ、
ビームス、シップスより、30年以上の実績を持つ企業ということになる。
パルグループ社長、井上秀隆氏は業界現状である「高級化・低価格化」に着目し、30
0円ショップ「3コインズ」を大阪市北区茶屋町に出店し、雑貨事業の出店を開始した。
現在では雑貨事業(第四事業部)の出店数は3コインズ以外(colle、Salut!、L
14
attice)の店舗も含め50店舗近くになる。またパルグループのターゲット層は主に
10代∼20代の若者をターゲットとしている為、現在深刻化しつつある少子高齢化に伴
い、新たな客層を獲得しなければならないため、出店場所も郊外型のショッピングモール
にも出店している。それに併せて、パルグループとナイスクラップの共同開発の生活雑貨
店「クロワッサン
クロワッサン」を集客が見込める「デパ地下」に展開することを決定
した。これは主に30代からシニア世代の新たな客層を開拓することが狙いである。今年
10月にオープンした「ダイヤモンドシティ・プラウ」(大阪府堺市)に1号店を開店、1
日には「玉川高島屋ショッピングセンター」(東京・世田谷)にも開店した。通常雑貨店は
上層階にあるが、ショッピングセンターや百貨店の地下食品街に出店する。2005年す
でに3店の出店が決まっている。
また雑貨事業の物流制度としては、パルグループ自身の自社倉庫(パルグループがメーカ
ーから買い取った商品が集結する倉庫)を持っており、店舗で必要な商品を適時にオーダー
すれば配送されるという制度を取っている。この多頻度小口配送により、店舗単体での過
剰な在庫を持つという危険性がなくなり、一つの商品が均等に全店舗に振り分けられるの
である。
次に商品構成だが、現在の店舗には上記のようにメーカーから仕入れた商品も陳列され
ているが、市場の反応を見ながらSPA化率(メーカーへの別注を主体)を徐々に高めてい
く。パルグループでは、このメーカーの商品と自社ブランドの商品分類のことを、「ABC
商品分類」と呼んでいる。その内容を詳しく説明すると、A商品が自社ブランド、B商品
がメーカー委託、C商品が国内メーカー商品となる。いずれにしろ、原単価を一番抑える
ことができるA区分商品の販売強化によって粗利率の向上を図ることが狙いである。
2、パルグループのCS戦略
ファッションの「NEXT」を読み、提案を活かすためのパルマップ
なぜ、パルグループの提案開発が的中し、安定的な成長が可能となっているのか。その
秘訣が、過去40年間の経験とファッションの経過を詳細に分析し創り上げたパルマップ
にある。すなわち、ファッションとは約12年周期で循環し螺旋階段状にスパイラルに回
っており、その段差はファッションの感性の成長部分であるというものである。ファッシ
ョン関連企業の移り変わりが激しいのは、このファッションの流れの変化に起因すること
が大きく、ワンパターンの業態やコンセプトであれば、トレンドから外れた時には業績の
15
落ち込みは避けられない。そこで、パルグループでは戦略的に360度オールラウンドの
ポジションへの業態展開を図ることにより、ファッションのトレンド変化による業績の低
下のリスクを分散しながらも、その時々のトレンドにある業態を積極的に推進することに
より、全社的に見て安定成長を図っている。また、現在も毎月各デベロッパーの主要各社
各店の売上推移を当該マップに照らし合わせてそのポジションを検証し、パルマップの精
度を高めているのである。
(出所)インターネットより
株式会社パル『パルサイクルの進化と事業戦略』2001年12月
http://www.palgroup.co.jp/pdf/pal_sicle.pdf
16
3、パルグループの将来展望
現在パルグループはコンセプトの異なった30以上のブランドを擁し、その内主要なも
のだけでも13ブランドある。店舗も既に全国で167店舗を展開しているが、従来は関
西圏が圧倒的に多く、今なお約6割が関西圏の店舗である。首都圏の店舗もここ1∼2年
積極的に出店してきたが、未だ出店のないブランドも数多くあり、出店していても1∼2
店舗にとどまっているブランドもある。今後も毎年30∼40の新規出店を計画している
が、30以上のブランド擁するパルグループにとって1ブランドあたりの出店能力は大き
く、マーケットサイズが関西圏に比べ3倍以上はある首都圏での店舗展開の見通しは、非
常に明るいものと代表取締役社長、井上英隆氏は確信している。
●1973 年 10 月
(株)スコッチ洋服店のカジュアル部門を分離し、(株)パルを
設立
大阪府堺市にジーンズショップ 1 号店「パル青山」を出店
●1981 年 11 月
トレンドショップ業態「フレーバー」を大阪市北区の梅田
エスト 1 番館に出店。都心型店舗の出店開始
●1983 年
6月
ユニセックスのカジュアルセレクトショップ業態「チャオ
パニック」を大阪市中央区のなんば CITI 本館に出店
●1994 年
4月
300 円ショップ「3 コインズ」を大阪市北区茶屋町に出店。
雑貨事業の出店開始
●1999 年
3月
アウトレット業態「パルオールスターズ」を大阪市住之江
区の ATC マーレに出店
●2000 年
2月
モード系インポートセレクト業態「ガリャルダ
ガランテ」
を大阪市北区梅田ダイヤモンド地下街に出店
●2001 年 12 月
ジャスダック市場に株式を公開
●2002 年
(株)ナイスクラップの株式 3,640 千株(33.6%)を株式公開
6月
17
買付けにより取得、資本業務提携を行う
●2003 年 11 月
東京事務所を東京都渋谷区代官山から渋谷区神宮前に移転
●2004 年
東京証券取引所市場第 2 部に株式を上場
2月
(株)シェトワの全株式を取得し、子会社とする
連結ベース
(百万円)
第 30 期
(平成 14 年 2 月期)
売
上
高
売 上 総 利 益
第 31 期
前年比
(平成 16 年 2 月期)
前年比
(平成 17 年 2 月期)
前年比
125.8%
19,520
122.0%
24,921
127.7%
30,300
121.6%
7,789
130.1%
9,689
124.4%
12,708
131.1%
15,600
122.8%
営 業 利 益
1,393
(売上高比)
(8.7%)
経 常 利 益
1,323
(売上高比)
(8.2%)
639
当 期 純 利 益
−
158.5%
−
162.1%
−
177.5%
(3.9%)
(売上高比)
前年比
16,005
(48.6%)
(売上高比)
(平成 15 年 2 月期)
第 33 期(予想)
第 32 期
1 株当り当期純利益
−
119.13 円
(49.6%)
1,654
−
118.7%
(8.5%)
1,521
−
114.9%
(7.8%)
820
−
128.3%
(4.2%)
−
137.74 円
(51.0%)
2,021
(8.1%)
2,319
(9.3%)
1,311
(5.3%)
−
122.2%
−
152.5%
−
159.7%
−
(51.5%)
2,570
(8.5%)
2,860
(9.4%)
1,590
(5.2%)
189.06 円
127.2%
−
123.3%
−
121.3%
−
215.04 円
(出所)インターネットより
社団法人
−
証券広報センター『会社情報』
http://www.skc-ir.jp/ir/2004/pal2/pal1.html
Ⅶ、まとめ
以上のとおり論じてきたが、現在のアパレル業界では見ての通りコストを極力費やさず
18
に「儲け」を取ることができる、SPA・SCMの機能を持つ企業が台頭しつつある。従
来のメーカーから商品を仕入れて売るというやり方は、もはや古くなった。これからのア
パレル業界では、このような古いやり方の企業は淘汰されていくであろう。それに併せて、
アパレル業界で、これまでは「どんぶり勘定」的になされていた商品管理を計数管理へと
移行させていかなくてはならない。多くの企業は未だ商品や顧客情報のコンピューター管
理はなされておらず、資金等の高いハードルはあるが、将来的に見ても思い切った経営革
新をするべきである。極端に言えば、アパレル専門店とコンビニエンスストア(木目細かい
物流システム機能とPOS管理機能)の融合が理想的な形態であると、私は考えている。
また、昨今の郊外型ショッピングモールの乱立により、消費者である人の流れを掴むと
いうことが、キーポイントになるであろう。「ただ人の流れがあるのでその場所に出店をし
た」というだけでは、爆発的なヒットはありえない。まず、市場調査を徹底し(市場細分化)、
顧客属性要因と顧客行動要因を明確にすべきである。そして出店後には顧客情報を徹底し
て管理していかなければならない。
どちらにしろ、CSを大きくさせるための努力というものには、ゴールがない。その消
費者のわがままを実現させていくことが、これからのアパレル企業の役割なのである。
<感想>
今回、このテーマを選んだ目的は私自身が卒業し社会に出てから、役立つと思ったため
にこのテーマを選んだ。私は、文中にも紹介したパルグループの雑貨部門(第四事業部)に
内定が決まっており、業界研究を兼ねて、内定先企業の事を調べ、多くの知識が得られた。
パルグループには、若い社員が提案したことを直接、社長に伝えることができる「拝啓社
長殿制度」という画期的な制度があり、今回の研究を踏まえた上で新たな斬新なアイデアを
模索して社長に提案していきたいと考えている。また、売上を伸ばす事だけに固執せずに、
これからのアパレル業界の中では何よりも顧客の事を第一に考えていこうと思う。
これから社会に出て仕事を通じて、様々な問題点が見つけられる様な力を身に付けてい
きたいと思う。
【参考文献】
・松尾武幸
編『最新版
図解
アパレル業界ハンドブック』東洋経済新報社
19
2004年3月
発行
・『繊研新聞』2003年7月29日
・『日本経済新聞』2004年11月16日
・『マーケティング・エッセンシャルズ』 東海大学出版部
・峰岸和弘
編『ファッション企業パルグループ成長の秘密』ダイヤモンド社
2002年 4月 発行
・株式会社パルホームページ
http://www.palgroup.co.jp/
・株式会社パル『パルサイクルの進化と事業戦略』2001年12月
http://www.palgroup.co.jp/pdf/pal_sicle.pdf
・社団法人
証券広報センター『会社情報』
http://www.skc-ir.jp/ir/2004/pal2/pal1.html
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