国際機関、世界、そして日本

JCAW
Japan Commerce Association of Washington, D.C., Inc.
ワシントンDC日本商工会会報
号外 〜 Vol.6〜
冊
別
報
会
世界銀行 東アジア太平洋局シニアエコノミスト
河内 祐典さんがお届けする連載シリーズ
「国際機関、世界、そして日本」
Vol. 1:世界銀行とは(P. 2)
Vol. 2:世銀の多様なミッション(P. 5)
Vol. 3:台頭する開発途上国(P. 9)
Vol. 4:現地から見た世銀、開発(P.13)
Vol. 5:重要なプレイヤーとしての日本(P. 18)
Vol. 6:日本人よ、世界を目指せ(P. 23)
(最終回)
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号外 〜Vol.6〜
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「国際機関、世界、そして日本 Vol.1 ~世界銀行とは~」
公務員といえば一般的に「国家公務員」と「地方公務員」を連想されると思いますが、もう一つ、
「国際公務員」というカテゴリーがあることをご存じの方も多いかと思います。有名どころの国連をは
じめとして、世界各地に点在する国際機関で働く職員のことを指します。地域紛争や金融危機、大
規模災害や核開発疑惑といったグローバルに対処すべき問題が生じた場合に、その解決に向け、
国家の枠を超えて中立的な立場で関与すべき担い手として一躍脚光を浴びることもありますが、そ
れはあくまで一面であり、それぞれの組織の目的に応じた地道な活動を日々着実に行っていると
いうのが国際機関の本来の姿です。そして、筆者が働く世界銀行や、お向かいにある国際通貨基
金(International Monetary Fund: IMF)、あるいは米州開発銀行(Inter-American Development
Bank)といった国際機関&国際公務員がひしめいているのがここワシントンDC。せっかくですの
で、この国際機関なる若干得体の知れない物体(?)について少しでも理解を深めていただければ
と思い、拙稿をお届けすることに致しました。
1.世界銀行とは?
筆者が勤務する世界銀行(世銀)は、ホワイトハ
ウスから西に2ブロックのところにあります。さて世
界銀行とはどんなところだと思いますか?といろ
んな方に聞くと、一般的には「『世界』の『銀行』、
つまり世界中におカネを貸す銀行でしょ?」といった感じ
の答えが返ってきます。もう少し詳しい方だと「開発途上
国向けの援助をやってるんですよね」といった感じでしょ
うか。たまに「世銀総裁って今までずっとアメリカ人なん
ですよね」といったマニアックな答えを下さる方もいらっ
しゃいます。更に「世銀って所詮は米政府の傀儡であっ
世界銀行本部。右奥は国際通貨基金(IMF)。
て、米政府の意のままに動く機関なんでしょ?」といった 姉妹機関と呼ばれています。
ことをおっしゃる方もたまにいますが、これはマニアが高
じて正確でない知識まで入り込んでしまった典型例かと思われます。
一般的に世界銀行(World Bank)として知られるこの国際機関ですが、実はこれはグループ名
で、正式には国際復興開発銀行(International Bank for Reconstruction and Development:
IBRD)といいます。その名の通りもともとの目的は「復興開発」、すなわち第二次世界大戦の荒廃
から世界を復興させるべく必要な資金供給その他の援助を行うことための機関として、戦後すぐの
1945年に発足しました。復興が必要だが資金が足りない国に対し、必要な資金を低利・長期の形
で融資するという意味で、まさに「世界の銀行」としてスタートしたのです。
日本の戦後復興も世銀抜きには語れません。1952年に世銀に加盟した日本は、世銀に「援助し
てもらう側」として資金を調達し、国内の主要インフラ等を整えていきました。東海道新幹線や東名
高速道路、黒四ダム等は世銀からの融資により建設されたものです。資金力が弱い国に対して低
利・長期で融資を行うというのが基本原則であると述べましたが、実際に日本が世銀からの融資を
完済したのは1990年。バブル経済真っ盛りで世界第2位の経済大国になった時点でもなお、日本
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は世銀に対し借金を抱えていたということは余り知られていません。
世銀のガバナンス構造は、株式会社に似ています。すなわち、世銀に加盟している各国が国力
に応じて一定額の出資を行い、それが資本金となっています。現在は186カ国が加盟しており、出
資者(株主)たる各国は当然世銀の経営に対して意見する権利を持ちます。各国の発言権は、意
思決定の場としての理事会における投票権という形で担保されますが、投票権は出資比率によっ
て異なります。すなわち、1国1票制度の国連とは異なり、大株主は世銀の意思決定に大きな影響
力を及ぼすことができるという仕組みです。現在の筆頭株主は米国(出資比率約16%)、続いて日
本(同約8%)という順になっています。これまでは更にドイツ、イギリス、フランスと続いていたので
すが、先般各国の出資比率の見直しが行われ、中国が一気にこれら欧州各国を抜き去り、米日に
続く第3の株主に躍り出ました。ちなみに、株式会社と違って、世銀の場合はいかに利益を上げよう
とも、それが配当として出資国に還元されるということはありません。また、株式会社における社債
同様、債券発行による資金調達も行っています(世銀債といいます)。
こうした体制の下、現在、世銀グループには約4,600人の専門職員が働いています。ワシントン
DCの本部に勤務するのはその半分強と言われており、東京を含む世界各地に存在する地域事務
所にも、かなりの数の職員が勤務しています。また、186カ国が加盟する組織だけあって職員の出
身国は様々で、現時点で167カ国の国籍の人間が勤務しています。専門職員のうち日本人は100
名前後です。出資比率が約8%なのに対し、職員比率は約2%ということになりますが、これをどう
捉えるべきかは追って述べていこうと思います。では世銀職員の大多数は欧米人なのかというと、
全くそんなことはありません。世銀の上級幹部の50%は女性、同じく上級幹部の45%は開発途上
国出身となっており、この意味では「多様化の進んだ組織」と言うことができましょうか。
2.世界銀行の現在のミッションは?
ここまでお読みになって、ちょっとした疑問を感じられ
る読者の方々もいらっしゃるかもしれません。すなわち、
「世銀のミッションは第二次大戦からの復興開発だと言
うが、戦後60年以上経ち、戦後復興などどの地域でもと
うの昔に終わっているではないか。現在の世銀は何をミ
ッションにしているのか?」と。
この点、世銀は世界の流れや世界から求められる役
割に応じて、そのミッションを少しずつ変化させてきまし
た。世銀本部の正面入口を入ると、壁にこう書いてあり
ます。“Our Dream is a World Free of Poverty”すなわ
世銀入口。加盟国の国旗とともに、“Our
ち、戦後復興が成し遂げられた後の世界においても、開 Dream is a World Free of Poverty”の文字が。
発途上国には依然として様々な形で深刻な貧困が存在
しているのであり、世銀は、開発途上国が貧困削減に向けて行う努力を支援すべく、そうした国々
の持続的経済成長や生活水準の向上のために、融資その他の援助を行っていくという新たなミッ
ションの下で活動を行っているのです。
このため、サービスの内容や組織も多様化しました。いわゆる世銀本体としての国際復興開発
銀行(IBRD)が開発途上国に低利融資業務を中心として行うのに加え、より低所得の国々に対し
て無利子融資を行う国際開発協会(International Development Agency: IDA)、開発途上国の民
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間部門への出資・融資を行うことによりそれらの国々の
民間セクターの開発を図る国際金融公社(International
Finance Corporation: IFC)、開発途上国への民間
直接投資に係る政治的リスク等に対し保険・保証を行
い、民間直接投資の促進を図る多国間投資保証機関
(Multilateral Investment Guarantee Agency: MIGA)
といった機関が1950年代から80年代にかけて相次いで
設立されました。そしてこれら多様なサービスを提供す
る集団全体を「世銀グループ」と称するようになったので
す。
何やらお堅いイメージもある世銀ですが、ファン
キーなグッズも売ってます。
3.世界銀行へのご案内
筆者は現在、東アジア太平洋地域局という部署でシニ
アエコノミストとして勤務しています。言うまでもなく、全
世界の中で特に力強い成長センターとして大きな役割を
果たし、人口の面でも大きなプレゼンスを誇る東アジア
太平洋地域を取り扱う部局です。個別に見ても、アジア
のみならずグローバル経済の鍵となるであろう中国、発
展著しい東南アジア諸国、最近急展開を見せているミャ
ンマーなど、エキサイティングなクライアントが数多くいま
す。日本は世銀がサービスを提供する相手としてのクラ
イアントではありませんが、戦後の荒廃から経済大国へ
と変貌を遂げた先達としての経験の共有、そして最近は
東日本大震災による経済的影響分析や災害リスクマネ
ジメント、といった面で日本に対する熱い視線が送られ
ています。また、本年10月には、実に48年ぶりに東京で
IMF世銀総会が開催されることになっており(前回の東
京開催は昭和39年、東京オリンピック開催や東海道新
幹線開通の年!)、各国代表団や国際機関関係者、プ
昨年秋の世銀IMF総会で世銀本部にかけ
レス等数万人が集う予定です。その意味で今年は世銀 られた垂れ幕。女の子が、“Poverty”と書か
れた怪獣を倒すべく闘っています。女性の
と日本との関係において特別な年と言えます。
ところで、「貧困削減」と言ってもその意味するところも empowermentが貧困削減のカギ、とのメッセ
ージです。図柄が何となく日本のアニメ的なテ
処方箋も極めて多様です。貧困をもたらす原因一つとっ イストですね。
てもいろんなことが考えられます。資金不足が原因でも
たらされている貧困なのか、政府の機能不全が原因か、箱モノインフラの不足によるものか、はた
また教育が原因か、エイズや疫病の蔓延が原因か、あるいは女性への学業・就労機会不足といっ
た問題か。
こうした状況の中、世銀にはどのような人たちが集い、どのような仕事をしているのか。クライアン
トは何を考え、世銀とどのように付き合おうとしているのか。出資者・株主としての各国は、自国の
国益を世銀の活動に反映すべく、日々いかなる努力をしているのか。国際機関への道しるべの第
一歩として、まずはそうした世銀の世界に皆さまをご案内したいと思います。(続く)
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「国際機関、世界、そして日本 Vol.2~世銀の多様なミッシ
ョン~」
前号では、筆者が勤務する世界銀行とは何ぞや、についてご紹介しました。今回は、現在の世銀
のミッション、すなわち世銀がどのような分野・課題を重視して進んでいるのかについて述べたいと
思います。また、前号で少し触れた次期総裁選びも決着しましたので、その概要や内外で見られた
議論等についても若干触れたいと思います。
1. 世銀のミッション:援助の先を見据える
前号で、世界銀行とは正式には国際復興開発銀行という
名称を持ち、第二次大戦後の荒廃した地(日本含む)の復
興を目的とした国際金融機関であると述べました。そして、
戦後60年以上が経った今、「戦後復興のためにお金を貸
す」という当初の世銀のミッションは既に達成されたのであ
り、その意味で世銀は現在は何をミッションとして業務を行
っているのか、ということが頻繁に議論になるという点につ
いても述べたところです。実際に、世銀を取り巻く内外の有
識者を中心に、「世銀は既にその役割を終えたのではない
か」「もう世界は世銀を必要とはしておらず、その存在意義
はないのではないか」という議論がなされることがよくありま
す。
4月下旬に開催された、世銀IMF春季会合
の様子①。こんな感じでキャッチフレーズや
トレードマークが飾られます。これはお隣り
のIMFのビル。
この点については、米Foreign Affairs誌本年3/4月号に、現世銀総
裁のロバート・ゼーリック氏が、「我々が依然として世銀を必要とする
理由(Why We Still Need the World Bank)」というタイトルで興味深
い論文を掲載しています。副題は、「援助の先を見据える(Looking
Beyond Aid)」。現在の世銀が何を目的として動き、複雑化する社会
の中で、時代の変化に対応する形でどのような課題に取り組んでい
るか、といった点がコンパクトにまとめられていますので、以下、その
中で用いられているいくつかのキーワードに沿ってご紹介していきま
しょう。
① クライアント第一主義(Working for Clients)
世界銀行は、その名の通り「銀行」すなわち金融機関です。伝統的 世銀IMF春季会合の様子②。世
な業務形態は、途上国の開発・貧困削減に必要な諸施策を考え、そ 銀ビルに掲げられた今回のテー
マは「ギャップを埋めよ(Close
の実施に必要な資金を融資するというものです。「処方箋を書き、必 the Gap)」でした。
要な薬を与える」お医者さんとしての世銀、患者としての途上国、とい
った例えで良く語られることもあります。それは時には、高飛車で傲慢な世銀、現地の実情も理解
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せずに札束で途上国の横っ面をはたく世銀、といったステレオタイプ
で批判されることもありました。ちなみにこうした批判はお隣りの姉妹
機関・IMFにもつきものであり、1990年代後半に発生したアジア通貨
危機の際には、まさに「処方箋を書き、投薬をした」IMFに対し、一部
アジア諸国の指導者は、強い調子で上記のような批判を浴びせまし
た。
こうした状況の中、世銀が自らを例える際の表現として「ナレッジバ
ンク(knowledge bank)」という用語が多用されるようになってきまし
た。要は、カネを貸すだけのBankではなく、知識も与えつつ、望まし
い解決策を途上国とともに考えるBankなのだということ。銀行のみな
らずコンサル業も行う機関宣言とでも言いましょうか。Foreign Affairs
誌のゼーリック論文でも、その点を「クライアント第一主義(Working
for Clients)」として表現しています。途上国の開発ニーズが多様化・
高度化している中で、それに対応し得る多様な専門家集団を揃え、
融資のみならず知識・ソリューションも提供するのが世銀の役割です
よ、というわけです。
世銀IMF春季会合の様子③。
貧困とその解決との間に横たわ
るギャップを埋めるべく、世銀等
が取り組んでいることが表現さ
れています。この展示物はダン
ボール製。節約を心がけてます
ね。
実際に、世銀で働く同僚たちはみな、「私の売りは○○です」という
看板を掲げて商売をしています。○○の部分には、マクロ経済や財政金融といったエコノミスト的な
ものから、ダム、気候変動、道路、医療、IT、ジェンダー、食料、教育、観光、果ては美術(!)に至
るまで、本当に様々なものが入ります。一人ひとりが独立自営の職人とでも言いましょうか。世銀に
勤めていた親しい友人から以前、「『開発経済学』を勉強して世銀に入ってくるという道もあるが、そ
れは本当はちょっと違う。自分がもともと持っている(本来開発と直接関係があるとは限らない)専
門性を如何に途上国の開発に生かすか、という問題意識で集まってきている人の集団が世銀なの
だ」と言われたことがあります。とても的を得た表現だと思います。
② 良い統治、腐敗防止(Promoting Good Governance and Preventing Corruption)
近年ますます重要となってきているテーマです。従来より
開発援助の世界においては、援助が効率的に行われなか
ったりなかなか貧困削減が進まなかったりする現状につい
て、援助の担い手の問題なのか、あるいは援助の受け手の
問題なのか、という議論があります。簡単に言えば前者は、
「援助の担い手(多くの場合は先進国)が十分な援助資金
を出していないから、なかなか効果が上がらないのだ」とい
う主張、後者は「援助の受け手(途上国)にしっかり援助資
金を活用する体制が出来ていないために、効果が上がらな
世銀カフェテリア(社員食堂)。アジア、イン
いのではないか」という主張とでも言いましょうか。もちろん ド、アフリカ、地中海、アメリカ等、地域ごと
どちらか一つだけが原因などという単純なことはないのです のカウンターから選べます。寿司コーナー
が、主に後者の関連するキーワードがこの「良い統治、腐敗 もあり。
防止」です。
私の最初の世銀勤務は2003年ですが、この時の総裁はジェームス・ウォルフェンソンという人で
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した。主に金融の世界で頭角を現し、1995年から10年間にわたり世銀を率いた、強烈なキャラクタ
ーの持ち主です。彼がよく言っていたのは、「先進国が出している開発援助額の合計は、彼らの軍
事費の合計に遠く及ばない。先進国が自国農業保護のために出している農業補助金も然りだ。先
進国はこの点考えるべきことがあるのではないか」ということでした。これはどちらかと言えば前者
の考え方に立っていますね。
次に着任した総裁はポール・ウォルフォウィッツという人です。元国防副長官、ネオコンといった
キーワードでご存じの方も多いのではないでしょうか。彼はどちらかと言うと後者、すなわち「良い
統治、腐敗防止」の観点を重視していたように思います。そして現総裁のロバート・ゼーリック氏も、
この分野を1つの大きな柱と捉えているのです。ただ資金を貸すだけでなく、その資金が有効に使
われるための手立てまでも考える、という意味で、通常の金融機関とは違う意味合いを帯びていま
す。
③ 援助を超えて(Beyond Aid)
ゼーリック氏のForeign Affairs誌論文はこの言葉で締めくくられていますが、ここに現在の世銀の
ミッションが集約されているのではないでしょうか。すなわち、援助を与える先進国・国際機関と援
助を受けそれに依存する第三世界、といった二項対立ではなく、途上国が民間主導の経済に移行
し、雇用も創出され、生産性も上がり世界市場にアクセスできる、すなわち「経済的に自立できる」
環境を整えるために共に歩むのが今の世銀のミッションである、と言えましょう。
有名なことわざに、「飢えた人に魚を与えれば、その人は1日生き延びられる。飢えた人に釣竿を
与えれば、その人は一生生き延びられる。」というものがあります。消費されるのみの「魚」を与える
のではなく、その国に最も適した「釣竿」を与え、そして「魚の釣り方」を一緒に考える、というのが今
の世銀の役割と言えば分かりやすいでしょうか。
2.次期世銀総裁決定
さて、もうすぐ退任するゼーリック総裁に代わり、新たな総裁が内定
しました。いつものことですが、事前の下馬評ではいろいろバラエティ
に富んだ名前が挙がりました。例えばヒラリー・クリントン国務長官や
ローレンス・サマーズ元財務長官、途上国支援に以前から注力して
いるU2のボーカルのボノ、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授
などなど。実際にサックス教授は、「世銀総裁になりたい。自分ならい
い仕事ができる!」とメディアを通じて熱烈にアピールしました。
最終的には、韓国系アメリカ人のジム・ヨン・キム氏(ダートマス大
学学長)、ナイジェリア人のンゴジ・オコンジョ・イウェアラ女史(ナイジ
ェリア財務大臣)、コロンビア人のホセ・アントニオ・オカンポ氏(コロン
ビア大学教授)の3名の候補者が正式にノミネートされました。そして
世銀理事会(世銀に出資する各国の代表で構成)で選定プロセスが
進み、4月16日に次期総裁としてジム・ヨン・キム氏が内定したのでし
た。
ジム・ヨン・キム次期世銀総
裁。Wikipediaより転載。筆者は
まだ直接お目にかかったことは
ありません。
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この人事、いろいろな意味で斬新さを帯びており、内外でいろいろな議論を呼びました。いくつか
例を挙げましょう。
① 若い。
キム氏は現在52歳。先ほど挙げました前総裁のウォルフェンソン、ウォルフォウィッツの両氏は着
任時に既に還暦をこえていました。現総裁のゼーリック氏は着任時に53歳でかなり若かったのです
が、それを更に上回る若さです。
② 政治やビジネスから遠い。
これまでの世銀総裁は、何らかの形で政治やビジネスの世界で活動したバックグラウンドを持つ
人がほとんどです。これまでの3人の総裁は言うに及ばず、ベトナム戦争時に国防長官だったロバ
ート・マクナマラという人もいました。しかしキム氏は公衆衛生の専門家。そして大学人。下馬評に
上がらなかったのもうなずけます。
③ アジア系アメリカ人である。
生まれてから5歳までソウルで育ち、その後渡米して米国籍を取得した人ということで、この部分
が最もセンセーショナルにメディアで取り上げられました。もっとも、これは余り本質的な点ではない
ですね。適材適所であれば何系の何人でも良いわけですから。むしろ、今後経済の面でも人口の
面でもますます比重が増すアジア、そうした来たるべき「アジアの時代」を象徴する人事と感じた人
も少なくないのではないでしょうか。
新総裁は7月に着任予定です。任期は5年。彼は新総裁に内定後すぐにステートメントを出し、世
銀入口に書かれている“Our Dream is a World Free of Poverty”のメッセージ(前号参照)を引用し
て、そのミッション達成のために全力を尽くすと述べました。今後の手腕に注目です。(続く)
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「国際機関、世界、そして日本 Vol.3~台頭する開発途上
国~」
前号では、激変する国際環境の中で世界銀行がいか
なる課題に取り組んでいるかについて述べるとともに、
新たに選出された次期総裁についても触れました。すな
わち、世銀は単なる金融機関ではなく、クライアント(=
途上国)と共に歩み解決策を見出していく機関となって
おり、そうした機関を今後5年間率いていく次期総裁とし
て、韓国系アメリカ人で公衆衛生の専門家であるジム・
ヨン・キム氏(米ダートマス大学学長)が選出された、と
の点について述べたところです。
こうした流れをご覧いただくと、読者の皆さまは、とても
世銀内では、連日いたるところで興味深いセミナ
重要なことに気づかれるかもしれません。すなわち、「世 ーやイベントを開催しています。これは中国・浙
銀あるいは他の国際機関では、先進国に比べて開発途 江大学学長の講演。世銀とは歴史的に関係の
上国の影響力が徐々に大きくなってきているのではない 深い大学だそうです。
か?」との点です。世界経済を語る重要な場が「G7」と
いう先進国限定の集まりから「G20」という途上国も交えた会議体に移行し、またBRICSといった新
興国の動向が極めて大きなインパクトを持つ昨今、世界銀行においても、先進国と途上国の相対
的な影響力に変化が生じてきているのは確かです。今号では、国際機関において徐々に発言力を
増し台頭する開発途上国の動向に焦点を当てたいと思います。
1.投票権シェア:中国が単独3位、インドが単独7位に
世銀のガバナンス構造は株式会社に似ており、各国が国力に応じて行う出資の比率が、そのま
ま世銀の経営に対する発言権=投票権の大きさとなる(1国1票制度の国連とは異なる)との点に
ついて、前々号で述べました。各国の国力というのは年を経るにつれて変わっていきますので、こ
の出資比率=投票権シェアの見直しは一定期間毎に行われます。直近では今から2年前、2010年
の4月に行われました。
2008年までは、出資比率の上位5カ国はアメリカ、日本、ドイツ、イギリス、フランスと全て先進国
が占めていました。ちなみにこの5カ国は、国際会議の枠組みでは「G5」と呼ばれていたことがあり
ます。そして6位にイタリア、カナダ、更にロシアも入り、いわゆる「G7/G8」と呼ばれる国々が勢ぞ
ろいします。そして中国、インド、サウジアラビアが途上国の先陣を切って同率6位につける、という
形でした。先進国全体と途上国全体の出資シェアはそれぞれ57.40%と42.60%となっており、先進
国の発言力が相対的に大きかったことが分かります。
2010年には、世界金融危機とそれに伴う経済不安に対処すべく、世銀においても大幅増資が決
定され、その増資分をどの国が負担するかが議論になりました。各国の経済力に応じて増資分を
振り向ければ、当然のことながら躍進著しい中国やインドをはじめとする途上国に多くが配分され
ることとなります。その結果、中国は一気にドイツ、イギリス、フランスを抜き去り、日米に次ぐ第三
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の大株主に躍り出ました。上位各国が軒並みシェアを減らす中、2.78%から4.42%へと大幅増で
す。また、インドも僅かながらシェアを増やし(2.78%から2.91%)、単独7位の株主となりました。先
進国全体と途上国全体の出資シェアの差もぐっと縮まり、それぞれ52.81%と47.19%となりました。
フィフティフィフティまでもう一息という感じでしょうか。
各国の投票権シェアの見直し
(2010年4月の世銀・IMF合同開発委員会で合意)
見直し前
(~2008年)
見直し後
(2010年~)
1位:米(16.36%)
2位:日(7.85%)
3位:独(4.48%)
4位:英、仏(4.30%)
6位:中、印、露、伊、
加、サウジ(2.78%)
1位:米(15.85%)
2位:日(6.84%)
3位:中(4.42%)
4位:独(4.00%)
5位:英、仏(3.75%)
7位:印(2.91%)
先進国:57.40%
途上国・新興国:42.60%
先進国:52.81%
途上国・新興国:47.19%
2.理事会:アフリカ代表理事枠が2つから3つへ
さて、この各国の投票権を実際に行使するのはワシントンDCに常駐する各国代表=理事です。
彼らが世銀の経営戦略について議論をする理事会は定例的に開催されています。186カ国が加盟
する世銀において、186名の理事を置くことは現実的ではないので、これをより少数に集約している
という点についても既に述べました。すなわち、各理事は原則として自国のみならず複数の国を代
表することとなりますが、どの国・地域の人が実際に理事をしているか、という点も、世銀の経営に
自国・地域の意見をより強く反映させるという意味で、各国の大きな関心事項となります。
私が世銀の日本理事室に勤務していたのは2003年から2006年までですが、この時の理事は24
名でした。具体的には、アメリカ、日本、ドイツ、イギリス、フランス、中国、ロシア、サウジアラビアか
ら各1名(これらの国は、自国のみを代表する理事を送ることが認められています)、欧州中央アジ
アから5名、カナダ・中南米から4名、アジア大洋州、中東北アフリカ、アフリカから各2名、南西アジ
アから1名となっていました。アフリカ大陸においては、英語圏アフリカとフランス語圏アフリカの国
々がそれぞれグループを作り、1名ずつ理事を輩出していたのですが、どちらの理事も20カ国を超
える国々を一人で代表することとなり、なかなか大変そうでした。
その後、「各国(特に途上国)の声をしっかりと世銀の経営に反映させるための改革(“Voice
Reform”と呼ばれます)の一環として、この理事会の構成の改革が行われました。その最も端的な
ものは、理事の数を1つ増やし、これをアフリカ地域に割り当てること。これにより、全加盟国の4分
の1以上を占めるアフリカ各国の声は、従来の「24分の2」から、「25分の3」の理事によって届けら
れることとなりました。ちなみに世銀の理事会構成や出資比率といったガバナンス構造は、お向か
いのIMF(国際通貨基金)と基本的に似通っているのですが、この理事会の改革により、世銀の理
事数は25名、IMFでは24名と非対称的なものとなりました。その意味でも、この改革はかなり大き
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なものであったのではないかと思います。
各国の経済力に応じた発言力の確保、また地域間のバランスに配慮したガバナンス構成といっ
た改革は、今後も間断なく続けられていくものと思います。上に掲げたのは現在の25名の理事がど
の国出身であるかの一覧表です。いろいろな特徴が見て取れるのではないかと思います。さて、今
後の改革はどのような方向で進められていくでしょうか。各国の熾烈な綱引きは続きます。
世銀の各理事の国籍(2012年5月現在)
<北米>
カナダ
アメリカ
<欧州>
スウェーデン
イタリア
フランス
<アジア大洋州>
スイス
日本
スペイン
インドネシア
ロシア
ニュージーランド
ドイツ
中国
オーストリア
イギリス
<南西アジア>
オランダ
インド
パキスタン
<中南米>
アルゼンチン
ブラジル
<中東>
サウジアラビア
クウェート
<アフリカ>
サオトメプリンシペ
南アフリカ
スーダン
3.アジアへの大きな関心
さて、途上国の台頭はこれまで述べてきた中国やインド、アフ
リカのみならず、中南米や中東その他各種地域で顕著に見られ
ます。その中で、日本との関係で死活的に重要であり、人口や経
済規模の面でも最大の「成長センター」と見なされているアジアに
対する世銀その他国際社会の視線はどのようなものなのでしょう
か。世銀にとって有数の顧客(資金の借り手)であり、またドナーと
しての発言力も急激に増しつつある中国はもちろんのこと、その
他いろいろなアジアの国が大きな関心を呼んでいるのが昨今の情
勢です。順に見ていきましょう。
まず中国。この国の経済が今後どうなって行くかは、アジア経済
ひいては世界経済、更に言えば国際社会の平和と安定という安全
保障面にも大きな影響を与えることは間違いなく、その意味で世
銀にとっても中国は言うまでもなく最大級の研究対象です。本年2 世銀内コーヒーショップ。吹き抜け
のとても気持ちいい場所にありま
月、世銀は中国当局(国務院開発研究センター)との共同研究の す。各種ミーティングやネットワー
成果として、「China 2030」という500ページにも迫る膨大なレポー キングのための極めて重要な場で
トを公表しました。2030年に中国はどのような姿になっているかを す。
展望し、その課題を示すというものです。筆者もその一端を担った
このプロジェクト、世銀と中国当局のリソースを最大限活用して作られ、北京での公表イベントは、
ゼーリック世銀総裁の出席も得つつ大々的に行われたのでした。
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レポートでは、中国は2030年までに「近代的な、調和化された、構造的な高所得社会」になり得る
とともに、世界最大の経済大国となっているであろうと述べています。そして、そのために必要な6
つの改革(市場経済への移行、技術革新、環境政策、社会保障の充実、財政制度強化、国際社会
との互恵関係の構築)を提唱しています。中国の潜在的経済力を最大限に認めた内容となってい
ますが、同時にゼーリック総裁はこのレポート公表イベントでのスピーチで、「現在の中国の成長モ
デルは持続可能ではない」と言い切って一部メディアの耳目を集めました。いずれにせよ、世銀や
国際社会が中国に帰趨にいかに熱い視線を送っているかを象徴するかのようなレポートであると
思います。
次に韓国。世銀の次期総裁として韓国系アメリカ人のキム氏が選出されたことは既に述べたとお
りです。彼は韓国系とはいえ「アメリカ人」なので、世銀の韓国人同僚の中には、「別に自国に関係
ある人間が総裁になったとはあまり思わない」と筆者に語る人もいます。しかし国際社会は必ずしも
そうは捉えないようです。先日、ワシントンのあるシンクタンクに国連の潘基文事務総長(元韓国外
相)が講演でやってきた際に、司会を務めた元米政府高官は以下のような紹介をしたのでした。
「国連事務総長の職を潘基文氏が務めていることに加え、このたび世界で最も影響力のある国
際金融機関(=世銀)のトップにも韓国系アメリカ人が選ばれた。これは、韓国が国際社会において
いかに重要な地位を占めているかを示すものである。」
実際に、国際社会でイニシアティブを取るべく韓国が行っている
取り組みは目覚ましいものがあります。信託基金を通じた世銀へ
の資金援助や世銀・韓国政府共同の各種プロジェクトが最近とみ
に目を引きます。更に、世界金融危機のパニックの余韻も覚めや
らぬ2010年にはソウルでG20首脳会合を開催、2011年には援助
効果に関するハイレベル会議を世銀と共催で大々的に開催等、と
ても戦略的にプレゼンスを向上させているなあというのが筆者の
感想です。
世銀や国際社会のアジアへの熱い目は他のエリアにも注がれ
ます。例えばASEANは2015年までに経済共同体を構築する(EU
のアジア版のようなもの)ことを首脳レベルで合意しており、世銀も
参画しつつその準備を進めています。経済的に統合されたアジア
地域が実現すれば、グローバル経済に多大な影響を与えることは 世銀には「アートの専門家」もいると
以前述べましたが、そうした人たち
必至でしょう。また、先般「アジア版IMF構想」との名で報じられた、 の仕事の一つがこれ。こうした絵が
アジア各国間の通貨相互融通制度も耳目を集めています。更に、 至るところに飾られており、その多く
民主化の進むミャンマーは人口6千万人を抱える巨大国ですが、 は世銀ミッションと関連します。これ
は南米コロンビアの若手画家の作
将来的に世銀を含む国際社会が一斉に各種開発援助(インフラ 品。タイトルは“slip”だそうです。そ
整備やキャパシティビルディングなど)に乗り出す可能性もありま の意味するところは何でしょうか。
す。世銀は先般、ミャンマー事務所を6月に開設することを明らか
にしました。世界の成長センター・アジアからは、世銀も各種国際機関も目が離せません。
4.では、日本の立ち位置は?
以上、国際社会とりわけ世銀の中でプレゼンスを増し、台頭する途上国について述べてきまし
た。ではそうした状況下、日本は世銀との間でいかなる関係を築き、どのような形で国益を実現して
いこうとしているのでしょうか。次号では、そうした点に焦点を当てられればと思います。(続く)
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「国際機関、世界、そして日本 Vol.4~現地から見た世銀、
開発~」
前号では、国際社会とりわけ世銀でプレゼンスを増し、台頭する途上国について述べました。前
号から今号までの間に、世銀では新しい事務年度に入り(世銀の事務年度は7月に始まり、翌年6
月で終わるというサイクルになっています)、そして5年間務めたゼーリック総裁が退任し、新たに
キム総裁が着任しました。初のアジア系アメリカ人の総裁ということで、着任初日、凄まじい数のカ
メラに囲まれて正面玄関から出勤したキム総裁は、早速全職員向けにメッセージを出しました。具
体的には、途上国の経済成長と雇用を守ることが喫緊の優先課題であるということを明確化した上
で、全てのレベルの職員から話を聞き、各職員が存分に力を発揮出来るようにするために総裁とし
て自分がすべきことは何なのか学んで行きたいという姿勢を打ち出しました。実際に、現在世銀内
部では、全職員を対象にした「キム新総裁とのランチ」なるものが企画され、また、「キム総裁への
質問箱」のようなものも設置されるなど、総裁の対話路線が実行に移されつつあります。
さて、キム新総裁は着任メッセージで、「世銀の最
大の強みは、ワシントン並びに各国オフィスに駐在す
る職員である」として、地域に密着したon-the-ground
experienceの重要性を強調しています。その通り、世界
各国のオフィスで勤務する世銀職員の数は、今やワシ
ントン本部で勤務する職員の数を上回り、また現地駐在
の幹部も増えてきて、重要な意思決定が現地レベルで
行われることが多くなっています。各国の現場から見る
開発課題は、ワシントンから見るそれとは大きく異なると
ころが多く、そうした視点から見る国際機関の姿を皆さ 世銀のキャッチフレーズとも言える”Our Dream
んに感じ取っていただくのも有益かと思います。というこ is World Free of Poverty”の語の前で、着任の
とで今回は、世銀の現地事務所に勤務した経験が残念 挨拶をするキム新総裁。(世銀ウェブサイトより
転載)
ながらない私に代わり、現地駐在の同僚に登場してい
ただき、その視点から語っていただきたいと思います。バングラデシュの首都・ダッカに勤務する熱
い同僚・池田洋一郎君の力作をまずはお読み下さい。
ダッカから40キロ程東に位置するノルシンディ県。喧
騒の首都を支配する慢性的な交通渋滞をようやく抜け
切り、整備された幹線道路に別れを告げて小道に入ると
青々とした田園風景が広がる。約3時間半のドライブの
末たどり着いた目的地の村、ジャイナガール・バザール
では、村人たちが集まって、議論をしながら何かを地面
に描いていた。青や赤色のパウダーで地面に引かれた
長い線。その脇に様々な形や色の紙片が並べられる。
オレンジ色の紙片は小店、ブルーはモスク、緑は学校と
熱心に議論を続けるノルシンディ県ジャイナガ
ール・バザールの村人たち。
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区別されているようだ。そして中心に引かれた赤色の線は、村の人々が日常生活や仕事で活用し
ている地方道。人々は、描いた道に沿って、モスクや診療所、学校、河などを並べ、地図のようなも
のを作っているように見える。一体何のために?
その答えは、その後に続く村人たちの議論で明らかになる。
「隣村の市場の方が町に近いので、安い品が多く手に入る。この道路が舗装されたおかげで、そ
こまでリキシャで買い物に行きやすくなった」
「確かにそうだけれど、このバザールとモスクの間は道幅がやけに狭いから、交通事故がしょっち
ゅう起こっている。この前も俺の弟が大怪我をした」
「ここに橋が架かっているって言うけれど、この前の雨季で壊れたまま修理が出来ていないわ。こ
のまま放っておくと、今年の雨季が始まったら子供たちが学校に通えなくなってしまう」 そう、人々は地面に描いた地図を元に、田舎道とその周辺について、利点や課題を議論してい
るのだ。議論に必要な色の付いた粉、ポストイットのような紙片等は、地元のNGO、Population
Services and Training Center(PSTC)の担当者が持ち込んだものだ。村人同士の議論をファシ
リテートするのも、PSTCの担当者。彼らは、議論が男性中心になりかかると、遠慮がちな女性たち
を輪の中に引き入れて、議論に女性や子供の意見が反映されるように工夫していく。村人たちの議
論をメモに取り、地面に描かれた地図を持ち込んだ模造紙に綺麗に書き直すのも彼らの仕事だ。
NGOの職員は、午後になると、村の家々を回り用意
した質問表を元にアンケート調査を実施する。訪問先は
先ほどの議論の対象と同じ田舎道を日々使っている主
婦、リキシャ引き、そして農家など。質問内容は、各々の
家族構成や収入等から始まり、家から道路までの距離、
道路の主な用途、道路整備の前後を比較して、学校・病
院・市場等への時間がどの程度短縮されたか、そして、
道路整備に当たって私有地を提供したか、その場合は
政府から所定の補償金を受け取っているか等がヒアリ
ングされ、その結果が調査票にまとめられていく。
村の家々にアンケート調査をして歩くNGO職員
こうした議論や調査の対象となっている田舎道。実
は、世界銀行の資金を用いて、バングラデシュ政府が実施している総額約2億5,500万ドルのプロ
ジェクト、Rural Transportation Improvement Projectで整備されたものだ。NGOの担当者がまと
める村人たちの声と情報はレポートとしてまとめられ、バングラデシュ政府のプロジェクト担当ユニ
ット、及び世界銀行のタスク・チームに届けられる。エンド・ユーザーから直接届けられた情報は、プ
ロジェクトの軌道修正や新たなプランニングに役立てられる。
一連の作業は、世銀バングラデシュ事務所にとって初めての試みであるThird Party Monitoring
(第三者評価)だ。世銀の資金を活用した政府のプロジェクトが所期の成果をあげる可能性を高
めるべく、エンド・ユーザーの視点と情報を、現地のNGOと協働しながら実情をつぶさに把握して
いくこの作業。地面に描いた地図を元にまとまった人数での議論を通じて利点や課題を洗い出す
Social Mappingや、そうした場への参加が時間的あるいは立場的に難しい人々の声を個別に拾い
上げるCitizen Report Card等、様々なツールを用いて実施される第三者評価。ポイントは、得られ
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る情報がサービスの提供側ではなく受け手の視点であること、情報を収集し編集する主体が世銀
でも政府でも無い、独立した第三者たるNGOであること、現在進行中のプロジェクトに対して実施
されること、そして、一連のプロセスがサービスの受け手である住民、実施主体である政府と世銀、
及びその間をつなぐNGOにとって、プロジェクトの効果を向上させていくための学びの機会となる
点だ。
通常、世界銀行の職員は、四半期に一回程度のベースで政府側のカウンターパートと共に担当プ
ロジェクトの現場を訪問し、プロジェクトの進捗状況や課題を議論する。こうしたモニタリングを通じ
て合意された改善点を覚書として政府と共有するとともに、内部報告用にImplementation Status
Reportとしてまとめる。プロジェクト終了後は、担当チームがImplementation Completion and
Results Reportをまとめるとともに、世銀の評価専門部隊であるIndependent Evaluation Group
が独自の視点で事後評価を実施し公表する。このように、プロジェクトが予定通り進捗しているか、
汚職等の問題は発生していないか、初期の成果は上がっているかどうかを確認し、必要に応じて
是正する体制はあるものの、これだけでは把握しきれない情報は数多くある。
例えば、世銀のタスク・チームが政府の担当者とプロ
ジェクトの現場を見て回る場合、往々にしてその現場
は、いつもと違う状況にしつらえられている。何週間も前
から訪問が現地に伝えられ、政府の現地オフィスも、プ
ロジェクトの受益者も、「大掃除」をした上で「お客様」を
迎えることになる。これでは実態を正確に把握するのは
難しい。また、滞在時間も限られているため、広いプロジ
ェクトの現場を全て回ることも出来ない。さらに、自分が
担当しているプロジェクトであるが故に、良い報告をした
いというバイアスが政府側にも、世銀側にもある程度生
じてしまうことも否めない。
バングラデシュの狭い田舎道をいく小さなティン
プ(乗り合いバス)はいつも乗客でいっぱいだ。
こうした問題点をカバーし、世銀の成果重視の姿勢をNGOと連携しながら強化するのが第三者評
価だ。本年2月8日にダッカ市内のホテルで開催された第三者評価のキック・オフ・イベントでは、世
銀バングラデシュ・オフィスの責任者であるCountry Director、第三者評価を実施するNGOの取り
まとめ役である「Manushure Jonnno Foundation」の専務理事、そして政府側の代表として地方行
政担当大臣等が一同に会し、約200名の聴衆と主要メディアが集まる前で、それぞれの言葉で第
三者評価の意義を語るとともに、NGO-政府-世銀が確固とした協働体制をもってこの新たな試
みを実施していくことを確認した。一般的に、政府にとっては、市民社会がプロジェクトにトヤカク口
を出すのは、気乗りのする話ではない、と言うのが本音だろう。しかし、キック・オフ・イベントに参加
した大臣はその意義を以下のようにクリアに語っていた。
"This initiative provides an opportunity to further utilize the knowledge of local communities to
improve access to and quality of service delivery. Citizens will have a greater voice in ensuring
the best use of public resources and will hold local governments accountable for results.”
(このイニシアティブは、社会サービスの質とアクセスの向上に向け、地域のコミュニティが持つ知
識をより一層活用する機会を提供するものだ。公共のリソースの有効活用と地方政府の「結果」に
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対する説明責任を確保するために、市民はこれまで以上に大きなVOICEを持つことになる。)
第三者評価を意義あるものとするには、当然のことながら、草の根のエンド・ユーザーの声と
NGOの能力によって把握された「不都合な真実」も含む様々な事実や学びを、世銀及び政府側が
受け止め、プロジェクトの成果向上のためにしっかりと活かしていく必要がある。また、NGOが第三
者評価を実施するための様々なツールをうまく使いこなすための能力強化も欠かせない。その意
味で、開発プロジェクトの成果を高めるための第三者評価が機能するためには、トップダウンのコミ
ットメントとボトムアップの地道な取組みの双方が必要だ。
現在、世銀は全社体制でこうした取組みを後押しするべく、Global Partnership for Enhanced
Social Accountability(GPESA:社会的説明責任強化に向けたグローバル・パートナーシップ)とい
うイニシアティブを開始している。GPESAは、第三者評価を実施するNGOに対して、世銀が他の開
発金融機関やドナーと連携して作り上げる資金・知識のプールから、評価実施に必要な資金と能
力強化のためのトレーニングを提供するものだ。このイニシアティブが始まった背景には「受益者な
どのステークホルダーが公共サービス提供や資源管理の設計、監督、評価に関与することで、開
発成果向上が可能になる」との問題意識がある。
世銀に豊富な資金や専門知識があるといっても、開発
プロジェクトの成果向上という名の困難な戦いに、世銀
独りの力で勝利することは出来ない。そもそも、世銀は
自ら開発プロジェクトを実施する存在ではなく、各国政
府がプロジェクトを実施するに当たって、資金面、知識
面でバックアップをする存在だ。エンド・ユーザーである
途上国の人々と、資金の出し手である先進国の納税者
双方に、自らが関わる開発プロジェクトの成果について
確かな説明責任を果たしていくには、グローバル・ナレッ
ヂとローカル・ナレッヂを融合させる仕組みと、クライア
世銀バングラデシュ事務所の概観。職員数は
ントたる途上国政府、NGO、他の開発機関、そして市民 150名に上る。
といったマルチステークホルダーとの連携が必要ではな
いか。こんな問題意識を胸に、自分は来週もまた凸凹の田舎道に揺られながら、NGOの職員そし
て政府のカウンターパートと共にバングラデシュの村々を巡るのだ。
いかがでしょうか。バングラデシュからのレポートは、現地の熱い息吹きや、ワシントンDCからは
見えにくい開発課題等を、極めてビビッドに皆さんに伝えてくれたのではないでしょうか。(ちなみ
に池田君は、現地からとても熱いブログを発信されています。ご関心の方はご参照下さい。http://
ikeikeyouichirou.blog.fc2.com/)
5月号の拙稿でも述べました「クライアント第一主義」にも関連しますが、世銀その他ドナーの資金
で組成される各種プロジェクトは、その立案・実施・事後評価等あらゆる段階において、クライアント
としての途上国政府はもちろん、受益者たる住民の積極的な参加を得て実施されていくというのが
通例になっています。当該プロジェクトが現地住民の真のニーズを汲み取っているかといった問題
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意識を踏まえれば、こうした住民参加はある意味自然なことです。また、当該プロジェクトが現地住
民の生活に与えるインパクトや、環境への影響といった点を正確に把握するためにも、そうした草
の根的な参加は欠かせません。そして、そうしたきめ細かなコミュニケーションを取っていく主体とし
て、現地に広く深くネットワークを築いているNGOの協力は今や必須となっています。
こうした観点から、世銀の現地事務所が現地政府や地域住民等のプレイヤーと日常ベースで信
頼関係を醸成していくことは極めて重要となります。世銀が以前から「現地化(decentralization)」
を進め、重要な意思決定もある程度まで現地に移譲するといった組織改革を進めてきている大き
な理由の一つもここにあります。IT技術がどれほど発達し、テレビ会議や電子メール、在宅勤務等
のシステムが充実してきても、最後の決め手はやはり「同じ空気を共有すること」という究極のアナ
ログ戦術ということでしょうか。
また、地域住民の生活に大きなインパクトを持ち、多
大なカネや労力を投じて行う各種プロジェクトは、適正
かつ効率的に運営されていくことは致命的に重要であり
ます。例えば、プロジェクト実施のカネの適正管理を大き
く損ない得る「汚職」の問題は開発援助コミュニティにお
いて長年の頭痛のタネの一つになっており、プロジェクト
実施に際しての適正性・透明性をしっかり確保すること
は不可欠です。その際に、このバングラデシュからのレ
ポートに登場するような第三者機関は極めて重要な役
割を果たします。
世銀本部内の書店。ベストセラー本のコーナー
です。世銀やその職員たちの問題意識が垣間
見えるようなテーマの本が並んでいます。
また、第三者による評価をグローバルに広め定着させ
ていくには、各途上国政府の理解・協力を得るとともに、
第三者たるNGOの能力を強化するための取り組みが必要となります。これは各国や機関がバラバ
ラに実施するのではなく、共通のプラットフォームを設定して実施することが効果的です。その際、
世銀がその強みの一つとして定義している「この指止まれ力(convening power)」を発揮して、各
機関のリソースを動員することが極めて有意義であり、このレポートで紹介されているGPESAのよ
うなグローバル・パートナーシップの組成と展開はそのパワー発揮の典型例と言えます。
世銀等国際機関の仕事は、案件を組成し、途上国側におカネを移転させれば終わり、といった単
純なものでは全くありません。その案件が成功裏に終わるよう、そして当該案件が終了した後もそ
の教訓が次に生かせるよう、ワシントンベース、現地ベースできめ細かい二人三脚が続きます。
以上、今回は若干視点を変えて、「開発援助資金の受け手」の視点も交え、同僚のご協力も得て
記述してみました。次号では、「開発援助資金の出し手」としての日本に焦点を当て、その国益の発
現のためにいかなる取り組みがなされているかについて、述べていければと思っています。(続く)
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「国際機関、世界、そして日本 Vol.5~重要なプレイヤーと
しての日本~」
前号では若干趣向を変え、世銀のバングラデシュ事務所で奮闘する同僚・池田洋一郎君のレポ
ートを中心に、資金の受け手(クライアント国)から見た世銀ビジネスや開発問題について述べまし
た。ワシントンDCからは見えにくい諸々の課題や、世銀とクライアント国の緊密な二人三脚関係を
感じていただけたのではないかと思います。
今回は、資金の出し手(ドナー国)と世銀との関係について述べていこうと思います。ドナーと一
口に言っても、最大出資国かつ歴代総裁を輩出している米国、理事会に多数の議席を持ち、これ
また大きなプレゼンスを誇る欧州、ドナーとしての存在感を急激に増してきている中国や韓国など、
いろいろなキャラクターがあり、そのうちの一部についてはこれまでの連載で若干言及してきました
が、今回はやはり日本商工会報への寄稿でもありますし、何より筆者の母国である日本に焦点を
当て、その世銀との関係を取り上げていこうと思います。
1.2012年は日・世銀関係にとって特別な年?
日本や米国といった先進国は、世銀から融資を受けるこ
とももはやありませんし(そんな日本も終戦後しばらくは世
銀融資に大いにお世話になったことは以前述べました)、世
銀がこうした先進国の「国づくり」のために二人三脚で歩む
という構図もありません。先進国は、世銀ビジネスを支える
資金の主要な供給元、そして世銀ビジネスの方向性を決め
る際に大きな影響力を持つステークホルダーとして意識さ
れるのが主です。筆者は以前、世銀の意思決定機関である
理事会に日常的に出席するポジションに勤務していたこと
がありますが、理事会において日本や米国、西欧諸国とい
った先進国がアジェンダに上ることは当然のことながらほぼ
皆無ですし、現在勤務している東アジア太平洋局において
も、日本やシンガポールといった先進国の経済・社会状況
が俎上に上るということは基本的にはありません。ここが、
世界全体のマクロ経済動向に目を配り、先進国・途上国問
わずミッションを派遣して経済分析や政策対話を行うIMF
(国際通貨基金)との最大の違いと言えます。
(写真上)2012年東京総会のロゴ。折り紙
のイメージで日本らしさを前面に出していま
す。
しかしながら、今年2012年は、世銀と日本が従来にも増して緊密に協働し、世銀内でも日本とい
う国が大きく意識されるという特別な年になっています。その最大の要因は、今年10月に東京で
IMF世銀年次総会が開催されることです。
「日本で年次総会を行うというのは、そんなに特別なことなの?」とお思いの向きもあるかもしれま
せん。世銀・IMFの年次総会は年1回、秋に行われますが、原則としてワシントンDCで開催され、3
年に1度だけワシントンDC以外の地で行われます。ここに掲げました開催都市一覧をご覧いただく
と分かる通り、先進国と途上国での開催が半々といった感じでしょうか。独立後約10年を経たイン
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ドでの開催(1958年)、経済成長著しく、オリンピック開催も控えた韓国での開催(1988年)、壁崩壊
前夜のベルリンでの開催(1988年)、中国への返還直後の香港での開催(1997年)等、総会開催を
取り巻く経済・社会状況が垣間見えて興味深いところです。
ワシントンDC以外の世銀・IMF総会開催都市
1947年:ロンドン
50年:パリ
52年:メキシコシティ
55年:イスタンブール
58年:ニューデリー
61年:ウィーン
64年:東京
67年:リオデジャネイロ
70年:コペンハーゲン
73年:ナイロビ
76年:マニラ
79年:ベオグラード
1982年:トロント
85年:ソウル
88年:ベルリン
91年:バンコク
94年:マドリード
97年:香港
2000年:プラハ
03年:ドバイ
06年:シンガポール
09年:イスタンブール
12年:東京
日本は、これら開催国の中では珍しい2度目の総会ホストということになります。前回の東京総会
は1964年ですから実に48年ぶり。この1964年(昭和39年)という年は、東京オリンピックが開催さ
れ、まさに世銀の融資によって敷設された東海道新幹線も開通するなど、日本が敗戦後の荒廃か
ら復興し、高度経済成長を成し遂げ、再び国際社会における強力なプレイヤーとして登場してくる
時期でした。言わば、「戦争の災禍から完全に復興した日本を世界に見せる」という位置づけであっ
たと言えましょう。
今年開催される東京総会も、似たような趣旨を併せ持
っています。すなわち、「大震災の災禍から復興しつつ
ある日本を世界に見せる」。昨年の東日本大震災を契
機として、世銀は日本にいろんな観点から熱い目を注い
できました。大震災が日本経済や世界経済に与える影
響の分析が盛んに行われ(筆者は一時期これに忙殺さ
れました)、また、災害への対処・災害リスクの軽減の観
点から東日本大震災の教訓に学ぼうという趣旨で、世
銀と日本との間で2年間かけて進めていくこととされた (写真上)1964年東京総会の模様。映りがあまり良く
共同プロジェクトも立ち上げられました。この共同プロジ ないですが、国威をかけた一大イベントだったことが
分かります。世銀パンフレットより転載。
ェクトの現時点での成果は、今回の総会の主要行事の
一つとして仙台で開催される“Sendai Dialogue”というイベントでお披露目されることになっていま
す。
総会には、200カ国に届かんとする全加盟国からの代表団、各国際機関の幹部や職員、各国マ
スコミ、NGO等、数万人規模の参加者が大集結します。そしてメイン・サブ合わせて数え切れない
くらいのイベントが開催され、各国から集結した参加者が世界経済や開発援助その他さまざまな課
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題を議論します。筆者は2003年のドバイ総会に日本代表団の一員として参加しましたが、この総
会を行うために「街」が一つ建設されたという趣で、その頃から驚異的な発展を始めたドバイの勢い
をまざまざと見せつけられた感がありました。ホスト国としても自国を世界的にアピールする絶好の
機会ですので、その力の入れようは並みではありません。今回の日本の場合は、もちろんドバイと
違って総会のために街並みや建物を新たに造るといったことはありませんが、日本の魅力(“Cool
Japan”)をアピールすべく諸々の工夫を凝らしているようです。総会の時期(10月9~14日)に日本
においでになる機会のある方は、ぜひこの一大イベントの息吹を感じていただければと思います。
ちなみに、今年は日本が世銀に加盟してからちょうど60周年という節目の年でもあります。1952
年に世銀に加盟した日本は、主にインフラ整備に必要な資金を調達すべく、世銀融資を活用し、計
31案件の貸出を受けました。下記をご覧いただければお分かりの通り、商工会会員企業ゆかりの
案件も数多く見られます。世銀から受けたこれら融資の返済期間は超長期であるのが通例であり、
日本が最後の世銀への返済を終えたのは、バブル経済の栄華も終わろうとしている1990年(平成
2年)のことでした。
日本への世銀の貸出一覧
2.信託基金:特定の目的のための資金
世銀内でドナー国を意識させるもう一つのツールに「信託基金(Trust Fund)」というものがありま
す。世銀の財務基盤は各国からの「出資金」であり、日本はその面で第二位の株主国である(そし
て中国その他新興国の猛追を受けている)というお話はこれまでの連載で述べました。こうした出
資金は世銀の通常業務の元手となり、それを拠出した国が個別の使い道に口を出せるわけではあ
りません。そもそも各国からの出資金は一堂に集められると無色透明の資金プールになってしまい
ます。
しかし、各国においては、「我が国は世銀に特に○○の分野で重点的に仕事をして欲しいと思っ
ている。その分野に取り組むための資金であれば負担してもよい」というニーズが多くあります。こ
うしたニーズを満たすために、出資金=一般予算という枠組みとは別に、信託基金を世銀に創設
し、資金を拠出するということが出来ます。いわば、お金を無色透明にすることなく、「△△国から拠
出されたお金」を別勘定でプールし、「△△国として重点的に取り組んでほしい分野」にそのお金を
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使うというシステムです。日本も世銀内に大きな信託基金をいくつか設定しており、日本として重視
する分野への世銀による取り組みを後押ししています。以下、代表的なものを2つ紹介していきまし
ょう。
①日本開発政策・人材育成基金(Japan Policy and Human Resources Development
Fund(PHRD))
途上国への資金協力の効果を高めるためには、資金を受け入れて実際に使う途上国側におい
て、十分な知識・経験・能力が備わっていることが不可欠です。こうした考え方に基づき、途上国に
おける人材育成や適切な政策の立案・実施等に資するべく、1990年に日本開発政策・人材育成基
金(PHRD)が設立されました。具体的な支援内容としては、奨学金制度といった教育面での貢献、
途上国政府や地方自治体の能力を向上させる(キャパシティビルディング)ための途上国自身の取
り組みに対する支援、農業や医療、交通、エネルギーといった各種重要プロジェクトを成功裡に組
成するための準備段階での技術協力、更には日本と世銀のパートナーシップを強化するための各
種リサーチ・プログラムやセミナーの実施等があり、極めて多岐にわたります。
PHRDは、世銀が管理・運営する信託基金の中でも有数の規模を誇ります。設立から2010年度
までの拠出額は計25億ドル。2010年の単年度で見ても、6,830万ドルのPHRDプログラムが実行
されています。世銀の単年度の一般予算が18億ドル強(2013年度)であることに鑑みれば、単独
国で行っている資金協力としては相当の規模であることを感じ取っていただけるのではないかと思
います。
日本は伝統的に、「教育は国家百年の計」、「国づくりとはすなわち人づくり」という考え方を持って
いると言えます。その意味で、途上国において開発の専門家や将来的に国を担って立つ人材を育
成し、また貧困削減のためのプロジェクトや行政実務を担っていく人たちの能力を向上させていくと
いう取り組みのために資金を拠出する、というのは、極めて「日本らしい」貢献の仕方と言えるので
はないでしょうか。
②日本社会開発基金(Japan Social Development Fund(JSDF))
日本社会開発基金(JSDF)は、開発援助の手がなかなか届きにくい、しかし他方でそうした支援
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を最も必要としていると言っても過言ではない、最も貧しく弱い立場の人々を重点対象とした信託
基金です。もともとは1990年代後半の東アジア金融危機でダメージを受けた人々の救済を目的と
して2000年に設立されましたが、その後信託基金の目的は拡大され、2012年度までに5億7千万ド
ルを超える資金が拠出されています。
この信託基金は、伝統的な援助の枠にとらわれない新機軸をいろいろ持っているところが特徴的
です。例えば、最も貧しく弱い立場の人々のニーズを直接・迅速に満たせる「革新的(innovative)」
な活動内容であるかといった点が選考基準に入っています。「革新的」とはすなわち、従来の開発
援助プロセスでは採択されにくい案件である、すなわちまだ世銀を含む諸機関で試みられたことの
ない活動であると言えましょうか。女子、少数民族、障害児、エイズ感染児童に配慮した、コミュニ
ティ参加型教育プログラム(カンボジア)、外国人女性出稼ぎ労働者とその家族の能力構築(インド
ネシア)等が例として挙げられます。
JSDFは、こうしたコミュニティ密着の社会開発
支援のために、無償資金供与を行っています。ち
なみにこうした弱い立場の人たちのニーズをきめ
細かく把握するためには、世銀や各国政府、大使
館といった既存の組織ではどうしても限界がある
ことから、この信託基金のプロジェクト実施におい
ては、現地での草の根的な活動に大きなアドバン
テージを持つ非政府組織(NGO)やシビル・ソサ
エティ組織(CSO)の関与が必須となっており、こ
の点も新機軸の一つであると言えます。
こうした信託基金を使った支援においては、支
援対象の選定やその内容の策定、進捗状況の管
理や事後的な評価といった個々の過程において、
世銀と日本との間で極めて緊密なコミュニケーシ (上グラフ)2001~2009年度までのJSDF(通常プロ
グラム)の地域別配分。やはり日本の近隣である東ア
ョンが取られます。その意味で、こうした信託基金 ジア・太平洋地域への配分が大きくなっています。(出
は資金受け入れ国(途上国)におけるメリットのみ 典:日本社会開発基金パンフレット)
ならず、世銀と資金拠出国(主に先進国)との間
のパートナーシップ向上といったメリットをもたらすという側面があると言えましょう。
3.人的貢献:各国がせめぎ合う重要分野
いかなる組織でも同じかと思いますが、世銀においても幹部が折に触れて「世銀の最大のアセッ
トは『人』である」という表現をして職員を鼓舞します。そしてこの表現は、世銀に加盟する各国にお
いてもある意味真理であります。以前にも少し触れましたが、加盟各国においては、自国出身の「
人」を出来るだけ多く世銀に送り込み世銀業務に貢献してもらうことは、世銀とのパートナーシップ
の向上ひいては自国の国益発現に資する、という考え方が伝統的に共有されています。日本もも
ちろん例外ではありません。
次号では、人的資源の供給源としての日本や各国について述べつつ、世銀や国際機関で働くこ
とに関心をお持ちの方々に何らかの扉を開くことの出来る形で、この連載を締めくくれればと思って
います。(続く)
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「国際機関、世界、そして日本 Vol.6(最終回)
~日本人よ、世界を目指せ~」
前号では、先進国と世銀との関係について、特に日
本に焦点を当てて述べました。世銀による資金支援・技
術支援の対象とはなり得ない先進国である日本は、世
銀との間でいかなる関係を構築しているのか、特に今
年、2012年が世銀と日本との関係においてどのように
特別なものであるか、といった点につき、資金(信託基
金)や会議(IMF世銀東京総会)の観点から説明してま
いりました。日本と世銀が従来にも増して緊密な関係に
あり、世銀が業務を行うに際しての日本のプレゼンスは
決して小さくないことについてご理解いただけたのでは DCの街角にお目見えし始めたIMF世銀東京総
ないかと思います。ちなみに本号が発行される頃は、ち 会のPR看板。左側は富士山のイメージでしょう
か。
ょうどIMF世銀東京総会が真っ盛りでしょう。
さて、4月号から続けてまいりました本連載も今回で最
終回となります。本稿では、世銀と日本(その他メンバー国)をつなぐもう一つの大きな架け橋であ
る「人材」に焦点を当てたいと思います。そして、「自分もそうした国際機関の『人材』になりたい!」
とお思いになる読者の方にエールを送れるような形で、連載を締めくくりたいと思います。
1. 夏の世銀幹部人事:途上国健闘、そして日本も
今年7月のキム新総裁の就任に引き続き、夏の間に世銀
幹部の人事異動が比較的大幅に行われました。前にも述
べましたとおり、国際機関の幹部に自国民を送り込むことは
国益にかなう、という考えの下、各国がしのぎを削るのがこ
の世界であります。今回の人事は、プレゼンスを増す新興
国の健闘が如実に表れる形となると同時に、日本の健闘も
光ったのでした。以下、具体的にいくつかご紹介していきま
しょう。
① チーフエコノミスト:Kaushik Basu氏(インド)。世銀
全体のエコノミスト集団を束ねる上級副総裁ポスト。
いわば経済面での司令塔です。従来、先進国の名だ
たる経済学者が就任することが多かったのですが、
前任者が中国人の経済学者(アジア人として初)であ
ったことに引き続き、途上国出身者の就任となりまし
た。インド政府や米大学での勤務経験を持ちます。
② 国 際 金 融 公 社 ( I n t e r n a t i o n a l F i n a n c e
Corporation=IFC)のトップ(CEO):Jin-Young Cai
世銀本部最上階。ここはがらんとした大き
なレセプションホールだったのですが、キム
新総裁着任後、このようにオープンなオフ
ィススペースとする改装工事が進められて
います。さてどのように使われるのでしょう
か?
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氏(中国)。IFCとは世銀グループの一つであり、
開発途上国の民間部門への出資・融資を行うこと
により、それらの国々の民間セクターの開発を図
る機関です(4月号 拙稿参照)。世銀グループの
収益のかなりの部分をたたき出すこの重要な機関
のトップに、アジア人として初の就任となりました。
別表に示すとおり、この機関のトップは創設以来
欧米出身者が占め、唯一の例外は30年以上前、
パキスタン出身のQureshi氏でした(但しこの人は
後にパキスタン首相をつとめるなど、ある意味「別格」と言えましょう)。ちなみに今回就任し
たCai氏、若かりしころを世銀で過ごし、その後ゴールドマンサックス等金融ビジネスの世界
でキャリアを積んだという経歴を持ちます。いずれにせよ、中国のパワーを感じさせる人事と
言えるのではないでしょうか。
③ 地球環境ファシリティ(Global Environment Facility=GEF)のトップ(CEO):石井菜穂子氏
(日本)。GEFは世銀の地球環境問題への取り組みを支える重要な機関で、1991年に設立
されました。世銀その他の国際機関と強固なパートナーシップを組み、今や地球環境を改善
するプロジェクトに対する最大の公的資金を供与する機関(独立基金)となっています。その
トップに、日本人として初めて石井菜穂子氏が就任しました。このポストを巡っては、先進国・
途上国ともに閣僚経験者を含む名だたる候補者を擁立し、GEF加盟182か国によって任命さ
れた32名の代表で構成される「評議会」が数ヶ月にわたって選考を進め、候補者を3人に絞
り込んだ上で、更に選考を進めて最終的に全会一致で選出するという、極めて熾烈なプロセ
スが採られました。石井氏は財務省出身、世銀やIMFでの豊富な経験を持ちます。
国際機関とは、貧困削減や世界経済の安定、地球環境問題といったグローバルな公共益を追
及するための組織ですので、個々の幹部職員の国籍とその業務とは原則として関連しないのです
が、やはりこの「国籍」イシューは内外の大きな関心を呼ぶことは事実です。日本政府も、石井氏の
選出に際し談話を発表しています。世銀グループにおいては、発足当初の幹部ポストは「欧米の独
占・寡占市場」と言っても過言ではない状態でしたが、徐々に途上国の進出が目立ってきているこ
の状況は、今後も続くのではないでしょうか。
2. 日本から国際機関への人材供給
国際機関を支えるのは一握りの幹部ではありません。
専門知識を駆使しつつ日常業務を支える一般職員が
国際機関の組織の太宗を占めており、こうしたマンパ
ワーを増強することについても、各国は大きな関心を
有しています。実際に様々なルートを通じて、各国は自
国民の採用強化を国際機関に対して働きかけており、
日本ももちろん例外ではありません。その甲斐あって
か、世銀やアジア開発銀行といった国際開発金融機関
(Multilateral Development Banks=MDBs)で働く日本
財務省MDBsパンフレット(2010年)より転載
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人専門職員の数は、グラフに示したとおり、この所増加傾向にあります。しかし、各機関に対して日
本が行っている資金的貢献のウェイトに比べると、200人台という数は決して十分な水準とは言え
ず、まだまだ伸びしろがあるものと思われます。
ちなみに国際機関は若い人にのみ門戸を開いているわけではありません。日本の伝統的企業に
見られるような「新卒を一括採用して4月に一斉に入社」という形式ではなく、専門的なスキルを持
ったベテランにも大いに門戸を開いています。世銀の採用形態のいくつかをご紹介しましょう。
① 中途採用:通常「ミッドキャリア(Mid-career)採用」と呼ばれます。一定の職務経験を既に持
ち、その経験を世銀で活かしたい人と、世銀側で求めるスキルが合致した場合に採用されま
す。最近は、特に日本からこのミッドキャリアで採用できそうな人を発掘する動きが盛んにな
っています。
② 新卒「的」採用:世銀の場合は「ヤング・プロフェッショナル(YoungProfessional=YP)と呼び
ます。いわゆる日本の新卒採用に一番近い形と言えましょう。大学院博士課程を終えつつあ
る、あるいは大学院修士・博士課程を終えて数年の実務経験を持つ、といった比較的若い人
を採用するプログラムです。原則として毎年1回募集され、全世界から殺到する応募者を長
期間かけて選考し、最終的に数十人の採用となります。狭き門ですが、比較的長期雇用を前
提としている面もあります。
③ コンサルタント採用:国際機関の多くは、正規の職員とは別に、1~2年といった短期の契約
でコンサルタントを雇用しています。若手からベテランまで様々ですが、コンサルタントとして
経験や人脈を蓄積し、正規職員への登用を目指すという人も多く見られます。
④ 日本人向け採用:世銀と日本政府の連携により、日本人の若手職員採用プログラム(ジュニ
ア・プロフェッショナル・オフィサー=JPO)が2009年より実施されています。30歳前後の比較
的若い方を対象として、自分のバックグラウンドを活かした勤務経験を原則2年間積んでもら
うというものです。修士号及び2年以上の職務経験が必要となります。
⑤ 学生向け採用:国際機関に関心を持つ学生に実
際に国際機関を経験してもらおうという趣旨で、イ
ンターンシップ・プログラムが実施されています。
世銀の場合は修士・博士課程在籍中の学生を対
象とし、夏季ないし冬季の短期間に世銀の本部な
いし各国オフィスで勤務してもらうというプログラ
ムです。こちらも毎回世界中の学生さんから希望
が殺到します。
本連載では、私自身の経験に加え、バングラデシュか
らのレポートもご紹介しましたが、国際機関で働く醍醐
味は人それぞれ、感じ方も様々でしょう。途上国の貧困
とぴったり寄り添い、草の根的に難題を解決して行くこと
に喜びを見出す人、各国政府や企業と丁々発止の渡り
先日世銀内で行われた、キム新総裁と世銀職
員との対話集会(Town-hall Meeting)。著者も
行きましたが大入り満員で入れず。そういう人
のために、オフィスのPCでライブ放送を見るこ
とができます。写真は熱弁するキム総裁。
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合いをして、大所高所からの国づくりにやりがいを求める人、各種データ収集や分析、アカデミック
レポートの執筆に没頭する人、世銀内部の組織改革に情熱を燃やす人等、百人百様の働き方が
あります。極めてカッコよく言ってしまえば、一人ひとりが自分の知識・経験を武器に渡り歩く、まさ
に「包丁一本さらしに巻いて」の職人的世界。厳しい面ももちろんありますが、我こそはというガッツ
をお持ちの方は、ぜひ国際機関の門戸を叩いてみてはいかがでしょうか。
3. 国際機関への道しるべ
これまで6回にわたって、世銀や国際機関、そして日本をテーマに述べてまいりました。少しでもこ
の世界に関心を持たれる読者の方がいらしたとすれば、こんな幸せなことはありません。最後に、
「大いに関心は持ったが、では具体的に国際機関についてもっと詳しい情報をどこで仕入れればよ
いのか?」といった方々のために、いくつかの基本的な情報源をお示ししておきます。
① 世界銀行ホームページ(http://www.worldbank.org):世銀の日々のビジネスに関する公表
資料や貧困削減に関連した経済社会データ等、世銀の基本を知るための情報満載です。
② 世界銀行東京事務所ホームページ(http://www.worldbank.or.jp):日本語できめ細かい発
信をしています。日本人採用情報等も充実しています。
③ MDBsパンフレット(http://www.mof.go.jp/international_policy/publication/mdbs2010/
index.html):世銀のみならず、アジア開発銀行、米州開発銀行等の国際開発金融機関につ
いて紹介しています。財務省作成。
④ 世界プロホームページ(http://www.wbpro.jp/wbpro):世銀グループの日本人スタッフ有志
により運営。世銀日本人スタッフによるブログ等が読み応えあります。
巷では「日本人は内向き思考になっている」などと言われますが、ここワシントンDCにおいては、
ガッツのある老若男女をお見かけする機会が数多くあります。最近までこの商工会報で連載されて
いた「ワシントンおとめ」にも、そうしたガッツある女子がたくさん登場しており、日本も全く捨てたも
のではないなと改めて思いました(そう言えばあの連載にも、国際機関で活躍する人が登場してい
ましたね)。今後、ますます多くの方が日の丸を背負って世界に羽ばたかれることを願ってやみま
せん。(了)
河内 祐典(かわうち ひろのり)
世界銀行東アジア太平洋局シニアエコノミスト。1967年生まれ。1991年大蔵省(現財
務省)入省。財政、金融、開発援助等の担当を経て、2010年8月より現職。世界銀行に
は2003年~06年の日本理事室シニアアドバイザーに続き2度目の勤務。
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