法学研究科 1.理念・目的・教育目標 【現状の説明】 本学法学研究科における教育および研究の目的は、 「課程の目的に応じ、学術の理論及び 応用を教授・研究し、その深奥をきわめて、本大学の使命を達成すること」であり(中央 大学大学院学則第2条)、これに基づき、広く法学の基礎・応用分野における学術の研究、 後継の研究者養成および社会人教育を行うことを理念としている。 法学研究科は、1920 年、大学令により設置が認可され(旧制)、以後約 30 年間にわたり、 わが国の学問研究の基礎整備に多くの成果をあげた。戦後、新制への切り替えにともない、 1951 年、修士課程として民事法・刑事法・政治学・英米法の4専攻の設置が認められ、1953 年には博士後期課程として民事法・刑事法・政治学の3専攻の設置が認められた。1980 年 には政治学専攻から公法専攻が分離独立し、修士課程 1 専攻(英米法)、博士前期・後期課 程4専攻(公法・民事法・刑事法・政治学)の体制となった。その後、1997 年に修士課程 として国際企業関係法専攻を開設し、英米法専攻修士課程の募集を停止、1999 年には国際 企業関係法専攻博士課程後期課程を設置し、現在の本研究科の体制ができた。 【点検・評価】 従来は主として研究者養成を教育目標としてきたが、最近は高度職業人養成も視野に入 れている。これらの教育目標はかなり達成されたと言える。新制大学院以降に本研究科で 修士・博士学位を取得した者は総勢 1,000 名を超えており、大学教員も多数輩出した。本 学出身の大学教員(専任)数は、1996 年 7 月現在で、国立大学教員が 31 名、私立大学教 員が 171 名(うち中央大学が 39 名)、国私立短期大学教員が 21 名となっている。また、法 曹界、官界、実業界で活躍している者も数多い。 【長所と問題点】 研究者養成、高度職業人養成に加え、最近は、社会人が自己の能力を高め、キャリア・ アップや転職を図るニーズに応えることが大学院に求められている。そのため、1999 年か らは全専攻で社会人特別入学試験を実施し、社会人学生を幅広く受け入れており、講義の 方法としても、多摩校舎と市ヶ谷校舎を結んだ「遠隔授業システム」を導入するなど、多様 化する社会の要請に応えるべく積極的な取り組みをしている。問題は、社会人を含めた学 生のニーズが多様であり、それに応えるため、大学院担当教員の充実、リサーチ・アシス タント(RA)制度の導入、副指導教授制、1年で修了できる制度の導入等さまざまな施 策を講じているが、より多様で、きめの細かい対応が必要となると思われる。 【将来の改善・改革に向けた方策】 学生のニーズの多様化、社会の複雑化、グローバリゼーションの進展等にともなう高度 で学際的な研究の必要性等の要請に応えるために、教員・学生を含めた共同研究体制の充 実、外国の大学との研究交流の促進、外国人研究者による講義の充実、多数の外国人留学 生の受け入れ、教育研究を効率的に行えるためのサポート体制の整備などを図る必要があ る。 386 第3章 大学院 2.教育研究組織 【現状の説明】 本研究科には公法・民事法・刑事法・国際企業関係法の法律系4専攻と政治学専攻の5 つの専攻が置かれている。各専攻とも、博士前期課程および後期課程からなり、博士前期 課程の入学定員は 130 名、後期課程の入学定員は 28 名で、全体の収容定員は 344 名である。 在学期間は、通常、博士前期課程で2年以上4年以内、博士後期課程で3年以上6年以内 である。 本研究科に設置される研究科委員会の委員 67 名は、いずれも本研究科の基礎となる学部 である法学部を構成する3学科(法律学科・国際企業関係法学科・政治学科)の専門科目 を担当する兼担教員である。 次に、専攻ごとの概要を記す。 公法専攻では、憲法・行政法・国際公法のほかローマ法・ロシア法を専攻する教員が所 属し、教育研究活動を行っている。 本研究科の中で最も多い専任教員を擁する民事法専攻では、民法・商法・経済法・民事 訴訟法・労働法・法制史の各分野で、教育研究活動を展開している。 刑事法専攻では、刑法・刑事訴訟法・刑事政策・犯罪学・法制史・法哲学の各分野におけ る教育研究活動を行い、実務家・実務法曹も加わった教育研究が推進されている。 1997 年度に設置された国際企業関係法専攻所属教員の共通の関心事は、企業の国際的活 動にともなう法的諸問題の法的および経済的な検討にあり、比較企業法・経済法・国際私 法・国際取引法・国際経済法・アメリカ私法・アメリカ公法・現代国際経済論・国際金融 為替論の各分野について教育研究活動を行っている。 政治学専攻では、政治理論・政治史・政治思想史・国際政治学・国際政治史・行政学・ 地域政治・政治社会学・コミュニケーション論・政治経済学など多岐にわたる教育研究活 動を行っており、民事法専攻につぐ専任教員を擁している。 【点検・評価 長所と問題点】 本研究科の法律系4専攻と政治学専攻は、本学法学部における法律学科・国際企業関係 法学科の法律系2学科と政治学科の区分に対応しており、学部教育の基盤の上に専門の学 術研究を行うという観点から見て概ね妥当なものと言える。専攻区分は、入学者選抜、授 業科目の配置、論文審査等、主な教育研究活動の枠組みとなっているが、必ずしも絶対的・ 排他的な区分ではない。各専攻共通科目の設置に見られるように、個々の専門分野に自閉 した教育研究に陥らないような配慮がなされている。また、各研究所を中心に専攻横断的 な研究も行われている。 【将来の改善・改革に向けた方策】 今日の大学院は、従前の研究者養成に加え、高度専門職業人の養成、多様な社会的ニー ズに応える人材の養成という課題をつきつけられている。現行の組織編成や教員配置等が、 このような社会的要請に応えるのに適切か否かについては検討を要するだろうが、その際、 通信教育課程を含めた学部教育、各研究会や研究所における研究活動、開設が予定されて いる法科大学院などとの総合的・有機的関連の中で議論を積み重ねていかなければならな いだろう。 387 3.教育研究指導の内容・方法と条件整備 3−(1) 教育研究指導の内容等 3−(1)− ① 大学院研究科の教育課程 【現状の説明】 博士前期課程の「公法」「民事法」「刑事法」「国際企業関係法」「政治学」の各専攻分野 について、各専攻別にそれぞれ基礎から先端的な分野に至るまで様々の科目を設け、専攻 学生の研究能力・専門能力を高めるカリキュラムを用意するとともに、多くの「共通科目」 をおき、10 単位を上限に所属以外の専攻または研究科の履修を認めて、選択履修の幅を広 げ、より広い視野で学生が研鑽できるようにしている。例えば、「日本法制 2010 年」にお いては、幅広く、テーマを設定するとともに、多数の参加者による、多角的視点からの日 本の法制度の直面する問題についての検討を通して、基本問題から最先端の問題までを学 生が学修できるように工夫されている。各専攻分野の教員は、現代社会の問題とその解決 策について、比較法的検討と関連隣接諸分野の最近の成果を踏まえて研究教授し、学生の 具体的問題の解決能力を養成してきている。また、民事法、刑事法、政治学の各専攻の授 業科目の担当教員ごとに講義科目と演習科目をセットにして、学生が体系的学修をより深 めることができるようにしている。さらに、イギリス法律学校から出発した伝統を生かし、 海外との提携協力関係のある大学や政府機関から派遣されてくる外国人教授・研究者によ る講義もなされてきており、学生の問題関心を深め、研究能力を高めるのに役立っている。 また、法律実務家を多数輩出してきている背景を生かして、実務家の参加を求めて、授業 を行い、現実の問題を踏まえた、理論的検討もなされている。さらに、東京外国語大学と の単位互換協定や政治学分野での7大学間協定により、本学以外での履修が可能となって いる。 国際企業関係法専攻のカリキュラムは、基幹科目と発展科目に分かれ、経済に強い法律 家の養成を目指して、国際経済関連科目を多数設置し、また、英米法科目を充実させてい る。 博士後期課程は「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその 他の高度な専門的な業務に従事するに必要な高度の研究能力とその基礎となる豊かな学識 を養う」ことを目的として設置されている。博士後期課程においては、博士前期課程以上 に個別指導が重視されており、博士後期課程の学生の問題関心を踏まえた論文執筆への助 言・指導を行っている。 【点検・評価 長所と問題点】 現状の説明に示された大学院のコースの構成とカリキュラムのあり方は、学生の関心を 広げ、学部教育の上に立って専門的知見を教授し、問題を分析的に思考する修練を積むも のとなっており、 「広い視野に立って清深な学識を授け、専攻分野における研究能力または 高度の専門性を要する職業等に必要な高度の能力を養う」という修士課程(博士前期課程) の目的にかなっていよう。 学部における法学教育においては、基本6科目を中心に、実定法の内容とその背景、変 動する社会と法の変化等を理解して法律学の基礎を固めることに中心が置かれているが、 大学院においては、比較法的視野と問題の社会的背景の理解を踏まえた、重要問題の検討 により重点が移されると同時に、より高度で詳細な検討が行われ、学部よりはずっと専門 388 第3章 大学院 性が高くなる構成となっており、両者の接続は概ねうまくいっていると評価できる。法の 基礎をなす、社会的現実の把握や、歴史的、哲学的背景等、実定法を支えその背景にある ものについての十分な学習が高度の法律学学修の基礎をなすので、学士課程での教育につ いては、隣接科目の学習の充実が期待される。この点について、他学科・学部履修枠を一 定限度に設けることで、ある程度の対処がなされてきている。 博士前期課程における教育内容は、比較法、および隣接諸領域の知見を踏まえたものと なっており、博士前期課程の人材養成は概ね妥当と評価できるのではないか。博士後期課 程は個別指導の色彩が強くなり、博士前期課程での研鑽をさらに発展させて、より広くそ してより深く自立して研究することができる指導が行われている。学生も博士前期課程で 選択したテーマをさらに発展させていく場合が多いので、博士前期課程と博士後期課程の 連携関係も多くの場合、保たれていると言えるであろう。 博士後期課程については、水準に達する学生への博士号(課程博士)の授与が徐々にな されるようになってきているが、この方向を一層押し進めるべきであろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 現状では、専攻別に専門的指導が行われているが、将来的には、自己が研究する問題に 関連する分野を、横断的に履修し研究を重ねることができるように、他専攻設置科目の履 修枠の拡大や、他専攻との共通履修科目枠を拡大するなどして、問題の解決に向けた総合 的分析能力の向上に資するカリキュラムが考えられてよい。法科大学院ができれば、それ との関連で既存の大学院にも影響が及ぶので、どのようなあり方にするのかを見極めつつ、 問題解決能力を高めるカリキュラムが工夫されなければならないであろう。 博士号(課程博士)の授与については、一定の研鑽を積んで、水準に達する論文を提出 した学生に博士号(課程博士)の学位を授与し、自立して研究できる能力があることを明 らかにして、卒業生の研究者としての出発ができるようにしていく必要があろう。このこ とは、特に外国からの留学生に関して言える。 3−(1)− ② 単位互換、単位認定等 【現状の説明】 現在、単位互換は、各大学間の学術的提携・交流を促進し、大学院の教育研究の充実を 図ることを目的として設置され、本学大学院と「特別聴講学生に関する協定」を結んだ他 大学大学院(東京外国語大学、学習院大学大学院、成蹊大学大学院、法政大学大学院、日 本大学大学院、明治大学大学院、立教大学大学院)の授業科目を履修し、その取得履修単 位を、8単位を上限として認定している。 【点検・評価 長所と問題点】 単位互換は、協定大学との話し合いと相互の評価によってきまるので、拡大することも あれば、縮小することもあるという性質のものであろう。協定が活性化するかは今後を待 つ必要がある。 長所としては、学生の選択の幅が広がるというメリットがある。単位互換協定による学 生の他大学履修が活性化するには、協定校間の相互の信頼と教員を含めた交流の活性化が 前提となろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 389 将来は法科大学院との関係が問題となろう。そこでは、各大学の他大学に対する評価と、 独自のポリシーに基づく評価により決められることになろう。 3−(1)− ③ 社会人学生、外国人留学生等への教育上の配慮 【現状の説明】 公法・民事法・刑事法・国際企業関係法専攻の博士前期・後期課程および政治学専攻の 博士前期課程において社会人特別入学試験を導入して、弁護士、官公庁・企業の法務担当 者、公務員等を主な対象とした社会人の受け入れを行っている。授業を都心の市ヶ谷校舎 において展開して、民事法専攻および国際企業関係法専攻では、夜間の授業と土曜日の授 業の履修を通して修了に必要な単位を修得できるものとしている。また、多摩校舎との双 方向メディアを通した遠隔授業も行われている。 留学生は、博士前期・後期課程を含め、大学院学生の約1割を占める。韓国、中国から の留学生が多い。留学生に関しては、特に留学生のための履修コースを大学院に設けるこ とはしていなく、一般の学生と同様に指導している。なお、外国人留学生に関しては外国 人留学生チューター制度を設けて、外国人留学生の日本語学習と学生生活について指導・ 助言している。 【点検・評価 長所と問題点】 社会人に対しては、地理的にまた時間的に通常の業務後の履修が可能となるように配慮 している。社会人の場合、利用できる時間が限られることもあり、他方、担当教員数と教 員の負担からも、通常の大学院コースと同じだけのメニューを用意できないという難点が ある。 留学生に関する指導・助言は概ねうまく機能していると思われるが、留学生が日本にい るメリットを生かせるように、より一層チューター制度が活用されるべきであろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 法科大学院と社会人コースとの関係も法科大学院との関係で見直されることになろうが、 社会人コースには法科大学院とは別のニーズがあるので、将来的に存続し、現在の不十分 な点は、双方向メディアの技術の活用などを通して、補われることになろう。 留学生に関しては、現在は韓国・中国が中心であるが、将来的には、英語による授業も 視野に入れて、アジア・オセアニア圏を対象とする留学生受け入れの拡大も考慮されても よい。 3−(1)− ④ 専門大学院のカリキュラム 該当なし 3−(1)− ⑤ 連合大学院の教育課程 該当なし 3−(1)− ⑥ 該当なし 390 第3章 大学院 「連携大学院」の教育課程 3−(1)− ⑦ 研究指導等 【現状の説明】 大学院における研究指導は、指導教授との密なコンタクトを通して、随時行われてきて いる。比較的多い人数の授業もないわけではないが、修士論文の作成などにおいては指導 教授への研究計画書の提出、研究の途中経過の報告、指導教授によるコメント、調査・研 究上の相談、など、かなりきめ細かな過程を経て指導が行われているのが実情である。博 士前期課程の学生は修士論文の完成を目指して、博士後期課程の学生は、まずは、大学院 研究紀要に論文を載せるために、論文を執筆して、その過程で指導を受ける。また、共同 プロジェクトがあるような場合には、それに参加して、指導を受け、また、自ら調査・研 究する機会を得て、さらに自分の研究を発展させる機会が与えられている。 【点検・評価 長所と問題点】 指導教授による個別指導は適切に行われているということができよう。日頃の少人数の 授業での口頭による指導に加え、指導を受ける学生の執筆した論文のドラフトの段階から 助言指導を行っており、適切で真摯な助言指導が行われているということができる。この 指導を通して、学生も、問題意識をよりシャープにし、説得的な構成とは何かを知ること になる。問題は、指導を受ける学生が多数に上がるために、教員の負担がかなり重くなる 点であろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 法科大学院との関係で既存の大学院も大きく変わることになると思われるが、指導学生 数を視野に入れた十分な指導体制の充実は継続して行われなければならない。 3−(2) 教育研究指導方法の改善 3−(2)− ① 教育効果の測定 【現状の説明】 博士前期課程の場合、32 単位を必要単位とし、博士後期課程の場合には8単位を必要単 位数としている。博士前期課程においては、修士論文の審査を通り、法学研究科委員会に おいて了承されることが修士号付与の要件である。なお、在学期間に関しては、 「研究科委 員会が優れた研究業績をあげたと認める者」については、本学博士前期課程に1年以上在 学すれば足りるとしている。修士論文については、指導教授および2名の副査による審査 を受け、法学研究科委員会の議を経るものとされている。1年で修士号を取得する場合に は、指導教授の他、4名の副査による審査を受ける。博士号(課程博士号)の授与の場合 には、本学の博士後期課程に3年以上在学し、所定の単位以上を修得し、論文の審査およ び最終試験に合格した者に対し、法学研究科委員会の議を経て認定することとされている。 【点検・評価 長所と問題点】 修士論文の審査および修士号の取得に至るまで、指導が重ねられるが、最終的には修士 論文が審査をパスすることが最も重要であり、厳格な要件のもとに審査が行われていると いうことができる。博士論文(課程博士)の審査に関しては、一定水準の論文を執筆し、 独立して研究を進め、または高度な専門的業務を行うに必要な研究能力とその基礎となる 豊かな学識を有すると認められる者には、学位を授与するという積極的運用が必要とされ よう。とりわけ外国人留学生の場合には、このような学位の授与は重要な意味を持つ。 391 【将来の改善・改革に向けた方策】 修士論文の指導に関してはこれまでも適切な助言指導が行われてきている。博士論文に 関しては、これまでの審査の質を維持しつつ、一定の水準に達する論文には学位を授与す る積極的運用が求められよう。 3−(2)− ② 成績評価法 【現状の説明】 成績の評価は、少人数の授業が多い大学院の授業にあっては口頭での報告および必要な 場合に求めるレポートによる報告などを基礎に行われている。 【点検・評価 長所と問題点】 成績の評価は、履修科目での口頭の発表・報告などを通して、問題意識の鋭さ、分析力、 問題解決能力などを見ることができるが、口頭での発表の機会がない場合には、レポート による報告を求めて評価する必要があるので、これらを組み合わせて使うのが有効であろ う。従来の成績評価でも適切に行われていると言えるのであるが、強いてあげれば、口頭 での議論の能力に関する評価の比重が比較的低い点が問題であろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 将来は口頭での議論の能力は、特に法科大学院において重視される項目に入ると思われ るが、既存の大学院においてもこの能力の養成をより重視し、評価の比重を高めるべきで あろう。 3−(2)− ③ 教育研究指導の改善 【現状の説明】 各年度のはじめに教員の方から、その年の授業計画を示してそれにそって授業が進めら れ、学生もそれに併せて準備をして、口頭での報告などをしてきているのが現状である。 現在の、教育研究指導方法の改善を促進するための組織的な取り組みとしては、資料の収 集等に関して、インターネットを利用して、最新の資料を収集するように必要な指示をし ており、文献の指導などに関してはかつてよりも十分に行われていると言えるであろう。 シラバスに関しては、大学院の場合、個別指導が重視されることもあり、学部と比較す ると簡潔な記述となっている。 【点検・評価 長所と問題点】 組織的な取り組みの点では、できるだけ最新の資料を利用した教育研究ができるように、 インターネット環境を利用した資料の収集、整理、分類、それを利用した研究材料の配布 などを効率よく利用できるようにする必要があり、そのための補助スタッフの手当も必要 である。この点は、RAやティーチング・アシスタント(TA)を利用した準備を行える 状態となっている。このような最新の資料を利用できる環境の整備は妥当なものであり、 より一層進められるべきであろう。 シラバスの記述は、大学院の場合には簡潔だが、学部よりも学生数が少なく、シラバス 以外の方法で連絡する方法があるので、さほど不都合はなく、また、シラバスにあまりに 拘束されるのは、その後の新しい展開をフォローする道を閉ざしてしまうので妥当ではな いという面がある。シラバス以外の方法による柔軟な対処が、特に、インターネットを活 392 第3章 大学院 用してできるようになってきているので不都合はないであろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 現在、学生による授業評価は導入されていない。少人数教育が中心である大学院教育で は、一般的に学生の満足度は高いと考えられるが、今後の学生数の増加、とりわけ研究者 志望ではない社会人学生の増加を考慮すれば、何らかの授業評価制度の導入が必要であろ う。 また、授業、学生の指導と関連して、必要事項の伝達、資料の配付、収集などに関して、 今後、Webページ、share disk、e-mail などの一層の活用が期待される。また、Web ページの制作を援助する技術スタッフなども用意される必要があろう。Webを活用する ことによって、アップ・ツー・デイトな授業計画の伝達の可能性は高まる。インターネッ トを活用した学生への情報の提供が考慮されてよい。 3−(3) 国内外における教育研究交流 【現状の説明】 本研究科においては、法律および政治という研究対象自体の国際化によって、早期から その対応策を模索してきたと言える。教育と学問研究における国際交流は人と知の相互的 な移動を意味するべきであると考えられるが、現実には、本研究科に限らず、こちらから 国外へ出て行くことが多いと思われる。 こうした希望を持つ大学院学生の国内および国外との教育研究交流に関わる制度は、現 在、前者に他大学大学院との単位互換制度、および他大学大学院における既修得単位を所 定の条件を満たしたうえで認める大学院既修得単位認定制度があり、また後者には1年間 の国外留学制度があって、指定校に留学する「交換留学」とそれ以外に学生が希望し本学 が認める大学ないし研究機関等への留学である「認定留学」の二種類が存在する。これと ともに、指定校からの交換留学生を含めて外国人学生を受け入れる制度も有している。ま た、研究者に関しては、指定校との交流ばかりでなく、本学の比較法研究所、社会科学研 究所等と連携しつつ、公開講演会や特別講義等において外国人研究者の研究成果と直接に 接する機会を持つと同時に、本研究科教員が国外へ研究または講義に行くことも認められ ている。 【点検・評価】 大学院学生の国外への留学は近年、相当に活発になりつつあるが、必ずしも当該制度を 利用している学生ばかりではないようにも見受けられる。また、国外からの留学生の受け 入れに関しては、法学研究の特殊性、すなわち、一定レベル以上の日本語能力が必要とさ れる事情から、必ずしも多数の外国人学生が本研究科で学んでいるとは言えない。ただし、 研究者の国内外との交流に関しては、研究者個人の努力にも支えられて比較的活発と思わ れる。 【長所と問題点】 上記の【点検・評価】に述べた点を踏まえて言えば、大学院学生の国外留学に関しては かなり寛容な制度的保障をしていると思われるので、これを周知徹底していくことが望ま しい。また外国人留学生の受け入れに関しては、すでに「外国人留学生チューター制度」 を設け、外国人留学生の日本語学習および学生生活の指導や助言を行っているが、より充 393 実したものとすることが望ましい。 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院学生の国外留学制度をより使い勝手のよいものに充実させ、外国人留学生の受け 入れに関しては、将来、日本の実定法を外国語で教育研究できる方向も考えていく必要が あると思われる。 3−(4) 学位授与・課程修了の認定 3−(4)− ① 学位授与 【現状の説明】 本研究科においては、1951 年に開始された新制度によって学位を授与された者は、2001 年3月現在までに修士号 1,329 名、博士号は課程博士と論文博士をあわせて 74 名となって いる。ここ数年、両学位とも授与者の数が著しい伸びを示している。 【点検・評価】 本研究科における修士号および博士号授与に関しては、厳正かつ公正を旨とし、国内外 における学界の水準に照らして審査がなされている。とりわけ学際領域や新しい問題など を扱った論文の審査に関して、必要があると研究科委員会が判断した場合、本研究科以外 の研究者にも審査または助言を仰いでおり、特に問題とすべき点はない。 【長所と問題点】 1953 年度から 2000 年度までの本研究科における修士号取得者数は、1,329 名(公法専攻 93 名、民事法専攻 491 名、刑事法専攻 313 名、英米法専攻 36 名、国際企業関係法専攻 100 名、政治学専攻 296 名)となっている。また博士号取得者数は、1964 年度から 2000 年度 までに、課程博士が 14 名、論文博士が 60 名となっている(旧制度による博士学位授与者 は 62 名いる)。課程博士の取得者は、1964 年度から 1993 年度までの間にわずか2名であ ったが、1994 年度から 2000 年度の間の取得者が 12 名と増加しているほか、論文博士取得 者 60 名のうち、1991 年度からの 10 年間の取得者が 33 名と、全体の半数以上を占めてい る。 このように、修士学位の取得状況については、概ね問題はないと考えられるが、今後は 博士学位の取得を増加させる必要がある。 【将来の改善・改革に向けた方策】 諸外国の例に見られるように、これからは修士または博士のタイトルが、従来よりはる かにキャリアとして重要な意味を持つと思われる。とりわけ、本研究科においては、課程 博士および論文博士の学位授与者数を増加させることが必要と思われる。そのためには、 例えば博士号取得者に対する就職その他での優先的な扱いなど、インセンティブを制度的 に保証していくことなどを考えるべきだと思われる。 表1 法学研究科学位授与状況 研 究 専 1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年 科 攻 度 修 394 第3章 大学院 士 度 11 度 6 度 12 度 7 7 公法専攻 博士(課程) 0 0 0 0 0 博士(論文) 0 2 0 2 0 21 17 21 22 64 博士(課程) 0 0 0 2 2 博士(論文) 2 0 0 1 1 17 10 6 19 15 博士(課程) 0 0 0 0 1 博士(論文) 1 0 0 0 0 修 0 1 - - - 博士(課程) - - - - - 博士(論文) - - - - - 修 - 4 18 35 43 博士(課程) - - - 0 0 博士(論文) - - - 0 0 修 2 6 8 10 13 博士(課程) 3 0 0 0 3 博士(論文) 1 3 2 4 1 修 民事法専攻 修 刑事法専攻 英米法専攻 国際企業関係法専攻 政治学専攻 3−(4)− ② 士 士 士 士 士 課程修了の認定 【現状の説明】 本研究科における修士課程ならびに博士前期課程の標準修業年限は2年以上であり、所 定の単位を修得し、なおかつ必要な研究指導を受けたうえで、修士論文の審査および最終 試験に合格した者に修士学位は授与されるが、特に優れた研究業績をあげた大学院学生に 対しては1年間で修了することが認められている。また本研究科国際企業関係法専攻にお いては、すでに高度な専門職にある人あるいはその経験を有している人を念頭において、 本研究科委員会が特に必要と認めた場合、修士論文に代えて特定の課題についての研究成 果を提出することも認められている。博士後期課程については、標準修業年限が3年で前 期とあわせて5年以上であるが、特段に優れた研究業績をあげた者はこの限りでない。 【点検・評価】 修士課程および博士前期課程における1年修了制度、また特定課題に対する研究成果を 修士論文に代える国際企業関係法専攻の制度は、この制度を利用しようとする大学院学生 自身が意欲と力量を十分に具えていなければ現実的に1年修了、またレポートペーパー作 成は困難であり、結果としてそこでスクリーニングが行われることになって、特に問題は ないと思われる。 【長所と問題点】 修士課程および博士前期課程における1年修了制度は、本研究科入学以前にすでに高度 な専門的知識を有し、また一定程度以上の研究を積んでいる大学院学生に対しては、単位 修得と論文作成を同時に行うことを可能とするものであり、その点、とりわけ高度な専門 職に結びつく研究を志す大学院学生には有効な制度であると思われる。 395 【将来の改善・改革に向けた方策】 本研究科における課程修了の認定方法に関して、大学院における研究自体が現実社会と 相互啓発的であることが望ましいことから、現行以上に、よりフレキシブルな、いわば出 入りのしやすい認定の方法を検討していくべきであると思われる。 4.学生の受け入れ 4−(1) 学生募集方法、入学者選抜方法 【現状の説明】 博士前期・後期課程とも、学生募集は入学試験によって行われる。 博士前期課程の学生は、全専攻について、① 象とする特別選考入学試験、③ 一般入学試験、② 社会人特別入学試験、④ 本学学部学生等を対 外国人留学生入学試験の4種 類の試験によって選抜される。 試験方法について、②・③は別に項目(「4−(2) 学内推薦制度」、 「4−(5) 社 会人の受け入れ」 )を立てて検討するので、ここでは①・④を見ていくことにする。 ①の一般入学試験では、公法・民事法・刑事法各専攻については、専攻専門1科目およ び基本6科目(憲法・民法・刑法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法)のうち1科目(専攻 専門科目で選択した科目を除く)と外国語試験(1カ国語)からなる第1次試験(筆答) と第2次試験(口述)が行われる。国際企業関係法専攻では、専攻専門科目1科目につい て論述式試験と当該科目に関連する英語の問題が出題される第1次試験(筆答)と第2次 試験(口述)が行われる。政治学専攻については、専攻専門科目2科目の論述式試験と外 国語試験(1カ国語)からなる第1次試験(筆答)と第2次試験(口述)が行われる。 ④の外国人留学生の選考は、出願時に提出された論文(使用言語:日本語・英語・ドイ ツ語・フランス語)を含む書類審査による第1次試験と第2次試験(口述)が行われる。 博士後期課程の入学試験は、①一般入学試験、②社会人特別入学試験(国際企業関係法 専攻のみ)、③外国人留学生入学試験からなる。すなわち、選考は、国際企業関係法専攻に おいては3種類、それ以外の専攻については2種類の方法によって行われる。 博士前期課程と同様、②の試験方法については別途検討するので、ここでは、①および ③の試験内容について見る。 一般入学試験について見ると、国際企業関係法専攻を除く専攻では、専攻専門科目1科 目の論述試験および外国語試験(2カ国語、ただし日本法制史・日本政治史・日本政治思 想史を専攻する者は外国語1カ国語の代わりに「史料解読」の受験可)の筆答試験と修士 論文・副論文審査からなる第1次試験と第2次試験(口述)が行われる。また国際企業関 係法専攻では、英語と専攻専門科目1科目について論述式試験と当該科目に関連する英語 の問題が出題される筆答試験と修士論文・副論文審査からなる第1次試験と第2次試験(口 述)が行われる。 ③の外国人留学生の選考は、出願時に提出された論文(使用言語:日本語・英語・ドイ ツ語・フランス語)を含む書類審査による第1次試験と第2次試験(口述)が行われる。 入試形態別の在籍者数とその割合を以下に示す。 396 第3章 大学院 表2 入試形態別在籍者数 専 一般入試 攻 人数 公法 博士前期課程 在籍者比 特別選考入試 収容定員比 人数 在籍者比 収容定員比 2 16.6% 6.7% 5 41.7% 16.7% 民事法 17 12.5% 21.3% 43 31.6% 53.8% 刑事法 19 36.5% 63.3% 16 30.8% 53.3% 9 10.2% 12.9% 15 17.0% 21.4% 政治学 15 50.0% 30.0% 8 26.7% 16.0% 全専攻合計 62 19.5% 23.8% 87 27.4% 33.5% 国際企業関係法 専 社会人入試 攻 人数 公法 在籍者比 留学生入試 収容定員比 人数 在籍者比 各専攻合計 収容定員比 人数 3 25.0% 10.0% 2 16.6% 6.7% 12 民事法 72 52.9% 90.0% 4 2.9% 5.0% 136 刑事法 16 30.8% 53.3% 1 2.0% 3.3% 52 国際企業関係法 56 63.6% 70.0% 8 9.1% 11.4% 88 4 13.3% 8.0% 3 10.0% 6.0% 30 151 47.5% 58.1% 18 5.7% 6.9% 318 政治学 全専攻合計 表3 入試形態別在籍者数 専 博士後期課程 一般入試 攻 人数 在籍者比 特別選考入試 収容定員比 人数 在籍者比 収容定員比 公法 12 70.6% 133.3% − − − 民事法 14 31.1% 66.6% − − − 刑事法 13 68.4% 86.7% − − − 6 22.2% 20.0% − − − 政治学 15 65.2% 166.6% − − − 全専攻合計 60 45.8% 71.4% 国際企業関係法 専 社会人入試 攻 人数 公法 在籍者比 留学生入試 収容定員比 人数 在籍者比 各専攻合計 収容定員比 人数 4 23.5% 44.4% 1 5.9% 11.1% 17 民事法 28 62.2% 133.3% 3 6.7% 14.3% 45 刑事法 2 10.5% 13.3% 4 21.1% 26.7% 19 国際企業関係法 20 74.1% 66.6% 1 1.4% 3.3% 27 政治学 − − − 8 34.8% 88.9% 23 全専攻合計 54 41.2% 64.3% 17 13.0% 20.2% 131 397 【点検・評価 長所と問題点】 大学院が専門的な学術研究能力を備えた研究者、高度な専門的学識や能力を有する人材 を養成するという社会的使命を負っていることを考えると、上記のような外国語を含む学 科能力判定を中心にした一般入学試験によって学生を選抜することは適切であると言えよ う。他方で、今日の大学院が社会の新たな要請に応えるべく多様なニーズを持つ学生を受 け入れるために一般入学試験のほかにさまざまな入学試験方法を設けることも積極的に評 価すべきであろう。 しかしながら、 「4−(6) 定員管理」でも触れるように本研究科の定員充足率は、博 士前期・後期課程を合計すると 134.4%と高くなっている。研究者養成を目的の1つとす る後期課程に ついては別に議論する必要があるが、博士前期課程では民事法・刑事法専攻 の定員充足率が 170%を超えている(表4−①)。その原因の1つとして、試験方法ごとに 入学許可者割合の目安を設けることなく、多様な入試を単純に積み重ねて学生の入学を許 可していることをあげることができよう。博士前期課程で、留学生入試は他の試験方法に よる入学者を圧迫する要因でないことは明らかである。他方、例えば民事法専攻で社会人 入試による在籍者だけで収容定員の 90%を占めていることが典型的に示しているように、 特に民事法・刑事法では、特別選考入試・社会人入試による在籍者が定員充足率を押し上 げる大きな要因となっている。 【将来の改善・改革に向けた方策】 第一に、現行の入学選抜方法が適切であるかどうかについては、追跡調査などを含めた 検証システムを確立することが望ましいのではないだろうか。 第二に、各専攻ごとの教育研究の目的・理念に照らして、適切な入学選抜方法と、各試 験方法ごとの入学許可者・在籍者数割合の目安について検討することが必要なのではない だろうか。 表4−① 定員充足率 博士前期課程 (2001 年5月1日現在) 専 攻 公 法 年次 入学定員 在籍者 民 事 法 刑 事 法 国際企業関係法 政 治 計 学 入学定員 充 足 率 1年次 15 6 40.0% 2年次 15 5 33.3% 1年次 40 55 137.5% 2年次 40 63 157.5% 1年次 15 25 166.7% 2年次 15 13 86.7% 1年次 35 34 97.1% 2年次 35 32 91.4% 1年次 25 18 72.0% 2年次 25 7 28.0% 1年次 130 138 106.2% 2年次 130 120 92.3% 398 第3章 大学院 収容定員 在籍者 収容定員 充 足 率 30 12 40.0% 80 136 170.0% 30 52 173.3% 70 88 125.7% 50 30 60.0% 260 318 122.3% 表4−② 定員充足率 専 攻 博士後期課程 年次 入学定員 在籍者 入学定員 充 足 率 1年次 3 3 100.0% 2年次 3 4 133.3% 3年次 3 3 100.0% 1年次 7 17 242.9% 2年次 7 10 142.9% 3年次 7 10 142.9% 1年次 5 6 120.0% 2年次 5 2 40.0% 3年次 5 2 40.0% 1年次 10 10 100.0% 国際企業関係法 2年次 10 9 90.0% 3年次 10 8 80.0% 1年次 3 5 166.7% 2年次 3 6 200.0% 3年次 3 4 133.3% 1年次 28 41 146.4% 2年次 28 31 110.7% 3年次 28 27 96.4% 公 民 刑 政 法 事 事 治 法 法 学 計 4−(2) 収容定員 在籍者 収容定員 充 足 率 9 17 188.9% 21 45 214.3% 15 19 126.7% 30 27 90.0% 9 23 255.6% 84 131 156.0% 学内推薦制度 【現状の説明】 本研究科博士前期課程では、一般入学試験による募集に先立って、学部における学業成 績などを主な資料とする書類審査と口述試験による特別選考入学試験を実施している。本 学学部在学生・卒業生については、A評価の科目数を出願資格とするほか、国家試験等の 実績(全専攻)、その他の資格や留学経験などの実績(国際企業関係法専攻)、公募論文の 実績(政治学専攻)を出願資格としている。また、国際企業関係法専攻では、本学法学部 以外の学部または他大学卒業見込みの者についても、本学学部在学生・卒業生とほぼ同様 の要件で受験を認めているのに加え、日本の大学に在学する外国人留学生に対して、特別 選考試験の門戸を開放している。 【点検・評価 長所と問題点】 成績優秀者等に対して、本学法学部の学生を中心に、さらなる教育研究の機会を提供す ることには一定の意義がある。また、司法試験など国家試験等の実績を出願資格の要件と しているように、これらの試験を目指す優秀な学生に対して学部卒業後も勉学を継続する 場を保証するという意義も認められる。 しかしながら、外国語の筆答試験を実施していないため、特別選考試験によって入学し 399 た学生の中には、一般入試による学生に比べ外国語能力が低い学生もおり、大学院入学後 の教育研究に支障を来すケースも見られる。また、修士論文作成に向けた問題意識の希薄 さや研究計画の甘さゆえに入学後とまどう学生も中にはいる。さらに、学業成績に基づく 出願資格が、単位数ではなく、2単位科目であるか4単位科目であるかを問わずA評価の 科目数に基づいて定められている点は必ずしも合理的とは言えない。 【将来の改善・改革に向けた方策】 法科大学院の開設を契機に、この試験制度そのものの位置づけを見直さざるを得ないだ ろう。その際、この試験方法によって入学した学生についての追跡調査などの基礎的デー タをもとに議論することが必要だろう。 4−(3) 門戸開放 【現状の説明】 他大学・大学院の学生(外国の学校卒業者等を含む)に対する「門戸開放」の状況を、 2001 年度入学者について見てみよう(他大学等出身入学者数/全在籍者に占める割合(%) で表記)。博士前期課程では、公法専攻:2/33.3、民事法専攻:19/34.5、刑事法専攻: 11/44.0、国際企業関係法専攻:19/55.9、政治学専攻:4/22.2、全専攻計:55/39.9、 となっている。博士後期課程では、公法専攻:3/100.0、民事法専攻:1/5.9、刑事法 専攻:1/16.7、国際企業関係法専攻:0/0、政治学専攻:2/40.0、 全専攻計:7/17.1、 である。 【点検・評価 長所と問題点】 上記のように、博士前期課程では、国際企業関係法専攻の「門戸開放」の割合が最も高 く、政治学専攻で最も低い。また博士後期課程では、公法専攻が 100%と最も高く、国際 企業関係法専攻が0%と最も低い。国際企業関係法専攻では、博士前期課程で広く学生を 募り、それらの学生の内部進学率が高いことになる。また、博士前期課程について全専攻 合計で4割が他大学等の出身者であることは、教育研究の活性化という点から積極的に評 価できよう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 教育研究の活性化という観点からすれば、開かれた大学院を目指し、進学相談会やホー ムページ等を通して大学院情報の積極的な提供を続けることが望ましい。 4−(4) 飛び入学 【現状の説明】 本研究科では特別進学入学試験(いわゆる「飛び級」入学試験)を実施していない。 【将来の改善・改革に向けた方策】 飛び入学について今後の検討課題になることもあろうが、その場合、学部教育のあり方 を含めた大学教育全体のあり方の検討が求められることになるだろう。 4−(5) 社会人の受け入れ 【現状の説明】 博士前期課程については秋季に、博士後期課程(政治学専攻を除く全専攻)については 400 第3章 大学院 春季に、それぞれ社会人特別入学試験を実施している。また、国際企業関係法専攻博士前 期課程では春季にも入学試験を実施している。博士前期課程の学生は、研究計画書等の書 類審査(在学期間中に修士論文をまとめる能力の有無を中心とした審査)を行い、その合 格者に対して口述試験(公法専攻については筆答試験も実施)を実施し合否を決定する。 博士後期課程については、研究計画書等の書類審査(在学期間中に博士論文をまとめる能 力の有無を中心とした審査)を行い、その合格者に対して口述試験(公法・民事法・刑事 法専攻については必要があると判断された場合には筆答試験も実施)を実施し合否を決定 する。 社会人入試による在籍者数の各専攻ごとの内訳については上掲の表2および表3を参照 されたい。 【点検・評価 長所と問題点】 表2・表3から明らかなように、民事法・国際企業関係法各専攻では、社会人入試によ る在籍者の割合が全在籍者の半数を超えており、とりわけ、国際企業関係法専攻の博士後 期課程学生は4分の3が社会人によって占められている。これに対し、公法・刑事法・政 治学専攻ではその割合は低い。この数字は、各専攻領域の特徴、社会人のニーズをほぼ忠 実に反映していると言えよう。また、研究科としてもそうしたニーズに応えるべく、民事 法・刑事法・国際企業関係法の各専攻については市ヶ谷キャンパスにおいて平日夜間・土 曜日に授業を開講し、研究テーマも現代の先端的なテーマを取り上げるなどの取り組みを 重ねてきたことの成果であると思われる。 しかし、すでに「4−(1) 学生の募集方法、入学者選抜方法」で述べたように、博 士前期・後期課程とも民事法・国際企業関係法専攻では、収容定員に占める社会人入試に よる在籍者の割合がきわめて高く、定員充足率を押し上げる一要因となっていることは問 題である。 【将来の改善・改革に向けた方策】 多摩キャンパスと市ヶ谷キャンパスを往復する教員の過重負担について早急に検討すべ きである。また、社会人入試による入学者の割合についても、各専攻ごとの特性を踏まえ ながら議論する必要があるだろう。 4−(6) 定員管理 【現状の説明】 2001 年5月1日現在の定員充足率(学生収容定員に対する在籍学生数の比率)、修業年 限を超えて在籍する学生(いわゆるオーバーマスター(OM)、オーバードクター(OD)) を除いた在籍者の学生収容定員に対する比率などを示したのが表4−①、②である。なお、 博士前期・後期課程合計では、収容定員 334 名、在籍者数 449 名で、定員充足率は 134.4% となる。 【点検・評価 長所と問題点】 定員充足率が本研究科全体で 100%を超えていることは、本研究科に対する期待の高さ を示したものとして積極的に評価できよう。 各専攻ごとの特徴を簡単に示す。公法専攻博士前期課程の充足率は 50%を割っているが、 博士前期・後期課程を合算すると 74.4%となる。他方、民事法・刑事法各専攻では博士前 401 期・後期課程とも著しく定員をオーバーしている。両専攻では修業年限超過学生を減じた 数字でも定員オーバーという状況は変わらず、特に民事法専攻の博士後期課程においては その傾向が顕著である。民事法専攻の高等教育に対する社会的ニーズの高さの現れとも言 える。しかし、学生に良好な教育研究環境を提供するという点から見ると問題がないとは 言えない。また、公法専攻博士後期課程および政治学専攻博士後期課程の定員オーバーが 目立ち、ODが占める割合が他専攻に比べ高い。 【将来の改善・改革に向けた方策】 定員管理という観点からも教育研究体制について議論をする必要がある。本研究科に対 する社会の要請や期待にこれまで以上に応えていくために、教育研究条件・環境を改善し ていかなければならないだろう。 5.教育研究のための人的体制 5−(1) 教員組織 【現状の説明】 本研究科に所属する教員総数は 112 名であり、身分別に見ると、専任 66 名、兼担4名、 客員教授2名、兼任講師 40 名となっている。これを専攻別に見ると、公法専攻 15 名(専 任8名、兼担2名、兼任5名)、民事法専攻 29 名(専任 20 名、兼任9名)、刑事法専攻が 12 名(専任7名、兼担1名、兼任4名)、国際企業関係法専攻 32 名(専任 14 名、兼担1 名、客員教授2名、兼任 15 名)、政治学専攻 18 名(専任 17 名、兼任1名)、共通科目6名 (兼任6名)である。なお、外国籍の教員は2名(専任・兼任各1名)となっている。 【点検・評価 長所と問題点】 本研究科の教員数は 112 名であるのに対し、在学中の大学院学生の総数は 449 名である ことから、専任教員一人あたりの学生数は 6.8 名となっている。この比率は、大学院学生 に対する研究指導体制として、おおむね良好と考えられる。ただし、専攻別に見ると、刑 事法専攻が 10.1 名、民事法専攻が 9.1 名、国際企業関係法専攻が 8.2 名、公法専攻が 3.3 名、政治学専攻が 3.1 名という順となっており、専攻ごとに比率が異なっている。また、 指導教授として、論文指導する大学院学生数についても、教員により大きな差がある。 【将来の改善・改革に向けた方策】 第一に、国際化の進展状況の中で、本研究科の教育研究体制を一層確立するためには、 外国人教員の増加が不可欠である。第二に、大学院が大学において占める比重が、今後い っそう高まるという事情に鑑みれば、より柔軟な人事制度の構築が望まれるところである。 5−(2) 研究支援職員 【現状の説明】 本研究科に所属する教員の研究を支援する職員として、法学部文献情報センター職員と、 RAおよびTAが配置されている。 まず、法学部文献情報センターは、その名が示すとおり、本来的には法学部に所属する 機関であるが、大学院における教育研究体制への支援の役割も果たしている。同センター では、6名のパート職員が配置されており、国内外の法律学の文献や裁判例のみならず、 社会科学に関する文献の検索のサポート体制を支援しているほか、パソコンのトラブルな 402 第3章 大学院 どの事態への対応もしている。 RAは、比較法研究所、社会科学研究所、人文科学研究所などにおける共同研究プログ ラムにおける研究に参加するほか、国内外の文献・資料の収集、翻訳などの役割を担い、 大学院教員の研究をアシストする役割を担っている。現在、RAは 14 名で、全員が博士後 期課程に在学する学生であるが、非常勤職員に準ずる労働条件が適用されている。 TAは、大学院における講義の支援をする役割を担っており、大学院教員の講義の準備 や資料収集に従事している。現在、TAは6名おり、いずれも博士後期課程に在籍する学 生である。 【点検・評価 長所と問題点】 法学部文献情報センターによる検索システムの利用と、同センター職員によるサポート 体制は、これを利用する教員に多くの満足度を与えており、評価できるものである。RA やTAについても、大学院での講義(とりわけ社会人大学院での講義)などでの資料配付 の効率化に寄与しているものと評価することができる。 【将来の改善・改革に向けた方策】 本研究科における研究支援職員の体制については、おおむね評価できるものであるが、 今後も制度をより充実させることが期待される。 5−(3) 教員の募集・任免・昇格に関する基準・手続 【現状の説明】 本研究科所属の教員については、法学部所属の教授職に当たる教員が兼務することとな っている。このため、本研究科担当の専任教員を公募するという形態は採用されておらず、 原則として、教授として法学部で採用された教員、あるいは新たな教授昇格者を大学院担 当の教員として任用するシステムとなっている。ただ、助教授についても、大学院教育に 必要な場合には、大学院担当教員として任用することも認められている。 【点検・評価 長所と問題点】 本研究科の教員(兼任教員を含む)として任用されるための条件として、候補者の研究 業績を審査し、法学研究科委員会に出席する委員の3分の2以上の賛成という厳格な方式 が採用されており、大学院教育に必要な人材が確保されているものと評価することができ る。 【将来の改善・改革に向けた方策】 専任教員の任用については、さほど問題がないと考えられる。兼任教員については、大 学院担当教員が学会活動などを通じて、本研究科の講義担当に相応しい候補者を選定して いるが、他大学や研究機関などから、より広く人材を求める方策が必要となってこよう。 5−(4) 教育研究活動の評価 【現状の説明】 本研究科に所属する教員の教育研究活動は、 「中央大学大学院法学研究科教員紹介」にお いて、各教員ごとに一覧表として掲載されているので、学生はこれにより教員の教育研究 テーマを知ることができる。また、中央大学が発行する『学事記録』 (年1回刊行)に、各 教員の研究業績一覧が掲載されているほか、2000 年 3 月には、『大学院自己点検・評価報 403 告書(研究教育活動報告書)』(第1号)が発刊され、1994 年から 1998 年までの各教員の 研究業績一覧が掲載されている。 【点検・評価 長所と問題点】 以上のように、教員の教育研究活動における実績を示す報告書などは作成されているが、 それを総合的に判断し、改善の方向へ導くための評価システムは採用されていない。 【将来の改善・改革に向けた方策】 「本大学院は、教育研究水準の向上を図り、その目的及び社会的使命を達成するため、 教育研究活動の状況に関して自己点検及び評価に努めるものとする」とする中央大学大学 院学則第2条の2の規定を実行化するために、その具体的な実施システムを早急に整備す る必要がある。 5−(5) 大学院と他の教育研究組織・機関等との関係 【現状の説明】 大学院と学内組織との連携については「6−(1)− ② 教育研究組織単位間の研究上 の連携」で、また大学院における他大学との単位互換制度については「3−(1)− ② 単 位互換、単位認定等」で言及したところである。本研究科と学外組織との連携については、 毎年1∼2名の客員講師(Visiting Professor)を国外から招聘し、1ヵ月から1年の期 間、中央大学客員教員として講義を担当するシステムが採用されている。 【点検・評価 長所と問題点】 Visiting Professor による講義は、本研究科・法学部で行われ、好評を博している。 【将来の改善・改革に向けた方策】 今後も、Visiting Professor 制度を拡充するなど、本研究科における教育研究システム がより多様化されることが望まれる。 6.研究活動と研究体制の整備 6−(1) 研究活動 6−(1)− ① 研究活動 【現状の説明】 本研究科に所属する教員の研究は、一般研究、特別研究あるいは特殊研究として行われ ているほか、各種のシンポジウム、講演会などが実施されている。 【点検・評価 長所と問題点】 各教員の研究成果は、各々の学会誌や学外の著名雑誌、学内では、 「法学新報」、 「比較法 雑誌」あるいは各研究所の「研究年報」などで公表されるが、おおむね良好なものと評価 することができる。 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院としての研究活動を促進し、学術の振興に寄与するためには、研究成果とりわけ 学位論文の出版助成を、一層充実させることが必要と思われる。また、専任教員の研究成 果、学会活動、学会での評価等を、より正確に集約するよう努めることも重要となろう。 なお、これを学内外に公表する際には、インターネット・ホームページを活用することも 視野に入れられてよいであろう。 404 第3章 大学院 6−(1)― ② 教育研究組織単位間の研究上の連携 【現状の説明】 「6−(1)− ① 研究活動」でも言及されたとおり、学内の研究所として「日本比較 法研究所」「中央大学社会科学研究所」「中央大学人文科学研究所」等があり、本研究科の 専任の教員が研究活動に従事している。教員個人による研究のほか、多数の共同研究チー ムが組織され、そこでは中央大学の他学部・他研究科、他大学の教員、大学院学生等も加 わって活発な研究活動が行われている。また、専任教員が主宰する専門分野別の研究会と して、公法研究会、基礎法研究会、民事法研究会、刑事判例研究会、政治学研究会、国際 関係研究会等があり、大学院の学生も参加して活発な研究活動を展開している。 【点検・評価 長所と問題点】 これらの研究所が固有の事業計画に基づいて予算を編成し、教員の研究活動を支えるこ とには大きな長所がある。ただし、これら研究所と大学院との間で、研究上、特段の連携 が意識されているわけではない。 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院が、従来のような研究者養成だけでなく、高度専門職業人の養成をはじめとして、 より多様化した役割をも担うに至っていることに鑑みると、学内の研究所の機能にも一定 の変化が生じてくる可能性があろう。ただし、具体的な改善・改革に向けた方策を策定す るのは、今後の課題である。 6−(2) 研究体制の整備 6−(2)− ① 経常的な研究条件の整備 【現状の説明】 以下では、a.研究費、b.教員研究室、c.教員の研究時間確保という3つの点から 説明する。 a.研究費 「中央大学学内研究費助成規程」に基づく学内研究費としては、① 定課題研究費、③ 基礎研究費、② 特 共同研究費があり、いずれも 2001 年度から改められた部分がある。 ①は、個人で行う学術研究を支援するために助成される研究費である。学内研究費全体 の中での基盤的研究費として位置づけられ、研究用図書の購入をはじめとして、パソコン 等機械器具の購入、研究旅費、謝金、学会年会費等に充てることができる。教員の研究ス タイルの多様化を反映して使途が拡大される傾向にあったが、2001 年度からは、一定の手 続を経て外国旅費としても使用できる等の改善がなされた。 ②は、教員の専門分野における特定の課題について個人で行う研究を支援することを目 的とする研究費である。原則として、助成を受けようとする年度の前々年度に、文部科学 省または日本学術振興会の科学研究費補助金に申請していることを条件とする一方、使途 範囲を外国旅費にまで拡大する等の点が改められた。 ③は、学際的学術研究を格段に発展させるとともに、学部、大学院、研究所および学外 研究機関との研究交流を促進し、もって教育研究水準の一層の向上を図るための助成制度 である。共同研究プロジェクトの研究代表者を本学専任教員とし、プロジェクトのメンバ 405 ーの過半数が本学専任教員であることを要件とし、300 万円以上・100 万円以上 300 万円未 満・100 万円未満という3つの金額区分が設けられている。 b.教員研究室 教員研究室は、助手以上の専任教員1名に1室が割り当てられ、1室は 19.44 ㎡(7.2 ×2.7m)である。教員研究室の使用については、「中央大学教員研究室使用規程」が定め られており、また、教員の個人研究室等の円滑な運営と使用の適正を図るために「中央大 学研究室委員会」が設けられている。 c.教員の研究時間確保 教員の研究時間を確保するために、①特別研究期間制度(在宅研究)(「中央大学特別研 究期間制度に関する規程」に基づく)、②在外研究制度(海外留学) (「中央大学教員在外研 究に関する規程」に基づく)がある。 ①は、専任教員が、個人で行う特別の研究の推進に資するため、学年始めから1年間、 一切の校務を免除され、特別研究費の補助を受け特定の研究に従事するものである。この 制度は、本学に5年以上(助手の期間を除く)継続勤務した専任教員を対象とし、特別研 究費の使用方法や請求手続は、基礎研究費とほぼ同じ扱いを受ける。 ②は、専任教員が、在外研究費の支給を受け、学術の研究・調査のため一定期間、外国 に派遣されることによって、本学における教育研究の向上と発展に寄与することを目的と するものである。専任教員のうち教授・助教授・専任講師であって、在外研究を希望する 年度において年齢が満 65 歳未満(ただし、教授会が特に認めた場合はこの限りでない)で あることが申請の要件とされる。在外研究期間および研究費については、1年・375 万円、 6カ月・245 万円、3カ月・155 万円の3つの区分がある。 【点検・評価】 本学における研究費制度および在宅・在外研究制度は長い歴史を持ち、専任教員の研究 基盤を充実させる役割を担ってきた。教員研究室も、専任教員1人1室の使用が確保され ている。 【長所と問題点】 研究費、在宅・在外研究期間制度および教員研究室の使用は、全教員に対して平等に保 障され、研究費も徐々に増額されてきた。また、2001 年度からスタートした新しい研究費 制度においては、従来から懸案と認識されていた旅費充当、備品購入等についていくつか の改善を見た。しかし、教員の間では、研究費のさらなる増額や使途の自由化を求める声 が多く聞かれる。さらに、新しい研究費制度のもとで、特定課題研究費の申請にあたり、 原則として科学研究費補助金への申請が要件とされたこととの関連において、申請手続に あたっての事務局の情報提供その他のサポートがともなうことも、問題として残されてい る。 なお、教員の研究時間確保との関連では、昨今、教員の校務負担が重くなりつつあると の認識の下で、従来の在宅・在外研究期間制度だけで研究専念期間として十分と言えるか を問う声がある。 【将来の改善・改革に向けた方策】 本学の研究費制度は、2001 年に改められたばかりであるが、教員の研究スタイル多様化 にともなって、研究費の使途・使用手続についてはさらに柔軟な対応がなされるよう改善 406 第3章 大学院 の余地が残されている。また、コンピュータ利用による研究および情報検索へのサポート 体制も、引き続き整えられる必要があろう。 7.施設・設備および情報インフラ 7−(1) 施設・設備 7−(1)− ① 施設・設備等 【現状の説明】 現在、本研究科の学生研究室は、博士前期・後期課程全体の収容定員 344 名に対して、 約 20 ㎡の部屋が 45 室ある。利用時間は、開門時刻(8時)から閉門時刻(23 時)までと なっており、庶務課(1号館受け付け)が、学生研究室室員名簿により、その室員に直接、 鍵の貸し出しを行っている。また、社会人学生用の共同研究室を多摩校舎に1室(85 ㎡) 有している。 講義・演習室は、多摩校舎2号館に大学院教室 21 室(各研究科共用)があり、主に昼間 の時間帯に授業を開設している。これらの教室を中心に、情報自習室、教員の個人研究室 等で授業を行っている。また、夜間の時間帯および土曜日の授業は、社会人学生を主な対 象に市ヶ谷校舎で行っている。 研究施設・設備としては、多摩校舎2号館および3号館に学生共同研究室がそれぞれ1 室ずつあり、研究会等に利用する他、学生相互または教員との交流を図っている。 研究図書については、一般専門図書は、多摩校舎の中央図書館、大学院図書室を利用で きる他、2号館4階にある日本比較法研究所、社会科学研究所等の各研究所の蔵書も利用 できる。そこでは、和雑誌 1,731 種、洋雑誌 1,946 種が閲覧に供されている他、和書籍 95,369 冊、洋書籍 92,238 冊が整備されている。学生への利用案内については、図書館ホームペー ジ、図書館発行の「中央大学図書館利用案内(大学院学生・教職員用)」、 「資料のさがし方 ガイド」等を提供し、また文献情報検索システム(CHOIS:中央大学オンライン目録)を稼 動していることにより、利用者の利便を図っている。また、検索文献が研究所や図書館等 で探し出せない場合には、中央図書館のレファレンス・ルームを通じて、他機関への複写 依頼が行えるなどの文献収集のサポートを行っている。 その他、大学院事務室には、資料等の複写サービスのためのコピー機4台を設置し、ノ ート型パソコンの貸し出し(35 台)などを行っている。 2000 年度から開設された市ヶ谷キャンパスには、図書室(蔵書冊数約 4,500 冊、雑誌 153 タイトル、座席 50 席)、パソコンルーム(1室 40 台)、学生共同研究室(4室 133 席)が 設置されている。また、貸し出し用ノートパソコンが 40 台ある他、共同研究室、談話室、 図書室等の各所に情報コンセントを敷設し、個人のパソコンをネットワーク環境に接続す ることが可能となっている等、先端的な教育研究活動を支援する環境が整備されている。 同キャンパスの開室時間は 10 時から 22 時までとなっている。 【点検・評価 長所と問題点】 大学院では、学生研究室、講義・演習室、情報自習室、大学院図書室、教員の個人研究 室、事務室などが、すべて2号館に集まり利便性の高い環境が整っていると言える。これ らの施設は当然、空調なども完備している。しかし、学生研究室の現状は、本研究科で1 室平均 6.1 名と手狭になってきており、今後の改善が望まれる。 407 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院教育に対する社会的要請は年々高まる傾向にあり、それにともない入学希望者も 増えてきている。入学者の具体的要望も、より高度に、より多様になりつつある。これら の状況に応えるべく、毎年予算計上し、漸次、施設・設備の充実を図っているが、現在と は社会情勢の異なる多摩移転時の施設・設備を基礎としたインフラ整備はいささか時代遅 れの感は否めない。 特に、学生研究室が手狭なことについては、学生定員の管理にも関係してくるが、早急 に解決されるべき問題で、現在は多摩キャンパス内で新たな場所を模索している。しかし、 このような絶対的スペースが不足している問題は大学院のみならず、多摩キャンパス全体 の整備計画の中で取り上げていくべきである。 市ヶ谷キャンパスについては、専門大学院の開設に備えて一層の整備が進められている ため、サテライトキャンパスとしての教育研究環境としてはさらに改善・充実されるもの と考えている。 7−(1)− ② 維持・管理体制 【現状の説明】 大学院施設・設備等の維持・管理については、基本的には法人部門の管財部が所管して いる。そのうち、什器類等の設備に関しては、大学院において付設計画を立て、研究科委 員長会議の審議を経て予算申請し、予算所管課の査定を受けて、予算が配付され実行に移 される。その際、学生の自治組織である院生協議会などの意見も委員長会見を行って聴取 し、予算申請に反映させている。 また、建物の修繕、ネットワーク工事など構築物の修繕にあたるもの、空調費用、電気 代、プロバイダ利用料などは、法人側で予算措置するようになっている。執行は管財課な ど所管課が行うが、大学院の申請に基づくことが多い。 【点検・評価 長所と問題点】 施設・設備の維持管理のための意思決定や予算確保に至るプロセスは確立され、十分に 機能していると思われる。 大学院の予算規模は多摩の文系5研究科を抱えているわりには、あまり大きくなく、特 別計上された予算を含めても年間 6,000 万円程度である。この範囲でやり繰りをし、学生 の研究活動を支えているが、マイナス決算になることも往々にしてある。 学部と比較しても決して恵まれているとは言えず、しかも院生協議会の要望が強い情報 インフラの整備(機器増設、ネットワークの高速化・無線化)について、IT技術の進化 に即応していく維持・管理体制をいかに作るかは重要な課題である。また、多摩移転から 23 年が経過し、建物・施設の老朽化も著しく、現状を維持していくための修繕費の増大が 見込まれる。 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院の限られた予算や時間・労力を費やし、施設・設備の維持・管理にあてるには、 中長期的な視点による計画の策定が必要になるであろう。その際、進捗状況を確認し、計 画立案後の情勢変化を捉えることも必要である。 7−(2) 情報インフラ 408 第3章 大学院 【現状の説明】 現在、本研究科の教員および大学院学生が利用する図書・資料については、中央図書館、 大学院図書室、比較法研究所および社会科学研究所などに所蔵されている。これらの図書・ 資料の書誌データについては、オンライン・データベースが構築されており、学内はもと より、インターネットを介して学外からも検索することが可能となっている。 本学図書館に所蔵されていない図書・資料については、レファレンス・ルームを通して、 国内外の他大学図書館等に現物貸借または複写依頼を行うことが可能となっている。 また、東京外国語大学、東京都立大学との教育研究交流協定に基づき、両大学と本学の 専任教員および大学院学生は、相互に紹介状なしで図書館を利用することができる。 【点検・評価 長所と問題点】 図書・資料については、本学のほぼ全蔵書の書誌データがデータベース化されており、 検索に不自由することはない。また、従来からある他大学図書館との文献の相互利用に加 えて、近年では、交流協定に基づく図書館の相互利用も活発に進められてきている点は評 価できる。 しかし、博士論文および修士論文や大学院研究年報掲載の論文などの保管は、すべて紙 媒体によるものであるため、電子データ化して閲覧に供する等の取り組みがなされるべき であろう。 【将来の改善・改革に向けた方策】 学術資料については、その情報をできるだけ電子データ化していく必要があろう。電子 データを一元的に管理し、利用に供していくことが望まれる。 8.社会貢献 8−(1) 社会への貢献 【現状の説明】 本研究科専任教員は、国や自治体における審議会等の委員、国家試験・資格試験の試験 委員、大学主催(学事課所管)の学術講演会ならびに官公庁および民間部門におけるさま ざまな講演会・研修会等の講師等として、個々の研究成果を社会に還元する活動を行って いる。また、本研究科出身者の多数が、全国の国公私立大学・短期大学等の専任教員とな って教育研究活動に従事したり、法曹として活躍したりしていることも銘記されるべきで ある。なお、本学は、地域に根ざした教養番組を提供することを目指して、八王子テレメ ディア(株)と共同で「知の回廊」を制作し、2001 年 4 月から八王子ケーブルテレビでの 放映が開始された。これまでに3名の本研究科専任教員が番組に登場している。 【点検・評価 長所と問題点】 上に言及されたさまざまな活動に多数の教員が携わっていることは、社会のさまざまな 場面における個々の専門的知識を提供する学識研究者として、また、利害調整における中 立的判断の主体として、本研究科専任教員が高い評価を受けている証左と言える。今後も、 引き続き、こう言ったかたちで教員の研究成果を社会に還元していくことが望まれる。 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院を担当する専任教員の研究成果を社会に還元する要請は、生涯学習、リカレント 教育等の広がりにともなって、今後もいっそう強まるものと考えられる。将来も、積極的 409 かつ組織的に社会への情報発信活動を行っていくことが必要とされよう。 9.管理運営 9−(1) 大学院の管理運営体制 【現状の説明】 本研究科を運営する機関として、法学研究科委員会が置かれている(中央大学大学院学 則4条以下。以下、この項では「学則」という)。法学研究科委員会は、法学研究科に所属 する学部専任の教員をもって組織され(ただし、法学部長は職務上委員となる:学則9条)、 法学研究科委員会において互選された法学研究科委員長が、法学研究科に関する事項をつ かさどり、その研究科を代表する(学則6条2号、3号)。法学研究科委員長の任期は2年 である(学則6条4号) 。 法学研究科委員会が審議決定するべき事項は、次の 13 項目である(学則 11 条1項) 。 ①研究および指導に関すること、②教員の人事に関すること、③委員長の選出に関するこ と、④学生の入学、休学、転学、退学その他学生の地位の得喪・変更に関すること、⑤学 生の外国への留学および外国からの留学生の受け入れに関すること、⑥授業科目の編成お よび担当に関すること、⑦試験に関すること、⑧学位論文の審査並びに学位の授与に関す ること、⑨学生の奨学に関すること、⑩国際交流の推進に関すること、⑪学生の賞罰に関 すること、⑫大学院学則その他重要な規則の制定・改廃に関すること、⑬その他研究科の 教育研究の運営に関する重要事項。 法学研究科委員会の定足数は、委員の過半数であり(学則 11 条3項)、議決は原則とし て出席委員の過半数の同意をもって決するものとされるが(学則 11 条4項)、上記②およ び⑧については出席委員の3分の2以上の者の同意が必要とされる(学則 11 条5項:ただ し、②のうち兼任の教員については、学則 11 条4項の規定を適用することができる) 。 なお、各研究科に共通する事項を連絡協議するため、研究科委員長会議が置かれている。 【点検・評価 長所と問題点】 本研究科の管理運営は、法学研究科委員会における審議・決定が尊重されるかたちで円 滑に行われている。ただし、昨今は、大学院に在籍する学生数の増大、大学院改革の動向 等を反映して、法学研究科委員会における議事も増加し、また、審議に時間を要する議題 も増える傾向にある。 また、研究科委員長の選任手続については、現状において特段の問題はなく、学則に基 づき適切に行われている。 【将来の改善・改革に向けた方策】 現状では、法学研究科委員会の委員は、全員が法学部教授会の会員でもあるが、議題に よっては、2つの会議において重複することがある。したがって、今後は、会議運営上の 効率化を進めて審議の実をあげる方策が望まれると言えよう。 10.事務組織 【現状の説明】 大学院に関わる業務は、法学研究科、経済学研究科、商学研究科、文学研究科および総 合政策研究科の文系5研究科については、多摩キャンパスの大学院事務室が、理工学研究 410 第3章 大学院 科については、後楽園キャンパスの理工学部事務室が行っている。また、法学、経済学お よび総合政策の3研究科は、社会人主体の授業を市ヶ谷キャンパスで行っているため、市 ヶ谷総合事務室と連携を図り、円滑な運営に努めている。 専攻やコース制の新設・改変、学生の募集方法など、大学院の充実・発展に関わる企画・ 立案は、各研究科委員長との連携のもとで進めている。合意形成、学内手続、関係機関と の折衝等、難しい作業もあるが適切に行われている。 予算(案)編成については、編成過程において学生(院生協議会)や教員(各研究科委 員会)からの要望を聞く機会を設け、予算所管部署との折衝を行い、適切な編成に心がけ ている。 なお、大学院の事務組織全体を見たときに、従来型の業務に加え、近年は、多様な入試 制度、社会人学生の増大にともなう高度専門職業人教育、既存研究科の改変や新研究科設 置構想など、種々の問題点が内在しており、事務局機能の強化は、今後の課題である。 【点検・評価】 近年、大学院在籍者が飛躍的に増大している中、学生および教員への支援は、情報関連 設備の拡充や教育研究支援体制(TA、RA等)の導入等、着実に向上させてきた。しか し、学生増にともなう学生研究室不足、社会人学生の増加にともなう市ヶ谷キャンパスに おける円滑な教育研究体制の確立、新形態の研究科設置構想など、懸案事項が多々あり、 今後、事務局は、企画・立案、予算折衝等を通じて、教育研究条件の向上に如何に貢献で きるかが問われている。 【長所と問題点】 現在、文系5研究科では、一つの事務組織の中で相互に協力しあいながら各研究科毎に 1名の職員が専従として担当している。この体制は、他の研究科や大学院全体の動向を横 断的に把握することができるとともに、担当者と当該研究科委員長等にとっては密接な信 頼関係のもとで業務が遂行される等の利点がある。 しかし、近年の大学院の規模拡大による業務量の増大は、ルーチン・ワークに追われて、 将来の大学院の発展を見据えて業務に取り組む余裕を奪っている状況にあるのが現実であ る。 しかも、ここ数年の大学院を取り巻く環境の変化は大きく、在籍学生の増加もさること ながら、従来の研究者養成型の大学院から、社会人学生の増加にともなう高度専門職業人 教育など、著しく多様化している。こうした状況の中で、より高度な問題解決機能が事務 局機能には求められている。 【将来の改善・改革に向けた方策】 大学院の充実と将来発展に関わる事務局としての企画・立案機能の強化を図る。例えば、 知的資産(教育研究内容・成果)のホームページ等による紹介・発信などは学生募集戦略 上からも緊急の課題とされているが、全スタッフによる広報感覚を持っての発信材料の洗 い出し、さらに必要に応じて、短期間の専門スタッフの導入等により課題の解決を図る。 また、学生研究室拡充、遠隔授業設備更新、情報環境整備等、多額な予算措置を必要と するものについては、予算編成・折衝過程において経営資源の効率的運用と大学院の方向 性との調和を十分認識のうえ、事務組織の役割を果たせるよう努力する。さらに、就職、 奨学金等他部署からの協力が必要なものについては、連携を密にし、人的資源の有効活用 411 によって、学生サービスの向上を図る。 さらに、例えば、文部科学省の言う「トップ 30」をも視野に入れた既存研究科の再編・ 統合問題、新研究科設置構想問題、学生・教員双方に有効的、効率的な教育研究を行うた めの研究科間の連携(共通科目・コースの設置、人事交流等)問題等、大学院運営の根幹 にかかわる問題についても経営トップや教学執行部と十分な意見交換を図ることによって、 経営面から支えうるような提言ができるよう事務局機能の強化を図る努力をする。 11.自己点検・評価等 11−(1) 自己点検・評価 【現状の説明】 中央大学では『学事記録』毎年作成し、全専任教員の業績一覧を公開している。また、 本研究科の教員紹介のパンフレットにおいて、各教員の研究テ−マ、主要な著書・論文お よび学会活動を紹介する欄を設けている。 このほか、大学院独自の自己点検・自己評価の活動として、2000 年に『大学院自己点検・ 評価報告書』作成されている。 【点検・評価 長所と問題点】 『学事記録』公開されていることにより、各教員の研究状況を把握することができ、こ の点は評価できるものである。しかし、全教員が毎年の業績を『学事記録』に掲出してお らず、一部の教員の研究業績が空欄となっているものもあり、統一的な業績公開とはなっ ていない点が問題である。また、各教員が各々の部署に手書きの方式で業績を提出するシ ステムとなっており、研究業績の多い教員ほど、何回も手書きの業績一覧表を作成するた めの時間をとられるという状況にある。 【将来の改善・改革に向けた方策】 今後は、 『学事記録』の作成については、法学部、法学研究科、比較法研究所、学長室な どの連携をより密なものとして、統一的なものとする必要があるし、研究業績の入力シス テムについても、電子化することが求められる。さらに、本研究科でも、制度的に授業評 価が行われる必要性が検討される必要があるが、大学院の特性からすれば、むしろ学位の 取得状況や、大学その他の研究機関への就職状況という成果により、評価されることも重 要である。 11−(2) 自己点検・評価に対する学外者による検証 【現状の説明】 現在、学外者による客観的評価を受けるシステムは正式には採用されておらず、各教員 が国立情報学研究所による「学術研究活動に関する調査・個人調査票」を大学がとりまと めのうえ、提出しているに過ぎない。 【点検・評価 長所と問題点】 学外者による検証は行っていないことから、特に記載する内容はない。 【将来の改善・改革に向けた方策】 今後は、一層大学院の社会的責任が高まる点に鑑みれば、まず第一に、教育や研究体制 に関する学内での客観的な評価システムの確立が不可欠である。しかし、それにとどまら 412 第3章 大学院 ず、大学の自治を尊重しながら、他大学や外部組織などの統一的な第三者評価システムの 確立が必要と考えられる。 11−(3) 評価結果の公表 【現状の説明】 大学院独自の自己評価を集大成したものとして、2000 年に全文 812 頁にわたる『大学院 自己点検・評価報告書』が作成・公表されており、本研究科についても、自己評価の公表 がなされている。 【点検・評価 長所と問題点】 本研究科を含む大学院独自の自己評価報告書が作成・公表されたことは画期的であるが、 その内容は各教員の研究業績の紹介にとどまっていること、また作業が個人単位で行われ たことから、全員の研究業績が掲載されたものではないという問題点が残されている。 【将来の改善・改革に向けた方策】 今後は、全教員の研究業績を掲載するだけでなく、独自の教育システムを採用している 大学院での教育内容を紹介するなど、大学院教育に関する報告内容の充実も望まれるとこ ろである。 413
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