RADIOSS による統一的な弾塑性構成則の組み込み

アカデミックオープンプログラム報告書
RADIOSS による統一的な弾塑性構成則の組み込み
岐阜大学大学院
岐阜大学
工学研究科
工学部
数理デザイン工学専攻
小塚祐也
数理デザイン工学専攻
1. はじめに
解析精度向上を目的として,これまでに多くの構成則が提案
されている.しかし,これらすべてを汎用コードで利用できる
とは限らない.これに対し,多くの汎用コードではユーザサブ
ルーチン機能を提供しており,解析者が所望の構成則を自らで
組み込むことができる.
ユーザサブルーチンを利用する際,各コードの仕様により,
用いる変数名やその格納方法が当然異なる.すなわち,作成さ
れたユーザサブルーチンの利用範囲は限定される.しかし,ど
の汎用コードにおいても「局所的な応力とひずみ」の関係を示
す事に変わりはなく,その役割は共通である.そのため,構成
則ルーチン(各汎用コードに共通する部分)をコード依存の部
分と独立にすれば,特定のコードに限定されない構成則ルーチ
ンを開発できる.そして,各汎用コード固有のユーザサブルー
チンを,構成則ルーチンとの「接続部分」として開発すれば,
様々な汎用コードで構成則ルーチンを流用できる.この様な考
えから,実際に特定非営利活動法人非線形 CAE 協会[1]材料モ
デリング分科会では,構成則ルーチン UMMDp(Unified Material
Model Driver for Plasticity)を開発している[2].UMMDp には様々
な弾塑性構成則を組み込まれており,これを利用することで解
析精度の向上が期待される.
そこで,本研究では,UMMDp に組み込まれている弾塑性構
成則を用いることで解析精度を向上させることを最終目的と
する.その先駆けとして本論では,「UMMDp の利用を前提と
した RADIOSS のユーザサブルーチンを開発」する.次いで単
純な検証問題を通してその動作確認を行なう.
2. 弾塑性構成則
金属材料の構成則モデルとしては,降伏関数を定義すること
によって,応力とひずみ関係を表現する弾塑性型のものが一般
的である.降伏関数としては von Mises 型をはじめ,多くが提
案されている.具体的な降伏関数は各モデルで異なるものの,
以下の基礎式に基づく.
永井学志
(
降伏条件
)
(2.2)
フック則
(2.3)
⁄ (
関連流動則
(
背応力の発展式
)
)
UMMDp は,構成則サブルーチンの基本的な機能である応力
積分と整合接線係数の算出を行なう.その枠組みを Fig.1[3]に,
利用する変数を Fig.2 に示す.なお,応力積分アルゴリズムに
は後退 Euler 法を用い,相当塑性ひずみ増分 p をニュートンラ
フソン法で求めている.
入力(引数)
増分前応力:{ }
}
ひずみ増分:{
出力
増分後の応力:{
}
塑性ひずみ増分:{
}
増分前相当塑性ひずみ:
相当塑性ひずみ増分: p
}
増分前背応力:{ }
増分後の背応力:{
Fig.2 UMMDp の変数
UMMDp 内部では,弾塑性構成則に関する枠組みが確立されて
おり,それぞれがモジュール化されている.そのため,様々な
降伏関数や硬化則から所望のものを選択し,利用する事ができ
る.なお,新たな降伏関数を UMMDp に組み込む場合,対応す
るモジュールを変更するのみでよい.UMMDp に関する検証作
業は,原著論文の降伏曲面との比較などによってユーザサブル
ーチンとは独立に行なう.
ANSYS
ADINA
LS-Dyna
MSC.Marc
Radioss
Plugs:
umat
usermat
ucmat2
ucmat3
umat**
utan**
hypela2
LUSR**(C)
Main program
to test UMMDp
ummdp_test
Current stress {n}
Strain increment {}
von Mises
Linear
Hill 1990
UMMDp
Hill 1948
BBC2005
Isotropic
Unified Material
Model Driver
for Plasticity
Ludwick
Combined
Gotoh bi-quad
BBC2008
Barlat Yld2000
Vegter 2006
Prager
Barlat Yld2004
Ziegler
Karafills-Boyce
Kinematic
ummdp_chkyf
Hardening rules:
Armstrong
Barlat Yld89
Cazacu 2006
Chaboche
(2.5)
3. UMMDp(Unified Material Model Driver for Plasticity)
Abaqus
Swift
(2.4)
ここで , はそれぞれ応力,背応力であり, は相当応力で
ある.また, はひずみ増分であり
,
はそれぞれ弾性
部,塑性部である. ,
は相当塑性ひずみと相当塑性ひずみ
増分である.なお,(2.1)式の左辺は降伏関数に対応している.
Codes:
Voce
(2.1)
弾塑性分解
Updated stress {n+1}
Consistent tangent [Δσ / Δε]
Curve
library
( )
Main program to
check yield function
and its differentials
Fig.1Framework
Frame work
UMMDp
FFig.1
ofof
UMMDp[3]
Eq.stress e and
its differentials
Stress {}
Yield Functions:
4. RADIOSS への組み込み
構成則ルーチン UMMDp の RADIOSS への組み込みは,
RADIOSS が標準に用意しているソリッド要素用のユーザサブ
ルーチン LUSERxx(xx:01~99)を用いる.LUSERxx では「増分
前の応力」,および「ひずみ増分」を UMMDp への入力(引数)
として「増分後の応力」を親ルーチンへ返す役割を担う.ここ
で,求めた応力は,増分計算後の内力を評価するために用いら
れる.
加工硬化を解析が継承していくためには,加工硬化を示す状
態変数として「相当塑性ひずみ」や「背応力」を解析中に維持
しなければならない.これらの変数には,RASIOSS が標準に用
意しているユーザ変数 UVAR を用いる.なお,ユーザ変数は
UMMDp によって求めた変数を用いて随時更新する.Fig.3 に,
UMMDp と RADIOSS の変数の対応関係を示す.これらの変数
を適切に変換することで,UMMDp を RADIOSS に接続する.
5.2 検証問題
5.2.1 単純せん断問題
Fig.5 に示す単純せん断問題を考える.境界条件から本問題
を平面ひずみ問題とし,Fig.6 に示す x 方向変位を点 C に与え
る.なお,本解析は 1 ステップ 100inc として行なう.
解析結果の相当塑性ひずみと相当応力をそれぞれ Fig.7,
Fig.8 に示す.RADIOSS に標準装備された von Mises(built-in)の
結果を実線で,UMMDp を利用した結果を○で示している.2
つの結果を比較し,本問題に対するユーザサブルーチンの動作
確認を行なった.
y
G
H
D
境界条件
C
ux=0 on face ABFE
RADIOSS
UMMDp
{
uy=0 on face ABFE, DCGH
}
ひずみ増分
DEPSXX~DEPSZX
増分前応力
SIGOXX~SIGOZX
増分後応力
SIGNXX~SIGNZX
相当塑性ひずみ
UVAR(*,1)
塑性ひずみ
UVAR(*,2~7)
{ }
背応力
UVAR(*,8~13)
{
{
{
uz=0 on face ABCD, EFGH
x
}
E
}
ux=δx on face DCGH
B
A
z
F
Fig.5 単純せん断問題
}
1
5. 検証例題
開発した RADIOSS のユーザサブルーチンの動作確認を
NAFEMS 記載の問題[4]を用いて行なう.検証は,RADIOSS に
変位δx[mm]
Fig.3 UMMDp と RADIOSS の変数の対応関係
0.5
標準装備(built-in)されている弾塑性構成則(von Mises 型等方性
降伏関数)の結果と,UMMDp を介して von Mises 型の降伏関
0
数を用いた結果を比較する事で Code to Code Verification を行な
0
Fig.6
5.1 検証モデル
検証問題の形状(一辺が 1mm の直方体)を Fig.4 に示す.要素
1
step
う.
強制変位履歴
0.5
形等方硬化モデルの材料定数はヤング率を 50.0×103N/mm2 ,ポ
アソン比を 0.25,初期降伏応力を 5.0N/mm2,加工硬化係数を
62.5×103 N/mm2 とした.
y
G
H
D
相当塑性ひずみ
分割は 6 面体 1 次要素で 1×1×1 とした.また,von Mises 型線
0.4
0.3
0.2
p(UMMDP)
p(Built-in)
0.1
0
C
0
0.2
0.4
0.6
time[s]
Fig.7
F
E
A
z
B
Fig.4 検証問題の形状
x
相当塑性ひずみ
0.8
1
相当応力[MPa]
3.E+04
2.E+04
1.E+04
se(UMMDP)
se(Built-in)
0.E+00
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
time[s]
相当応力
Fig.8
Fig.12
5.2.2 変位制御による引張問題
Fig.9 に示す境界条件の下,点 C に Fig.10 の強制変位を与え
る.なお,解析は各ステップ 20inc として行なう.
解析結果の各応力成分と降伏曲面をそれぞれ Fig.11,Fig.12
に示す.built-in と UMMDp の結果を比較し,本問題に対する
ユーザサブルーチンの動作確認を行なった.
降伏曲面
5.2.3 荷重制御による引張問題
Fig.9 に示す境界条件の下,点 C に Fig.13 の荷重を与える.
解析結果として点 C の変位を Fig.14 に示す.built-in と UMMDp
の結果を比較し,本問題に対するユーザサブルーチンの動作確
認を行なった.
y
G
H
D
境界条件
C
E
A
F
x
ux=0 on face AEHD
uy=0 on face ABFE
uz=0 on face ABCD
ux=δx on face AEHD
ux=δy on face CDHG
ux=δz on face EFGH
Fig.13
B
荷重履歴
z
Fig.9
境界条件
Fig.14
Fig.10
強制変位履歴
点 C の変位
6.おわりに
本論では,構成則ルーチン UMMDp の利用を前提とした
RADIOSS のユーザサブルーチンの開発した.さらに,検証問
題を通してその動作確認を行なった.なお,本論で行なった
RADIOSS のユーザサブルーチン開発は,特定非営利活動法人
非線形 CAE 協会の活動の一環として,担当したものである.
なお,本論で開発したサブルーチンを含む UMMDp の一連の
構成則ルーチン郡は,約一か月後に一般公開される予定である.
(2012 年 9 月現在)
参考文献
Fig.11
各応力成分
[1]URL: http://www.jancae.org/
[2]瀧澤英男 他:NPO における汎用コードへの異方性塑性構成
式組込み活動,計算工学講演会論文集,vol.16,2011
[3]瀧澤英男:ユーザサブルーチンによる異方性塑性構成則の
組込み,第 4 回 メカニカルデザインセミナー Mechanical
Design2011
[4] Becker,A.A:Undestanding Non-linear Finite Element Analysis
Through Illustrative Benchmarks,NAFEMS,20