第 14 号 ピロリ菌のお話 ヘリコバクター・ピロリ菌を発見 したオーストラリアの医師マーシャル先 生 と 病 理 学 者 ウ ォ ー レ ン 博 士 の 功 績 は 2005 年 の ノ ー ベ ル 医 学 生 理 学 賞 に 輝きました。ピロリ菌は胃に感染する唯一の細菌です。従来、胃袋は強い 酸性状態(胃液中の塩酸による)にあり細菌は感染できないとされていま した。かねてから胃潰瘍 の周囲粘膜に細菌がいるのを気づいていた両先 生 は 1982 年 に 自 ら 実 験 台 に な る こ と を 決 意 し 、 マ ー シ ャ ル 先 生 が ピ ロ リ 菌 の 培 養 液 を 飲 む と い う 捨 て 身 の 実 験 を し た の で す 。5 日 後 よ り 激 し い 急 性胃炎の症状が出現し、検査にて自分の胃粘膜からピ ロリ菌を確認し「ピ ロリ菌の胃粘膜への感染と胃炎の発症」を証明しま した。ピロリ菌が発見 さ れ ると 全世 界で 一斉 に そし て急 速に 研究 が 進み、胃の 病気の 7 割程 にピ ロリ菌感染が原因・関与している事や治療により改善・治癒できることも 分かり「革命的な発見」としてノーベル賞となったわけです。 ピロリ菌の除菌治療が胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発予防として行われ ている一方で、胃がんはピロリ菌の感染者に多く 発症し、両者には密接な 関連が疑われてきました。中国・韓国・日本そして南米は胃がんの多い国 であり、またピロリ菌の感染率も多くみられます。ところが、インド・東 南アジア地方などの様にピロリ菌の感染率が高いにも関わらず胃がんが 非常に少ない国もあります。不思議ですよね。その後研究が進み、胃がん の多い地域のピロリ菌は胃がんの少ない地域のピロリ菌には無い特殊な 毒 素 を 持 っ て い る こ と が 解 り ま し た 。 こ の 毒 素 は 「 Cag A 遺 伝 子 」 と 命 名 さ れ ピ ロ リ 菌 の DNA 中 に 存 在 し 、 強 い 毒 性 の Cag A 蛋 白 を 分 泌 し て 胃 粘 膜 内 に 注 入 し ま す 。胃 が ん 多 発 国 の ピ ロ リ 菌 の 多 く は Cag A 遺 伝 子 を 有 し 、 胃粘膜内に強い毒素を長期間注入し続けることにより重度の慢性胃炎を 持 続 さ せ て 胃 が ん が 発 生 し や す く な る 訳 で す 。 ピ ロ リ 菌 が 感 染 し て 約 60 年程経過すると発がん性が高まってきます。ピロリ菌感染によって胃粘膜 の 萎 縮が 進む ほど 胃が ん が発 生し やす くな り ます。胃粘 膜の萎 縮 の程 度は 胃から分泌されて消化酵素ペプシンのもとになるペプシノゲンという物 質の血液中の濃度を測定することでわかります。基準値以下の人は6~9 倍胃がんになりやすいことがわかっています。 最近では胃がんの発生を予防するための胃がんリスク検診(ABC検 診 ) が 行 わ れ て い ま す 。 こ れ は ピ ロ リ 菌 感 染 の 有 無 ( 血 清 ピ ロ リ 菌 IgG 抗 体)と胃粘膜萎縮の程度(血清ペプシノゲン値)を測定し、被験者が胃が んになりやすい状態かどうかをA~Dの4群に分類してリスクを評価す る検診法です。血液 による簡便な検体検査で簡単に言うと胃がんになり や す い人 を探 すた めの 検 査法 です。胃がん そ のも のを 見つ ける 検 査で はあ り ま せ ん の で 注 意 が 必 要 で す 。胃 が ん に な る 危 険 度 が き わ め て 低 い( A 群 ) を精密検査の対象から除外して、ピロリ菌に感染(またはかつて感染)し て胃粘膜に萎縮のある人たち(B~D群)に 胃がんの存在を確かめる ため 精密検査(内視鏡検査等)を受けていただくためのものです。 胃 が んは ピロ リ菌 感染 に 由来 する がん で、ピロ リ 菌 を除 菌する こ とで 胃 がんの発生を3分の1に減らせます。単に胃がんによる死亡者数(率)の 減 少 を 目 指 す だ け で は な く 、除 菌 治 療 で 胃 が ん の 発 生 を 予 防 し( 1 次 予 防 )、 精密検査で早期胃がんを発見し(2次予防)、内視鏡治療で完治させるこ とを重視します。胃がんリスク検診(ABC検診)により、胃がん発生の リスク(危険度)がわかった人は、無症状であっても専門医で内視鏡検査 と ピ ロリ 菌除 菌を 行い 、そ して 内視 鏡検査 で 発見 され た 早 期胃 が んに 対し ては低侵襲の内視鏡治療を行うことこそがピロリ菌時代の胃がん対策と 言 え ます。治療 後も個 々 に合 った 間隔 で定 期 的に 内視 鏡検 査を 受 ける 事も お忘れなく。
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