最近の航空機の設計技術 - 公益財団法人 航空機国際共同開発促進基金

(公財)航空機国際共同開発促進基金
【解説概要 14-3-2】
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最近の航空機の設計技術、生産技術 及び 他産業への波及効果
1.最近の航空機設計技術及び他産業への波及効果
航空機の市場状況は、2001年9月11日の米国同時多発テロにより航空需要が落ち
込んだものの、長期的には好調な成長が予測されている。
(財)日本航空機開発協会(JA
DC)の予測によると、2001年~2021年の20年間で世界の航空旅客(有償旅客
キロ)は2.7倍になることが示されている。
これを反映して大手航空機メーカーは新規開発計画を発表しており、大別すると、大型
化を狙ったエアバス社のA380計画と高速化を狙ったボーイング社のソニック・クルー
ザー計画がある。
「A380」計画は、2000年末に発表されたA3XX計画がベースになっており、
500~800席の大型機を2006年に市場投入する計画で、現在推進されている。
一方、ソニック・クルーザー計画は、混雑するハブ空港を避け、2地点間の直接運航路
線を狙った高速機であり、マッハ.95~.98の巡航速度が特徴で、市場投入は200
8年に予定さたものである。しかし、最近のボーイング社の発表によれば、ソニック・ク
ルーザー計画に代えて、同じ市場を対象とし、速度よりも運航効率に重点を置く「SEA
(Super
Efficient
Airplane)計画」を推進すると決定し、このSEA計画でもソニッ
ク・クルーザー計画で得た様々な先進技術が適用される、との事であるが、細部はまだ明
らかにされていない。
これらのいずれの計画でも機体の軽量化が鍵であり、複合材料技術、精密鋳造技術、摩
擦攪拌接合技術、新アルミ合金等の新設計技術の広範な適用が想定されている。
また、設計効率化技術についても、3次元の設計ソフトにより作成したDMU(Digital
Mock UP)を用いて、設計、工作等の関係者が同時並行的に作業を進めるコンカレント エ
ンジニアリングの手法が広く用いられている。コンカレント エンジニアリングとは、関係
する全部門が情報を共有し相互補完しながら、同時並行的に個々の作業を展開していく手
法である。具体的には、CATIA 等の3次元設計ツールにより作成したデジタル データを唯
一の設計出力とすることにより、全部門がリアルタイムで設計データを共有するものであ
る。この手法により、構造設計、強度計算、装備設計等の設計部門から、製造プラン、治
工具設計までの全部門が緊密なインターフェースを取りながら同時並行的に作業展開して、
設計図、治工具図面、製造指図書等、製造に必要な書類一式を同時発行することが可能に
なった。この手法は、ボーイング社や日本のメーカーのみならずエンブラエル社等のリー
ジョナル機の開発においても適用が進んでいる。
以下、主として軽量化技術に関して述べる。
1.1
軽量化技術
軽量化を目指した複合材技術、精密鋳造技術、摩擦攪拌接合技術に関する設計技術では、
新技術を採用した新構造様式の研究が行われている。
(1)複合材技術
複合材技術の分野では、1970年代に動翼類、ドア類に炭素繊維強化プラスチ
1
ック(CFRP)材の適用が始まり、1980年代からは一次構造の尾翼へ適用が拡大
した。現在、ビジネス機では全複合材の機体も現われているが、旅客機の分野では、
胴体や主翼への適用は研究段階にある。ただし、ソニック・クルーザー計画等の新
規開発計画では、炭素繊維強化エポキシ複合材料を主翼、胴体、尾翼等の機体の主
要部分にも適用することが想定されているものもある。
複合材料は、表面平滑度が優れているので空力特性の向上につながり、金属構造
と比較して15%~20%の重量軽減効果があるものの、製造コストが高いという
課題がある。上記のような広範囲な複合材料の適用に当たっては、従来のアルミ構
造を単に置き換えただけではなく、複合材の特性を活かした一体成型の新構造様式
を想定して軽量化、低コスト化等の適用効果を上げる必要がある。
(2)精密鋳造技術
複合材技術については、従来の鋳造材料は強度が低い、強度がばらつき信頼性が
低い、等の欠点があったが、近年は材料の改善と鋳造技術の進歩により強度特性の
バラツキが低減した。
主として航空機への適用を目的とした Al-Si-Mg 系のアルミ合金の D357.0 が開発
され、鍛造材と同等以上の低バラツキ特性を実現し、MILの材料規格
(MIL-HDBK-5)にA値、B値が設定された。D357.0 は、強度特性項目によっては、
広く適用されているアルミ合金 2024、7075 と同等の特性を示すので、航空機への
適用の可能性が高く、鋳造の特性を活かした新構造様式の採用によって継ぎ手部重
ね代の省略、ファスナー孔の省略等が実現し、鍛造材による従来構造と比較して軽
量・低コスト設計が可能である。
海外の民間機では、低コスト化達成のため鋳造品の適用が進んでおり、エアバス
のA300、A320の貨物ドア、ボーイングのB737の各種扉類等に適用事例
があり、低コスト化、軽量化を達成している。また軍用機では、F-22戦闘機の
翼胴結合金具やC-17輸送機のロンジロン等の高信頼性が要求される部位への
適用事例がある。
(3)摩擦攪拌接合技術
摩擦攪拌接合技術は、融点以下の温度で接合することにより、金属の組成を変え
ることなく接合が可能になる技術である。具体的には、2種の金属の間に挿入した
ピン(接合ツール)を回転させることにより摩擦熱を発生させて金属を軟化させ、
融点以下の温度で攪拌して接合する。従来は6000系、8000系のアルミ合金
を対象にし、鉄道車両等に適用した事例があり、我が国でも札幌市の地下鉄車両等
へ適用されている。
この技術を航空機用高力アルミ合金(2000系、7000系)に適用する研究
が進められている。これにより、従来は溶接が不可能であった2000系、700
0系合金の溶接が可能になり、航空機に適用した場合、継ぎ手部の重量軽減、部品
点数低減、クラックの起点になるファスナー孔削減による品質の向上という利点が
ある。一方、航空機用高力アルミ合金に適した接合条件(回転速度、送り速度等)
の設定、継ぎ手部の強度評価、内部品質評価
ーカー等で研究が進められている。
2
等の技術課題があり、現在航空機メ
1.2
軽量化技術の他産業への波及効果
(1)複合材技術
複合材技術の1つであるCFRPサンドイッチパネルは耐熱性に優れた構造なの
で、低価格材料及び大量生産方式の開発、廃棄処理方法/リサイクル方法の確立等、
関連分野の研究が進展すれば、省エネ住宅の外壁や自動車の車体等にも適用可能な
ポテンシャルを有している。
(2)精密鋳造技術及び摩擦攪拌接合技術
精密鋳造技術は航空機への適用が主体であり、摩擦攪拌接合については鉄道車両
に適用実績がある。現時点では、航空機を対象とした厳しい設計要求及び品質要求
を満たすための新技術の研究段階であるが、コスト要求を満たせば航空機や鉄道車
両以外の輸送機器や建築構造物等への適用も可能と考える。
2.航空機の生産技術 及び 他産業への波及効果
2.1 機体生産の特徴
航空機は、代表的な総合組立製品である。軽量化、耐久性、安全性が設計要件とされ
ており、以下の様に一般的な工業製品と異なる様々な生産上の特徴、要求を持っている。
(1) 多品種少量生産
(2) 機体構造材料は特殊材料、高性能で広範囲
(3) 主要構成部品は大型、長尺、複雑形状
(4) 厳しい品質要求
(5) 構造部材の一体構造化、軽量化
2.2 生産技術の特徴
これら生産上の特徴、要求を達成するための生産技術として、部品加工から組立・艤装
にわたる幅広い加工技術が使われている。(下図参照)
。
部品加工
機械
板金
接着/複合材
特殊仕上
化学処理
熱処理
溶接
管索
組立・艤装
(例)
多軸 NC 加工
一般機械加工
曲げ成形
超塑性成形
ショットピーニング成形
プリプレグ裁断
自動積層
ショットピーニング
ケミカルミーリング
アルミ表面処理
塗装
3
構造組立
機能試験
サブ組立
主要組立
艤装
機能品取付
管索・電装取付
リギング
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(1)部品加工
部品加工では、近年、板金や型材を加工した部品構造から大型の一体部品を厚板
から削り出すコンセプトへと変化し、部品製造中の機械加工の割合が急激に高まっ
てきている。これは、開発期間短縮と組立精度向上/組立コスト削減からの要求の
結果ではあるが、背景として、3次元CAD/CAM、工作機械、刃具の発達に支
えられ、必然とも言える傾向となっている。
(2)航空機組立
航空機組立は、ファスナーによる結合が主流である事が特筆すべき点である。フ
ァスナー結合は大型機では 100 万箇所以上にものぼり、孔開け、バリ取り、鋲かし
め など多くの工程が必要である。現在、ドリルマシンやオートリベッタなどの自
動化設備が導入されているが、適用はサブ組立レベルであり、最終組立の自動化は
遅れている。以上の為、組立作業は生産工程の直接作業の約半分を占めており、航
空機産業は、今なお労働集約型産業と言われる。
2.3 生産技術の他産業への波及効果
(1)機械加工
アルミ合金等の軽金属の高速切削技術は、自動車部品や車両等の大型削り出し部
品へ適用できる。また、FMS(Flexible Manufacturing System)や3次元CA
Dを使用したNCプログラム作成技術は、他産業の機械加工へも適用されている。
(2)板金加工
超塑性成形技術は、自動車やオートバイの部品、各種金型等に適用されている。
また、エージフォーミング、ショットピーン成形などの大型アルミ合金部品の成
形技術は、船舶や車両、自動車等の大型部品に対し適用される可能性がある。
(3)複合材加工
複合材は、航空機以外にも、宇宙機器、自動車、建築、電子機器・部品、スポー
ツ製品等に適用が広がっている。
航空機の一体成形技術を用いた他産業への適用例として、ロケット・フェアリン
グや新幹線の先頭構体(CFRP 製)等もある。
(4)組立
航空機の組立には、特有のリベットなどファスニング作業を自動化するための特
殊装置の機構や、バリを抑える特殊なドリルの開発が組み込まれており、これらは
他産業へ応用できる技術である。
KEIRIN
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
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