高専生の精神的不調の表現形式について ~UPIによる心の健康調査~ (和歌山工業高等専門学校)○中出明人 1.まえがき さまざまな精神的不調を訴えて保健室やカウン セリングルームを訪れる学生の数はここ数年で急 激に増加している。その主な原因となるストレス も社会の多様化に伴い近年複雑化する一方であり、 学生のメンタルヘルスの管理は重要な課題のひと つとされている。今回、高専生の精神的不調の表 現形式と年次経過による変化を調べるために、2 006年度よりUPI(University Personality Inventory)による調査を継続して実施した。その 結果をここに報告する。 2.対象および方法 1)対象 A群:A高専2007年度1年生~5年生 (778名) B群:A高専2006年度~2009年度 入学者(650名) 57.59〕 ④神経症傾向:項目〔21.30.42.45.51.52.53.54 58.60〕 ⑤活動性 :項目〔5.20.35.50〕 3.調査結果 1)A群 学年別に各因子の平均値を比較したところ、全 ての因子において3年生が一番高い数値を示した。 また、各学年において「抑うつ傾向」の数値が他 を大きく上回り、一番低かった「対人不安」の2 倍以上の結果となった。 (表1) 性差による比較(図1)は自覚症状の4因子は女 子が高く、「活動性」は男子のほうが高いという結 果になった。寮生・非寮生の比較(図2)は全て の因子に大きな差異は見られなかった。 (表 1) 2007年度学年別平均値 抑うつ傾向 心気症傾向 尚、経時的変化を調べるために2006年度 入学者に対しては4年間毎年データをとり続 けた。また、A群においては性差、寮生・非 寮生の比較も試みた。 2)調査方法 UPIを使用。和歌山大学における因子分析 法による尺度化と臨床的妥当性の検討により (抑うつ傾向、心気症傾向、 得られた5尺度1) 活動性、対人不安、神経症傾向)を用いて分 析した。 活動性 対人不安 神経症傾向 1年生 0.448 0.332 0.318 0.196 0.307 2年生 0.427 0.308 0.275 0.209 0.294 3年生 0.485 0.346 0.341 0.243 0.362 4年生 0.450 0.283 0.299 0.219 0.344 5年生 0.438 0.279 0.310 0.229 0.349 平均 0.450 0.310 0.309 0.219 0.331 (図1)性差による比較 男子 0.600 女子 0.500 3)各尺度(因子)の名称とUPI質問項目 ①抑うつ傾向:項目〔6.12.13.15.23.28.29.36. 38.39〕 ②心気症傾向:項目〔1.2.14.16.17.18.22.33. 46.48〕 ③対人不安 :項目〔9.10.26.40.41.43.44.56. 0.400 0.300 0.200 0.100 0.000 抑うつ 1 心気症 活動性 対人不安 神経症 (表2)経時変化・各因子の平均値 (図2) 寮生・非寮生の比較 寮生 0.600 入学時 非寮生 0.500 抑うつ傾向 0.400 0.300 心気症傾向 0.200 活動性 0.100 対人不安 0.000 抑うつ 心気症 活動性 対人不安 神経症傾向 神経症 2年生時 0.396 0.273 0.217 0.150 0.253 0.427 0.308 0.275 0.208 0.294 3年生時 0.461 0.334 0.305 0.208 0.357 4年生時 0.392 0.273 0.281 0.170 0.270 4.考察とまとめ 2)B群 「心気症傾向」、「対人不安」、「神経症傾向」の 数値はほぼ同じ形での増減を見せ正の相関関係を 示したが、「抑うつ傾向」と「活動性」においては 逆の増減も示唆した。2006年から2009年 にかけては、「活動性」の上昇が顕著に見られた。 A群のデータはA高専本科生の 94.5%にあたり、 この調査はA高専本科生の全体的傾向を示してい ると考えられる。今回の調査でA高専の学生が直 面している心の負担は抑うつの傾向が強いことが 明確になった。また、入学から卒業までの5年間 において3年生という学年がひとつのキーである ことも示唆された。悩み、不安、不調、葛藤など を示す自覚症状 56 項目の平均値は 16.03,健康尺 度の4項目の平均値は 1.23 であった。UPIの結 果については多くの大学で報告されているが、自 覚症状は9点台から16点台とばらつきが多く、 健康尺度の平均点は 1.15 から 2.60 で報告されて いる4)。このことからA高専は大学と比べた場合 自覚症状が高く、健康尺度は低いという特徴があ ることが判明した。他高専学生との比較が未実施 であるが、精神的負担を感じている学生が多いと 考えられる。UPIなどによる入学時のスクリー ニングや早期の段階からの個々への援助の必要性 が今後ますます高まってくるであろう。女子学生 へのケアーも忘れてはならない。 (図3)年度別入学生 0.500 0.400 抑うつ傾向 心気症傾向 活動性 対人不振 神経症傾向 0.300 0.200 0.100 0.000 2006 2007 2008 2009 3)経時変化 同一グループでの経時変化は「抑うつ傾向」、 「心気症傾向」、「活動性」、「対人不安」、「神経 症傾向」ともにそれぞれの変化の割合に差異は 見られなかった。(図4) また、因子別の平均値ではA群の結果と同様に 「抑うつ傾向」が一番高い数値を示し、3学年 が全ての因子で一番高い数値を示す結果となっ た。(表2) 参考文献 1) 宮 西 照 夫 、 中 塚 善 次 郎 : 「 U P I ( University Personality Inventory)質問項目の尺度化」, 和歌山大学教育研究法(No8),pp.13-21, (1985) 2)国重徹、佐々木伸子:新入寮生アンケートを活 用した入学時適応援助の方策について:高専教 育第 25 号 pp455-460 (2002) 3) 高木浩彰、伊藤道郎、藤本巳由紀、伊藤道和 :心理検査を用いた学生の精神的健康管理の 試み、高専教育第 25 号 pp.425-429(2002) 4)中井大介、茅野理恵、佐野司:UPIから見た 大学生のメンタルヘルスの実態:筑波学院大学 紀要第 2 集(2007) pp159~173 (図4)経時変化 0.500 0.400 抑うつ傾向 心気症傾向 活動性 対人不安 神経症傾向 0.300 0.200 0.100 0.000 入学時 2年生時 3年生時 4年生時 (表2)経時変化・各因子の平均値 2
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