子供にとって「食べること」とは何か 社会福祉法人江刺保育 園長 遠藤清賢 1. 食の文化 食べることは生きること いかに食物を手に入れるか 縄文時代 水辺、森での狩猟生活 弥生時代 水稲の伝来 家族の成立 自然の恵み 大いなるものへの畏れ 貯蔵の発達 食物の確保が可能 共同の生活 定住の生活 共同体の形成が村となり町となり国家となった。 2. 食の中の宗教 食べ物は自然の中にあった。命は食物と深い関係にある。自然の仕組み、不思議に対し ての神秘。感謝の心 「いただきます」「ご馳走様」の中にある 地上の生物、食物連鎖の頂点にある人、その責任 3. 食は目に見える愛情 食は、運命を共有する証。 家族は食によってつながっている。食は愛情である。 4. 家族の食事 食事の時間は、家族形成の時間。食事のマナーは社会生活の基本となる。 食べること、調理していただいたことへの感謝。愛情の交換 食事時間の会話 5. 食に関する問題 孤食と調理しない食事 噛まない食事 アレルギーの問題 6. よりよいメニューイメージの形成 7. 家族の再生のために 8. 保育園の取り組み 1 子供にとって「食べること」とは何か 1. 食を通じての文明の発達 地上の動物は食べることによって命を保っています。地球ができて 51 億年位、最初の人 間が誕生したのは 700 万年前といわれています。地球の歴史を 1 年の長さにすると、人類 誕生から現在までの長さは 10 分にも満たないくらい短い時間なのです。しかし、私たち人 間の生活は非常に急激に変化してきました。 地上の生き物が生きる上での最大の課題は、食物をいかに手に入れるかです。食物を継 続的に獲得できるものしかこの地上で命を継続することはできません。私たちも同様です。 今の日本では食物は過剰なほどありますので、普通の人々にとっては、食糧確保は重要な 課題ではないように思われています。しかし、災害、異常気象などがあった場合、いかに 食物を確保するのかは最重要な問題となります。いつの時代も、この地上に生きるものと して、食べることは、命の存続に直結した大切な行為となっています。日本では、縄文の 時代、今から1万年前から2300年前の時代は、狩猟生活でした。木の実、動物、魚、 貝、等、自然にあるものを採って食べていました。人が食べることができる物は、山や海、 川などの水辺にあったのです。食べるものは人々にとって、かけがえのない恵みでした。 古代の人々は、その恵みを、人知の及ばない大いなる力のある何かが与えてくれるものと 信じるようになりました。それは神様となり、恵みがいつのときでも与えられるように祈 る信仰が生まれたのです。日本では山や海に、社(やしろ)があるのは、生活を支える食べ 物がそこに豊富にあったからだといわれています。縄文時代の終わりころに今からおおよ そ 3,000 年前に稲作が日本に伝えられたとのことです。それが人の生活を大きく変化させ ました。狩猟生活は、安定して食べ物を確保することができません。食べ物を求めて、移 動する生活であったでしょう。しかし、水稲の技術が発達するにつれ、安定した収穫を確 保できるようになったのです。さらに、貯蔵方法が発達し人は定住生活が可能になりまし た。より多くの収穫を得るために、耕作面積を広め、共同作業が必要になり、集落ができ、 村ができ、物々交換などの交流が盛んになり、町ができ、国家が形成されてきたのです。 個人の生活も定住生活によって、人と人とのが協力し、お互いが共に生きることができる 社会が形成され、今のような家族制度が出来上がりました。 2. 食の中の宗教性 古代人にとって、自分たち人間を含め、作物の成長や動物の誕生は、非常に不思議なこ とでした。何もないところから、命が生まれ、成長し、その中のあるものは、自分たちの 食べ物となる。日本の古代の人たちはこの人知の及ばない自然の仕組みを、目に見えない 不思議として、非常に畏れたのです。それは神の技となり、日照りや、台風、大雨、は神 様の怒りであると考え、その怒りを静めるにはどうしたらいいのか、豊作であったときに 神様に感謝を表すにはどうしたらいいのかを考えました。その神様の怒りを静めたり、感 謝を捧げたり、豊穣を祈ったりする儀式が、ほとんどの日本のお祭りの原型です。個人の 生活の中でも、「頂きます」「ご馳走様」という言葉は、恵みを頂ける事、頂いたことに対 する感謝の気持ちの表現として、深い宗教性があることを知ることができます。日本では お祝い事、弔事など、食事を振舞うことが昔から行われています。お供え物はほとんど食 2 物です。結婚や葬儀、そのほか大切な節目の時に共に頂く食事は神聖な儀式として位置づ けられています。 この地球上の動物は、ほとんど他の生き物から栄養を取らなければ命を維持することが できません。今の時点で食物連鎖の頂点に立っているのは人間たちです。汚れていない土 壌、水や空気があり、その中で植物や微生物が生き、それを食する小動物がいて、そして それを食べている生き物がいる。その頂点に人間がいます。これは何十億年という中で絶 妙なバランスの中で創造された仕組みなのです。この自然のバランスが、人間の人口が異 常に増加し、人間が作り出したゴミや化学物質によって崩れかかっています。水や空気、 土壌が人間の作り出した物質によって、汚染され、食物連鎖の根底にある生き物が、突然 変異や絶滅したりして、それを食べる小動物も同じように生存することができなくなって しまったのです。世界中に、絶滅が心配されている動植物は毎年のように増えています。 地球が気の遠くなるような時間をかけて作りあげた物を、人間は一瞬のうちに己の欲望の ために破壊してしまおうとしているのです。地上の命が失われてしまうことは、人間自身 の自らの命も危なくなるということにやっと気づき始めました。大雨や干ばつなどの異常 気象やオゾン層の破壊、大量の二酸化炭素の発生、など、人間は自分で自分の首を絞めて いるのです。自然は神様が創ったものと信じている者にとっては、神様の与えて下さった 愛情を、人は、ただ踏みにじってしまっているような状況なのです。自然との共生は人類 の存続のために大きな課題となっています。子供たちに、この自然の仕組みと、自然の大 切さを伝え、私たちは人以外の尊い命の犠牲によって自分の命が保たれているのです。そ して、この命仕組みを教えることも、大切な保育園の働きになっています。 3. 目に見える愛情 食べ物がなくなると人々は争ってでも自分の食べ物を確保しようとしてきました。それ が国家間の争いになり、戦争になったのです。歴史上の争いごとの原因は、ほとんど食料 の確保です。人間は空腹になると、命を守るために、暴力を使ってでも食物の確保に全力 を注ぎます。食べ物が充足していれば、心も満たされ、非常に寛容になる生き物です。食 物は神様から与えられる愛情の具体的なものであると言いました。食べ物がないことは愛 情がないことと同じであり、食べることが充分であれが愛情に満たされ、他者に対しても 思いやりの心を持つことができるのです。大切な祝い事や悲しみの弔事には、食事が用意 され共にそれを食べます。喜びを分かち合い、さらに喜びを増し加える。一人の絶望や悲 しみを分かち合い、その負担を軽くしようとすることが、共に食することの大きな役目と なっています。神様からの恵みを共に食するということは、平等に神の恵みを分配するこ とにより、お互いを許し、運命を共にしようという、協力共同の意識が芽生えます。共に 食べることは、平等、博愛の精神の根底にもなっているのです。食物がそうであるのです から、調理された食事はまさに調理された人の目に見える愛情の形となるのです。 4. 家族の食事 調理された食事はまさに目に見える調理した人の愛情となるのですから、家族の食事は、 家族形成に大切な役割を果たしています。親が心を込めて作った料理を、 「頂きます」とい 3 って食べることは、作ってくれた方に対する感謝の表現です。箸の置き方、食器の置き方、 食事のマナーは社会的な決まりを子供に教えるための基本になっています。そして、食事 時間の会話で、一日の出来事をお互いに語り合います。全ての家族の一日の出来事が共有 されます。良かったことは共に喜び、良くない出来事は共に怒ったり、悲しんだりして、 明日への希望につなげます。家族としての一体感が食事の時間に形成されます。そして、 食べ終わったときの「ご馳走様でした。」は、食事を頂くことができたことと、作ってくれ た家族に対しての感謝を表現していますし、神様が創造された自然からの恵に対しての感 謝の表れです。子供が食事をすることは体を大きくすることと同じくらいに、心も成長す るのです。子供の成長にはこの食事の時間がとても大切なのです。バランスの取れた食事 を頂くことと同じく、家族の間での精神的な交流で家族の絆をさらに強くする時間が食事 の時間なのです。ですから毎日、家族全員で食事することが理想です。このような食事に よって子供たちは、親の愛情を獲得し、自分を守ってくれる人が誰なのかを確信するので す。安心できる自分の場所がこの家族であることも確信してゆきます。安心できる場所と 信頼できる家族、愛してくれる人たちが自分を支えてくれることを子供が知った時、それ は子供にとって大きな生きるための力となります。そして、自信に成り、安心して冒険が できるようになります。箸の正しい持ち方や正しい咀嚼は、脳の発達を促します。食事の 中の会話で、親は、子供に対して親の夢を語ってほしいと思うのです。押し付けや強制で はなく、親として、将来は、このような人になってほしいという夢を、優しく語ってあげ て欲しいと思います。その夢は、子供たちの将来の指標になります。 愛情を込めた食事とは、素材を選び、自分自身の手で味をつけることが大切です。調理 する人独自の味を伝えることが愛情を込めた調理となります。味がいいとか、悪いとかは、 大きな問題ではありません。子供のために、家族一人一人のために心を込めて食事を調理 し用意することが大切なのです。そして、親は何でも食べることを見せてあげることも大 切です。好き嫌いは親の食習慣が、そのまま子供に受け継がれます。子供が食べないもの あったとしても、少しでも食べることができるように進めるべきです。食べることができ たときは、心から褒めましょう。親は何でもおいしく食べることと、子供たちが適度に空 腹になるような規則正しい生活リズムを形成することが大切です。 5. 現代の食に関する問題点 • 孤独な食事時間 理想的な家族のあり方をお話しましたが、現代の家族は、その理想形態を徐々に失いつ つあります。幼児期は大体の家族は、みんな揃っての食事時間が守られているようなので すが、子供たちが自立するにつれて孤食の子供たちが多くなっているようです。また、親 が調理を作らなくなってしまった家庭が多く見られるようになってしまいました。調理さ れた食事は、子供にとって目に見ることのできる愛情なのですから、その愛情を親が表現 しなくなってしまったのです。多くはコンビニ、外食などを利用することが多くなってき ました。時には外食やコンビニのお弁当でも悪くは無いのですが、子供たちには出来るだ け手作りの食事を用意してあげたいものです。食事の時間は、孤独なただ食欲を満たすだ けの寂しい時間になっている家庭がたくさんあるのです。 4 小学校に上がる前の子供たちは、どんなことでも好奇心旺盛に話を聞き、自分の考えを 何でも話したいと思っています。自分の持っているものを、思いっきり吐き出したいと全 ての子供たちは願っています。それを受け止めてあげる時間は、一家団欒の食事時間が最 適なのです。子供たちの持っている様々な夢や希望、そして、才能は、この時間に育ち、 発達してゆきます。この大切な時間が失われてしまっていることに、多くの大人たちは無 関心なようです。また、子供たちの間でも、偏った食事が目に付きます。少年院にいる問 題を起こした子供たちの食生活を調査した報告によりますと、親が調理した食事をほとん どの子供たちは食べていなかったのです。スナック菓子とかカップラーメンを食べ続けて いた子供たちがほとんどだそうです。問題を起こしてしまった原因は、複雑なのでしょう が、そのうちの一つとして孤独な食事、家族の手のかからない食事、アンバランスな食事 が心身を蝕み、愛情が与えられていなかったことがあげられます。人を信じられない、自 分も信じられない、自信もない、そういう寂しい孤独な人たちがたくさん増えているので す。 • 噛まない食事 今の日本は、軟食の時代といわれています。軟らかいものが好まれる時代になっていま す。骨を抜いた魚の切り身、脂肪の多い牛肉、果物も種のないもの、できるだけ噛まない で、簡単に食べられる食品に人気が集まって言います。手を掛けないで、しかも短時間に 調理でき、口に入れても噛まなくても飲み込める食べ物をみんな好むようになってしまい ました。噛まない生活が続くことによって顔の形が変化してきているのだそうです。あご がほっそりとした、うりざね顔がきれいな顔だといわれています。男性は女性の顔に近く なっていますし、角ばった、たくましい顔より、女性的なほっそりとした顔が美男である と思われています。 噛まないということは体に様々な良くない影響を及ぼします。顔の筋肉が発達しないし、 左右均等な筋肉のバランスが崩れている顔が増えているのだそうです。噛まない食生活や、 良くない噛みかたをしていると、肩こりや腰痛など、様々な疾患の原因になるのです。そ して、噛まないことにより、虫歯が増えたのです。噛まないことで一番心配なことは、唾 液の分泌が少なくなることです。唾液は大きな殺菌作用があります。有害物質の毒性を抑 え、癌の大きな原因になっている活性酸素を消去する酵素をもっています。体のために有 効なホルモンの分泌を高める働きもあるのです。そして、唾液には若返りホルモンと呼ば れるパロチンが含まれています。よく噛むということは、顔全体の血行が良くなり、脳の 神経を刺激し、締まりある口元と生き生きした表情豊かな顔たちを作ります。そして、体 の健康を保つことができるのです。ですから、子どもたちのオヤツは、噛み応えのあるも のも煮干や生のきゅうり、リンゴ、固い煎餅、等、与えてあげることが大切なのです。そ して、軟らかいものでもしっかり噛む生活習慣を指導することが大切なのです。 • アレルギーの問題 今の日本で増えているのがアレルギーの子どもたちです。主な症状として、じん麻疹、 皮膚の発赤、湿疹、下痢、嘔吐、せき、ゼーゼー、などです。この原因は生活環境に大き 5 な要因があります。建物に使用されている化学薬品、花粉、小さなダニ、ほこり、などで すが、このほかに食品によってアレルギーを引き起こす子どもたちが毎年増えているので す。子どものアトピー性皮膚炎などのアレルギーを引き起こす抗原は最も多いのが幼児の 場合、卵29%、乳製品23%、小麦10%、ソバ6%、魚類5%、果物類5%、エビ4%、 肉類3%、ピーナツ2%、大豆2%、その他11%だそうです。このアレルギーのメカニ ズムは IgE(免疫グロブリン E)依存反応(即時型)と非 IgE 依存反応(遅発型)の二つに分類さ れます。即時型の場合摂取した直後から 2 時間以内にアレルギー反応を確認することがで きます。IgE 抗体がマスト(肥満)細胞に結合した状態で食物抗原と出会うことによりヒスタ ミン、ロイコトリエン、プロスタグランディンD2のような化学伝達物質が放出されアレ ルギー反応が引き起こされるのです。遅発型は、摂取してから数時間以降に症状が現れる のですが、そのメカニズムはまだはっきりと解明されていないそうです。アレルギー症状 のほとんどは皮膚炎なのですが、中には重症のショック症状、命の危険にかかわるような アレルギーもあります。アナフラキシーといいます。この原因となる食材はアワビ、イカ、 イクラ、エビ、オレンジ、カニ、キウイ、牛肉、くるみ、サケ、サバ、大豆、鶏肉、豚肉、 まつたけ、桃、りんご、ゼラチンの 19 品目がアレレギーを起こしやすいと言われ、表示を 推奨されています。これらの原因となるものが食器に付いていたり、原因食材が微量に含 まれているものを食べて、症状を起こすこともあります。アレルギー疾患の増加の要因は 遺伝的なのも意外に、スギ花粉、排気ガス、などの増加、食品添加物や残留農薬、残留抗 生物質の増加が考えられます。そして、ストレスの増加、自然環境の破壊、生活リズムの 変化 ( 噛まない食事、偏った食事、不十分な睡眠時間、など ) による自然治癒力の低 下であるとも言われています。もっと簡単にいえば環境破壊が人体に大きな悪い影響を及 ぼしているということです。アレルギーの原因は、食べ物だけではなく、触るもの、にお い、音、光、など、生活する全てものが、アレルギー疾患の原因になってしまいました。 保育園ではこのような食物アレルギーのある子どもたちには、原因となる食材を除去し て調理しています。大半の子どもたちは成長するにつれて徐々に食べることができるよう になるのです。アトピーや湿疹がなかなか良くならない子どもたちは、生まれつきだから とか、薬を塗ればよくなるからと簡単に考えないで、専門医に行きその原因をしっかり調 べてもらう必要があります。もし、食べられない食材が見つかったばあいは、市販のもの は何が使われているのかを見極め、原因となるものがあった場合は取り除かなければなり ません。そして、安全を確認した上で、充分に注意して調理しなければなりません。 6. よりよいメニューイメージの形成 メニューイメージとは、そのお料理から想像する事柄のことをメニューイメージと言い ます。調理されたものを見て、そのお料理から何を想像することができるのでしょうか。 たとえば、ご飯がありますが、これは何からできているのかと考えると「米」ということが わかります。米はどこで収穫できるのかは水田であり、それをお百姓さんが種をまき、稲 を育て、田植えをして、草取りをして、稲刈りし、乾燥して、脱穀し、白米になり、それ が店で売られて、親がその米を購入し、それを水でとぎ、釜に入れてご飯を炊いたのが、 今、自分の見ている茶碗にある、ご飯であることを想像することができます。そして、お 6 百姓さんが、どれだけ苦労して稲を育て、お母さんが朝早く起きて一生懸命に米をとぎ、 ご飯をたいてくれたことまで想像することができます。このメニューイメージをできるだ け豊にすること、同時にそのメニューからそれにかかわった多くの人たちの苦労や愛情ま で想像できるようにすることが食教育のひとつの目的なのです。子供たちに保育園の食事 をとおして教えたいと努力しています。調理された食事は、多くの人たちの労働の結晶で あることと、それが自分を育ててくれる愛情の表れであること、食物は自然の中で作られ ていることを子供たちが理解できるように願っています。そのために、畑作り、栄養指導、 調理体験、などが行事の中に組み込まれています。そして、大切なのが、子供たちの調理 体験です。自分でお料理をすることで、自分のためと同時に人のためにも何かをすること は、とても嬉しいということが、体験できます。同時に、子供たちは、食材をじかに触れ ることで、自分が食べている物の本当の姿を知ることができるし、母親の調理する時の思 いを同じように持つことができることで親との一体感がさらに強くなるのです。よりよい メニューイメージを豊に大きく膨らませることができます。ただし、食べることを厳しく 強制してしまうとマイナスのメニューイメージになってしまいます。一緒に喜びを持って 食事をすることが大切です。 7. 家族の再生に向けて 子供たちへの食教育は子供たちのよりよい成長に欠くことのできないものであると保育 園で働く私たちは考えています。食事を通して、生きる力を身につけ、人間の繋がりを体 験し、社会の仕組みを知り、神様の創造された自然の不思議を体験するのです。そして、 食事を作ってくれた人とそれを感謝して食べてくれた人との愛情の交換が食事の時間であ ることを伝えることができるのです。また、食教育によって期待されることは、壊れかけ た家族を、再び取り戻すことです。保育園では親に向けての再教育は非常に困難です。子 供たちから逆に親に向けて、訴えて欲しいと願っています。楽しい一家団欒が欲しいと、 子供たちが親に対して強く訴えることを願っています。そして、子供たちはいずれ大人に なります。そのとき、親の愛情によって作られた食事と、同じような思いの込められた保 育園での食事を思い出してくれることを私たちは期待しています。家で子供たちのために 親が心を込めて調理された食事は、親の目に見える愛情であることを思い出し、家庭と保 育園で培われたメニューイメージを思い出し、自分自身の家族形成に役立てて欲しいと心 から私たちは願っています。 保育園に調理室があるということは、非常に大切なことであると私たちは考えています。 この調理室を無くしようと考えている行政の人たちがいるのです。保育園の設置最低条件 の中に調理室を設けることが決められていましたが、いまは、その条件はなくなりました。 外部委託でも良いという決まりになったのです。子供たちに食事の大切さを、実践を通し て教えることができるのは、今の日本では家庭と保育園しかないのです。家族のあるべき 姿を子供たちに伝え、人間としてのすべての生きとし生けるものと、共に生きることの大 切さを、教えることが保育園の使命であることを私たちは強く訴えます。 8. 保育園の取り組み 昨年度の江刺保育園の取り組みの紹介 7 クッキング(2009 年度) 日付 5.11 6.7 7.12 8.10 9.13 10.10 10.12 11.6 12.5 12.27 1.11 2.20 2.21 3.6 クラス すみれ すみれ すみれ すみれ すみれ さくら すみれ すみれ さくら すみれ すみれ すみれ たんぽぽ すみれ メニュー おむすび フレンチトースト 卵焼き おこのみやき サフランカレー しゃかしゃかおにぎり ピザパイ ぎょうざ めだま焼き おかしのいえ キャラメルプリン 揚げパン しらたま団子 チョコチップクッキー 担当 松本美香 佐藤正子 菊池千枝 松本美香 佐藤正子 松本美香 菊池千枝 松本美香 松本美香 佐藤正子 菊池千枝 松本美香 菊池千枝 佐藤正子 絵本 おむすびころりん かいじょううたちのいるところ えんそくバス ばばばあちゃんのなんでもお好み焼 ガラゴ ピザパイくんたすけて ぎょうざつくったの ヘンゼルとグレーテル バムとケロのさむいあさ マーシャとくま ふたりはいっしょ 昨年度5歳児すみれ組、4歳児さくら組、3歳児たんぽぽ組が取り組んだクッキングで す。5歳児はご覧のように絵本の中に出てくるお料理をできるだけ忠実に再現してクッキ ングしています。事前に絵本を通して子どもたちにお料理を紹介し、そのお料理がどんな ものであるかを、それぞれの子どもたちがイメージできるようにします。そして、実際に お料理して、それを味わうことによって、想像力が現実の形となって体験できます。自分 が動き、手を加えることにより、食べ物が出来上がるそれはとてもうれしいことです。生 きて行くことはこのようなことの連続であり、生きているということはこのように喜びと 楽しみの積み重ねであり、希望を持ちながら過ごす事を知ることができるのです。これは、 とても大切なことであるのです。特に最後のチョコクッキーは、自分が食べるのではなく、 卒園しお別れをする子どもたちが、在園児や職員にプレゼントをするために作るお菓子な のです。このとき、他の人のために何かをしてあげるという経験をします。自分の為だけ にということではなく、誰かのために自分のできることをするということの楽しさや喜び を体験できるのです。ご飯を毎日準備してくれることが、家族のためにとても大切なこと であり、自分が愛されていることを現実に知る日常の生活であることを子どもたちに伝え ている大切な取り組みなのです。 畑作り 土の中から命が生まれることを体験します。畑作りは命の不思議を体験できる取り組み です。命を育て、その育った命を自分たちが手を加えて、美味しく頂くことが、生きてい る命の循環の仕組みを知るのです。4、5歳になると、畑から自分の手で取ったものは、 味がどうであってもほとんど食べてしまいます。きゅうりやトマト等を食べられない子が、 必ず何人かいるのですが、畑でその嫌いな野菜を自分の手で収穫できたとき、それを給食 に出すとほとんど食べてしまいます。また、畑の変化に子どもたちは驚きます。春先、何 もない畑が6月を過ぎると、様々なものが生まれてきます。野菜のほかに、土を掘り返し たときミミズや虫と触れ合います。昔は当たり前のようなことでしたが、今の時代は、貴 重な体験となってしまいました。人が手を加えることによって、豊な命がさらに生まれて くることを子どもたちに伝えることができます。 8
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