シリーズ 足の機能に障害がある人の靴 /

シリーズ 足の機能に障害がある人の靴 /
−足底挿板−
子供の足と靴を考える会 大 野 貞 枝
足の症状を保存的に改善するための足底
アライメントを正常に維持できれば、自ず
挿板に注目が集まっている。足底挿板には
と横アーチのトラブルは解消できるとのこ
いくつか種類があり、その主なものを紹介
とだった。
する。
彼女の場合、足型とアライメントの評価
をアメリカに送付し、完成品を送り届けて
もらっている。患者は計測、採型から約3
ロンドンのポダイアトリストの足底挿板
週間で入手できる。各部位のアライメント
ロンドン在住時、足底挿板を上手に作成
するという評判のポダイアトリスト(足病
の評価とギブス採型のようすは以下のとお
りだ。
医)を訪問した。本誌119号の本シリーズ④
「アメリカにおける足と整形靴の専門家」
で紹介したように、1912年にアメリカ足病
医学会が発足以来ポダイアトリストの医療
行為は拡大したが、
各国でその職域は違う。
た
こ
イギリスでは、その前身である、胼胝や爪
の処置のみをするキロポディストも存在す
る。訪問したポダイアトリストは、アメリ
カでその専門教育を受けた人だが、ロンド
ンで足底挿板作成を主な職務にする。
足底挿板の製法は、正常なアライメント
(骨や関節の配列)で踵が着地できること
にポイントを置く。
フットプリントは採らず、踵や膝のアラ
イメントをチェック(評価)し、歩容を詳
細に観察した後、ギブスで採型する。完成
した足底挿板は、踵部分が足にきっちり密
着する硬いカップ状のもので、縦横のアー
(写真1)チェックした事項を記入するポダイア
トリスト。(写真1∼15)は、ロンド
ン市内
チのサポートは無い。そのため前足部、中
足部は全くの平面だ。筆者が中足部のサポー
ト(ぺロッテイ)の必要の有無を聞くと、
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(写真5)立位での踵のアライメント(以下
アライメントは略)の評価
(後から見たところ)
(写真2)待合室の患者
(写真3)診療室はヘルスセンターの一室
(写真6)足を正常に位置させてる
(写真7)足趾の関節の可動域の評価
(写真4)10m位の廊下を数度往復させる
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くるぶし
(写真11)踵骨の評価②
(写真8)踝の側面の評価
しょうこつ
(写真9)踵骨の中心に印をつける
(写真12)膝に印をつける
(写真10)踵骨の評価①
(写真13)膝の評価
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さいきょう
ある。足の状態にもよるが、踵骨の載距突
起のサポートを重視し踵部はカップ状にな
っている。また横アーチのサポート(ペロッ
テイ)も必ずある。
ドイツの整形靴マイスターのセミナーの
初期から受講し、実績をあげている大阪の
M靴店の製作方法は2種類ある。ドイツ健
康靴に挿入されているインソールを加工す
る方法(a)と、採型して作成する方法
(b)だ。いずれの場合も靴とアインラー
ゲンが一体化しているため、硬度がある
(写真14)袋状のギブスで型取り
しっかりしたカウンターと相まってアイン
ラーゲンの調整効果を高めている。
(写真16∼28の提供はM靴店)
(写真15)乾燥後ギブスをはずす
(写真16)フットプリントを採る。
ドイツ整形外科靴技術のアインラーゲン
(a,b)のいずれの場合も足の情報を得るための(写
真16∼写真20)工程は変わらない
1.製作過程
ドイツ整形外科靴の足底挿板(ドイツ整
形外科靴技術者は、足底挿板をドイツ語で
アインラーゲンと呼ぶ。)は、基本的には
足の縦横のアーチをサポートするものだ。
可動域をチェックし、フットプリントか
ら足底圧等を判断して製作する。
(オーダー
メイドの場合は、トリッシャムで採型する
過程が加わる。)
その特徴は、硬度が違う材料を複合的に
手作業で組み合わせるため、足の各部位の
トラブルを細部までカバーできるところに
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(写真17)フットプリント
(写真18)歩容を見る
(写真21)靴に挿入されたインソールをフットプ
リント等の情報から調整
(写真19)足首の可動域をみる
(写真22)左側は、調整済み 右側はそれに中敷
を被せた完成品
(写真20)腰の左右の高さの違いを見る
(写真23)オーダーメイドはトリッシャムで採型
する。以下(写真28)まではオーダー
メイドの製造過程
ここ迄の過程は、ドイツ健康靴に挿入されているインソー
ルを加工する場合も、オーダーメイドを作成する場合も
変わらない。
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(写真27)バキュームで陽性モデルに沿った足底
板を作成する
(写真24)トリシャムを踏みつけた後
(写真25)陰性モデルに樹脂を注入して陽性モデ
ルを作成する
(写真28)左から完成した足底板を陽性モデルに
載せたところ 陽性モデルのアイン
ラーゲン
2.機械設備
ところで、以上のような調整をする靴店
の内装は、一般の靴店の雰囲気とは少し違
う。グラインダーが並び、加工のための各
種の道具が揃っている工房が必ずショップ
の中にある。それは、以前にドイツで訪問
した整形靴マイスターの工房とそっくり
だ。
彼らは、ドイツ整形靴マイスターから学
んだ技術が向上するにつれ、機械等の設備
を本格的に整えてアインラーゲンの作成に
(写真26)陽性モデルを加工調整する
取り組む。
次に、M靴店と同じくドイツ整形靴技術
を初期から習得し実績がある、茨城県のC
靴店の店舗の設備を紹介する。
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(写真29)手前からラストプレス(圧着)、
グラインダー2台、空気清浄機、
左は底を切ったり剥がしたりす
る機械
(写真32)オーブンヒーターとバキューム
(写真30)さまざまな道具が並ぶ
(写真33)このポリオ後遺症の人はアイン
ラーゲンの調整でまっすぐに立
て、歩行が楽になり大喜びだっ
た(C靴店で)
体の動きを変える足底挿板
三番目に紹介する足底挿板は、体躯全体
の動作を解析して作成する。足部以外の障
害が足部に影響を与えていることを確認
し、足部障害は全身疾患であることに着目
した理学療法士のI氏により考えられたも
ので、「現在もその製作理念が発展し続け
(写真31)ショップから見た工房
ている」と言われる。以下はインターネッ
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トの資料を参考にしてまとめた。
転倒や交通事故のような一度の衝撃によっ
てケガをしたものを除いて、多くの障害は、
動きにおけるストレスの繰り返しにより生
じる。例えば、長距離選手がランニング
フォームにおいて膝が過度の内反内旋の動
きをする場合、その過度の動きが何万回と
繰返すことで痛みが生じることがある。こ
の場合、体躯全体の動きや形態を観察し、
チェックしてストレスがかからない方向に
(写真34)
①:EVAシートによるパッド
②:ホワイトテープによるパッド
身体の動きを誘導して痛みを軽減する。
足の骨格の位置のゆがみを調整するドイ
ツ整形外科靴技術者の足底挿板とは作成理
り、歩行時の体躯(肩、腰、膝、足等)の
念が基本的に違う。
障害がある関節の位置や動きを操作する
ことを目的としているため、運動分析を得
動きが変化(回転、方向、挙上等)するの
には驚かされた。
意とする理学療法士が作成している場合が
以上、3種類の足底挿板を紹介した。足
多い。
底挿板の製作理念と方法は一様ではない。
製法の概要は次のとおりだ。
① 足の形態、障害の状態をチェック(こ
足の状況と製作者の、あらゆる意味での環
境に応じた適用が求められるだろう。
の製法ではこれを評価と呼ぶ。
)
② 歩行での関節の動きや、痛みのある関
節のなどを細かく評価
③ 足にあわせて足底挿板を型取り、グラ
参考にした文献及びウエブアドレス
インダーで高さを調整する。
① http://www.fsinet.or.jp/~nipta/
④ 靴の中に足底挿板を挿入。
yukiwari/minilecture/mini_lecture.htm
⑤ 関節の動きや痛みが改善するまで微調
#NO96)
整する。
(写真34)も引用した。
足は歩行時における着地の衝撃吸収と、
前方への推進力を発揮するためのテコとし
② http://www.kantoh.rofuku.go.jp/
rehacenter/
ての働きを行うので、その機能を十分に発
揮させることが必要であるという考えのも
とに、用いる素材はソフトであり、パット
③ 「フットファンクション」
はドイツ式ほどの高さは無く、形状もなめ
Michael
らかだ。
入谷誠訳
筆者はそのセミナーを受講した経験があ
るが、歩容を繰り返し観察し調整する。そ
の時、小さな面積の薄いパットの挿入によ
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O. Seibel
発行者 北川丈夫
発行所 ダイナゲイト株式会社