浜のかあちゃんパワーで浜に笑顔と元気を

-茨城県-
浜のかあちゃんパワーで浜に笑顔と元気を
-大洗町漁協「かあちゃんの店」絶賛営業中-
大洗町漁業協同組合女性部
高
橋
早
苗
1.地域の概要
大洗町は、茨城県の太平洋岸のほぼ中央に位置し、水戸市の南
東に位置している。東京から約 100km の距離にあり、首都圏で唯
一、北海道苫小牧港へのフェリーの発着地となっている。人口は
1 万 8,272 人、世帯数は 7,361 世帯(いずれも住民基本台帳 2013
年 3 月末現在)である。主要な産業は観光業および漁業で、アク
アワールド茨城県大洗水族館、大洗リゾートアウトレット、大洗
サンビーチキャンプ場などがある。(図1)
図1
大洗町位置図
2.漁業の概要
当組合の組合員は 158 名(正組合員 140 名、准組合員 18 名)で、平成 24 年の水揚げ量
は 3,266 トン、水揚げ金額は 6 億 6,186 万円となっている。主な漁業は、シラスやコウナ
ゴ等を対象とした船びき網漁業、ハマグリやホッキガイを対象とした貝桁網漁業、ヒラメ
やカレイ類を対象とした建網漁業、小型底びき網漁業など沿岸小型船を中心とした漁業で
ある。
3.研究グループの組織と運営
大洗町漁業協同組合女性部は、平成 25 年現在、45 名の部員で構成されており、組織の
役員は、部長 1 名、副部長 1 名、会計 1 名、監事 1 名で、任期は 2 年となっている。また、
1 名の女性漁業士も女性部に在籍している。年間の活動費は、部員の年会費、イベント等
の事業収入、組合及び大洗町からの助成によって賄われている。
4.研究・実践活動取組課題選定の動機
当組合では、船曳網、小型底曳き網、刺し網など多くの種類の漁業が行われており、年
間に数千トンの水揚げがあるが、近年は魚価の低迷、漁業経費の増加が漁業経営を圧迫し
ている。漁獲物は漁協及び仲買業者を通じて産地市場や小売店などに出荷されているが、
出荷先が限られていることもあり、大漁時の魚価急落や雑魚の商品価値の低さが著しいた
め、改善が望まれている。
この状況を打開するため、大洗町漁協女性部では市場価値の低い魚に付加価値を付け、
魚価を向上させることを目指して、①市場で値の付かない魚が少しでも高値で取引される
ようになって欲しい、②地元に水揚げされるおいしい魚をもっとたくさんの人に味わって
もらいたい、そして浜が賑わって欲しい、③ベテラン女性部員を含む浜のかあちゃんたち
の経験や知識を活かした活動の場を作りたいとの考えから、かあちゃんの店(食堂)や加
工施設を整備し、地魚を使用した食堂メニュー及び加工品など地域特産品を開発・提供す
る活動に取り組んだ。
5.研究・実践活動状況及び成果
(1)活動のきっかけ
平成 16 年の女性部総会で、
普及員から近隣漁協
の女性部が直販活動を行っていることを知らさ
れ、それを見学した。サイズが揃わない等の理由
で市場価値が低い魚に、うまく付加価値を付けて
売っている活動を見て、自分たちもやってみたい
と思うようになり、
女性部内に有志で 13 名の直販
グループを設立、
平成 17 年から漁協隣接地で直販
活動を開始した。
写真1
直販の人気商品「シラス干し」
シラス干しや干物を中心に、土日のみの販売を始めたが、最初の頃は売上が不安定で、
活動をやめようかと思うこともあった。
ところが、2 年、3 年と活動を継続しているうちに、お客さんが付き始め、シラス干しや
干物を干していると、製造しているそばから、それを売って欲しいと言われるようになり、
土日だけから木~日曜日の販売へと拡大した。(写真1)
そして、1 日の売上が 20 万円を超えるなど、市場にはお客さんがたくさん集まるように
なり、売上も順調に伸びていった。
そのような状況を見ていた大洗町役場や漁協から「女性部で食堂をやってみてはどう
か?」と提案があったため、女性部内で何度も議論を重ね、検討を繰り返した結果、有志
だけでなく女性部全員で取り組むこととして、食堂に挑戦することになった。
しかし、各々に様々な考え方を持つ女性部員たち全員の同意を得ることは大変なことで
あり、丁寧な説明が必要であった。
(2)かあちゃんの店ができるまで
私たち漁師は魚を獲ることには慣れているもの
の、商売をすることに関しては素人同然であった
ため、食堂を運営するに当たっては、保田漁協(千
葉県)直営の食堂「ばんや」の視察、地域資源活
用支援アドバイザーや中小企業診断士を講師とし
た経営勉強会、接客講習会など、様々な準備を行
った。(写真2)
また、かあちゃんの店の主力メニューとして「生
しらす丼」を年間を通して提供できるよう、水産試
写真2
経営勉強会
験場が開発した「凍結生しらす」の製造技術を導入したほか、衛生管理等についても水産
試験場の指導を受けた。
そして、建物については大洗町の支援を、加工機器については沿岸漁業者経営改善促進
グループ等取組支援事業を活用し、平成 22 年 4 月にかあちゃんの店をオープンした。(写
真3,4)
写真3
かあちゃんの店(オープン当時)
写真4
かあちゃんの店厨房
(3)かあちゃんの店での活動
運営体制は、女性部員 45 名を約 15 名ずつの 3 つの班に分け、1 週間交代で食堂勤務、
加工(食材の仕込み)、休みとする仕組みとなっており、うまく機能している。盛漁期に
は、自家の漁業作業に従事しなければならない部員もいるが、臨機応変に対応している。
かあちゃんの店では、今まで漁業者の家でしか食べられていなかったいわゆる「漁師料理」
を提供しており、漁業になじみのないお客さんにも楽しんでいただいている。開店以来、
大変好評を博しており「とうちゃんたちが獲ってきた魚を、かあちゃんたちがその場で調
理する」と言った具合に、私たち浜の女性たちの活躍の場となっている。
一方、かあちゃんの店は、新聞・テレビ等のマスコミに取り上げられるたびに知名度を
上げ、食堂の前には連日長蛇の列ができるようになった。特に大洗町の地元特産品で、か
あちゃんの店の名物「生しらす丼」は目玉商品となり、売上の向上に貢献した。(写真5,
6)
写真5
行列で賑わう「かあちゃんの店」
写真6
かあちゃんの店の名物「生しらす丼」
順調な滑り出しを見せた「かあちゃんの店」であったが、平成 23 年 3 月 11 日の東日本
大震災で発生した津波の被害を受け、一時的に営業不能となった。かあちゃんの店は店内
がめちゃくちゃになり、厨房機器や什器の何もかもが破壊され、残っていたのは崩れかけ
た外壁だけであった。(写真7)
幸いなことにスタッフ、お客さんともに避難ができたため、犠牲者は一人も出なかった。
その後、漁協関係者が一丸となって懸命な努力を重ねた結果、震災発生から 81 日後の同年
6 月 1 日に何とか営業を再開することができた。
震災後には、町主催の「大洗復興おさかな市」などのイベントを開催して復興に取り組
む私たちの姿が新聞・テレビ等のマスコミで報じられ、これを見た人たちが大洗を訪れる
ようになり、かあちゃんの店は震災前を上回る来客となった。(写真8)
写真7
津波の被害で破損した店内
写真8
大洗復興おさかな市
(4)事業の成果
かあちゃんの店の売上はオープンした平成 22 年が 5,600 万円、平成 23 年が 8,000 万円、
平成 24 年が 8,700 万円、平成 25 年が 9,000 万円(11 月末現在)で順調に伸びており、漁
協の新たな収入源となっている。(図2)
平成 24 年の収支は、
収入が売上の 8,700 万円、支出が魚の購入費 2,500 万円、人件費 2,900
万円、その他の経費 2,200 万円であり、利益は約 1,100 万円で漁協の水揚げ手数料
(5%)に換算すると約 2 億円の水揚げに匹敵する。(図3)
10,000
8,700万円
(※)
8,000万円
魚購入費
2,500万円
(29%)
その他経費
2,200万円
(25%)
8,000
6,000
利益
1,100万円
(13%)
9,000万円
5,600万円
人件費
2,900万円
(33%)
4,000
H22
(万円) 平成22年
平成23年
H23
平成24年
H24
平成25年
H25
(※平成25年は11月末現在)
図2
かあちゃんの店売上の推移
平成24年の売上げ8,700万円
平成24年の売上8,700万円
図3
平成 24 年の収支内訳
この取り組みでは、食堂メニューおよび加工品の原材料に地元水揚げの魚を使用し、市
場で魚を調達する際には、その日のセリの最高値で購入して魚価の向上に貢献している。
また、大漁時の漁獲物や荷がまとまらない、サイズが揃わない、知名度が低い等の理由で
値が付かなかった低利用魚を直接買い上げており、凍結保存を行って原材料として有効に
活用できるようにし、漁獲が少ない時期においても安定的に収入を得られるよう工夫して
いる。
さらに、かあちゃんの店の食堂運営や加工
業務に従事した女性部員には、人件費が支払
われており、これが新たな漁家収入となって
漁業経営の安定化につながっている。
また、かあちゃんの店は 70 代の女性部員で
も自分の経験を活かして現役で働くことがで
きる貴重な職場となっているほか、ホール係
や調理師など地元に新たな雇用を生み出して
おり、地域の活性化に役立っている。(写真
9)
写真9
ベテランが腕を振るう厨房
6.波及効果
私たちの活動は、漁協女性部による取り組
みの優良活動事例と認識され、県内外の漁業
関係者のほか、農業など他のジャンルの方た
ちが視察に訪れるようになっており、私たち
の活動と同様な取り組みを検討しているグル
ープの情報交換の拠点の1つとなっている。
また、周辺地域の漁業者も、付加価値を付
けることによって新たな収益を生む私たちの
取り組みに注目しており、加工品の販売や食
堂等の展開を検討しているグループもある。
(写真10)
写真10
近隣漁協女性部からの視察
さらに、かあちゃんの店はマスコミ等に取り上げられ、たくさんの観光客等が訪れるよ
うになった結果、大洗町で一番活気のある賑やかな場所として、新たなランドマークとな
っており、その集客効果により地元周辺の直売所等の売上が向上している。
近年は、水産加工業者がかあちゃんの店の近隣へ新たにレストランをオープンするなど
出店が相次ぎ、漁業のほか、大洗町の重要な産業である観光業にも好影響を及ぼしており、
かあちゃんの店を中心に浜が賑わいを見せている。
7.今後の課題や計画と問題点
かあちゃんの店では、地元に水揚げされる新鮮な魚介類をいわゆる「漁師料理」にして
提供しており、新鮮さが売りの「生しらす丼」、かき揚げと刺身の「かあちゃん御膳」、
煮魚と刺身の「とおちゃん御膳」などが漁業になじみのない人たちにも好評で、魚食普及
の推進につながっている。(写真11,12)
写真11
かあちゃん御膳
写真12
とおちゃん御膳
一方で、休日や連休等、かあちゃんの店への来客が集中するシーズンには、長蛇の列が
でき、お客さんを長時間待たせる状況となっている。このため、来年度には新たに客席を
約 50 席増設する計画であり、これに併せて料理の提供時間短縮や作業の効率化を図るた
め、新商品「かあちゃん手造り干物」の開発を予定している。
今後は、低利用魚の活用アイテムを増やし、様々な魚種の豊凶に対応でき、漁況・海況
の影響を受けにくい、強靱で安定した漁業経営体制の構築を目指すとともに、漁業を中心
とした周辺地域の活性化を推進していきたい。