現代主婦の「私」消費

現代主婦の「私」消費
おしゃれ主婦の深層心理を探る
①―――はじめに
分自身が自己実現をしたい、自分の自由になるお金が欲し
②―――女性のライフコースと役割意識の変化
い、といった自分のために働くという理由も挙げられてい
③―――主婦の分類に関する研究 る(図表1)。
④―――調査課題導出 ■図表―――1
女性が働く理由
杉 本 匠 菅 沼 雄 一 西 山 祐 登 藤 浪 麻 衣 前 川 佑 之 介 駒澤大学 菅野ゼミ 耐久財 杉本班 43.4
56
68.7
82
49.4
65.3
72.3
90
自己実現したいから 自分の自由になるお
金が欲しいから ① ― ― ― は じ め に キャリアを活かした
い 子供の将来のお金 80.7
89.3
金銭的なゆとりが欲
しいから 子持ちの主婦
という言葉を聞いて思い浮かぶのは
0
50
100
N=233 復職主婦 継続就業主婦 単位:% どんなイメージの人だろうか。従来の 子持ちの主婦 の
イメージといえば、ちびまる子ちゃんに登場する、まる子
出典:DAIKO マーケティング・コミュニケーション・ラボ ラ
のお母さんのような家庭的な女性像が浮かびやすかった
イフコース around40 レポート調査(2008)
のではないだろうか。しかし、近年の主婦はテレビ、雑誌、
インターネットなどの様々なメディアからの影響を受け、
一言で言えば 主婦 でも場所によって色々な役割を持
従来のようなまる子のお母さんとは異なる おしゃれな主
っているのも事実である。家では子どもを持つ 母 であ
婦 (いわゆる
り、夫の 妻 でもある。また家に居ないときは仕事をし
おしゃれママ )が登場している。
おしゃれママが増える背景としては、メディアでも度々
ている 職業人 でもある。もちろんただ一人の 私 で
取り上げられている、日本人の芸能人ママや海外のセレブ
あることも忘れてはならない。このように、近年は一人の
ママなどの影響を受けているということ、また、 ママ
女性が複数の役割を担っていて、その一つ一つの役割が明
といえど、一人の女性であるため、ママになっても美しく
確に異なるものである。
ありたい、おしゃれをしたい、母・妻・女性としていつま
また近年では、女性だけではなく、製品にもデザイン性
でも輝いていたい、という女性自身の意識の変化などが要
などを重視したものがおしゃれなものが登場している。例
因として考えられる。
えば、子育て中の女性が使うアイテムとしてベビーカーが
また、近年の女性は結婚をしてからすぐに専業主婦とい
ある。日本におけるこれまでのベビーカーとは、地味な色
う道を選ぶのではなく、働くということを選ぶ人が多くな
であったり、同じような外観であったりするものが多く、
っている。その背景としては、金銭的なゆとりがほしい、
子どもを乗せる道具、という要素の強い製品が多く見受け
というようなお金の面であったり、あるいは子どもの将来
られた。しかし、近年ではマクラーレンをはじめとする海
のお金であったりと、家計補助的な側面がある一方で、自
外製のベビーカーが日本でも見られるようになり、そのデ
ザイン性などが日本でも受け入れられているようである。
■図表―――2
このように現代では、おしゃれな女性だけでなく、それ
共働き世帯数の推移
にあわせるようにおしゃれな製品というものも登場して
いるので、製品というものも使えれば良いという時代では
なく、その人の価値観によって選ばれていくそんな時代に
なのかもしれない。
本論文では、一人の女性が持つ複数の役割の違いを前提
に、その中でも「私」という役割に着目し、消費購買行動
の関連を考察するための調査課題を設定する。第1に主婦
出典:内閣府 男女共同参画白書(平成21年版)
のアイデンティティという概念から、主婦のアイデンティ
ティの再形成についての調査を行い、第2に主婦としての
国立社会保障・人口問題研究所が行った「全国家庭動向
「私」というものがどの程度作られているのかを分析し、
調査」1によると、女性の就業形態は「継続就業型」が2
第3に役割の違いではなく、アイデンティティの違いから
2.4%、
「退職型」が18.6%、
「その他」が4.4%、
耐久財のこう浴び欲求にどの程度違いがあるのかを顕彰
「再就職型」が54.6%という割合となっている。中で
していく。
も「再就職型」が特に高い数字を示している。このことか
ら、仕事に 復職する主婦 というのが増えているといえ
②―――女性のライフコースと役割意識の変
る。
化 さらに細かく見てみると、 復職する主婦
な就業形態を望んでいるのかを示したデータがある。
1.女性のライフコースの変化
総務省が行った「就業基本調査」2によると、離職期間
近年の女性は、結婚してからそのまま家庭に入るよりも、
が1年未満の者では80.5%、離職期間が1年以上2年
働くことを選ぶ女性が多くなっているというデータがあ
未満の者では91.2%、2年以上離職した者では91.
る。平成21年版の内閣府男女共同参画白書によれば、近
9%がパート3としての就業を希望している。つまり、働
年の女性は、家事や育児だけを専門に行う専業主婦よりも、
く女性は増えていて、結婚や出産などを機に退職をしても、
仕事もして家事や育児もやる、いわゆる兼業主婦が増加し
再び働く意志のある女性が多く、その多くがフルタイムで
ているというデータがある。
はなく、パートタイマーとして働くことを望んでいる、と
近年では、女性が働くというのは当たり前の時代になり、
いうことが現状である。
日本では昔からよくいわれる「男は仕事、女は家庭」とい
また女性が仕事を再開しようと思った理由を調査した
うような性別役割意識の風潮は崩れつつある。もちろん結
ものもある。ベネッセコーポレーション4が行った調査に
婚や出産を機に退職する女性はいるが、そのまま家庭に落
よると、仕事を再開しようと思ったきっかけとして、最も
ち着くのではなく、自分の身の回りのことが落ち着くと、
多かったのは「家計を助けるため」である。しかし、それ
再び仕事を始める
に続く理由として、「社会の空気を吸いたくなったため」、
復職する主婦
というのも増えてい
はどのよう
る。このことから、従来のような専業主婦は減少し、夫婦
共働きということが当たり前になっていくのではないか
と思われる。
1 国立社会保障・人口問題研究所実施 第4回全国家庭動向調
査(2008)
2 総務省実施 就業構造基本調査(2002)
3 総務省の定義では、「正社員以外の雇用者の総称」
4 『働くママの仕事と育児』より
「資格やキャリアをもう一度生かしたいと思った」が続い
4つとなる。
ている。つまり、再び働き始める理由としては、経済的理
離職の場合は、それまで仕事をしていたということで、
由がすべてではなく、家庭の中で主婦をやっているだけで
仕事を辞めるまでには 私 と 職業人 という役割を持
は物足りず、かつて社会に出てバリバリ働いていた頃のよ
っている。しかし、結婚もしくは出産の際に辞めてしまう
うに、再び社会進出をしてみたい、ということや、仕事の
ので、その時点で 職業人 という役割はなくなる。結婚
ために取得した資格の活用、もしくは自分自身が歩んでき
をすれば 妻 という役割を持つようになり、出産をすれ
た経験などを活かして再び社会で使いたい、という理由か
ば 母 という役割を持つようになる。継続就業とは異な
らまた働きたい、という人もいるということがわかる。こ
り、仕事を辞めているので、役割は3つとなる。
こで注目しておく点は、女性が再び働くという道を選択す
復職の場合は、役割の数だけを見れば、仕事をしていて
る理由は経済的な理由だけではないということである。
妻であり母である女性なので、継続就業と変わらないが、
継続就業と復職は、それぞれの役割のウェイトが異なる。
2.女性の役割意識の変化
継続就業の場合は、たとえ結婚しようと出産をしようと仕
従来の女性と現代の女性の役割意識は、大きく異なって
事を辞めることなく続けているので、役割の中で最も重要
いる 5。かつての女性は、独身期までは一人の女性として
視している部分は 職業人 の部分だと考えられる。しか
の 私 というのを持っていて、それが結婚・子育て期に
し、復職の場合は、働いている理由が「仕事が楽しいから」
なると、一人の女性としての 私 という役割を捨て、 妻
などといったものではなく、「経済的理由」や「自己実現
として夫を支える役割と子どもを育てる 母 としての役
のため」、
「キャリアを活かしたい」など、継続就業とは異
割に徹していた。そして、子どもが親から離れて行く頃に
なる理由のため、役割の中で最も重要視している部分は継
は子育てが落ち着くので、再び一人の女性としての
続就業よりも 職業人 としてのウェイトは低いと考えら
私
を取り戻し 私 、 妻 、 母 の3つの役割を持っていた。
れる。
これがいわゆる専業主婦の型と思われる。
これらの主婦の分類別に、どのような耐久消費財が好ま
しかし、現在では、女性が仕事を続けるということが当
れているのかという調査結果がある。6
たり前になってきているため、独身期の時点で既に 職業
継続就業主婦では、普段働いている上に、家庭での家事
人 という役割を持っている。現代の女性は、働いている
や育児と言った仕事があるため、生活をする上でキーワー
ところから、結婚をしてもそのまま仕事を続けるという
ドとなるのが時間である。日中は働いている以上、家にい
「継続就業」と、結婚もしくはその先の出産を機に仕事か
る時間は少なく、その少ない時間の中で家のこともやらな
ら退き家庭に入る「離職」と、一度は仕事から退いたもの
くてはならないため、どうしたら時間を節約できるかとい
の何らかの理由で再び仕事を始める「復職」の3つに分け
うことがポイントになる。そのため、乾燥機付き洗濯機な
ることが出来る。
どの家事の省力化が行える耐久消費財の保有率が高いと
継続就業の場合は、独身期から続く
私
と
職業人
いう傾向がある。このことから、継続就業主婦は時間を無
という役割を持っていて、結婚や出産を機に仕事を辞める
駄にしないようにしたいということが伺える。
ことなく続ける人である。結婚をすれば 妻 という役割
離職主婦では、自動車の保有率が高いというデータがあ
を持つようになり、さらに出産をすれば 母 という役割
る。これは家事や育児に専念をしているために、家の買い
を持つようになる。それなので、継続就業の場合の役割は
物や子どもの送り迎えなどに使用していると考えられる。
5 青木幸弘編 [2008]『ライフ・コース・マーケティング』日本
経済新聞出版社 p118
6 ライフコース類型別消費特性 第1回パネル調査(学習院大
学経済経営研究所 [2006])より
また、自動車とは別に、デジタルカメラやゲーム機といっ
間ほどの私事のための時間があるようだ。
た、子どもに関する耐久消費財の保有率も高いというデー
■図表―――3
タがある。デジタルカメラの使用用途としては、子どもの
「私事」消費志向
成長記録を残すためであり、ゲーム機は子どものため、も
42.9
40.3
40
20
財の保有率が比較的高いという結果がある。これは、家事
10
も仕事も継続就業主婦と離職主婦と比べると、中間に位置
0
するためであると考えられる。自動車は子どもの送り迎え
10.9
10.5
11.7
継続就業層 復職層 離職層 ストレス
解消や癒
し 復職主婦では、自動車や DVD レコーダーといった世帯
27.4
22.521.5
22.7 25.7
18.4 13.9
スキル
アップ 30
自分磨き 考えられる。
装いやお
しゃれ 50
しくは子どもと一緒に遊ぶためということが理由として
や自分の買い物のために使うためであり、DVD レコーダ
ーは家事や仕事の合間の時間に、手軽に観ながら楽しむと
出典:『ライフコース・マーケティング』
いうことが考えられる。
また、主婦の私事の消費志向について見ると、自分のた
このように、主婦の分類別でみても、保有している耐久
めの私事に対しての消費というものは、どの項目に関して
財には違いがあるということがわかる。
も継続就業層がとても多いということがわかる。このこと
また、現代の主婦の役割の分類から注目すべき点は、継
から、継続就業層は自分作りへの消費欲求は強く持ってい
続就業主婦でも離職主婦でも復職主婦でも 私 という役
るということが言える。
割が消えること無く存在しているということである。もち
ろん誰もがどんなときでも 私 という役割は持っている
③ ― ― ― 主 婦 の 分 類 に 関 す る 研 究 と思うが、 私
という役割に重点を置いているかどうか
ということはまた別問題である。かつての主婦は結婚子育
主婦といっても色々な分類の仕方がある。我々はその中
て期になると
でも、それぞれの分類ごとの経済資源や消費特性を考察し
私
という役割が消え、 妻
と
母
と
いう役割だけで私自身というものは成り立っていたと考
た研究を紹介する。 えられる。
しかし、現在の主婦を継続就業、離職、復職に分類して
1.ライフコース類型別消費特性 第1回パネル調
も、 私
査(学習院大学経済経営研究所 [2006])
という役割は残ったままである。この
私
と
いう役割は一体どういったものなのだろうか。
学習院大学経済経営研究所が 2006 年に行ったパネル調
現代の主婦の生活時間、特にその中でも自分のため(私
査では、主婦を3つの層に分類している。第1の分類とし
事)の時間の使い方をみると、継続就業、離職、復職でそ
て継続就業層である。継続就業層は、結婚をしても出産を
れぞれ異なっている。継続就業では、日中仕事をしている
しても退職すること無く、継続している主婦である。年齢
ためか、私事の時間は早朝と夜間の計3時間程度である。
層は30代中心、価値観の特性は仕事観が高く、自立自活
離職では、日中の5時間ほどが私事の時間に当てられてい
志向も高く、自立的親子関係志向も高い。しかし、消費特
る。その他の時間は家事や育児の時間として使っていると
性は、仕事を継続している上に、主婦もやっているために
考えられる。復職では、離職と似ている時間の使い方で、
時間自由度は低い。生活資源としては、お金があるけど時
日中の5時間ほどが私事の時間に充てられているが、さら
間がない、というようである。消費特性としては自分の消
に夜間も1時間ほど私事の時間があるので、合計して6時
費度は高いものの、時間がないために消費の矛先は「モノ」
に向いている。
くのか、ということをまとめたものである。
第2の分類として復職層である。復職層は2種類に分か
関係性アイデンティティの概念とは、 私
れていて、結婚退職後に復職をしている40代から50代
の存在は、様々な役割によってポジションであったり、キ
の女性と、出産退職後に復職している30代後半から40
ャラクターであったり、接する人間関係というものによっ
代の女性である。復職層の女性の価値観特性は、仕事観が
て異なってくる。それぞれの役割に関するそれぞれの人間
高く、自立自活志向はやや高く、子どもの自立にも期待が
関係や社会的環境によって自分自身が形成されていくと
大きいが、家族団欒志向は低い。生活資源としては、お金
いうものである。つまり、 私
と時間は少しあるものの、経済的事情によって復職してい
割があり、母という役割なら子どもが関係し、妻という役
るのが現状のようである。消費特性としては、家事消費の
割なら夫が関係し、娘という役割なら親が関係し、市民と
補助であるが、わずかの所得があるため、自分の消費も旺
いう役割なら地域社会が関係し、職業人という役割なら仕
盛になっている。傾向としては自分のためのプチ贅沢など
事仲間が関係してくるというものである。
がこれに当たる。
それぞれの役割による関係性は一つ一つ限定的な関係
第3の分類として離職層である。離職層も復職層同様に
である。それぞれの役割ごとには自分自身の立ち位置を決
2種類に分かれていて、結婚契機離職と出産契機離職で年
めるポジション確認や、自分はそれぞれの役割でどのよう
齢層としてはどちらも30代である。離職層の女性の価値
に振る舞うのかをそれぞれの役割において自分づくりを
観特性は、家族観が高く、家族団欒志向も高い。また、出
しながら他者との関係性をはかり、自分自身を形成してい
産契機離職者は継続就業・自己実現志向が高い。しかし、
くのである。この段階は限定的な「関係性のアイデンティ
自立自活志向は低い。生活資源と消費特性は、結婚契機離
ティ」の中で自分をつくっている段階である。
職層と出産契機離職層では違いが見られる。結婚契機離職
限定的な関係性によって、自分をつくっていく段階から
層の生活資源は、夫の経済力次第である。それによって消
進むと、次はどの役割にもとらわれない「個のアイデンテ
費特性も自分の消費を謳歌する人もあれば、そうでない人
ィティ」を追求するようになる。それまでは、自分の役割
に分かれてしまうようである。出産契機離職層の生活資源
ごとに、外部環境との関連でポジション確認や自分づくり
は、お金はあるが時間がないようである。消費特性もお金
を行ってきたが、次の段階では自分がどのようになりたい
と時間は全て子どもに注ぎ込むということである。
のかということを突き詰めるべく、関係性アイデンティテ
以上のことをまとめると、継続就業層は、お金はあるの
ィから脱却し、自己投資や自分磨きをしながら自分という
で自分の消費も高いが、時間がないので、消費はモノで行
ものを形成していく段階である。
われる。復職層は、お金も時間も少しはあるが、そのお金
限定的な関係性を断ち、新たに自分を見つめ直すべく個
は家計の補助に回っている場合が多い。しかし、自分の消
のアイデンティティを追求すると、次は個のアイデンティ
費も旺盛で、プチ贅沢のような消費をする。離職層は結婚
ティをさらに広げるべく、企業や社会への参画や貢献をす
契機離職層でかつ夫の経済力が豊かな場合、自分の消費を
ることで、新たな自己の存在意義というもの見出そうとす
謳歌しているということだ。
る。この段階においては、限定的な関係性アイデンティテ
という一人
という中にはいくつか役
ィのように、役割ごとに異なった関わりを持つようなアイ
2.「自分づくり」の進化(梅本 2008)
デンティティではなく、自分と向き合い、自分とは何者か
この研究は、アイデンティティに主婦のそれぞれの役割
ということを明らかにしたアイデンティティを外部にも
という視点を取り入れて、関係性アイデンティティという
発信し、外部で貢献をするというような段階である。つま
アプローチで、自分というものがどのようにつくられてい
り、「私とはこういうものである」ということが形作られ
ていて、 私
という一人の人間の中に内在する役割によ
自分自身のアイデンティティというものの方向性が修正
って関係性を変えるのではなく、一人の私として、外部と
された結果、再び主体的に関与できる生き方を獲得したと
関わっていくということである。ここでいう外部とは、社
いうことになる。
会のことであり、社会と繋がることで、新たな関係性アイ
このアイデンティティの崩壊から再形成までのプロセ
デンティティを築き、それが新たな自分づくりということ
スを主婦で表すとすれば、自分は結婚する前までは、社会
になるのである。 に出て一人の女性として働いていたが、出産を機に仕事を
辞めて家庭に入ることになった。仕事をしていたが、結婚
3.中年期のアイデンティティの揺らぎと再達成(岡
をして出産をするというのは、自分の生き方の流れとして
本 1997)
は自然である。しかし、家での仕事というのは毎日家事や
アイデンティティを形成し、そこからどのように変化し
育児と先の見えないルーティン的な仕事ばかりをこなし
ていくのか、ということについての研究は、前述の通りだ
ているために、家事と育児に専念するままで良いのだろう
が、主婦の中にある 私 という視点に着目しているアイ
か、と考え始めることがアイデンティティの揺らぎの段階
デンティティの概念から説明する。
である。そこから自分はこのままで良いのか、本当は別の
人間誰しも、アイデンティティというものを持っていて、
ことをしたいのではないか、とこれまで生きてきた自分自
それは自分自身の人生に反映されている。アイデンティテ
身を見つめ直し、次の進むべき方向を決めるという段階が
ィは人それぞれであり、だからこそその人らしさというこ
モラトリアムである。この段階で、自分はやはり仕事がし
とも現れてくる。アイデンティティは、人生の中でも様々
たい、だからこそもう一度社会に戻りたい、という選択を
な経験を経ることによって影響を受けるものである。その
して、復職という道を選びそれに向かって突き進むのも一
ため人間は、あるときを境にアイデンティティを見直そう
つの方法であり、また、自分はやはり家庭での仕事を頑張
と立ち止まることがある。主にその時期は中年期とされ、
りたいと思い、社会復帰せずに、家庭で家事や育児に改め
自己と向き合うことこそが、それまでのアイデンティティ
て専念するというのも一つの方法である。つまり、自分の
の揺らぎであり、崩壊である。
生き方に疑問を抱き、そのことについて自分自身と見つめ
それまでに形成されたアイデンティティは、自分が「こ
合い、そこから自分の進むべき方向を認識して進み始める
のままで良いのだろうか」と立ち止まったときに揺らぎ始
ということが、アイデンティティの崩壊から再形成までの
める。しかし、アイデンティティは一度揺らいで崩壊して
プロセスである。
しまっても、自分自身が自己と向き合うことによって、こ
れからの自分の生き方を模索し始める段階に入る。このよ
4.アイデンティティ・ステイタス(岡本 1985)
うな状態をモラトリアムと呼ぶ。この段階では、これまで
アイデンティティの再形成のプロセスについては、前述
の自分を見つめ直した上で、これから自分は何をするべき
の研究が示しているが、形成してからどのように変化して
なのか、どうしたら良いのかということを考え、これから
行くのか、というアプローチがアイデンティティ・ステイ
の新しい自己の形成のために歩み始める段階である。
タスである。
人間のアイデンティティが揺らいでから、モラトリアム
アイデンティティを再形成するまでには、一度自分自身
という段階を経ると、再び自分自身のアイデンティティが
と見つめ合うことで、自分自身に否定的変化を与えている。
形成されていく。これは、モラトリアムの段階で自分の進
その否定的変化を経て、自分がどのように変わるかという
むべき道を定め、新たに進み始めてしばらく経った段階で
ことをこの研究では、再生アイデンティティ達成型、積極
ある。一度自分自身を見つめ直しから決めた道であるため、
的自己受容型、安定マイペース型の3タイプに分類してい
る。
は何者なのかということがわかってくる。つまり自分のア
再生アイデンティティ型とは、中年期の段階において、
イデンティティが確立されていなければ、母であっても妻
急激な否定的変化を体験し、それを契機に本当の自分の生
であっても職業人であっても、私という役割は存在してい
き方を問い直し、新しいアイデンティティを獲得したタイ
ないはずであると考えられる。 プである。つまり否定的変化を体験したことによって自分
第2の調査課題としてはアイデンティティの再認識を
が獲得した新しいアイデンティティに今すぐにでも変わ
強く行っているのは、継続就業主婦、離職主婦、復職主婦
りたい、という変化を受けたことで直接新しい自分へ変わ
のどの主婦か、またこれらの主婦がどのようにアイデンテ
りたいタイプである。
ィティを再形成していくのかということを検証する。現代
積極的自己受容型とは、否定的変化をアイデンティティ
の主婦は、 私
の再形成の段階は経験しているものの、中年期の自分自身
アイデンティティの再認識を行ったのかということは異
を見直す段階において精神的安定が顕著に自覚され、肯定
なると考えられる。また、アイデンティティを再形成する
的側面での変化が著しいタイプである。つまり、自分のア
上で、どのように変化していくのかということも異なると
イデンティティを見直したものの、将来自分の生き方を変
考えられる。これらを検証することで、それぞれの主婦が
えることなく、改めて過去の自分を再認識して、そのまま
アイデンティティをどのように変化させているのかとい
の自分で生きていくという考えに至るタイプである。
うことを解明する。
安定マイペース型とは、否定的変化による危機と、それ
第3の調査課題としては現代の主婦は、 私
に伴う自分の問い直しの時期は経験しているが、再生アイ
割を常に持ち続けていて、それは「自分づくり」というこ
デンティティ達成型、積極的自己受容型ほど大きな変化は
とである。その「自分づくり」がどのレベルまで進化して
見られない。安定マイペースというだけあって、徐々に変
いるのかということを、社会とのつながりまでを含めて検
わっていくというタイプである。
証する。
自分のアイデンティティを見つめ直し、新たに自分の将
第 4 の調査課題として、主婦の役割とその役割を抜いた
来について考えるという段階を踏むことで、それまでの自
潜在的な耐久消費財の欲求を検証する。主婦の役割という
分から変化をするか、それともそれまでの自分を肯定して、
ものは、 妻 、 母 、 私 、 職業人
改めて今までと同じように生きて行くかというように、自
の役割によって、必要とする耐久消費財というものは異な
己と向き合ってから出てくる結果は異なるようである。
る。しかし、自分が果たすべき役割の中で必要な製品とい
うものと、私という自分が本当に欲しい製品というものは
④ ― ― ― 調 査 課 題 導 出 一致しないと考える。こうした役割による耐久消費財保有
率と、 私
前述の主婦についての現状分析と主婦の分類やアイデ
じなのかということを検証し、役割を抜きにした、本当の
ンティティの先行研究と耐久財の関連を検証するべく、私
私が欲しい耐久消費財というものを提案していく。
という役割を持っているが、どのように
という役
とあり、それぞれ
としての耐久消費財購買欲求というものは同
達は調査課題を設定する。 第1の調査課題としては、 私
という役割が現代の主
参 考 文 献 婦の中には既に存在しているのは、現時点でアイデンティ
青木幸弘編[2008]『ライフ・コース・マーケティング』日本経済
ティの再認識というものを行っているからではないかと
新聞出版社 考える。 私
岡本裕子[2002]『アイデンティティ生涯発達論の射程』ミネルヴ
という役割を確立するためには、自分とい
うものを見つめ直すモラトリアムの時期があって、自分と
ァ書房
堀博道監修[2001]『心理測定尺度集Ⅰ』サイエンス社
内閣府[2009]『男女共同参画白書』
国立社会保障・人口問題研究所[2008]
『第 4 回全国家庭動向調査』
総務省[2002]『就業構造基本調査』
『赤ちゃんができたら考えるお金の本 2011 年版』ベネッ セ・ムック たまひよブックス DAIKO マーケティング・コミュニケーション・ラボ・ライフコー ス around40 レポート調査 http://www.daiko.co.jp/ja/portfolio/database/life_course/
life_course_01.pdf