超初心者のための フローサイトメトリー講座

2016.2.18 東京都臨床検査技師会血液検査研究班 研修会
やさしいフローサイトメトリーの
見方・考え方
虎の門病院 臨床検体検査部
池田千秋
フローサイトメトリーとは?
フローサイトメトリー (flow cytometry) とは微細な粒子(細胞)
を流体中に分散させ、その流体を細く流して、個々の粒子を
光学的に分析する手法
血液検査分野での応用
• 自動血球計数装置
• 表面抗原の検索
リンパ球サブセット
→
造血器腫瘍細胞
表面抗原検査 など
細胞表面(又は細胞内)を検索して、細胞の系統や成熟段階を調べる
白血病・リンパ腫病型診断や治療効果判定に有用
CD( Cluster Designation)番号とは?
造血系細胞に対する細胞表面に存在する分子(表面抗原)に結合
するモノクローナル抗体の国際分類。
ヒト白血球分化抗原に関する国際ワークショップ(HLDA)が、WHO
(世界保健機構)の監修のもとで分類している。
現在、CD1~371(?)まで決定されているが、
血液検査分野で検査する基本的な
抗体は30個程度
CD分類されていないものは、non-CD分子(抗体の場合はnon-CD抗体)
表面抗原はどのように調べる?
蛍光色素が標識された
表面抗原に対する抗体
(直接法)
細胞数
フローサイトメーターで測定
血液細胞
(特に白血球)
抗原抗体反応
蛍光強度
フローサイトメーターの測定原理
スタンダード検査血液学(第3版)より
複数の蛍光色素標識抗体を用いる解析
(マルチカラー法:現在は2~3カラーが主流)
PE蛍光強度
PE
細胞数
注:PE・FITC・・・抗体に結合している蛍光色素
2カラードットプロット
細胞数
PE蛍光強度
1パラメーター蛍光ヒストグラム
FITC蛍光強度
FITC
FITC蛍光強度
陽性と陰性をどのように分ける?
(蛍光陽性領域の設定)
2カラードットプロット
PEのみ陽性
陰性領域・・・陽性ではない蛍光
細胞数
1パラメーター蛍光ヒストグラム
・細胞の自家発光
・抗体が表面抗原でないのに結合したもの
(非特異的結合)
FITCのみ陽性
細胞数
PE蛍光強度
表面抗原に反応しない蛍光標識抗体
を用いる(陰性コントロール)
FITCとPE
の両方が陽性
クオドラント
(4分割)の設定
FITC蛍光強度
FITCとPE
の両方が陰性
陽性比率の算出
比率(%)
84.7
CD25
72.4
40
60
80
100
細胞数
CD4
20
PE蛍光強度
各標識抗体の組合わせのサイトグラムに
陰性コントロールのクオドラントを設定し
その領域の細胞比率を算出
蛍光の強弱や分布のパターンは
この情報ではわからない
(一部陽性や弱陽性など)
弱陽性と一部陽性
細胞数
細胞数
蛍光強度
一部陽性
弱陽性(dim+)
細胞数
陽性
蛍光強度
蛍光強度
ゲーティング(gating)
サンプル中のdebris(破片、ゴミ)や、複数のpopulation
(細胞集団)から、解析したい細胞集団を絞り込むこと
例えば
・白血病
・・・芽球集団
・リンパ腫 ・・・リンパ球集団
どのように細胞集団を絞り込むのか
(ゲーティング)?
まず、これらについて理解する!
・前方散乱光・・・Forward Scatter(FSC or FS)
細胞の大きさを反映
・側方散乱光・・・Side Scatter(SSC or SS)
細胞の複雑さを反映(顆粒・核など)
・CD45(白血球共通抗原)
白血球に共通して発現
前方散乱光(FSC)は細胞の大きさを反映する
レーザー
光
受光部
前方散乱光(FSC)
大きさ
受光部
側方散乱光(SSC)は細胞の複雑さ(核・顆粒など)を反映する
受光部
レーザー
光
側方散乱光(SSC)
受光部
FSC-SSC gating
リンパ球に絞って表面抗原の解析ができる
リンパ球gate
CD45発現量の利用
(CD45 gating)
CD45の発現
• 成熟リンパ球、単球・・・強陽性
• 顆粒球・芽球・・・弱陽性
• 赤芽球・血小板・・・陰性
Gatingには、形態学的情報が有用(不可欠)、
必ず標本を確認する!
検査する抗原はどうやって決める?
(検査パネル)
通常、臨床症状や検査所見などから、病型ごとに必要な表面抗原を選択する
あらかじめセット(検査パネル)にされていることが多い
主な検査オーダの例
□ リンパ球サブセット(T細胞・B細胞)
□ リンパ球サブセット(T細胞 CD4/CD8)
☑ 白血病解析検査
□ 悪性リンパ腫解析検査
□ 多発性骨髄腫解析検査
抗体ごとに依頼する方法もあります
注:現在、少し変更あり
顆粒球・単球・巨核球・赤芽球の主な表面抗原
細胞系統
発現抗原
顆粒球系
CD13, CD33, MPO
単球系
CD4dim+,CD13, CD14, CD33, CD64
巨核球系
CD41,CD42,CD61
赤芽球系
CD235a(Glycophorin A)
細胞に付着した
血小板が影響す
ることがある
(洗浄が必要)
リンパ球系の主な表面抗原
リンパ球≒CD3陽性Tリンパ球+Bリンパ球+NK細胞
ヘルパー/インデューサー Tリンパ球
Tリンパ球
CD2 CD3
CD5 CD7
リンパ球
NK細胞
CD4
CD3陽性T細胞≒CD4陽性細胞+CD8陽性細胞
サプレッサー/サイトトキシック Tリンパ球
CD8
CD2 CD8 CD16 CD56 (CD3は陰性)
Bリンパ球
CD19 CD20 CD22 CD79a
sIg(surface immune globrin:κorλ)
リンパ球サブセット検査
(検査の目的)
T・Bリンパ球の増減を示す疾患(スタンダード検査血液学 第3版より)
増加
末梢血中のT細胞・
B細胞比率、
T細胞中のサブセットの
比率を求めること
・T細胞性白血病・リンパ腫
サブセット:全体に
対する一部のこと
・単核球症様症候群
・先天性免疫不全症候群
・自己免疫疾患
・担がん状態
・AIDS(CD4/CD8↓)
・免疫抑制剤・副腎皮質ステロイド
・B細胞性白血病・リンパ腫
・重症複合免疫不全症
・反応性高γグロブリン血症
・無γグロブリン血症
・伝染性単核症
Tリンパ球
Bリンパ球
減少
細胞表面(内)免疫グロブリンについて
・B細胞1つにつき、発現しているL鎖は、κかλかどちらか一方
・形質細胞は、細胞内に発現
・明確な基準は無いが、
通常はκ優位で1.5程度、
1.2~3.0位と言われている
・非特異的結合による影響を
起こしやすいので、血球の
免疫グロブリンを洗浄してから検査
する
κ
κ
κ
λ
κ
λ
κ
κκ
κ
κκ κ
λ κ
λ κ
κκ
κκ
λ
κ
Κ/λ比
Κ:6/λ:4=1.5
λ
κκ
Κ/λ比
Κ/λ比
κκ Κ:9/λ:1=9.0
Κ:9/λ:1=9.0
モノクローナルな
κκ 可能性高い!
細胞内染色について
細胞内に発現している抗原を染色する。細胞膜透過処理をした後、
蛍光色素標識抗体を反応させる。
虎の門病院でパネルに入っている項目
細胞内染色セット
・MPO(ミエロペルオキシダーゼ)
表面抗原のみでは
・cytCD3
不明瞭な系統を証明
・cytCD79a
・cytCD22
・TDT(Terminal deoxynucleotidyl transferase)
ミエローマセット
・細胞内免疫グロブリン軽鎖(κ,λ)
Mixed phenotype acute leukemia(混合性白血病)とは?
WHO分類で系統不明な急性白血病に分類される
芽球の免疫形質が2系統(顆粒球系、T細胞性、B細胞性)以上みられる白血病
Mixed phenotype acute leukemia(MPAL)の判定に用いる各lineageの条件
lineage
Myeloid lineage
T lineage
条件
MPO(FCM,免疫組織化学、細胞化学)陽性
か
単球系への分化(NSE,CD11c,CD14,CD64,lysozymeのうち少なくとも2つ)
CytCD3(CD3εに対する抗体を用いたFCM)かsurfaceCD3
CD19強陽性+CD79a,cytCD22,CD10の1つ以上が強陽性
B lienage
CD19弱陽性+CD79a,cytCD22,CD10の2つ以上が強陽性
まとめ
・2カラードットプロットの見方
・ゲーティングの重要性
通常見られない細胞集団はないか
形態情報と一致しているか
・各細胞系統の基本的な表面抗原
・基本的な異常所見の注意点
ALLはCD45陰性になることがある
骨髄芽球の形質(CD7+やCD56+は通常みられない)
リンパ球の数的内訳は適切か
CD3陽性T細胞≒CD4陽性細胞+CD8陽性細胞(%)
CD3陽性T細胞+B細胞+NK細胞≒100(%)
CD5,CD3,CD7低発現のT細胞はないか
B細胞のΚ/λのバランスは正常か