第3節 肥満と運動・スポーツ

第3節
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肥満と運動・スポーツ
肥満と運動
色々の本には、肥満は脂肪組織が過剰に蓄積した状態と定義されています。肥満の判定には
BMI(BodyMassIndex)体重(㎏)÷身長÷身長で体重(㎏)を身長(m)で2回続けて割った値で
肥満判定する体格指数で、BMI<20・やせ、24<BMI<26.4・太り気味、26.4<BMI・太りす
ぎ、BMI25 以上を肥満としています。
肥満には糖尿病、高血圧、高肥血症、高尿酸血症(つまり痛風)脂肪肝、月経異常の方が多い
ようです。
小児では肥満は動脈硬化を促進すると言われています。
① 身長が伸びる学童期には減食療法は必要ありません、中学生以降では無理なく肥満解消を
図るのは困難です。要は食べ過ぎを防ぐことや身体活動(1 日平均歩数)が大事です。
② 一般人には食事療法も必要ですが運動療法も大事です。運動療法は一般的に効果が小さい
とされていますが、内臓脂肪肥満では、皮下脂肪型肥満に比べ運動の効果があらわれやす
く、運動療法の意義が大きいのです。運動の消費カロリーは小さく、例えば、1 時間の早
足歩行 200kcal 弱(体重では 28g に相当)に過ぎませんが、消費カロリーそのものではな
く、生活習慣病を改善することができるのです。
幼児では 15%以上肥満児・学童以降では 20∼30%が軽度肥満、30∼50%中等度肥満、50%
以上が高度肥満とされています。小児の場合 BMI は成長期には、正常値加年齢で大きく変動
するので、小児の基準には用いないでローレル指数を用いています。これは体重÷身長÷身長
÷身長です。
子供の運動の現状をみてみますと、例えば、ボール投げの最も成績の良かったのが 1971 年
で、男子 35 メートル、88 年で 32 メートル、98 年で 29 メートルで明らかに成績が低下して
います。何年経っても現在でも同じ傾向が続いています。親達は学校体育で鍛えるという授業
をしますと、そんな激しい運動をうちの子供にやらせてもらっては困るという反対の意見で教
師たちが楽しく運動しましょうと指導し、結局運動しない子が増える結果になります。一方、
ある親達はこれでは心配だとスポーツクラブに通わせます。そして運動する子になります。運
動する子と運動しない子を比べれば、運動しない子のほうが明らかに増えています。だから体
力測定の全国の平均値が低下し続け、極端な言い方になりますが、肥満児が増える原因になり
ます。先程も身体活動という言葉が出てきましたが、1 日の身体活動量を歩数で推定すること
が世界的に認められるようになりました。
子供の歩数に関する調査報告が認められるようになり
ました。
2003 年のアメリカスポーツ医学会年次大会でも歩数
計を使った沢山の報告がなされました。例えば、アメ
リカの 3∼5 歳の子供では身体活動量の多い方が筋肉量
は多い(体脂肪量が少ない)。オーストラリアの 8∼11 歳
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の子供は徒歩通学している方が 1 日の身体活動量が多い。カナダの 12∼18 歳の女子では競技
スポーツへの参加している方が、身体活動量は多い。ヨーロッパ 4 ヶ国の 9∼15 歳の子供の比
較では、最も活動量が多いのはノルウエーの子供で、少ないのはオランダの子供でありました。
日本と同じように子供の運動不足が先進諸国の間でも問題にされているようです。ピンセント
という研究者が 2003 年にアメリカ、
スウェーデン、
オーストラリアの 6∼12 歳の子供合計 1954
名を対象とした 1 日の歩数と肥満についての調査報告をしております。
1 日の歩数は、月曜から木曜までの 4 日間の平均値を歩数計で求めています。1 日の平均歩
数はスウェーデンの子供(男・17,000 歩・女・13,000 歩)が最も多く、アメリカの子供(男・13,000
歩・女 11,000 歩)が最も少なかったと言います。歩数は 6 歳から 12 歳まで殆んど変りません。
肥満児と判断される場合はアメリカの子供が断然多く、男子で 33,5%、女子で 36,6%であり
スウェーデン、
オーストラリアの子供は男女とも 16%前後でした。そしてアメリカの子供では、
歩数が少ない子供の方が肥満である傾向にありましたが、他の国では必ずしもそうとはいえな
かったと言います。では日本の子供の歩数はどうなのかと申しますと、永井さんという研究者
たちが 2000 年に京都市の小学生男子 30 名、女子 43 名について歩数を調べた結果、男子では
19,300 歩・女子では 17,200 歩とスウェーデンの子供達よりも多かったと言います。
肥満については、日本の基準で分類した肥満児の割合は男子で 10%、女子では 4,6%とスウ
ェーデン、オーストラリアよりも少ない傾向にあります。とにかく、歩数の多い子供は、通学
時間が長く肥満児がいなかったと言います。そこでアメリカ政府では、子供の身体活動を増や
す手段として、男子で 1 日 13,000 歩、女子では 11,000 歩を超えれば表彰するという計画を
2001 年に発表しました。ヨーロッパでは 2003 年から国際市民スポーツ連盟が音頭をとってウ
オーキングイベントに参加する 15 歳以上の子供の表彰制度を発足させました。財団法人日本
ウオーキング協会も「子供ウオーキングパスポート」を発行し、子供向け「あるけあるけ」運
動を展開することにしました。しかし、家族が子供と一緒に歩く「たくましい子供」を育てる
出発点なので、子供と一緒に歩くことを習慣にする生活を是非勧めたいと思います。
運動習慣と肥満との関係の研究は少ないのですが,2∼.3 紹介すると1つは、毎日運動してい
る大部分は体育大学学生と教育学部体育学科学生で筋肉労働者で筋肉の労働者とは鋳物工、荷
物運搬者、配管工、山林管理者、専業農家、コック、自衛隊員で健康男子全員 1,986 名のうち
やや肥満以上の肥満の者は 12%で健常女子では肥満者は全体の 16%でやや多かった。肥満と
運動習慣との関係を調べてみると、男子では、運動をしない者では肥満の発生率 15%、時々運
動する者 10%、毎日運動する者、あるいは筋肉労働している者では 4%であった。
女子では、それぞれ 19%、6%、4%であった。.運動をしないと肥満になりやすいのは男女と
も共通のようでした。只、運動をしないのに理想型あるいは筋肉質を呈している者が見られた
が、これらの人々は生まれつき良い体質を持った人達であろうと思われました。この研究でも
男女とも運動によって体重が減少する結果が見られたと思います。
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○ 運動量
肥満児の目標運動量は 100∼200kcal/日とされています。中等度以上の肥満児は投与カロリ
ーの 5%消費目標の運動から開始し、10%消費目標まで漸増する方法があります。これによる
と小学低学年で約 70kcal/日、小学高学年では約 80kcal/日、中学男子で約 100kcal/日、
中学女子では約 90kcal/日となります。運動開始後は目標消化カロリーを開始時の 2 倍まで漸
増する。
○ 運動強度
運動強度の設定は最大酸素摂取量のパーセントとして表すことができる。肥満者にとって適
切な運動強度と最大酸素摂取量の 40∼60%を提唱しているデーターが多い。運動時の最大酸素
摂取量と心拍数には直線的関係があることから、最大心拍数に対する運動時の心拍数の割合か
ら運動強度を推定することもできます。只、小児の場合は成人と比較して特別な特定の運動強
度に対する自覚的運動強度を低く申告しやすいという傾向があるため、小児の運動強度の設定
には、自覚的運動強度よりも最大酸素摂取量か心拍数を用いるのが実際的である。
少し難しいことになってきたが、要は
①体脂肪は運動しないと減らない。
食事を制限すれば体重は減少します。しかし、食事制限だけで減量すると体脂肪だけでなく
骨や筋肉までが減少してしまいます。
筋肉が減少すると基礎代謝量が減って、かえって太りやすい体になってしまいますから体脂
肪を上手に減らすには運動は不可欠です。
ダイエットを始めた当初は、体重が順調に減少します。しかし、2~3 ヶ月目に入ると、体重
の減少が止まることがあります。この減少を「適応」といいますが、体が少ないエネルギーで
も体重を減らすことなく生きていけるように、基礎代謝量を低下させるからです。これを克服
するためにも運動が必要です。
② 全身を使う運動が効果的
ダイエットに適しているのは、ウオーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動です。長
時間続けて行うので、消費エネルギーを増やすことができる上、体脂肪を効率よく燃焼させる
ことができるからです。運動を行うとき、最初は筋肉次いで肝臓に貯えられたグリコーゲンが
エネルギーとして使われ、その後 15~20 分たってから体脂肪がエネルギーとして使われます。
したがって体脂肪を燃やすには、
少なくとも 15 分以上は継続して運動を行う必要があります。
運動は、軽く汗ばむ程度の強度に行うのが効果的です。これは脈拍が 1 分間に 120 程度になる
運動に相当します。
③ メディカルチェックを受ける
減量のために効果的なダイエットを行うには、1 日に 300kcal 程度の運動を行う必要があり
ます。続けることで、減量を助ける効果があらわれますが、ノルマを決めて毎日必ずしなけれ
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ばならないと言うことではありません。その日の体調に合わせて、無理をしないことが大切で
す。運動が必要といっても、運動をする習慣の無い人が、いきなり激しい運動をするのは危険
です。膝などを痛めたり、時には心臓発作を起こしてしまうこともあります。
最初はラジオ体操のような簡単な運動から始め、次第にダイエットに効果的な運動にしてい
くと良いでしょう。中高年の肥満者は、生活習慣病を合併している事が多いので運動を始める
前にメディカルチェックを受けておくことが必要です。
私が長年、若者にボクシングを指導してきて、頭を悩ますものの一つに減量と食事の問題が
あります。昔は現在ほどスポーツ医学が注目されていなかったためか 30 年程前までは 1 日中
風呂に入りっぱなしで絶食して、10kg も減量してフラフラしながらリングに上がった者もい
て、今では後輩の生徒の伝説としての語り草になっている。今考えてみると誠に危険極まりな
しである。減量しないで「自分の適した体重で試合に臨みなさい」といっても、1 階級上のク
ラスの者が下のクラスに行けばパンチ力も違うであろうとの考えで減量する者も沢山いる。
常日頃より「食べて 0.5kg 増えたら練習で 1kg(体重)を落としなさい、日時を長く掛けて減
量するのが理想的だ」といっても試合の数日前に無理に減量するのが大多数である。ましてや
口渇きのためにジュースやコーラのキングサイズなどを飲用すれば翌日には 2kg の体重増加
することは確実である。
一般的に色々な報告によれば体重の 6%以下の減量であれば身体機能には格別の変化は認め
られないという報告がある。6%以上では体水分の減少血液濃縮、心拍出量低下、全身反応時
間の延長心拍数増加、血液成分の減少、持久力の低下などが起きることが報告されている。そ
こで無理の無い減量としては1ヶ月に 2kg 程度の減量が良いとされている。
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