日本における若者の就労状況と雇用形態に着目して

筑波大学 キャリア教育学研究
創刊号
[研究ノート]
若年層就労問題の検討
―日本における若者の就労状況と雇用形態に着目して―
源河
章乃(人間学群教育学類・4 年)
1.問題の所在
現在、経済危機と労働市場の変容に伴う若年失業率が増大する中、また、一方で学校から職業への
経路の多様化がみられるようになった。それに伴い、国際的にも、非正規雇用につく若者の割合が増
加傾向にある。OECD のデータを見ると、2009 年から 2012 年度にかけて、若者(15 歳~29 歳)の
正規雇用の割合は減少している一方で、非正規雇用につく割合が徐々に増加してきていることがわか
る(OECD 2014, p367)。特に、日本の場合在学中を除いた若年層 15 歳~24 歳の非正規の職員・従
業員の割合が 31.2%、25 歳から 34 歳の非正規職員・従業員の割合が 26.5%(総務省統計局 2014, p.212)
と、OECD 諸国平均の非正規雇用割合(15 歳から 29 歳まで)である 5.5%(OECD 2014, p.367)
を大きく上回っている。ここからもわかるとおり、国際的にみても特に日本においては若年層におい
て、賃金などの労働条件があまり良くない状態で働く人の割合は増加してきていることがわかる。現
在日本では、労働条件を改善するため、様々な策が国から打ち出しているが、いまだ立ち遅れている
状況といえる。日本で問題となってきているのが、卒業後に、安定した職を得ることができず、その
まま、経済的な自立を果たせないまま貧困に陥る若者の存在である。特に、中卒、高卒後の失業は、
その後再就職を果たすための能力、経験の未熟さゆえ、さらに深刻な状況に陥るといえるだろう。今
回は、日本における若者の就労状況やその課題について先行研究や統計、文献などから検討していく。
2.若年層の雇用形態・賃金の在り方
(1) 就労状態の学歴比較
① 雇用形態と賃金の差
就労問題、特に若年層においてまず問題となるのは、最終学歴によって生まれる雇用状況の違いで
ある。まず、現在の進路状況がどのようなものなのか、文部科学省(平成 27 年度)に基づいて示す
と以下のようになる。
表 1 中学、高校卒業後の進学・就職状況(男女計・平成 27 年度)
中学校卒業後進路
高等学校進学者(通信制含む)
割合(%)
高等学校卒業後進路
98.5
割合(%)
大学・短大進学者
54.5
専修学校進学者(高等課程)
0.2
専修学校進学者
16.7
就職者
0.4
就職者
17.8
出典:文部科学省(平成 27 年度)
『学校基本調査報告書(初等中等教育機関 専修学校・各種学校編)』 「中学校卒
業後の状況調査 表 229 状況別卒業者数(3-1)」、「高等学校(全日制・定時制)卒業後の状況調査 表 244 状況
別卒業者数(3-1)」を基に筆者作成
表 1 に示した通り、高等学校進学率は 98%とかなり高く、さらに、大学・短大等の進学率も 54.5%
と高い。また一方では、このように高学歴化が進む中で、割合は小さいにしても、依然として中学校
卒業後や高校卒業後に就職する者も一定の割合で存在することがわかる。次に、離学時における就業
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状況を見ることとする。労働政策研究・研修機構の「労働政策研究報告書」を基に離学時の就業状況
を示すと表 2 のようになる。
表 2 離学時の就業状況(学歴別・2010 年度)(単位:%)
正社員
アルバイ
ト・パート
45.1
35.4
6.3
3.7
7.1
2.4
100.0
61.5
18.8
11.2
1.0
5.9
1.5
100.0
76.2
7.7
7.2
1.7
6.1
1.1
100.0
7.8
55.6
3.3
5.6
27.8
0.0
100.0
7.5
61.7
9.2
4.2
15.0
2.5
100.0
35.5
22.6
6.5
0.0
29.0
29.0
100.0
58.6
21.5
8.1
2.1
7.7
1.9
100.0
高卒
専門・短大・
高専卒
大学・
大学院卒
中卒・
高校中退
高等教育
中退
その他不明
計
派遣・
契約
自営・
家業
失業・
無職
その他・
無回答
計
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構(平成 24 年)「労働政策研究報告書 No.148「大都市の若者の就業行動と意
識の展開―第 3 回ワークスタイル調査から―」
」,p.20, 図表 1-2 離学時の就業状況(学歴別)を基に筆者作成
表 2 を見ると、離学後の雇用形態は学歴によって大きく異なることがわかる。正社員の割合は高学歴
になるほど高く(大卒 76.2%、専門短大高専 61.5%、高卒 45.1%)、中卒や高校中退者、高等教育中
退者が離学時に正社員になる割合は、それぞれ 7.8%、7.5%で明らかに低い。一方で、パートやアル
バイトの割合を見ると学歴が低いほど高く、中卒や高校中退(55.6%)、高等教育中退(61.7%)、な
どの中退者において明らかに高くなっていることがわかる。このような結果から、学歴が高くなるほ
ど、正社員という安定した職業に就く割合が高くなる一方で、学歴が低い、または、中途退学者等は
パートやアルバイトなどの非正規社員として不安定な仕事に従事する傾向があるということがわかる。
非正規雇用と正規雇用に間には賃金に差があることは周知のとおりであるが、実際にどのくらい差が
出るのかを、厚生労働省の発行する『賃金センサス』(2015)の統計をもとに、雇用形態別、学歴別
にみた現金給与額の違いを表 3 に表わすと以下のようになる。
表 3 学歴・雇用形態別にきまって支給する現金給与額(男女計・産業計・平成 26 年度)
正社員・正職員(千円)
正社員・正職員以外(千円)
中卒
291.7
204.2
高卒
316.5
206.4
短大・高専卒
311.8
210.3
大学・大学院卒
411.5
270.6
出典:厚生労働省統計情報部『賃金センサス 第 5 巻 平成 26 年賃金構造基本統計調査』
「第 1 表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給付額及び年間賞与その他特別給与額(正社員・正職員
計)」及び「第 1 表 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定ない給付額および年間賞与そのほか特別給付額(正
社員・正職員以外)」を基に筆者作成
表 3 を見てみると「正社員・正職員」と「正社員・正社員以外」には明らかな賃金の差があり、さ
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らに、
「正社員・正職員」
、
「正社員・正社員以外」の間においても、学歴によってかなりの差があるこ
とがわかる。表 2 において示したように、中卒(高校中退者含む)や高卒(高等教育機関等中退者を
含む)においては、正規よりも非正規雇用につく割合が高いことから、ほとんどの中卒、高卒者は正
社員・正職員以外の雇用形態に従事していることとなる。ということは、高卒や中卒の約半数は表 3
で示す「正社員・正職員以外」の労働条件で生活していることとなり、経済的にかなり逼迫した生活
を送っていることがわかる。また、労働政策研究・研修機構によると、非正規雇用の中でも、より多
く働きたい、またはフルタイムで働きたいと思っている「不完全就業」の割合は、学歴によって変わ
り、学歴が低いほどその割合が高くなるということが言われている(労働政策研究・研修機構 2013、
p295)。さらに、
「不完全就業」者においては、正社員などよりも賃金や福利厚生、教育訓練や能力開
発の在り方に満足していない割合が高いことも示されており(労働政策研究・研修機構
2013,p306-308)、正規と非正規においては労働条件の違いがあることは明らかである。
②離職率の差
次に問題となるのが、学歴別にみた離職率の高さである。厚生労働省によって調査された、
「新規学
卒者の事業規模別・産業別離職状況」の表を参考に、学歴別にみた 3 年後の離職状況を以下の表 4 に
示した。
表 4 学歴別 3 年以内離職率(平成 2010,2011,2012 年 3 月卒業者対象)(単位:%)
2010 年 3 月卒業
2011 年 3 月卒業
2012 年 3 月卒業
中学校卒業
62.1
64.8
65.3
高等学校卒業
39.2
39.6
40.0
短期大学卒業
39.9
41.2
41.5
大学卒業
31.0
32.4
32.3
出典:厚生労働省「新規学卒者の事業規模別・産業別離職状況」
(http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/24.html)を基に筆者作成
明らかなのが中卒で就職した場合の離職率の高さである。6 割以上の人が 3 年以内に離職しているこ
とになる。少数化する中卒就職者の現状について、伊藤(1989, p.28-29)は「職場の選択の幅」の狭
さを挙げており、中卒就職者を「短期補充」の労働者として扱っている状況が多くあることを指摘し
ている。それゆえ仕事とのミスマッチが起こる可能性が高いとしている。したがって、就職後、また
は離職後も安定した職に就くことの困難さを指摘している。さらに伊藤(1989, p25)は中卒就職者の
多くは、学力が満たないことから、進学を断念することが多いとしているが、一方で、学力のみにと
どまらず家庭環境や社会経済的な背景やいじめや不登校などが原因で進学を断念するケースがあるこ
ともしられている(伊藤 2011, p.50)。いずれにせよ、中卒就職者の現状は深刻なものととらえてよい
のは明らかである。
高等学校卒業、短大卒業、大学卒業についての離職率の差はあまり顕著ではない。しかし、この場
合は、離職前の雇用形態(正規雇用、非正規雇用など)を考慮するべきである。表 2 で示したように、
最終学歴が高等学校卒業の者の半数は正規雇用以外の雇用形態についているケースが多い。小杉
(2011, p.15)は、パートやアルバイトなどの非正規雇用の問題点として「平均的には能力開発の機
会が少なく、将来の自立の可能性を広げられないことをあげているが、このことを考えると、大卒で
正規社員として働き、それなりにキャリアを積んだ後の離職と、高卒で非正規社員として働き、離職
する場合とではかなりリスクの差に違いがあることが考えられる。離職のリスクや再就職する際の可
能性において、大卒と高卒と、また、非正規社員と正規社員では大きく異なってくることが分かる。
高卒非正規雇用での離職と大卒正規雇用での離職を同等に考えてはいけないことが分かる。
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(3) 若年層の貧困問題
①若者の抱える経済的自立困難による貧困問題
学歴ごとの就労形態、賃金の差については、今までで見てきたとおりであるが、今度は若年層の就
労問題について、現在どのような問題や課題があるのかについてみていきたい。2000 年代に入ってか
ら、日本は安定した仕事に就けない若者が急増し(「不完全雇用社会」への転換)、それが若者世代に
大きなダメージを与えていると宮本(2011)は指摘している。その通り、近年は雇用形態において、
非正規雇用の割合が着実に増加してきている。
『労働力調査年報 平成 26 年』(総務省統計局)を見
ると、2010 年から 2014 年にかけて、男女の非正規雇用総数の割合は例年増加してきており、37.4%
と高い。2010 年と比べても 3.0 ポイント高くなっている。さらに、年齢別の割合を比べてみると、以
下の表 5 のようになる。
表 5 年齢階級別・年代別非正規雇用者数の割合(男女計平均)(単位:%)
15~24 歳
25~34 歳
35~44 歳
45~54 歳
55~64 歳
2012 年平均
31.2
26.5
27.6
31.4
46.2
2013 年平均
32.3
27.4
29.0
32.2
47.8
2014 年平均
30.7.
28.0
29.6
32.7
48.3
出典:総務省統計局『労働力調査年報 平成 26 年』
「Ⅱ-A-第 2 表 雇用形態、年齢階級別役員を除く雇用者数」を基に筆者作成
注)表中「15 歳~24 歳」については在学中を除いた場合の割合を示した
表 4 を見てもわかるとおり、14 歳から 24 歳の非正規割合が高いことがわかる。OECD 諸国の若年層
の(15 歳~29 歳)の非正規雇用の平均の割合が 5.5%である(OECD 2014, p367, chart C5.4)こと
を考えると、日本における非正規雇用の割合は全体として非常に高く、また、14 歳から 24 歳におい
て深刻なことが分かる。非正規雇用における問題は、賃金の低さや能力開発の少なさなどが指摘され
ている(小杉 2011, p.15)。若者が自立するにおいて、何よりも生活基盤を作り上げる個人の経済力は
欠かせないものであるが、このような状態を考えに入れると、この表であらわされた 30%近くの若年
層(14~24 歳)は、自立、安定した経済生活が営めているとは言い難い。岩田正美は厚生労働省の「住
居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書」(2007)をもとに、住居を喪失してネットカフェ
などに寝泊まりする者の 46.6%、またそのうちの非正規労働者である者の 40.2%が 34 歳未満の若者
であることを取り上げ、若者の労働環境、また貧困状態が深刻であることを指摘している(岩田 2011)。
しかし、一方で、渡辺秀樹は、日本特有の文化として、家族が子ども=若者を抱えるという家族的な
文化があるので、子供が経済的に自立困難な場合は家族が、その経済的に自立できない若者を扶養し
てきたといっている(渡辺 2011, p53)。このような指摘をくみとると、今まで、若者の経済的困難、
貧困は家族の扶養により、明るみになってこなかったのであろうことが考えらえる。しかし、近年生
活保護受給世帯は着実に増加しており1このことからもわかる通り、日本全体で貧困世帯が増加してい
ることがうかがえる。これは、家族による若者扶養の力が弱まってきているとみても良い。このよう
な状況を見ると、若者の就労問題は将来的な生活困難層を生み出す問題へと発展することが危惧され
る。したがって、早急に対処すべき課題である。
② 無業状態に陥る若年層の存在と課題
非正規雇用などの不安定就労などの問題がある一方で、無業、引きこもりに陥ってしまう若年層の
問題も見捨ててはならない。このような、引きこもりや無業状態に陥ることを、小杉(2006)は「ス
ムーズな移行」の失敗、すなわち、学校から職業生活への移行過程でその経路から外れてしまうこと、
とあらわしている。現在では、職業・職種の多様化がすすみ、以前は国際的に評価されてきた、学校
から仕事へのスムーズな移行を支える新規学卒就職・採用のシステムは、崩れつつある。したがって、
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より一層学校から職業生活へのリスクは高まることが予想される。宮本みち子はそのような「移行」
の危機に直面している若者にたいして、
「家庭環境の影響は大きい」と家庭環境との関連を指摘してい
る(宮本 2006, p.145)。現在、若年層(15~24 歳)の完全失業率は 2010 年の 9.4%をピークに減少
傾向にある。しかし、依然として 15~24 歳全体の 6.3%存在する(総務省統計局 2014, p20)。また、
減少しているといっても、若年層の非正規雇用割合の増加を考慮すると、失業していなくとも、不安
定な職に従事し経済的な自立を果たしているとは考えにくい。無業状態やフリーターに陥る経路はさ
まざまであるが、OECD の報告によると、無業状態やフリーターに陥ってしまうのは、学校から職業
生活へ移行する際、職を見つけることに失敗する、または、職を見つけてもその仕事条件の悪さにド
ロップアウトしてし、そのまま仕事を探すことも勉強をすることもしなくなる若者であるとしている
(OECD2014, p365)こういう無業状態に陥る若者の経路に関する研究は多くなされているが、一度
陥ってしまうと、学校と社会のはざまに陥り、そこから脱出するには多くの支援が必要となる。この
状況を改善するためには、若者にそういった支援機関へ自らアクセスする力を養わせるか、または周
囲が気づいて支援機関へと導く力が必要となってくる。このような若年層の就労問題には、少なから
ず家庭的、社会的なことが影響している以上、若者個人の問題に還元するのではなく、社会の側が積
極的に支援していく必要がある。特に、学校に在籍している時期からの適切な指導や、さらに、卒業
後においても、その離職率の高さと、就職するリスクから、継続的な支援が望まれる。藤田晃之は、
キャリア教育の最大の弱みとして、生徒の卒業後におよぶ継続的な支援・指導が脆弱であることを指
摘しており、卒業後に及ぶ指導・支援の現状として、高校在学中において、学校側から卒業後の相談
機関の紹介などの「情報提供」が少ないことや、
「追指導」を実施していない高等学校の割合の高さを
指摘している(藤田 2014, pp.268-270)。若者サポートステーションやジョブカフェなど、若者を対
象とした多様なサービスが提供されるようになってきている現在では、そのような支援機関へと促し
ていけるような指導の在り方も望まれるのではないかと考える。
(4)若年層において無業・非正規に陥る傾向とその危険性
若年層の学校から職業生活への移行の問題は、国際的な問題であり、特に経済危機や景気後退によ
る影響を強く受けていることが言われている。OECD の調査によると、高等教育の普及に伴って、雇
用側もより経験のある者を採用するようになる傾向があるので、15 歳~19 歳などで、早くして労働
市場に出る若者は、より厳しい状況に立たされることを示している(OECD 2014, p.365)。また、先
述した通り、そのような状況に立ち、離職したり、または仕事に就くことが困難になったりした若者
は、そのまま NEET になる傾向があるとも指摘している。加えて、そのような無業に陥る若者は、長
期的に労働市場や学問から離れることによって、より復帰が困難となる傾向があることも示している。
日本において、いわゆる NEET の割合は、近年減少傾向にあるが、だからと言って、若者の就労問題
がすべて改善してきているとは言えない状況にある。というのも、先ほども、OECD 諸国平均と比較
をしたが、雇用形態を見ると、日本においては、非正規雇用の割合がかなり高い。非正規雇用につい
ている若者についての調査では、非正規雇用に自発的に採用されている者は少数であり、ほとんどの
場合は正規の仕事に就けなかったため、非正規の職に就いていることが多いということが報告されて
いる(OECD 2014, p.366)。前でも示したが、非正規と正規では賃金の差や、さらにその後のキャリ
アアップの差にも違いがみられるため、非正規で採用されることには多くのハンディがあることに否
定はできないであろう。このような若者の就労問題を改善するためには、労働市場のあり方の改善と
ともに、若者に確かなスキルを身に着けさせる教育が何よりも重要である。
3.地域に着目した若者の就労
若者の就労に着目した場合、若者の学歴や、卒業後の雇用形態がどのようであるかを見ることも重
要であるが、一方で、卒業後に若者がどこで、どのような職種についているのかの点に関してみるこ
28
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とも見落としてはならない。中澤高志の研究によると、高卒の就職先はかつてに比べローカル化して
おり、若者がどのような職種へ就職するのかは、それぞれの地域労働市場の特徴により決まってくる
と述べている(中澤 2014、p60)。したがって、若者就労を考えるとき、その若者の就職先がどこに
なるのかの傾向を把握すること、特に地域に依存しているなら、その地域の産業構造を把握すること
は大切である。前述したとおり、若者の失業率や離職率の高さから、仕事とのミスマッチを起こす若
者が高いことが問題となっており、若者がどのような場所に就職するのか、またそこでの産業構造が
どういう労働力を求めているのか、などを見つめることは、なぜ若者が仕事とミスマッチを起こすの
かを探し出すことにもつながるのではないかと考える。今回は、これから研究を進めていくであろう
沖縄県に着目して、そこの労働市場がどうなっているのかを見ていきたい。
(1) 雇用状況や産業構造
まず、沖縄全体の雇用状態がどうであるのかをみてみる。2015 年の『社会生活統計指標』によると、
沖縄の完全失業率は 2010 年時点で 11・0%と全国の平均が 6.5%であることと比較しても、その割合
はかなり高く、さらに所得水準も全国と比べて低いことがよく問題とされる(総務省統計局 2015, p83,
p94)。また、求人倍率も全国に比べて低く、2012 年時点で全国の平均有効求人倍率が 0.7%であるの
に対して、沖縄は 0.36%となっている(p86)。また、一方では無業者の割合も全国に比べて高いのも
特徴としてあげられる(p89)。矢野昌浩は、沖縄の雇用市場を「オキナワ型雇用社会」と定義し、そ
の特徴として「サービス業や中小企業中心」であること、
「新卒採用よりも、即戦力を持った中途採用
を行う傾向がある」こと、また、所得水準が全国と比べても低いことから、公務員とその他の職業に
就く人の間で所得格差がある「二極化構造」があることの 3 点を指摘している(矢野 2003,p132-134)。
このような矢野昌浩の指摘は、現在の沖縄の雇用市場においてもあてはまるものなのかは、もう少し
詳しい検討が必要である。しかし、サービス業中心であることや、所得が全国に比べて低いことなど
のいくつかの状況に変化は見られないことから、ある程度現在の沖縄にもあてはまることだと考えら
れる。
(2) 中卒や高卒の就労状態・賃金
① 就職先・就労状況
今回は、中卒や高卒に絞って、その雇用市場がどうなっているのかをみることとする。中澤(2014)
は、中卒や高卒の就職先が、
「ローカル化」していることを指摘しているが、それが現在の沖縄におい
ても同様なのかどうかを新しいデータを基に確かめてみたい。2015 度の『学校基本調査報告書』に基
づいて、平成 27 年度 3 月時点で中卒、高卒就職生が県内、県外のどちらに就職しているのかを示す
と表 6 のようになる。
表6
中学校、および高等学校卒業後の就職先(2015 年度・男女計)
中学校卒業後の就職先(人)
計
県内
高等学校の就職先(人)
県外
計
県内
県外
全国
4,218
3,791
427
189,679
154,763
34,916
沖縄
127
120
7
2,405
1,655
750
出展:文部科学省『学校基本調査報告書(初等中等教育機関・専修学校・各種学校)』(平成 27 年度)表 236 「産業
別都道府県別就職者数(2-1)」p734 、表 255「産業別都道府県別就職者数(9-1)」p788、を基に筆者作成
表6を見てもわかるとおり、中学校、または高等学校を卒業した後、県内に就職する割合は全国的に
見て高い。割合で示すと全国の中卒者 89%、高等学校卒業者の 81%が県内に就職している。一方で、
沖縄の中卒者の県内就職率が 94.4%と高いが、高等学校卒業者の県内就職率は 68.8%と全国に比べ
て低い。このような特徴は九州地方や青森、岩手県などにみられる傾向で、主に、高等学校新規卒業
29
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者の求人倍率が低い地域がこの傾向を示していることがわかる(総務省統計局 2015,表 F 労働-3 就業
機会,p88)。地方などの、県内で就職口が見つかりにくい地域は、県外への就職者の割合が高くなる傾
向にあるのだと推測できる。しかし、沖縄県の過去 10 年単位でみると、県外就職の割合は低下傾向
にある。矢野昌浩は、この傾向から、県内就職志向が高まっている一方で、求職活動は県外求人にな
お依存している状況であると指摘している(矢野 2003, p142)。ここから、沖縄の若年層(中卒・高
卒)の卒業後の就職先としては、中卒において地域の、いわゆる「ローカル」な雇用市場に、高卒は
7 割弱が地域の市場に依存していると判断できる。したがって、地域の産業構造がどのようであるか
を見ることが、沖縄においても、高卒や中卒の就職、また進路指導を考える際に必要である。一方で、
高卒の 3 割という比較的多くの高卒生が県外に行くことから、県外のどのようなところで働いている
のかについても見ていく必要がある。今回は、詳しく触れることはできないので、表面的に沖縄にお
いて、若者が、どの産業で働いているのか、賃金はどうなのか、などに軽く触れることにする。
『就業
構造基本調査報告』によると、沖縄における 15 歳~19 歳の多くが従事する職種はもっとも多いのが
「卸売業や小売業」、次に多いのが「宿泊業や飲食サービス業」であり、その役割としては、サービス、
販売などに従事する人がほとんどで、管理職や専門・技能従事者はほとんどいない。また、農林漁業
従事者もかなり少ない(総務省統計局 2012、p828-832)。雇用形態に関してみると、15 歳~19 歳
の年齢において、雇用者約 10,300 人の中で、正規雇用で働いている人の数は 1,200 人、非正規で働
いている人は 9,100 人(うち、アルバイトは 8,000 人)、非正規で働いている人、とくにアルバイト
として働いている人の数がかなり高いことがわかる(総務省統計局 2012, p822)。賃金については、
『社会生活統計指標』(2015)をもとに見てみると以下の表 7,8 ようになる。
表 7 きまって支給する現金給与額月額[男・女別]
男性(千円)
2000 年
2005 年
女性(千円)
2010 年
2000 年
2005 年
2010 年
全国平均
338.5
329.2
329.2
220.9
226.8
231.7
沖縄
273.1
259.2
271.4
203.1
201.4
205.4
表 8 高卒新規卒業者初任給[男・女別]
男性(千円)
2000 年
2005 年
女性(千円)
2010 年
2000 年
2005 年
2010 年
全国平均
152.4
155.5
155.7
144.6
148.9
148.6
沖縄
132.5
126.1
138.3
121.9
121.7
125.8
出典:表7・表8ともに、総務省統計局(2015)『社会生活統計指標―都道府県の指標 2015―』p94,
表 F-5「就業条件」を基に筆者作成
表 7 を見てもわかるとおり、沖縄の現金給与額は全国に比べても低くなっている。さらに、高卒にお
いてみると、その沖縄全体の給与額よりも、さらに低く月額 13.2 万円ほどとなっている。給与額だけ
見ると、その労働条件はあまりよくないものと考えられる。以上のことからも、沖縄における 15 歳
から 19 歳の働いている若者は、日本全国における状況と同様に、職業経済的な面で不安定な状況に
いることがわかる。
② 若年無業者の状態
無業である若者についても、軽く見ることとする。
『就業構造基本調査報告』によれば、沖縄におい
て、無業者は総数だけで見ると 15 歳~24 歳の若年層が最も高い。15 歳~24 歳で無業者は 3 万人弱
いるが、そのうち求職者数は約 16,000 人である。また、その求職者のうち半数以上の人が、正規雇
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筑波大学 キャリア教育学研究
創刊号
用を望んでいる。希望職種をみると「サービス業」や「専門的・技能的職業」
「事務職」である割合が
高いことも特徴的である(総務省統計局 2012, p834)。このように、多くの求職中の若年層無業者が
正規雇用を求め、またサービス業、専門的・技能的職業、または事務職を求めている状況があること
がわかる。しかし、現状を見ると、正規雇用で働く割合の低さや、その多くが就く職種を見てみても、
職を求めながらも、希望の職に就くのが難しい状況があるとみてよいのではないかと考える。
このように、沖縄の若年層の就労は厳しいものということがわかる。これは、日本全体の問題と同
様の傾向である。さらに沖縄の求人倍率の低さなどを考えると、その環境は、より厳しいものとなる
ことが予測できる。しかし、今回は統計資料などを基に、また、表面的な検討にとどまっているため、
実際に、その働く若者がどのような状況に立たされているのかを具体的につかむことができなかった
のは課題として残る点である。また、人や物の流れが急速に変化していく現在、沖縄の就労状況が、
ここ数年間で変化していることも考えられる。今後は、この点を考慮しながら今後はより詳しく検討
していけたらと思う。
4.今後の研究に向けて
今回は、まず、日本における若年層の就労状況などに焦点を当てて統計や先行研究などから調査し
た後、沖縄という特定の地域の若者の就労について検討した。そこから見えてきたことは、最終学歴
がその後の雇用形態や賃金に与える影響が大きいということから、若年層において経済的自立が困難
な状況に追い込まれるリスクが高いということである。また、一方で若者においては、そのこの育っ
た地域の産業構造が若者の就業に影響することから、その地域の産業や雇用市場がどのようなもので
あるかの把握が必要であるということである。特に沖縄においては、本土から離れているという地理
的な状況もあり、より一層地域への依存度が高いことがうかがえる。このように、地域の構造を踏ま
えたうえで、適切な進路指導やその後の若者のキャリア形成支援の在り方を考えていくべきである。
近年の貧困率の増加に伴い、事態はさらに深刻化することが懸念されるが、どういった対策が講じら
れ、またその策にどのような課題があるのかは次回への課題としたい。また、今後は、今回見えてき
た学校における進路指導や追指導の重要性とその課題についても検討していきたい。
【註】
1 総務省統計局「社会生活統計指標
2015
J福祉社会保障」p.156、「社会保障統計年報平成 27 年度
版」p.311 など参照。
【文献】
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『フリーターとニート』勁草書房
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創刊号
社会福祉の動向編集委員会(2013)『社会福祉の動向 2013』中央法規
総務省統計局(2015)『社会生活統計指標―都道府県の指標 2015―』
総務省統計局(2014)『労働力調査年報』
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独立行政法人労働政策研究・研修機構(2012)『大都市の若者の就業行動と意識の展開―「第 3 回ワーキ
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中澤高志(2014)『労働の経済地理学』日本経済評論社
藤田晃之(2014)『キャリア教育基礎論―正しい理解と実践のために―』実業之日本社
宮本みち子(2012)「若者の自立保障と包括的支援」宮本みち子、小杉礼子(編)『二極化する若者と自立
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