「水中グリーンケミストリー」 で未来の化学技術の扉を開く。 世界初の発見は、独自のアイデアと “土俵際での粘り” から。 九州大学 未来化学創造センター 未来情報物質部門 教授 お ごう せ いじ 理学博士 小江 誠司 な財産になっています。 帰国して分子科学研究所で研究者として 歩き始め、その後、名古屋大学、大阪大学大 学院へと異動し、平成17年「10年から15 年先の化学の基盤を築く新組織」という魅 力に惹かれて、 ここ九大の未来化学創造セン ターに来たんです。 早くから芽生えた、独自のアイデア。 それは 「水素ガスが電子を供給する」 。 サッカーとロック が好きな少年だった。 大学入学時から研究者への夢を。 生まれも育ちも瀬戸内海の因島。中学生 くらいまではサッカーに夢中でした。高校に 入って1年生のとき仲間と一緒にバンドを 作ってからは、音楽に熱中しました。勉強も それなりにしました。小さい頃から理数系が 好きで、中学生で「大学への数学」なんか読 んでいましたね。 「自分で新しい公式を作 る」というようなことがとても楽しかったん です。 高校で化学が好きになり、理科系の大学 (東京理科大)を選びました。そして、入った 時から「教授になろう。研究室を持とう。」 と 決めていましたね。大学卒業後は、その大学 の大学院へ進み、さらに岡崎の総合研究大 学院大学に入ってドクターを取りました。 “ポスドク”でアメリカへ。 その経験が研究者としての財産に。 ドクターを取るに当たっては、岡崎国立共 同研究機構分子科学研究所というところで 博士論文向けの研究を2年間で仕上げ、後 の1年間はアメリカのカリフォルニア大学 バークレイ校(UCB)へ無給の“ポスドク”の ような形で研究しに行きました。 このとき体 験したアメリカ流の研究の進め方やディス カッションの仕方などは、研究者として大き 私の研究分野は、水中触媒化学や錯体化 学などで、現在生態系を範とし「水」をキー ワードとする 「水中グリーンケミストリー」の 創成を目指しています。つまり、 「生物のよう に水中・常温・常圧で水素や酸素、二酸化炭 素、 窒素などの各原子を活性化して必要な物 質をつくり出す<水中グリーンケミストリー> という化学を確立すること」 です。 実は、現在の研究のアイデアが芽生えた のは、分子科学研究所時代でした。それは、 「2個の水素ガスが2個の水素プラスイオン と2個の水素マイナスイオンに分離し、さら に1個の水素ガスと、2個の水素プラスイオ ン、 2個の電子に変化する」 というアイデアで した。 世界初の「水溶性分子触媒の開発」 で、長年のアイデアが形に。 このアイデアをずっと温めて来て、九大で 3年かけて実現することができました。常温 常圧の水中で水素から電子を取り出すため の「水溶性分子触媒の開発」に世界に先駆 けて成功したのです。 クリーンエネルギーとして注目される燃 料電池をはじめ、あらゆるエネルギーの元 になる水素から電子を取り出す。 これにより 石油化学を基礎としない、新しい化学の学 問領域を基礎とする未来の化学技術、化学 産業の構築が可能になったと言えるでしょ う。実際に、 さまざまなフィールドでこの水素 の活用に取り組んでおり、実用化への歩み も速度を速めています。 この成果によって今 年1月、 「 第5回日本学術振興会賞」をいた だききました。 研究にオリジナリティは欠かせない。 自分への強さと、人への優しさも。 ここでの研究は同時に、教育的な役割とし てG-COEと強く連携しています。九大には、 地元九州を中心とした優秀な人材が集まっ ていますから、 このトップクラスの財産を大 切に育て、大きく羽ばたかせる責任がありま すからね。 研究室でのゼミは“サイエンス・カフェ” と 呼び、お茶を飲みながら和やかな雰囲気で 行っています。アメリカで身についたスタイ ルですが、大事なことは 「やらされる」のでは なく 「やりたい」 という発想。そして、自分の 考えを十分に発信する力。そのためのトレー ニングをたっぷりと行っています。 化学は音楽や絵画と似ています。真白な キャンバスに、まっさらな譜面に、その人の 色で、音で、 リズムで表現していく。化学も同 様にオリジナリティが大事だと私は思ってい ます。だから 「テーマ探しは、自分で」 が基本。 やりたいテーマを見つけたら自由に存分に 研究して欲しいと思います。また、研究の場 は自分を磨く場でもあります。 “ 土俵際でど れだけ踏ん張れるか” という自分に対しての 強さと、人に対する優しさの両方を大事にし て欲しいですね。 これはリーダーとしての自 分への訓としても心に留めていることです が…。 永続可能な社会の実現を目指した、 エネルギーと環境化学。 化学の醍醐味は一発逆転。だからいつでも、 九州大学大学院 工学研究院 応用化学部門 教授 ピンチはチャンス! 未来化学創造センター兼任 いし はら たつみ 工学博士 石原 達己 パクトがある有名な先生でした。当時、助教授 の荒井先生からも 「石油はあと30年でなくな る。石油を使わずに石炭から人工ガソリンを 作る。一緒にやろう」 と言われたんです。是非そ れをやりたいと思いました。もともとエネル ギーに興味がありましたし、中学時代にいわ ゆる“オイルショック”を見ていて、 「 将来は人 の役に立つエネルギーをやりたい」 という思 いがずっとありましたから、願ってもないこと でした。 これを出発点に、<エネルギー>は現 在まで一環して私の研究テーマとなっている んです。 清山先生が退官されたため、後継の荒井先 生と共に研究を続けましたが、成果を評価さ れるまでには至らず、諦めざるを得ませんでし た。新たなテーマも見つからず、研究の場も大 分大学に移ることになるなど、 この時期は苦し かったですね。大分への引っ越しのときには、 “予測できないからこそ面白い” その言葉に導かれて、化学の道へ。 岡山県の片田舎で生まれ、野山を駆けまわ りながら育ちました。自然いっぱいの中でさま ざまな現象に感動したり、何故だろう?と不思 議に思ったりしながら育ったせいでしょうか、 小さい頃からサイエンスとしての理科は大好き でした。中学の頃から物理が好きになり、高校 の初め頃までは 「こんな面白いものはない」 と 熱中し、進路もその方向で考えていました。 なぜ物理が面白いと思ったか?それは、物 理というのは机上の計算ですべてが予測でき る。そして、実際そのとおりの結果を出してく れるからでした。その頃はエネルギーに関心 があり、自動車や飛行機に興味を持ち、 「 将来 は、飛行機よりももっと速く移動できる新しい 乗物をつくりたい」 と夢見ていました。 「化学」 という方向を考えたのは、高校2年 頃でした。化学の先生の「物理と違い、化学は 何が起るか分からない。だが、そこが面白いん だ。予測できることよりも、分からないことの 方がもっと面白いと思わないか?」 という言葉 に気持ちが大きく動いたんです。試薬で色が瞬 時に変わる実験などにも魅せられ、 「化学をや ろう」 と決めて九大に進みました。 「将来人の役に立つエネルギー」 をテーマに 人工ガソリンの研究からスタート。 大学のゼミで選んだのは、新しいエネル ギーを作るための触媒を研究している清山先 生の研究室でした。伝統のある研究室でした し、個性あふれる先生方の中でも、一段とイン 荷物を積んだトラックの後を妻と二人、車で ついて行ったのですが、太陽が沈んでいく光景 に「もう研究生活は終わりかな…」と弱気に なったものです。 未来のエネルギー 「燃料電池」 に挑戦。 “ダメもと精神” が、 目からウロコの発見に。 ところが大分大学に行ってみると、 「 エネル ギー関係の研究ができる」 ということで優秀な 学生が集まってくれて、 とても励まされました。 テーマに苦しんでいたので、 「どうせやるなら 他の人と違うことを、誰もできないことをやろ う!」 と、当時はまだ全く認知されていなかった 「中温作動燃料電池」の研究に取り組むことに しました。 20年前です。 「燃料電池」は、水素と酸素の化学反応を利 用して、直接電気エネルギーを得ることのでき るクリーンな発電システムですが、電解質に固 体を用いるSOFC(Solid Oxide Fuel Cell)は作動には約1,000℃の高温が必要 でした。そこで、もっと酸素イオンの伝導性が 高い、つまりもっと低温で酸素を動かす電解 質を見つけようとしたのです。 しかしそれは至 難の技術でした。なぜなら100年間、世界中 の悲願でありながら発見できていなかったか らです。 それが、ある日、ふとしたチャレンジ精神、 「ダメもと精神」 とも言うべき試みから発見で きたのです。まさに、目からウロコのサプライ ズ。 “ 常識の非常識” とはこういうことか!常識 に囚われないこと、常識の枠を超えて考えるこ との大切さを身をもって知りました。 大分大学での16年間の研究生活を経て6 年前に九大に戻り、現在は応用化学部門(機 能) と未来化学創造センターで、 「人間が環境と 共生していくための、新たなエネルギーシステ ムの構築」 を目指した研究を行っています。 「燃 料電池」では、大分でのサプライズをさらに発 展させて最高性能の酸素イオン伝導性を示す 新材料を利用して 「500℃で作動するSOFC」 に成功しました。また、 リチウム2次電池の高 容量化、光触媒やグリーンケミストリー用の触 媒、排ガス浄化触媒などの研究も進めており、 私たちの生活のすぐ側にまで近付いているも のも少なくありません。 自らに発想の限界を設けず 歯車ではなく、モーターになれ! G-COEではこれらの研究と同時に教育を 重視しているわけですが、研究室でいつも言っ ているのは「常識で限界を設けてしまわない こと。上を目指すこと。 どうせやるなら歯車で なくモーターになれ!」 ということです。そして、 「ピンチはチャンス!壁にぶつかった時には、そ の向こうにはきっと違う世界があると信じるこ と。そう信じてウロウロしていると、 どこかに 穴があいていて向こう側が覗ける。その穴を少 しずつ拡げていけばきっとブレイクスルーでき るから」 と。 化学の醍醐味は “一発逆転が可能” というこ とですね。それによって研究はさらに大きく発 展し、人の役に立つ。材料化学技術の中にはそ の面白さがあるんです。 シンポジウム 理・工 相 互乗り入れによる大学院講義 未来分子システム科学コースにおいては、全学的に最大 の教育効果を生むことを目的として、 学府横断型の大学院 教育システムを採用しています。 工学府、 システム生命科学 府、理学府に所属する大学院生が、異なる部局、専門領域 の教員による教育を受け、 新しい発想や思想に触れること によって、 グローバルな視野ならびに高い俯瞰的見識を身 につけることを重要な教育目標とし、 「未来分子システム 科学」 コースにおける基礎教育カリキュラムの一環として 理・工相互乗り入れによるリレー形式の大学院講義を実 施しています。平成20年度は、12月4日、5日に、箱崎 キャンパスで理学府の院生を対象に、君塚信夫教授と 古田弘幸教授による講義が行われ、 12月18日、 19日に伊都キャ ンパスで工学府の院生を対象に、香月昴教授と北川宏教授による 講義が行われました。 講 義 名( 会 場 ) 分子組織化学 (箱崎・化学第二講義室) 分子情報科学 (伊都・ウエスト 2 号館 313 号室) 日 程 講 師 参加者数 12月 4日 君塚信夫 教授 (工学研究院) 59名 12月 5日 古田弘幸 教授 (工学研究院) 41名 12月18日 香月 昴 教授 (理学研究院) 75名 12月19日 北川 宏 教授 (理学研究院) 72名 G-COE Kyushu Univ.-Pusan National Univ. Joint Symposium 2009 G-COE Kyushu Univ.-Pusan National Univ. Joint Symposium 2009は釜山大学 から14名 (うち学生8名) のゲストを迎えて、 平成 21年1月13日 (火) 、 14日 (水)の2日間の日程 で行われました。 13日は伊都キャンパスにおい て、施設見学と金田准教授、松浦准教授、藤ヶ谷 特任准教授、塩田助教の話題提供によるイン フォーマルディスカッションが行われました。 14日は西新プラザにてシンポジウムを開催しま した。釜山大学側から4名、九大G-COE側から 6名の講演者が最近の研究成果を発表し、活発 な質疑応答が行われました。 13日のWelcome Party(伊都キャンパス) と14日懇親会(福岡 ガーデンパレス) も盛会のうちに進行し、 学術的 な交流に留まらず、 お互いの友情と理解を深める 13日伊都キャンパス内「ビッグどら」にて行われたWelcome Partyにて 上で大変有意義なシンポジウムとなりました。 スピーチを終えてそれぞれ笑顔の日本人学生代表(下田康平君)と韓 国人学生代表 (Seo MeeJiさん) The 2nd POSTECH/Kyushu University Global COE Joint Symposium on Polymers and Nanomaterials 第2回POSTECH/G-COE共同シンポジ ウムを平成21年2月24日 (火) にPOSTECH で開催しました。午前9時から午後6時まで、高 原教授のG-COEの案内の後、 多岐の内容にわ たる活発な講演が相互の職員らにより行われま した (ポスドク・学生達のポスター発表含む) 。 シ ンポジウムを通して多くの職員や学生の方々と交 流することが出来、 大変有意義なものになりまし た。 また、 学生達にとって、 勤勉なPOSTECHの 学生達との交流は世界観を磨くと共に、研究者 (の卵) として一皮も二皮も剥くことが出来たで あろう事が容易に実感できたシンポジウムでし た。今後益々の相互交流並びに共同研究の発展 が期待されます。 The 1st MPI Colloids and Interface-Kyushu University Global COE Joint Seminar 平成21年2月10日(火) 、独ポツダム市にあ る、マックスプランク・コロイド - 界面研究所 (MPIKG)において、1 回目のジョイントシン ポジウムが開催されました。 60余名の出席者 の下、界面科学部門、 コロイド化学部門所長の Helmuth Mohwald 教授、 Markus Antonietti 教授より各部門の概要・研究紹介が、本拠点か らは君塚信夫教授、高原淳教授、中嶋直敏教 授、古田弘幸教授による研究講演が行われ、両 組織の研究連携へ向けた第一歩が本格的にス タートしました。 また、 シンポジウム後に設定さ れた、各研究ユニットリーダーとの個別討論で は、MPIKG の最新の研究成果を知ることがで き、 これからの具体的な連携を考える上でも、 今回の訪問は大変意義なものになりました。 特別講演会 <Prof. Roald Hoffmann> 開催日:2009年3月16日 (月) 〈講師〉 Roald Hoffmann 教授 (コーネル大学、米国) : ノーベル化学賞(1981年)受賞 第4回 先端生命科学特論 開催日:2009年3月12日(木) 〈講師〉 野地 博行 教授(大阪大学) 〈演題〉 ATP合成酵素のナノバイオサイエンス 〈演題〉 The Chemical Imagination at Work in Very Tight Places International Mini Symposium <Prof. Peter Day> 開催日:2009年3月23日 (月) 〈招待講演者〉 Peter Day 教授(ロンドン大学、英国) 齋藤 軍治 教授(名城大学) 〈演題〉 ・Organic-Inorganic Layer Salts as Molecular Functional Materials ・Development of Organic Functional Materials 〈学内講演者〉 君塚 信夫 教授 酒井 健 教授 横山 大輔 (D2) 大坪 主弥 (D2) 第2回定例会議および 若手研究者・大学院生成果発表会 開催日:2009年3月6日 (金) 九州大学箱崎キャンパスにおいて第2回定 例会議が開催されました。君塚拠点リーダーの 挨拶の後、古田副拠点リーダーより平成20年 度の事業報告がなされ、質疑応答が行われま した。その後、拠点内科研費(3件)、国際研究 助成(5件)、院生プロジェクト (22件)の各受 給者、 そして、 グローバルCOE学術研究員 (13 人) らによる成果発表会が行われました。 これ らの発表は英語で行われ、昼休みの間のポス ターセッションも含め、活発な議論が行われま した。朝から晩までの過密スケジュールであり ましたが、理・工双方から多くのご参加をいた だき、 100部準備した予稿集がすべてなくなる ほどの盛会に終わりました。 「 分 子システム創 製 ユニット」 ワークショップ 開催日:2008年12月20日(土) 〈招待講演者〉 篠田 哲史 准教授(大阪市立大学) 〈学内講演者、他〉 古田 弘幸 教授 中野 晴之 教授 松田 建児 教授・客員教授 阿部 正明 准教授 金子 賢治 准教授 中野 幸二 准教授 田中 敬二 准教授 林田 修 准教授 大塚 英幸 准教授 谷 文都 准教授 佐田 和己 准教授 正岡 重行 助教 前田 壮志 特任助教 Carole Aime 特任助教 Radomir Mysliborski 学術研究員 Gergely Juhász 学術研究員 Yulin Li 学術研究員 「生命分子システムユニット」 会議 開催日:2008年12月26日(金) ユニット内研究者の相互理解と連携、 生命分 子システムユニットとしての今後の方針、他の ユニットとの連携について話し合う事を目的と し、若手研究発表を含む「生命分子システムユ ニット」 会議が行われました。 第5回 国際ワークショップ 開催日:2009年4月14日 (火) 〈招待講演者〉 Gregory N. Tew 教授 (マサチューセッツ大 学アマースト校、 米国) 前田 大光 准教授 (立命館大学) 末田 慎二 准教授 (九州工業大学) <学内講演者> Carole Aime 特任助教 小野 利和 (D3) 森山 塁 (D2) 寺山 友規 (D2) 第8回 国際連携特論 開催日:2009年4月13日 (月) ∼14日(火) 〈講師〉 Gregory N. Tew 教授 (マサチューセッツ大学アマースト校、米国) 〈演題〉 An Introduction to Protein Polymers 〈参加者〉 片山 佳樹 木戸秋 悟 今任 稔彦 久枝 良雄 小江 誠司 丸山 厚 久下 理 後藤 雅宏 教授 教授 教授 教授 教授 教授 教授 教授 新留 琢郎 松浦 和則 金田 隆 井嶋 博之 井川 善也 神谷 典穂 宗 伸明 嶋田 直彦 准教授 准教授 准教授 准教授 准教授 准教授 助教授 特任助教授 特論・院生プロジェクト・リサーチプロポーザル 院生プロジェクト 院生プロジェクトでは院生がこれまで研究に関わって得た知見を踏まえて、院生自身の発想による意欲的な研究を支援します。申請内容 は、新規性、独創性、展開性などを考慮して総合的に審査され、平成20年度には22件(申請25件) が採択されて研究費が競争的に配分され ました。研究の遂行にあたっては、博士論文指導教員以外の教員にアドバイスを求めることができます。得られた成果は平成21年3月6日の 合同報告会にあわせて発表しました。英語での1分間スピーチおよびポスター発表が複数の教員により厳正に審査された結果、以下4名に優 秀研究賞を授与しました。 寺山 友規 君(工学府 物質創造工学専攻) 〈研究課題名〉 両性高分子電解質ポリマーブラシの膨潤状態とイオ ン強度依存性 寺山友規君は、 両性高分子電解質ポリマーブラシにおける膨潤状態の イオン強度依存性に関する研究を計画し、その予備的な実験としてイオン 液体中における両性高分子電 解質ポリマーの分子鎖形態に ついて光散乱と小角X線散乱 測定により明らかにしました。 G-COEの趣旨を理解したプ レゼンテーション、 特に、院生 プロジェクトアドバイザー制度 を 積 極 的 に 利 用 することに よって実験を精力的に展開し たことが高く評価されました。 小川 誠 君(理学府 凝縮系科学専攻) 〈研究課題名〉 ビオローゲンが高度集積化された電子移動・物質変 換システムの創製 小川誠君は、光照射による水からの水素発生を目指して3種のルテニ ウム錯体(RuMV2, RuMV4, RuMV6) を合成し、電荷分離の長寿命 化、 量子効率、水素発生能を系統的に検討しました。G-COEの趣旨を理 解した提案内容、研究の実践、 さらに積極的なプレゼンテーションの姿勢 が高く評価されました。 平原 将也 君(理学府 凝縮系科学専攻) 〈研究課題名〉 光水素発生を目指したシクロデキストリンを構築素 子とする超分子錯体の開発 平原将也君は、 白金錯体とRu(bpy)32+を用いた光誘起水素発生システ ムにおいて、 シクロデキストリンによる包摂効果を利用し、 PtとRuの両 成分を分子認識を介して連結する系の構築を提案しました。水素発生効 率に及ぼすPtとRu金属の距離/配向依存性は従来、 合成の手間のかか る連結分子の系で検討されていましたが、本提案では超分子的アプロー チで配位子の置換基や金属間距離/配向をコンビナトリアルに変化させ る事が可能となりました。包摂分子システムの合成と、 データはまだ十分 ではないものの機能評価も実施しています。G-COEの趣旨を理解した 提案内容、研究の実践、 さらに積極的なプレゼンテーションの姿勢が高く 評価されました。 斉田 謙一郎 君(理学府 分子科学専攻) 〈研究課題名〉 MALDI イオン化初期過程におけるマトリクス分子 の電子励起とプロトン移動反応の理論的研究 斉田謙一郎君は、MALDI分析マトリクスとして用いるいくつかの分子 (CHCA, DHB, HPA) について完全活性空間SCFなどの理論計算を行 い、 マトリクス/サンプル間のプロトン移動に関する有用な知見を得まし た。自身の博士論文では、 新規蛍光体の研究を行っており、 G-COEの趣 旨を理解した提案内容と真摯なプレゼンテーションの姿勢が高く評価さ れました。 リサーチプロポーザル リサーチプロポーザルでは自分の研究分野と異なる研究課題について問題提起を行い、 それを解決するための研究立案ならびに予想さ れる結果の考察を冊子としてまとめます。このプログラムでは自ら新しい課題を見つけ、解決しなければならない点を明確にし、そして、それ に対してどのようにアプローチするかという研究者としての大切な能力を磨きます。平成20年度は29名の受講届があり、理化学研究所主 任研究員の前田瑞夫先生にも外部評価委員として加わっていただき、 総勢53名の教員によるヒアリングを行いました。そして、25名の発表 があり、中でも、内容のすばらしかった3名を優秀賞 (未来分子システム科学 リサーチプロポーザル賞) に選定しました。 石田 真敏 君(理学府 分子科学専攻) 〈研究課題名〉 癌のイメージングと治療を目指した光線力学的治療 剤の開発 石田真敏君は自分の研究分野と異なる生化学についてよく勉強し、 最 新の報告も取り入れながら、新しいアイデアである19F-MRI によるイ メージング機能を有する光線力学ジッパービーコンの開発を提案し、 かつ 合成から生体評価まで幅広く勉強し実験計画したことが高く評価されま した。 嘉部 量太 君(工学府 物質創造工学専攻) 〈研究課題名〉 光駆動流体制御ソフトデバイスの開発 嘉部量太君はシアノ架橋Co錯体の光誘起磁性化を利用し、 得られた磁 場によって磁性流体である液体酸素の凝集を制御する光駆動磁性ソフト デバイスを提案しました。アクチュエーターの定義にいろいろ議論はある ものの細部まで幅広く勉強し、質疑応答もしっかりしていたことが高く評 価されました。 藤田 友紀 さん(工学府 物質創造工学専攻) 〈研究課題名〉 「バ クテリア スピーキング」 を利 用した細 胞 間コ ミュニケーション・システムの構築と制御 藤田友紀さんは二種のシグナル物質(ComXとA-Factor) を用いて 細胞同士が「対話」 を行う人工遺伝子ネットワークの構築という魅力的な 未来分子システム科学を意識した提案をした事に加え、 レビューや実験計 画の点でも良く絞られてまとめられていることが高く評価されました。 カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学体験記 工学府 井上 淳司 の第一人者であるGimzewski教授と活発なディスカッションができた こと、 また、ポスドクのDr. Stiegに具体的で有用なアドバイスを多数貰 えたことが、研究を進めるにあたり非常に重要であったと思います。今回 の研究留学では、専門分野と離れた分野の研究をさせて貰うことで、研究 者としての視野を広げることができ、 また異分野の研究を知るよい機会と なりました。今後は、多分野の研究内容を把握しながら、適宜自分の研究 に取り入れることができるような柔軟な研究者となれるよう精進してい きたいと考えています。 CNSIスタッフのLundbergさん、 カリフォルニアオフィスの松尾さん、梶原さんと CNSIピロティーにて(左から2番目が筆者です。) 平成20年12月17日から平成21年2月28日まで約2か月半、米国 のカリフォルニア大学ロサンゼルス校、California NanoSystems InstituteのNano & Pico Characterization Core Facilityに短 期留学させて頂きました。研究内容としては、細胞質内で最大の分子量を 持つ核酸-タンパク質複合体のvaultを原子力間顕微鏡を用いて表面観 察を行うというもので、 これまでに同じような研究例がなく、手探りの状 Gimzewski研のStieg、Adivienisと夕食会にて 態で測定条件を決定していきました。 このような状況下で、 この研究分野 台湾 工業技術研究院留学体験記 平成20年12月21日から平成21年2月21日の2ヶ月間、台湾の工 業技術研究院(Industrial Technology Research Institute) に短 工学府 遠藤 礼隆 期留学させていただきました。 研究テーマは、三重項準位から一重項準位への逆エネルギー移動現象 (逆項間交差)を利用し、 励起子生成効率及びPL量子収率の向上を狙いまし た。 有機ELの研究室に留学させていただき、 デバイス物理のみではなく、耐 久性や電子回路など、 様々な分野の方と触れ合うことができました。 そこか ら、様々な方と議論することにより、今まで自分の知識や考えには無かった ものが新しく勉強でき、 新しい発見や物理を見出すことができました。 英語のレベルは全体的に高く、日本と同じアジア圏ですが、日本は英語 の能力が劣っていると感じました。最も驚いたことが、上司のお子さんは 高校生にもかかわらず、英語が流暢に話せることに衝撃を受けました。更 に、普段の会話において、自分の意見は80∼90%程度しか伝えること ができなく、非常に悔しい思いをしました。今後、自分の英語能力を高め る必要があると感じました。 今後も、海外の研究を参考にし、活発な研究スタイルを憶えることが目 標です。更に、日本と海外の研究スタイルを組み合わせ、最適な研究活動 を進めたいと考えています。 チームメイトと旅行に行った鳴鳳山にて撮影(右から3番目が筆者です。) ニューヨーク市立大学ハンター校留学体験記 工学府 堀口 諭吉 私はG-COEの海外派遣プログラムを利用して、平成21年1月8日か ら平成21年2月27日までニューヨーク市立大学ハンター校へ共同研究 に行きました。ネイティブスピーカーと殆ど会話したことが無かったので、 共同研究先との情報のやり取りには苦労しましたが、受け入れ研究者で ある松井教授のご助力もあり、研究のやり取りを行うことができました。 また、研究室内のメンバーに助けてもらうことで、実験も行うことができ ました。 コーネル大学の教授とのつながりも生まれ、非常に有意義な共同 研究となりました。 暮らしについても、マンハッタン到着当初はどのように生活してよいの か分からず、繁華街での買い物で言葉が理解できなかったり、騙されたり するなど失敗も多かったです。 しかし徐々にアメリカ、特にニューヨーク独 特の生活の文化を知ることができるようになりました。マンハッタンは地 価が非常に高く、家賃も信じられないくらい高額です。そのため、予算内 で滞在するために途中から黒人街で知られるハーレムに移り住みまし た。ハーレムは一部危険な地区も残されていますが、再開発が非常に活発 で美しい住宅街が広がっている所です。そうした所で新しい生活に触れ ながら研究を行えたことは、非常に貴重な体験となりました。 松井研究室のメンバーとの記念写真 (NY市立大学ハンター校にて) (前列一番右が筆者です。) 女性研究者スピークアップ Carole Aime さん フランス・パリ出 身 。フランスの ボ ル ドー大学にて生化学で修士号、化学物 理 学と構 造 生 物 学 で 博 士 号 を 取 得 。 2007年に来福し、工学研究院応用化 学部門君塚研究室に配属。 研究活動の日・仏の違いは 女性の研究者の割合が日本では12%、 フランスでは31%であること を考えると、女性研究者が、 フランスにおいて日本よりずっと影響力があ るのは明白です。実際、17%の教授、教授と同レベルのリサーチディレク ターの22%が女性研究者です。日本のヒエラルキーでは、女性が高い地 位につき、男性と同等に扱われるのはより難しそうです。労働の男女の不 公平、家庭生活や子育てをする女性が働き続けることの難しさは、世界規 模での政治的な問題といえると思います。特にハードな科学の研究では その問題はとりわけ深刻ですね。日本では特にそう言えそうですね。育児 来日のきっかけは 生体分子を含めて自己組織化システムの研究に関心がありました。日 本、特に九州大学は、バイオミメティックの自己組織化の分野の國武教授 の先駆的研究で有名でしたので、魅力を感じていました。それで、君塚教 授の下で新たな有機・無機ハイブリッド自己組織化システムの構築をし たいと以前から希望していました。 ボルドー大学と所属の研究室では 私が博士号を取得したボルドー大学のヨーロッパ化学・生物学研究所 (IECB)は、設立10年ぐらいの新しい研究所で、生物学、物理学、化学の 研究者の共同研究を促進しています。男女の割合は、女性が43%、男性 が57%で、私の指導教官は日本人女性でありながら、 フランス国立科学 研究センター(CNRS)のリーダーでもありました。所属の研究室では、女 性が多数派で、女性しかいない時期もありました。 休暇制度の充実は、女性が働き続けるためには、重要な鍵になると思い ますし、日仏の女性の環境の大きな違いだと思います。 フランスでは、出産 するごとに16週間の有給休暇が与えられ、減給されることはありませ ん。 さらに、父親も同様に11日間の有給休暇が与えられます。日本では、 女性は出産前の6週間と出産後8週間、合わせて14週間の休暇が与え られますが、その間無給ですよね。 将来の夢は いつの日か、女性が重要職につきながら男性と同じ仕事で、同額の給 与をもらう、そんな男女の完全に平等な形を見てみたいです。個人的に は、子育てをしながら科学の研究にも積極的に関与したいと望んでいま す。将来は、 フランスの大学で教職に就くことを目指しています。科学者間 の共同研究活動のきっかけ作りに特に積極的に取り組みたいですね。国 際的なレベルでの共同研究を始めたいと心から願っています。もちろん 日本とも、特に九州大学との共同研究の機会が多くあるといいですね。 中国の女性研究者の状況について 潘 玲(PAN Ling)さん 中国では、科学系の研究者の3分の1が女性で、900万人います。優れ た女性の研究者が増えてきていますが、地位の高い女性研究者はまだま 中 国・吉 林 省 出 身 。東 北 師 範 大 学 の 有機化学の研究で修士号を取得後、 文 部 科 学 省 外 国 人 留 学 生 に 選 抜さ れ 、2 0 0 5 年 1 0 月 に 研 究 生として 九州大学工学研究院応用化学部門の 久枝研究室に入る。2006年4月に 博士後期課程に入学、2009年3月 に修了、博士号(工学)を取得。 だ少なく、 5%しかいないというのが現状です。地位の高い女性研究者の 中には結婚していても子供がいない人や、熟年離婚をする人が増えてきて おり、 より多くの女性研究者が「良い仕事を得るより、良い夫が欲しい」 と 考え始めるようになっている事が原因の一つだと思います。また、研究者 の世界では、 まだまだ男女不平等で、女性への圧力が大きいからでしょう ね。 将来の夢は 一番の夢は、世界で活躍できる研究者になる事です。日本へ留学する 来日のきっかけは 修士課程での専門は 「有機合成」でしたが、 「生体模倣化学」にもずっと 興味がありました。文部科学省外国人留学生に選ばれ、日本の大学の博 ことで、視野を広げることができました。研究には、世界レベルの交流が 必要だとずっと思ってきました。私は、研究分野で日本と中国をつなぐ架 け橋となるような研究者になりたいです。又、日本で学んだ知識、技術を 士後期課程の入試受験の資格を得たことがきっかけで来日しました。指 生かして、地球環境や人々に貢献したいと思っています。中国では、日本 導教員の久枝先生との出会いは、2005年の7月に中国で開催された国 際学会です。その時に先生のビタミンB12に関する素晴らしい講演を聴 く機会がありました。久枝先生は、 「有機合成」 と 「生体模倣化学」の2つ より女性研究者の数は多いですが、高い地位の研究者はまだ珍しいです。 女性は、男性よりも研究を続けることが難しく、研究と家庭のバランスを 取りにくいのが現状です。私は、研究が好きですが、 よい妻、 よい母親にも の分野で著名な研究者でしたので、私の希望とよく合っていると強く感 なりたいと思っています。研究と家族は私の人生には不可欠なものです じ、 「先生の研究室でぜひ研究をさせて下さい!」 とお願いしました。 ので、上手にバランスをとりながら研究を続けていきたいですね。 ■G-COE セミナーリスト No. 1 (2008年12月∼2009年3月末まで) 講演者名 講演者所属 開催日 2008.12.16 杉山 弘 先生 京都大学 塩野 毅 先生 広島大学 八島 栄次 先生 名古屋大学 宋 渓明 先生 遼寧大学、中国 西原 正通 先生 神奈川科学技術アカデミー 原田 佳子 先生 神奈川科学技術アカデミー 5 Tatiana. K. Bronich 先生 University of Nebraska Medical Center、アメリカ 2009. 2.23 6 野地 博行 先生 大阪大学 2009. 3.12 安達 千波矢 先生 九州大学 未来化学創造センター Chad Walker 先生 Edanz Editing 恒吉 有紀 先生 エルゼビア・ジャパン株式会社 竹田 政子 先生 エルゼビア・ジャパン株式会社 増渕 雄一 先生 京都大学 遠藤 仁 先生 東京大学 森田 裕史 先生 産業技術総合研究所 2 3 4 7 8 ■行事予定 2009. 1.26 2009. 2.19 2009. 2.19 2009. 3.13 2009. 3.26 日程は変更の可能性がございます。 行 事 開催日 国際シンポジウム プレICBICシンポジウム 2009. 7. 24 国際シンポジウム Yonsei Joint Symposium 2009. 8月 国際シンポジウム G-COE 国際会議 2009. 9. 30 国際シンポジウム MESA+(オランダへ) 2009.10月 編集・発行:九州大学グローバルCOEプログラム 未来分子システム科学 〒819−0395 福岡市西区元岡744 九州大学伊都キャンパスウェスト2号館616号室 TEL 092−802−2900 (伊都キャンパス事務局) TEL 092−642−7505 (箱崎キャンパス事務局) E-mail: gcoe_offi[email protected] http: //www.cstm.kyushu-u.ac.jp/gcoe 取材・編集:緒方 章子 撮 影:荻島 正夫 印 刷:城島印刷株式会社 〒810-0012 福岡市中央区白金2-9-6 TEL092-531-7102 FAX092-524-4411
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