解答 - Mei11

「遺伝と遺伝子」・「腫瘍医学」
解答例
問1. 分子腫瘍学 鈴木元先生出題
(講義プリント 2012/11/29 『DNA 複製、修復と疾患』参照。ちなみに実際の講義は 12/8。)
1)(A)塩基除去修復
(D) 1
(E) 30
(B)ヌクレオチド除去修復
(C)ミスマッチ修復
(F) 数千
2) 色素性乾皮症は常染色体劣性遺伝性皮膚疾患である。紫外線を浴びることで、DNA はピリミジ
ンダイマーを形成したり、大型の塩基付加物質がつくなどの損傷を受ける。正常であれば、これら
の損傷はヌクレオチド除去修復により修復される。しかし、色素性乾皮症患者は、この修復機構に
異常があるため、光線過敏症や種々の皮膚癌といった症状が現れる。
色素性乾皮症の原因であるヌクレオチド除去修復機構の異常には、
①DNA 損傷修復障害によるもの(A~I 群)
②DNA ポリメラーゼη欠損によるもの(バリアント群)
がある。
実験結果から、患者 G と患者 F は、修復機構に関与する異なる遺伝子の異常を持つと考えられる。
(一方が①他方が②など。また、両者①もしくは両者②であっても、異なる機能タンパク分子に関
する異常なら)両者の細胞を融合してできた細胞では、双方の障害、欠損を補い合うことができる
ので、紫外線抵抗性を獲得したと考えられる。
一方、患者 G と患者 H は、修復機構の異常が同一遺伝子(同一機能タンパク分子)に関するもの
であると考えられる。
問2.精神科 尾崎紀夫先生出題
(講義プリント 2013/01/10 『臨床遺伝学・遺伝カウンセリング・ゲノム解析研究』参照)
1)
通常ヒトの細胞には、遺伝子は2コピー
あり、一つは父方、もう一つは母方に由
来するというのが定説である。
(左図 A)
しかし、実際は1コピーしかなかったり、
3コピー以上存在するといった遺伝子の
コピー数の個人差がかなりの頻度で生じ
ている。この遺伝子の数の個人差、多様
性をコピー数多型 CNV(Copy Number
Variation)という。一塩基多型 SNP と異
なり、遺伝子をまるごと含むような数千
# http://www.rikenreseach.riken.jp/jpn/reseach/5571
塩基対以上の長さの大きな領域の数が個
えのむ
人間で異なる。CNV 領域はヒトゲノムの
約 12%を覆うことがわかっている。
1
問2-1)続き
Velo-cardio-facial syndrome (VCFS)(軟口蓋帆・心臓・顔症候群)は、ヒト染色体 23 対のうち 22
番目の長腕(q)の 11.2 という部分の微細欠失が原因で起こる。人間には、約 2 万 2 千の遺伝子があるが、
この症候群で欠けている部分には、確認されているだけでも 30~45 種類の遺伝子があると言われている。
ヒトは両親から 1 本ずつ対になる染色体を受けつぐが、22q11.2 欠失症候群の人はそのうち 1 本が欠け
ているため、30~45 の遺伝子については、本来 2 個あるところが 1 個になっている。
(CNV の一種)
VCFS の主な症状は特異な顔貌・先天性心疾患・免疫機能不全・低 Ca 血症である。更に、統合失調
症、ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム障害)などの精神疾患や発達障害を
伴うこともある。
<参考>
最近の研究によると、染色体の 22q11.2 という部分は特殊な配列があるために、他の染色体の部分よ
りも欠失しやすいということが分かってきた。22q11.2 欠失症候群の人は、ほぼ同じ部分が欠失してい
るにもかかわらず、症状には個人差がある。そのため、歴史的には、その症状からディジョージ症候群
(DGS)、口蓋帆・心臓・顔症候群(VCFS)、円錐動脈幹異常顔貌症候群(CTAF)など複数の名前で呼ばれ
てきた。
( # 問2-1は、
『22 HEART CLUB』という 22q11.2 欠失症の子どもとその親御さんたちが集うサー
クルのサイトを参考にさせていただきました。
)
2)サービス問題と思われます。講義プリント P2~6 の内容を適当にまとめたり調べたりして、それな
りのことをとにかく何か書きましょう。多様な解答が許容されると思います。以下は、ほんの1例。
遺伝と環境は相互に作用し合って、ヒトの表現型(疾患や性格など)に影響を与えている。
遺伝と環境がどのようにして表現型を決定するかについて述べる。
① 遺伝環境交互作用・・・環境因子によって遺伝因子が与える影響が変わりうる。
環境
表
現
遺伝
型
表現型
環境
遺伝的に同じ要素を持っていても(遺伝子型が同じ)環境が異なると違う表現型をとる。
例えば、うつ病発症に関連するストレスと素因は交互作用があることが、データで示されている。
(講義プリント P6-33 のグラフ参照)
② 遺伝環境相関・・・遺伝因子と環境因子が同じ方向へ影響を与える。
(遺伝因子が環境因子を介して
影響を与える。)
遺伝
環境
表現型
2
例えば、肥満傾向の遺伝因子を有する場合、以下のような遺伝と環境の相関が見られる。
1. 受動的相関…親も肥満傾向があり、その結果、生活習慣という環境の影響を受ける。
2. 誘導的相関…親に限らず周りの人が、
「あの人はよく食べるから大盛りにしてあげよう」といっ
た肥満を助長する環境にさらされる。
3. 能動的相関…たくさん食べる、運動をあまりしない、などの肥満を助長する環境を自ら選ぶ。
(うつ病における遺伝環境相関の例を述べるのもよい。うつ病発症モデルを研究する際は、遺伝と
環境の双方を加味する必要があると考えられている。)
疾患の発症と遺伝要因、環境要因の関係について、例えば単一遺伝子疾患は遺伝要因のみで発症にい
たりうるし、外傷は環境要因のみで発症しうる。統合失調症やうつ病は、両要因が関与する多因子疾患
である。ゲノムと表現型(疾患発症)については、双生児研究(一卵性と二卵性を比較など)によって
多くのことが明らかになった。
また、早期環境がゲノムに epigenetic な変化を与えることが分かっている。
(epigenetic な変化とは、塩基配列の変化を伴わない後天的で可逆的な変化。例:DNA メチル化)
◆Epigenetic メカニズム・・・早期環境によるゲノムの epigenetic な変化は、
・生涯を通じて影響する。
・シナプス回路のリモデリングに関与する。
・認知、感情、記憶、学習などに影響する。
◆早期環境経験の記憶は、遺伝子発現プログラミングの安定的変化として維持される。
・ゲノムは、人生における特定の時点で特定の細胞の遺伝子セットが発現するようにプログラ
ムされる。
・ゲノムのプログラミングはエピゲノムにより達成される。
(例として、母ネズミが適切なケアを行うか否かが子ネズミのストレス耐性に影響する、ストレスは海
馬における神経細胞新生を抑制する、などの研究結果がある。)
疾患の発症に遺伝環境相互作用が与える影響が解明されれば、予防医学的な研究が更に進むと期待さ
れている。
問3.腫瘍生物学 千賀威先生出題
あらかじめ出題が予告された超サービス問題。
1)癌細胞には、正常細胞と異なる6つの特徴がある。
1. 増殖シグナルの自己完結
癌細胞は、自身の受容体に結合する増殖因子を自ら産生する。ある種の Ras 変異により増殖因
子なしでも増殖シグナルが常に on になる。
2. 増殖抑制シグナルへの不応性
受容体の異常などにより、増殖抑制シグナルに応答しない。
3
3. 細胞死からの回避
癌細胞はアポトーシスを回避する。
以上 1~3 の癌細胞の特徴に対して、正常細胞では、無秩序な増殖が起きないよう細胞分裂や分化は
厳密に制御されている。正常細胞では、細胞分裂とアポトーシスが釣り合い、肥大や委縮を防いでいる。
4. 無限の自己増殖能力
癌細胞にはテロメラーゼ活性があり、通常の限界回数を超えて分裂増殖できるが、正常細胞は
分裂の度にテロメアが短くなるので、一定回数以上分裂できない。
5. 転移と浸潤
癌細胞は、細胞間の接着から離れて遊走し、漂着先で腫瘍形成ができるが、正常細胞にはでき
ない。
6. 血管新生
成長を続ける癌細胞は血管新生因子を放出して血管を引き込み、栄養供給を確保する。
その他、「癌細胞では嫌気性解糖系が亢進しており、エネルギーを好気呼吸ではなく解糖系に依存し
ている。正常細胞では、主にミトコンドリアの好気呼吸からエネルギーを得る。」など…
2)<Src 発見の経緯>
・1911 年 ニワトリにラウス肉腫を引き起こす濾過性病原体として発見された。
・もっとも初期に発見されたがん遺伝子である。
・レトロウイルスであるラウス肉腫ウイルスが認知されるためには、
1. 電子顕微鏡開発
2. 他のレトロウイルスの発見
3. 細胞培養法とフォーカスアッセイの開発
を待たねばならなかった。
(発見から 55 年後 1966 年にノーベル賞受賞)
・v-src はどこから来たか。…鳥の細胞内 c-src に由来する。
(生存に必要な遺伝子であり、c-src に異常
があると骨に異常がでる。
)鳥の mature な m-RNA がウイルスに入り、c-src が変異を重ね、がん化
したと考えられる。後にウイルスの v-src と相同の c-src がヒト正常細胞にも発見された。
<Src の細胞内における役割>
・Src タンパク質は、細胞質に存在する非受容体型チロシンキナーゼであり、細胞増殖に関わるシグナ
ル伝達系の中間分子である。
・原癌遺伝子である c-src 遺伝子に特定の複数の変異が入ると、このチロシンキナーゼが常に活性化し
て増殖シグナルが常に on の状態になり、細胞がん化の一因となる。
・Src のシグナル伝達の一例
① 増殖因子が受容体型チロシンキナーゼ(RTK)に結合すると、RTK は二量体化し、相互リン酸化
によって細胞内ドメインを活性化する。
② Src の SH2、SH3 ドメインが RTK に結合。
③ Src のチロシンキナーゼドメインが活性化して、下流のタンパクをリン酸化し、各種シグナル
伝達開始→細胞増殖
(以上問3 special thanks for”kinopuri” m(_ _)m )
4
問4.分子腫瘍学 柳澤聖先生出題
1) ①転写
②イントロン
2)遺伝子の塩基対数は、
③エクソン
④ORF
⑤UTR
3.3×109-{1.0×105×(2.0×104)}≒1.3×109
一つの遺伝子の塩基対数は、(1.3×109)÷(2.0×104)≒6.5×104
イントロン部分の塩基対数は、(6.5×104)-(5.0×103)=6.0×104
成熟した mRNA の平均塩基対数はエクソン部分の塩基対数に相当すると考えられるので、
求める倍率は、(6.0×104) ÷(5.0×103 )=1.2×10 倍
3)
・一塩基変異の結果、ミスセンス変異となり、当該コドンが別のアミノ酸を指定ようになるため、アミ
ノ酸の1つが別のアミノ酸に置換された蛋白質となる。
・一塩基変異の結果、ナンセンス変異となり、当該コドンが終始コドンになるため、短い蛋白質ができ
る。
5