東南アジアの 先史文化 と 民族移動

東南アジアの範囲
東南アジアの
先史文化
と
民族移動
大林太良編「東南アジアの民族と文化」<民族の歴史>6、山川出版社、1984年
ふたつの大陸棚
東南アジアのあけぼの
スンダランドとサフルランド
ウルム氷河期
:BP500、000∼200、000年
東南アジアのふたつの大陸
①スンダランド
(Sunda land)
②サフルランド
(Sahul land)
ウォーレシア(Wallacia)
★当時の気候
★動物
1
先住民
直立猿人
(Pithecanthropus Erectus)
100万年前:
猿人(Australopithecus)
ウォーレシアの乾燥林
東チモール
猿人
400万年前
アフリカ、オルドヴァイ渓谷
80万年前
原人、ジャワ原人
(Pithecanthropus Erectus)
北京原人
(Sinanthropus Pekinensis)
河北省周口店
50万年前 ウルム氷河期I 開始
北京付近地図
2
ジャカルタ国立博物館
サンギランで発見された
ジャワ原人の頭蓋骨
ジャワ原人の
復元想像図
ジャワ原人が住んでいた頃
のジャワの風景(想像図)
15万年前
旧人、ネアンデルタール人
(Homo Neanderthalensis)
3万年前
新人(Homo Sapiens)、
クロマニョン人
(Cromagnon man)
中部・東部ジャワにおける原人発見地
1万2000年前
ウルム氷河期IV終了
3
マレーシア・サラワク州ムル国立公園
石灰岩の洞窟
フランス・ラスコーの洞窟絵画
東南アジア最初の住民
原人
旧人
新人
の
進化
①オーストラロイド(Australoid)
メラネドイソの祖先
②ネグリート(Negrito)
熱帯降雨林に住むため矮小化
③モンゴロイド(Mongoloid)
北方群と南方群に分かれる
モンゴロイドの到来
①北方群:
②南方群:
東南アジアの
石器文化
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石器文化
12、000年前
ウルム氷河期終了
12,000年前
∼7000年前
地球が温暖化、湿潤化
小型獣、鳥、魚の捕獲
石器文化のはじまり
★地形の変化
海面の上昇、低湿地帯形成
★氷河期の終了
「縄文海進」
• 大型獣の減少
• 植物資源の利用:竹、籐製品
• かご類の製作、吹き矢の使用
家畜の飼育
★環境の変化による
人間居住の変化
「根栽農耕文化複合」
(root cultivation agriculture
complex)
炭水化物
①野生種のバナナの栽培
②根菜類の利用:
1、ヤムイモの利用
2、タロイモの利用
③サトウキビの利用
インドシナ半島の山岳地帯でバナナ、ヤ
ムイモ、タロイモ、サトウキビを
栽培する農耕文化が始まった。
(中尾佐助)
「根栽農耕文化複合」と名づけた。
(中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」
岩波新書)
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性による役割分担の発生
「根栽農耕文化複合」の特色
①種子による栽培ではない。
②倍数体の利用で品種改良が可能
③豆類を欠く
• 男性は狩猟、女性は農耕という
役割分担が始まったのはこの
ころか?
• 家族の手作業による
• 家畜の使用はほとんどなし
• 作物;オカボ、ヤムイモ、
マニオク(キャッサバ)、
サツマイモ、ナッツ、
バナナなど
• 自給用がほとんどで商品作物は存在し
ない
棒で畑を掘り返し芋を植える
西イリアン
イモ
• タロイモ :さといも、やつがしらと同種
栽培サトイモの総称
• ヤムイモ :ヤマノイモ科のヤマノイモ属
Dioscorea
ジネンジョウと同系
統
• キャッサバ、マニオク、タピオカ
甘くないサツマイモ
丘陵地帯の焼畑農耕
南スマトラ
6
タロイモを売るおじさん
ブルネイ
丸いタロイモ(左)と細いヤムイモ(右)
サラワク
ホアビン文化(Hoa binh culture)
12,000∼7,000年前
焼きバナナの屋台
バンコク
ホアビン・バクソン文化の打製石器
「根栽農耕文化複合」
バクソン文化:ホアビンの発展形態
担い手はメラネソイド
1、無土器文化
2、石斧、チョッパー、スマトラリス
3、インドシナ半島からマレー半島に
かけて分布
ベトナム北部地図
7
タ・ブート文化
照葉樹林文化の伝播
ベトナム北部に分布
6、000年前成立
東南アジアで最初の土器
を持った文化
イモの栽培化、食用化
太平洋地地域への移住
3、600年前頃:ラピタ文化(Lapita)
①豚、鶏、犬の飼育
②バナナ、ヤムイモ、タロイモの栽培
③土器の製作
④航海技術
社会の発生
• 「社会組織」
集落単位
• 「文化共同体」
文化を共有
• 農耕の開始とともに成立
ラピタ文化の土器
社会はなぜ発生したか?
•
•
•
•
•
人口の増加
有限な資源で多くの人口を養う必要
共同作業>個人行動の規制、能率向上
集落という「社会組織」の発生
「文化共同体」の発生
儀礼、習慣、言語、衣服など
東南アジアの先史文化
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海の民とサゴヤシ
山岳地帯:「根栽農耕文化複合」
低地帯: 人間の居住に適さない
汀線地帯:
1、サゴヤシの利用
2、ココヤシの利用
サゴヤシの幹
これから澱粉を採る
サゴヤシの木
サゴヤシの森
稲作農耕の発生
ココナツの殻
から果肉を
取り出してい
る
イネ
最重要作物
東南アジアの大部分の人々の主食
高温多湿な気候はイネの栽培に適す
る
ドライゾーンでは潅漑が不可欠
単作と二毛作あり
9
托鉢で供されるご飯
バンコク
インディカ米とジャポニカ米
湯取り法で飯
を炊く主婦
ミャンマー
蒸し器で蒸されるうるち米
東北タイ
大鉈で田んぼを掘り返す
西カリマンタン
水田の傍らの供物台
バリ島
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潮汐灌漑水田
川の増水で
灌漑する
ジャンビ
脱穀風景と石臼
ミャンマー
ファーイ(灌漑堰)の修築工事
北タイ
牛を使った蹄耕、マダガスカル
• 稲作農耕は東南アジア基層文化を形
成する重要な要素
• 焼畑では陸稲が作られ、後に水田稲
作農耕に変化した
• 水田の管理には高度な技術と労働集
約が必要
• 複雑な階層分化と社会の発達を促す
イフガオの棚田
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モンゴロイド南方群の発生
• 5,000年前頃
地球の寒冷化、乾燥化開始
• 栽培農耕の発達
• 集団防衛意識:都市の建設
• 暖かい南方への移住
• 船の利用、海上活動活発化
長江流域の文化
長江下流域:良渚文化
長江中流域:屈家嶺文化
海上活動、水上活動:広い範囲に分布
4,000年前頃:
モンゴロイド南方群の形成
↓
☆インドシナ半島:
オーストロアジア系言語の話者となる
(Austroasian)
☆島嶼部:
オーストロネジア系言語の話者となる
(Austronesian)
長江中・下流域
東南アジア・南太平洋における
オーストロネシア語族の分布図
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稲作農耕の発生
イネ;最重要作物
4,000年前ごろにモンゴロイド南方群
の人々によって東南アジアへ伝播?
東南アジアの大部分の人々の主食
高温多湿な気候はイネの栽培に適す
る
ドライゾーンでは潅漑が不可欠
単作と二毛作あり
オーストロネシアの人々が使ったカヌー
稲作はどのようにして広まったか
• 長江中下流で発生、
ジャポニカ種と雑穀の混交栽培
• インドシナ;イモを植えていたところに
オカボを植えた
徐々にイネが主流となる
• 島嶼部;オカボが主流
托鉢で供されるご飯
バンコク
湯取り法で飯
を炊く主婦
ミャンマー
インディカ米とジャポニカ米
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蒸し器で蒸されるうるち米
東北タイ
大鉈で田んぼを掘り返す
西カリマンタン
水田の傍らの供物台
バリ島
脱穀風景と石臼
ミャンマー
ファーイ(灌漑堰)の修築工事
北タイ
牛を使った蹄耕、マダガスカル
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• 稲作農耕は東南アジア基層文化を形
成する重要な要素
• 焼畑では陸稲が作られ、後に水田稲
作農耕に変化した
当初から「陸稲卓越型焼畑農耕」
• 水田の管理には高度な技術と労働集
約が必要
• 複雑な階層分化と社会の発達を促す
地形によって違う形態の農業
• 山地の傾斜地:陸稲卓越型の焼畑
• 山間盆地;湧き水や河川を利用した
水田稲作
• 平野部;天水利用の水田稲作
Cf. デルタはまだ無人地帯
水田稲作農耕の発達
• 焼畑農耕:山の傾斜地で行う
↓
• 原始的な水田稲作:山間盆地で開始
• 4,000年前:インドシナで天水利用の
水田耕作開始
乾季に食べる食料を貯蔵できるように
なってから人々は平野に住むようになる
稲作と歴史意識の発生
• 陸稲卓越型焼畑農耕の広がり
• イネを特別大事にする意識発生
• 「人間とイネだけが魂をもつ」
不安定な収穫 → イネのご機嫌を取
る
↓
農耕儀礼の発生
政治組織の発生
イネを食べる人間
人間にイネの魂が乗り移る
祖先の霊=イネの魂(イナダマ)
祖先の意識:自分たちのルーツを
意識する
• 歴史意識の発生
•
•
•
•
• イネの収穫:家族の財産という概念
• 利害関係の対立をまとめる組織の
必要性
• 政治組織の発生
• 最初に生まれた祖先の霊を大切にする
• 特定の家系の者が首長となる
• 首長国の発生
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東南アジア島嶼部の巨石文化
金属器文化の到来
青銅器時代の到来
5、000年前頃
華北と長江流域の2箇所に中心
東南アジアへ伝来したのは長江流域
交易で入手∼模倣
前1200年頃:広西の南寧地区
ソンコイデルタの上流
ストーンヘンジ
(イギリス)
東アジア
の銅・錫
産地
青銅器生産の背景
• 銅鉱石は長江流域で採れる
• 錫の鉱石は南部から交易によって入手
• 次第に青銅器が交易によって
中国南西部へ伝播?
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3、200年前
昆明
南寧、石塞山
ドンソン
• 四川、三星堆文化の崩壊
• 長江中流の屈家嶺文化の崩壊
↓
• ベトナム北部の青銅器文化の発生
両者の因果関係は不明
中国南西部∼ベトナム北部
殷墟
殷代の青銅器
「婦好」偏足方鼎
黄河文明
河南省黄河流域
三星堆
四川盆地
三星堆文化の
青銅製仮面
長江文明
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鉄器時代の到来
中国:2,600年前
(春秋時代の中葉)
当初は農具として使用
武器はまだ青銅器が主流
しばらく青銅・鉄器の併用時代
三星堆文化
の縦目仮面
長江文明
ドンソン文化
• 2,500年前;中国の青銅器文化が
伝播
• ドンソン銅鼓の製作
鉄器の農具が出来て青銅に余裕?
•
先ヘーゲルⅠ型(雲南・昆明に多い)
ヘーゲルⅠ型(ベトナム北部に多い)
19世紀にミャンマーの
カレン族が使った銅鼓
ドンソン遺跡の発見
•
•
•
•
•
•
タンホワの北東4キロ
ソン・マ(マ川)の右岸
1924年にフランス人により発見
1925∼28年にM. Pajotが発掘
V.Goloubevが研究発表
1935∼39年にO. Janseが発掘
ヘーゲル1式銅鼓
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ドンソン銅鼓
ヘーゲル1式
銅鼓
島嶼部におけるドンソン文化
• 2,500年前にベトナム北部で発生後
早い時期に島嶼部へ伝播
• 交易による?
• マレー半島、スマトラ、ジャワ、バリに伝
播
• 現地製もある?
• 直系1メートル、高さ80センチ
• 上中下の3部分からなる
• 上部:鳥の羽飾りをつけた人が船に乗っ
ている図柄:死者の行列か?
• 中部:動物文様、現世の様子?
• 銅鼓は宇宙軸か?
現世と来世とを繋ぐ軸
バンチェン文化
東北タイ、バンチェン村で発見
一時は世界最古の青銅器と言われた
現在の定説:3,000年前から開始
ドンソン文化とほぼ同時期
ドンソン
バンチェン
サムロンセン
タイ東北部とベトナム
サーフィン
バンチェン土器の切手
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バンチェン遺跡
バンチェン文化の青銅器とガラス玉
鉄器文化の広がり
• タイ東北部;ラテライトの土壌;
鉄分と塩分を多量に含む
• 2,400年前にこの鉄分を利用して鉄器
文化が始まる
• 製塩土器の発展:煮詰めて塩を作る
燃料として森が伐採されてサヴァンナと
なる
東北タイ、ノントゥーピーポンの製塩遺跡
サーフィン文化
•
•
•
•
•
•
3,200∼3,000年前
中・南部ベトナムで発生
青銅器文化
稲と雑穀を栽培
埋葬に甕棺を使用
フィリピン群島にも伝播
サーフィン文化の石製装身具
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先史時代の終焉
と
歴史時代のはじまり
サーフィン文化
東南アジアでは石器時代はいつ
終わったか?
• 2,400年前(紀元前4世紀)前後から
全域で青銅器時代に入る
• 2,100年前(紀元1世紀頃)から
歴史時代に入る
まとめ
• 12,000BP: ウルム氷河期の終了
• 7,000BP:「縄文海進」
海面の上昇、温暖化
• 10,000BP:根栽農耕文化複合の発生
∼5,000BP ホワビン・バクソン文化
メラネソイド
• 6,000BP:タブート文化の発生
土器の製作始まる
石器時代はまだ終わっていな
い?!
• 西スマトラ・エンガノ島では
1770年まで石斧使用
• イリアンジャヤでは
いまなお金石併用時代!
•
•
5,000BP:モンゴロイドの発生
(内陸アジア)
地球の寒冷化、乾燥化開始
4,000BP:モンゴロイド南方群の発生
1、オーストロアジア語族
2、オーストロネシア語族
稲作の伝来、陸稲栽培から
水田稲作農耕へ発展
海上活動の活発化
広範な地域への移住
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•
3,600BP:ラピタ文化、南太平洋へ伝播
根栽農耕文化複合が伝播
• (5,000BP):中国で青銅器文化発生
• 3,200BP:広西・南寧で青銅器生産開始
(屈家嶺文化、三星堆文化衰退)
• 3,000BP:バンチェン文化始まる(東北タイ)
• 3,000BP:サーフィン文化始まる
• (2,600BP):中国、鉄器生産開始
• 2,500BP:ドンソン文化始まる(ベトナム北部)
東南アジアは広く、
奥が深い!
今日はこれで終わり!
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