講演 2 C型肝炎治療の最前線! 図 2 HCV 感染後の経過 肝がんの制圧に向けた新たな戦い F4 (肝硬変) ウイルス(HCV)に起因することから,HCVの持続感染を制御・終息させること ターフェロン(IFN)を用いた治療が長年の中心であったが,近年では新規抗ウイ ルス薬の開発が進み,まさに日進月歩である. 本稿では,HCVに対する抗ウイルス療法の最新情報と薬剤耐性を考慮した治療 戦略について概説するとともに,肝がん制圧のために医療従事者が取り組むべき 課題について提言する. 年6∼8% 感染 年率0.4%,F2(血小板数 15万)では年率1.5%,F3 (血小板数13万)では年 率3〜4%,F4(肝硬変: 血 小 板 数 1 0 万以下)で 慢性肝炎の進行度 が肝がん制圧の最重要課題であろう.ことにHCVに対する抗ウイルス療法はイン 血小板数10万以下 肝がん 肝がんの多くは慢性肝炎から進展し,発症する.慢性肝炎の約70%はC型肝炎 血小板数13万 F3 年3∼4% 年1.5% 年0.4% F2 血小板数15万 血小板数18万 は年率6〜8%と高値です F1 (図2).従って,肝がんの 制圧のためにはHCVの持 キーワード あさ ひ な やす ひろ C型肝炎,抗ウイルス療法, 東京医科歯科大学消化器内科/ 大学院肝臓病態制御学講座 教授 インターフェロン(IFN), 直接作用型抗ウイルス薬(DAAs), IFN-based therapy,null responder, F0 C型肝炎による肝線維化 10 言えます. わが国のC型肝炎患者 30 40 図 3 C 型肝炎患者における年齢と発がんリスクの関係 の特 徴の一つとして,高 100 80 60 タでは,受診者の年齢が 抑止のために極めて重要であると言えます(図1). 高くなるにつれてC型肝炎 わが国における肝がんの患者数は約5万人 1)と先進 C型慢性肝炎は,HCVの持続感染によって引き起こさ 陽性率は上がり,特に70 国の中で最も多く,年間約3万人 2)が死亡しており,肝 れる肝臓の持続炎症です.推定持続感染者数は約150万 歳以上で上昇する傾向が がんの制圧は日本の最重要課題の一つと考えられま 人と,わが国の最大の慢性感染症です.HCVに感染する 認められました.この傾向 す.肝がんの原因として,近年ではアルコール性肝疾患 と約70%が慢性肝炎へと移行し,その後,30〜40年の は日本全国で同様に見ら (alcholic liver disease;ALD)や非アルコール性脂肪 年月をかけて徐々に肝線維化が進み,肝硬変に進展し れることから,わが国のC 肝炎(nonalcoholic steatohepatitis;NASH) [P29参照] ます.そして,最終的には肝がんへと病変が進行します. 型肝炎患者は非常に高齢 などの生活習慣病に起因するものが増加傾向にありま 肝線維化の進展に伴って発がん頻度は増加し,線維化 であると言えます.これは他国の感染状況とは異なる点 C型肝炎に対する抗ウイルス療法は,1992年にインター す.しかし,依然として全体の約7割を占めるのはC型肝 ステージF1(血小板数18万)における肝がん発症率は です. フェロン(interferon;IFN) [P30参照]単独24週療法が 40 14% 8% 19% 12% ■ HBV ■ HCV ■ ALD 69% ■ AIH ■ PBC ■ 不明 2000-2004 (n=108) 2015 No.85 2005-2008 (n=110) 2009-2013 (n=113) 70 (years) 文献3)より引用 C型肝炎患者の肝がん発症リスク因子を解析したわ 承認されたことから始まりました.しかし,Genotype[P30 れわれの報告 では,発がんハザードは年齢とともに 参照] 1b高ウイルス量例(難治性C型肝炎)に対する自験 上昇し,特に65歳以上で急激な増加が認められました 例における著効率(SVR)は9%(25/276)と高いものでは (図3).さらに多変量解析の結果,年齢は肝がんの独 ありませんでした.その後,IFNとリバビリン(ribavirin; 立因子であることが示されました.つまり,わが国におけ RBV) [P30参照]の併用療法(2001年),ペグインターフェ るC型肝炎患者の多くは高発がんリスク症例であると考 ロン(pegylated interferon;Peg-IFN)とRBVの併用療法 えられ,早期の治療介入が必要と考えられます. (2004年)と,治療法の進歩とともに治療成績は段階的 に向上していき,Peg-IFN+RBV併用療法におけるSVRは C型肝炎における 抗ウイルス療法の治療変遷 43%(316/736)となりました.さらに,2011年にわが国で初 徒然なる ままに。 徒然なる ままに。 80% 60 After adjustment for:Gender, stage of fibrosis, BMI, response to IFN treatment ■ NASH 79% 50 Age at IFN Initiation 最新 トピックス 最新 トピックス 17% 0 Risk Ratio 3) 東京医科歯科大学消化器内科での検討(n=331) 5% 20 検査 検査と私 NEW WAVE 検査 検査と私 NEW WAVE 図 1 肝細胞がん初発例における原因の変遷 95%CI 40 Series 中枢神経疾患 Series 中枢神経疾患 がんであることから,C型肝炎対策は,わが国の肝がん 講演を 終えて 講演を 終えて 2006年11月)の自験デー 講演 3 講演 3 肝がん制圧に向けて —日本のC型肝炎を取り巻く現状 炎ウイルス(Hepatitis C Virus;HCV)に起因するC型肝 講演 2 講演 2 Hazard Ratio for HCC 講演 1 講演 1 前,東京で行ったウイルス 肝炎検診(2002年4月〜 9 20 感染してからの年数 を抑制することが重要と 齢化が挙げられます.以 IFN-free therapy,薬剤耐性 0 語句解説 語句解説 朝比奈 靖浩 肝がん,C型肝炎ウイルス(HCV), 続感染を制御・終息させ, めての直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals; DAAs)として,第1世代プロテアーゼ阻害剤であるテラプ C型肝炎の治療目標は肝がんの発症ならびに肝疾患 レビル(TPV)が登場したことにより治療成績は飛躍的に 関連死(肝不全など)を防止することであり,その達成の 向上し,Peg-IFNとRBVを加えた3剤併用抗ウイルス療法 ために抗ウイルス療法が行われます. におけるSVRは84%(185/221)に至りました. 2015 No.85 10 講演 2 C型肝炎治療の最前線! 図 6 NS3 耐性変異の有無と治療効果 肝がんの制圧に向けた新たな戦い Null responder Naive p=0.062 (%) 100 p=0.506 (%) 100 80 5’ -UTR C E1 E2 p7 NS2 NS3 NS4A 【IFN-based therapy】 NS 4B 規定されてしまう点は,IFNNS5A NS5B の限界と言えるでしょう. ②アドヒアランス テラプレビル テラプレビル+Peg-IFN+RBV 3’ -UTR based therapyにおける一つ Genotype 1・2 IFNにはインフルエンザ様 シメプレビル+Peg-IFN+RBV シメプレビル Genotype 1 症状,血球減少,精神症状, バニプレビル+Peg-IFN+RBV バニプレビル Genotype 1 自己免疫減少,間質性肺炎, 【IFN-free therapy】 アスナプレビル ダクラタスビル Genotype 1b パリタプレビル/オムビタスビル パリタプレビル オムビタスビル Genotype 1 レジパスビル ソホスブビル+レジパスビル ソホスブビル+リバビリン 有の副作用が存在します.そ のため治療を途中で中止せ ざるを得ないケースもあり, ソホスブビル Genotype 1 アドヒアランスの確保が困難 ソホスブビル Genotype 2 です. IFN,RBVそれぞれのアドヒ (DCV)の併用療法が認可されたことで,DAAsを2種 ています. アランスを比較したところ, 類以上組み合わせたIFN-free therapyが行われるよう ①IFNに対する無効例(null responder) SMVでは89%(89/10 0)の になり,近年注目を集めています(図4). 長い間C型肝炎治療の中心となっていたIFNですが, 患者で95%以上の薬剤投与 一部に無効例(null responder)が存在します.自験例に 量 が 確 保できた一方,Peg - おいてTPV+Peg-IFN+RBV 3剤併用抗ウイルス療法の I FNとR BVにおいて8 0%以 SVRを過去のIFNに対する治療効果別に検証したとこ 上の薬剤投与量が 確保でき C型肝炎に対するTPVを用いた3剤併用抗ウイルス ろ,部分的治療反応例(partial responder)ではSVRが た患者の割合はそれぞれ71% 療法の治療期間は24週で,はじめの12週はTPV+Peg- 67%(4/6)と有効であったのに対し,null responderに (71/100)と59%(59/100) IFN+RBVを3剤併用で投与し,その後の12週はPeg- おいては14%(1/7)と治療効果はあまり得られませんで でした.IFN-based therapy IFN+R BVを2剤併用で投与します.本治療は非常に した. による治療には,Peg-IFNと では,I F Nに対する反 応性は何で決定されるので RBVの投与量を的確にコント しょうか.これにはヒト19番染色体の短腕上に存在する ロールして副作用による脱落 IL28B遺伝子近傍の遺伝子多型(SNP)が大きく関与し を最小限にとどめて治療を完 ており,このSNPを調べることによって,IFNに対する治 遂させることが重要です. 講演を 終えて Series 中枢神経疾患 検査 検査と私 NEW WAVE 68% 40% 20 11 (67/73) (15/22) (2/5) TT TG GG 2015 No.85 80 60 40 ■ non SVR 20 ■ SVR 0 Deep sequence:Cut-off value 0.2% *TVR triple therapy 子の特定の箇所(rs8099917)の塩基がT(チミン)からG (グアニン)に置換されているとIFNに対する治療効果 100 71 with RAVs at NS3 without RAVs n=7 n=4 (自験例) 図 7 IFN 無効例における viral breakthrough 68y Female IL28B TG Core 70/91 M/M SMV100mg/day Peg-IFN180ug/RBV800→1,000mg/day (Log IU/mL) 8 Null responder Stop treatment 7 6 5 4 3 2 1 0 01 0.3% 0.2% 0.3% 1.4% 7 14 0.25% 0.2% 28days 0.9% 2.3% 0.77% 11.2% 97.8% 98.7% 85.5% post 16Wks 1.4% 3.7% 4.8% 12.3% 82.5% ■ wild ■ V36A ■ Q80L ■ Q80R ■ A156T ■ D168V ■ D168A ■ D168T (自験例) DAAsの薬剤耐性 耐性変異(resistance-associated variants;RAVs)に影 響を受けます. があまり期待できません.自験例において,TPV+Peg- 一方,DAAsには薬剤耐性の問題が指摘されていま 自験例において,3剤併用抗ウイルス療法(IFN-based IFN+RBV 3剤併用抗ウイルス療法における治療成績 す.DAAsは1本鎖RNAウイルスであるHCVが肝細胞内 therapy)の治療成績を見てみると,DAAsに対する耐性 を遺伝子多型別に比較したところ,IL28B遺伝子上にメ で増殖するために必須の蛋白であるNS3/4A,NS5A, ウイルスの有無にかかわらず治療成績はほぼ同程度でし ジャーアレル(TT)をもちマイナーアレルが存在しない患 NS5B領域を標的としており,それぞれはプロテアーゼ活 た.つまり,一般的にはIFN-based therapyの場合は,治 者のSVR12達成率は92%(67/73)であるのに対し, マイ 性,ウイルスゲノム複製複合体形成,RNA依存性RNAポ 療前の耐性ウイルスの存在は治療効果に大きな影響が ナーアレルが存在するTGの場合だと68%(15/22)まで, リメラーゼ活性を有しています.DAAsはこれらの領域を 無いと考えられています. GGの場合は40%(2/5)まで低下することが認められまし 直接阻害することでウイルス増殖を速やかに,かつ強力 しかし,自験例においてIFNの反応性と耐性ウイルス た(図5).このように,治療成績が患者さんの遺伝子に に阻害します.しかし,DAAsを用いた治療は標的蛋白の が治療効果に与える影響を次世代シーケンサーを用いて 2015 No.85 徒然なる ままに。 徒然なる ままに。 40 *rs8099917 n=2 最新 トピックス 最新 トピックス SVR12達成率 p<0.001 n=100 60 0 n=8 療効果が予測できることが分かっています.IL28B遺伝 92% 80 with RAVs at NS3 without RAVs p=0.207 (%) 100 検査 検査と私 NEW WAVE IFN-based therapyではいくつかの問題点が挙げられ Relapser 25 Series 中枢神経疾患 プレビル(ASV)とNS5A阻害薬であるダクラタスビル (%) 100 20 n=2 講演を 終えて シメプレビル(SMV)とPeg- TVR/Peg-IFN/RBV 3剤併用療法 n=5 講演 3 講演 3 高い治療成績を示す一方で,この治療をはじめとする with RAVs at NS3 without RAVs 講演 2 講演 2 また,2014年にはプロテアーゼ阻害薬であるアスナ 0 講演 1 講演 1 のプロテアーゼ阻害薬である 図 5 IL28B における SNP *別治療効果 ―ITT 解析― 100 心筋症,眼底出血といった特 自験例において,第2世代 IFN-based therapy 20 40 0 100 80 40 60 語句解説 語句解説 ダクラタスビル+アスナプレビル 60 HCV RNA 図 4 C 型肝炎ウイルスに対する DAAs を用いた抗ウイルス療法 80 12 講演 2 C型肝炎治療の最前線! 図 10 NS5A 耐性変異のアミノ酸部位別の頻度 肝がんの制圧に向けた新たな戦い (mean fold change in EC50) Deep seq. vs. Direct seq. (%) 100 よっては無効例が存在します.一方,DAAsはウイルスの 抗ウイルス蛋白を誘導 免疫を誘導 インターフェロン (注射) 蛋白を直接阻害するために患者の体質に影響されること 60 なく強力な抗ウイルス作用を持っています.その反面,標 40 的蛋白にRAVsが生じた場合にはその薬剤は効かなくな 20 るという欠点があります. つまり,IFN-based therapyにおいてIFNに応答性が 無い症例や,次に述べますIFN-free therapyでは少数で 33 52 33 43 29 10 5 L28M R30Q L31M Q54H 19 100 Y93H Q54H+Y93H 0 P58 L31V 10 Y93H 1 Q54H/N 0 Deep sequence:Cut-off value 0.2% 50 L31M Wild 100 150 Relative fitness 200(Wild type=100) とで強い耐性を獲得することが分かっています. た次世代の治療に対しても効果が得られにくくなる懸念 図11は,DCVにおけるNS5A耐性のアミノ酸変異部 IFN-free therapyとしては,NS3/NS4Aを標的とす が生じてきます.つまり,IFN-free therapyでは標的蛋白 位別に,相対適応度(増殖能力)と薬剤耐性強度を表 詳しく調べると,IFN無効例ではRAVsの存在が治療成 るASVとNS5A阻害薬であるDCVを併用して治療を行 に耐性を持つウイルスが存在していると治療は不成功に したものです.野生株の相対適応度を10 0,薬剤耐性 績を大きく落としていることが分かりました(図6). うDCV/ASV併用療法がGenotype 1b型のC型肝炎に 終わり,そのことでウイルスが多剤耐性を獲得してしまう を1とした場合,自然界で認められるNS5A耐性である 1例をご紹介しますと,図7に示しますIFNの反応性が 対して2014年に承認されて以降,次世代DAAsを組み 懸念があるのです.このような多剤耐性は細菌分野で非 Y93Hの耐性強度は野生株の24倍強い一方で,増殖能 極めて乏しい症例では治療開始直後にはウイルス量の 合わせたIFN-free therapyが新たな選択肢として次々 常に問題になっており,肝炎治療においても重大な問題 力は4分の1と非常に弱いことが分かります5).しかし, 減少が見られたものの,1週間後にはウイルス量の再上昇 と登場してきています.ちなみにDCV/ASV併用療法 と考えられています. 治療不成功により多剤耐性変異が生じたと考えられる (viral breakthrough)を起こして治療は失敗に終わり の治療期間は24週間です.本療法により,従来,IFN- ②IFN-free therapyの治療成績と留意点 L31V+Q54H+Y93Hでは耐性強度が野生株の2万倍 ました.この症例の各時点におけるHCVの耐性プロファ based therapyが困難であったIFN不適格・不耐容例 自験例においてI FN-based t herapyとI FN-free であり,これらのウイルス増殖は高濃度の薬剤下におい イルを見ると,治療前には1.4%と少数派であった耐性ウ やIFN無効例に対する治療介入が可能となりました.し therapyのウイルス減衰曲線を見ると,IFN-free therapy ても抑制不可能であると考えられます.さらに,高増殖 イルスが,viral breakthrough後は多数派となってかなり かし一方で,多剤耐性ウイルスの問題がクローズアップ ではIFN-based therapyと同程度の治療効果が得られ 能を有していることから,非常に厄介なウイルスである の割合を占めてしまいました. されています. ていることが分かります(図9). ことが分かります.一度このような高度耐性かつ高複製 図8は,IFNおよびDAAsの作用点を模式化したもの ①多剤耐性ウイルス また,D CV/ASVの第Ⅲ相臨床試 験 では,治療 能が獲得されてしまえば,今後の治療が全て無効となる です.IFNは体内で抗ウイルス蛋白あるいは免疫を誘導 HCVは,わずかな遺伝子変異を持った小さなウイルス 開始後24週における治療成績は初回治療例では89% 危険があります.従って,現在のDAAsを用いた治療を することでウイルスを抑制します.そのため,RAVsの有無 集団の寄せ集まりで(quasispecies)形成されています. (106/119),再燃例では95%(21/22)でした.これは 行う場合は耐性ウイルスを測定してから治療すべきと考 にかかわらず治療効果が期待される反面,患者の体質に 通常,抗ウイルス療法を開始すると,薬剤に感受性のあ IFN-based therapyに匹敵する,あるいはそれ以上の非 えています. るウイルス集団は排除され, 常に高い治療成績です.一方で,HCVにおける治療前の 総ウイルス量は減少します. NS5A耐性変異の出現頻度は18%(23/129)でした.ま しかし,薬剤に耐性を示す少 た,これらの症例に対してDCV/ASV併用療法を施行し 数のウイルス集団が存在する た場合のSVR12は48%(11/23)でした.NS5A耐性変異 C型肝炎に対する薬物治療の進歩は目覚ましく,次々と と,それらは排除されず,次 が無ければ9割近くの治療成績が期待できる治療法では 新薬の発売が控えています.NS5AとNS3/NS4Aをそれ 第に増殖し,最終的にはviral ありますが,標的蛋白にRAVsが生じることで治療成績は ぞれ標的とするDAAsであるオムビタスビル,パリタプレ 5.0 breakthroughを生じ,耐性ウ 5割以下に低下するのです.そして,治療不成功例では複 ビルとリトナビルとの配合剤が,Genotype 1型の患者を対 4.0 イルスが優勢な集団になって 数のアミノ酸部位に耐性を生じた多剤耐性ウイルスが高 象として2015年2月に製造承認申請され,2015年8月現在 3.0 しまいます. 頻度に惹起されます. で厚生労働省により優先審査中です.国内の臨床試験6) 2.0 IFN-free therapyにおける 自験例において治療前にNS5A耐性変異を有する症 の結果における本剤のSVR12は98%(104/106)と報告さ 1.0 さらなる問題点は,耐性ウイ 例の頻度を調査したところ,direct sequenceでは21%, れており,大きく期待されています. ルスに効果の無い薬剤を使用 deep sequenceでは81%と非常に高頻度でした.さらに, さらに,NS5Aを標的とするレジパスビル(LDV)と,新 することによって,ウイルスが アミノ酸部位別の頻度を見ると,Q54Hの変異が高頻度 たにNS5Bを標的とするソホスブビル(SOF)との配合剤が さらなる多剤耐性を獲得して で存在していることが分かります(図10). Genotype 1型の患者を対象として2015年7月に製造承認を 語句解説 講演 1 講演 2 講演 3 講演を 終えて Series 中枢神経疾患 検査 検査と私 NEW WAVE 図 9 IFN-based therapy と IFN-free therapy の治療効果 (log IU/mL) 8.0 7.0 0.0 pre 1 2 2015 No.85 4 7 14 治療期間 28(日) 2015 No.85 徒然なる ままに。 徒然なる ままに。 HCV RNA 最新 トピックス 6.0 C型肝炎治療の今後の展開 最新 トピックス TVR SMV ASV/DCV 4) 検査 検査と私 NEW WAVE も変異が出現します. すると,同じクラスのDAAsを用い IFN-free therapy Series 中枢神経疾患 問題にはなりません.しかし,他部位に変異が共存するこ • NS5A阻害剤 講演を 終えて 不成功例にはNS5A領域のみならずNS3/NS4A領域に • ポリメラーゼ阻害剤 講演 3 Q54H変異は単独で存在する場合は,臨床的にあまり 績が大きく低下する懸念があります. NS5A 講演 2 しまうことです.DCV/ASV併用療法を例にとると,治療 • プロテアーゼ阻害剤 講演 1 文献5)より作成 ことができず,やがてそれらが顕在化することで治療成 ポリメラーゼ 語句解説 (自験例) (新薬・飲み薬) 13 43 1,000 も耐性ウイルスが存在した場合,それを完全に排除する プロテアーゼ HCV直接阻害剤 0 ■ direct n=21 L31M+Y93H 86 Resistance 図 8 IFN および DAAs の作用点 L31V+Q54H+Y93H L31V+Y93H 10,000 90 ■ deep 80 図 11 NS5A 阻害剤耐性バリアントの相対適応度と 薬剤耐性強度 −DCV における検討− 14 講演 2 C型肝炎治療の最前線! 図 13 ウイルス排除で得られる発がん抑制効果 65歳未満 Cumulative incidence of HCC (%) Logrank test:p<0.001 30 65歳以上 (%) Cumulative incidence of HCC 肝がんの制圧に向けた新たな戦い Logrank test:p=0.02 30 Non SVR 取得し,発売を控えています(2015年7月現在)※.SOFの 定の機会は日常診療で頻繁にありますが,肝臓専門医以 活性代謝産物はウラシル誘導体であり,HCVの複製時に 外の先生方はHCV抗体値をあまり重要視していない場 ウラシルの代わりにアデニンに相補的に結合してチェーン 合もあるかもしれません.しかしながら,HCV抗体を持っ ターミネーターとして作用することで,RNAの伸長を停止 た患者には肝がんや肝硬変のリスクがあります.そして, させます.Genotype 1型の患者を対象とした国内臨床試 現在C型肝炎は適切な治療を施せば100%に近い治療成 験 7)において,LDV/SOFの12週間投与によるSVR12は 績が得られるようになってきているのです. 初回治療群,再治療群共に100%(78/78,79/79)と報告さ こうした背景の中で,臨床検査部においてHCV抗体 れています.なお,SOFはGenotype 2型に対してはすでに を検出した際に,各診療科に対してアラートを発するシス 臨床使用されており,RBVとの併用治療におけるSVR12は テムを構築している施設もすでに多いと思います.多くの 96.7%(148/153)と高い治療成績を示し ,C型肝炎治療 ガイドライン(第3.5版)ではGenotype 2型に対する第一選 HCV感染患者を拾い上げて,肝臓専門医の下で適切な 治療に結びつける—— 肝がんの制圧のために臨床検査 ことだけではなく,あくまでも肝がんの発症ならびに肝 かってきました11).従って,ALT値やAFP値をはじめとし 択薬として推奨されています. 部の担う役割は大きいと考えます. 疾患関連死(肝不全など)を防止することであり,それに た検査値を発がんリスクマーカーとして捉え,将来の発 よる生命予後やQOLの改善です. がんを予想することが今後必要になると考えています. ウイルス排除で得られる発がん抑制効果に関する また,IFNは抗腫瘍効果を有することが知られており, 我々の検討 によると,65歳以上の高齢者ではウイルス IFN-based therapyにおける発がん抑制効果はメタアナリ C型肝炎治療を受けるにあたっては薬剤費の問題が 排除後も一定期間において治療不成功例と同程度の発 シスで明らかになっています12).一方で,IFN-free therapy 一方で,上記のようにSVRが100%に近い薬剤が続々 あります.LDV/SOF配合剤を例に挙げると,米国では がんリスクが認められました(図13).つまり,HCVの排 によってHCV排除ができた場合の,治療後の肝発がん抑 と開発されているだけでは,肝がんや肝疾患関連死はあ 1錠 約15万円で販売されています.1コース12週間,わず 除後,直ちに肝がんの発生率が減少するわけではない 制効果のエビデンス構築については今後の課題です. まり減少しません. か3カ月の治療で,薬剤費だけで1,200万円以上もかかる ため,長期予後改善のためには,特に高齢者のような高 ここまで,肝がんの制圧に向けたC型肝炎の最新治療 図12はHCV感染関連疾患に関するオーストリアのシミュ のです.わが国では薬価未収載(2015年7月現在)であ 発がんリスク例に対するエコーやCT,MRIといった肝 について解説してきました.わが国のC型肝炎患者は,高 レーションで, 今後より効果的な治療法が開発された場合, り,米国と比較して6割程度になると予想されています 発がんスクリーニング検査が必要でしょう.また,早期発 齢化に伴って高い発がんリスクを持っています.近年画 あるいは効果的な治療法の開発に加えて適切な患者の掘り が,150万人のHCV感染者全員に投与することを想定す 見,早期治療介入によって,より高い発がん抑止効果が 期的な新薬が開発されている一方で,新薬による治療の 起こしによって治療率が向上した場合を想定した,それぞ ると莫大な金額になります.肝がんや肝疾患関連死を未 得られることが示されていると思います. 際には薬剤耐性を十分考慮する必要があります.そして, れにおける肝がんおよび肝疾患関連死の数を2030年まで 然に防ぐために,治療適応のあり方や財源の確保につい 今後は,HCV排除後における肝がん発症のリスク因子 肝がん制圧に何より大事なのは,感染者の掘り起こしと, 予測したものです.効果的な治療法の開発のみでなく,徹底 て社会全体で議論する必要があると考えます. についての研究が盛んに行われると考えています.自験例 それらに対する適切な治療介入です.C型肝炎治療にお において多変量解析を行った結果では,高齢者,男性, いて,HCVの排除イコール病気の治癒ではなく,あくまで 肝がんの制圧に向けて必要なこと 線維化進行例,肝脂肪化が抗ウイルス療法後の高発がん 肝がん発症リスクが一定程度減少したことに過ぎないた リスク因子であることが示されました.さらに注目すべき め,抗ウイルス療法後のフォローも必要です. C型肝炎治療の最終目的はHCVを体内から排除する は,HCV排除後にもかかわらず,ALT値が40U/L未満, わが国から肝がんを制圧するためには,臨床検査室や あるいはAFP値が6ng/mL未満に下がらない症例にお 肝臓専門医といった医療従事者間の連携が大事になって いて,抗ウイルス療法後の累積発がん率が高いことが分 くると考えています. 8) 薬剤費について 140 140 120 120 20 1 20 3 1 20 4 1 20 5 1 20 6 1 20 7 1 20 8 1 20 9 2 20 0 2 20 1 2 20 2 2 20 3 2 20 4 2 20 5 2 20 6 2 20 7 2 20 8 2 20 9 30 0 40 Basecase Increased Efficacy Only Increased Efficacy&Treatment 20 0 1 20 3 1 20 4 1 20 5 1 20 6 1 20 7 1 20 8 1 20 9 2 20 0 2 20 1 2 20 2 2 20 3 2 20 4 2 20 5 2 20 6 2 20 7 2 20 8 2 20 9 30 20 20 Basecase Increased Efficacy Only Increased Efficacy&Treatment 40 14 0 16 15yrs. 3.3% 15.5% 0 2 SVR (n=94) Non-SVR (n=298) 4 6 8 Year 10 12 14 16 5yrs. 10yrs. 15yrs. 6.0% 14.1% 11.0% 25.5% 11.0% 31.1% 文献10)より引用 1)2015年のがん統計予測,国立がん研究センターがん対策情報センター(http:// ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html) 2)厚生労働省人口動態調査(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html) 3)Yasuhiro A, et al.: Hepatology. 2010; 52: 518-27. 4)Chayama K, et al.: The 65th Annual Meeting of the American Association for the Study of Liver Diseases: The Liver Meeting 2014.02014 : 1135A 5)Fridell RA, et al.: Hepatology. 2011; 54: 1924-35. 6)茶山一彰ら:第51回日本肝臓学会総会.2015 7)Mizokami M, et al.: Lancet Infect Dis. 2015; 15: 645-53. 8)Omata M, et al.: J Viral Hepat. 2014; 21: 762-8. 9)Wedemeyer H, et al.: J Viral Hepat. 2014; 21: 60-89. 10)Asahina Y, et al.: Hepatology. 2010; 52: 518-27. 11)Asahina Y, et al.: Hepatology. 2013; 58: 1253-62. 12)Morgan RL, et al.: Ann Intern Med. 2013; 158: 329-37. 略歴 朝比奈 靖浩 (あさひな やすひろ) 1988年 滋賀医科大学医学部 卒業 同年 東京医科歯科大学医学部第二内科 入局 1996年 東京医科歯科大学 医学博士 同年 米国コネチカット大学医学部消化器科 博士研究員 1998年 武蔵野赤十字病院消化器科 副部長 2009年 武蔵野赤十字病院消化器科 部長 2010年 滋賀医科大学 客員教授(併任) 2012年 東京医科歯科大学消化器内科/大学院肝臓病態制御学講座 教授 現在に至る 徒然なる ままに。 徒然なる ままに。 60 60 10yrs. 3.3% 10.9% 12 参考文献 80 80 1.2% 3.6% Year 10 肝疾患関連死 100 100 5yrs. SVR (n=467) Non-SVR (n=859) 8 最新 トピックス 最新 トピックス 160 6 検査 検査と私 NEW WAVE 検査 検査と私 NEW WAVE (case) 160 4 Series 中枢神経疾患 Series 中枢神経疾患 肝がん 2 講演を 終えて 講演を 終えて 図 12 肝がんおよび肝疾患関連死のシミュレーション(オーストリア) (case) 180 0 講演 3 講演 3 献血や内視鏡,術前検査をはじめとして,HCV抗体測 0 SVR 10 講演 2 講演 2 疾患関連死は減少に傾くということが示されています . 9) SVR 10) したC型肝炎スクリーニング,さらにそこで見つかった患者 を適切な治療につなげていくことで初めて,肝がんおよび肝 10 講演 1 講演 1 患者スクリーニングの重要性 Non SVR 20 語句解説 語句解説 ※ 2015年9月発売開始(ハーボニー 配合錠) ® 20 文献9)より引用 15 2015 No.85 2015 No.85 16
© Copyright 2024 Paperzz