平成26年3月5日 法務省民事局長殿 公益財団法人公益法人協会 理事長 太田 達男 会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案による一 般社団法人及び一般財団法人に関する法律の改正案決定手続について(要望) 一、 要望の趣旨 今般の会社法の一部を改正する法律案については、周知のとおり「会社法制の見直し に関する中間試案」が、平成23年12月∼24年1月の間にパブリックコメントに付 され、平成25年11月29日の閣議決定を経て国会に上程され、現在審議中のところ であります。他方、この法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案についても、 同時に国会に上程されていますが、改正の対象となるものの中には一般社団法人及び一 般財団法人に関する法律(以下単に「一般法人法」という)が含まれています。この一 般法人法の改正案については、実質的な改正部分が含まれているにも拘らず、関係法律 の整備等に関する法律と認識されているためか、パブリックコメントにも付されず、関 係者への周知徹底もなく、閣議決定を経て国会に上程されています。 当協会はこのような一般法人法の改正案の決定手続きについては、①一般法人法は非 営利法人ならびにそれをベースに公益認定を取得する公益法人の基本法であり、会社法 とは本来的には関係をもたないこと、②今般の一般法人法の改正については、会社法の 一部改正に伴う調整のための形式上の改正であることを超えた実質的な内容が含まれ ており、本来は一般法人法固有の改正手続きをとるべきこと、③外部役員等の概念の喪 失に伴う定款改正手続きについて、その経過措置が規定されていない等の不足がみられ ると認識しております。 今後このような改正の場合の手続きについては、パブリックコメント等により広く一 般から意見を求め、一般法人法に基き法人運営を行っている法人につき社会からの信用 が得られ、かつ、法人にとって使いやすく負荷がかからないようすべきと考え、以下に 意見を敷衍して述べるものであります。 二、 一般法人法と会社法の関係等について 一般法人法は、立法経緯から分る通り(※1) 、実質的に旧民法の公益法人の部分を改 正した(※2)非営利法人の基本法であり(※3)、会社法との外見的な相似に係らず、 独自の存在理由を有しています。従って仮に会社法の改正があっても、そのことによる 調整は形式的かつ技術的な事項に限られるべきであって(※4) 、実質的に内容の改正を 伴う場合は、一般法人法の改正として、改正の要否を含めて独立した検討を行い、改正 にかかる手続きも一般法人法単独の立法と同様の手続きとすべきと考えます。 (※1)立法経緯については、新公益法人制度研究会編著「一問一答公益法人関連三法」 (株式会社商事法務 2006 年刊)5 頁∼6 頁参照。 (※2)公益法人の認定については、旧民法の一元的制度から一般法人法により設立さ れた一般法人の公益性を公益認定法により認定することとし、一般法人法と公益法人 認定法がセットとされている。上掲「一問一答公益法人関連三法」187 頁参照。 (※3) 「一般社団・財団法人法は、固有の政策目的に従って制定される個別的立法に比 して、剰余金の分配を目的としない社団・財団についてのより一般的な法人制度につ いて定めた法律であるということができる。」 (上掲「一問一答公益法人関連三法」18 頁参照。 ) (※4)因みに一般法人法において会社法の条文が直接準用されているのは、第 333 条 等些少の条文のみである。 三、 改正案の内容について 今回の改正案の内容については、下記の通り関係法律の形式的かつ技術的な調整にと どまらず、それを超えて一般法人法の従前の内容を改正したものが含まれています。 1. 外部役員等の概念の廃止と非業務執行理事等の概念の導入 (1) 現在の一般法人法では、外部役員等の概念が用いられています。すなわち、外 部役員等とは、外部理事、外部監事又は会計監査人をいうとされ(一般法人法 §115①) 、うち外部理事については、一般法人の理事であって、当該法人又 はその子法人の業務執行理事又は使用人でなく、かつ、過去に当該一般法人又 はその子法人の業務執行理事又は使用人となったことがないものをいうとされ ています(同法§113①)。さらに、このような外部の人材の登用は、一般法人 の適正運営を図る上で有用と考えられるので、その確保を容易にするために(※ 5)、外部役員等が職務を行うにつき一定の場合の賠償責任の額を一定の限度と する旨の契約を締結することができる旨を定款で定めることができるとしてい ます(同法§115①) 。 (2) 今回の改正案では、外部役員等の概念を廃止し、新たに非業務執行理事等の概 念が導入されています。外部理事等の概念と比べると、 「過去および現在を通じ て」という要件等が廃されたことから、現に業務執行を行っていなければ、責 任限定契約の対象となることとなり、責任の免除の対象者が広がったこととな ります。 (3) このことは、外部理事等という概念による外部の人材の活用という理念を従前 より曖昧にしかねないものであり、むしろ責任の免除の対象者の拡大に立法の 目的があるものと考えられ、一般法人法にとっては実質的には新たな立法であ ります。 (※5)上掲「一問一答公益法人関連三法」81頁の立法担当者の意見を参照した。 2. 監事の会計監査人選定・解任等の権限の拡大 会計監査人の選定・解任等については、理事が議案を社員総会に提出する場合等にお いて、監事の同意を必要としていたところ(一般法人法§73)、選定・解任等の議案 の内容の決定権限そのものが監事のものとなっています。 このような監事の権限の拡大は、内容の是否を一般法人(公益法人)の実態との関連 で議論されるべき問題であり、徒に拡大すればよいというものではないと考えられます。 従ってこれについても、新たな立法として広く公益法人等の関係者の意見等を求めて 行うべきであります。 3. 責任の一部免除の拡大 上記 1 の非業務執行理事等の概念の導入に伴い、現在の外部理事以外であっても業務 執行を行っていない理事等については、責任の一部免除(一般法人法§113①)が拡 大(最低責任限度額は減少)しています。 これについても内容の是否を、理事の責任のあり方との関係で議論するべきものと考 えられ、新たな立法として広く公益法人等の関係者の意見等を求めて立法作業を行うべ きであります。 四、 経過措置について 改正案の施行に伴う経過措置については、関係法律の整備等に関する法律案第16条 において、会計監査人の選定・解任等、外部役員等の登記について規定されています。 しかしながら外部役員等の概念の喪失に伴う定款の扱いについては規定がありません。 外部役員等と法人の間の責任限定契約については、それが可能であることを定款に規 定する必要がありますが(一般法人法§115)、非業務執行役員等の概念への名称変 更について、定款の規定の変更の扱いの経過措置が規定されていません。定款変更は一 部の法人においては負担が大きいが、新法の施行に伴いその変更が直ちに必要か否かの 疑念を生じ、放置した場合には法的な安定性を欠くことから、立法対象とするか、少な くとも通達やガイドライン等の形でその取り扱いについて当局の見解を示すべきと考 えます。 五、 おわりに 以上を要するに、一般法人法は会社法とは異なった独自の存在理由をもった法律であ り、その改正等に当っては、その意義を踏まえて、一般法人法の固有の問題として取扱 うことを要望するものであります。 以上
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