鉄筋腐食を生じた鉄筋コンクリートの付着性状に関する研究 長岡工業高等専門学校 長岡和真 長岡工業高等専門学校 正会員 村上祐貴 1.はじめに 塩害や中性化などによる鉄筋の腐食劣化は,構造的に ひび割れ 鋼管 150 きく低下させる場合がある.そのため,腐食を生じた鉄 静的破砕剤 150 φ22 C ひずみゲージ ひずみゲージ 筋とコンクリートの付着特性を適切に評価可能なモデル (単位:mm) を構築することは RC 構造物の構造性能評価を行う上で 鉄筋腐食を生じた RC 部材の付着性状に関する研究は 多い.しかしながら,そのような付着劣化因子は同時に 生じるものであるとともに,コンクリートの圧縮強度や かぶり厚等の構造細目の影響も大きく,ある固有の付着 劣化因子のみで評価することには疑問が残る. そこで本研究では,RC 部材の付着性状はコンクリー トの拘束状態に依存するものと仮定し,鉄筋の腐食膨張 や腐食ひび割れ性状といった付着劣化因子に加えて,コ 試験体No. 水セメント比 W/C(%) C75-W/C60 C60-W/C60 C50-W/C60 C40-W/C60 C75-W/C45 C60-W/C45 C50-W/C45 C40-W/C45 C75-W/C30 C60-W/C30 C50-W/C30 C40-W/C30 デルの構築を行った. 45 30 W/C (%) 水 W 155 図-1 に試験体形状を示す.試験体は 150mm×150mm ×300mm の供試体であり,所定の位置に直径 22mm の 円孔を設けた.円孔内には鋼管パイプを挿入し,その隙 間に腐食膨張圧を模擬するため, 静的破砕剤を充填した. 75 60 50 40 75 60 50 40 75 60 50 40 圧縮強度 2 (N/mm ) 25.6 29.5 32.4 29.0 37.4 36.3 39.3 40.1 52.1 53.5 47.8 55.5 最大拘束圧 (MPa) 11.3 6.8 6.5 5.1 11.5 9.5 7.3 5.7 14.2 13.5 9.2 7.3 表-2 配合表 60 45 30 2.実験概要 かぶり厚 C(mm) 60 ンクリートの圧縮強度やかぶり厚の影響をコンクリート の拘束圧の変化として統一的に評価可能な,付着評価モ 22 表-1 実験パラメータ 現在までに多数実施されている.既往の研究では,腐食 因子と付着性状を直接関連付けて評価されている場合が 13.8 π型変位計 図-1 試験体形状 非常に重要な位置付けにある. ひび割れ幅,或いは鉄筋の断面減少率といった付着劣化 コンクリート 拡大 150 の付着劣化を生じさせ,鉄筋の腐食減量以上に耐力を大 150 有意な鉄筋量を減少させるだけではなく,コンクリート n p0 単位量(kg/m3) セメント 細骨材 粗骨材 C S G 258 835 1040 344 803 1000 517 739 920 E k 2 1 z 2k 2 1 2 混和剤 2.58 3.44 5.17 (1) ここで, n:拘束圧(MPa), p0:膨張圧(MPa),εθ: 拘束圧は膨張圧の反力として作用することから,以下の 円周方向ひずみ, εz:軸方向ひずみ, E:鋼管の弾性 手法により膨張圧を求めた.円孔内に挿入した鋼管パイ 係数(200000N/mm2),k:鋼管の外内径比(外径:13.8mm プの内曲面に 2 軸のひずみゲージを 3 枚貼付し,鋼管に 内径:9.2mm),ν:鋼管のポアソン比(0.3)である. 生じる軸方向および円周方向のひずみを計測した.ひず 実験パラメータは表-1 に示すように,かぶり厚(芯 み計測値を式(1)に示す中空円筒理論に代入して膨張圧 かぶり)と圧縮強度である.かぶり厚の水準は 75mm, 1) . さらに,試験体の側面中央部にはπ型 60mm,50mm,40mm の 4 水準,圧縮強度は水セメント 変位計を設置し,膨張圧に起因する縦ひび割れ幅の計測 比 60%,45%,30%,の 3 水準とした.なお,コンクリ も行った. ートの配合は表-2 に示す通りである. を算出した 3.2 最小かぶり面のひび割れが拘束圧に及ぼす影響 3.実験結果 本実験ではいずれの試験体も拘束圧が最大値を示した 3.1 かぶり厚,圧縮強度が最大拘束圧に及ぼす影響 図-2 に最大拘束圧とかぶり厚の関係を示す.表-1 時点でかぶり面までひび割れが進展した.図-4 に一例 に示す各試験体の最大拘束圧は試験体 3 体の平均値であ として,試験体 C60-W/C30 の最大拘束圧を示した時点 る.いずれの水セメント比においても,かぶり厚の増加 からの拘束圧と各側面のひび割れ幅の関係を示す(側面 に伴い最大拘束圧は増加した.また,同一かぶり厚にお 1 が最小かぶり面).ひび割れは最小かぶり面において いては,水セメント比が小さい(圧縮強度が大きい)ほ 卓越して拡大し,いずれの試験体においても同じ傾向を ど最大拘束圧は大きい値を示しており,最大拘束圧は, 示した.また,図-4 に示すように最小かぶり面以外の かぶり厚と圧縮強度に影響することが分かる. 一部の側面のひび割れ幅は負の値を示しているが,これ は最小かぶり面のひび割れ幅が卓越して拡大したことで そこで,かぶり厚と圧縮強度を説明変数,最大拘束圧 他の側面に曲げ応力が発生したためだと考えられる. を目的変数として重回帰分析を行った結果,式(2)に示 図-5 に最大拘束圧を示した時点からの拘束圧とかぶ す回帰式が得られた. nmax 0.1959C 0.1533 f 8.1420 (2) ここで, n max:最大拘束圧(MPa),C :かぶり厚 ' c (mm),f り面のひび割れ幅の関係を水セメント比毎に示す.全体 的な傾向としては,ひび割れ幅が 0.2mm 程度に達するま ' 2 c :圧縮強度(N/mm )である. でに拘束圧は急激に低下し,かぶり厚が大きいほどその 式(2)から得られる最大拘束圧と実験値の比較を図- 傾向は顕著である.これは,かぶり厚が大きいほど内部 3 に示す.自由度調整済み決定係数は 0.9030 であり,本 エネルギーが大きく,ひび割れ発生に伴うエネルギーの 実験の範囲内では,かぶり厚と圧縮強度から最大拘束圧 解放量が大きいためであると考えられる.ひび割れ幅が が評価可能であると示された.また,図-2 には水セメ 0.2mm 程度に達した以降,拘束圧は緩やかに低下し, ント比毎に式(2)を適用した結果を実線で示した. 1.0mmに達すると拘束圧はほぼ作用しないことが分かっ た. 16.0 16.0 14.0 最大拘束圧 [評価式(2)](MPa) 12.0 10.0 8.0 6.0 W/C60 W/C45 W/C30 評価式(2) 4.0 2.0 0.0 R =0.9207 12.0 12.0 10.0 10.0 8.0 6.0 6.0 2.0 4.0 2.0 0.0 0 20 40 60 80 0.0 0.0 かぶり厚(mm) 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 -0.2 C75-W/C60 C60-W/C60 C50-W/C60 12.0 C40-W/C60 拘束圧(MPa) 10.0 8.0 6.0 12.0 10.0 8.0 6.0 10.0 8.0 6.0 4.0 4.0 2.0 2.0 2.0 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 ひび割れ幅(mm) (a) W/C60% 0.8 1.0 1.0 C75-W/C30 C60-W/C30 C50-W/C30 C40-W/C30 14.0 4.0 0.0 0.8 16.0 C75-W/C45 C60-W/C45 C50-W/C45 C40-W/C45 14.0 拘束圧(MPa) 12.0 0.2 0.4 0.6 ひび割れ幅(mm) 図-4 拘束圧とかぶり面のひび割れ幅 16.0 16.0 14.0 0.0 最大拘束圧 [実験値](MPa) 図-2 最大拘束圧とかぶり厚の関係 図-3 評価式(2)と実験値の比較 拘束圧(MPa) 8.0 W/C60 W/C45 W/C30 Y=X 4.0 側面1 側面2 側面3 側面4 14.0 拘束圧(MPa) 14.0 最大拘束圧(MPa) 16.0 2 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 ひび割れ幅(mm) (b) W/C45% 図-5 拘束圧とひび割れ幅の関係 0.0 0.2 0.4 0.6 ひび割れ幅(mm) (c) W/C30% 0.8 1.0 3.3 ひび割れ進展エネルギー 4.拘束圧に基づく付着劣化性状評価 図-6 にひび割れ進展に消費されたエネルギーとかぶ 図-5 に示したように,拘束圧はひび割れ幅の増加に り厚の関係を示す.ここで,ひび割れ進展エネルギーと 伴い指数的に低下する傾向にあることから拘束圧を式 は図-5 に示した実験結果を積分して算出した値である. (4)のようにモデル化することとした. (4) n exp Wcr n max ここで, n:拘束圧(MPa), :係数,Wcr:ひび割 本実験においては,最小かぶり面のひび割れ幅が卓越し て拡大したことから,最小かぶり面と異なる方向に発生 したひび割れ進展エネルギーはゼロとした.図-5 に示 れ幅(mm)である. すように,ひび割れ進展エネルギーはかぶり厚が大きく 係数 についてはかぶり厚と圧縮強度に依存する値で なるに従って増加する傾向を示した.この結果を用いて あると考えられる.そこで,式(4)を用いて,ひび割れ かぶり厚と圧縮強度を説明変数,ひび割れ進展エネルギ 幅が 1.0mm に達した時点までのひび割れ進展エネルギ ーを目的変数として重回帰分析を行い式(3)に示す回帰 ーが,式(3)から得られるひび割れ進展エネルギーと等 式が得られた. 価となる を算出した.その際,最大拘束圧は式(2)か (3) G 0.0351C 0.0141 f 0.2961 ここで, G :ひび割れ進展エネルギー(N/mm)であ ' c ら得られる値とした.以上の手法により得られた係数 は式(5)に示すようになる. 0.0029C 0.1511 f c' 0.8786 る. また,図-7は式(3)から得られるエネルギーと実験 (5) 構築した式(4)と実験結果との比較を図-8 に示す. 値の比較を示したものであるが,実験結果と評価式(3) 一部の試験体では差異が大きいものの,全体的に評価式 は比較的良好な結果が得られた. (4)と実験値は比較的良好な一致をしている. ひび割れ進展エネルギー[評価式(3)](N/mm) ひび割れ進展エネルギー(N/mm) 4.0 3.0 2.0 1.0 W/C60 W/C45 W/C30 0.0 0 20 40 60 4.0 R2 =0.5883 3.0 2.0 1.0 W/C60 W/C45 W/C30 Y=X 0.0 0.0 80 図-6 ひび割れ進展エネルギーとかぶり厚の関係 16.0 C75-W/C60 C60-W/C60 C50-W/C60 C40-W/C60 評価式(4) 12.0 14.0 ※評価式は上から凡例順 12.0 拘束圧(MPa) 10.0 8.0 6.0 14.0 10.0 8.0 6.0 8.0 6.0 4.0 2.0 2.0 2.0 0.0 0.0 0.0 0.4 0.6 ひび割れ幅( mm) (a) W/C60% 0.8 1.0 C75-W/C30 C60-W/C30 C50-W/C30 C40-W/C30 評価式(4) ※評価式は上から凡例順 10.0 4.0 0.2 4.0 12.0 4.0 0.0 3.0 16.0 C75-W/C45 C60-W/C45 C50-W/C45 C40-W/C45 評価式(4) 拘束圧(MPa) ※評価式は上から凡例順 2.0 図-7 評価式(3)と実験値との比較 16.0 14.0 拘束圧(MPa) 1.0 ひび割れ進展エネルギー[実験値](N/mm) かぶり厚(mm) 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 0.0 0.2 0.4 0.6 ひび割れ幅(mm) ひび割れ幅(mm) (b) W/C45% (c) W/C30% 図-8 評価式(4)と実験式の比較 0.8 1.0 5.構築モデルの適用性評価 リングテンション RC 部材の付着割裂機構は,図-9 に示すように異形鉄 α 筋の節による支圧力による影響が支配的である.この支 引張力 圧力の分力として鉄筋周囲のコンクリートを押し出すよ うに作用する圧力(リングテンション)が生じる.一方, 鉄筋 コンクリート側からは支圧力に抵抗して鉄筋に付着応力 鉄筋節 と拘束圧が作用する.摩擦作用などの影響を無視して, 図-9 付着作用時の鉄筋状況 鉄筋節の幾何学的な拘束圧のみを考えると,付着応力と 1.0 拘束圧の関係は式(6)に示すようになる. 実験値 方向となす角度である. 本評価式 付着強度比 n cot (6) ここで, :付着応力, :拘束圧, :応力と主筋 n 0.8 腐食の有無,或いはその程度によらず角度 θ は常に一 3) 既往の評価式 0.6 0.4 定と仮定すると,拘束圧と付着応力は比例関係となる. 0.2 また,本実験における最大拘束圧が,非腐食主鉄筋を引 抜いた際の拘束圧とすれば,任意の腐食ひび割れ幅の時 0.0 0.0 点における付着強度と非腐食時の付着強度との比は式 0.4 0.6 ひび割れ幅(mm) 0.8 1.0 図-10 付着応力比とひび割れ幅の関係 (7)に示すようになる. / nmax n / n max exp Wcr 0.0029C 0.1511 f c' 0.8786 ここで, / nmax:付着強度比である. 0.2 リートの拘束圧の変化として検討した結果,以下の結果 (7) が得られた. (1) 最大拘束圧はかぶり厚ならびに圧縮強度に大きく影 響する. 2) この評価式を米田ら の実験結果に適用し評価式の妥 当性を確認した. (2)本実験の範囲では,拘束圧は最小かぶり面に生じる ひび割れ幅が 0.2mm に達するまでに急激に低下し, 米田らは D16 を配筋した250mm×250mm×150mm の それ以降は緩やかな低下を示した.また,ひび割れ 角柱供試体を促進劣化し,引抜き試験を実施している. 幅が 1.0mm に達すると拘束圧はほぼ作用しないこ 2 試験体のかぶり厚さは 56.5mm,圧縮強度は 31.5N//mm とが分かった. であり,この実験条件を評価式に用いて付着強度比を算 (3)鉄筋腐食した RC 部材の付着劣化性状を拘束圧に基 出した.図-10 に適用結果を示す.なお,図中には JCI づきモデル化を行った.構築した評価モデルを既往 のコンクリート構造物のリハビリテーション研究委員会 の研究の実験結果と対応させたところ,比較的良好 3) 報告書において報告された評価式も併せて示す .本評 な結果が得られた. 価式は実験結果と良好な一致を示した.また,既往の評 価式は幾つかの腐食 RC 部材の引抜き試験より得られた 付着強度比と腐食ひび割れ幅の結果の回帰曲線であるが, 謝辞 本研究は科研費(21760364)の助成を受けたもの である. 拘束圧に基づき算出した本評価式と結果的に非常に類似 している.これは既往の評価式では,かぶり厚や圧縮強 度の影響が非腐食試験体の付着強度に潜在的に含まれて いるためであると考えられる. 現状においては,最小かぶり面のひび割れが卓越して 進展する場合に適用可能な評価モデルであり,隅角部等 の鉄筋の付着性状については今後の課題としたい. 参考文献 1)原田哲夫,副田孝一,出光隆,渡辺明:静的破砕剤 の膨張圧測定法と膨張圧の諸性質,土木学会論文集, No.478/V-21,pp.91‐100,1993.11 2)米田直也,丸山久一,清水敬二,柳益夫:鉄筋の発 錆による付着劣化機構,コンクリート工学年次論文 報告集,Vol.4,No.2,pp.81-86,1992 6.結論 本研究は,鉄筋腐食した RC 部材の付着性状をコンク 3)JCI コンクリート構造物のリハビリテーション研 究委員会報告書, 1998
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