① 1字決まりの歌(む・す・め・さ・ほ・せ・ふ,ではじまる歌) 暗記法⇒ 娘,さほ,セーフ (1)む ⇒霧立ちのぼる 村雨(むらさめ)の 露もまだひぬ 槇(まき)の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ(87) (訳)にわか雨が通り過ぎていった後、まだその滴も乾いていない杉や檜の葉の茂りから、霧が白く沸き上がっ ている秋の夕暮れ時である。 (2)す ⇒夢の通ひ路 住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路(ぢ) 人目(ひとめ)よくらむ(18) (訳)住之江の岸に寄せる波の「寄る」という言葉ではないけれど、夜でさえ、夢の中で私のもとへ通う道でさ え、どうしてあなたはこんなに人目を避けて出てきてくれないのでしょうか。 (3)め ⇒雲がくれにし めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半(よは)の月かな(57) (訳)せっかく久しぶりに逢えたのに、それが貴女だと分かるかどうかのわずかな間にあわただしく帰ってしま われた。まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように。 (補足)源氏物語の作者,紫式部の歌. (4)さ ⇒いづこも同じ 寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづこも同じ 秋の夕暮れ(70) (訳)あまりにも寂しさがつのるので、庵から出て辺りを見渡してみると、どこも同じように寂しい、秋の夕暮 れがひろがっていた。 (5)ほ ⇒ただ有明の ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明(ありあけ)の 月ぞ残れる(81) (訳)ホトトギスが鳴いた方を眺めやれば、ホトトギスの姿は見えず、ただ明け方の月が淡く空に残っているば かりだった。 (6)せ ⇒われても末に 瀬を早(はや)み 岩にせかるる 滝川(たきがは)の われても末(すゑ)に 逢はむとぞ思ふ(77) (訳)川の瀬の流れが速く、岩にせき止められた急流が2つに分かれる。しかしまた1つになるように、愛しい あの人と今は分かれても、いつかはきっと再会しようと思っている。 (7)ふ ⇒むべ山風を 吹くからに 秋の草木(くさき)の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ(22) (訳)山から秋風が吹くと、たちまち秋の草木がしおれはじめる。なるほど、だから山風のことを「嵐(荒らし)」 と言うのだなあ。 (補足)六歌仙の一人,文屋康秀の歌. ② 有名な歌人の歌 2-1(ア) :六歌仙 暗記法⇒ 大喜びするな!小僧の文在で! (1)大伴黒主(おおとものくろぬし)⇒百人一首には選ばれていない. (2)喜撰法師(きせんほうし・歌番号8) わが庵(いほ)は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり (訳)私の庵は都の東南にあって、このように(平穏に)暮らしているというのに、世を憂いて逃れ住んでいる 宇治(憂し)山だと、世の人は言っているようだ。 (3)小野小町 (おののこまち・歌番号9) 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに (訳)桜の花の色は、むなしく衰え色あせてしまった、春の長雨が降っている間に。ちょうど私の美貌が衰えた ように、恋や世間のもろもろのことに思い悩んでいるうちに。 (4)僧正遍昭 (そうじょうへんじょう・歌番号12) 天津風(あまつかぜ) 雲の通ひ路(かよひじ) 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむ (訳)天を吹く風よ、天女たちが帰っていく雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。乙女たちの美しい舞姿を、も うしばらく地上に留めておきたいのだ。 (5)文屋康秀 (ぶんやのやすひで・歌番号22) 吹くからに 秋の草木(くさき)の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ (訳)山から秋風が吹くと、たちまち秋の草木がしおれはじめる。なるほど、だから山風のことを「嵐(荒らし)」 と言うのだなあ。 (6)在原業平 (ありひらのなりひら・歌番号17) 千早(ちはや)ぶる 神代(かみよ)もきかず 龍田川(たつたがは) からくれなゐに 水くくるとは (訳)さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。龍田 川が(一面に紅葉が浮いて)真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは。 2-2(イ) :万葉集の編者と考えられる人物 ⇒大伴家持 かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける(6) (訳)七夕の日、牽牛と織姫を逢わせるために、かささぎが翼を連ねて渡したという橋ーー天の川にちらばる霜 のようにさえざえとした星の群れの白さを見ていると、夜もふけたのだなあと感じてしまうよ。 (語句の意味) 【かささぎの渡せる橋】 天の川のこと。中国の七夕伝説では、織姫と彦星を七夕の日に逢わせるため、たくさんのかささぎが翼を連ねて 橋を作ったとされます。 【おく霜の 白きを見れば】 「霜」はここでは「天上に散らばる星」のたとえとなっています。 「月落ち烏鳴いて霜天に満つ」という唐詩(張 継の作)が元になっていると言われます。 【夜ぞふけにける】 「ぞ~ける」で係結びになり、詠嘆の助動詞「けり」は連体形の「ける」になります。 2-3(ウ) :古今和歌集の代表的編者 ⇒紀貫之 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香(か)ににほひける(35) (訳)あなたは、さてどうでしょうね。他人の心は分からないけれど、昔なじみのこの里では、梅の花だけがか つてと同じいい香りをただよわせていますよ。 (語句の意味) 【人は】 贈答歌ですので、 「人」は直接には相手のことを指していますが、後の「ふるさと」と対比した、一般的な「人 間」という意味も含んでいます。 【いさ心も知らず】 「いさ」は下に打消しの語をともなって、 「さあどうだろうか、…ない」という意味になります。「心も知らず」 は「気持ちも分からない」という意味ですので、全体では「さあどうだろうか、あなたの気持ちも分かったもの ではない」という意味になります。 「も」は強意の係助詞です。 【ふるさとは】 「ふるさと」には、 「古い里」 「古くからなじんだ場所」 「生まれた土地」 「古都」などの意味があり、ここでは「古 くから慣れ親しんだ場所」という意味になります。 【花ぞ】 「花」は普通桜を指しますが、ここでは「梅」です。「人の心」と「ふるさとの花」が対置されています。 【昔の香ににほひける】 「にほひ」は動詞「にほふ」の連用形で「花が美しく咲く」という意味です。色彩の華やかさを表わしてる言葉 でしたが、平安時代になると視覚だけでなく「香り」といった嗅覚も含まれるようになりました。 2-4(エ) :源氏物語の作者 ⇒紫式部 めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半(よは)の月かな(57) (訳)せっかく久しぶりに逢えたのに、それが貴女だと分かるかどうかのわずかな間にあわただしく帰ってしま われた。まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように (語句の意味) 【めぐり逢ひて】 月に託して、幼友達と巡り逢ったことを言っています。「月」と「めぐる」は「縁語」です。縁語は関係が深く よく一緒に使われる言葉のことです。 【見しやそれとも】 見たのが「それ」かどうかも、意味。 「それ」は表向きは月のことですが、友達のことを指しています。 【わかぬ間に】 見分けがつかないうちに、という意味です。 【雲隠れにし】 月が雲に隠れてしまったことですが、友達が見えなくなってしまったことも含んでいます。 【夜半の月かな】 「夜半(よは) 」は夜中・夜更けの意味。最後の「かな」は、詠嘆の終助詞ですが、 「新古今集」や百人一首の古 い写本では、 「月影」になっています。 2-5(オ) :枕草子の著者 ⇒清少納言 夜をこめて 鳥の空音(そらね)は 謀(はか)るとも よに逢坂(あふさか)の 関は許(ゆる)さじ(62) (訳)夜がまだ明けないうちに、鶏の鳴き真似をして人をだまそうとしても、函谷関(かんこくかん)ならとも かく、この逢坂の関は決して許しませんよ。 (だまそうとしても、決して逢いませんよ) (語句の意味) 【夜をこめて】 動詞の連用形「こめ」は、もともと「しまい込む」とか「包みこむ」などの意味です。「夜がまだ明けないうち に」という意味になります。 【鳥の空音(そらね)は】 「鳥」は「にわとり」で、 「空音」は「鳴き真似」のことです。 【謀(はか)るとも】 「はかる」は「だます」という意味になります。 「とも」は逆接の接続助詞で「~しても」という意味です。 「鶏 の鳴き真似の謀ごと」とは、中国の史記の中のエピソードを指しています。 【よに逢坂(あふさか)の関は許(ゆる)さじ】 「よに」は「決して」という意味です。 「逢坂の関」は男女が夜に逢って過ごす「逢ふ」と意味を掛けた掛詞で す。「逢坂の関を通るのは許さない」という表の意味と「あなたが逢いに来るのは許さない」という意味を掛け ています。 2-6(カ) :時雨亭(しぐれてい)の持ち主 ⇒藤原定家 来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩(もしほ)の 身もこがれつつ(97) (訳)松帆の浦の夕なぎの時に焼いている藻塩のように、私の身は来てはくれない人を想って、恋い焦がれてい るのです。 (語句の意味) 【まつほの浦】 兵庫県淡路島北端にある海岸の地名です。松帆浦の「松」と、「待つ」が掛詞になっています。 【藻塩(もしお) 】 海藻から採る塩のこと。古い製法で、海藻に海水をかけて干し乾いたところで焼いて水に溶かし、さらに煮詰め て塩を精製しました。 「焼く」や「藻塩」は「こがれ」と縁語で、和歌ではセットで使われます。 「まつほ~藻塩 の」は、 「こがれ」を導き出す序詞(じょことば)です。 【夕なぎ】 夕凪と書き、夕方、風が止んで海が静かになった状態のことです。山と海の温度が、朝と夕方にはほぼ同じにな るので、こういう状態になります。 【身もこがれつつ】 火の中で燃えて身を焦がす海藻(藻塩)の姿と、恋人を待ちこがれる少女の姿を重ねた言葉。昔も今も、恋する 女の子の気持ちは変わらないことがよく分かりますよね。 2-7:その他有名なもの 天智天皇(1) 秋の田の 仮庵(かりほ)の庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ わが衣手(ころもで)は 露にぬれつつ 持統天皇(2) 春すぎて 夏来(き)にけらし 白妙(しろたへ)の 衣(ころも)ほすてふ 天(あま)の香具山(かぐやま) 柿本人麻呂(3) あしびきの 山鳥(やまどり)の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む 山部赤人(4) 田子の浦に うち出(い)でてみれば 白妙(しろたへ)の 富士の高嶺(たかね)に雪は降りつつ 安倍仲麿(7) 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出(い)でし月かも 蝉丸(10) これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂(あふさか)の関 ⇒百人一首で唯一濁音のない歌 光孝天皇(15) 君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ 元良親王(20) わびぬれば 今はた同じ 難波(なには)なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ 三条右大臣(25) 名にし負(お)はば 逢坂山(あふさかやま)の さねかづら 人に知られで くるよしもがな 貞信公(26) 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ 坂上是則(31) 朝ぼらけ 有明の月と みるまでに 吉野の里に ふれる白雪 紀友則(33) ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心(しづごころ)なく 花の散るらむ 平兼盛(40) しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は ものや思ふと 人の問ふまで 清原元輔(42) 契りきな かたみに袖をしぼりつつ 末(すゑ)の松山 波越さじとは 藤原義孝(50) 君がため 惜しからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな 藤原道信朝臣(52) 明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき あさぼらけかな 和泉式部(56) あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな 小式部内侍(60) 大江(おほえ)山 いく野の道の 遠(とほ)ければ まだふみもみず 天の橋立 伊勢大輔(61) いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな 権中納言定頼(64) 朝ぼらけ 宇治(うぢ)の川霧(かはぎり) たえだえに あらはれわたる 瀬々(せぜ)の網代木(あじろぎ) 前大僧正行尊(66) もろともに あはれと思へ 山桜(やまざくら) 花より外(ほか)に 知る人もなし 三条院(68) 心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かな 源兼昌(78) 淡路(あはぢ)島 かよふ千鳥の 鳴く声に いく夜寝覚めぬ 須磨の関守(せきもり) 左京大夫顕輔(79) 秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ 西行法師(86) 嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな 寂蓮法師(87) 村雨(むらさめ)の 露もまだひぬ 槇(まき)の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ 式子内親王(89) 玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする 後京極摂政前太政大臣(91) きりぎりす 鳴くや霜夜(しもよ)の さむしろに 衣(ころも)かたしき ひとりかも寝む 後鳥羽院(99)←承久の乱で有名な後鳥羽上皇 人もをし 人も恨(うら)めし あぢきなく 世を思ふ故(ゆゑ)に もの思ふ身は 順徳院(100 番) 百敷(ももしき)や 古き軒端(のきば)の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり
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