加熱製袋工程の改善に必要なデータと解析技法 小松原義彰 (中央大学) 柳本武美 (中央大学) 鎌倉稔成 (中央大学) 猪俣考史 (中央大学・凸版印刷) 飯島佑介 (凸版印刷) 山村流士 (凸版印刷) プラスチックフィルム製の包装材の多くは加熱製袋により製造されている。従来フィルム材の融解温度は 点として扱われてきたが、工程改善の必要がある。本報告では融解温度を分布として扱い、その解析法及び データの取得法について論じる。 いて測定する。データはデータロガーによりサンプリ 1 序 ング周波数 1000Hz で記録する。 食品や日用品の包装などに広く使用されているプラ スチックフィルム製の包装材は、加熱製袋機により加 熱接着 (ヒートシール) されることによって製造されて いる。包装材生産者の間では包装材の加熱接着部分の 強度不足によって引き起こされる品質不良 (破袋) が問 題視されている。そのため品質不良が発生しない適切 な条件の下で生産することが求められている。安定し た品質で加熱接着を行うためにはプラスチックフィル 図 1 テスト用製袋機の簡易構造 ムの溶着面温度と融点の把握が重要である。しかし、 実際の生産現場では経験則から生産条件を決定してい 3.2 るため、最適な生産条件を把握せずに生産しているこ 溶着面温度データ テスト用加熱製袋機により測定された溶着面温度は とが問題となっている。 図 2 のようなデータが得られる。 本報告では加熱製袋工程の最適な生産条件を算出し、 工程改善するための解析法及びデータの取得法につい て論じる。なお、本報告は研究の中間報告であり、図 中の目盛は修正している。 2 従来研究・技術 菱沼はステップ応答の 1 次遅れを溶着面温度のモデ ルとしている [菱沼, 2007]。しかし、プラスチックフィ ルムの融解熱を考慮していないため、必ずしも当ては まりの良い溶着面温度モデルとは言えない。また他の 研究 [2] では溶着面温度の 2 次微分値の変曲点を溶着 図 2 溶着面温度データ 温度としている。しかし、この方法では測定ノイズな どの影響から変曲点を判別することは難しい。 図 2 の 140 ℃前後において、プラスチックフィルム 3 溶着面温度の取得方法 の融解熱による影響と思われる温度上昇の停滞が確認 できる。 プラスチックフィルムの加熱接着において溶着面の 温度を測定するためにテスト用加熱製袋機を作成した。 3.1 4 溶着面温度の推定 テスト用加熱製袋機 プラスチックフィルムの溶着面温度の推定のために、 図 1 は作成したテスト用加熱製袋機の簡易構造図で 溶着面温度のモデリングを行う。モデル化については、 ある。ヒーターブロックの制御によりシールバーを設 熱供給側と熱吸収側の熱の収支から熱収支モデルを作 定温度に保ち、2∼3 秒間プラスチックフィルムを加熱 成する。その際、プラスチックフィルムの融解熱の関 接着する。このときの溶着面の温度を極細熱電対を用 数を加え融解による温度上昇の停滞を考慮する。 1 4.1 熱収支モデルの組み立て 式 (4.3) では左辺がプラスチックフィルムによる熱 熱供給側の式はシールバーとプラスチックフィルム の吸収量を、右辺がシールバーによる熱の吸収量を との温度勾配より式 (4.1) となる。 a − y(t) 示している。次章ではモデルの未知パラメータである b, c, h, k と a を推定し、測定した溶着面温度に対し適 (4.1) 合させる。 • y · · · 溶着面温度 • a · · · シールバー温度 5 提案モデルの検証 • k · · · 熱特性 (被加熱材の熱容量や 熱伝達性などによって決定) 実際の溶着面温度測定データに本モデルを適合し、 パラメータを推定できているかを検証する。微分方程 式の数値計算にはルンゲ=クッタ法を使用した。また 熱吸収側の式はプラスチックフィルムの温度上昇と パラメータ推定の際には、モデルと測定データ (図 2) 融解熱より式 (4.2) となる。 ky′ (t) + cM(y(t)) との残差平方和最小を基準にしてあてはめた。計算に (4.2) は統計解析ソフト R 言語の optim 関数を使用し、計算 アルゴリズムとして Nelder and Mead 法を使用した。 • M(y)· · · 融解熱の関数 • c · · · 融解熱量 5.1 計算結果 加熱製袋に使用されるプラスチックフィルムの融解熱 は、図 2 よりある程度の幅を持っていることが予想さ れる。このことは、プラスチックフィルムを示差走査 熱量測定 (以下 DSC) により単位温度上昇に必要な熱 量 (DSC 値) を計測した結果である図 3 からも確認で きる。そして DSC 上ではプラスチックフィルムの融 解熱は分布上に存在している。このことから融解熱の 関数として分布関数を用いたモデリングを行い、分布 関数としてロジスティック分布の分布関数を用いる。 (a) 提案モデル (b) 従来モデル (菱沼 2007) 図 4 溶着面温度の推定結果 図 4 は推定したパラメータを用いて計算した溶着面 温度のグラフである。従来モデル [菱沼,2007] の結果 と比較すると、プラスチックフィルムの融点と思われる 前後においてより測定データに近いことが確認できる。 表 1 残差平方和 モデル 図3 プラスチックフィルムの DSC 測定値 菱沼 (2007) 提案モデル 4.2 熱収支モデル 和の値から提案モデル 残差平方和 の方がより測定データ 1779.6 119.1 に近いことが確認でき る。以上より提案モデ ルが有効であることが 式 (4.1, 4.2) より熱収支モデルは式 (4.3) となり、微 分かった。 分方程式となる。 ky′ (t) + cM(y(t)) = a − y(t) ( ) exp y−h b M(y) = ( ( ))2 b 1 + exp y−h b また表 1 の残差平方 (4.3) • b · · · 分布関数のパラメータ • h · · · 分布関数のパラメータ 2 6 目標溶着温度の決定法 7 まとめ 目標溶着温度の決定にはプラスチックフィルムの融 本報告では加熱製袋の工程改善のため、溶着面温度 点と熱接着面の強度の相関を明らかにすることが必要 のモデリングと目標溶着温度の決定法について論じた。 である。そして、その結果から要求品質を満たす強度 溶着面温度のモデリングではプラスチックフィルムの となるように目標の溶着温度を決定する。 融解熱を考慮した熱収支モデルにより、精度の高い溶 6.1 着面温度モデルとすることに成功した。そして目標溶 プラスチックフィルムの融点分布 着温度の決定法では、プラスチックフィルムの融点の 累積分布と熱接着面の強度から溶着温度を決定する方 法について論じた。これらの解析からどのようなデー タを追加することが工程の改善に役立つかが示唆され る。データの追加において実際には制約があるので、 制約の下での考察が必要となる。 参考文献 [1] 菱沼一夫, ヒートシールの数量化管理の研究 [第2 (a) 確率密度 (b) 累積分布 報]:包装材料毎の溶着温度の確定法の開発, 日本 包装学会誌 Vol.14 No.3 (2005) 図 5 推定した融点分布 図 5 は推定した融点分布のグラフである。この融点 [2] 菱沼一夫 (2007) ヒートシールの基礎と実際 -溶着 の累積分布の確率値はプラスチックフィルムの熱接着 面温度測定法 : HTMS の活用- 幸書房 面の強度を直接示すものではないが、熱接着面の強度 と相関があると考えることができる。そのため融点の [3] C. Mueller, G. Capaccio, and E. Baer, Heat Sealing 累積分布の確率値とそのときの溶着面温度と実際の熱 of LLDPE: Relationships to Melting and Interdif- 接着面の強度との相関を確認する必要がある。 6.2 fusion, J. Appl. Polym. Sci Vol.70 (1998) プラスチックフィルムの熱接着面強度 [4] FC. Stehling, P Meka, Heat sealing of semicrystalline polymer films. II. Effect of melting distribution on heat-sealing behavior of polyolefins, J. Appl. Polym. Sci Vol.51 (1994) [5] T. Tsujii, U. S. Ishiaku, K. Kitagawa, Y. Hashimoto, M. Mizoguchi, H. Hamada, Characterisation of heat-sealing part of laminated oriented nylon and polyethylene films, Plastics, Rubber and Composites, Vol.34 No.4 (2005) 図 6 熱接着面の引張試験データ [6] 十時稔, DSC(2) ―高分子結晶の融解挙動編―, 繊 維学会誌 Vol.65 No.9 (2009) 図 6 は JIS の引張試験により各溶着面温度時のプラ スチックフィルムの熱接着面の強度を測定したグラフ である。この熱接着面強度のグラフと融点の累積分布 の確率値から、要求品質を満たす強度となるように目 標の溶着温度を決定する。 3
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