私立大学・私立大学生がおかれている現状と私たちの要求

学費負担の大幅軽減と私大助成の増額をもとめる院内集会・国会請願行動
私立大学・私立大学生がおかれている現状と私たちの要求
( 報 告 ・ 資 料 )
2016年2月19日 日本私大教連
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Ⅰ 前提となる基本的な事実
1.すべての大学は、法令上同等の高等教育機関です
大学は、国公私立という設置形態や、設立の経緯、地方・大都市圏といった所在地域、規
模の大小のいかんにかかわらず、法令上同等の高等教育機関として規定され、大学設置基準
や認証評価制度等による規制のもとで設置・運営されています。
【教育基本法】
第 7 条 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真
理を探究し新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社
会の発展に寄与するものとする。
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大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊
重されなければならない。
【学校教育法】
第 83 条 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を
教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。
2 大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供
することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2.私立大学は、日本の高等教育において主要な設置形態です
私立大学は、学生数・学校数ともに 7 割以上を占め、わが国の高等教育において主要な設
置形態となっています【下図】。私立大学は、わが国の大学進学率の向上を支え、高等教育を
受ける機会の拡大に寄与するとともに、全国各地で特色ある教育・研究を行い、学生の学び
と成長を支え、政
治・経済・文化・地
域など諸分野の発
展に大きな役割を
果たしています。名
実ともに日本社会
に欠かせない公教
育機関です。
(「学校基本調査」平成27年度より作成。学生数には学部生・大学院生、専攻科・別科の学生、研究生等を含む。)
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私立大学の教育研究の質向上を図ることは、
日本社会の発展を展望するうえでも不可欠な課題です。
戦後日本は、私立大学に依拠して高等教育機会を拡大し、高度化・複雑化する社会や
経済、技術などに対応してきました。国内外を問わず喫緊の重大課題が山積する今日、
私立大学が果たすべき役割はいっそう重要となっています。
どこの私立大学であっても学生が安心して一定水準の教育を受けることができるよ
う、政府はすべての私立大学の条件整備と教育研究の質の確保、教育機会の保障に責任
を果たす必要があります。
Ⅱ 私立大学と私立大学生が直面している深刻な現状
1.私立大学の学費負担は家計の限界に達しています
ここ数年、私立大学の初年度納付金は 131 万
円を超え、国立大学の 1.6 倍となっています。
東京私大教連、京滋私大教連が毎年実施してい
る『家計負担調査』では、新入生の世帯税込年
収の平均は 1,000 万円を超えていたピーク時よ
り 100 万円近く落ち込んでいます【図1】
。自
宅外通学者の場合、入学の年にかかる費用(受
験から入学までの費用と 4 月から 12 月の仕送
り額合計)は世帯税込年収の 3 割以上にのぼり、
家計の限界に達しています。そのため、入学の
年にかかる費用の一部または全額を借入れせざ
るを得ない家庭は、東京(自宅外生)で 21.1%、
京滋(自宅生・自宅外生)で 29.6%に上ります。
こうした中で新入生への仕送り額も減少し、
東京の調査結果では、仕送り額から家賃を引い
た残額は 1 日わずか 897 円となり過去最低を更
新しました【図2】
。授業料を家計負担や奨学金
で賄えたとしても、相当時間のアルバイトをし
なければ、学生生活を維持することが困難とな
っています。
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私立大学生がこうした状況に立たされている大きな要因は、第一に私立大学への経常費補助が
非常に低水準であるために高学費に依存せざるを得ないこと、第二にわが国の奨学金制度があま
りに貧困であること、にあります。
2.私立大学生にとってあまりに貧困な奨学金制度
わが国の公的奨学金である日本学生支援機構の奨学金制度は、国際水準からすれば奨学金
と呼べるものではなく「学生ローン」に過ぎません。昨今、卒業と同時に多額の借金を背負
い、奨学金返還に苦しむ若者が増大していることが社会問題となっています。
こうした状況を受け、政府はここ数年、無利子奨学金の貸与人員を拡大しています。しか
し、2016 年度予算案でも、無利子奨学金貸与人員は 47 万 4 千人、有利子奨学金貸与人員は
84 万 4 千人で、いまだ有利子が大半を占めています。2014 年度の実績では、入学者に対す
る無利子奨学金採用者の割合が 12.2%であるのに対し、有利子奨学金採用者の割合は 39.5%
に及びます。また国立大との間の無利子奨学金採用率の不合理な格差も依然として解消され
ていません【表1】
。私立大学では、無利子奨学金の基準に適合していても、採用枠が限られ
ているため採用されないケースも少なくありません。
【表1】 平成24年度 奨学金採用状況
第1種
国立大
(無利子)
私立大
採用人数 入学者数 割合
20,945 101,181 20.7
57,726 474,192 12.2
第2種
国立大
(有利子)
私立大
採用人数 入学者数 割合
29,396 101,181
29.1
187,121 474,192
39.5
日本学生支援機構「JASSO年報・平成24年度版」より作成。
本来なら学びの機会を保障し、豊かな学生生活を支えるべき奨学金が、卒業と同時に多額
の借金となり、学生支援機構の返還金回収(「取り立て」)強化策とあいまって、経済的困難
を抱えた若者をさらに追い詰めるものとなっています。こうした事態は、4 割の若者が低賃
金で不安定な非正規雇用に就労していく現実のなかで、いっそう深刻化しています。
少なくない私立大学生が、学生生活を送るために必要な費用を稼ぐために苦労し、奨学金
の貸与を受けたにしても将来の返済不安を抱えながら、大学生活を送らざるを得ない状況に
おかれています。
3.授業料減免事業への国の支援における差別的な格差
私立大学経常費補助が極めて低額であるために、各大学が経済的に就学困難な学生を対象
として実施している授業料減免事業も非常に不十分な状況にあり、私立・国立間、私立大学
間の差別的格差も引き起こしています。
各大学が実施している授業料減免事業に対して、国は私立大学については経常費補助で、
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国立大学については運営費交付金で支援を行っています。
2016 年度予算案では、私立大学への支援額は経常費補助のうち 86 億円が計上されていま
す。文科省が想定する減免対象人数はわずか 4.5 万人(私立大学生・短大生総数の 2.0%)
、
一人当たり補助額はわずか 19 万円にとどまっています。これに対して、国立大学への支援額
は運営費交付金のうち 320 億円で、対象人数は 5.9 万人(国立大学生の 9.7%)、一人当たり
交付額は 54 万円です【表2】
。差別的な格差と言わなければなりません。
私立大学への支援額があまりに少ないために、私立大学で授業料減免を実施すれば多額の
原資が必要となり、各大学の財政余力によって減免対象者数や減免基準が左右されてしまい
ます。そのため私立大学の間にも小さくない格差が生じています。学生に何ら責がないにも
かかわらず、経済的に困難な学生が不平等に扱われている事態はあまりに不条理である。一
刻も早く解消されなければなりません。
【表2】 各大学の授業料減免等事業に対する国の支援額の格差(平成28年度予算案)
私立大学・短大
予算額
国立大学
86億円
320億円
減免対象人数
約4.5万人
約5.9万人
学生総数 ※
2,228,585
610,802
学生総数に占める減免
対象者数の割合(%)
2.0
9.7
約4.8倍
1人当たり補助額(円)
191,111
542,373
約2.8倍
国立大並みの水準に予算額
を引き上げるには‥‥
約13倍の
1155億円
が必要
※「学生総数」は平成27年度「学校基本調査」の数値。
4.私立大学への経常費補助はあまりに低水準
経常費補助の目的は、前述したように私立大学がわが国において重要な役割を担っている
ことを踏まえ、国公立大学に比して劣悪な教育条件を改善すること、高学費に苦しむ学生の
経済的負担を軽減することとされています。しかし政府・文科省はこの目的に反し、経常費
補助を 1980 年度の半分以下の水
準にまで引き下げたうえに重点
配分を強化するという、私立大学
と私立大学生を軽視する政策を
継続しています。
私立大学への経常費補助制度
は 1970 年に開始され、当初は「経
常費の 50%補助を早期に実現す
る」という政策目標が立てられま
した。1975 年には私立学校振興
助成法が制定され、その際の国会
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附帯決議にもこの目標実現が掲
げられました。それにより、経
常費に対する補助割合は 1980
年度に 29.5%に達しました。し
かしそれ以降、政府は経常費補
助額を 30 年以上にわたり実質
的に削減してきました。そのた
め 2013 年 度 の 補 助 割 合 は
10.3% にま で低下 してい ます
【図1①、②】。
しかも政府・文科省は、大学運営に不可欠な教育研究に関わる経常的経費への補助(一般
補助)を 4 年連続で合計 60 億円近く削減するとともに、政府が用意した「改革」メニューに
誘導するための重点配分予算(私立大学等改革総合支援事業、特別補助)を拡大させていま
す【表3】
。経常費補助総額を非常に低い水準に引き下げたうえに、教育研究の根幹に関わる
補助をさらに削減し重点配分予算に振り替える政策は、私立大学の教育研究基盤を弱体化さ
せる愚作と言わざるを得ません。
【表3】 私立大学等経常費補助予算額の直近の推移 (単位:百万円)
11年度
12年度
対前年
増▲減
13年度
318,753 ▲ 2,169 317,515
7,573
7,573
6,217
一般補助 281,169 279,325 ▲ 1,844 278,253
87.6
87.6
87.6
内 (割合%)
訳
39,428
▲ 325 39,262
特別補助
39,753
7,573
7,573
6,217
※12年度以降の下段は震災復興特別会計分。
経常費補助額 320,922
総計
326,326
対前年
増▲減
14年度
対前年
増▲減
15年度
対前年
増▲減
▲ 1,238 318,399
884 315,250 ▲ 3,149
▲ 1,356
4,733 ▲ 1,484
2,835 ▲ 1,898
▲ 1,072 276,202 ▲ 2,051 271,105 ▲ 5,097
86.7
86.0
▲ 166 42,197
2,935 44,145
1,948
▲ 1,356
4,733 ▲ 1,484
2,835 ▲ 1,898
5,404 323,732 ▲ 2,594 323,132
▲ 600 318,085 ▲ 5,047
16年度案
対前年
増▲減
315,250
1,762
270,136
85.7
45,114
1,762
0
▲ 1,073
▲ 969
317,012
▲ 1,073
969
▲ 1,073
5.私立大学と国立大学間の公財政支出における重大な格差
私立大学経常費補助があまりに低額であるために、法令上同等の公的教育機関でありなが
ら、公財政支出における私立大学と国立大学との格差は著しく大きくなっています。文科省
が「基盤的経費」と呼びならわしている私立大学等経常費補助と国立大学法人運営費交付金
だけを比較しても、平成 27(2015)年度予算額では前者が 3,153 億円、後者は 1 兆 1,006
億円となっています。これを学生一人当たり平均額に換算すると私立大学が約 14 万円である
のに対し、国立大学は約 180 万円にのぼります。実に 13 倍近い格差です。同じく一校当り
平均額では、私立大学が 3.4 億円であるのに対し国立大学は 122 億円であり、38 倍もの格差
となっています(私立大学には短大、高専を含む。国立大学には大学院大学、研究機構を含
む。)
【図2①、②】。
5
38倍
13倍
対 GDP 比でみた高等教育予算が
OECD 平均 1.0%であるのに対し、わ
が国は 0.5%程度しかなく、OECD 諸
国の中で最低水準にあることは広く
知られるようになりました。しかし、
学生一人当たり公財政支出を国際比
較してみると、国立大学はトップで私
立大学は最下位となります【図3】
。
こうした格差は教育条件に如実に
影響を及ぼしています。例えば平成
27 年度の本務教員一人当たり学生数
(ST 比)をみると、私立大学で平均
20 人であるのに対し、国立大学では
平均 9.4 人であり、2 倍以上の格差が
あります。
私立国立間の極めて不条理な格差
は、国立大学予算が潤沢であるからで
はなく、ひとえに私立大学への公財政
支出が極めて低額であることに起因
しています。経常費補助を速やかに大
幅に引き上げる必要があります。
文科省「教育指標の国際比較」(平成21年版)、同平成17年度予算案
主要事項、同平成17年度「学校基本調査」より作成。「日本(私立大)」
と「日本(国立大)」の額は、平成17年度予算ベースで、国立大学運営
費交付金、私立大学等経常費補助金、それぞれの施設設備関連予算
の合計を、それぞれ当該年度の学生数(大学生・短大生・大学院生)で
除し、購買力平価為替(PPP)レート(2005年1ドル=129.5519円)
により換算した。
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Ⅲ 国会請願事項に掲げた私たちの要求
上記の現状を踏まえ、私たちは今年度の国会請願に、私立大学生の学費負担軽減のための
多角的な施策として4つの要求事項にくわえ、私大経常費補助の増額に関する要求事項を掲
げました。以下、前項で詳述していない論点を補足します。
❖請願事項1
私立高校生への学費助成と同様に、私立大学生への学費助成制度を新設してください。
この要求は、私立高校生を対象として国が予算措置を行っている「高等学校等就学支援金
制度」や、各自治体が実施している家庭への学費直接助成制度に準じた制度を、私立大学生
対象に創設することを求めるものです。
東京私大教連の『家計負担調査』結果では、
「学費直接助成制度を必要とする」との回答が
87.4%に上っています。
❖請願事項2
大学生を対象とした給付型奨学金制度を新設してください。
国際的に見れば、OECD 加盟 34 カ国のうち大学学部生を対象とした給付奨学金制度がな
い国は日本とアイスランドのみです。34 カ国のうち 17 カ国は大学授業料が無償です。大学
授業料が有償高額でかつ給付奨学金制度を有しない国は日本だけです。日本は国際的にみて
も非常に立ち遅れています。
文科省は 2012 年度予算の概算要求で給付奨学金制度の創設を提示しました。しかし翌年度
より一転して創設要求を見送り続けています。過重な私費負担によって就学困難となってい
る若者の窮状に鑑みれば、世帯の所得額などの客観的基準のもとで、私立・国公立の区別な
く公平に受給できる給付奨学金制度を創設することは急務です。
❖請願事項3
無利子奨学金を希望者全員が受給できるようにするとともに、奨学金の返済額を卒
業後の所得額に応じて決定する制度を創設してください。
①無利子奨学金について
給付奨学金制度が存在しない現状にあっては、教育の機会均等を保障する最低限の手段と
して、無利子奨学金を必要とするすべての学生が貸与できるようにすべきです。無利子貸与
人員を可及的速やかに抜本的に拡充するとともに、貸与基準(家計基準・学力基準)を緩和
7
することが必要です。
②所得連動返済型奨学金について
文科省の有識者会議が 2 月 10 日に「新たな所得連動返還型奨学金制度の創設に関する第一
次まとめ」を公表しましたが、大きな問題が含まれています。「一次まとめ」は、「年収ゼロ
円」から最低月額 2~3 千円の返還を開始すること、年収 300 万円以下については現行の返
還猶予制度を用い、申請により最長で通算 10 年ないし 15 年の猶予を行うことなどとしてい
ます。税の支払い義務を免除されている年収層にまで返還を求めるなど言語道断のうえに、
現行の所得連動返還型が年収 300 万円以下の返還猶予期間を無制限としていることからも大
きく後退しています。これらは返還金の回収割合が落ち込むことを避ける観点から提示され
たものであり、現行奨学金制度の問題性を浮き彫りにするものです。
わが国の奨学金制度が極めて貧困な現状において、せめて、低所得であっても、過度の負
担を強いられることなく返還ができる制度設計がなされるよう、慎重に検討することを求め
ます。
❖請願事項4
すべての私立大学で、経済的に苦しい学生に、授業料減免などの支援を実施できる
よう補助を拡充してください。
政府は数年来、経常費補助のうち授業料減免事業への支援予算をわずかながら増額してい
ます。しかし、経常費補助総額を削減する中での増額であり、授業料減免事業を拡大すれば
するほど「持ち出し」が増える中において、学生の実情に見合った授業料減免を実施できな
いことは明らかです。前述した国立大学との差別的格差は、現行の経常費補助の枠内では解
消に向かいません。新たな予算枠の創設を含め、補助を拡充する必要があります。
❖請願事項5
私大助成は、私立学校振興助成法制定時の参議院附帯決議に従って、私立大学の
経常的経費の2分の1を補助するよう速やかに増額してください。
全会一致で採択された参議院附帯決議(1975 年 7 月 1 日)には、「私立大学に対する国の
補助は2分の1以内となっているが、できるだけ速やかに2分の1とするよう努めること。
働きながら学ぶ定時制、通信制高等学校並びに大学の補助については、充分な助成が達成さ
れるよう特段の配慮をなすこと。」という 1 項が盛り込まれています。
2014 総選挙の際に日本私大教連が実施した公開質問では、政権与党の自民党からも以下の
回答が寄せられました。
「公教育において私学が果たしてきた重要性に鑑み、私学の建学の精神を尊重しつつ、
『私
立学校振興助成法』の目的の完全実現(教育条件の維持・向上、修学上の経済的負担の軽減、
経営の健全性向上)のため、公私間格差の解消を図ります。また、まずは2分の1を目標に、
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私学助成を充実します。
」
冒頭で述べたように、
学生 4 人のうち 3 人が在籍している私立大学の教育研究の質向上は、
わが国の将来に直結する課題です。
「基盤的経費」と呼ぶにふさわしく、経常費補助を「2 分
の 1」補助に増額する計画を立案し、速やかに実施すべきです。
なお、私立大学等経常費補助に関して、日本私大教連はこの間、以下の声明と見解を公表
しています。あわせてご参照ください。
(別紙資料1)
[声明] 支離滅裂な大学改革を押しつけ、私大を不当に差別する2016年度政府高等教育予算
案に強く抗議する
(別紙資料2)
定員超過大学に対する補助金不交付・減額措置基準の「厳格化」に関する見解
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