JAGAT info 12月号 経営者インタビュー

経 営 者 イ ン タ ビ ュ ー
十一房印刷工業株式会社
代表取締役社長
山岡 龍平 氏
データベースを核にして
印刷と印刷周辺ビジネスを展開
―課題解決型ビジネスを進め「選ばれる会社」を目指す―
り上げが減り、伝票に依存する体制を見直した。それ
― 御社を紹介ください。
先代社長の父が 1952 年に京橋で創業した。金融関
まで苦手としていたプロセス印刷に取り組むことにし
連の顧客との取引があった関係で、伝票をベースにビ
た。ところが、プロセス印刷に関する正しい技術の蓄
ジネスを行ってきた。だが、設備が枚葉機だけだった
積が社内にまったくない。印刷部の主要メンバーと、
ので、外注も活用しての商社的なスタイルだった。そ
印刷を基礎から学ぶ合宿を行い、職人技と勘に頼った
の後、責任あるモノづくりをしていくため、機械の導
印刷物製造から、数値で判断できる体制に変えていっ
入を進めた。
た。その後、
「Japan Color での色の標準化」と、
「分業
現在、工場は船橋・習志野の 2 工場を擁している。
できるプリプレス」を旗印に、社内の構造を改革した。
船橋工場は枚葉機の菊全版、四六全版印刷機、フォー
プリプレスでは、やる気のある社員で固めた部隊を作
ム輪転機、中綴じ機、無線綴じ機などの大型の機械が
り、技術的な問題やスケジュールの都合で外注してい
中心。冊子ものや中〜大ロットの仕事を行っている。
た仕事を内製化すべく、教育と効率化を進めた。社員
一方習志野工場は、菊半裁以下の枚葉機での小ロット
の努力により、年間 1 億円だった外注費をゼロにした。
伝票製造が中心。デジタル印刷機でのバリアブル印刷
も行っている。習志野工場は駅に近く、パート職員な
― 経営理念はあるいは経営方針はどのようなものですか。
どの確保がしやすい。そのため、人手を必要とする業
特に明文化した経営理念はない。だが、「チームで仕
務である、アイテムを組み合わるアセンブリ、それら
事をする(=分業する)」「今までのやり方を妄信せず、
の箱詰め、袋詰め、仕分けなどを担当している。
理論的に考える」を根幹に据えている。例えば分業前
のプリプレスでは、誰にどの仕事を渡したのか、作業
にどれだけ時間がかかったのか、管理者も把握できな
― 山岡社長は異色の経歴ですね。
東京慈恵会医科大学を出て脳神経外科医をしていた。
い状態だった。新しく設置したプリプレス部の提案で、
当時、PC のグラフィック性能が低く、CT 画像は撮影
Excel の機能を使った管理を始め、それをすぐ自社で
した機械では見られても、PC モニターで見ることはで
システム化し、スムーズな分業と管理ができるように
きなかった。そのため、私は CT ビューワーのソフト
なった。システムを使うと、社員の能力や教育計画、
開発を行った。世界で初めて PC モニターで CT 画像を
スケジュールを考慮した作業の割り振りもできる。効
見られるようにしたわけだ。プログラミングを初めと
率のよい作業法を部内で考え、大きな仕事や短納期の
するデジタルデータの知識には自信があったが、印刷
仕事にもチームで対応できるようになった。
に関してはまったくの門外漢だったので、初めは戸惑
うことも多かった。
このプリプレスの管理システムでは、部課長やリー
ダーが、仕事の入出校日と作業予定時間をシステムに
最初に手をつけたのは、DTP を行う制作部の設置
登録する。オペレーターは自分のログイン画面で作業
だった。プログラムで、原始的なスタイルの自動組版
を確認、
「開始」
「終了」ボタンを押して作業時間を記録
を始めた。折りしも 1990 年代、金融再編の影響で売
する。予定時間に対する実際の時間を集計し、作業の
10
2015.12
* 20 ページに十一房印刷の社員教育レポートの記事を掲載しております。併せてお読みください。
やまおか・りゅうへい
昭和 28 年生まれ 東京都出身
最近興味を持ったこと:WSET Advanced 受験中(世界に通用するワ
イン界で一流といわれる国際資格)
好きな言葉:flexibility
十一房印刷工業株式会社
〒 130-0024 東京都墨田区菊川 3-11-6
TEL 03-3633-1200 / FAX 03-3633-1178
URL http://www.juichibo.co.jp/
創立:1952 年
事業内容:データベース、セキュリティ管理、ブランディングを武器
に、企画・デザイン・制作〜印刷・アセンブリ・発送代行までを行う
総合的なソリューションを提供
主な扱い品目:各種伝票・帳票、チラシ、パンフレット、マニュアル、カ
タログ、ポスター、広報誌、学会誌、書籍、雑誌、商品券、預金通帳等
必要人数と時間の管理、社員の技術力評価や技術向上
をかけるのではなく、「チームで動く営業」を実現す
に向けた指導につなげている。
る。その後、ブランディングも活用し、求めるソリュー
ション営業に転換する。顧客のニーズをキャッチする
― なぜ、システムを自社開発するのですか。
アンテナを貼り、可能な限り先回りをし、顧客に理想
例えば、何万件もの「①個人情報が含まれた加入者
の形を提供する。そのためには恐らく「顧客に喜んで
証、②人により違う種類のパンフレット、③共通の付
もらいたい」という、営業としての基本的欲求も必要
属書類」等、入れ間違いが許されない高度なアセンブ
だろう。
リを行う作業がある。確実かつ効率的に行うためには、
当社では、営業職の採用は行っていない。プリプレ
入稿から納品まで、製造フローを総合的に管理しなけ
スを 1〜2 年経験し、InDesign やデータの扱いを理解
ればならない。
した者の中から、適正のある者を営業にしている。な
通常なら市販のソフトを利用するのだろうが、それ
ぜプリプレスからのスタートかというと、顧客の課題
では個々のシステムと社内の基幹システムである「製
に対する技術的な提案も、営業として必要だからだ。
造管理用の『工程システム』
」との連動が難しい。連動
組版で使用する InDesign は、データの共通部分であ
することにより初めて効率的な製造フロー、全体最適
るマスターページや段落スタイルをどう作るか、設計
化を実現することができる。
する力が要求される。それには構造的に考える必要が
開発したシステムは既に 150 を超えた。きめ細かい
対応を積み重ねた結果である。これらが新たな受注に
つながっている。
あり、その積み重ねが論理的な思考につながる。
InDesign とデータベースを組み合わせた、確実か
つ効率的なフローが考えられるようになると、さらに
提案の幅が広がるはずだ。
― 課題はありますか。
当社は優良な顧客に恵まれ過ぎていたため、受身の
― 今後の展望を教えてください。
営業スタイルが定着してしまった。売り上げが下がっ
今はもう、当社は印刷会社というより「データを運
ても、従来のスタイルから抜け出せない。提案して仕
用・活用していく会社」だと思っている。現状もこれ
事を創り出す営業に転換できないでいる。
からも、印刷だけで利益を確保することはほとんど期
そこで今、営業改革のスタートとして、見積もり・
待できない。印刷業の経験を基に、データベースを軸
請求や製造指示などの営業事務作業を減らし、営業を
としたビジネスを行う。今までのようなデータプリン
チームで動かす「営業支援システム」を開発している。
トサービスではなく、データベースを活用して作った
営業個人の頭にある情報を、誰からも見える形にし、
ユーティリティで顧客の課題を解決する。
仕事自体の予定をシステムが立てる、そんな構想だ。
幸いにも当社は優良な顧客に恵まれており、眠って
校正の受け渡しなどは、必要が発生した時に手の空い
いるニーズはまだまだあるはずだ。再度どこにどのよ
ている営業が担当すればいい。忙しい営業だけに負担
うな機会があるのかをきちんと見つけていきたい。
2015.12 11